緋弾のアリア――碧き守護者――   作:メルチェ

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大変お久しぶりでございます。メルチェです。


お久しぶりの更新ですが読んでいただけて嬉しいです!


18、交響曲

あかりside

 

 

「あかり!」

「あかりさん!」

「ついてこないで! 私が犠牲になれば、いいの!」

 

 

ののかが夾竹桃に狙われたのはやっぱり間宮の術のせいだった。私が間宮の一族じゃなければ、私がもっと強かったら…。夾竹桃に言われた言葉がよみがえる。

 

『あなた弱いんだから』

 

 

私が弱いからののかを守れなかった。だから、夾竹桃のものになることでしかののかを救えない。私は行かなくちゃいけないんだ!

 

 

みんなの制止を振り切って病室を飛び出した。

 

 

「きゃっ!?」

「おっと」

 

 

そこでドン、と誰かにぶつかる。いてて・・・。鼻を押さえてその人を見ると。

 

 

「陸先輩!?」

「こんばんは」

 

 

突然の登場に頭がパニックになる。え、陸先輩がケガしたって聞いて、この病院にきて、でも会えなくてどうしようってなって、それで。

 

 

「――俺はここにいるから、落ち着いて」

「は、い」

 

 

 

ぽんぽんと、頭をなでられて目を覗き込まれる。うわー、陸先輩の顔ってやっぱりきれい・・・。優し気な先輩の目となでられる一定のリズムにだんだんと落ち着きを取り戻していく。

 

 

「今日お見舞いに来たんですけど先輩に会えなくて・・・。聞いた話では大けがをしたってことだったのですごく心配したんです。でも思ったより元気そうで安心しました!」

「あー、たぶん検査に引っ張りまわされてた時に来てくれたのかな? いなくてごめんな。一応ケガは超能力で治したから心配ないけど、念のために今日は一泊するんだ」

「さ、さすが陸先輩…」

「あかり!」

「陸先輩?!」

 

 

病室から私を追いかけてきたライカたちが陸先輩に気づく。私もなんで病室を飛び出したか思い出した。早く夾竹桃のところにいかなくちゃ。

 

 

「私行くところがあるので失礼します!」

「―――アリア」

「まったく、落ち着きのない子ね」

「!?」

 

 

陸先輩の横をすり抜けた時に、ぱし、と手首をつかまれた。え、と思っている間にはすでに体が宙を舞っていて。

 

 

「よいしょっと」

「?」

 

床に叩きつけられる衝撃に備えた。でもいつまでたってもそんな感じはない。あれ? おかしいな。恐る恐る目を開ける。

 

 

「アリアも手荒い止め方するなあ」

「あんたの指示でしょうが」

「方法に性格が…ナンデモナイデス。あかり、大丈夫か?」

 

 

 

おなかのところで抱えられるようにして陸先輩に持たれていた。

 

 

「!?!?!?!」

 

 

陸先輩に触られてる! おなかを!

 

 

「~!~~~~!!」

「ごめんごめん」

 

 

ダイエットしとけばよかった! おなかぷにぷにだよ~! いやー!!

じたばたと暴れてやっとおろしてもらう。アリア先輩の後ろに隠れるようにして陸先輩と距離をとった。うー、恥ずかしいよー!

 

 

「ほら、陸。あんたがそーゆーことするからあかりに警戒されてるわよ」

「え。そうなの? あかりごめん!」

「ええ!? いや、違うので謝らないで下さい!」

 

 

陸先輩に頭を下げられてしまい、慌ててアリア先輩の後ろから飛び出す。違うんです先輩。陸先輩はわざとじゃないって信じてるので頭上げてくださいー!

 

 

 

「よし、じゃあ本題に入ろうか」

「本題?」

「そんな血相変えてどこに行くつもりだったんだ?」

「あかり、いくな!」

「そうです、あかりさん! 夾竹桃のところにいくなんて危険すぎます!」

 

 

ライカ・・・。志乃ちゃん・・・。ごめんね。

ののかは私が守らないといけないんだ。そのためにはどうしてもここを通らなければいけない。さっきから隙を伺ってるけど、先輩たちにそんなものあるわけないし。というかあっても攻められるわけないし。先輩たちは私を挟んだ状態のまま退いてくれそうにないし。普通にきりぬけようとしたって無駄なことは嫌というほどわかっている。陸先輩は無理でもアリア先輩なら・・・鳶穿の勢いでそのまま抜けられるかも。

 

 

「あ・か・り」

「みゃきゃ!?」

 

 

鳶穿の構えをし始めたところで突如視点が高くなる。わきの下に手の感触。

 

 

「陸先輩! 下ろしてください!」

「はい、行くよー」

 

 

陸先輩に高い高いの状態で運ばれる。さっき飛び出してきたののかの病室に。暴れてはみるけど叶うわけもなくて。あっさり戻されてしまった。

 

 

「陸先輩!」

「だめ」

 

 

扉の前を占領してしまった陸先輩は退いてくれないし、アリア先輩も陸先輩の真横に仁王立ちしている。

 

 

「あかり。敵に接触(コンタクト)されたんだろ」

「どうしてそれを・・・?」

「高千穂がさっきメールで教えてくれたんだ」

 

高千穂さんが・・・。

 

 

「ねえ、あかり。あんた隠してることがあるでしょう? あたし勘は鋭いほうなの」

「・・・!」

 

 

アリア先輩の言葉に黙ってしまう。だって、本当のことだったから。

 

 

「今回の敵のことだけじゃない。自分自身のことも隠してきた。それはあんたの武偵ランクが低いまんまなのと何か関係があるのね?」

「それは...」

 

 

つい、事情を知っている陸先輩を見てしまう。だけどその表情は変わらない。

 

 

「何もかも隠したまま、何もかも解決出来るの?」

「今まで貯めた勇気はここで出すべきなんじゃない?」

 

 

アリア先輩と陸先輩の言葉にハッとする。

 

間宮の殺人術が、武偵としての根幹に繋がっていると教えてくれた陸先輩。私を戦姉妹にしてくれて、たくさんの稽古を付けてくれたアリア先輩。

 

 

私は変われず弱いままだったけど、きっとこれが最後だろうから。ここで話すのが誠意ってものだよね。先輩達や友達への。

 

 

「――話します。尊敬する先輩に、嘘はつけませんから」

 

 

覚悟は決めた。全部何もかも伝えよう。これでみんなが離れても、軽蔑されても仕方ない。

 

 

アリア先輩、陸先輩。ありがとうございました。...そしてごめんなさい。さようなら、みんな。

 

 

 

「私は最初から、この学校に来ちゃいけなかった生徒なんです」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――――

 

 

 

 

 

「間宮の一族は公儀隠密、現在の政府のスパイみたいなことをやっていたんです。時には命に関わるような危険な仕事もあったりして...。でも時代とともにそういう仕事は減って、戦技だけが子孫に伝えられていったんです」

 

 

みんな驚いた顔をしてる。陸先輩だけは何を考えているのか分からないけど。

 

 

「間宮の術は門外不出。その技を狙って、二年前、私たちの一族は襲撃を受けたんです」

 

 

人々を守るために伝えられてきた技だった。だから夾竹桃達がその技を狙ってきても一族は拒否した。悪党に渡すわけには行かなかったから。戦えなかった。技を盗まれたら、悪用されるから。だから一族は掟の通りに戦わずに逃げた。それは間違っていないと思う。でも。

 

 

 

「間宮の術があったから私とののかは逃げて、ののかはこんな目にあって...だからもう、いいんです。」

 

 

私が犠牲になれば全て丸く収まる。ののかも助かって、夾竹桃が狙うことも無くなるんだから。

 

 

 

「――あかり、少しきついこと言うぞ?」

 

 

全て話し終えた私に陸先輩が近寄ってくる。すごく真面目な顔で、それはいつもの笑顔やさっきまでの無表情とも違って。何だか、怒ってる?

 

 

「自分の弱さを諦める理由にするな」

「...!」

 

 

一言が胸に突き刺さる。

 

 

『だって、あなた弱いんだから』

 

 

私は弱い。

 

 

「陸先輩、それは...!」

「下がってなさい」

 

 

今にも食ってかかりそうなライカをアリア先輩が止めている。普通ならオロオロしてしまうところだけど、いまはそれどころでは無くて。

 

 

 

「でも、ののかを助けるにはこの方法しか、」

「自己犠牲は自分が満たされるだけだ。相手のためと履き違えるなよ? ののかちゃんに、一生消えない傷を背負わせるつもりか?」

 

 

はっ、とののかを振り返る。

 

 

「お姉ちゃん...」

「ののか...」

 

 

 

そこにはこちらを泣きそうな顔でみる妹がいて。

私がののかの心に傷を...。それはやだ。でも、じゃあ。

 

 

 

「...じゃあ、どうすればいいって言うんですか。私は陸先輩みたいに強くない! アリア先輩にはなれない! 」

 

 

 

思ってることを吐き出すように叫ぶ。陸先輩なら受け止めてくれるから。

 

 

 

「昔の技は封印して、新しい技は身につかなくて」

 

 

変換出来たのは鷹捲だけだった。何年もかかって、やっと一つ。

 

 

 

「夾竹桃は強くて、あたしは弱い! それこそ、先輩達が戦ってる敵と同じくらいに」

 

 

陸先輩に怪我を負わせた敵と同等の夾竹桃。先輩達の足元にも及ばない私が勝てるわけがない。

 

 

 

「いったい、どうすればいいんですか…」

 

 

 

拭ったはずの涙が溢れて止まらない。なんで、こんなに弱いんだろう。なんで妹の1人も守ってあげられないんだろう。

 

 

 

「あかり」

「ふぇ?」

 

 

 

俯いていた私の頭に大きな手。ポンポンとリズムよく撫でてくれるのは陸先輩の手。感触に驚いて顔を上げるとそこには――陸先輩の顔。

 

 

ち、ちちちちち近い!

 

 

「先輩としてこれだけは教えておこう」

「な、なんですか?」

 

 

私の両肩に手をおいて陸先輩は言う。

 

 

 

「本当に守りたい相手なら、自分の命だけは掛けちゃだめだ。それをしていいのは、必ずその人の前に戻ってくる覚悟がある時だけ」

「覚悟…」

「弱いのは強くなるための前段階。逃げるのはより態勢を整えてもう一度挑むため。だからそれは恥じゃない。恥ずかしいのは変われないまま自分に負けてしまう事だよ」

 

 

 

そういって陸先輩は悲しそうな、少しつらそうな顔をした。その顔に私の心もぎゅーッと締め付けられる。先輩のこんな顔、見たことない。

 

 

「できないことがあったっていい。誰に負けたっていい。でも、自分の弱さに負けちゃだめだ。諦めたら、後悔するよ」

 

 

武偵憲章十条。諦めるな。武偵は決して諦めるな。

 

 

 

「あかり。あんたこのまま行かせると、武偵も、あたしとの戦姉妹契約も破棄しそうだから先に釘を刺しておくけど」

 

 

きろっと、今まで黙っていたアリア先輩がこちらを向く。な、なんで分かったんだろう。陸先輩の話を聞かなきゃ絶対そう言ってたよ。

 

 

 

「戦姉妹の途中解散には規則上双方の合意が必要よ。私は合意しない。あたしの戦妹なら最後まで武偵として戦いなさい。敵と―――そして自分と」

「アリア先輩...」

 

 

逃げようとした私を、まだ戦妹だと言ってくれた。追いかけていた背中が、いまは私を引き留めようとしてくれている。

 

 

 

「やっぱり、あかりは武偵に向いてるよ」

「陸先輩...?」

 

 

 

優しく笑った陸先輩がそれでも視線は外さず、そういった。

 

 

「間宮の術は人を殺める術。でもそれは人々を守るためにある。何年もかかって人を殺さない術に変えてきたその根性は褒められるべきだし、その術を封印してまで人を助ける側になりたいと思うその考えは立派な武偵だ」

 

 

その言葉を聞いて、また涙が溢れてきてしまう。どれだけかっこいいんですか、陸先輩。

 

 

 

 

「だからこれからもあかりには武偵として、俺の後輩として、頑張って欲しい。ちゃんと、笑って戻ってこい」

「り、りぐぜんばあい...!」

「あんたに教えなきゃいけないことはまだまだあるのよ!」

「ありあ"ぜんばあい!」

 

 

陸先輩がかっこよすぎて。アリア先輩が優しすぎて。ほんとに、尊敬できる先輩達だなぁ。

 

 

 

 

「私、何も持ってなかったけど...。先輩達に勇気を貰いました! 必ず勝って見せます!夾竹桃にも、自分にも」

 

 

握りこぶしを作って気合を入れる。でもどうしようか。私1人だけで勝てる相手じゃないし…。

 

 

「あかり。一つ間違えてる」

「間違い?」

「あかりは大切なものをこんなに持ってるじゃないか。振り返って見てごらん?」

 

 

不思議に思いながら先輩の手の動きに釣られるようにして振り返る。そこにいたのは、

 

 

 

「家がなんだ! 技がなんだ! あかりはあかりだろ!」

 

力強く叫ぶライカがいた。

 

「微力ですが、お力添えしますの!」

 

笑顔の麒麟ちゃんが宣言する。

 

「あかりさんが死ぬなら私も一緒に死にます!」

 

涙ぐみながら言う志乃ちゃん。

 

「某も助太刀致す。風魔の秘伝『符丁毒』の悪用、許すまじ」

 

風魔さんもそんな声をかけてくれる。

 

 

みんなの声が、胸に響いて。

 

「みんな…」

 

 

さっき、陸先輩に声をかけてもらった時のような、温かい気持ちになって涙が溢れてくる。

 

 

「…助けて、くれるの…?」

 

 

涙をぼろぼろ流して。顔もぐしゃぐしゃにしながら。そんな情けない顔をしてしまった。

 

 

「1年暗唱!武偵憲章1条!」

「ーーー仲間を信じ、仲間を助けよ!」

 

 

アリア先輩の鋭い号令に、みんなが直立不動の姿勢をとって強く、言葉を放った。

 

武偵憲章。

10条まである武偵の心得の中でまず最初に書かれている、大事なこと。

 

 

「あかり、分かったかな? 自分のことを信じてくれる仲間がいるってこと。あかりがどれだけ素晴らしいものを持っているかってこと」

「陸先輩…」

 

 

憧れの2人の前でみっともない顔で泣き続ける。みんなへの感謝の気持ちと一緒に涙も溢れて止まらない。

頬を流れる涙が、熱い。

 

 

「ーーーあかり」

 

アリア先輩の隣に立っていた陸先輩が近づいてくる。私の前で止まり、ぎゅっと。

さっき投げ捨ててしまった武偵高の校章を拾い、手の中に握らせてくれた。

 

 

 

「俺とアリアから、作戦命令を下すぞ」

「!」

 

 

作戦命令。

 

ここ一番の急襲作戦に付けるコードネーム、『作戦コード』に憧れてアリア先輩に一度断られたもの。

まだ一人前ではないから、と。

 

 

武偵の戦いに待ったはない。一人前でなくとも、勝たなければいけないここ一番はきてしまうのだ。

 

 

 

 

「コードネーム『交響曲(シンフォニー)』」

 

ーー交響曲。

 

 

 

「交響曲は複数の楽器で構成されるオーケストラの多重奏楽曲のことなんだ。1つでは奏でる音が小さくても、たくさん集まれば規模が大きくなって音が届く。ーー仲間となら大きな力を発揮できる。そんな想いを込めて、このコードネームにしたんだ」

「私は借りをきっちり返す主義なの。あんたも自分の借りを返して、同時に2人の犯罪者を逮捕するのよ」

 

 

背筋が震えた。すっ、と体の芯がまっすぐ立った気がする。

 

だって、はじめての作戦命令。しかも、陸先輩とアリア先輩という世界でも活躍しているような武偵からの正式なもの。

 

 

 

「ーー返事は?」

「はいッ!」

 

 

姿勢を正して勢いよく返事を返す。

 

 

夾竹桃は私なんかより全然強い。でもなぜか今は怖くないんだ。みんながいてくれるから。アリア先輩が、陸先輩がついていてくれるから。

 

 

 

みんなで、夾竹桃を倒す。そしてののかを助けるんだ!

 

 

 

 


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