だいぶお待たせしてしまいました。
覚えていますか? メルチェですよ~!
バスジャック編もこの話で終わりとなります!
第16話をどうぞッ。
――side陸
爆弾を未だに解体できないまま、バスは速度を保ってレインボーブリッジに入っていった。こんな走る爆弾を都心部に入れる気かよ。
「陸! 順調か?」
「今のところは、な」
「陸、キンジ!」
またも近づいてきたルノーにぶっ放して破壊しているところに中からキンジが出てきた。
俺達の声が聞こえたのか、アリアがワイヤーを伝って屋上に登ってくる。
「あんたヘルメットは!」
キンジの頭を指しながら怒鳴るアリア。
「運転を代わった武藤にかぶせて来たんだよ!」
「そんなことは知ってるわよ!!」
「なんだよ! じゃあお前はどうしたんだよ!」
「さっきバスが横転しそうになったときに道路と挟まれて割れたのよ!!」
その通り。俺もアリアもインカムでなんとなく話は聞いていたから武藤が運転していることも知ってる。問題は
「なんでヘルメット無いのに出てきたのって言ってんの! 無防備すぎるわ! そんな初歩的な判断がどうしてできないのよ! 危ないからすぐに車内に隠れなさい!」
行動に危機感が無いところだろう。銃弾が飛び交う中
「とりあえずお前らは中にはいれ!」
「ヘルメットが無いのは陸も同じでしょ!? 私も残るわ! キンジ、あんたは中に行きなさい!」
「お前らが危ないのも変わりないだろ!」
3人中2人のインカムが無いので仕方なく大声で会話する。この暴風の中じゃやっと聞こえるくらいの音量だ。
キンジもアリアも全く引く気が無い。段々と関係のない言い合いが入ってきてるし。
こいつら本当に今の状況わかってるのか?
「お前ら落ち着け! こんなところで言い争っていられるほど悠長な事態じゃないだろ!!」
「「いッ!?」」
ゴッ! と少し鈍い音を立てて2人の頭にげんこつを落とす。アリアのほうが若干弱めではあるが。
「お前らがやってるのは成績がつく演習じゃない。人命、それも仲間の命がかかってる事件だ! そんなときに自分の感情を優先させるなら最初から関わるな」
「「……」」
2人の行動があまりにも幼稚すぎたため少し頭を冷やしてもらおうと思って言った言葉。
目があったアリアが瞳を潤ませているのに気づいて言い過ぎたかもしれない、と思った。
でも、間違ったことは言っていない。感情はときに思考を鈍らせ、判断を間違える。怒り我を忘れて自滅する武偵の話はさんざん聞いてきた。
何も感情を捨てろと言っているわけではない。誰かを想う気持ちが潜在能力を引き出すこともある。
ただ、怒りの感情は別だ。それを糧に冷静な判断をできるものとできないものに別れる。少なくとも―――アリアとキンジは後者だ。正常な判断ができていない。冷静になれていない。だから言い争っている。
このままではどちらかが絶対に傷つく。仲間だと、友達だと思っているからそんなことになるのを見過ごす訳にはいかない。
「……すまん陸。俺が中に戻る。ここにいたってSランク武偵よりいい仕事ができるとは思えないしな」
「そうか。アリアは?」
「あたしは……もう一度解体してみるわ。さっきはいいところでヘルメットが割れちゃって登ってきたし」
「分かった。じゃあ俺は引き続き敵の掃討に専念する。アリア、深追いはするな。少しでも難しい状況だったら引き上げてこい。いいな?」
「ええ」
「よし。それぞれの役割につこう」
3人で顔を見合わせ1つ頷く。やっと冷静になったか?
2人がそれぞれの場所に行くのを確認して弾倉をセットする。
バスの前後方からルノーの大群が押し寄せていたざっと……20台ずつ? まだ来るのか、しつこいな。
「レキ。援護射撃を頼む」
『分かりました』
取りこぼすつもりは無いが不足の事態に備えてレキにはいつでも撃てる状態にしてもらう。ロボットのように無機質な声が機械越しに聞こえた。
あまり接近させてこちらに飛び火したら大変だ。ある程度の距離を保って仕留める必要がある。
バスから30メートルぐらいの位置で狙いを定め左右に腕を広げて射撃を開始する。狙いは銃口とルノーの少し前方のコンクリート。車体が防弾性だろうと関係ない。エンジンを一気に破壊する。
―――ドッガアアアアアン!!!
こちらに向かっていたルノーは連鎖的に爆発を起こし、視界一体が炎で包まれる。前方は少し見えにくいが武藤の腕なら乗り切るだろう。
他に襲撃も無いようだし、とりあえずこちらは終わりか。後はアリアだけだな。
「陸!」
「アリア。 ……!」
「解除したわよ!!」
ちょうどその時、最後の懸念材料だった爆弾も無事解除できた。もうこれで心配はいらない。
『陸! 武藤がこのまま抜けていいのかって』
「ああ。今アリアが爆弾を解除し終わった。この炎を抜けたところで停車しよう」
『マジかよ!? おいみんな! 爆弾を解除したぞ!!』
インカムごしと足元の両方から大勢の歓声が聞こえてきた。安堵からかすすり泣く声も聞こえる。
ガラクタとなったルノーの破片を的確に避けながら進んだ武偵高のバスは―――ゆっくりと停車した。
「アリア、よくやったな! お手柄だぞ」
「えへへ……」
停車したバスの上でアリアの頭をガシガシとなでてやる。途中不安なこともあったが持ち直してくれたらしい。まだあそこで喝を入れられるほどの余裕があってよかった。
「今日は俺たち4人の初の事件解決祝だし家でご馳走にしよう」
「本当!? 桃まん出してね!」
「他のものも食えよ……」
「はーい」
生徒を誘導しているキンジは後で声をかけるとして。まあどうせ同じところに帰るんだし最後でいいや。後はレキを誘うか。
「レキ」
道路に留められたヘリからドラグノフを背負ったレキが降りてくる。声をかけるとどこを見ているのかわからなかった視線が俺に定まった。
「今日家で解決祝をするから良ければ来いよ。ご馳走するから」
「分かりました」
それだけ言ってレールによりかかり、目を閉じてしまった。……よく分からないな。
救護科の生徒がけが人を手当するのをぼーっと眺める。あまり大怪我をしたやつはいないみたいだ。みんな和やかな表情で手当を受けている。
「陸」
その時、横から袖を小さく引っ張られる。その主は桃まん大好きっ子のアリア。
この顔は何か言いたいことがあるけど言い出せない、ってやつだな。いつもなら助け舟を出して上げるんだけど。
「どうした?」
「あの……その…今回のこと、ごめんなさい……」
目を逸しながら呟くアリアは、その瞳を不安げに揺らしていた。
さっき入れた喝がだいぶ効いているのか。
「振り出しに戻っちまったな」
「うっ……。陸がいなくなった後の考え方がこびりついてて―――陸?」
「どうした?」
目の前のアリアが大きい目を更に見開いて俺の腹辺りを凝視する。
「どうしたって、なんか、赤い染みが、どんどん広がって――」
ガハッ。
何を言われているのか理解できない。
言葉の真意を聞こうとして開いた口からは液体がこみ上げてくる。手で拭ったこの赤いのは
―――俺の血?
「陸? 陸!?」
視界が霞む。
音が消えていく。
なんだこれは。俺の体に何が起きてるんだ?
「アリ、ア……」
背中が悪寒が走る。突然の喪失感に襲われた。
体のバランスが取れなくて、後ろに重心が傾いたとき。
――前方からやってきた強風で、体が宙を舞った。
「陸!! 陸ぅー!!!」
朦朧とした意識の中で、俺を呼ぶアリアの声が聴こえる。声音からしてきっと泣いてるんだと思う。
ごめんな、アリア。
意識がなくなる直前。覚えていたのは頭から飛び込んだ、東京湾の冷たい水の感覚。
―――sideキンジ
「陸!! 陸!!!」
バスジャックを解決し、人質となっていた生徒を誘導しわった頃。
最初は陸のところに行こうと思っていたが、アリアと何やら話をしているみたいだ。仕方ない、武藤で手を打とう。
ちょうど、そんな呑気なことを考えているときだった。
―――バッッシャァァン!!
はるか下の方から聞こえた何かが水に落ちる音と、アリアの悲痛な叫び声。
一体、なにが?
「きゃあああ!! さ、桜さまが、下に!!」
「今落ちたのって……桜田?」
陸が落ちた? 海に?
本当に、何があったんだ……!
「アリア! ッ!? お前やめろ!!」
「離しなさいよ、キンジッ! 陸を、陸を助けないと!!!」
ガードレールに足をかけて今にも飛び込まんばかりのアリアが目に入る。考えるより先に体が動いていた。アリアを後ろから羽交い締めにして道路の方に倒れ込む。
『キンジ。アリアはカナヅチだから、水場の任務とか行くときあったら助けてやってくれ。あ、それと。この事本人には内緒な? バレて無いと思ってるから』
陸から教えて貰った情報が頭を支配したからだ。アリアが行っても助けられない。
「お前が行っても無理だ!!」
「陸は、ケガをしてるの! 血が、血が……!」
「なんだって……!」
それっきりアリアは座り込んでしまう。
あの陸がケガを!?
疑問に思うところは多いがとりあえず陸を海から引き上げなければ……! 血が滲むってことは相当大きいはずだ。海水に浸かるのは危険。
「すまん! 男子で潜水術及び水泳が得意な奴3,4人で救助してくれ! 陸はケガをしている! 見つけ次第何かで連絡をしてくれ!」
「お、おう! おまえら行くぞ!!」
先陣を切って海に飛び込んだのは武藤。他に3人の生徒が飛び込んだ。
俺はアリアに気を配りながらも眼下の海に視線を向ける。アリアがいつ暴れだすかわからないため、陸の救助には向かえない。
「キンジ! 陸がいたぞ!」
その声にガードレールから身を乗り出す。ちょうど真下あたりに3人がかりで担ぎ上げられている陸がいた。ぐったりしていて動く気配は無い。
「すげえケガだ! 出血点は……両脇!」
「結構な出血量だ! 早く手当しないと……!」
全身から血の気が失われていくのがわかる。両脇といえば腋窩動脈が通っている場所でもある。出血がひどければ失血死もあり得る場所だ。
武藤からの報告では別に背骨は心配しなくて良さそうだが、穴が開いてるとなると出血量がヤバイ。
「武藤! 今からそっちにヘリを下ろす! 陸を抱えて縄梯子登れるか!?」
「やってやるよ!!」
返事を最後まで待たず各方面への指示を飛ばしてヘリに乗り込む。
「衛生科と救護科の生徒は今から陸を運んでくるから手当を頼む! レキ、お前はアリアを見張っててくれ」
「分かりました」
早く陸を引き上げないと。武藤たちにも被害が及ぶ。
5月の海はまだ冷たい。その上脱力しきった人間を支えてるんじゃ疲労はハンパないだろう。
「武藤!」
「おう! なんか結ぶものくれ!!」
ヘリを下ろせるギリギリの高度で保ってもらい、縄梯子を下ろす。そしてヘリの中から適当な縄紐を何本か海に落とした。
仲間の手を借りて水中で背におぶった陸を紐で固定していく。
武藤は今、陸を背負っているため男2人分の体重がある。それを俺1人で引き上げるのは……情けない話だが少し無理がある。その為武藤より先に1人中に来てもらって、後の2人で武藤を下から支えてもらうことにした。
「武藤、あと少しだ!」
「おう! ……おっらぁ!」
武藤が縄梯子を登り始めてから数分後。ついにヘリの縁に手をかけた武藤を俺ともう一人で引き上げた。
その後につづいて残りの2人も登ってくる。
陸が揺れないように固定しながらもう一度さっきの道路の上に着陸した。
「陸!」
衛生科や救護科の生徒が駆け寄って応急処置を始める中、アリアはずっと陸の手を握っていた。
陸の体は今だいぶ冷たい。失血に低体温症までとなると危険度は確実に増す。
何かをしたい。でも結局は何もできない。陸みたいに多方面に精通しているわけでもなければ1つのことに特化しているわけでもない。そんなしがないEランク武偵の俺にできることは―――黙ってこの現状を見ていることだけだ。
「遠山くん! 桜田くんの治療は終わったわ。一回武偵高に戻ってそこから救急車で救護科に運んで頂戴。連絡はしてあるわ!」
「分かった!」
多分同級生と思われる女子に返事を返してヘリに乗り込む。
乗っているのは俺と陸とアリアの3人。レキはもしものときのために置いてきた。
陸の手を握って涙を浮かべるアリアを見ながら俺は心の中で陸に話しかける。
お前を助けるために多くの人が手を貸してくれた。
あのアリアが珍しくしおらしい表情でお前を心配してるんだぞ?
これまでたくさんの任務をこなしてきたお前ならこのぐらいのケガ大丈夫だよな?
お前の元気な姿をみんな望んでるんだ。
だから―――こんなところで死ぬんじゃねえぞ。