艦載機妖精さんなんだが仕事場がブラックな件について 作:たろまる
別に最近始めたデレマスやってたわけではないですから、ええ、決してそんなことは無いです。
SERIOさん誤字報告ありがとうございます!
早速直しましたが、多分他にも出てくると思うので(予言)お暇があれば教えて頂けると幸いです。
あの光に包まれてから意識が戻ると、俺はまず背中に固い感触を覚えた。
いつもの椅子とは違う感触に違和感を覚えながら目を開けると、そこにパソコンはなく、代わりに自身の何倍もある巨人がこちらを見ていた。
あまりに突然のことで始めはただ驚愕していたのだが、よくみるとその巨人には見覚えがあった。長い茶色の髪を二つに結んだ、小学生から中学生程度に見える幼い容貌。被っている特徴的な帽子、そしてなにより、その男よりも凹凸が無い完璧に垂直な体型の持ち主は、つい先程まで男がゲーム内で開発を行っていた時旗艦に据えていた艦娘――――――龍驤だった。
何故現実にいるはずの無い龍驤が自分の目の前にいるのだろう。そんなことを考えながら見つめていると、彼女は微笑みながら俺に挨拶してきた。
大抵の人は自分に話しかけられて無視するようなことはしないだろう。俺もその例に漏れず、自然に挨拶を返していた。
「あっどうも、こちらこそよろしく」
俺としては、挨拶されたから挨拶し返した、その程度の認識だった。
しかし、龍驤は心底驚いたような顔をしてこちらを見ていた。
「……えっ、今君がしゃべったんか?」
「えっうん、そうだけど……何か問題でも?」
「…………」
「…………」
俺としても、まさか自分が話しだしたことにここまで驚かれるなんて思ってもいなかった。龍驤の方も少し困惑したような顔でこちらを無言で見つめていた。
そんな空気に耐えられなかったのか、龍驤は後ろを振り向き、白い軍服を着た提督であろう男性に意見を求めていた。
「ねえ、君はどう思うん?」
「いや、俺も開発されたばかりの装備の妖精さんが話し出すなんてこと聞いたことないな。海軍からの資料にも記述されていなかったはずだ」
提督の方も予想外と言いたそうな顔をしながらも、そう返した。しかし、俺は彼が話した内容を聞いて、違和感を覚えていた。今この場で口を開いているのは3人だけであり、さっき話した提督と龍驤、後は俺だけだ。なのに妖精が話しだした、だなんて話が、なぜ今出てきたんだ。それではまるで、俺がその妖精さんみたいな言い方ではないか。
(いやでも、俺が人間なら何故龍驤がこんなにも大きく見え……まさか!)
慌てて自分の体を見下ろした俺は、まずはその体の小ささに驚いた。まるで赤ん坊のように小さい手が自分の意のままに操れていて、それを顔に当ててみると、どっかのマスコットキャラクターのようなアンバランスに大きい感触を覚えた。ここに来る前とは似ても似つかない、これでどうやって自重を支えるのか疑問を覚えてしまう、二等身の……妖精さんの体になってしまっていたのだ。
「……まあ取りあえず、ここで話すのも工廠の妖精さんの迷惑だから。執務室へ来てくれないか?」
自分の変化に驚いて言葉を失っている中、そう提案してきた提督にそれもそうだと従って、出口へ歩いて行く間、俺は自分を観察するような視線に気づかないでいた。
執務室に着くまでに垣間見た光景は、俺に今の状況が現実であると印象付けるのには十分だった。すれ違いざまに提督たちに挨拶していく艦娘達。海の方からは演習でもしているのだろうか、砲撃の音が鳴りやまず、窓から空を見上げれば、艦載機らしき戦闘機が編隊を組んで飛行している。もう言い訳のしようも無いほどに、ここは艦隊これくしょんの世界であった。
到着した執務室に3人とも入室し、提督が執務机に座ると提督は話し切り出した。
「じゃあまずは自己紹介と行こうか。俺はこの鎮守府の指揮を任されている、海軍少佐の
「うちも改めて、うちは龍驤型1番艦、軽空母の龍驤や、これからよろしゅうな」
君は何ていうんや?そう言いたげな龍驤の視線にどう答えたものか。俺は決めあぐねていた。まさか前の世界での本名をいう訳にはいくまい。しかしそうなると、自分は何と名乗ればよいのだろうか。己と共に開発されたあの機体の名前すら知らない自分がだ。しかし、だからといって答えないというわけにもいかない。何か今の自分を表すワードから関連するような、そんな名前をとっさに思いつかなければ……
「俺……俺は、
久しぶりに頭をフル回転させてとっさに出た俺のこれからの名前は、ただ
自分の頭の悪さに内心落ち込んでいると挟間提督がこちらに話しかけてきた。
「では茅生、君は今日妖精さんになる以前の記憶はあるか?」
「……いや、特に何もない」
急に飛び出してきたその質問に、自分の動揺を悟られないよう注意して答えた。
しかし、自己紹介の次に初めに出てくる質問がこれなら、他の妖精さんには前世の記憶がある個体がいた前例でもあるのだろうか。それとも、艦娘に艦船であった頃の記憶があることから、そういった結論に至ったのだろうか。
「そうか……わかった、君には明日から軽空母龍驤所属の艦載機として働いてもらう。龍驤、後のことは君に任せるよ」
「うちに任しとき!、ほな行こうか」
関西交じりの特徴的な話し方を使いながら、明るい笑顔で先導していく自分のこれからの主人を見ながら、俺は自分のこれからがどうなるか、不安に思うと共に少し楽しみにも感じていたのだった。
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鎮守府で初めての艦載機開発が行われた日の深夜。挟間提督は、開発長を執務室に呼び出していた。
今日開発された装備と共にいた妖精さんに就いての意見を聞きたかったためだ。本来開発を行っただけで開発長を呼び出すようなことはしないのだが、あの不可思議なことが多く起こった現場に同席していて、かつこの鎮守府で最も装備妖精さんについて詳しいことからの人選である。
「……で、開発長から見て、あの妖精さんはどう思った?」
「どうもこうも、なんせ一度も前例がないことだらけでこっちこそ聞きたいもんだよ。開発されたばかりの妖精がいきなり話し出すんだ、驚きもするさ、それに、あいつは男の妖精だ」
「……男だと何か問題があるのか?」
今思い出してみれば、挟間もこの鎮守府に着任してから男の妖精さんを見たことは無いが、それが何か問題があるのか疑問に思った。
「男だから問題があるって訳じゃねえが……妖精ってのは基本的に女として生まれる。理由としては艦娘が全員女だからそれに引っ張られているってのが一番有力だな」
確かにその説が事実なら、彼が男して生まれたのは特殊であるのだろう。しかし、どうやって彼の性別を見抜いたのだろうか。不思議に思った提督が開発長に聞いてみると、彼女は恥ずかしげもなくこう言ってのけた。
「そりゃあもちろん、ブツを生で見たからさ」
――――――妖精だって風呂には入る。
最後にそう付け足した彼女に思わず絶句していた挟間であったが、次に出た言葉には意識を傾けるしかなかった。
「まあそんなことは些事だ、一番の問題は開発中に起きたことだ。お前も見てただろ?」
「あぁ、俺が開発の時光が収まる中うっすらと見えたのは四角い影だった。こう言うのもなんだが、あの開発は失敗に終わっていたはずだ」
今思い出してみても、あの影はどう見たって艦載機の形には見えなかった。彼女の初めての開発は残念ながら失敗に終わるはずだった。
そう、失敗に終わるはず
「だがあの嬢ちゃんが最後に叫んでから、また開発の光に包まれた。それもこれまでにないほどに強く輝いてだ。そして光が晴れるとそこにあったのが……」
「あるはずの無い装備とその妖精さん、か……全く、訳がわからん」
「俺もこれまでそれなりに開発に携わってきたが、これに関しては何もわからん。もしや俺の言ったようにファンタジーな何かの要素が入ったせいなのかもしれんな」
開発長は自重するように笑いながら彼の考察を述べるが、挟間は案外この考えが真実なのではないかと思えてきていた。確かにペンギンが装備に変化するなんて前例はないが、祈っていた艦娘が良い装備を開発したというのは本当のことだ。そして今回の龍驤の祈り様は鬼気迫るものがあった。もしかすると本当に何かのファンタジー小説のように気持ちの大きさに比例して結果を持ってきたのではないだろうか。
「……まあいい、今悩み続けても答えは分からん。開発長、取りあえず彼の様子にはそれとなく気をかけておいてくれ。くれぐれも感づかれないようにな」
「まあそうだな。了解した、奴の動向には注意するようにするさ。じゃあ私はこれで失礼するよ」
そう言って執務室を去ってく開発長を見送ってから、夜も遅いからか提督も自室に戻っていく。
二人だけの会談を、後ろから照らす月だけが静かに見守っていた。
話進まな過ぎてごめんなさい。主人公より他のキャラが動いちゃうんですよ。
次からはもう少し進めていきたいと思います。(できるとは言っていない)