その後、非常に残念ながらレキに透明マントは貸してもらえず、のんびりしていたらニューヨークでのきらびやかな夜を迎える。
俺の住んでいた千葉や東京も大概都会だが、高層ビルが密集しているニューヨークだと窓ガラス風景を眺めただけでもその人工的な輝きに圧倒される。どこを見渡してもビルだらけな風景で一軒家は逆に見当たらない。
そんなことを考えつつ慣れない土地もあり、普段より疲労の溜まっていたから、早めに寝ようとした俺はジーサードに引っ張られパーティー云々で起こされた。
「おらっ、さっさと行くぞ。つーか、寝るの早すぎるだろ。健康優良児かテメェは」
「分かったから布団返して……」
いやわりとマジで眠いんだけど……まぁ、6時に寝ようとするのは早すぎるよね。
それにしても、あの透明マント、俺も着てみたかったな。ジーサードに金出していつか買おう。そう心に決めてアンガスさんの操る高級車に腰をかける。
10分ほど経ち、目的地へと到着し車から降りる。
そのビルはジーサード所有のビルと何ら遜色のない高層ビルだ。そんなビルの前でビクビクしつつも俺は高級そうな作りのスーツを身に纏っている。
いやこれ相当素材いいスーツだろ。袖通した瞬間素材良すぎて引いた。なんか着ているだけで怖いわ。汚したらいくら取られるんだろ……。
「で、かなめ。……え、えーっと、これ何のパーティーなんだ?」
いきなり連れ出されたのでいまいち要領を得てない俺は近くにいたかなめに声をかける。
「……っ」
その、かなめの格好がパーティーのためとはいえ肌をやたら魅せるVネックドレスを着ているもんだから、つい緊張してしまう。
そんな俺の様子は露知らず、かなめはいつもと変わらない笑顔で返答してくれる。
「サードが言うには、実力や実績、活動内容で基準を満たした武装職のエキスパートの集まりだってさ。Sランク武偵もたくさんいるって。せっかくだし比企谷さんもコネ作っときな?」
「あー、そういうやつね。俺はコネとかいいや。もうSランクは身近にいるし。レキや神崎頼ればどうにかなるだろ多分。神崎とか貴族様だし。それに俺は普通のそこらにいる武偵になるからな。世界を駆けるわけじゃねーし」
「いやいや。普通の武偵はまず色金の力使えないから。その時点でもう普通じゃないよ?」
「……そんなことないだろ」
「うわ、めっちゃ小声」
なんてかなめと雑談しながら改めてパーティー会場へ向かう。
別に俺、ごくごく普通の武偵だよね? そこらにいる遠山みたいに人間止めてないよね? そうに決まっている大丈夫大丈夫。
……しかしまぁ。
ただの金持ちの道楽と思っていたが、要するに今回のこれは同業者の集まりだったわけか。一応はわざわざ行われるパーティーの内容に納得はする。
「…………はぁ」
チラッと遠山と話しているジーサードの顔を見る。特段、深刻な表情は作っておらず遠山との会話を楽しんでいるようだ。お前ら仲良いね。なんか、俺から見るとジーサードが遠山に懐いている様子に見えるな。大型犬?
「……やっぱり寒いな」
独りでにそうポツリと呟きを洩らす。
にしても、今回の参加者はジーサードや俺らと同業者か。それもある意味、俺とは比べ物にもならいない格上や別方向のプロばかりときている。
確かにツテという点で見ればこれはまたとない機会だろう。それこそ、俺みたいな一般人だけではなく、ジーサードの部下たちからもすれば非常に貴重な場になると思う。
「――――」
しかし、元々予定があったとはいえ、この色金を強奪する数日前のタイミングに行うのは……少しばかし違和感を覚える。もしかしたら、このようなパーティーを定期的に行っている可能性はあるだろうが、わざわざ今するべきことなのか? という疑問がどうしても浮かぶ。
大きな作戦が控えているわけだし、いくら参加者の都合があるとは言え、装備の点検や補充、訓練や作戦の見直し、休養、他にも戦闘機のメンテナンスなどに時間を使った方が有意義に思える。普通に考えれば、パーティーもある意味休養と言えば休養なのだろう。
しかし、あれだな、知らない奴と話す時点で気疲れする俺にとっては休養に入らないまである。
つまり、今回のパーティーには何かしらの裏がある。完全に俺の主観ありきだけどな! まぁ、裏と言っても策謀渦巻くドロドロなもんじゃなくて、もっとこう単純に別の目的があるのだろう。
それは何なのか。もう少し頭を捻ってみよう。
「ふあぁ……」
外の寒い空気に充てられ欠伸をしつつ、色々と推測するために、今回のパーティー主催であるジーサードの性格から考えることにする。
アイツは遠山の弟なだけあってかなりお人好しだ。遠山から聞いた話だと、身寄りのない子や障害のある子を集めた学校を運営しているらしい。しかもほとんどの子供からヒーローと慕われている、と遠山談。
それは部下にも言えることだ。かつて遠山と戦ったときは今後自身が死んだときのために敢えて部下に金目のものを渡したとのこと。
口ではぶっきらぼうなことを言いながら、裏では仲間のために身を粉にするというかちょっかいをかけてしまうと言ったところか。なにそれツンデレ? 男のツンデレとか需要あるの? ……いやあるからジーサードはここまで大きい存在になったんだろうな。
「はぁ……ったく」
ということは、あれか。遠山の話から推測すると今回の色金強奪作戦でジーサードは死ぬかもしれないと思っている可能性がある。というよりかは本人からして死ぬつもりはないが、可能性の1つには入ってると考えているのだろう。
で、その直前にジーサードと同職のエリートが集まるパーティーを行う。
――――このパーティーの実質的な目的はジーサードが死んだときの保険、部下が路頭に迷わないため、部下の今後のためにかと結論付ける。
「…………」
「比企谷さん、そろそろ行くよ?」
「あぁ」
かなめに促されて足が止まっていた俺はビルに入る。置いてかれそうになった俺の足は若干重い。
別にこの考えが正解とは思わない。ふとした違和感から導きだした推論だ。
当然のことだが、証拠はない。俺が問いかけたところで、アイツがしらばっくれたらそこで終いの荒唐無稽な話だ。しかし、ジーサードならそう考えても可笑しくはない、とも思ってしまう。短い付き合いだが、部下の身代わりくらいにはなりそうだと思ってしまうほどだ。
まぁ、本人は更々死ぬ気なんてないだろうが……それでも。
「……尚更」
依頼は達成しないといけないな。俺の目の届くところで勝手に死なれて、依頼を受けた俺が武偵法違反を受けてしまうのはごめん被るし! 何より寝覚めが悪い。
俺の思惑というか下心があるとはいえ、また面倒な依頼を受けてしまったな。
「おぉ……」
場所は変わりパーティー会場へ。
それはともかく、いやこのパーティースゴいな。雪ノ下さんとこのパーティーとは別ベクトルで変わっている。日本とは何もかもが違う。
雪ノ下さんのところもかなり凝っていたとは思うが、さすがジーサードということなのか全てが高級すぎる。装飾品やテーブル諸々の調度品、その全てに金をかけていると一目で分かるくらいだ。ここらは日本人とアメリカ人の違い、なのだろうか。
配膳されている料理も非常に力が入っているように思える。どの料理も美味しそうだ。特に肉料理とか普段はお目にかかれないんだろうな。しかしまぁ、あれだ。
「あんまり腹は減ってないんだよなぁ」
「そうなんですか?」
「レキもだろ。カロリー摂取の上限決めているんだし」
パーティー会場の隅で俺とレキは壁にもたれかかり成り行きを見守っている。
こういう機会は貴重なのだろうが、やはり言語の壁のハードルは高い。とりあえず英語なら日常会話程度ならどうにかこなせるが、専門的な会話になるとぶっちゃけ付いていけない。
レキは立場的にも他の人たちと見劣りしないレベルだし、積極的に参加してもいいのだろうが……俺がここにいるからかあまり動こうとはしない。なんか内弁慶でごめんなさい。
「それもそうですね。ですが、必要とあらば食べますよ。時と場合に寄ります」
「臨機応変に、だな。千葉では俺の飯食ってたからな」
「えぇ」
と、そんな会話をしつつチラッとレキの服装を見る。
かなめと同様、Vネックの蒼色を基調としたドレスを着込み、首には控えめだが、それでも随分と主張もしているサファイアのネックレスを付けている。蒼い宝石はレキの髪色と似通っており、ベストな組み合わせだ。
レキの綺麗な白い肌も相まって、今のドレス姿のレキは、かなり安易な言葉だが美しいと思える。加えて肌の出ている面積も多いので余計にそう感じる。
「あー、そのー、なんだ。その服、似合っているな」
「…………あ、ありがとう、ご……ございます」
なんてぎこちない会話なんだろう。2人とも吃りすぎだろ……。
これが知り合って1年……そろそろ2年になる奴らの会話かな? 互いにコミュ症すぎない? こんなの社会に放り込んでホントに大丈夫なの?
「…………」
「――――」
ヤベェ、レキの顔見れねぇ。レキもレキで俺の方に顔向けてないし。
微妙な雰囲気になっていて気まずい思いをしていると、カツン、カツン、とこちらにわざとらしく足音を立て近付いていてくる人がいる。
「えーっと……」
なんか黒い仮面付けているんだけど、どちら様? 俺らに用あるの? 多分人間違いですよ。主催はジーサードですよ。そのジーサードなら……あれ? どこ行った? 見当たらないけども。トイレか。
「君が、比企谷君でいいんだね?」
レキではなく俺に低い声で語りかけてくる。体型から分かるけど、普通に男だな。ていうか、普通に日本語なんですね。
「えぇ。比企谷です」
「こちらはヒノ・バットという。これでも武偵をやっていてね」
あぁ、その名前は授業でチラホラ訊いたことあるくらいわりと有名な武偵の名前だ。まさかのご本人様でしたか。
「一度、比企谷君と話してみたいと思っていてね」
朗らかな口調でそう告げるヒノ・バットさん。いや、俺にってどうして? 初対面だし関わりないんだけど。
「えーっと?」
「あぁ、私個人ではなく、娘が君に何回か世話になっているそうらしくてね。一応、お礼にと」
娘? 誰のこと?
って、ヒノ・バット……ヒノ……ひの。火――――
「もしかして火野の、あいや、えっと」
「そうだよ、私はライカの父親だ」
火野ライカ。俺の1つ下の後輩に当たる女子生徒だ。背が高く男勝りな性格。金髪ポニテで間宮あかり筆頭、異常性癖軍団(俺命名)に所属している奴だ。女子のわりには長身なこともあり、近接戦闘において異常性癖軍団の中ではかなり秀でている。
そんな火野とは確かにたまに稽古を付けることはあるけども。一色や留美、間宮とかとなんか流れで。
「たまにライカから君の話を訊くことがあってね。異性嫌いのライカが珍しく比企谷君……異性の話をするのだから少し興味があったんだよ。それもまさか、その噂の人物があの予測不能ときたもんだ。ま、君の活躍をライカは知らないだろうが」
「あー……そっちも知っているんですか」
「むしろそっちの方が有名だよ」
その恥ずかしい2つ名どうにかしてほしいんですけど?
「いやまぁ、火野とはたまに稽古を付けているだけなんで。なんていうか、火野とのツレを相手にすることがよくあるんで、その流れというか」
「なるほど。その辺りはライカから訊いた通りか。全く、誰に似たのかあれの異性嫌いは中々でね。娘とこれからも仲良くしてもらえるとこちらとしても嬉しい」
「そのくらいなら全然」
「そうしてくれると助かる。もちろん、適度に痛めてくれたまえ」
笑いながらそんなことを言い残して去ってしまった。
な、何なんだったんだ……なんか心臓に悪かったわ。さすがの有名武偵だけあって圧がそこらにいる奴らよりスゴかった。
「八幡さんは、そんなに火野さんと仲が良好なのですか?」
「んな睨むな。怖いわ。……確かにたまに稽古は間宮とかとするけど。それを差し引いても個人間の仲はそこまでじゃないか。スレ違ったら会釈するくらいだぞ」
「そうでしたか。私には詳しくその心境は分かりませんが、娘の近況が単純に気になっていた、くらいの感覚かもしれませんね」
「……だな。もし俺も小町が武偵になったら絶対周りにちょっかいかける自信があるわ。……ちょっと疲れたし外の空気吸ってくる」
とだけ言い残して俺も退散する。このままドロップアウトしたいな!
やけに肩肘張ったわ……。
トイレを済ませ、ついでにエスカレーターを降りて外の空気を浴びようと出たところで足を止める。
「ん?」
少し離れたところに遠山とジーサード、それと1人の少年が何やら話し込んでいる。なんだ、迷子の案内か?
「って雰囲気じゃなさそうだな」
遠目からでも分かるくらい不穏な空気感だ。一触即発とでも表現するべきか。とりあえず俺も参加するかな。暇だし。パーティーから逃げたい口実を作りたいわけじゃないよ……?
わざと足音を大きめにして遠山たちに近付く。
「おや? 彼は確か……」
「あ?」
「比企谷か」
謎の少年、ジーサード、遠山とそれぞれ適当に反応する。
「お前らもサボリ?」
「いやお前な、この重苦しい空気で何言ってんだ」
「そんくらい分かるわ。ボッチの空気を読む能力舐めるなよ。読みすぎてこちらから気配無くすまである……何言わすんだ。あえて茶化してんだわ」
ジーサードとバカみたいなやり取りをしつつ少年に向き直る。マッシュの髪型をしており、身長も俺より一回り小さい。うん、特に心当たりはない。
いやマジで誰?
「どちら様? 迷子ってわけじゃないよな」
「初めまして、イレギュラー。僕はNSAに所属しているマッシュというものだ」
おっと、はいはい理解しましたよ。俺の恥ずかしい2つ名を知ってるってことはそっち系の人だな。あと名前わりとそのままだなおい。せめて髪型弄れば?
「ご丁寧にどうも。んじゃ俺からも。比企谷八幡だ。できればその2つ名は止めてほしいが、そこはもう別にどうでもいい。諦めてる。で、NSAって? なに、ロケット飛ばすの?」
「それはNASAだよ……。これが日本人のボケというものかい? それとも素かな? 先ほど遠山キンジに説明したので後で訊いてくれ」
知らないんだからボケてもいいだろ。
「で、ジーサード。このエリンギ君との関係性は?」
「いやコイツはマッシュな? まぁあれだ、今回のミッションの一番の敵だ」
え? このちんちくりんが?
硝煙の匂いはしないし、手のひらには拳銃やナイフを握っている豆もない。筋肉もあるわけではない。言い方は相応しくないかもだが、第一印象は正しく貧弱なガキだ。1秒あれば制圧できるぞ?
とまぁ、そんくらいのことは遠山も分かっているだろう。それなのに手を出せないということは、別方向で強いってことか。アメリカの政治関係は詳しくないけど、権力がかなりある立場なのだろうと推測できる。
「まぁいいや。で、何してんの? 互いに宣戦布告でもしてんの?」
「当たらずも遠からずだね。牽制し合っているところだよ」
やけに律儀に答えてくれるな、このマイタケ君。
「――――それにしても、遠山キンジに引き続きまたペテン師の登場か」
「ペテン? 俺マジックできないぞ」
何言ってんだこのなめ茸君は。
「ペテンと言わなければ証明できないだろう? 目からレーザーを出したり、何も身に付けず空を飛んだりと。噂によれば瞬間移動も行ったりしているらしいじゃないか」
「いや、そういう世界に通じてるなら超能力くらい訊いたことあるだろ。確かに詐欺紛いかもだが、元々がそういう力なんだよなぁ」
「どうせ、そうやって周囲を騙してSDAランクをこれ以上上げようとしているのだろう?」
「話を訊け。丸刈りにするぞコラ」
それと、何だ。ふと耳に慣れない言葉をしめじ君は口にする。
「……SD……Aランク? なにそれ、遠山知ってるの? 」
「ざっくり簡単に言うと、超人ランキング、人間辞めてる奴をざっと決めたランキングだな。俺はアジア圏内で89位だ……」
なにそれ、そんな不名誉なランキングに俺がいるの?
如何せん、そのようなランキングにいるのが不思議だな。俺は至って普通の武偵なんだけど。
「ちなみにナメコ君、俺はアジア圏内で何位だ?」
「確か68位のはずだ。全世界だと……おっと、すまない。まだそこは確認していない。あと僕の名前はマッシュだ」
「いや、ちょっ、待っ……え、えぇ……」
思わず頭を抱えてしまうくらい衝撃的な内容だ。
おいそのランキングに俺載せた奴、頭終わっているんじゃないか? どこの誰だ、鎌鼬で人体斬るぞレーザービーム喰らわすぞ影で体諸々削ってやるぞ!
ていうか、俺がアジア圏内で上から数えて人間辞めてる度が68位って……大げさすぎない? 絶対嘘だろ。過大評価すぎるわ。んな実力ねぇぞ。
「比企谷お前、俺より ランキング高いのか! そうかそうか!」
「その嬉しそうな顔止めろ。なにこれ以上ないくらいの笑顔浮かべているんだテメェ。殴るぞコラぁ」
で、何よりシイタケ君より注目すべきなのが、ぶなしめじ君の隣にいる少女型のロボット――――LOOだ。
宣戦会議で一度目にしたことはある。しかし、こんな街中だからだろうか、機械である身体はコートで隠し武装も最低限……というかほぼないだろう。
あれ、会議のときはどこの所属か不明だったが、キクラゲ君の所属だったんだな。てことは、これはFEWと関係あるかと疑問に思うが、あまり関係ないだろう。
なんつーか、あくまで国を巻き込んだ個人の喧嘩という印象だ。
その後もなんかやたらとえのき君がジーサードに向けてネチネチと罵っていた。次いでに遠山も罵倒していたな。俺はその様子を1歩離れた場所で眺めていた。だって疎外感が強かったし……。
ジーサードの事情とか遠山は知っているみたいだが、俺全く知らないし、わりとマジで無関係だからな。
「――――」
で、話が終わるまで暇だったんでヒラタケ君の性格でも俺なりに人間観察で分析していた。……くっ、そろそろキノコ弄りのネタ尽きそうだ。毒キノコまで手を出すか。毒テング茸とか。いや、それはさすがに失礼だな。
まぁ、うん、それは置いといて。
まず初めにコイツは自信家。それもかなりの。詳しくはないが、こんな小さくてもアメリカ国内でもトップクラスの権力者らしい。生まれながらチヤホヤでもされてきたのか、それとも単純に賢いのか、恐らく後者だな。人工天才という単語も聞こえてきたから、余程頭が良いんだろう。
んで、次に、コイツは自然と周りを見下すタイプだ。ぶっちゃけ極度の自己中。自分が偉いから周りが言うことを訊くのは当然だろうと思っている感じ。コイツの利益や出世のためにSDAランク100位圏内の俺や遠山を殺す宣言してたし。
多分そのときの俺は欠伸してた。ぶっちゃけ悲しいことに殺す殺されるにもうビビる俺はいない。不本意ながらもう慣れた。
――――つまりあれだ、総評として世間を知らない捻くれているガキだな。絶対友だちいないだろ。見ているだけで察してしまう。まるで中学の頃の俺を見ているようで胸が痛む。見ていて恥ずかしいっ! 冗談ですはい。
「…………」
何やら遠山が『エリートは一度ミスると簡単に落ちるところまで落ちるぞ』云々語っている。で、結局言い負かしたのか負かされたのやら……。そして、そこで話が落ち着いたところ、マッシュドポテト君は俺に向き直る。とうとう原型なくなったぞ。キノコ関係ねぇな。
「随分とイレギュラーは静かだったね。僕の話に思うところはなかったのかい?」
「全然ないな。今回に限って、俺は所謂傭兵扱いだ。個人の思想とか正直どうでもいいわ。どんな事情があろうと依頼を遂行するだけだ。……つーか、ねむっ。……まぁ、遠山に倣って俺も何か1つアドバイスをしておこう。一応、年上としてな」
「……ほう。この僕にかい?」
気怠そうに言葉を発する俺にちんちくりんは眉をピクッと動かす。不愉快、とでも言いたそうに。そういうところだぞ、と心の中でツッコミを入れつつ口を開く。
「誰でもいいから愚痴くらい吐ける相手見付けとけよ。お前のポジションとか地位とかはどうでもいいけど、ずっと独りでいるってのはしんどいぞ。頼れる相手がいないと特に。いや別にお前の交友関係知らねぇし、的外れな意見かもしんねぇけどな」
俺も中学のときイジメを受けた際、全部自分で受け止めていたせいで精神的にしんどい思いをした。結局は周りが、社会が悪いと責任転嫁をして受け流した。それに加え、俺には愛すべき小町がいたからどうにか持ち堪えたが、もし小町がいなければどうなっていたのやら――――今となっては想像がつかない。
自分は優秀だから周りには期待をしない、どうせコイツらは自分の駒でしない、とでも思うのは勝手だ。
しかし、何かあった際に自身の周囲に味方がいないのは非常に恐ろしい。あの白い眼でひたすら覗かれるのは精神がかなりヤられる。ろくな立場のない俺ですらそうだったんだ。それがこのキノコに置き換えたら、その視線の重圧は恐らく俺の比では到底済まないだろう。
だからこそ、武偵になってから心底思う。今までとは違う、俺の周りには頼れる奴らがいて良かったと。
そこにいる遠山も頼りにしている。それに神崎や星伽さんにも色々と世話になっている。下らない愚痴に付き合ってくれる材木座や戸塚や武藤にも感謝している。
もちろん、俺の友達である理子も――――そして、信頼し合えるパートナーのレキも。
俺は武偵になって恵まれた。
「もし何かあってお前が独りで潰れたとき、お前を本気で助けようとしてくれる奴はどんだけいるんだろうな――――っと、アドバイスはここまでだ。俺の言葉をお前がどう受け止めようが無視しようが、別段さして興味はない」
目の前のガキんちょは俺をジッと無表情で睨んでいる。本当に不愉快とでも感じているのか、はたまた図星で焦っているのか俺には理解する気はない。ぶっちゃけると眠すぎてそこまで頭が働かない……。
「とりあえずあれだ、今度戦場で会ったときは容赦はしないからな。邪魔するなら押し通るぞ。以上! 解散! ふわあぁ……ねーむっ。つか、さむさむっ」
とだけ俺は言い残してジーサードたちの返答は待たずに、うすら寒い、暗いけど明るいニューヨークの空の下から暖かいビルへと引き返した。