八幡の武偵生活   作:NowHunt

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総武高校編⑫ 自分より優秀な人物が周りにいると、基本的に任せたい

「八幡さん」

「どした」

「空は快適ですね」

「さよかい」

「私も飛びたいです」

 

 全速力で飛びながら話しかけてくるもんだから集中途切れそうで怖い。神崎助けたときほどのスピードは出てないにしてもだ。それでも、少しでもミスれば地面に激突するかどこかの建物に一直線だから神経使うんだよ。

 

「材木座か平賀さん辺りに何か作ってもらえば? スナイパーが空飛ぶとかそれどうなんって話だけど。目立ちまくりだろ」

「それを言ってはおしまいです」

「お、おう」

 

 最近レキのキャラに付いていけなくなりそうです。

 

「ただ、やはり便利そうです。ビル間の移動や八幡さんの周りにウジ虫が現れた際にもう素早く移動ができます」

 

 ……なんだか風の音がうるさすぎて途中から聞き取れないなぁ。バサバサとうるさい音がするから聞こえないなぁ。いやホント、聞き取れなかったんですよ。ホントだよ? オレ、嘘つかない。

 

「……猛妹いつか殺す」

 

 あーあー! 聞こえなーい!

 

 

 

 

 

 そんなこんなで無事到着。あれをそんなこんなで片付けていいのかは置いといて……置かせて?

 

 場所は西池袋の鏡高組の豪邸。前に幕張で見た石動組の本拠地より幾分大きい。

 

「……ん?」

 

 その角付近、誰かいる。女1人、男が3人ほど。誰だろうかと思い、その付近へ降りる。なるべく目立たないようにゆっくりと。しかし――――

 

「あれ、誰なの?」

 

 女にはバレた。なんか一瞬で。音も気配も消したつもりなんだがな。このまま一旦退避するべきかと迷っていたら、俺らの方へと近付いてきた。あ、暗くて分かりにくかったけど、コイツ武偵高の制服着ている。同級生か下級生だろう。

 

「……って、あなた確かイレギュラーじゃん。なんでこんな大物がここにいるの?」

 

 明るい茶髪のショート系女子に話しかけられる。って、ちょっと待て。そっちの恥ずかしい名前知っているってことはお前アッチの界隈の人だな?

 

 警戒して銃を取り出そうとするが。

 

「違うって。敵じゃないよ。お兄ちゃんの妹」

「お兄ちゃん?」

「うん、遠山キンジの妹、遠山かなめでーす!」

 

 元気良く挨拶する自称・遠山の妹。

 え、なにコイツめっちゃ怪しい。遠山には兄(姉)しかいなかったはずだと記憶しているが。金一さん(カナ)からも他に妹がいると聞いた覚えはない。もしいたら、カナなら絶対と言っていいほど自慢するだろう。って、捜査始めてしばらくしたとき遠山から連絡来たときがあったな。

 

「そういや、この前妹を名乗る不審者が現れたって遠山言ってたな」

「不審者じゃないよー。歴とした妹ですー。ちゃんと血縁関係あるからね!」

「……隠し子的なあれか」

「うーん。まぁ、似たようなものかな」

 

 説明が面倒なのか思案顔になりつつも詳しくは教えてくれなさそうな雰囲気を醸し出す。

 

「詳しくは本人に聞くとするか。んじゃ、改めて比企谷だ。よろしくな、遠山妹」

「……今の、もう一度」

「あ? よろしくな?」

「そのあと」

「……遠山妹?」

「その呼び方……いい。めっちゃいいよ……ハァ」

 

 なんか頬が紅く染まっており、恍惚とした表情になっている。  

 え、なにこの子怖い。顔赤らめているけど、もしかしてこんな野外で興奮しているのか。えぇ……。怖い、ホント怖い。遠山妹、どこか星伽さんと同じ匂いがする。同類なのかそうなのか。遠山の周りには色物ばかり集まっている気がするなぁ。

 

「まぁ、お前が遠山の妹かどうかはいいとして、そもそも何者だ? どうも一般人じゃなさそうだな」

「妹なんだけどなぁ。ま、簡単に言うなら、戦役参加者だよ」

 

 あ、やっぱり?

 そりゃ俺の恥ずかしい二つ名知っているよね。

 

「どこ所属だ」

「ジーサードって分かる?」

「あぁ、あの戦闘狂みたいな奴か」

「間違ってはないけどね……。今は色々あってジーサードからは離れてお兄ちゃんの妹やってます!」

「あっはい。そうですか」

 

 深く関わるのは面倒そうだが、妹に悪い奴はいない。今はその認識でいこう。

 

「ところで、イレギュラーは」

「それで呼ぶな。恥ずかしいだろ」

「はーい。うーんっと、比企谷さんはどうしてここに?」

「それは俺のセリフだが……今調べてる事件流れだな。ここに用がある」

「ほーほー。……あ、私この人たち病院に運ぶから急がないと。またねー」

 

 とだけ言い残し、ダッシュでその場を去っていった。絶対、これ俺と話すの面倒になったよね? 受け答え雑なんだよね。別にいいけど。怪我人いるのは本当みたいだし。

 しかしまぁ、遠山妹が介抱していた奴らは誰だったんだ。ヤクザ? それとも遠山の関係者? あれ、てことはここに遠山いるのか?

 

「悪い、レキ。待たせた」

「大丈夫です。では、突入しましょう」

「だな」

 

 

 

 

 豪邸に突入し、どうやら騒ぎの中心であるホールへ移動する。

 

「うらっ!」

 

 またもや扉を蹴破り突入。……くっ、今回は壊れなかったか。

 

「おっとっと」

 

 中に突入したはいいが、そこにはヤクザと思わしき人物が軽く50は越えている。おぉ、とてもこちらを睨んでくる。というか、いきなり誰? って反応ばかりでフリーズしているに近い。

 

 なにこれめんどくせっ。しかもちゃっかり武装している奴もいる。あれ、だったら石動組必要ないんじゃね? と思ったが、銃を持っているのは一部だけだ。全員が全員ってわけじゃないのな。そのわりにはショットガンやら短機関銃やら持っているんだけど……。

 

「――――」 

 

 にしても、違和感がある。コイツらが所持している銃だ。何と言うか、ついさっきも見たような銃ばかりなんだよなぁ。さすがにショットガンやらはなかったけどなぁ。それでも、だいたいは察しちゃうよなぁ。完全にマッチポンプじゃねーか!

 

「はぁ……」

 

 まぁいいや。とりあえずはコイツらがクーデター起こした反抗勢力ってところだろう。ということは近くに組長の勢力がいるはずだ。ソイツらは一体どこ……に……。

 

「…………何してんの、遠山」

 

 なんか縛られている振りをしている遠山がいる。その近くに着物を着た金髪の女子と明らか一般人の女子がいる。一般人の方は遠山みたいに縛られている。こちらは振りではなくマジ。

 

 遠山妹がいたし、現場にいるとは思っていたが、マジで何しているんだか。

 

 事情分からないな。どうすればいいのやら……。まぁ、ヤクザたちを制圧するのには変わりない。

 

「比企谷!? それにレキまで」

「おい兄貴、コイツら殺していいのか」

 

 あ? なんか誰もいないところから声したんだけど。センサーの範囲外だったから気付かなかったぞ。聞き覚えのある声だけど、誰だろ。そう思っていたら、その場から透明マントみたいなのを剥がした男が出てきた。

 

 とりあえず近寄ってみたら、その人物を見た俺はその風貌に驚く。

 

「遠山じゃねーか。お前いつの間に影分身会得したの?」

 

 格好は派手な特攻服を着ているが、顔とか背丈とか遠山そっくりだ。真っ先に思い付くのが双子とかじゃなくてドッペルゲンガーとか影分身辺りなのどうかと思うけど、遠山だからね仕方ないね。

 

「あー? お、マジか。お前イレギュラーか。なかなかの大物がこんなとこでお出ましじゃねーか!」

「え、誰? 遠山じゃないの?」

「違うに決まっているだろ。ソイツはジーサード。俺の……弟だ」

 

 ジーサード? 遠山妹の言っていた奴が……コイツなのか。宣戦会議のときは仮面をしていて分からなかったな。弟にしては顔似すぎだろ。もうこれ双子レベルじゃん。

 

「つか、弟って……妹に引き続き弟ときたか」

「かなめと会ったのか?」

「まぁな。とりあえずお前はその女子2人下げろよ。明らかジャマだろ」

「ああ」

 

 縛られている振りは止めて外へ女子を逃がす遠山。遠山が逃がすまでにジーサードが金髪女子の着物を脱がす一悶着があったのは何だったんだろう。完全に蚊帳の外でした。

 その間、ようやく俺らが登場してポカンとしていたヤクザが騒ぎ立て始めるが、そんなの気にせず俺はジーサードと会話をする。

 

「で、ジーサードって強いの?」

「兄貴の次に強いぜ」

「納得。そりゃ強いな」

「イレギュラーは超能力が特に強いと聞いたぜ。見せてくれよ」

「ごめん、わりと今ガス欠」

「チェー。つまんねーな」

「しゃーねーだろ。千葉からここまで瞬間移動してきたんだから」

「…………ジョークか?」

 

 普通に会話していたところ、ようやくジーサードの反応が変わった。目が点になったような顔付きだ。俺はとぼけながら答える。

 

「さて、どうだろうな」

「色金使えるんだったな。あながちジョークじゃなさそうだが」

 

 と、こんな会話を続けている間にも俺とジーサードは動きまくってこの場を制圧している最中だ。日常会話をしつつ敵を殴ったり、撃ったりする。なんかこの程度ならおかしいと思わなくなってきた自分に少し嫌気がさす。毒されてるなぁ、俺。

 

「よっと」

 

 3分割しているヴァイスを2つだけくっ付け警棒扱いにしてぶん殴り、ファイブセブンで相手の銃――特にショットガンや短機関銃を中心に無力化している。ジーサードも同様、いや全然同様じゃないな。コイツはなぜか素手でバカスカ殴っている。

 

 ……いや、お前銃持ってるじゃん。それ使えよ。どんだけ原始的なんだよ。

 

「――――ッ」

「あ、当たらねぇ……ウッ」

 

 俺に狙いを定めて撃ってきたヤクザ1人を殴って仕留める。銃弾は冷静にかわして。

 

 向こうから撃たれても拳銃相手ならだいたいは避けれる。基本的に銃弾は直線で飛ぶから、避けれる奴はとことん避ける。銃を使う視線と銃口の向き、相手の筋肉や指の動き、それらを注視すれば予測はできる。

 俺は動体視力はかなり高い方だから、素人相手ならまず当たらない。ヤクザを素人と言っていいのかはさておき。これがマシンガンやショットガン相手ならまず無理です。余裕で死ぬ。

 

 しかし、ジーサードは明らか当たるタイミングで撃たれているのに全然当たってない。気付けば相手が撃った銃弾で相手の銃を壊している。……あぁ、これ銃弾を指で挟んで跳ね返しているのか。……いやごめん、理屈は分かっても実行できるのはおかしくない?

 

「……」

 

 ああそっか。遠山の血縁ということはHSS使えるのか。それなら、ギリギリ納得できる。……できる? やっぱできない。できるわけないだろ。人間止めてね、コイツも。さすが遠山の弟。

 

 そうこうしている間にもレキが後ろから狙撃して何人か気絶させている。時には武装を破壊したりと、頼りになる。ただ、ドラグノフの弾数そこまで多くないし、メインは俺らでしないといけない。

 

 さて、次はどこから攻めるか――そう少し立ち止まったところで、突如として外から、というか空中からどうも聞き慣れた音がする。

 

 

 ――――バリバリバリ――ッ!!

 

 

 うわぁ、ガバの連射音だぁ。空中からの連射でヤクザの武器どんどん破壊している。ということは、つまり空中にいる人物はもう確定した。

 

「バカキンジ! あんたまた余所で女作って!」

 

 予想通り、既に怒り浸透の神崎アリアの登場だ。ていうか、空飛んでるんだけど!? なんで飛べるんだろう。いや、俺も飛べるけども。うーん、不思議だ。超能力じゃなさそうだし、てことは何かしらの兵器を使っているのか。

 

 そもそも無関係の神崎がどうしてここにいるのかと思ったけど、遠山辺りが呼んだのだろう。それか俺の知らない第三者が通報して、神崎が派遣されたか、そのどちらかだろうな。

 

「って、八幡? それにジーサードも!? キンジ、どうなっているの?」

 

 神崎は遅れて戻ってきたHSSになっている遠山に疑問を投げつける。さっきの着物云々でなったのかな。かわいそうだから現場見てないけど。

 

「比企谷はよく分からないけど、ジーサードは味方だよ」

「よく分からないってなんだ」

「いや、実際どうしてここに来たんだ?」

「レキ含め今捜査してた事件繋がりで」

「あらレキもいるじゃない。元気?」

「元気です。アリアさん、こんばんは」

 

 

 うーん、マイペースだなぁ。ここヤクザの本拠地ですよ? とまぁ、ここで、今の戦力の確認をしてみよう。

 

 こちらサイド。遠山(現在HSS)、ジーサード(遠山と同程度の強さに加えて恐らく現在HSS)、神崎(Sランク)、レキ(Sランク)、おまけに俺。この面子に混ざると、めっちゃおまけ感が強くて悲しい。俺いらなくね? 絶対いらないよね。まぁいいや。

 

 対して敵はまともに動ける奴らは40程度。俺とジーサードと神崎が色々撃ったり殴ったりして武装解除している奴らも多数。

 

 これお相手無理ゲーでは?

 

 

「さてっと、さっさと終わらせちゃいましょうか。あたしフロント張るわ」

「俺も前で暴れたいな。兄貴は?」

「お前らが前なら俺は後ろから全体的な援護かな。菊代や萌のことも気になるしね」

「……レキと一緒にサボっていい?」

「いいわけないでしょ! 八幡も働きなさい! 八幡は中衛ね。レキもキンジと一緒で後ろから狙撃で援護」

「了解です」

 

 こんなに面子揃っているなら、別に俺必要ないだろとひしひしと感じる。正直ここまででわりと疲れたから任せたい気持ちが強い。さっきまではジーサードと適当にお喋りしながら戦ってたけど、神崎来たならそれこそアイツらに任せた方が効率的だ。そう、効率的なんだ。別に決して働きたくないわけではなく、俺は全体的な効率や役割分担を考えて物事を言っているわけで――――

 

「行くわよ! って、キンジのベレ盗られてるじゃない! このスカポンタン!」

 

 ああはい、ダメですかそうですか。あとその表現今日日聞かねぇな?

 

 

 

 

 

 はいものの数分で終わり。結果? 聞かなくてもいいでしょ。神崎とジーサードが暴れて出番なかったって。やっぱサボっても良かったと思う。俺なんて2人が制圧した相手を拘束しただけだぞ。マジで帰りてぇわ。

 途中、遠山が保護していた女子2人が戻ってきて一悶着あったが、まぁそれはどうでもいい。遠山が撃たれた銃弾を素手で掴んだ程度で終わったし。……俺は突っ込まないからな!

 

 

 とまぁ、そんなこんなで反抗したヤクザは全員拘束は終えたが、一件落着というわけにはいかない。なぜなら、まだ厄介な問題が残っているからだ。そこに関しては、俺を含めこの場にいる全員が理解している。

 

「いるな」

「あぁ」

 

 遠山とジーサードが屋根の方を見上げ、言うように今回の黒幕――とでも言うべき奴らが残っている。神崎は一般人であろう女子2人を避難させようとする動きだ。

 

「とりあえずレキも神崎についてけ」

「……大丈夫でしょうか?」

「立派な盾が2人もいるからどうにかなる」

「おいこら比企谷」

 

 だって、遠山に攻撃当てても基本効かないし、色々防ぐじゃん。同程度の力を持っているジーサードも同様だ。

 

「ついでに坂田さんに連絡よろしく」

「分かりました」

 

 レキは神崎に付いていき、この場を離脱する。

 

「イレギュラーは上にいる奴ら検討ついてるのか?」

「大方はな。あと比企谷と呼べ」

「へいへい」

「それで、比企谷。コイツら誰なんだ?」

「行けば分かるだろ。つっても、遠山も知ってる連中だろうな」

 

 心底面倒そうにため息を吐く。それはもう三連休後の朝のような憂鬱さだ。今まで休みだったのに、急遽訪れる仕事や学校。そうう日に限って雨が酷く、余計にやる気が削がれるっていうね。憂鬱って読めるけど、書けない。うん、どうでもいいか。

 

 要するに今回上にいる奴らは鏡高組を裏で引いていた奴らだ。鏡高組の事情はそこまで詳しくないが、もうぶっちゃけ察している。どうせアイツらだよ。ぶっちゃけ会うのはめんどくさい。なんならしばらくは顔を見たくないまである。いやホント、疲れるんすよ。相手するのに。

 

「ハァ……」

「おい、どうした。イレ……じゃなかったか。比企谷八幡、そんなデカいため息吐いて」

「ちょっと億劫になったからお前らに任せたい。もう俺は充分働いたんだよ」

「あぁ~……。比企谷の反応からして俺も何となく分かった気がする」

 

 と、話しつつ屋根へと移動する。

 

 よっこいせと屋根へと上がったら、3人ほど俺らを待ち構えている。その中でも2人は見覚えがある。まず1人は――――

 

 

「ココ……?」

 

 遠山は眉を寄せたが、そう、新幹線ジャックを引き起こしたココだ。

 しかし、遠山が訝しむのも分かる。なぜなら、ソイツはメガネをかけているからだ。そんな奴はココにはいなかったはずだ。雰囲気的にも猛妹ではない。残り2人はまだシャバの空気を吸えていないはずだ。それらを考慮すると、今目の前にいるのは。

 

「4人目のココか」

 

 俺がそう結論付けると、遠山は少し驚いた反応を見せる。

 

「まさかの4つ子だったのか」

「ほーん。コイツらが兄貴と戦ったことのある組織ねぇ。藍幇か。その名前は俺でも知ってるくらいデカい組織だな」

 

 ジーサードが悪態をつくと同時にココの隣にいる人物が声を上げる。

 

「再会を心よりお慶び申し上げます。遠山キンジさん、ジーサードさん、比企谷八幡さん」

「俺は会いたくなかったけどな!」

 

 おっといけね、つい本音が。

 

 で、ココの隣にいたのは藍幇のお偉いさん……どこまで偉いのかは知らないが、諸葛だ。丸メガネをかけ、やたら豪勢な刺繍が入った中国の民族衣装を着ている。どの時代のものなのかは俺には判別つかない。

 

「これはこれは……厳しいお言葉を」

「そう思うならなぁ、お前マジで手綱握っとけ。前にも言ったよな?」

 

 あのあと大変だったんだぞ。主にお姫様のご機嫌取りに!

 

「えぇ、その事に関してはこちらの不手際です。しかし、いっそのこと受け入れたらどうです? きっと役に立ちますよ」

「その前に周りが血の海になること確定なんだよなぁ」

 

 俺はそうしみじみと呟く。あの2人は性格やら趣味やら色々含めて、そもそも根本的に合わなさそうだ。水と油のように、同担拒否するオタク同士のように。これ言い得て妙では?

 

「比企谷、何があったんだ……いや、聞かないでおく」

「大丈夫だ、いずれ遠山も同じ道を辿ることになる」

 

 遠山とぼやきながらも諸葛の隣にいる人物を見張る。

 

 ストレートな黒髪を足まで伸ばしてある女子。背丈はセーラよりやや低い。なぜか名古屋武偵女子高の丈が短い制服を着ている。なんていうか、制服というよりある意味水着に近い制服だ。覆っている布面積的に。

 

 そして、常に見開いている紅い瞳には表情がない。レキとは違う……もっと、違うナニカだ。

 

「――――ッ」

 

 この人物から放たれる雰囲気は似ている。ブラドやヒルダといったそういった仮生の類いに。というか、尻尾生えているし、人間ではまずないだろう。しかし、何だ、ヒルダたちともどこか違う。

 

 まず挙げられるのが不明瞭であり無機質な瞳。あれは……既視感がある。こういった雰囲気の相手はどこかと遭遇した記憶がある。誰だ――――そう記憶の海を探っていると。

 

「そこガキンちょが藍幇の代表か。FEWの」

 

 ジーサードがソイツを仕留めようと前に出る。

 

「待て、ジーサード」

「アァ? 止めるなよ比企谷。俺は無所属から師団に移ったんだ。戦う理由ならあるぜ」

「違う、お前死ぬぞ」

「は?」

「あれはそういう存在――――ッ。そうか!」

 

 思い出した。漓漓神! アイツと話したときの雰囲気と似ているんだ。全てを見通すかのごとき眼。あの感覚と一致する。正確に言えばちゃんとした姿を見せてくれたわけではないが。そして、猛妹は色金の力を使える奴が藍幇にいると言っていた。つまり、目の前の人物は――――

 

「……超々能力者(ハイパー・ステルス)。それも、俺よりずっと上の」

 

 下手すればそれだけじゃない。もしかしたら、話に聞いていたあのときの神崎よりも厄介な相手だ。

 

「なっ……!?」

「おいおいマジかよ……」

 

 俺の一言に遠山もジーサードも絶句する。

 

 すると、目の前の少女の周りに金色の粒状の光が現れた。その粒は倍々方式で増えていく。その粒は次第に無数になり、少女の頭上に金色の輪を作り始めた。これは……先ほど瞬間移動を使うときの現象と酷似している。

 

 おいおいおいおい、マジか、色金の力を使うのか。やるんだな、今ここで!?

 

「不味い、猴、鎮まりたまえ!」

 

 ん? 遠山から玉藻の声がしたぞ? 通信機器でも使っているのか?

 

 って今はどうでもいい。そんな疑問は後でだ!

 

「――――ッ!」

 

 金色の輪が完成する直前、咄嗟に屋根にある瓦を足で踏みつける要領で何枚か破壊する。そのときに出た砂ぼこりを烈風でばら蒔く。少女の視界を遮る。予想が正しければ、少女が使おうとしている力はあれだ!

 

「うおっ!」

「ちょ……!」

 

 烈風で土煙を作ったときと同時に俺は最後の力を振り絞り烈風を使い、遠山とジーサードを屋根から落とす。と、同時に紅い光は最高潮に達する。その場が紅く、紅く紅く輝く――――!

 

「ぐっ……!」

「ジーサード!」

 

 屋根から落ちる直前、遠山が力任せに叫ぶ。クッソが、少女から放たれたレーザービームは避けきれなかった。紅い光はジーサードの肩を貫いた。だが、もしあのままだったら、心臓か肺がヤられていた。不幸中の幸いってところか。

 

 

「…………」

 

 視線からしてジーサードが狙われているのは分かっていた。喧嘩売ったのアイツだしな。ただ、俺が狙われなくて良かったと安堵する。俺が狙われていたら正直なところ防ぐ術はなかった。屋根から落としたジーサードは遠山に任せるとして、ここからどう動くべきか。

 

 視界を防ごうと思って作った土煙の量は、どうやらというか、圧倒的に足りなかったみたいだ。ふっつーに易々と狙われた。閃光弾か発煙筒があれば良かったが、今は所持していない。もし次弾を撃たれたら俺は為す術もなく倒れてしまう。

 

 しかし、そうはならないはずだ。

 

 まだ少女の眼は紅く輝いているが、あれはブラフだろう。レーザービームは一度撃ったら、次を撃てるようになるまで最低でも1日かかる代物だ。自分の意思でレーザービームを使えるようになってからその辺りの実験は済ませてある。まぁ、今の俺はどんな状態でも撃ったら、まず気絶するんだけどな。

 もちろん、それが全員に当てはまるとは思えないが、間髪入れずに何回も撃つなんていくら俺より優れている超々能力者だろうとできないはずだ。

 

 それはレーザービームに限った話であって、それ以外の力なら分からない。普通に俺の知らない力を使ってくる可能性だって当然ある話なわけで。

 

「……さて」

 

 今から劇的に何かできることなんてないし、突貫でもするか。あのココは武器を持っていない。猛妹のように近接ができるようにも見えない。恐らく寄れば倒せる。諸葛は得体がしれないが、そこはなるようになれ。まずココを倒してから少女を仕留める。

 

 あまり勝算は薄いように感じたが、軽く自棄になりさっさと行くぞ――――と走り出そうとしたが……あれ、なんかココも諸葛も慌てふためいている。明らか想定外といった表情と仕草だ。何か2人して喚いているが、中国語なので聞き取れない。

 

 え、どしたの。もしかしてさっきの少女の独断専行? それとも制御できてない感じ? えーっと……これはどう動くべきだ。相手の事情は気にせず、今のうちに仕留めるか。それとも、様子を見るべきかと一瞬悩んでいたら、諸葛が動いた。

 

 あ、なんか諸葛が少女の頭に何かをかざしたら少女が気絶した。何したんだ。スタンガンってわけでもなさそうだが。描写を見るに超能力者を抑える道具のような物だろう。

 

「……おい諸葛」

 

 状況確認というか、状況が掴めていないというか、痺れを切らして一旦話しかける。

 

「申し訳ありません、比企谷さん。私たちは一旦下がります。遠山さん、ジーサードさんにも謝罪を言っておいてください」

「テメッ、こら待て!」

 

 あ、ちょっと……えぇ……。マジで撤退したよ。近くに車でもあったんだろうな。エンジンの音がする。逃げの算段はついているってわけか。今から追跡は厳しいか。超能力は正直さっき遠山とジーサードを助けたときで完全に使いきった。神崎なら……車相手では難しいな。

 

「比企谷!」

「悪い、逃がした。ジーサードは大丈夫か?」

「あ、あぁ……大丈夫だ」

「止血できてないんだから喋るな!」

 

 まぁ、こっちは遠山に任せて大丈夫だろう。玉藻もいるし。

 

 俺もその場を離れる。長居はしたくない。そもそもヤクザの抗争が起きたんだ。警察がわらわら来るだろう。大変そうな遠山たちには声をかけないでおく。神崎はどうやら追跡を開始していたが、さっきも思ったし完全には追跡しきれないだろうな。

 

 

 

 これ諸葛たちどこまで下がるんだ。もし中国やらに引き込もったら俺もう手の出しようがないんだが。別に俺は無所属だからそこは良いんだけど……こんなに武器密輸やらしたんだから、そこの後始末はどうするべきか迷うところだ。石動組側は証拠が出てきたが、藍幇側からしたら証拠なんてないし……。

 

 坂田さんたちと相談するか、と悩みつつ駅の方へ歩いていたら路地裏からレキがスッと出てきた。……おぉ、びっくりしたぁ。もうちょい普通に登場して?

 

「八幡さん、体の方は大丈夫ですか?」

「俺は全然。と言いたいが、ぶっちゃけ超能力使いすぎてダルい。めちゃくちゃダルい。……帰るまで面倒だな。電車で寝過ごしたら起こしてくれ」

「はい。明日で全て終わりますか?」

「だといいな」

 

 ――――まだこちらの事件は完全解決してないから、そこの情報も整理しないと。

 

 

 

 

 

 




ホントこいつ投稿ペース安定しないな

しかもまーた長くなったし……

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