八幡の武偵生活   作:NowHunt

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そうして彼らの日常は変化する

「リサ・アヴェ・デュ・アンクと申します。皆さま方、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 そう流暢な日本語で自己紹介をしてから綺麗な角度で彼女はお辞儀をする。前に見せたメイド服バージョンのレキのお辞儀とはかなり違う。堂の入った、かなり慣れている動きだ。1つ1つの動作が洗練されているので、見ていて自然と目を奪われる。

 

 そう後々感じるのだが、今の俺は顔がめっちゃ呆けている。ほへー、リサさんか。美人だなぁ。まさか遠山が現地メイドを引っ張ってくるとは思いもしなかった。なんてことしか考えていなかったからな。

 

 遠山が1ヶ月以上家を空けてから帰ってきたと思えば、その隣には美人がいた。いやマジでスゴい美人だわ。神崎たちは遠山を驚かそうと隠れていたが、逆に驚かされる結果となった。そして、それは俺も。まさか現地妻を連れてくるとは予想もしなかったことだ。

 

 自己紹介を受けつつ、遠山からざっくりとリサさんかこちらに来た経緯を聞いた。どうやらリサさんはメイド兼狼娘らしい。狼? まぁ、簡単に言うとブラドみたいに人間から獣の姿に変われると。ブラドほど特殊ではないらしい。いやまぁ、ゾオンみたいなことできる時点で特殊だよ? で、なんやかんやあって遠山が引き取ることになった……と。戦利品でくっ付いてきたとか正直意味分からないけども。

 

「…………」

 

 そこに関しては仕方ないと割りきることにした。遠山が意味不明なことなどいつものことである。いや別に、武偵高にヤクザ制圧で見かけた女子2人がいた時点でもう気にしないことにしていたんたが、メイドということは? まさかここに寝泊まりするつもり?

 

 そんな一抹の不安がよぎるので確認する。

 

「ちなみにリサさんはどこで寝泊まりするんだ?」

「まだ部屋とか契約してないから……比企谷には悪いが、しばらくここの予定だ」

 

 女性陣で盛り上がっている横で遠山の申し訳なさそうな声か耳に届く。まぁ、予想的中だ。もう驚きはしない。驚かない。えぇもう分かってたことだからな。

 

 しばらくここにリサさんが泊まるとは言え、別に俺がいても不自然なことではない。元々俺もこの部屋の家主なのだ。リサさんもそこに関して文句は言わないだろう。内心どう思っているかは分からないが、表には出さないはずだ。多分、きっと、メイビー。

 

 遠山やリサさんからしたら俺がここにいても問題ないかもしれない。というか、それが普通だろう。それでも、どうも気が進まない。神崎や星伽さんがここに泊まることはよくある。状況としては今とかなり似ている。そのようなときはレキの部屋に泊まったり、そのまま部屋で大人しく寝たりとどうするのかはぶっちゃけその日によって様々だ。銃声が聞こえたらすぐ逃げるけどな。……ほぼ毎回な気がするのは気のせい。気のせいだ、うん。

 

 しかし、これからのことを考えると、絶対コイツらイチャイチャするんだろうなぁ、という気がしてならない。リサさんたけではない。最近は遠山妹もこの部屋を自由に出入りしている。

 

 実のところ、あれから遠山妹とは妹トークでかなり会話が弾み思ってた以上に仲を深めたが、今はその話は関係ない。2時間くらい語って遠山や神崎からは引かれていたのは記憶に新しい。妹がヒロインのゲームもやたら詳しかったのには驚いた。めっちゃ趣味合う。

 

 話が逸れたが、要するに何が言いたいのか……それは、この部屋に入る女子がもう増えるわ増えるわ。

 

 前まで遠山の弟子の風魔か同じチームの神崎たち、もしくはレキくらいのもんだったが、それはもう過去の話である。なんかもう、やったらめったら増加している。正直に申し上げると、気まずい思いしかしてない。被害妄想が拡大しているだけの可能性もきっとあるが、「うわっ……コイツ邪魔だ」とでも言いたげな視線が飛んでくることもある。気のせいだよね?

 

「……よし」

 

 ここでしばらく住み込みのメイドさんが現れたことでようやく決心ができた。都合がいいので、もうこの部屋から離れよう。といっても、学園島のマンション辺りの部屋を借りるだけだがな。学校近いし。貯金もある程度貯まったので生活資金も大丈夫だ。部屋決めたら武藤に軽トラでも借りるか。

 

 今から不動産に連絡して、そこから契約……あ、今の部屋の解約とかどうなるんだ? 遠山と同室なんだが、その辺りの兼ね合いとか……調べることが多い。そうこう悩んでいると、ふと蒼色の髪が視界に入る。

 

「……ん」

 

 と、ここで1つのアイデア……とはバカらしいが、ある考えが思い付く。

 

「レキ」

 

 リサさんを中心にできているグループの中にポツンと佇んでいるレキに呼びかける。

 

「どうされました?」

「……お前、貯金どんくらいある?」

「? はぁ、貯金ですか。このくらいです」

 

 レキが持っていた携帯から計算された額を見るが……おぅ。

 

「…………スッゲぇ、これマジか」

「はい、マジです」

 

 表示された金額に文字通り俺は目を丸くしてしまう。

 

 予想よりも多かったんですがそれは。こんな桁初めて目にしたんだが。さすがSランクと呼ぶべきか。なんでこんなに平然と答えているんだろうかと甚だ疑問に思う。やはり彼女にとってこの金額は普通なのだろう。

 

「…………」

 

 常識から持っている金額まで違うレキを前に住む世界が違うなと不躾ながら思ってしまうが――――

 

「八幡さん」

 

 ……表情に出ていたのかレキにピシャリと釘を刺される。その一言で少しは落ち着きを取り戻してから話を続ける。

 

「2人でさ、どっか部屋借りね?」

「それはここを出ると?」

「そういうこと。つっても、だいぶ先の話になるけど」

 

 しばしの沈黙のあと、レキは口を開く。

 

「分かりました。では、物件が決まり次第連絡をください。こちらも部屋の解約など進めておきます。家賃諸々は折半と考えていいですよね?」

「そのつもり。そっちのが後腐れないだろ」

 

 本心を申し上げると、レキの財産なら俺の割り分少なめでも問題なさそうと思う。しかし、そういうことがあると関係性が悪化する可能性だってある。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものだ。

 

「えぇ、そうですね。……八幡さんと暮らす、ですか」

「前の総武高での延長線上みたいになるけど」

「それでも、楽しみです」

 

 ほんの少し笑みを浮かべるレキ。今までて見慣れていたはずだが、思わず見とれてしまった。それくらいこの提案にレキは好意的な感触を持っていてくれて、俺は俺で楽しみにしているということだろう。

 

「ところで八幡さん。先ほど後腐れとは言いましたが、それは誰がどれだけ多く払ったのかで不公平が生まれる、ということですか?」

「ん? まぁ、ざっくりそういうことだな。金のトラブルなんていくらでもあるわけだし。実際、任務でもそういう金の関係の内容とかわりと受けてきたことあるぞ。あぁいうのは怖いよな」

 

 借金取りとかそういうのしていると、ホント金になるとドロドロとした場面に出くわすことが多い。あぁいうのは精神的に疲れる

 

「しかし、いずれ私のお金は八幡さんのお金にもなるわけで……そんに気にしなくてもいいと思いますが」

「いやそんないくら何でもヒモみたいなことは…………うん? あれ、どゆこと?」

 

 レキの言葉の真意を読み取るのに時間がかかり思わず聞き返す。

 

「…………その、言葉通りの意味です」

「…………」

「…………」

 

 俺の間の抜けた問いにレキは頬を赤らめいつもよりも語気が弱くポツリと呟く。そこで俺はようやくその言葉を理解し、様々な者曰く腐った目がより気持ち悪くなっただろう。

 

 そして、しばし、2人の間に流れる静寂に身を置く。

 

 真っ赤になって照れるくらいならわざわざ言わなくてもいいのに……と心のどこかで思ってしまう。だって、こっちまで恥ずかしくなるし! にしても、随分、レキも大胆になったな。レキの自爆覚悟の特攻はめちゃくちゃ効果アリだ。

 

「…………えっと、また決まり次第連絡、ください。私が何かすることはありますか?」

「あー、別に大丈夫、かなぁ。また何かあったら伝えるわ」

 

 いつも以上にたどたどしくなる俺たち。とりあえずお互い平静を保ちつつもしばらく話し、レキとのざっくりした擦り合わせが終わってから俺は外に出る。

 

「どちらへ?」

「一色たちの稽古あるからちょっと学校行ってくるわ」

 

 別に空気に耐え切れず逃げるわけではない。ホントに用事があるのだ。邪推しないでほしい。

 

 

 

 

 

「……ふぅ、このくらいにしておくか。お疲れさん。体冷やすなよ」

「くっ、今日も勝てませんでした……」

「ハァハァ……八幡は後ろに目でも付いてるの?」

 

 部屋を出てから数時間、体育館の一角で一色と留美の稽古が終わった。疲れ果てている2人を横目に俺も一息をつく。

 

 2時間程度だが、動きっぱなしは普通に疲れる。途中休憩を挟んだにしろた。何だかんだで弟子2人も強くなっているからおいそれと気は抜けない。

 

 今日は近接武器での連携を中心に相手をした。俺が総武高へ出向く前はどちらかと言うと、射撃中心で練習を見ていたから、久しぶりにと近接連携とのことになった。

 

「ホント、先輩は視界外でも的確に手を出してきますよね。しかもかなり正確に。どうしてそんなピンポイントでできるんですか?」

「経験則ってところと、俺はわりと相手の動きを読むのは得意だからな。戦闘スタイルが基本的にはカウンタータイプだし。その発展ってところだ」

 

 俺が勝ったとはいえ、2人の実力も確実に伸びている。何度かこちらが危ない場面もあった。油断ならない。師匠として弟子たちには負けたくない気持ちはある。

 

 いくら意識してようが練習と実戦では力の入り方も全然違うものだ。今この場でヒルダなどといった強敵と戦ったときと同じ動きをしろと言われても正直な話ムリだからな。誰しもここ一番の非常に高い集中力は、練習ではなく本番でないと出せないと思う。

 

 そう思っている横で一色が呻く。

 

「そう簡単に動きを読めたら苦労しませんよー」

「つっても、今までわりかし教えてきたろ」

「八幡の言っていた相手の動きの読み方……目線、重心、呼吸だっけ?」

 

 留美の言葉に頷く。

 

「そうだな。まず目線。これは分かりやすい。一番読みやすい部類に入るだろう。相手の視線の先を見ればだいたいの動きは分かる。どこを狙っているかとかな。それを防ぐためにも、剣道で言うところの遠山の目付――――相手を全体的に俯瞰してもどうしても一瞬、これから狙う部分に目線が逸れることなんて俺でもよくある」

 

 汗を拭きながら解説する。一色も留美も互いにクールダウンしつつも俺の話を聞いてくれる。

 

 視線は雄弁。これは何事にもおいてだ。戦闘だと特に顕著である。わざと目線とは違う場所に攻撃しようと思えばある程度はできるだろうが、どんな猛者だろうと攻撃の精度は普段に比べ下がるはずだ。

 

「次に重心か。これもまぁ、わりかし分かりやすいか。相手の重心がどこにあるのか理解できれば動きの予測は立てやすい。近接戦闘だと特にな。素手でも武器アリでも攻撃するのにどうしても踏み込む動作が必要になる。どうしても踏み込みナシの攻撃とか威力全然ないし」

「でも八幡。例えば八幡の棍棒を動かず振り回すだけでも脅威だと思う」

「んなのすぐに離れれば済む話だろ。ボクシングのような狭いリングで戦うわけでもあるまいし。あと力任せの攻撃はわりと捌きやすい。力の差があっても力の流れが読めればどうにかなる」

 

 力任せの攻撃は基本的に直線だ。体も力むのでタイミングは図りやすい。やはり踏み込みがないとショボい攻撃になるだけだと思う。

 

「じゃあ、踏み込まずに強い攻撃を出そうと思えばどうするもんですかね?」

「んー、そうだな……」

 

 一色の問いに少し迷う。それはあまり考えたことがなかった。

 

 何かを投げるのにも武器を振るうのにも殴打や蹴りを行うのにも当然のことながら踏み込みという動作がいる。威力を付けようと思えばなおさら。そのワンテンポがあるから動きが読めるわけだ。それをしないで威力のある攻撃を繰り出すには…………。

 

 軽く思考を巡らせながら俺は言葉を紡ぐ。

 

「……氷の上で戦っていたら、スケートの要領で滑りつつも威力のある攻撃できそうだな」

「いやそのシチュエーション意味不明なんですけど」

「自分で言っていてなんだが、うん、そう思う。他に……落下しながらの攻撃は威力あるんじゃないか。あとはまぁ、元も子もないが、素直に遠距離で攻撃するかだな」

「最終的にはそこに行き着くわけですか」

 

 そこは仕方ない。拳銃撃つのにわざわざ剣道のように踏み込む必要ないし。

 

「最後に呼吸か。これもわりと教えていると思うから……留美、呼吸でどうすれば動きを読めるのか言ってみろ」

「なにそれ……分かったけど。人間、息吸うときはほんの一瞬でも動きが止まるってやつでしょ。逆に息を吐くときや止めているときは動くとか」

「概ねそんな感じだな。それらが読めれば近接戦闘でわりと動けるようになる。これもかなり経験積む必要あるがな」

「じゃあ、なんで後ろの攻撃まで読めるの?」

 

 と、ふと投げ出された留美の疑問に答える。

 

「これも当然ながら経験則なんだが、もうちょい具体的に話すとまずその前に……俺を相手するときの留美と一色の連携はかなり形になっていると思う。まぁ、数が多いからかな」

「あ、ありがとうございます。まさか先輩にいきなり褒められるとは」

 

 実際そう思うから。

 

「で、連携が様になっているからこそ、その連携が読めるってのはあると思うわけだ。近接の連携だと、これも1つの形だが、1人が相手を引き付けて残りが死角から追撃……みたいなことあるだろ」

「今日もそれやった。けど、止められた」

「そうだが。そんでまぁ、死角からってのがミソだ。ちゃんと形になっている連携というのはそういう隙を突くセオリーがある。死角から来るってのが分かっていれば敢えて死角を作るような動きで相手を誘導することも可能だ」

「あー、なるほど。セオリーがあるからこそ、私たちのようなちゃんとしている連携は読みやすいってことですか」

 

 一色は納得の色を見せる。自分でちゃんとしているって言うのはどうかと思うなぁ。慢心、ダメ、絶対。

 

 そして、俺の場合センサーを使えば近くにいる奴の位置くらいすぐに理解できる。しかし、コイツら相手には別段使っていないが。そうでもしないと俺の訓練にもならない。センサー頼りだと他の部分が疎かになりがちだ。

 

「じゃあ、八幡に勝つならどういう感じで攻めれば良かった?」

 

 ……なんて堂々とした質問なんだ。本人に弱点とか訊くとかなかなかないぞ。なんで自分の攻略法を教えないといけないんだ。

 

「それ俺に聞く? 普通に自分で見付けて? いやまぁ、近接に絞ると、死角からの攻めが止められるなら手数か力で押し切るしかなさそうだが」

「力……はムリそうだから手数か。一色先輩との連携の精度をもっと上げるとか。でもスピードも八幡に負けてる気がするし」

「でも留美ちゃん。実戦だったら拳銃も他の武器も使えるし、力押しもできるんじゃない?」

「そっか」

 

 と、2人で相談し始めたので別れを言ってから俺はその場をあとにした。この2人で任務も行っているらしいし、仲いいな。

 

 

 

 

「……ん」

 

 部屋に帰る道すがら、両手に沢山の袋を抱えて重そうに歩く女性に目が移る。その人は数時間前に俺らの部屋にやって来た人物だった。

 

 驚かせるのもなんだと思い、わざと大きめの足音を立てながら近付き話しかける。

 

「リサさん、持とうか?」

「――――! これは比企谷様、よろしいのですか?」

 

 目を開くリサさん。多少驚かれはしたが、反応の仕方から後ろに人がいたのは気付いていたけどそれが俺とは思わなかった……ってところか。大丈夫、俺のハートは傷付いてない。

 

「もちろん。だってそれ遠山の……っていうか色々含めて俺らのだろ? そのくらい持つよ。料理作ってくれるの?」

「はい。比企谷様は何か食べたい料理はありますか?」

「えーっと……まぁ、その、任せる」

 

 ここでリクエストを出そうとも考えたが、リサさんの得意料理とか分からないし、遠山のために作ろうとしているところを俺の要望で邪魔するのも忍びない。 

 

 あとまだ初対面に近いので会話の距離感が掴めないのもある。ここで思いきり俺の食べたい料理を口にして『え、社交辞令のつもりで言ったのに何コイツ……』って思われるのとか避けたいし……。被害妄想が過ぎるって言われればそうなんだがな。如何せん、そういう性分なとこあるので。

 

と、リサさんとの距離感を図り損ねているとリサさんから俺に話しかけてくる。

 

「そういえば比企谷様。先ほど、比企谷様が外出される前のレキさんとの会話が聞こえたのですが……」

「……あぁ、引っ越すって話?」

「はい。それは、そのような話になったのは、いきなり私が来て私がお邪魔……だからでしょうか?」

 

 恐る恐る訊ねてくるリサさん。

 

「私はご主人様のメイドですが、ご主人様と同室の比企谷様が私を気遣い出て行くなどあってはなりません。私の存在でご主人様と同格……という言い方は齟齬があると思われますが、私にとってご主人様同じと同じ立場の方を追い出すとなれば――――」

 

 そう自信なさそうな声で話すリサさん。俺はメイドという職業に詳しくはないが、雰囲気からして何となくは言わんとすることを察した。

 

「まぁ、リサさんの言いたいことは何となく分かったよ。要するに迷惑かけてるかもってことだろ。そんなことないから。引っ越しや関しては、いつかって考えていたからそんな気にしなくて大丈夫。遅いか早いかの違いだと思うから。……だってあの部屋しょっちゅう物壊れるし」

 

 まるで疲れ果てたげんなりとした俺の口調にリサさんは苦笑を浮かべる。何となくリサさんも察したのだろう。

 

 いやホントにね。気付いたら家具が壊れてて新しい家具になっていることなんてそれなりの頻度であるんだよ。幸いにも俺の部屋は今まで無事なんだが……。いやもうアイツらもう少し抑えてくれないかなぁと毎度頭を抱えることになる。

 

 寮の奴らの苦情とか先生の文句とか全部俺が受け答えしているからな。え、なに、遠山はどうしたって? アイツはどこかで気絶していることが多い。南無三。

 

 とまぁ、そんなことはさて置き。

 

「それに引っ越しって言ってもそんなすぐにはできないし、もうしばらくは今の部屋にいるんだから……その、なんだ、仲良くしてくれると助かる」

「はい、こちらこそ。よろしくお願いします、比企谷様」

「あー……その様ってのは止めてほしいかな。遠山ならともかく俺は別にリサさんの主人でも何でもない、ただの同級生なんだから」

「分かりました。今後ともよろしくお願いします、比企谷さん」

 

 一先ずリサさんとの会話を終えて安堵する。これで多少は良好な関係が築ければ助かる。他人から嫌われることは小学生中学生時代の経験から慣れているとはいえ、さすがに近しい間柄から嫌われるのは人間関係上わりと堪えるし。

 

 そんなこんなで俺とリサさんの間に流れる空気は特に問題なく、リサさんも俺のことを毛嫌いしている様子はなさそうに話題を振ってくれる。

 

「それでは、今日の晩ごはんも腕によりをかけて作りますね! ところで、ご主人様の好物などは分かりますか? 和食などはオランダで作る機会なかったので気になりまして」

「和食かぁ。遠山は特別嫌いなものないはずだし作ってくれた料理はちゃんと食う奴だからな。美味ければ何でも喜ぶと思うぞ」

「何でも、が一番困る返答なんですがね……」

「これは男子共通だが、肉があればだいたい嬉しいぞ」

「お肉、ですか。なるほど、参考になります」

 

 リサさんと会話をしつつどことなく感じる既視感。……これあれだ、この感じ、星伽さんと雰囲気が似ていることに気付く。遠山に尽くす姿勢やおしとやかな物言いや装いは外国版星伽さんとでも形容できる。

 

 そういや、さっき遠山たちを出迎えたとき星伽さんは部屋にはいなかった。どこかに出かけているらしい。ある意味同種に近いリサさんを星伽さんが目にしたら一体どのような惨状になるのか……想像したくねぇ。俺の部屋無事か?

 

「何というか、少し意外でした」

 

 と、少し唐突にリサさんはそう告げる。

 

「意外?」

「はい。比企谷さんはあのブラド様やヒルダ様、パトラ様などといった方々を倒しております。その先入観もあってか、もっと恐ろしい方なのかと勝手に思っておりました」

 

 アハハ……と自嘲気味に笑うリサさんに俺は軽く面を喰らう。

 

「確かに肩書だけ見れば大物倒してるしな。多分俺も部外者だったらそんな偏見持っていたかもしれない。誰しもそういう勝手な思い込みは存在する。だから、そこに対して誰だって責められない。……つっても、遠山と同室なんだし、そこまで怖がらなくてもいいんじゃないか」

 

 口ではそう言うが、まぁこちとら武偵だからな。そんな偏見持たれるのもしゃーない。社会不適合者なので? 

 

 いやうん、俺だって中学の頃は武偵に対して良いイメージは持っていなかったし、なんなら今も持っていない。親父なんざ、小町の体裁守るためにあまり家には帰ってくるなと言う始末だ。本人は忘れてたけどな!

 

「そうですね。比企谷さんのことは前々から噂に聞いていましたが、ご主人様と同室と知ったのは日本の空港に降りてからなので、あまりそのようなイメージを払拭する時間がなかったと言いますか」

「なるほど」

 

 いきなり怖い情報を言われると、それに思考が持っていかれるもんだよな。お袋に点数悪いテストを隠してたことがバレたと小町に連絡もらったときなんて、楽しみに買った本のこととかもう頭になかったくらいだ。……あぁいうのは非常に心臓に悪いので止めていただきたい。

 

「まぁ、別にそこまで怖くないだろ。目が濁っているとかそういうのは置いといて。置いといてよ? んでまぁ、普段はそこまで覇気ない人間だと思うしな。自分で言うのもなんだが、俺個人は大して怖がらなくていい。ここらで怖いのは何より――――」

 

 

 ――――ギィン!!

 

 

 唐突に鳴り響く何かが削れる音。チラッと地面を見ると5cmジャストで俺とリサさんの中間地点のアスファルトが綺麗に削れていた。

 

「…………」

「…………」

 

 あまりにも気まずい静寂が流れる。

 

「……あの、これは…………」

 

 冷や汗を掻いたリサさんの引き攣った笑顔。さすがのリサさんもこれには驚いたらしい。こんなの誰だって驚くわ。俺はもう慣れてしまった節はあるが、それでも心臓に悪い。

 

 俺は深呼吸をして改めて呟く。

 

「…………ここらで一番怖いのは、所構わず嫉妬交じりに警告のつもりで恐ろしい狙撃してくる女だ」

 

 

 

 

 

 

 




遅れました
社会人になっての新生活、一人暮らしなど慣れない環境、その他諸々でかなり感覚が空きました。9000文字は書いたので許してください……のんびりこんなのあったなーみたいな感じで待っていてくれたら幸いです


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