緋弾のアリア――碧き守護者――   作:メルチェ

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どうもメルチェです。
やらなければいけないことがあるときに限って今すぐやる必要のないことがはかどりますよね!
そんな1日です。
では第20話をどうぞ。


20.パートナー 

陸side

 

 

 

 

日曜日の昼下がり。

 

ーーー学園島の片隅にある美容院の前にて人だかりができていた。

 

 

「え、あれ桜さまじゃない!?」

「めっちゃかっこいいんだけど写メ写メ!!」

 

 

 

 

困った。大変困ったぞ。人を待っている間に俺の周りを女性陣が取り囲んでしまった。軽く、というかだいぶ通行の迷惑である。そして堂々と盗撮をやらかす通行人。いや、俺の写真意外と出回っているらしい。

 

『りっくんはイケメンさんだからすっごい人気で写真も爆売れなのだよ!りっくんのおかげでりこりんは大儲けさせてもっらてますぜぇ!』

 

脳内で盗撮魔のハニーブロンドの声が再生される。いや、人の写真で大儲けしてそれを本人に自慢する盗撮魔ってどうだと思う?

あまり好き好んで取られたいわけじゃないが、悪用されないならと許容しているこの頃である。まあ、盗撮からの販売は悪用に入らないのかと聞かれると大変グレーゾーンというか黒な気がするが、出所もわかっているのでよしとしてやろう。

 

 

そうこうしているうちに待ち人が…来た来た。

 

 

「すみません。彼女を待たせているので通してください。すみません」

 

 

周囲の人だかりに頭を下げて待ち人のもとへ急ぐ。怒らせてはいないだろうか。ご機嫌取りが楽だといいんだが…。

 

 

 

「彼女だってー」

「え、アリアと桜様ってそういう…?」

「でもアリアって…中学生みたいだよね。え、もしかして桜様もロリコン?」

「アリア、お待たせ」

「っ…!」

 

 

 

 

待ち人ーーーアリアのもとに駆け寄るとピンクのツインテ―ルを揺らしてプルプルしていらっしゃる。あ、これやっぱり怒ってらっしゃる。

 

 

 

「だ、れ、が! ロり中学生よ! 私は高校生だ!」

「どうどう!落ち着けって!」

 

ちょっとちょっと!ガバがこんにちわしてますよ!しまってしまって。

若干命がけでアリアの両手に握られたガバをホルスターから抜かせないようにする。

先ほどの群衆の疑問が聞こえてしまったらしい。

俺もロリコンとか言われて風評被害なんだが。特にそちらの趣味は持っていないんだけども。

 

 

 

「あんたもよ陸!」

「え、俺?」

「だ、だれが!いつ!あんたのか、か、か、」

「か?」

「か、ーーーカノジョになったっていうのよー!!」

 

 

 

アリアさんが真っ赤な顔をしてビシッと指をさしてにらみつけていらっしゃる。

と、ここで俺も一つ純粋な疑問をぶつけてみる。

 

 

「俺が第三者にアリアのことを示すんだから『彼女』だろ?え、アリアは女の子だからあってるよな?あれ、もしかしてここ10年ぐらいで日本語の使い方変になってたりする?」

 

 

 

え、俺あってるよな?一応日本国籍だから今更日本語間違えるとか恥ずかしすぎて無理なんだが?

 

 

「わ、わざわざか、か、『カノジョ』とか言わなくても友達とかでよかったじゃない!」

「あ、それもそうだな。その方がキンジとかにも使えるし今度からそっちにするよ」

「……はあぁ。そうよね…陸だもんね……天然にまともに相手しちゃいけないわ」

「あれ、なんかひどくない?」

 

 

 

何、今日は俺の扱いが雑になる日なのか?

 

 

 

「ここじゃどんどん人が来ちゃうわ。行きましょ」

「おう。それにしてもアリアは前髪おろしてるのもかわいいな。少し斜めに流してるのが大人っぽくて素敵だと思うぞ」

「そ、そうかしら。陸が言ってくれるなら間違いないわね!」

 

 

 

目いっぱいおしゃれして、美容院で髪の毛もセットしてきたアリアは雑誌から抜け出てきたといっても不思議じゃないくらいかわいい。

いつもはパッチンで止めている前髪もおろして斜めに流しているからか、若干大人ぽく見える。

俺も変に見えないくらいのおしゃれはしてきたつもりだが、これだけの美少女の隣に並ぶんじゃ足りなかったかもな。なんて、冗談交じりに考えた。

 

 

 

 

 

 

ーーー学園島から電車とモノレールを乗り継いだ俺たちは新宿駅で降り立った。

 

 

にしても人の多い場所だよなぁ。通行人の視線が刺さる刺さる。敵意のある視線は…まあ、あるけど原因はこれかなぁ。

 

 

俺は隣をミュールをかつかつ鳴らしながら歩くアリアを見る。男たちの視線がアリアを見て、それから俺を見て敵意に代わっていく。まあ、こんなかわいい子がいたら隣にいる男が気になりますわな。これが武偵高なら銃弾やナイフや素手が飛んできそうなものだが、ここは大都会新宿。通行には武偵などではなく一般市民だ。放置で問題ない。

 

 

「陸。こっちよ」

「こっち?」

「うん」

 

 

実は今日はアリアに誘われて一緒に出掛けているだけなのである。ちなみに行先は知らされていない。

 

アリアに先導されるようにしてしばらく歩く。ーーーそれにしてもどうしたもんか。

 

 

 

「……下っ手な尾行。シッポがにょろにょろ見えてるわよ」

「あ、わざとやって何かを試されてるわけじゃなかったんだな」

 

 

 

背後にいるであろう人物に振り返らず声をかける。その正体は。

 

 

 

「ここで何してるんだ?キンジ」

「…ばれてたか」

 

 

 

あれだけわかりやすくされたらそりゃな。逆に試されてるのかと思って声をかけるべきなのか迷ったぞ。

 

 

「陸。あんたちゃんとキンジに教えてるの?探偵科のくせに尾行下手くそとか終わってるわよ」

「演習はやらせてるはずなんだけどなぁ」

「な…毎回演習で俺が当たるのはお前のせいだったのかよ。勘弁してくれ」

「しつけ直しが必要ね。もうちょっと役にたつドレイにしないと」

「おい」

 

 

 

信号待ちの間に軽口をたたきあう。

 

あ。今周囲の人がアリアの「ドレイ」ワードに若干引きを見せたぞ。TPOは考えて発言させないと俺まで風評被害くらいそうだな、これ。

 

 

 

「で、あんたここまでついてきて何の用よ?」

「あ……その。お前、昔いったろ。『質問せず、武偵なら自分で調べなさい』って」

 

 

 

逆ギレ気味にそういったキンジは俺の隣に並んだ。俺を挟んでアリアとけんかするのはやめてね、マジで。

 

 

「ていうか、気づいてたんならなんで言わないんだよ」

「教えるかどうか迷ってたのよ。あんたも武偵殺しの被害者の1人だから」

「?」

「まあ、どうせついちゃったし。いいわ。ついてきなさい」

 

 

 

そういって俺とキンジを伴ってアリアが入っていった建物はーーー新宿警察署、その署内であった。

 

 

 

 

 

 

 

留置人面会室でアクリル板の向こうに座った人物。その女性に俺は見覚えがあった。懐かしさと同時に驚愕する。なんで、なんであなたがそちら側にいるんですか。

 

 

「お久しぶりです。かなえさん」

「あら、あなたもしかして……陸くんかしら?」

「はい」

「あらまぁ…かっこよくなったわねえ」

「かなえさんはあの頃と変わらずお綺麗ですね」

「ふふ。ありがとう」

 

 

かなえさんと久方ぶりに会話をする。アリアと戦兄妹になってから何度かお家へお邪魔してお世話になったことがある。

 

 

 

「ちょっと!ママも陸も時間ないから」

「ごめんなさいね?あら、そちらの方は?てっきり彼氏は陸くん一人だと思ったけどまさかアリアったら2人目を?」

「ち、違うわよママ」

 

 

 

かなえさんがおっとりした口調でキンジに目をやる。ここが留置所の面会室だということを忘れるぐらい平和な会話だ。

 

 

「こいつは遠山キンジ。武偵高の生徒で、今は陸と一緒に躾中なの」

「あらあら。大切なお友達なのね。キンジさん。初めまして。アリアの母で―――神崎かなえといいます。娘がお世話になっているみたいですね」

「あ…いえ…」

 

 

 

かなえさんの自己紹介にキンジはたじたじだ。もとから女性態勢がないキンジにはかなえさんは毒だったらしい。しかし友達の母親に初対面で娘が『躾中」とかずいぶんなことを言っているがそれは気にしない方向なのだろうか。

 

 

 

「ママ。面会時間が3分しかないから手短にいうけど…このバカ面は武偵殺しの3人目の被害者なのよ先週、武偵高で自転車に爆弾を仕掛けられたの」

「…まあ…」

 

かなえさんは表情を硬くする。

 

「さらにもう1件。おとといはバスジャックも起こしてる。やつの活動は急激に活発になってきてるのよ。てことはもうすぐシッポも出すはずだわ。だからあたし、予定通り武偵殺しから捕まえる。ヤツの件だけでも無実を証明できればママの懲役864年が一気に742年まで減刑されるわ。最高裁までの間に他も絶対何とかするから」

 

 

 

懲役864年、か。

 

 

「そしてママをスケープゴートにしたイ・ウーの連中を全員ここにぶち込んでやるわ」

「アリア、気持ちは嬉しいけどイ・ウーに挑むのはまだ早いわ。陸くんはパートナーになってくれたの?」

「それは…」

「---はい。俺はアリアのパートナーとして今も、昔も隣にいるつもりです」

「陸…」

「それなら安心ね」

 

 

 

アリアが泣きそうな目でこちらを見つめる。

 

足りないものを見つけたらパートナーになってやるといったのは確かだが、ロンドンにいるときも東京武偵高校であった時からも何かあれば力になろうと思ってたよ。俺は。

 

 

 

「神崎、時間だ」

 

壁際に立っていた管理官が時計を見てそう告げる。

 

 

「陸くん。アリアのことよろしくね」

「はい、任せてください」

「キンジさんもご迷惑おかけするかもしれませんがよろしくお願いします」

「あ、はい」

「アリア、あなたは一人で行動してはだめよ。周りの助けてくれる人をちゃんと頼りなさい。私は大丈夫だから」

「ママ!」

「時間だ!」

 

 

早口に俺たちに言葉をつげていたかなえさんの腕を管理官がつかみ引きずるように移動させる。

 

あっ、とかなえさんが小さくあえいだ。

 

「やめろ!ママに乱暴するな!」

 

 

 

分厚いアクリル板に向かってとびかからん勢いのアリアを抱きすくめ、アクリル板から引きはがす。

 

懲役864年なんてどんな罪を起こせばつくのかもわからない年数だ。大罪人に間違いはないだろう。それでも。

 

 

 

「公平と正義を謳う警察組織の人間が無抵抗の人間に行う行動とは思えませんがいかがお考えでしょうか?」

「…」

「あ、申し遅れました。私『静嵐』を名乗らせていただいております。桜田陸と申します。---犯罪者だろうが何だろうがそんな扱いしていいわけないだろ。俺は素手でもこのアクリル板ぶち抜けるが直接会話するのが好みか?」

 

 

 

俺にとってアリアは大事な女の子だ。その子の母親なら大切に決まっている。だからこそこの管理官の行動は許せない。

 

殺気を織り交ぜながら凄むと慌てて腕をつかんでいた手を放し、普通の対応で面会室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

新宿のアルタ前にて。

 

 

管理官の態度に憤り一通り泣いたアリアを落ち着かせた俺たちはしばらく新宿の街を散策することにした。キンジは様々な情報が一気に入ってきて混乱したのだろう。うつむき加減で先ほどから無言だ。

 

 

「…ちょっと陸と話があるの。キンジは帰ってくれる?」

「あ、ああ…」

 

 

 

 

 

また駅前に戻ってきたタイミングでアリアがキンジにそう告げた。キンジは気まずさからか、どうしていいのかわからないといったような、すこし安堵したような顔で新宿駅の改札の中へ消えていく。

 

 

それを見送って俺はアリアの方を向きなおした。

 

 

 

 

「行こうか。人に聞かれると困る内容の話ならどっか部屋を確保するけど」

「…歩きながらでいいわ。バカキンジには関係のない話だから帰らせただけだもの」

 

 

 

そういうとアリアはかつかつとミュールの音を響かせて駅から離れていく。俺はその横について黙ってついていった。

 

 

 

「ママは武偵殺しの罪を着せられてつかまって、そのあと余罪が出てきたって言って懲役はどんどん長くなったわ。今は弁護士の先生が頑張ってくれてるの」

「そうだったのか…。かなえさんに罪を着せたのがイ・ウーなんだな?」

「そうよ」

 

 

 

アリアは暗い表情でうなづいた。

 

イ・ウーという犯罪組織。かなえさんにかかった864年という懲役年数。武偵殺しの件が片付いたとしても残り700年という年数がかかる。新聞を読んだときに経緯に裏があるとは思ていたがこれは…真っ黒だろうな。確実に警察組織、もしくは国の中枢にイ・ウーと関係あるやつがいる。何とかしてその関係を暴くかイ・ウーを倒さなければかなえさんの実質上の終身刑は覆らない。あとから余罪を足せばいいだけだ。

 

 

 

「あたしはママを助けるためにイ・ウーをつぶすわ。それでなんだけど…陸は、そのさっきぱ、パートナーって…」

「ああ。あんな事情を聞いた以上はな。お前の家には『パートナー』が必要なこともわかってるし。特にアリアは一族の遺伝を強く受け継いでる子供っぽくて直情的なところ、だっけ?」

「も、もう!からかわないでよ!」

 

 

冗談めかしてアリアをからかうと真っ赤になってぽこすかと叩いてくる。

 

少しして動きを止め、二人して「「アハハ!」」と顔を見合わせて笑いあった。

 

 

 

 

「俺はお前に足りないことを見つけてほしいと思うし、そのためには俺以外の人間を仲間と認めてともに戦うことも覚えてほしい。だけど『パートナー』は俺だ。だからどんな時でもそばにいるよ。昔みたいに勝手にいなくなったりして悲しませないって誓う。だからーーー俺の『パートナー』になってくれますか?」

「よ、よくそんな恥ずかしことスラスラ言えるわね……ま、陸だもんね。…うん。あたしのほうこそ。よろしくお願いします」

「ああ」

 

 

差し出した掌にアリアの小さな手が置かれる。この小さな手で、この小さな体でこいつは今まで一人で戦ってきたんだ。なぜ俺はあの時この小さな女の子を一人にしてしまったんだろうと後悔ばかりが浮かぶ。だが過去は過去だ。変えられないものに固執するのは意味がない。それよりも今、この時から。俺はアリアという女の子を守っていきたいと思う。強くて、それでもか弱い一人の女の子を。

 

 

 

「俺たちは正式に今日から『パートナー』だ。と、さっそくで悪いんだが荷物の準備をしておいてくれ」

「? どこか行くの?」

 

 

アリアが首を傾げ不思議そうに尋ねてくる。

 

 

 

「ああ。ちょっと所用でな。ついてきてくれるか?」

「いいけど、いつ、どこへ行くのか教えなさいよ」

「出発は明日の夕方。行先は―――ロンドン・ヒースロー空港だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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