「飛行機か……」
「どうした? 高いとこ苦手なのか?」
飛行機の窓からげんなりとした様子で下界を覗く遠山に、俺はそんな訳ないだろと今さらな質問をぶつける。
「いや、俺がかつて乗った飛行機は2回ほど墜落したことがあってな」
「えぇ……」
そう思い出したくない様子で語る遠山に俺は軽く冷や汗を流す。
あらあらあ遠山さん、それ言われると空中にいるの普通に怖いんだけど? 不安に なるようなこと言わないでくれます? 遠山、お前もう飛行機降りろ。頼むから歩いてアメリカに行ってくれ。
さすがに飛行機墜落したら俺も死ぬんだけ…………いや、別に俺空飛べるし何なら瞬間移動できるから爆発に巻き込まれて即死しない限りは大丈夫じゃん。
自分で頭可笑しいこと言っているのは自覚しています。
まぁ、こちらとしてはジーサード所有の飛行機――――というより軍用機はかなり快適なんだが。何と言うか、非常に静かに進む。個人的には軍用機ってもっと揺れるイメージあったんだけどな。ここまで静かなのかと軽く戦慄する。
「というか今さらだけど、比企谷も来たんだな」
「まぁな。俺も瑠瑠色金に興味があるもんで。つってもあれだ、漓漓色金みたいに人知れずあると思ってたわ。まさかアメリカ政府がガチガチに管理しているとは予想外だ」
「政府っていうか空軍基地だけど」
「似たようなもんだろ」
どうやら瑠瑠色金はネバダ州のエリア51の空軍基地にあるらしい。ジーサードの話曰くほぼ本体と思わしきデカい塊が。
で、ジーサードとエリア51との仲はあまり芳しくなく、どうにか強行突破する必要があるとのこと。地域と仲が悪いという感覚はよく理解できないのは置いておく。え、なに? つまりは俺が千葉県に嫌われるとかあるってこと? そんなの天地が引っくり返ろうとあり得ないことなんだが?
話を聞くとジーサードって地域毎に好かれているか嫌われているかのどっちからしい……やはりイマイチ分からない。誰が好きとか嫌いとか決めているんだ?
「…………」
俺の今回の目的は瑠瑠色金――――いや、瑠瑠神に会い、漓漓神の警告の内容を確かめることだ。具体的には緋緋神の動向、そして緋神神の救い方を知ることとなる。
漓漓が普通に喋ってくれればアメリカまで飛ぶ必要ないんだけどなぁ! まぁ、それを差し引いても瑠瑠色金には個人的に興味があるし別にいいや。
というが、ジーサードの依頼はあくまでジーサードをネバダ州の瑠瑠がある場所まで送り届けることだ。ぶっちゃけ送り届けるってことは俺も側にいるということだから、別にそこは気にしないでいいか。
「そういやジーサード。どこまで行くの? いきなりネバダ州に降りるのか?」
「ん、一度ニューヨークに行くぜ」
「……いや位置関係ほぼ真逆じゃねーか」
完全に東西の端同士でめちゃくちゃ離れていない?
「うっせーな。こっちにも用事があんだよ。ジーサード様は人気なもんでな」
それもそうかと納得する。いきなり着いてすぐに奪いに行くなんて慌ただしすぎるだろう。補給や休憩、ジーサード含めたメンバー、それぞれ済ませたい用事もあるだろうし。……命の危険がある任務だから余計にか。
そうそう、ジーサードは別に個人で動いているわけじゃない。普通に仲間が大勢いる。それも老若男女人種問わず、言い方は微妙かもだがかなりバリエーションに富んでいる。
何人かと挨拶したが、全員キャラが濃い。武偵高にいる奴らと遜色ないレベルだ。で、全員に共通しているのがジーサードに忠誠を誓っているところか。
あんなに慕われるのも、ジーサードのカリスマ性が成せる業なのだろう。俺にはそんなのないな。必要性が見当たらないし。
「お、比企谷さんじゃん。やっほー、乗り心地はどう?」
トイレ次いでに機内を彷徨いている俺に遠山妹――――遠山かなめが話しかけてくる。
「よう、かなめ。もっと揺れると思ったのにめちゃくちゃ静かだな。スッゴい快適。景色もいいし」
ちなみにわりと仲良く なったので珍しく名前呼びである。ていうか、かなめ本人が遠山が付けてくれたこの名前を大層気になっており、名前呼びを希望しているだけのことだが。
「アンガスはもうこれ運転するの1000時間は超えてるしね。そりゃ手慣れたもんだよ」
アンガスさん、あの懇切丁寧な老人だな。
と、そのまま近くにある椅子に腰かけ、俺らは世間話を始める。
「そういえば比企谷さん。前に勧められたゲームやったよ。やっぱ金髪妹キャラは最高だね! 私も金髪に染めようかなぁ」
「あ、もうやったのか。わりと昔のゲームだったけど、ハマってくれて良かったわ」
「うんうんっ。こう、何ていうか関係性が兄妹なのも加えて、妹が消えないためにスる背徳感が堪んなかったよ!」
「別にあの時点で相思相愛だったけども、やっぱ兄妹モノはその背徳感というかスリルが堪らないよな。そこにクるものある」
唐突に始まる俺とかなめの妹談義。なお、内容はゲームとはいえエロゲの模様。
ふと冷静になると、どうして俺は年下女子とエロゲ談義しているんだと疑問に感じる。それもこんな上空で……。まぁ、楽しいからいいや! と自分を納得させる。周りに話合う奴あんまりいないしね! 材木座はアニメやラノベがメインだからな。
「あと普通にシナリオも良かったね。伏線丁寧に話が広がったし、最後の女神からのゲームでのミスリードはびっくりしたよ。めっちゃハラハラした!」
「だよな。あれ初見だと絶対騙されるだろって思うわ。実際、俺は見事に引っ掛かった。あそこで海岸行く選択肢は思い浮かばねぇ。何にせよ、やっぱエロゲはハッピーエンドが一番だわ」
「心暖まるよねぇ。最後のスチルも素晴らしかったよ……。アフター欲しかったなぁ。昔のゲームだからないんだよね。そこは残念かな。あとあの罵声好き。私も やってみようかな?」
アフター見たいのは超分かる。ていうか、別に最近のゲームでもアフターある方が珍しいまであると思う。もっと色んな会社もFD出してくれていいんだけどなぁ。ゲームじゃなくてもドラマCDや最近だとASMRという選択肢もあるわけだし。
ちなみにこの会話だけで何のゲームか分かった人はスゴいと思う。
「でもエロゲでの妹モノって血が繋がってない義理の関係が多いよね。どうしてかな?」
「まぁ、血が繋がっているのだと制作するのが大変なんじゃないか? コンプライアンスがどうのって。つっても多少は実妹モノもあるけどな」
「確かにね。あるにはあるけど……」
「それに実妹だと結婚どうのまでシナリオ持っていくの大変なんじゃないか? アフターをどうするので」
「うーん、それもあるかぁ。その後を描きにくい部分はあるかな」
これが異世界ファンタジーならどうとでもなるとは思うが、現実世界準拠だと親や世間の目やら法律やらが絡んでくるし。
加えてもし実妹との子供ができたとして、血縁関係者同士の子供は何かしらの障害を持ってしまう可能性が高くなることがある。別に 何代も世代を重ねるとより高くなるだけで、一代だけならまだセーフかもしれないけど。
まぁ、そんな生々しい話は置いといて、様々な壁を乗り越えてこそ妹モノは楽しいという意見も分かるけどな。つまるところ、結論として可愛いは正義だ。
「じゃあさ、比企谷さんの好きな実妹モノ教えて~」
「別にいいけど。……となるとあれか。うん、あれはいい。兄と妹としての関係性も内に秘めている感情との折り合いも好きだ。性格もいい。あのウザ可愛いのは最高だ。何より声も素晴らしい。……ただなぁ、あれを勧めるのかぁ……」
「え、面白くないの?」
「いやめちゃくちゃ面白い、大好きな作品だ。だからこそ勧めにくいというか……わりと鬱要素強い作品だからな。人を選ぶというか」
「あ、そういう系かぁ。なるほどねぇ。比企谷さんは初見の反応を楽しんで愉悦する人ではないのね」
「普段はそうだけど…………あれはかなり心にクるから……いやもうホントにマジで。好きだけど辛い。あとはそれに」
「それに?」
「あれ5作ほどのシリーズがあるから、そもそも前作進めないといけないし、続編も何作かあるからその過程で別のヒロインも攻略する必要があるんだ。妹モノが好きなかなめにとって、他の属性のヒロインも勧めるのはちょっとな」
「なるほどなるほど。でもシリーズ全体通して面白いんでしょ?」
「あぁ。どのヒロインも魅力的だしシナリオも非常に良かった。そこは保証する」
「ならプレイしてみようかなぁ。単純にストーリー気になるし、色んなヒロインを攻略するのも楽しいしね。お兄ちゃんの趣味嗜好を広げるきっかけになる!」
さよかい。
かなめはまず遠山に対してどうなるかを考えるよな。まぁ、そこは何とも言わないけど……ただあれだぞ、性の知識ほぼゼロの遠山に対してどう効果あるのか知らないぞ。だってアイツ結婚指輪という存在すら知らずに、神崎に指輪をプレゼントして左手の薬指に嵌めたことある前科持ちだからな?
あ、この作品は何かわりと分かりやすいだろう。多分、きっと、メイビー。
なんてかなめと会話しつつ、体を動かす目的でジーサードと組手をしたりして過ごす。HSSじゃない素の状態でもやっぱりめちゃくちゃ強かったわ。アイツの攻撃捌くのでやっとだった。いや俺も数撃は反撃入れたけどな?
途中アラスカ方面で補給を済ませたらしく、そこからまた時間が経つとマンハッタンにあるケネディ空港へと着陸。
少し戸惑いつつも入国審査を済ませアメリカへ到着した。
「けっこう寒いな」
「ですが日本とそう大差はありませんね」
「まぁ、別に制服でも問題ないな」
レキとニューヨークの街並みを眺めながらのんびり話す。ジーサード所有の高級車に乗りつつ、だ。このような車に乗る機会なんてもうなさそうだ。武藤がこれを知りようものなら泣いて乗せてくれと懇願しそうだ。
どうやら改造を施したらしくマッハ0,5ほどのスピードを出せるらしい。果たして本当にそのような機能がいるのか甚だ疑問である。オープンカーのくせしてこんな街中じゃ使わねぇだろ。それに風圧キツいだろうに。
「にしても、香港と同じくビル多いな。しかもどのビルも高層マンションくらい高いときている。この密度具合はニューヨークのがスゴい。清潔さは……香港のがまだ綺麗か?」
「はい。……しかし、香港ですか。もしやあの女のことを考えていますか?」
かなり低い声だな、おい……。
「そんなことはないけど」
「本当ですか? 私の眼を見ても同じことを言えますか? ……その眼はあの女のことを考えている眼ですね」
「お前がんなこと言わなかったら思い出さなかったよ……」
何その誘導尋問、あまりにも理不尽すぎない?
「というか猛妹とは香港から帰ってきたから一度も接触ないからな」
「しかし油断はできません。ふとした瞬間に狙ってくる可能性は充分あります。千葉ではそうでしたので」
「確かにあれは予想外だったな……」
そんなこんなでジーサード所有のビルへと到着した。
ジーサードが、所有している、ビルに。
ワンフロアなどではない。それはもう見事なまでに一棟丸々だ。……もう驚きはしないぞ。既に軍用機を個人で持っている奴がビル丸々一棟持っていたところで俺はもう驚きはしない。呆れはするけどな?
「今から装備の補充や点検、整備を行う。出発は3日後だ」
というジーサードの発言により、しばらく時間ができたので俺はビルの一室で休息を取っている。とりあえず初日は寝まくって時差ボケをなくした。
そして、翌日。俺は装備の点検を行っているところ。
「失礼します、比企谷様。少々時間よろしいですか?」
ザ・執事とでも呼ぶべきご老人、アンガスさんが俺が使わせてもらっている部屋へと入室してきた。
「あぁ、はい。どうしました?」
「比企谷様の装備についてですが、こちらから支給できる物があればと思いお声がけしました」
「装備ですか。例えばどのような?」
「ジーサード様も付けられておるプロテクターなどですね」
と、案内され実際にそのプロテクターを試着してみる。
「おぉ、これは……」
見た目は仮面ライダーのアーマーみたいに派手なくせして薄くて軽い。しかもかなり丈夫。余っている両腕の部分しか付けてないが、それだけでも充分伝わる。
拳銃で撃たれても軽く殴られた程度の衝撃しか来ない。
「何ていうか、マジでスゴいですね」
「そう言ってくださり恐縮です」
「ただ……俺はコートに色々と武器仕込んでいるのでさすがにプロテクターある上にコート着込むとなるとさすがに動きにくいですね」
と、アンガスさんにイ・ウーから貰ったコートを渡す。
実際、この真っ黒いコートにヴァイスやスタンバトン、予備マガジンを複数、ワイヤー銃など仕込めるだけの武器を装備してある。これだけ装備してもコート事態の重さはそう変わらないし、このコートもイ・ウー製なのでこのプロテクターと負けず劣らず高性能だ。
それにあれだ、一応夜戦を想定して景色に溶け込めるような配色なので、めちゃくちゃ目立つプロテクターを付けると効果が半減する。それはなるべく避けたいまである。まぁ、このコート着て夜戦することの機会なんてかなり少ないまであるがそこは気に留めない方向でお願いします。
「ほう、これは……どこから頂戴した一品で?」
「シャーロック、もといイ・ウーからですね」
「なるほど。道理で素晴らしい技術 なわけです。単純な技術力ならこのプロテクターと遜色ないレベルで素晴らしい品ですな。もちろん、プロテクターとコートでは素材が違います故、実際に感じる効果も違うと思いますが」
そうアンガスさんが言われる通り、普段使いしている武偵高の制服より数段優れる防弾性を発揮する上に衝撃吸収の性能も半端ない。サイズも膝上まであるので防御性能はかなりあると言っていい。
「そうなると、このプロテクターを極力性能は落とさず薄くしてこちらのコートを着れるように仕込みますか?
生憎、腕を覆う程度のサイズしか今はございませんが」
「そうして貰えるとありがたいです」
このプロテクターを付けたところで動きに影響はこれっぽっちもない。おまけに今回ジーサードから依頼したので料金は発生しない。なんて素晴らしいんだろうか……!
とはいえ、今後メンテナンスするとなると俺1人では困るな。材木座か平賀さんに頼れるところは頼むか。一応アンガスさんに手入れ方法はデータで貰ったし。
「さてと、では作業に参りますので、何かありしたらまたお声がけください」
それだけ言い残してアンガスさんは去っていった。うむ、渋い。渋い人だ。カッコいい老人という言葉が似合う。あぁいう年の重ね方に憧れるが、俺はあんな人にはなれなさそうという気しかなれない。主に性格からして。
これで俺の防御力は高くなった。まだプロテクターが余っていれば胸辺りにも付けてくれる話にもなったし、手厚いサポートに感謝だ。戦闘がこの先あったとしてもダメージ受けすぎて敗北する、みたいな展開はある程度避けれるだろう。無論、絶対ではないので基本的な方針は変わらず、相手の攻撃に当たらないことだ。
アンガスさんとの話は終わり、ここにいる用事はなくなった。
「…………」
それはそれとして。
「なぁ、レキ。お前それ気に入ったのか」
「…………」
と、さっきからずっと俺の隣にいたレキに話しかける。
「――――」
しかし、声をかけるもその姿は全く見えず。端から見れば、俺は何もいない空間に話しかける残念な奴に映るだろう。が、そこにレキはいる。俺が声をかけてようやく、ジジッ――――と音を立ててからレキの姿が現れる。
普段からレキは気配を消すことができるが、今は物理的に消えていた。
俺の隣で透明になっていたレキもジーサードから貰える装備を試していたところだった。どうやらメタマテリアル・ギリーという、表面にナノマシン級の微細な発光器を塗布し、背景の変化に応じて同じ映画を表示し続けるレインコートを羽織っていた。
理屈を訊いてもさっぱり分からないんだけどね。まぁあれだ、要するに科学で再現した透明マントってやつ。何それスゴい。確かジーサードも宣戦会議で着ていた代物だったと思い出した。
レキがこれを着ると本気で見ただけではどこにいるか分からなくなる。俺には超能力の副作用でもあるセンサーがあるので、近くにいるなら未だしも、離れられるとこれは本気で捕捉できない。ただでさえ、レキは気配を完全に消す術に優れていると言うのにな。
「…………」
しかし、なんだ。透明マント。なんて心惹かれるフレーズなのだろうかと心の中で反芻する。男なら一度はその存在に憧れるものだ。それはもう非常に気になる。
「なぁなぁレキ。ちょっとそれ俺にも貸して。着てみたい」
「嫌です」
「え、いや、そんなこと言わずに……俺も着てみたいんだけど」
「お断りです。絶対に着せません。これは私が貰った物です」
めっちゃ独占欲発揮させてる……。
「そんなこと言わずにさー、俺も気になるんだよ。透明マントとか憧れるじゃん。ちょっとでいいか――――おいコラ、レキお前どこ行った!?」
透明マント着てどっか行きやがった。それはもう一瞬の出来事だった。
ホントにいざ隠れるとなったらレキから一切の足音しねぇんだよな! いいなー、あんなの独占して。俺も着てみたい! ズルいぞレキ!