後半少し変えさせて頂きました!
では、第10話。どうぞっ。
その日も強襲科棟では制服姿の武偵高生達が徒手格闘訓練をしていた。犯罪者との戦闘任務を受ける強襲系武偵にとって格闘技とはスポーツではない。いざと言うときには命が関わる事になってくるのでありとあらゆる技を磨く必要がある。自衛隊や警察と同じように自己防衛や敵を制圧するのに必須な履修科目なのである。
実戦で、『待った』はできない。動きにくいとか、男女の差があるとかそんな事で相手が止まってくれるならそもそも武偵という存在自体必要ないのである。そのため拳の骨の保護のためにつける
「―――行きます!」
と、そんなわけでランク差も関係なしに行う事もある。そういう場合は大抵戦徒妹契約を結んでる者同士だが。
俺が今稽古をつけているのは強襲科のEランク武偵・間宮あかり。いつも以上に気合いを入れて構えている。
「はっ」
気合いを入れて縦拳を繰り出してくれるのはいいのだが。
手首を掴んで可動域外に動かしてから小手がえしで、コロンと転がす。
あかりの場合、動きが大きすぎて転がしやすいんだよなあ。
ちなみに名前よびは本人の希望だ。ライカも名前で呼んでいるが佐々木さんからはそう言った希望がないので特に変更はしていない。むしろ名字で呼んでも機嫌悪そうなんだよね。俺相当嫌われてるみたい。
「あかりはもっと動きを素早くしないと。アリアに転がされるよ?」
「はい!」
手をさしのべて立たせてやる。アリアよりも軽いな。身長が小さいから仕方ないけど。
「……あかりったら、タフさだけはAランクね」
アリアは呆れた様な感心したような声で……そんなつぶやきを漏らし、苦笑いをしている。そんなあかりの視線の先では
「また男女の勝ちか」
「やるなぁ」
「強ェ――!」
と、ギャラリーに騒がれているライカがいた。自分よりも大きな男相手にアキレス腱固めを極め、ギブアップさせたところだった。おお、綺麗に極めたなぁ。
「ッチ! この男女め!」
衆人環視の中、女であるライカに負けた男は悔しそうな捨て台詞を吐くのだった。負け犬の遠吠えってヤツ? みっともないマネはしないでほしい。それにしても『男女』ねぇ……。
―――sideあかり―――
強襲科での格闘訓練を終えた私とライカは一緒に廊下を歩く。
「チョロいヤツらばっかりだったな」
男子をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返していたライカは気分爽快といったムードだ。
「ライカが強いんだよ」
私もこんなに強くてカッコイイ子が友達で鼻が高い。だが喜んでばかりもいられないのだ。私も武偵として麒麟ちゃんの依頼に応えなければ。麒麟ちゃんからはライカとの中継役をお願いされている。ライカも本心では麒麟ちゃんの事嫌ってないみたいだし、もっと仲良く慣れればいいとおもってる。なにかきっかけがあればなぁ……。
ライカの事をチラ見しながらそんな事を考えていると―――
「……火野ライカぁ? あんな男女は最下位だ!」
通りがかった廊下から強襲科1年の男子達の声が聞こえてきた。
なにやらライカの話題らしいのでつい2人は聞き耳を立ててしまう。
すると、
「顔だけは美人だけどな、ありゃ男だぜ」
「かわいくねえんだ。背だって170近くあるだろ」
……どうも女子としてのライカについて評価しているようだ。しかもかなりの辛口ムードで。
廊下と教室を隔てる窓からこっそり覗くと、男子達は同学年の女子のランク付けをしているらしい。可愛いとか可愛くないとかそんな基準で。男子達が広げているノートには女子の名前がズラリと書かれていて失礼なことに◎○△×の4段階で評価がされている。
タイトルは『可愛さランキング』。
見たところ、『間宮あかり(強襲科)』は『△~○?←チビすぎ』。『佐々木志乃(探偵科)』は『◎』となっている。納得しちゃいけないところだがこの評価には納得せざるをえない。ものすごく余計なお世話だが。
「―――じゃあ、最下位は火野ライカで決まりな!」
他の学科の子も次々と勝手に品定めされていく中、男子のうちの1人が『火野ライカ(強襲科)』の文字の上に大きな×をつける。
可愛さランキング最下位。
確かにライカは美人だけどカワイイというよりはカッコイイ女子高生。お世辞にも男子から人気が出そうな可憐さは持ち合わせていない。教室の男子達も全くライカに女子としての魅力を感じていないらしく爆笑している。その声は廊下の私たちには全て筒抜けだった。
人の弱点ばっかり笑いものにするなんて武偵高の男子はデリカシーがなさすぎる!
こっちとしては殴り込みにいきたいところだが、どうせ私がいっても結果は見えている。ライカが行くなら役に立たないかもしれないけど加勢するぞ、と思ったのだが。
「―――ずいぶん楽しそうだけど何してるの?」
「……え、陸先輩!?」
ライカの反応を見る前に校舎側の窓から陸先輩が入ってきた。え、ここ3階ですけど!?
あんなところからどうやって……じゃ、なかった。
「ライカ、陸先輩だよ!」
「え?」
小声でライカを呼ぶ。ライカは私のすぐ隣にしゃがみ込んで2人して中を覗き見る形となった。
「へぇ。女子の『可愛さランキング』か」
「桜田先輩……!」
「これは……!」
「で? なんでライカのところに×がついてるの?」
「いや、だって男女ですし……」
「美人だけど可愛くねぇし……」
ライカの『×』を指しながら笑顔で聞く陸先輩にさっきまで騒いでいた男子達は目をそらしながらもにょもにょといいわけを始める。陸先輩、なんかちょっとキレてる……?
「1つ確認したいんだけど。その『男女』っていうライカのあだ名はどういう意味で使ってるわけ?」
「え……? 『男みたいで可愛くない女』って意味ですけど……」
思わず隣のライカを見てしまう。ライカは気にしていないみたいな顔をしているけど絶対に傷ついているハズだ。ましてや憧れている陸先輩の前でこんな事言われて。
「―――そう言う事なら実力行使に出ても問題ないよね?」
「「「「「え?」」」」」
「なんたってココは武偵高。一般校での殴り合いは銃撃戦と同じ。そうだな……でもさすがにハンデがないときついか。じゃあ俺は素手で戦うからそっちは武器アリでいいよ。5対1で」
前にも言ったかもしれないけど、武偵高の生徒は闘争心が強い。そしてココにいる5人は
全員強襲科の男子だ。闘争心の強さは他よりも抜きんでているだろう。ましてや1度負けている相手からの挑発。恐怖より先に怒りが来てもおかしくない。
「……1回勝ったからってずいぶんナメてくれるじゃねえか」
「俺ら全員AとBだぞ?」
「俺はSランクの中でも上位保持者だよ?」
「っ、やちまおうぜ!」
「そうだなっ」
男子達が一斉に武器を構えながら陸先輩の周りを取り囲む。普通多対一の場合は背後をとられないようにするのが常識だけど、囲まれていても陸先輩は余裕の表情を崩さない。立ち姿だけでも風格があって、陸先輩なら絶対負けないって思ってしまう。でもさすがに……
「……全員銃ってひどくない?!」
隠れて覗いている事も忘れて叫んでしまう。
5人とも全員銃で攻撃している。確かに武偵高のケンカって銃撃戦になるけど! 陸先輩素手なんだよ? ちょっと卑怯じゃない?
「実戦ならそう言う事もあるだろうしある意味妥当」
「なんで?」
「陸先輩の実力を認めてるから
「そうだけど……」
「逆に陸先輩がそれぐらいのハンデで負けると思うか?」
「……全然」
そうなんだよねえ。男子達が卑怯だとは思うけど陸先輩が負ける姿は想像できない。実際に、
「ほら」
「……うん」
5人が時間差で撃った弾は肩や膝あたりを狙っているが、それを陸先輩は華麗に避けている。手をポケットに入れたまま重心をずらすだけで避けている陸先輩の姿はまるでダンスでもしているかのよう。キレイ……。
そして、しばらくは避けているだけだった陸先輩は、
「うあっ」
「がはっ」
銃撃がやんだ一瞬の隙に前方に駆け抜け突き小手返しで1人を机にたたきつける。そのまま机に手をついて右隣にいた男子を空中で蹴り飛ばして気絶させる。
「なっ……」
「ぐ、はっ」
「ああっ……」
その勢いを利用して横向きに一回転してから逆側にいた男子の側に着地し、掌打をお見舞い。その場で足を思いっきり後ろに振り上げ真後ろの男子の膝に引っかけて崩す。完全に崩れ落ちる前に銃を足で払いあげ、最後の1人に向かって蹴りつける。爆発の危険を感じて手が止まった隙にバックフリップで頭上まで飛び上がり後頭部に蹴りを炸裂させる。最後の1人は気絶して前方に倒れた。
強襲科のBランク以上5人を相手にものの10秒で無力化してしまった。しかも実戦に近い方式の戦闘で。これはきっとライカでもできなかっただろう。陸先輩本当に格好いい……! 男版のアリア先輩みたいな強さだ。
「……これでよしっと。2人ともお待たせ」
「「え!」」
陸先輩何か書いてる……。何かいてるんだろ? と考えていたら教室のドアを開けて陸先輩がこちらに声をかけてきた。ライカ共々驚きの声を漏らしてしまう。
「気づいてたんッスか?」
「そりゃあ、あれだけガン見されればね」
ですよねえ……。
「あの、陸先輩」
「ん?」
「何であいつらと戦ってくれたんですか?」
ライカが真剣な表情で陸先輩を見つめる。それに対して陸先輩は、
「俺の大事な後輩を傷つけたからだよ。余計なお世話だった?」
とても優しい笑顔で答えた。本当にライカの事を大事な後輩だと思ってくれてる。そう、分かる笑顔だった。
「いえ……とても嬉しいッス。ありがとうございます!」
「良かった。本当は体育館で潰そうとも思ったんだけど……言質と物的証拠を押さえた方が良いかと思って」
陸先輩、とても良い顔で笑っていらっしゃる。あれ、悪巧みする人の笑顔なんじゃ……。
「でも陸先輩。最後男子達になに書いてたんですか?」
「ん? あー、あれね。見て来なよ」
ふふ、と笑い声を漏らしながら教室内を指さす。『?』マークを大量生産しながらおそるおそる近づくと。
「「ぶふッ!!」」
なんと、男子達の額に『肉』と書いてあったのだ!
思わず2人で吹き出してしまった。だって……『肉』! 『肉』だよ?
「あははは! 陸先輩、『肉』って! イタズラが古いです!」
「そう? 定番でしょ。写メ撮って情報科に流しちゃえば?」
「それはちょっと……」
さすがに可哀想かなー、なんて。でも、ライカをバカにしたんだからこれくらい当然?
「いや、いいっス。陸先輩のおかげで随分すっきりしたので」
笑いすぎて目に溜まった涙を拭いながら断るライカ。
本当にすっきりした顔をしていて、さすがは陸先輩だなと思った。
「ライカはもっと自分に自信持って良いよ」
「え?」
教室からでてきたライカの頭に手を乗せながら陸先輩は笑いかける。
「あいつらだって言ってただろ? 『美人』だって。思わず本音が出るほどライカが美少女ってことだ。背が高いのも、気が強いのも全部ライカのステータスだよ。たまには『自分にない物』を羨むんじゃなくて、『自分にある物』を自慢してもいいんじゃない?」
「陸、先輩……」
「自分を偽らないそのままのライカでいいと思う」
「! えへへ……あたし、そんなこと言われたこと無くって」
ライカは陸先輩に頭を撫でられながら俯き、目元を拭う。
角度的にそれが見えてしまったけど……今度は笑いすぎて出た訳ではなさそうだ。
『ライカお姉様……。麒麟がお姉様の「無いもの」になって見せますわ! 間宮様、次の休日はお姉様を尾行しますの! 付き合ってくださいまし!』
インカムからは少し元気すぎる麒麟ちゃんの声が聞こえてきた。
ははは……さすがだね、麒麟ちゃん。
第10話です!
結局AAでしたね。なんかライカフラグが立っている気がしないでも……しません!!
次話も是非ご覧ください!