八幡の武偵生活   作:NowHunt

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お久しぶりです。まだ就活は続いてますが、内定一社は取れました。少し落ち着いたので投稿します
最近はライズ楽しんでます。マガイマガドの紫玉が全然落ちなくて辛い。逆鱗3つと交換してくれないかなぁ





総武高校編⑨ マイナスとマイナスをかけるとプラスになるのは数学だけ

 レキをどうにか落ち着かせ、用意された椅子に座る俺たちと猛妹。

 さっきのスーツの女性が持ってきた椅子も高級感というか、純金を使ってそうな雰囲気の椅子だ。フカフカしていて普通に気持ちいいのが悔しい。あー、ダメだわ。このまま寝れる。いや、寝ないけど。

 

 それぞれの位置は俺の隣にレキ、テーブルを挟んで真正面に猛妹。ドリンクを持ってきてくれたので口を付けようと……毒とか入ってないよな? 敵地で飲食するのはやはり危険があり、どこか引ける気持ちがあるのでまだ飲まないようにしよう。

 

 さてと、今からどう話を進め……る…………か。

 

「んふふっ~」

「――――ッ」

 

 ……怖い。ひたすらに怖い。針のむしろとは、なるほどこのことかと実感する。

 

 猛妹はとても嬉しそうにニコニコとした笑顔で俺を見つめ、対するレキは珍しく殺気を隠さず、その身から迸る殺意を込めて猛妹を睨んでいる。睨むよりかはガンを飛ばすという表現が似合いそうだ。瞳孔開いてますよ……。ふぇぇ……この場にいる女子が怖いよぉ……。

 

「……レキ、ちょっとはその殺気引っ込めろ。話進まねぇから殺そうとするな。つか、そうそう簡単には、コイツ殺せねぇぞ」

 

 このままじゃ話できないし、宥めようと近付き耳打ちでそう伝える。手にはまだドラグノフを離さず臨戦態勢なの怖すぎなんですが。ここで下手に事件起こすの不味いって分かって? 武偵だけど、今は総武高の生徒なんだから。

 

「殺そうと思えば容易に殺せます。ですが、問題はその中間がないことです。……コイツどうしましょうか」

 

 どっかで聞いたことのあるセリフだなぁ!? なに、お前人類最強なの? あながち間違いじゃなさそうだけど。諫山先生、お疲れ様でした!!

 

「ねぇねぇ八幡、私に訊きたいことあるでしょ?」

 

 そんなレキなど気にしていないのか我関せずと話を切り出す猛妹さんの度胸がスゴい。神経図太いな……。目の前の女子が見えてないんですかねぇ?

 

 とりあえず話をしないと始まらないなと判断し、この上なく面倒くさそうにため息をつき、仕方なしに質問をする。

 

「訊きたいことなんざ色々とあるから、順番ずついくぞ」

「うんっ。時間はたっぷりあるからネ」

「まずそうだな……お前いつまで留置場にいたんだ?」

「んーっと、まだ出てから1ヶ月は経ってないヨ。お金沢山積んだから予定より早く出れたケド」

「他の姉妹は?」

「えーっと、まだのはずヨ。そろそろのはずだけど」

「お前だけ一足先に出てきたってことか」

 

 つまるところ、理子やジャンヌのような司法取引ではなく、ただただ俺にはできない選択肢を使ったんだな。さすが中国最大のヤクザの一員。資金力は文字通り桁違いというわけか。

 

「で、何しにここに来た?」

「モチロン八幡に会うためヨ。それとビジネスで日本に用事があるネ」

「ということは、石動組の取引相手ってのは藍幇か」

「正解」

「よしっ、レキ。手伝え。コイツ逮捕するぞ」

 

 さっさと捕まえて色々吐かせればそれで事件は解決だ。なんて簡潔な結論なんだろうか。

 

 銃を取り出し、レキもドラグノフを構えて立ち上がったところで、猛妹は慌てた様子で手を振る。

 

「ちょ、ちょっ! 八幡もレキも待つネ! 確かに石動組と商売してるケド、私は無関係!」

「あ? ここにいるのが何よりの証拠だろ」

「そうですね。捕まえちゃいましょう。私は逃げられないよう足撃ちますね。八幡さんは棍棒で戦闘不能にしてください。なんなら殺さない程度に撃ってもいいですよ」

 

 おぉ、いつもよりレキが活き活きしている。こんな積極的なレキは初めてかも……いや、わりとこういうパターンは多い気がする。俺がイ・ウーから帰ってきたときとか。今思い返せばレキに殺すつもりがなかったとはいえ、あんなに撃たれてよく生きているな。

 

「私は今回の商談に付いてきただけ。ちょーっとアドバイスしたけど」

「アドバイス?」

「千葉市周辺で取引してってお願いしたネ。実際、東京よりかは断然警察のマークも緩かったし」

 

 確かにそれは事実かもしれないが、猛妹の目の泳がせ方からして絶対にソレだけではないと判断できる。他にも理由あるよなぁ?

 

「理由は本当にソレだけか?」

「も、モチロンこれだけ……ハイ、白状します。そうすれば八幡呼べるかなーって下心はありました」

「正直でよろしい。ていうか、俺呼べる根拠は何だ?」

 

 俺はそこが疑問に思ったので、素直に訊ねる。武偵だけで言うなら、当然フリーの奴がいるはずだ。

 猛妹は「ウーン」と首を傾げてから順序立てて説明する。

 

「あくまで可能性があるって話で、千葉市――特に総武高校周辺で事を荒立てれば、捜査に武偵が派遣される。警察は介入しにくいしネ。依頼するなら、学生の武偵にするはず。総武高校は偏差値が高い。でも、武偵は基本バカが多い。八幡は武偵高校の中ではかなり頭が良い方。それに千葉出身だし、動きやすい八幡が派遣されるかな~と」

「……随分考えてるな」

 

 口では平然とそう言うが、内心微妙に焦っている。わりと俺の情報筒抜けだなぁと。ったく、プライバシーはどこへ行ったのやら。別に隠してはいないが、それでも納得いかない部分がある。

 

「というより、そんな面倒なことしなくても直接来ればいいじゃねぇか。俺とレキと理子と遠山と神崎が総出で出迎えしてやるぞ」

「戦う気しかない面子ヨ……」

 

 思いの外呆れる猛妹に対し、俺は当たり前の反応だと思う。そりゃもう戦闘するしか能がない奴らなんで?

 

「ま、今回はビジネスついでに八幡と会えるかなって考えただけヨ。他に質問はアル?」

「あー……今回のそのビジネスとやらについて詳しく訊きたいが、教えてくれるか? 俺らが捜査してんの知ってるだろ」

「残念。それは教えることできないネ。私が担当しているわけじゃないし、八幡に教えちゃったら、私怒られるネ。……あ、モチロン八幡たちが藍幇に入ってくれるなら全部教えるケド?」

 

 これは予想通りの回答だ。さすがにそこまで甘やかしてはくれないか。最後の文言はあえてスルーする。イチイチ反応してたらキリがなさすぎる。それにしても、懲りないな。何回断ったと思っている。

 

 

 ――――とりあえず一度情報をまとめよう。

 

 石動組は何かクーデターか何かは知らないが、かなり大きいことを仕出かそうと藍幇から違法の武器やヤクを密輸して、購入している。それが何かは一先ず置いておく。俺からしたら、重要な情報とは思えないし、そこは警察が調べる事柄だろう。

 

 で、その事件を警察が調べていくと、総武高校が関わっていると判明した。どう関わっているのかは、その時点では分かっていない。で、警察では高校を詳しく調べることは厳しく、下手に動いたら警戒心を与えてしまうので、武偵に潜入捜査をしてくれと依頼した。そこから、俺とレキ――チーム・サリフが派遣され、調査に挑んだ。

 

 学校内に石動組と関わる人物がいるはずということもあり、最初の2週間は目立った行動はせず、大人しく過ごした。そこから今にかけてある程度の情報は見付けた。まだ完全な証拠とはならないが、事件の概要が見えてきた。それがついさっきの放課後。

 

 …………で、問題は今だ。いきなり藍幇の一員である猛妹が絡んできた。コイツの言うことが正しいなら、猛妹は今回の商売には大して首を突っ込んでいない。しかし、情報を持っているのは事実だろう。まぁ、もし捕まえるにしても何か簡単な罪状がないと、さすがに俺らが不利になる。

 

 まぁ、猛妹が絡んできた理由の大半は不本意ながら俺に会いたいからだろう。……自分で言ってて恥ずかしくなる。あぁもう、顔が紅くなりそうだ。

 

 だから、今のところ結論付けるなら、猛妹の行動にさほど意味はない。俺らに何かプラスになる情報は与えないだろう。何て言うか……ホントに喋りにきただけなんたろうなぁ。口を滑らせてくれる相手でもないし、これ以上は問い詰めても時間のムダになるだけだ。

 

 

「はぁ…………」

 

 ドッと疲れが押し寄せた感じがして、大きいため息をつく。

 

「八幡さん?」

「一旦は戦闘はしない方向で。ここでする意味はない。したところで、俺らにメリットはない。証拠もないから逮捕できねぇしな。その、なんだ、私怨があるなら止めないが」

「……分かりました。八幡さんの指示に従いましょう。別にいつでも殺れますので心配いりません」

 

 何そのキリッとした口調は。

 

「いや、その辺の心配してないけど。まぁ、好きにして」

「あれ、私暗殺されるの?」

「知らね」

 

 投げやりに答えて一旦話を打ち切る。これ以上考えるのは面倒だ。

 ……しかし、それはそれとして腹減ったな。晩飯食う前に拉致られたし。加えて、俺らが話している間にも料理は徐々に運ばれていた。目の前に豪勢な料理あるから手を伸ばしたいが、もし毒……とまではいかなくても筋弛緩剤やらあった場合、危険だしな。レキもさすがに毒物を見極めることはできないだろう。ぶっちゃけ俺も毒についての知識は少ない。

 

「八幡、食べないの?」

「敵地で安易に食うバカはいねぇよ」

「そう? 毒なんて仕込まないヨ。第一私も食べるし。ここのシェフの料理、美味しいのに」

「……帰ったら飯作るし別にいい。またプライベートで食いに行くわ」

 

 正直にぶっちゃけると、腹も減ってるし食べたいけど。ここは我慢しないとな。

 

「ふーん。私も八幡の料理食べてみたいネ。セーラは食べたことあるんでしょ?」

「あー、作ったことはある。つっても、簡単なやつだぞ。こんな豪華なやつと比べられても困るわ。よく知ってるな」

「教えてくれた。同じ眷属だし」

「ほーん。そういやアイツもそうか。主戦派は軒並み眷属だったな」

「藍幇に入るかは別として、眷属に入るつもりはナイ? 無所属でしょ?」

「ない。こちとら周りが師団ばかりだぞ。無所属から眷属になったら真っ先に狙われるっての。普通にムリ。そもそも俺らはあんな奴らと関わりたくない」

 

 だって、眷属になったら遠山と神崎が敵になるんだぞ。あの2人相手とかどう考えてもムリゲーすぎるだろ。シャーロックすら倒す化け物たちだと分かっているのか。それに、毎度の如くヒルダのような強敵と戦ってられない。普通に死ぬ。

 

 とはいえだ、もし遠山と神崎らと戦うなら俺は逃げに徹してレキの射程で戦わないと勝つのは厳しいだろう。あの2人と真正面からぶつかるのはやはりムリがある。逃げに徹してレキのサポートをする方が建設的だ。

 もし俺だけの場合……どう戦う? 遠山がHSSでないなら勝てる可能性はあるが、遠山は遠山で戦闘民族の家系だからな。普通の状態でも意味不明な技を繰り出してくるだろう。そこに神崎が加わるならば、さらに勝ち目は薄くなる。あの2人――特に遠山は超能力に不得手だからそこを起点にすればいいが、神崎も色金の力を完全でないにしろ使える奴だ。それも難しい。近接も中距離もあちらが上。超能力も下手すりゃ厳しい。

 

 …………やっぱムリゲーじゃね? 武器の性能でアイツらを上回るくらいしないと。例えばショットガンとか。点ではなく面での攻撃であれば避けにくい攻撃になる。これならワンチャンどうにかなるかもしれない。いや、それでも勝てるかどうかは分からないし。常識に当てはめて考えるのはよくない。別に敵対することなんてないけど。

 

 と、少し億劫になっている間にも猛妹は話を続ける。

 

「残念。……そういえば、FEWの話続くけど、ヒルダに勝ったってホントなの?」

「それはマジ。初見殺ししまくって俺の完勝。……完勝? まぁ、完勝だよなあれ。次があったら通用しないだろうが。あのときはヒルダも俺のことについて知らなさすぎたしなぁ」

「……それでもスゴいネ。紫電の魔女を1人だけで倒すとか正直エグいヨ。レキはいなかったの?」

「はい、私は離れた場所で待機してました」

「どうして? 八幡と言えど、レキと組んだ方がもっと勝率上がったはずヨ」

「八幡さんのお願いです。1人だけで戦わせてほしいと」

 

 そこはまぁ、男の意地と言いますか。口にするのは恥ずかしいです。

 

「ふーん? 映像確認したいけど、あの日天気悪かったせいでないのが残念ヨ」

 

 そういえば、雷降ったくらいには荒れてたな。あれさえなければ、もうちょい楽に勝ててただろうに。あの姿……下手すりゃ、昔の時代だと無敵に近いと思うぞ。技術が発達した現在だから勝てたのであって、もし素手で戦うとかなったら……恐ろしい。

 

 そんなことを考えていると、隣にいるレキが無表情のまま口を開く。

 

「映像ならありますよ」

「ホント? レキ持ってるの?」

「待機している間、撮っていました。かなり離れていたので画質などは良くありませんが、一応は戦いの一部始終が映っています」

「ちょっと待て。俺初耳なんだが」

 

 マジ?

 

「言ってませんので」

「ねぇレキ、私欲しいネ。譲って」

「非売品です」

「ケチ~」

「というより、今はデータを持っていませんので渡しようがありません」

「えー。じゃあ、ムリヤリ奪うのもできないのネ」

「その前に眉間撃ち抜きますよ」

 

 2人の会話が不穏というより物騒なのでスルーすることにする。

 

「その前にレキを仕留めることくらいできるネ」

「本当にできますか? 私の隣にいる人が見えますよね。その人が適度に抑えてくれます。その間に仕留めることなど容易いです」

「おい、2人の争いに巻き込むな」

 

 あ、ツッコミしちゃった。しかし、ツッコミするのも仕方なかったってやつだ。だって、周りがボケ役しかいないもんで。バランス悪すぎだろ。

 

「ねーねー、八幡はどうやってヒルダに勝つことできたの?」

「銃やら超能力やら色々と使ったが、とりあえずは企業秘密だ。頑張って調べてくれ」

「つまんない答えネ。あ、色金の力使ったってホント?」

「さてな。つっても、別に俺が使えるのは知ってるだろ。ブラドやパトラに使ったんだからよ」

「でも、あれって確か無意識とかのはずヨ。もしヒルダに勝てたなら、意識飛ばさずに使わないと厳しいと思うネ」

 

 実際その通りと思うから何も言い返せないのがどうにも悲しい。ブラドに対しては勝ったのは漓漓だし、パトラに関しては撤退しただけだし、猛妹がそう判断するのは納得できる。

 

「となると……八幡はまだ完全ではないけど、少しは色金の力を自分の意思で使えるといったところ?」

「想像に任せる。お前の言う色金を使うってのがどの程度かは知らないんで、答えようがないってのが回答だ。ていうか、わりと詳しいな?」

「だって、色金使えるの藍幇にいるヨ」

 

 んん?

 

 コイツさらっと今何て言った?

 かなりとんでもない事実を口にしたよな。この言葉が真実なら、あの色金を使える生き物は、俺や神崎だけではなかったということになるのか。

 

「マジで?」

「本当ですか?」

 

 これにはレキも驚いたのか俺と同様に質問する。

 

「うん。これ以上は教えないヨ。知りたかったら藍幇に――」

「入らないから。……この問答何回繰り返すんだ?」

「八幡がイエスって言うまで」

「諦めろ」

「イヤ!」

「武偵がヤクザになれるわけねぇだろ」

「じゃあ武偵辞めればいい。自衛で人が殺し放題ヨ」

「余計にダメでしょうが!」

 

 いくら武偵になった俺がアホとはいえ、そんな倫理観が欠如した行動は取らない。本能よりも理性の方が勝っているはずだ。短絡的な思考は……よくするけど、さすがに犯罪はしない。リスクマネジメントはできている方だ。それを言うと、ヤクザと飯食っている状況がどうかと思うな。いやいや、これは仕事だ。そう自分に納得させることで事なきを得る。得てる?

 

 少し落ち着くために俺が持参していたお茶を飲み、猛妹は食べていた飯が一段落していたらしくナフキンで口を拭いている。そして、改めてこちらをあざとく覗き見してから話を始める。

 

「そういえば、八幡。あの話考えてくれた?」

「ん? どの?」

 

 思いきり話題が変わったの感じつつ、猛妹に返答を求める。

 何故か嫌な予感がする。ここに来てから嫌な予感しかしてないのは置いておこう。1つずつツッコミ入れてると、とにかく面倒だ。また藍幇に入れという話題か。

 

「言ったよネ。あれヨ――愛人にしてって話」

「……ッ」

 

 猛妹の何気ない発言に思わず息が詰まる。恐らく猛妹は別に悪意もなくただ興味本位で訊いていることは明白だ。しかし、俺の胸中は呑気にしている猛妹と違ってそんな穏やかではない。

 おまっ、おまっ……お前!! この場で何てこと言うんだ。ヤバいぞ。これはヤバい。めちゃくちゃヤバい。何がヤバいかって俺の隣にいる人の反応がヤバい。

 

「…………」

 

 ソーッと隣の様子を見る。

 

 

 

「――――――――チッ」

 

 

 

 あ、ダメだこれ。そう直感でそう思ってしまう時点でアウトだ。

 

 けっこうな勢いで舌打ちしているよこの子。しかも軽く瞳孔開いている。これはあれだ、セーラが部屋に来たとき、扉をC4爆破したあの場面よりキレてる。……少し覗いただけでめっっっちゃ苛ついているのが見て取れる。いやもうホント、ひたすら怖い。親に隠してた悪い点数のテストが見付かったあれよりも恐れを感じてしまう。

 あのー、レキさんや。あなた殺気だだ漏れですよ? 狙撃手でそれはどうかと思いますが……。近頃マジで感情豊かになっているねぇ。嬉しいよ……って、現実逃避している場合じゃない。なんなら、この場からリアルに逃避したい。実のところ色金の力に瞬間移動があるらしく、練習している。ほんのちょっとだけなら使えるが、今日は超能力が使えない日だからそれも叶わない悲しみ。

 

「レキ、怖いヨ。そんな殺気出さなくても、もちろんレキが本妻で大丈夫ネ。あくまで私は愛人のスタイルヨ」

「……なるほど、分かりました」

「お、ホント?」

「はい、今から貴女を殺します。痛くはしませんので安心してください」

 

 猛妹の期待の眼差しを裏切り(?)レキの殺気はより一層鋭くなる。無表情なら未だしも、若干笑顔なのが恐ろしい。あ、ドラグノフに手をかけた。

 

「八幡、レキ怖ーい!」

 

 と、猛妹はわざとらしくテーブルから身を乗り出し、俺に抱きつこうとしてきた。

 

「ふみゃ!」

「………………あっ」

「八幡、何するヨ!」

 

 …………ごめん、反射的に投げてしまった。

 座ったまま背負い投げできるとは俺もなかなか器用になったな。なんか可愛らしい奇声を上げて後ろに吹っ飛んだ。まぁ、普通に受け身取ってるけど。チャイナドレスのスリット部分がはだけて心臓に悪い。ドキドキする。

 

 

「――――」

 

 

 いやいや、それよりお前、この状況でよくそんな行動しようと思ったなぁ!?

 

 レキの怒りボルテージが上がりまくってるのが分からんのか! 見ろ、レキの眼光! 怒り状態のナルガクルガみたいだぞ!

 

「オッケー、落ち着けレキ。な?」

「では、足だけでも撃たせてください。手早く動脈撃つので」

「違う、そうじゃない」

「せめて眉間だけでも……良いですか?」

「ダメ」

「何故です? ……八幡さん、まさかこの女のことを守ろうと?」

「いや、武偵法の縛りあるだろ」

「その程度私の立場ならどうとでもなります」

「…………」

 

 これは――――もう無理だわ。

 

「……じゃあ、猛妹。そういうことで。今日はこれで失礼しまーす」

 

 これ以上この空間に留まると、誰かの血が流れるのは確定した。それが猛妹かレキかはたまた俺かは分からない。悪化しないうちに、いち早く退散しないといけない。俺の身がぶっちゃけもたない。今でさえ胃が痛いというのに。

 

 レキを羽交い締めしてズルズル引きずる。意外にも抵抗はしない。まぁ、ここまで密着してればさすがに俺の方が分があるしどうとでもなる。

 

「えー、八幡もう帰るの?」

 

 扉まで引きずった辺りで猛妹がそう声をかける。

 

「次からはもうちょい普通に呼べよ。んなことでいちいちヤクザ使うな。向こうも傍迷惑だろうが」

「ブーブー、残念ヨ」

 

 と、猛妹は不服そうに口を尖らせて言うが、半分以上猛妹の発言が原因ということを忘れてはならない。いい? 何か発言するときは考えてから言うもんだよ? 燃料にニトログリセリンを投下したら……うん、そりゃダメだろう。俺でも分かる。

 

「はいはい、またな」

 

 ぶっきらぼうにそれだけ言い残してレキを引きずる……のも疲れたので抱えることにひた。っていうか、これ完全にお姫様抱っこだ。レキはウルスで姫だったし、これは文字通りの意味になるな。なんて下らないことを思いつつもビルから脱出することに成功。

 

 

「あぁー……」

 

 ビルから出るまで息が詰まっていたから、ようやく安堵のため息を吐く。

 

 ……しんどっ。主に精神が。

 

「八幡さん」

「何?」

 

 お姫様抱っこをしているせいでレキが俺を見上げるから顔がとても近い。やっぱ端正な顔立ちだ――と思っている間にも、とりあえずはあの殺気が収まったことに安堵する。

 

「次、また、ということを言いましたが、次の機会はあるのでしょうか?」

 

 ……殺気はないが、そのジト目は止めてほしい。この距離でやられると逃げ場がなさすぎる。どうすればいいの? 教えて、偉い人!

 

「あれは言葉の綾と言うか……」

「分かりました。では次の機会があれば今度こそ仕留めます」

「止めようね? てか、そろそろ降ろすぞ」

「嫌です。このまま運んでください」

「キツいんだけど。特に腕が」

「私は軽いです」

「……このまま駅に行くと周りの視線が」

「互いに気配を消しましょう」

「ムリあるぞ?」

「では訓練も兼ねて」

「いやマジで降ろすぞ」

「…………」

「おい、無言で首に手をかけるな」

「…………」

「ったく、途中までな」

「はいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しかしまぁ、今回の話3人しかいないのに8500も書いてしまったな。もうちょい短く収めれば、早く投稿できたかもしれないのにねぇ。毎度のことながら配分が下手すぎる


昨日ReoNaさんのライブに行ったんですけど、やっぱ生はマジでいいよね。リアルに1年以上での対面ライブだったからめっちゃ楽しかった。オンラインライブもオンラインならではの楽しさがあるけど、やっぱ個人的には生が最高なんだよなぁ
しかもこの環境なので、全員座って騒がずに聞いたんだけど、ぶっちゃけReoNaさんのライブに関してはこれからもずっと座ってじっくり見たいレベルで良かった。もちろん、ReoNaさんにも騒げる曲はあるけど、それを差し引いても、何だかんだでバラード系の曲のが多いし。また座ってゆっくりとReoNaさんのお歌を聞きたいなぁ……って思うくらい良かった!!

次はLotusも聞きたい!FCライブ当選しますように……!



…………そして、早くLiSAさんにも会いたい




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