聖杯戦争は『岸波白野』の勝利で幕を閉じ――その直後、彼のサーヴァントである『キャスター』が無茶をした影響で、ムーンセルは観測機から開拓地へと姿を変えたのだった。
魔術師達による聖杯戦争は終結した。
次に開かれるのは、魔術師達による領域支配権争奪戦。
この争いを止めるべく、四畳半でひっそり暮らしていた二人の元に一人のサーヴァントが訪れる。



一発ネタ。EXTELLAが楽しみだったので書いたもの。

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「EXTRACCCキャスターEND後」に「EXTELLA要素」を混ぜてみたお話。
簡単に言うと魔術師(ウィザード)達が我先にとSE.RA.PHに行って領土を取り合う話。
ん? レガリア? なんだそれわ。


Fate / EXTELLA プロローグ(偽)

『さて。おそらく一回戦で敗れた下級の英霊なんだろう、私は。詮索は無意味だよ』

 

 かつてその男は、自嘲気味に笑いながらそう告げた。

 

 

 ◆

 

 

 聖杯戦争。

 霊子虚構世界――『SE.RA.PH』に128人の魔術師(ウィザード)が集い、覇を競う殺し合い。

 最後に残った優勝者には、あらゆる願いを実現する聖杯が与えられる。

 

 ――その戦いは、名も無き魔術師(ウィザード)によって終結した。

 

 偶然の不具合(バグ)によって自我を持ったNPC。

 生まれたばかりの赤子のような魂魄は、数多の戦いを経験して力を付け、ついに最強へと至った。

 

 ……そして。

 聖杯戦争を制した岸波白野は、地上と月の接続を断った。

 

 ――だけど、それは新しい戦争の引き金だったのかもしれない。

 全てが終わった後、月はその在り方を変えた。

 人類の未来を識る観測装置から、人類未踏の開拓地(フロンティア)へと変貌したのだ。

 

 開拓地。

 マナが枯渇し、滅びに向かいつつある地上の人間にとって、それは何よりも甘美に聞こえるだろう。

 

 故に、間も無くして争いが生まれた。

 

 (ムーンセル)が在り方を変えると同時に、地上の魔術師(ウィザード)達は一斉に月へ進出(アクセス)した。

 侵略と言い換えてもいい。

 土地の所有権や管理者権限。リソースというリソースを独占するべく、彼らは我が物顔で月に旗を立てたのだ。

 

 ――ここはワタシの領土である。何人たりとも触れることは許さない――。

 

 再び出現した『SE.RA.PH』は日々拡大している。人類の全てを記録した神の頭脳によって、世界は日に日に大きくなっている。

 しかしそれ以上の速さで、人間達は争っている。

 西欧財閥。魔術協会。聖堂教会。その他のレジスタンス達。

 あらゆる組織が魔術師(ウィザード)を派遣し、領土を奪い合う。

 ある者は人類の未来のために。ある者は自分勝手なエゴのために。

 それぞれの願いを胸に抱き、魔術師(ウィザード)は戦う。

 かつて聖杯戦争にて用いられた人型決戦兵器――『サーヴァント』を使役して。

 

 

 ◆

 

 

 拠点(セクター)とはすなわち領土。

 黄金のオブジェ――『レジムマトリクス』を中心として広がった『岸波白野』の陣地である。

 

 魔術師(ウィザード)はこの拠点(セクター)を改良して自分なりの工房を作る。

 しかし、自分にそんな技術はなかった。

 魔術師(ウィザード)としての経歴はゼロ。魔術回路こそ備わっているものの、鍛錬らしい鍛錬など今まで一度もやったことがない。

 これが他の魔術師(ウィザード)ならば、強力な迎撃装置をこれでもかと設置して、要塞じみた拠点(セクター)に魔改造するのだろう。

 

 だがここには何もない。

 参考書と睨めっこしながらなんとか設置した外壁。

 中央には一軒だけポツンと建つ民家。面積は大体四畳半。

 それが岸波白野の拠点である。

 

「――ふう」

 

 拠点(セクター)に帰還するや否や、大きく息を吐いた。

 張り詰めた神経が和らいでいく。ついでに肩を回して緊張を解す。ここなら気を張る必要はない。

 

「探索お疲れ様でした、ご主人様(マスター)。すぐ夕食にしますね♪」

「ん、お願い」

 

 狐耳と和服のサーヴァント――『キャスター』はこちらに微笑んで見せたあと、たった一軒のその小さな民家に入っていった。

 

「…………」

 

 さて、夕食まで時間が余った。

 なんとなく周囲を見渡す。

 

「――はあ」

 

 周囲を見渡すと、先ほどとは違った意味で溜息が出てしまう。

 拠点をぐるんと覆う塀。これでもかというくらい、とにかく広い庭(仮)。そして、あまりにも小さな民家。

 見えるのはこの三つだけだ。それ以外は何もない。これを殺風景と言わずなんという。

 尤も、原因は自分の魔術師(ウィザード)スキルの低さなのだが。

 

「また溜息か、マスター?」

 

 霊体化していたサーヴァントが現界する。

 白髪のオールバック。褐色に染まった肌。黒いアーマーの上に赤い外套を纏った英霊。

 

「……アーチャー、か」

 

 確認するように彼の名を呟く。

 そう、『アーチャー』。岸波白野がキャスターの次に召喚したサーヴァント。

 

 ――元来、英霊召喚は並の魔術師(ウィザード)には不可能な奇跡だった。

 主な理由は三つ。

 

 一つ。リソースたる魔力が不足していた。

 

 一つ。手段が不明確だった。

 

 一つ。英霊側に応える意思がなかった。

 

 しかしこれらの問題は、ムーンセルが開拓地になったことで全て解決した。

 まずリソースだが、これは『SE.RA.PH』内で霊脈を探せばいい。そこに拠点(セクター)を設置すれば、一騎くらいは誰でも召喚できる。

 次に手段。これは古今東西の魔術師(ウィザード)達によって聖杯戦争時のものがサルベージされ、アプリケーションソフトとして世界中に散蒔かれてしまった。中身まで把握している魔術師(ウィザード)は極稀だが、使うだけなら誰でも可能なのだ。

 そして、最後の問題――英霊の意思についてだが、これは魔術師(ウィザード)達の闘争が始まることで解決した。戦いを望む英霊達を筆頭に、数々の英霊が召喚に応じ始めたのである。

 

 とまあ、そんなこんなで岸波白野が召喚したのが彼、アーチャーというわけだ。

 

「疲れているのなら、今日は早めに休んだ方がいい。

 必要とあらば、何か消化にいいものを新しく用意しよう。キャスターの料理は下げさせてもらうが」

「いや、そんなことは。それより見張りありがとう、アーチャー。成果はあった?」

「……そうだな。あるにはあった」

 

 アーチャーは腕を組み、険しい顔で答えた。

 なんのことか分からず首を傾げる。

 

「あるにはあった?」

「君達が留守の間に色々あってな。一言で言うと――『アグレッサー』がやられた」

「なっ……!」

 

『アグレッサー』とは拠点を守る兵士のことだ。

 どの魔術師(ウィザード)の拠点にも必ずアグレッサーが存在し、拠点の要であるレジムマトリクスを守護している。

 ここは岸波白野唯一の拠点だ。つまりは自分達の生命線。ここを失えば路頭に迷うことになり、アーチャーとの契約も切らねばならない。だからこそ彼にここを防衛させ、相応に強力なアグレッサーも置いていた。

 ――それが破壊されたということは。

 

「……サーヴァントが来たのか?」

「ああ。なんとか撤退させたが、アグレッサーは破壊された。

 すまない。力作と聞いていたので一撃くらいは耐えられると思っていたのだが、見通しが甘かったようだ」

「……う」

 

 一撃で破壊されたと聞いて思わず凹む。

 もしそれが本当なら、岸波性アグレッサーはそこらの野良エネミーよりも弱いということになる。

 

「まあ、それはいい。今はサーヴァントだ。

 撃退には成功したが、これは目を付けられていたということでもある。

 勝って兜の緒を締めよ。聖杯戦争に優勝した君だからこそ、この言葉を胸に刻むべきだ。

 ……と、キャスターにも伝えてくれないか?」

 

 やれやれと呆れつつ、アーチャーは四畳半の方を見た。

 中ではキャスターが料理に勤しんでいる。それなりに好調なようで、時々見える尻尾は愛らしく揺れている。

 直に素晴らしい夕食が出来上がるだろう。

 

「……釈迦に説法だと思うけど、食事は大切だぞ?」

「分かっている。分かっているが……少し能天気すぎるだろう、君達。

 マスター。君は自分の立場が分かっているのか?

 聖杯戦争優勝者。戦いで頂点に立った覇者であり、穿った見方をすれば大量殺人者でもある。君達はこのSE.RA.PHにおいて最も大きな肩書きを背負っているのだぞ」

「それは……分かってる」

 

 大量殺人者。

 その言葉が、自分の胸に深く突き刺さる。

 ……そうとも。今自分は、大量の屍を踏み越えた上でここにいる。

 

「大した覚悟もなく、ただ死にたくないというだけで、多くの魔術師(ウィザード)を殺してきた。

 ……俺は、そういう人間だ」

「それは違う。願いに貴賎などない。彼らは人を殺す覚悟と同様に、自身が殺される覚悟を以て聖杯戦争に臨んだ。君に敗れた者達は、君を称えこそすれ、恨むものはいないだろう」

「……そうかな?」

「そうとも。私は一回戦で敗れた下級英霊だが、そんな私の元マスターでさえ、そういう魔術師(ウィザード)だったよ。

 ……ああいや、違う。この話はまた今度だ。今したいのはそういう話ではない。

 私が言いたいのは関係者についてだ。例えば西欧財閥という組織。次期当主が死亡した今、君達を連れ去るべく魔術師(ウィザード)を派遣してきてもおかしくはない。

 だからこそ、もう少し緊張感というものをだな……」

「――――――」

 

 何度目か分からない説教が垂れ流される。

 岸波白野を思ってのことだと分かってはいるが、こうもくどいとイヤになる。

 始めの数回は一つ一つ真面目に聞いていたものだが、途中からは話半分で聞き流すようになってしまった。

 

 それが日常だった。

 昼間はSE.RA.PHを探索し、夕方に帰宅。アーチャーと適当に駄弁っている間、キャスターが食事を作る。夜まで各々適当に過ごし、そうしてまた一日が過ぎていく――。

 

「――――む」

「――――あ」

 

 ……空間の異常を感知。

 圧倒的な質量と重量。エネミーやアグレッサーのような人工兵士の域を超えている。

 ……四方は外壁で囲まれている。破壊された形跡は感じられない。

 となると経路は一つ。出入り口だ。

 

「おや――まあ。夕食時に来訪とは、なんとも無粋な輩ですねえ」

 

 先ほどまで夕食の準備をしていたはずのキャスターが、いつの間にか隣に出現した。

 纏う空気は普段のそれとは別物だ。いつでも始められると言わんばかりの臨戦態勢である。

 

「この気配……昼間のリベンジというわけか。

 気を抜くなよマスター。あれは我々とは一線を画するA級サーヴァントだ」

 

 アーチャーは侵入者と自分を隔てるように移動する。

 

 ――奥には、一人の騎士がいた。

 

 その騎士は正々堂々門を開け、まっすぐこちらに歩いてくる。

 金色の髪と翠の瞳は、生粋の英国人を思わせる。

 青い布地の衣服と、全身を守護する鋼の鎧。

 たとえ武器は見えなくても、侵入者がサーヴァント――『セイバー』であることは一目で分かった。

 

「……良かった。今回はマスターがいるようですね」

 

 サーヴァントはアーチャー、キャスター、自分の順に確認した後、胸を撫で下ろした。

 どうやら、自分に用があるらしい。

 

「――止まれセイバー。

 ここは既に我らがマスターの拠点。それ以上踏み出せば敵対行為とみなす」

 

 アーチャーが警戒心を顕にした瞬間、徒手空拳だった彼の手に双剣が握られる。

 ――干将・莫耶。水波模様の浮かぶ白と、亀裂模様の入った黒。二つで一つの夫婦剣。

 キャスターはアーチャーの影に隠れるよう移動し、呪符を出現させた。

 

 しかし肝心の相手はというと、武器を構えた様子もなく、足を止めてこちらを見ているだけだった。

 

「……いいえ。違います、アーチャー。私は貴方達と戦う気はない」

「この状況を不利と見たか。聡明だな。

 ではお帰り願おうか、セイバー。君と我々が本気で戦えば、お互い無傷では済むまい」

「……む。ですから、違います。私は貴方達と敵対する気はない。今回は話をしに来たのです」

 

 セイバーは口を尖らせて抗議する。

 こちらは武装しているのに対し、あちらは未だ剣を構えた気配はない。それどころか敵意すら向けてこない。

 ……もしや、本当に話をしに来ただけなのだろうか?

 

「……はぁ。敵対する気はない、か。昼間の斬り合いの後でそれを信じろと?」

「その件は申し訳ありません。ですが、お互い本気ではなかったでしょう?」

「そうだな。だが、我がマスター渾身の力作が破壊されたのは事実だ」

「え――?」

 

 肩をすくめながらアーチャーが言うと、セイバーはすぐさまこちらを見た。

 翠の瞳は不安げに揺れながら告げている。そうなのですか? と。

 

 …………。

 

 その通りなので頷く。

 

「いくら不出来とはいえ、あれにはそれ相応のリソースが詰め込んであった。

 血と汗と涙の結晶。たとえ技術は拙くとも、その熱意は誰にも否定できん。

 それを君は一瞬で、息を吹きかけるように消し去ったのだ」

 

 アーチャーはニヤニヤ笑いながらセイバーを責め立てる。

 そして心なしかキャスターの目つきが険しい。

 

『呪いが滑りました、てへ(笑ってない)』

 

 とか言い出しかねない。

 

「それは……申し訳ありません。そうとは知らず破壊してしまって」

「いえいえー……あはは」

 

 真面目な性格なのだろう、セイバーは自分の過ちを認めて頭を下げた。

 それを直視できず、目を逸らす。

 謝罪してくれる気持ちは素直に嬉しいのだが、同時に自分の未熟さを痛感して胸が痛い。

 

「はいはい、もう結構ですそこまで!

 ご主人様を弄っていいのは私だけです! そこのガングロは後で蹴ります」

「何!? 待てキャス――」

「それよりもセイバーさん? 先ほどアチャ男さんも仰いましたが、ここは既にマスターの領土。本来なら虫一匹侵入を許さない絶対不可侵領域。

 すなわち、私とご主人様だけの愛の巣なのです!」

「なんと。

 申し訳ありません、その手の話題には不得手なもので」

「ご理解いただけたようで何よりです。

 ぶっちゃけますと、私以外の女性は邪魔者以外の何者でもないので、要件だけ済ませてゲットアウトお願いします。

 ご主人様が貴方に一目惚れとか溜まったもんじゃねえので。いえ、そんなこと万が一にもありえませんけどっ!」

 

 シャーっとセイバーを睨むキャスター。

 どうやらキャスターは、自分がセイバーに一目惚れすると思ってるらしい。

 

「……あの、アーチャー。私は彼女に嫌われてしまったのでしょうか?」

「…………」

 

 セイバーは不安げにアーチャーに尋ねるが、当の本人は額に手を当て曖昧な表情で沈黙していた。

 

「……そうですか。貴方のサーヴァントはどちらも個性的なのですね」

 

 セイバーは困ったように笑いながらこちらを見た。

 ……彼女にも覚えがあるのだろうか。こう、手のかかる部下に振り回される感覚が。

 

「そろそろ本題に入りましょう。

 まずはアーチャー。昼間の件、重ねてお詫び申し上げます。貴方の剣士としての実力が知りたかったのです。今後、あのようなことはしないと誓いましょう」

「――ほう。それはつまり、我々とは戦わないということか?」

「時と場合によりますが、そういうことになります」

 

 冗談交じりで言ったアーチャーの言葉を、セイバーは肯定した。

 戦わないという意思表示に、キャスターもまた驚く。

 セイバーはもう一度アーチャー、キャスターを見たあと、改めて自分を見つめて言った。

 

「我が真名はアルトリア・ペンドラゴン。

 聖杯戦争優勝者、岸波白野。貴方の協力を仰ぎたく思い、ここに参上しました。

 争いを食い止める。そのために、私と共に戦って欲しい」

 

 

 ◆

 

 


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