艦載機妖精さんなんだが仕事場がブラックな件について   作:たろまる

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龍驤はかわいい(真理)



妖精さんとの邂逅

……なんや、これ

 

 龍驤は現在自分の目の前に広がっている光景に愕然としていた。

 それもそうだろう、先程彼女が一心に祈り、願いながら行った初めての開発の結果が、目の前にある段ボールと、その中に詰められた生きていると言ってもよいのか迷う位に微弱に震えているだけの謎の生命体なのだから。

 

 ……本当になんなんやこれ

 

 絶賛困惑中の龍驤のそんな純粋な疑問の答えは、自分の開発を見学するために一緒に来て先程から無言で立っていた提督と、開発するための操作に必要なのだろう、開発機から少し離れたコンソールの前に立ってこちらを見ていた開発長が交わしだした会話にあった。

 

 「……失敗だな」

 

 「ああ、そうだな、まあ練度の低い艦娘がやる開発は失敗しやすいって検証も出てるし……元気出せや、嬢ちゃん」

 

 呆然としながら、二人の会話を聞いていた龍驤であったが、ふとその会話の中に引っかかるものを感じた。

 

 練度が低い艦娘の開発は失敗しやすい?

 

 そう聞こえた龍驤は、開発前に開発長から聞いた言葉をリフレインした。

 

 『よりよい艦載機が欲しいってんなら強く祈りな、そのほうがいい装備がでるって話だし、こんな大げさな陣が書いてあるんだ、ファンタジーな要素が絡んでくるかも知れないぜ?』

 

 ……んん?何か聞いていた話と違うような気がしているのは自分だけであろうか?いや、違う。絶対に違うはずだ、ということは。

 

 「あ、あんたうちを騙したんかぁ!」

 

 思わず自分がそう叫んでしまったのは仕方がないことだったのだ、と龍驤は後にも思っている。

 だってそうだろう、個人的なことではあったが、自分がこの日をどれだけ待ち望んでいたと思っているのだ。

 たとえその気持ちを相手が知らなかったとしても、ちょっとは怒っても罰は当たらないと思うのだ。

 しかし、そんな龍驤の叫び声を聞いた開発長は、その反応を半ば予測していたのであろう、冷静に答えを返した。

 

「いや、祈りが通じるってのは強ち(あなが)間違ってる訳じゃないんだぜ?確かに艦娘の練度によって開発の成功率は変わってくるが、練度が低い艦娘でも紫電改二や流星なんていう高性能の艦載機を開発した例はあるんだ。それらの開発を担当した艦娘の大体は、開発の際に強く祈りを捧げてたって話だ。そんなもんだから、まだ練度が高いとは言えない嬢ちゃんも強く祈れば良い艦載機が出る可能性が出てくると思ったんだよ」

 

 まあ、結果はこの通りだがな……

 

 そんな話を聞いたとなれば龍驤も怒るに怒れず、行き場のない怒りは地団太を踏むことで解消することになった。

 しかし軽空母たちの中でも特に発育が良いとは言えず、初対面の提督には駆逐艦扱いされるほど幼い容姿の持ち主である龍驤が行ったそれはどうにも迫力がなく、子供が駄々をこねているようにしか見えなかった提督は、思わず顔を緩めてしまうのであった。

 

 「まあそう怒るな龍驤、今回のためにある程度の資材は揃えてあるんだ。回数をこなせば流石に成功するだろ」

 

 「……まあそうやな、次にしっかりお祈りすればきっと……よしっ次行ってみよう!」

 

 提督に宥められてやる気を取り戻した龍驤は、早速開発長に次の開発を行うための準備をお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……なんでやねん」

 

 龍驤の力のない突っ込みが弱々しくも(むな)しく工廠に響き、何をやっているのか常に鳴っている金属音にかき消されたのは、2回目の開発から20分程経った時のことであった。

 妖精さんが書いたのであろう、『はいきそうびいれ』と可愛らしく書かれた大きな箱の中には、ギッシリと先程の謎生物が詰まっており、それでも成功があったのかどうかといのは、床にへたり込んでいる龍驤の状態を見て察して欲しいものである。

 

 「……これで何回目になる?」

 

 「多分20回程度にはなると思うぜ……これは流石に当たらなすぎるな」

 

 「そうだな……流石に今回使える資材はもうほとんど残っていないぞ、あと一度が限度だ」

 

 龍驤の後ろでまた二人が話している間、龍驤は途方に暮れていた。

 覚悟はしていたのだ。朝には吹雪から開発の成功がほとんどしなかった事は聞いていたし、先程の開発長の話を聞いてから、任務をこなしていた吹雪より練度の低い自分ではもっと確率が低いのも想像できた。

 しかし、これは余りにもハズレを引きすぎているのではないだろうか。

 毎回自分なりに必死に祈っているのに、烈風や流星改どころかあの憎き失敗生物以外の装備すら拝めていないのだ。

 もうあの顔を見るだけで怒りが有頂天へ上りそうだった。

 そして今日という日を心待ちにしていた分だけ、龍驤の考えはネガティブな方向に及んで行ってしまっていた。

 

 (……もう、うちには何も開発できひんのちゃうかな……吹雪は10回やって3回で、うちは20以上やって0なんて……うちなんかのところに来てくれるような子は居らへんのやろうか)

 

 そんな龍驤の内心を察したのだろう、提督は何とか開発用の資材がかき集められるか計算してみる。

 がしかし、今回の開発資材の集めるのにも相当苦労したのだ、他から捻出できるような余りはなかった。

 緊急時用に一定数確保している資材はあるが、最悪、彼女達が初期装備のままでも鎮守府近海の制空権は取れるのだから、流石に今それを使うほどこの開発は緊急の要件ではないのだ。

 結局、彼にできるのはせめて最後の一回が成功できるように、目の前の彼女を慰めて成功を祈ることくらいの事だった。

 

 「……龍驤、申し訳ないが泣いても笑っても今日はこの開発で最後になる。見ているだけの俺が言うのもなんだが……頑張ってくれ」

 

 こういえば、優しい彼女のことだから表面上でも開き直ってくれるだろう。

 士官学校に在籍していたのは9か月という短い期間ながらも、そこでの経験でこんな打算的な事が考えられるようになってしまったのだ。

 そんな自分の事を嫌悪しながら、提督は龍驤を諭す言葉を吐いたのだった。

 

 「そうだぞ、嬢ちゃん、これが最後の機会って訳でもないんだ。こうなったら思いっきり祈るしかないとしか俺は言えねえ……すまねえな、変な期待持たせちまって」

 

 開発長も、例え善意で言ったとしても、自分の不用意な発言が目の前の少女が落ち込む原因の一つとなったのは分かっていたのだろう。

 いつもの堂々とした態度であるのだが、申し訳なさそうな表情をしていた。

 二人にそう言われた龍驤は、提督の思惑通りと言うと皮肉になるだろうか、しかして内心落ち込みながらも、二人に振り向いた時には少しひきつった不器用な笑顔であった。

 

 「……そうやねっまだ次に機会はあるし、さっ今回はもうさっさと次行って、終わりにしよう!」

 

 そう表向き元気に言い放って開発機の前に立つ彼女を見ながら、開発長はもう残り全ての資材を開発機の上に配置していった。

 

 「じゃあ、最後の開発だ、しっかり祈れよ」

 

 「うちに任せときっ最後くらいはきっちり成功したるさかいなっ!」

 

 彼女の無理をしたような明るい声を聴いてから、開発長はコンソールを操作していき、最後に今日何度となく見た「開発開始」の文字を表示させながら、最後の確認を取ろうとするが、彼女は既に両手を組んで祈っており、準備はできていた。

 

 「……行くぞ、開発開始っ!」

 

 そう叫んでから、彼女はコンソールを叩いたのだった。

 

 

 

 

 

 開発長の声が響いた後に、開発機の陣が光り始める中、龍驤は今までより一層祈り続けていた。

 彼女はもう、紫電改二や流星といった高性能機のこともは頭になかった。

 思い浮かべるのは、今朝の事。自分が開発した装備の事を本当に嬉しそうに、また誇らしげに語っていた吹雪の事であった。

 今日失敗を続ける中、あの横顔を思い出すことで、ちょっとした嫉妬と羨望を胸に開発を行ってきたのだ。

 また次の機会があるとはいえ、いまだ運営がカツカツのこの鎮守府だ、それがいつ来るかはわからない。

 だから彼女はこの最後の開発で失敗したくなかった。いや、成功させるのだ。

 そう決意を固めながら、彼女は祈る。

 

 (……もう高角砲でも機銃でも何でもええ、お願いや、うちに答えて!)

 

 彼女の必死の祈りも虚しく、収まっていく光の中の輪郭は、今日何度も見たことのある形に収まっていた。

 それが見えてしまった後ろの二人は、諦観と悔しさを覚えながらも半ば失敗を確信するのだった。

 しかし、目をこれでもかとつぶっている彼女は、そんな中でも祈り続けていた。

 

 (うちが絶対大切にするからっ……だからっ……だから答えてっ……

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――なんでも(・・・・)いいから、うちに答えてよっっ!」

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、今までの開発では見たことがないような眩い(・・)光が工廠の中を包んだ。

 そんな中、開発長の前にあるコンソールの画面には、ある文章が映っていた。

 

 

 

 

 

 『ん?いまなんでもっていったよね?』

 

 

 

 

 

 そう映っていた文章は、しかし、突然の強い光が目を刺激したことで、その場の全員が目をつぶってしまっていた為、誰にも存在が知られることが無かった。

 

 

 ……そして、永遠にも一瞬にも感じられた光が収まり、龍驤が目を開け、開発機の陣の上を見た時だった。

 そこに見えるシルエットは、まだ光に目が慣れないながらも、今日何度も見てきた形とは違うことは彼女には理解できた。

 ………………シルエットが違うのだ。

 

 

 「…………………っ――――――――――――――!」

 

 

 龍驤は、自分の中から言いようもない感情が噴き上がって来るのを感じた。

 今日の開発を行っていく中で、開発の失敗と呼ばれるものが、あの生物だけだということは開発長から確認してある。

 ということは、この最後の開発は成功したのである。

 焦らされ続けた分もあるのだろうが、自分が艦娘に生まれ変わってから今日まで、こんなにも抑えが効かない程の感情が溢れ出してくる経験は、彼女には無かった。

 艦娘に生まれてから初めてのことに若干困惑していると、やっと目が慣れてきたのか、視界が戻って来る感覚を感じた、彼女は精一杯に目を凝らして、自分に答えてくれた妖精さんと、またこれから自分が運用することになるであろう装備を目に焼き付けようとした。

 もう今の彼女の中では、世界は自分とまだ名も知らない陣の上の存在だけで出来ていた。

 

 そして、ぼやけた視界がようやく正常に働き始めて、彼女は初めて、その存在をしっかりと認識できた。

 

 「この子は……零式艦戦52型?」

 

 彼女の目に映る機体は、かつて自分が鉄の船だったころに運用したこともある、慣れ親しんだ機体である。

 

 「……いや、この機体は爆戦だ」

 

 そう訂正を入れたのはいつの間にかこちらへ近づいて来ていた開発長だった。

 その言葉に聞き覚えがなかった龍驤は、開発長に機体の説明を求めた。

 

 「正式な名称は零式艦戦62型って言うんだが、まあ簡単に言うと艦上戦闘機である52型を爆装した機体だ。戦闘機が敵艦に爆撃した後にそのまま空戦に入れるように工夫した結果の機体だ」

 

 つまり、戦闘機だけでなく艦船への攻撃も可能な所謂マルチロールファイターであるということらしい。

 それだけ聞けば優秀な機体のように思えたのだが、開発長曰く、どっちつかずの器用貧乏というのが海軍内での評価であり、開発成功例は少ないが、ほとんど運用はされていない機体。ということらしい。

 しかし龍驤にとっては失敗続きの中やっと答えてくれた、自分が初めて開発した機体である。そんなことより嬉しさの方が勝っていた。

 

 「まあその話は後にして、問題のこの機体の妖精さんの事なんだけど……」

 

 そう言いながら提督が横目に見た件の妖精さんは……機体に寄りかかって絶賛睡眠中であった。

 しかしその容姿は本来の爆戦妖精さんとは違っており、背中にかかる程度の髪を後ろでひとくくりにしており、通常スカートを履いている妖精さんにしては珍しく、ズボンを履いていた。

 

 「うぅ~ん、この子どないすればええんやろ?このままにしとくって訳にもいかんやろうし……」

 

 そういいながら龍驤がその妖精さんに近寄ると、その妖精さんは急に身じろぎしだして、その後ゆっくりと目を開いたのであった。

 

 「おぉ?やっと起きたんかこの寝坊助さんは……じゃあまずは自己紹介からやな」

 

 開発に答えてくれたと思っていたら今まで寝こけていた妖精さんを、しょうがないなぁといった感じで見ながら、しかし自分の元へ来てくれたことへの感謝の気持ちを込めながら、先程までとは違う、無理をした様子が無い純粋な笑顔を浮かべて、明るく言った。

 

 

 「はじめましてやなっうちは軽空母龍驤や、これからよろしゅうな!」

 

 その言葉を聞いた艦爆妖精さんは、ゆっくりと頷いたのだった。

 

 

 

 




しゅ、主人公はちゃんとだしましたよ!
ほとんど何もしてないけど!
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