八幡の武偵生活   作:NowHunt

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Unreasonable

 マッシュルームとの遭遇から一晩経ち、今日はめでたく瑠瑠色金強奪作戦実行の日となった。ちなみに全然、これっぽっちもめでたくはない。どっちだ。

 

 そして、ジーサードの雑なブリーフィング(内容はとりあえず遠山に任せる)が終わり、ジーサードの軍用機アメリカ上空を飛んでいる。いや、わりとマジで雑いなおい。それ作戦でいいの? 遠山にぶん任せたい気持ちは分かるけどね!

 

 前回はネバダ州に入った辺りで撃墜されたらしいが、今回はどうなることやら。ニューヨークからネバダ州までの間はジーサードと敵対していない場所を中心に飛んでいるからまだ安全だろう。

 

「…………」

 

 戦闘行為までしばらくは時間があるし、今回の作戦で気になることがある。今のうちに訊いておこう。

 

「ジーサード、今時間いいか」

 

 義手のメンテナンスを1人でしているジーサードに声をかける。

 

 誰もいないタイミングを見計らう。あまり人には訊かれたくない話題だろうからな……事情を知らない俺はともかく、恐らくコイツにとっては。

 

「……いいぜ」

 

 俺がわざわざ独りで来たことで何となくは察したのだろう。作業を取り止め俺と向き直る。

 

 しかし、俺とは視線を合わせようとしない。不機嫌、というわけではない。どこか気まずさや申し訳なさを覚えているのか、ジーサードはバツの悪そうな表情になる。まだ接した時間は短いが、ジーサードがこのような態度を取るのは珍しい。

 

「しばらくしたら騒がしくなるだろうし、今できれば訊いておきたいんだが――――改めて、お前はどうして色金が欲しいんだ?」

 

 依頼を受ける前にも訊いたことだが、あのときは色金を悪用するかどうかの確認をしたかっただけだ。今は違う。傭兵として雇われている俺だが、今となってはさすがに知りたいという気持ちにもなる。

 

 命を懸けるからこそ、依頼人の事情を少しは把握しておきたい。でなければ命を預けるなんて前提が成り立たない。昨日、個人の思想はどうでもいいとか思いながら矛盾したことを考えている。だが、それはあくまでジーサードとマッシュルームとの因縁の話だ。

 

 当然、ジーサードが話したくないことくらい理解している。それでも、こちらが依頼者の考えを知りたいというのも当然の話だ。そこは食い違わおうとも話し合わなければいけない。そうでもしないと、やはり何も始まらない。

 

 

「…………」

 

 

 話したくないのか、いざ話そうにも言葉が見付からないのか、言葉の詰まるジーサード。視線は泳ぎ、迷いが見て取れる。重苦しい空気がこの部屋を満たしのしかかってくる。

 

 恐らく、個人の触れたくない過去へ無遠慮と踏み込もうのいうのだ。さすがに良い気分とはならない。しばらく視線は泳いでいたが、ようやくその口が開く。

 

「……やっぱ、それくらい話さないとな。何も伝えず命をくれってのは虫が良すぎる。……でも、一応は依頼するときにそれっぽいことは言ったんだぞ。俺は――――ある人を甦らせたいんだ。色金にはそれを可能にする力があるかもしれない」

「色金に、死人を甦らせる力……」

 

 その一言にそれなりの衝撃を受ける。

 

 果たしてそれは真実なのだろうか。そこまで反則めいた力が今俺の胸にある色金にあるのか不思議に感じる。その言葉を否定したいが、可能とも思ってしまう俺もいる。

 

「正確には、過去に干渉する力ってやつだ。事実、緋緋色金ではその実例がある。台場にピラミッドのカジノがあるだろ。ありゃ数年前に『どこかの国から漂着した巨大なピラミッド型の投棄物』に都知事がインスピレーションを受けたやつだ」

「ほーん。あー、そういやあのカジノってそうだったなぁ。……で、その投棄物とやらに緋緋が関係しているのか」

「まぁ、だな。そういうことだ」

 

 そういや緋色の研究にも時間云々って記載していたような覚えがある。

 

 用意周到なジーサードのことだ。本当に関係あるのか前もって調べているんだろう。しかし、そんなことが緋緋にできるなら近しい力を持っている俺にもできるのかと少しばかし不安になる。いや、不安というより恐れに近い。

 

 そこまでにして人の道を外れてしまっていいのかと。少し、身がすくむ。

 

「その力を用いてジーサードの親しい誰か、知人を甦らせたいと。あ、別にその人についてまでは訊こうとはしてないからな」

「あぁ。いや、ちゃんと教える。知人っていうか俺の恩人だ。俺のせいで亡くなってしまってな……」

 

 だから話さなくていいのに。個人の事情についてそこまで深く関わるとどうしても情が湧く。だから、あくまで目的を訊きたいだけなんだがな。そして、それはもう達成されたと言うのに。

 

「それで俺はこの前、神崎アリアを狙った。判明している緋緋色金のある場所は現在、彼女の中しかないからな。つっても、兄貴にコテンパンにされてんでもう諦めたが」

 

 ジーサードはそう笑って飛ばす。ジーサードたちのことは別に遠山から訊いてなかったのだが、そんな経緯があったのかと今さらながら知ることになる。

 

「でだな、兄貴からは色金を使って甦らせようとするのは止めろって言われている。神崎アリアの件は差し引いても、成功する確率なんてねぇし、危険だからつってな。……イレギュラー、お前はどう思う? やっぱり反対か? …………俺は、間違ってるか?」

 

 先ほどとは打って変わり、俺の視線を真っ直ぐと見てそう訊ねてくる。

 

「…………」

 

 ――――こういう場合、俺はどう答えるのが正解なのか。

 

 何かに迷っている相手が、相談相手に『どう思う?』と問いかけた際、相手の望む答えは、同意や共感が欲しいのか、きっぱりと止めろと反対意見が欲しいのか、そのどちらかだ。

 

 何にせよ、背中を押してほしいのだ。そうでもしないと、踏ん切りが付かない。自分では最終的に決められないから誰かの一押しが必要なのだろう。それが肯定であれ否定であれ。

 

 だとすると、俺はジーサードを止めるべきなのか、そう考えるとそれは違う気もする。確かに俺の身の回りの人物に危害が及ぶなら、止めるのも致し方ない。ていうか、当たり前のことだ。

 

 しかし、今は違う。ただ迷っているからこそ、何かに縋りたいだけだろう。だったら、俺の今感じている、考えている言葉を発する方が都合がいい。

 

「例えばさ、推理ドラマとかで復讐は何も生まない、その相手はそんなこと望んでないってよく言われるだろ?」

「……ん? あぁ、まぁ、そういうセリフってのは何回か訊いたことあるな。なんだ、いきなりだな」

「いいから訊け。でだ……ぶっちゃけ、そんなのただの綺麗事だよな。犯人の思考からすると、そんなこと知るかって思うし。別にその相手のためってのもあるけど、何よりこっちがスッキリしたいために復讐しているんだからさ。自分の嫌いな相手がのうのうと生きているのがウザいから殺人犯とかってソイツを殺すんだろう? 極端な話」

 

 武偵としてこの発言はどうなの? ってのは置いておく。

 

「だろうな。こっちの欲求に従ってるだけだろ、あれは」

「それと似たようなもんだ。途中で止めてどうせモヤモヤするくらいなら――――自分の試せる可能性、全部試してから止めればいい。諦めるならそのときだ。そっちの方がまだいっそのこと清々しいだろ。全部できることはやったって自分を説得できるんだから」

 

 そんなの、説得という名の自分を誤魔化し、本音を抑えつける行為に過ぎない。ただの詭弁だ。それでも、これから前を向けるならまだ幾らかはマシだろう。

 

 人間、誰だって納得いかないことはある。理不尽に流されることはある。それをどう折り合いを付けるのか、どうやって受け流すのかは……本人の気質による。

 

 俺は過去の自分の行動がフラッシュバックして羞恥心に襲われることはあれど、武偵になったからか自分の過去はある程度は受け流せるようになってきた。そこはもう割り切っている。

 

 そして、受け流すことが苦手な奴も、ずっと引き摺ってしまう奴もいるのは承知だ。

 

 ジーサードの言う、恩人を死なせたってのがどの程度かは分からない。しかし、そりゃいつでも引き摺るよなと少しは理解する。時間が解決せず、いつまでも呑み込めない部分もあるのだろう。

 

「お前がどう過去と折り合い付けるかは知らないけど、後悔しないためにできることはすればいい。遠山に言われたようにもうスパッと止めるも良し、終わりのないゴールに向かって進むも良し。……ただ、遠山の言う通り、神崎には手を出すなよ。つーか、やるなら人死にというか他人に迷惑かけない程度やれ。それなら誰も文句は言わない」

 

 それを言ったらシイタケと敵対している時点でエリンギ陣営には迷惑をかけてるってことになるが、まぁ、そこはお互い様なのでノーカウントってことでね!

 

「…………そう、だな。そうなるよな」

 

 何かを噛み締めるように呟くジーサード。

 

「とりあえず俺の知りたいことも知れたし、作戦に備えて待機しとくわ」

 

 と、俺が背を向けたところで声が届く。

 

「……ありがとよ」

 

 その言葉に俺は何も答えず手をヒラヒラと振ってから退室する。

 

 

 

 ジーサードとの話も済み、一先ず待機しようと廊下を歩こうとしたのだが……俺に声をかけたそうな奴がいることに気付いた。というより、ジーサードの話している最中、センサーが反応していたので気付いている。

 

「……ツクモ、だったか」

 

 ジーサードの部活であり和服狐耳のロリッ子属性持ちのツクモが俺を待っていた。

 

「今なにか侮辱受けた気がするんですけど」

「気のせいだ」

 

 心読める超能力持ちはジーサードんとこだと別にいるだろ。お前ではない。名前は確かロカだったか。

 

 ちなみに話したことはない。ていうか、ツクモとも初会話な時点で察してくれ。ジーサードの仲間たちとの会話の9割はかなめだ。厳密にはかなめもジーサードから抜けているらしいので、なんなら10割アンガスさんになる。

 

「どした? ジーサードならそこにいるぞ」

「いや、イレギュラーに用があるんですけど」

 

 初対面ではないけどこれが初会話の俺に用事? 妙だな……とどこぞの名探偵ばりに怪しんでみる。そうもキッパリとした表情で言われると変に身構えずに俺も話を訊く体勢になれる。

 

 それとイレギュラーって名前と敬語交ぜるのわりとミスマッチじゃない?

 

「その、さっきの話聞こえてまして」

 

 まぁ、あのとき若干扉開いてたから聞こえてもおかしくはないか。普通に閉め忘れてた。てへっ。

 

「ほーん。で? え? あれ、なんかあんの?」

「いや……その、サード様の話を訊いてくださってありがとうございます。私たちでは踏み込めない事情ですので」

 

 伏し目がちで申し訳なさそうにしているツクモに少々驚く。その態度に疑問というか違和感を持つ。

 

 ジーサードに訊かれないよう離れるため、歩きながら少し詳しく伺うことにする。

 

「ジーサードの部下たちってアイツの目的知らないのか?」

「いえ、みんな知っています。ただ……その……サード様にとって……」

「アンタッチャブル?」

「……えぇ、そうですね。サード様があの人を救いたいというのは存じています。……ですけど、以前まではまるで自ら死にに行く、という雰囲気がありましたので」

「つってもアイツ強いだろ。そう簡単に死なな……まぁでも、お前の話を訊く限り自暴自棄な部分があったのかな」

「はい。……遠山キンジと戦ってからどこか清々しい表情にはなりましたけど、やはりどこか思い詰めた顔をするときが……」

 

 知っているからこそ一歩が踏み込めない。相手を信頼してないのではなく、その逆。大事に想っているから触れないようにしている。ツクモの口振りからするとジーサードの部下全員そうなのだろう。

 

 年上のアンガスさんたちもいるが、あの唯我独尊の雰囲気を醸し出しているジーサードには安易に口出しできないのかもしれない。

 

 つまりあれか。

 

「事情をろくに知らない俺が、適当に引っ掻き回すのがちょうどいいのか。分かるぞ。空気読めない奴の無神経な発言で逆にグループが回るときがあるよな。ぶっちゃけ俺はそういう奴嫌いなんだけどな」

「何もそこまで言ってないのですが……」

 

 若干引き気味の笑みを浮かべるツクモに話題選びを間違えたと認識する。うん、どう考えても話題選びが違うねごめんなさい。

 

「ですので、何と言いますか……サード様の悩みを親身に訊いてくださってありがとうございます」

 

 親身?

 

「親身?」

 

 あ、口にも出しちゃった。いやごめん。どこが?

 

「充分すぎるほど親身でしたよ」

「別に依頼人としてただ俺の知りたいことを訊いただけであって、そんな感謝されることじゃないんだけど」

「それでも、です」

 

 なんてハッキリと言われたらこれ以上突っ込むのもやぶ蛇というものだ。素直にその言葉を受け取ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして時は流れ。

 

 

「あのさぁ、これどうすんの?」

 

 ネバダ州に入ってしばらくした辺りでジーサードの戦闘機は撃墜されました。まる。

 

 ちなみにアンガスさんの素晴らしい運転で無事負傷者はなく不時着できた。せいぜい擦り傷程度。

 

「……砂漠って初めて来たわ」

 

 ネバダ州はほぼ砂漠地帯。俺らは移動手段はなく砂漠に放り出されたのだ。夜明けなので気温が低いのが幸いか。

 

「とりあえず移動だ。つか周りを見ろ。俺の部下たちはちゃんと動いているじゃねぇか」

「くっそ帰りてぇ……俺独りなら多分帰れるから余計に帰りてぇ……」

「八幡さんだけ瞬間移動しないでください。するなら私も連れていってください」

 

 今までの決意はどこへやら。とてつもないほどの帰宅願望に襲われている。日本までは厳しいかもしれないが、ニューヨークまでなら恐らく行ける……。

 

 たしかにジーサードの部下たちは破壊された戦闘機を自爆させようと動いたり、使える荷物や食糧の選別を行ったりと精力的に動いている。こんなある意味絶望的な状況でも冷静に動けるのは非常にスゴいことだと思う。

 

 冷静でいられることがどんな場面においても重要なことだ。俺はちょいちょい冷静さを欠くことがあるので、その辺りは見習わないとな。

 

「よく動けるなぁ」

「おら、イレギュラーも手伝え」

「ほーい。指示くれ」

 

 その後、どうやら人工物がある方角……つまりは街があるかもしれない場所が判明したのでそこに向けて歩くことに。なんかゴツいロボットっていうかなに? 強化スーツみたいなのがあるから荷物を背負わないでいいのは楽なのが救いか。

 

 砂漠を歩くのはよく漫画で読んでいたが思っている以上に過酷だった。風は乾いているし砂が肌に張り付くし喉はやたら渇くしで体力が奪われる。冬で全体的に気温が低いことが幸いしてどうにか日中歩くことで目的地へ着くことができた。

 

 軽めの烈風で砂を防ごうと考えたがここで超能力は消費したくない。自分の荷物にマックスコーヒーを複数備蓄しているとはいえだ。

 

 特別特筆すべきこともないので砂漠を歩くとこはカットカット。んで、たしかに街には着いた。

 

 

 

「ていうか、街には街だけど」

「廃墟ですね」

 

 ゴーストタウンというやつだ。

 

 まぁ、オアシスもなさそうだし、廃墟になったのも当然か。少し街を見回ったところ劣化具合からして70から80年くらい前には無人化した様子だ。西部劇時代辺りの遺跡、といって良いかもしれない。

 

 つーか、こんなの残ってるもんなんだなと感心する。日本なら雨風でとっくに潰れてそうだ。特に台風とかの気候が日本は多いし。

 

 建物の損傷具合を確認していると一先ず良さそうな建物を見付ける。ふむ、どうやらここはかつてバーだったらしい。マジで西部劇染みている造りだ。リアルにここを使っていたのだろう。

 

 報告するか。近くにいるのは……かなめだ。

 

「かなめ、とりあえずここは使えそうだ。寒さは変わんねぇけどな」

「んー、まぁこれならイケるね。すきま風は余裕で入ってきそうだけど、吹きっさらしよりかはマシかぁ。みんな呼んでくるね」

 

 パタパタと駆けていったかなめを横目にしつつバーに入る。暗くて細部は分からないが、センサーでどこに何があるかは何となく理解できる。とりあえず分かることはあれだ、至るところは砂だらけ……。うんざりしそう。

 

 かなめの言う通り外でずっと吹きっさらしに比べれば幾分楽だろう。文句は言いたいけど、言葉にせず大人しくする。

 

 すぐにジーサードたちも合流し、ここで一泊することになった。レーションも与えられ夕食へ。さすがアメリカ人なのか興味はそれぞれ様々な場所へ向かう。まだ使えそうなピンボールだったり酒だったりと。

 

 こういう状況でポジティブにいられるのは見習うべきなんだろうな。さてと、飯も食べ終わったしどうしようか。明日に備えて就寝しようかと迷う。

 

 しかし、こんな滅多に来れない場所に来たんだ。このまま寝るのもどこか勿体ない。アイツらに見習い俺も行動を起こそう。

 

 バーから離れ適当に目の付いた建物の上へ飛翔で昇る。月明かりで思いの外暗くはない。

 

 超能力を少し使ってしまったが、その程度問題ない。備蓄していたマックスコーヒーの缶を開け屋上に腰をかけチマチマと飲む。

 

 風は多少収まっている。砂漠の荒れた建物の屋上で月明かりの下でマッ缶を飲む。ふっ、これはなかなか風情があるぜ。

 

「…………」

 

 さて、俺が変にカッコ付けてるのはさて置き、真面目に考えよう。恥ずかしいというかただただ虚しいだけだ……。

 

 明日からどうなるのか。どう動くのか。どう戦うのか。課題は多い。

 

 こちらの機動力はほぼない。徒歩でエリア51まで向かうのはムリだろう。ネバダ州って北海道の3倍は広いって話だ。あまりにも現実的ではない。

 

 この辺にもっと大きな街があるなら車とか借りれるんだろうけど、そもそもステルス迷彩施している戦闘機を撃ち落とせる戦力がしめじ側にはあるのに車で特効は厳しすぎるだろ。

 

 となると他の選択肢は……マジでないんだけど? 俺だけなら目的地に行けないことないが、前にもジーサードの話した通りその後はどうするんだって話になる。ていうか、戦闘機がムリなら他に何なら行けるんだろう。

 

「……?」

 

 俺が頭を悩ませても仕方ないと思いボーッとしていると、遠山と誰かの声が聞こえる。詳しい話し声は聞こえないが、ここから何か見知らぬご老人とトラブっているのが見えた。

 

 ほへー、ここに人住んでいたんだ。とまぁ、ボンヤリ思いつつも下に目を向ける。

 

 さすが毎年銃で撃たれて亡くなる人が多いアメリカだ。トラブル気質の遠山と話すだけですぐヤバい雰囲気になっているのがヒシヒシと伝わってくる。なんならそのまま銃の構え合いになりそうな雰囲気だけど、どうにか落ち着きそうだ。まぁ、ジーサードも向かったし放っておいて平気だろう。

 

 遠山とジーサード、そして見知らぬ老人を上から見送り――――俺はしばらくこの枯れた建物の上で留まっていた。

 

 …………マッ缶、甘いなぁ……。

 

 

 

 

 そして、一晩経つと……俺の目の前には信じられないものがあった。

 

「え? なにこれ?」

 

 あのあとジーサードたちとは合流せず別の建物で休んだ俺はレキに見付かり叩き起こされる。それから昨晩遠山と揉めた老人はどうやら味方になったらしく、どうやら目的地があると連れていかれた。

 

 ちなみに老人は元軍人だと。ホント、アメリカだとどこにでも軍人いるよね。

 

 そして、連れられ案内されたのは……車庫だった。その車庫の中には――――なんとびっくり蒸気機関車があった。

 

「うわっ、んだこれ。スゴいな……」

「だなぁ。迫力あるっていうか」

「威圧感あるっていうか……」

 

 あまりの迫力に思わず感嘆の声を洩らす。遠山も同じ反応みたいだ。

 

 実物とか初めて見たわ。ていうか動かせる蒸気機関車とかまだ存在していたんだ。ほへー、うわー、なんだか感激するまである。内心バカになっているなこれ。

 

 ジーサードの戦闘機にもテンション上がったが、今回のはまた別の高揚感がある。メカメカしいのは男の子大好きだからね!

 

 とまぁ、蒸気機関車発覚に伴い、日が明るくなりようやく分かったのだが、この街はどうやら駅みたいだ。遠山に言われて気付いたけども、荒野の先にはレールがめっちゃ敷かれてあるし……。もうちょいセンサーの感度上げれば気付けたやつ……これはちょっとやらかしたな。

 

 老人――――サンダースさんの英語は訛りが強く聞き取れなかったので代わりにレキやジーサードを通して翻訳してもらった。……情けねぇ。

 

 ていうか、遠山は聞き取れてそうなんだけど、お前そんなに英語の成績良かった? 俺より低かった気がするんだけど? 遠山に何があったんだ……。

 

 そして、この蒸気機関車の名前はトランザムと教えてもらった。お? なに、ガンダム好きなの? と厄介なオタクのような思考になるが、たしかあれだよな、トランザムってアメリカ大陸横断って意味だった。他にも色々あったと思うけど。

 

 しかし――――

 

「…………」

「八幡さん、どうかしました?」

「いや……」

 

 少し悩んだ顔をしていると目敏いレキに感付かれる。

 

「喜んでいるジーサードたちに水差すのは気分良くないのは分かる……。ただこれ、機動力は徒歩よりマシ……なんだろうけど、これはこれで厳しいんじゃないかってな」

「相手は戦闘機を落とせる攻撃力があるわけですしね」

「おまけにこっちは電車だからな。動ける幅に限りがある」

 

 基本縦移動の電車だから攻撃を避けるのも難しいだろう。VS人なら負けないが、VS軍事力になるとかなり厳しいとこはある。

 

 さすがにジーサードたちもそれは当然分かっている。とはいえ、それでも彼らは挑むしかないのだろう。自身の目的のために。ならば俺の役割は、何も変わらない。まぁ、なるようになれ。

 

 アンガスさんたちが整備している横で一息つき、遠山に気になっていたことを話しかける。

 

「ところで、この線路はどこまて続いているんだ?」

「執着点の1つにエリア51の中でジーサードに親しい地域がある。どうやらそこまで行ければ、色金に肉薄できるみたいだ」

「そこにジーサードを届けさえすれば俺らの勝ちか」

「だな。多分そうなる。……それでだな、比企谷。お前は本当にいいのか?」

「何が」

「俺らに付いてきて、だ。レキと一緒に守備役としてここに残っても……依頼されたとはいえ、死ぬかもしれない。俺は家族の問題だし、付いていっても問題ないんだが、お前らは依頼さえなければ無関係なんだ」

 

 不安そうに訊ねる遠山に対して俺は少し目を丸くして驚く。そこを心配してくるとは思ってもいなかった。たしかに今回は今までの対戦相手とは文字通り戦力が違うにしてもだ。

 

 遠山が心配してくれるのは1年以上一緒に暮らしてきた身として嬉しさもあるが、これでも武偵だ。武偵憲章もあるし、何より俺個人としてジーサードと同行したい。これは同じチームであるレキにも話して了承を得ている。

 

 だから、ここで俺らが降りる選択肢はない。

 

「大丈夫だって。お前が心配することはない。ジーサードから金は貰ってるし、何より俺も瑠瑠色金に会いたいし、お前がそんな深く考えなくてもいいよ。これは俺らの問題だ。それにぶっちゃけた話、逃げようと思えば俺らは逃げれるし」

「……そうか。そう言ってくれると助かる。最後の一言がなければもっとカッコ良かったんだけどなぁ」

「ほっとけ」

 

 

 

 

 整備も済み、無事古めかしい蒸気機関車は走り始めた。普通に走れば約2時間で到着する計算らしい。距離にしてざっと185km。思いの外ゴールまでの距離があるな。とはいえ、徒歩に比べたら断然楽なのだか……どうなることやら。

 

 遠山が景気付けで警笛を鳴らしているのを遠巻きに見ながら俺とレキは3両ある最後尾の車輌で後ろを警戒するように見張っている。

 

 今ここを走っている場所はネバダ州リンカーン郡西部。政治的に反ジーサードの地域みたいだ。もし向こうに捕捉されてるならすぐにでも異常が分かりそうだが……。

 

「静かだな……」

 

 俺の呟きに様子を見てきたジーサードが反応する。

 

「……だが、アイツはそろそろ俺らを見付けているぜ。衛星を使って監視している。いきなり今まで使われてこなかった汽車が横断を開始したら怪しむのも当然だ。多分あと10分もしないうちに」

「戦闘開始……か」

 

 改めて気を張り詰める。何が来ようともジーサードを終着点へと送り届ける。それが今回の俺の役割。さてと、そうと決まれば最後に装備の確認はもう別にいい――――

 

「あ?」

 

ジーサードが先頭車輌に戻ってから後方にまた目を向けると、何かいる。黒い影が離れて見える。空を飛んでいる。飛行機の類いか?

 

遠山も気付いた。その隣でレキが肉眼で確認する。

 

「――――航空機のようです。全幅は40m強。速度をこの汽車に合わせて3,2kmの距離を合わせて追跡しています」

 

 どうして肉眼でそこまで分かるの? って、話しているとキノコがもう追ってきたか。

 

 その後遠山がすぐにジーサードに確認を取ろうとしていると。

 

 ――――パンパパパンッ!

 

 車体の下から短機関銃のフルオート連射音のようか破裂音が鳴った。え、なに? 地雷でも踏んだ?

 

『今のは大昔に線路上に設置された防水爆竹を汽車が踏んだ音だ。ここから先は保安官も線路を監視できないような無人線区――――つまりは立ち入り禁止の、伝統的無法地帯って意味の注意報さ』

 

 と、インカムからジーサードの解説。なるほど、ここからゴールまでが決戦の場になるのか。いいね、こういう粋なの俺は好きだな。かつて様々な黒歴史を産み出した俺の中二心が擽られる。

 

 互いに無法地帯へと侵入したところ向こうの航空機――――ジーサード曰くX-48E『グローバルシャトル』が加速し蛇行を開始した。

 

 エリンギに備えてそれぞれポジションに付くなか、レキから忠告が飛んでくる。

 

「敵機、何か切り離しを行いました」

『確認したぁ! んだありゃぁ……ってあのシルエット、くっそが。LOOか!』

 

 切り離された何かが翼を付け荒野をとてつもない速度で飛ぶ。その何かにジーサードはすぐに気付く。続いて遠山もほぼ同じタイミングで声を上げた。

 

 少女型のロボット、LOOが翼や装甲をゴテゴテ増設した姿で飛行している。翼はグライダーのように鋭角的。エンジン音がしないことから、切り離しされた位置から動的揚力と何かしらの最先端科学の力で滑空しているだけだ。まぁ、もしかしたらエンジン付いていて空を飛べるかもしれないけど、それは知らない。

 

 あと1分もすればトランザムに追い付いてきて戦闘が始まるだろう。

 

「――――」

 

 そこでふと考える。あのLOOは宣戦会議でもかなりの怪力を見せたことは記憶に新しい。まぁ、機械だもんな。普通の人間では考えられないパワーがあるはずだ。それに向こうの武装も分からない。

 

 そんな奴をこんなボロボロな汽車に近付けていいのか?

 

 仕方ない。ここは俺の仕事か。いや、俺ではない――――俺たちの、かな。

 

「……レキ」

「分かりました」

 

 俺が何も言わずともすぐに察したのか弾薬などをささっとまとめるレキ。

 

 最後尾で守備役として銃を構えているかなめやツクモたちに話しかける。

 

「お前ら、アイツには撃たなくていいぞ。貴重な弾使うな」

「比企谷さん、何をするつもり…………まさかっ!?」

「そのまさか」

「イレギュラー、それはあまりにも危険すぎます!」

「気にすんな。仕事だからな」

 

 適当にかなめたちの文句を流しつつ、インカムで遠山たちに連絡する。

 

「ジーサード、とりあえずあの可愛いロボットは俺らに任せろ。できる限り足止めするわ」

『…………あ? おいイレギュラー、テメェ何言ってやがる。んなの許可できるわ――――』

「つーわけで、チームサリフはここで途中下車だ。あ、遠山」

『……何だ』

「お前がさ、乗る飛行機はよく墜落するって言ってたけど、どうやら俺が乗る電車は最後まで乗れないみたいだ」

 

 そんな軽口だけ残してレキをお姫様抱っこしてから、最後尾の扉を開けて飛び降り、烈風で減速しながら着地する。これはあとでジーサードたちにしこたま怒られる流れだなぁ。ごめんね、言うこと全然聞かなくて?

 

 

 

「よっと……」

 

 レキを降ろすと、あっという間にトランザムはアメリカを駆けるために喧しい走行音を奏でながら姿を消していく。

 

「悪いな、付き合わせて」

「いえ、貴方が決めたのなら――――私は貴方の隣にいるだけです」

 

 レキは凛とした口調で確かにそう告げる。そう言ってくれると俺としては非常に助かる。

 

「それより気付いていますか?」

「ん?」

「チームサリフを結成してから、初めて八幡さんと組んで強敵と戦いますよ」

「……言われてみれば」

 

 はっとその事実に気付く。

 

 チーム結成してから宣戦会議、ヒルダとの戦闘、香港での戦い、色々とあったが、レキと2人で戦うってのはなかった。ヒルダは俺のワガママ通したし、総武高ではろくな戦闘なかったし。

 

「なら、頑張らないとな」

「はい」

 

 そんな会話を挟みつつ俺らは意識を戦闘態勢へと移行させる。レキはトラグノフを構え、俺は飛翔で空を飛びLOOと高さを合わせる。

 

「――――」

 

 あと数秒でLOOと接触する。目下の目標としてはコイツをトランザムに近付けない。ついでに何か追撃があるなら、できる限り足止めするって感じか。

 

 まぁ何にせよ、とりあえず――――

 

「――――墜ちろ」

 

 LOOが俺の射程範囲内に入った瞬間、最大出力の烈風を起こす。

 

 今のコイツは紙飛行機と同じように飛んでいる。全然風が吹かないこの荒野だから飛ばせるのであって途中で強力な風が起きれば、軌道は変わる。俺ならムリヤリ変えれる。

 

 地面に思いきり叩き付けられるLOOだが、すぐさま体勢を整え下がり俺らと距離を取る。

 

「っと」

 

 続いて俺も着地する。50mほど離れた距離で睨み合いが続く。

 

「……ふぅ」

 

 目の前にいる敵は今まで戦ってきた敵とはまるで別物。軍事力そのものみたいな奴だ。路傍にいる2人の人間なんてあってないようなものだろう。おまけに向こうは幾らでも戦力を追加できるかもしれない。

 

 正しく、理不尽と言ってもいい。

 

 そんな理不尽に対抗しなくてはならない。

 

 ならどうする? ちっぽけな存在に何ができる?

 

 別に答えは簡単だ。わざわざ難しいことをする必要はない。

 

 

 

 

「魅せてやるよ。お前では理解できない、お前とは全く別の――――圧倒的な理不尽を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、高評価してくれたら嬉しいです
書きたいとこまでいったら久しぶりに一万文字越えた。次でまだた久しぶりに戦闘シーン書くのでどうなることやら……

今一人暮らししているけど、日に日に金髪ヒロイン(エロゲ)のグッズが増えていくぜ
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