ボコボコにすると再度宣言し、また始まる肉弾戦。
目の前の緋緋の動きに意識を割きつつも、別のことに対しても思考を回す。
――――どうすれば神崎は元に戻るのか。
ここに至るまで長らく考え、ぶっちゃけ全く結論が出なかったこの課題について緋緋と戦っている今だからこそ、俺はまた考える。
緋緋は神崎の意識を完全に乗っ取ったと言った。それはもう確かな事実なのだろう。
今まで何回か乗っ取られたことはあったらしいが、そのときは殻金が全部あったり、軽度ならすぐに戻せる対策したものがあったりしたらしい。
しかし、今回はもう時間が経ち過ぎている。
具体的な時間は分からないが、多分今までが数分程度だったのに対し、今回はもう数時間は経っているかもしれない。イギリスで乗っ取ったのかどこでこの状態になったかは今の俺では知る由もないが……。
そこまで馴染んだのならば、もう使ってきた対策案 は意味を成さない。――――それこそ、緋緋を殺すことでしか神崎を救う手段はない可能性がある。といっても、当然それはなし。
であれば、前にアメリカで瑠瑠と話したように、やはり今度は神崎が乗っ取り返すしかなさそうな気がするが――――
「どうした、考え事か! あたしを前に!」
「――――ッ!」
その緋緋の一言でハッと意識が戻り、反射的に銃を手に取ってしまう。その瞬間、緋緋のハイキックが俺の肩に直撃し、思考が中断してしまう。
鳩尾を狙っていたからどうにか逸らしたと思ったが、勢いは殺せず直撃してしまう。
「いっ……!」
かなりの力に思わずかなり後ろへ下がる。いや、痛すぎるんだが? その流れで銃を吹っ飛ばしてしまう。くそ、意識別のことに割きすぎた。銃は取りに行けない……戦力が下がってしまった。
で、蹴りを喰らった直後、また距離が空いてしまい緋緋は手を前に突き出し。
「ほーら、吹っ飛べ」
「……ちょっ!」
という言葉と共に、またあの謎の斥力が押し寄せてくる――――と判断した俺はすぐさま飛翔で上へ急いで飛ぶ。
うわ……あっぶね。一度喰らったからか、どうにか予兆を感じれてギリギリ回避できた。肩の痛みで一瞬判断が遅れかけたけども。
…………あ、神社がまた少し壊れた。恐らく本殿辺りの縁側がまた抉れた。相変わらず攻撃力高いな、あの斥力。
「ごめん」
それはそれとして、聞こえない声で星伽さんたちに謝る俺。……あとで弁償しないといけないのかなぁ……いくら払えばいいんだろうか……ダメだ、怖くなってきた。
内心別のことに怯えつつ、もう攻撃は終わったと判断してから着地。
とりあえず考えなしにのんびり歩いて緋緋に接近する。
何が来ても対応できるよう警戒はしているが、これからどうしようかなぁ……と、互いの距離が縮まったところで、緋緋は神崎の刀を抜く。そういや神崎も二刀だったなと今さらながら思い出す。
「あれ、お前って武器使えるのか」
「あたしがどれくらい生きていると思っているんだ。様々な武器を扱ったことくらいある。孫のときも色々と使っていたわけだしな」
「それもそうか――――じゃあ、とりあえず……動くな」
「……ッ。これは……!」
4m切ったところでLOOにやったような最大出力の烈風での抑え付けを発動する。
まぁ、軽いとはいえ機械のLOOも動けなかった出力だ。人間の体なら身動き取るのも難しいはずだ。緋緋は顔をしかめ、腕を動かそうとするが、それも叶わず膝を付く。刀を手放し、手を地面に付いて耐えている。
常に台風並みの風が襲っているようなもんだならな。生身の人間が動くのはかなり辛いはずだ。
「くっ……」
こちらを見上げ睨む緋緋。うん、少しはイイ気分だ。晴れ晴れ愉快気分爽快。
さて……この出力をずっと維持するのはけっこうキツいので長くは続かない。長時間抑えるのはムリに近い。俺の力もいずれ尽きる。だから当然、さっさと次の手を打つ必要がある。
で、とりあえず戦闘不能にはしたいから、銃を使う? いや、下手すれば殺してしまうし、風の檻のせいで多分狙いどおりに飛ばない。そもそも、緋緋の蹴りで吹っ飛ばされてからまだ拾っていない。
それならば――――色金の力を除けば俺の最高火力を喰らわすために、俺は指の先に風を一点にただ圧縮させる。
これを人に撃つのは初めてでどうなるか分からないけど、多分死にはしないだろう。という希望的観測と共に緋緋からの反撃に警戒しつつ集中力を練り上げる。
俺の技でも攻撃力がかなり高い技でも喰らって大人しくしておいてくれ。頼むから。いやもうホントに。そんなカッコ付かない願いを込めて発射準備が完了する。
「災禍」
LOOの大部分を破壊まで追い込んだ災害の塊である風の弾丸。
「……ッ!」
――――を緋緋に放った直後に気付く。
緋緋の体の周りにかなりの数の緋色の粒子が、浮かび輝いていることに。これは非常に不味いとすぐに理解するが、もう災禍は止まらない。
この現象が起こる超能力は――――瞬間移動!
バキバキバキバキ――――ッ!
と思ったのも束の間、渾身の災禍は緋緋には当たらず飛ぶ前の緋緋の背後にあった木々を数本薙ぎ倒し、派手に折っただけに終わった。
「どこ!?」
予想外の事態に面を喰らい、かなり焦る。緋緋の動きを完全に抑え付けた上で放った災禍は必中だと思い油断した。反撃の可能性を考慮していたとしてもだ。何か来る前に災禍を放てると確信していた。
そうだ、コイツここに来た時点で瞬間移動使っていたな。すぐさま影や斥力などで抵抗しなかった時点でこれを選択肢に入れておくべきだった。
「あたしはここだぞ、イレギュラー」
緋緋の声がした方向へ振り向く。アイツ……星伽神社の本殿の屋根に立っている。視界内の移動に使ったか。屋根の……わりと端の方に立っているな。
「いやしかし、お前の先ほどの攻撃……凄まじいな。正直引くぞ。いくらアリアの体の強度が高いとはいえ、あれを喰らえば最悪死ぬんじゃないか? 逃げて正解だったな」
まぁ、それなりに太い木々薙ぎ倒したし。生身の人間に当てたらどの程度のダメージになるのか甚だ疑問である。
ていうか、けっこう離れたな。直線距離でざっと20mくらいか?
「あたしたち姉妹の力を使わずにこれか。人の進歩は侮れない……か」
「これは借り物だから別にそんな誇れたもんじゃないが……それで、ここからどうする? 疲れたし、お茶でもするか?」
「悪いが遠慮する。まだまだ私は戦いを続けたいならな。しかし、お前相手に隙を作るのは一苦労すぎる。だから少々卑怯な手を使わせてもらおう」
と、宣言して緋緋は瞳を紅く紅く光らせる。
「ッ……」
あれは如意棒……レーザービーム。視界内のものならほぼ何でも貫ける光の銃弾。
それを俺に……いや、緋緋は俺を視界に入れていない。なぜ? 俺の隙を作ると言っていたのに俺を狙わないとはどういう意味だ? どこを見ている? あらぬ方向に視線を向けているが――――いや、違う。アイツの視線の先、あそこには避難しているはずの星伽さんたちがいる……!?
「クソがっ……」
ある程度貫通すれば威力は減衰して消えるとはいえ、木造建築が主流の神社だ。とてもじゃないが、防げるとは思わない。ここからでは誰狙いかも分からない。撃たれたら確実にアウトだ。
俺の隙を作るってこういうことかよ。緋緋が本当に当てるかどうかは不明だ。しかし、だからこそ、不明な以上、武偵である俺はこれをどうにか防がなければならない。
とりあえず、一度でも目を瞑れば発射をキャンセルできる。その間に距離を詰めてどうにかするのが最善だ。しかし、俺の手中には銃がない。災禍も射程外。
しかし、20mほどの距離ならば飛翔で詰めることはできる。ただ、詰めてからすぐにチャージが完了したらそのまま撃たれるだけ。まず対策案を考えてからでないと特攻するだけもいいとこ――――あぁもう、ゴチャゴチャと考える前に行動しろ!
「……ッ!」
災禍ほどの威力ではないが、それに近い風の爆弾を作り、爆発させその勢いで飛ぶ。いつもの飛翔とは違う、完全な勢い任せ。姿勢を制御することも、速度に注意することもしない。ひたすら真っ直ぐ、距離を詰めるだけに飛ぶ。
緋緋の元へ近付いた瞬間、烈風で思い切りブレーキをかけ屋根にある瓦を蹴散らしながら目の前へと着地する。
緋緋の瞳は緋色に輝いている。それはもう最高潮へと達している。俺が次何か行動しようとする前にもう貫かれているかもしれない――――そう脳裏に過る。
俺が緋緋の元へ行けたとしても間に合わない。それは飛ぶ前には分かっていた。仮にも、俺もレーザーを使ったことがある。そのため、直感でそのことは理解していた。
――――だから、その直前にはもう手は打っている。
「っ……!」
俺が着地した瞬間、緋緋は顔を苦痛で歪ませる。と同時に眼を閉じた。つまり、これでレーザービームのチャージはリセットされた。
「あの一瞬であたしを切るか……」
つっても、ナイフ投げただけだが。まぁ、かなりのスピードで突っ込んだ状態で狙った箇所にナイフ投げるのはかなり難しかったな。
俺が投げたナイフは緋緋の脚へ少し深めに傷を付けた。刺さりはしなかったが……。出血はしているな。傷跡が残るかもだが、そこは必要経費で神崎も許してくれるだろう。
「……さてと、いつでもレーザー撃とうとしていいぞ。その度に邪魔してやるよ。今度は見えない斬撃でも喰らわそうか?」
さすがに災禍並の威力で飛んだから、あの刹那で鎌鼬を使うのは厳しかったが……ここまで来たら関係ない。いつでも防げる。
「チッ、これでもお前の隙は作れないか。やはり強いな、イレギュラー」
「そりゃどうも」
「しかし……だからこそ惜しいな。それほどの力があれば、もっと戦いを心から楽しめるのに。誰かのため、などと詰まらないことをほざく」
そう文句を付ける緋緋にはぁ~っと大きくため息を吐いてから。うん、ちょっとイラッとくるな。何だそのわざとらしいため息 は。
「さっきも言ったが、そもそもとして俺は極力戦いたくない。ただ、俺は武偵だからな。嫌々ながらお前みたいな理不尽な悪と戦う必要はある。武偵は社会を円滑に回すために戦う法の番人だ。ここでお前を倒さないと……いずれ関係ない人が多く亡くなるだろ。戦争を起こすつもりならな」
まぁ、どうやって個人が戦争を起こせるのか想像が付かないが……。
俺の言葉にまた緋緋は不愉快そうに顔を歪める。
「まぁ、何だ。俺はクソみたいな悪が日常を送っている奴を手にかける前に潰すだけだ。つまり――――お前は邪魔だ」
話し終えると同時にまた風の檻で緋緋を一瞬抑え付ける。それこそ1秒程度。
「……チッ!」
少し話したおかげで時間は稼げた。ほんの少しの出来事だが、また動けないことを緋緋は悟る。
「…………」
緋緋を戦闘不能に追い込みたいが、神崎の体だ。下手に致命傷を与えるわけにもいかない。それこそ、俺は攻撃手段に殺傷力の高すぎる影やレーザーは使えない。
それでも、普通の攻撃では意味がない。一撃で緋緋の意識を刈り取る必要がある。
だから――――シンプルに渾身の力で殴る。横隔膜辺りを狙って呼吸を封じる羅刹も使わない。ただ殴る。どこでもいいから殴る。
今まで俺は烈風の勢いに乗り普段より威力のある殴打や蹴りを繰り出してきた。今から行うのはより強力にした攻撃。
つまるところ、災禍ほどの威力のある風に乗り殴る。それだけじゃない、ただ風の勢いで加速するわけでもない。殴るときの腕……具体的には肘にも飛翔で使う風の爆弾を使い加速させる。
端から見れば動き自体はただ直線的に見えるだろう。しかし、その速度は誰にも捉えられない。捉えさせない。災禍を纏った殴打。
その名も――――
「――――風穴」
風の檻を解除した瞬間、緋緋の腹部へと飛んでくる俺の拳。防御も回避間に合わない速度で到達した俺の攻撃は当たる。
触れた時間は僅かだが、俺の拳は緋緋の腹へ思い切りメリッ――――と食い込む。
「……ガッ!」
俺の攻撃を受けた緋緋はそれは見事に吹っ飛ぶ。さっき俺が緋緋の斥力を受けたとき以上の速度で屋根を端から端へ転がり回る。その勢いを殺し切れず屋根から落ちたが……そこはさすが神様。ギリギリのところで受け身を取っていたらしい。
しかし――――そこから微動だにしない。腹を抑え踞っている。
これで俺もバランス崩して屋根から落ちたらカッコが付かないし、ゆっくり歩いて緋緋へと近付く。
「いっ……」
…………この技ダメだな。初めて使ったが、思っている以上に反動が凄まじい。災禍ほどの衝撃を俺の腕だけが受けたんだ。かなり痛む……下手すればこれ腕の骨どこかやってそうな勢いだ……。
右腕が動きそうもない。全くと言っていいほど力が入らない。ひたすら痛覚だけが伝わってくる。
これでは……もう戦闘が続けば右腕は使えない。俺も俺で手は出し尽くした。まだ戦うなら多分マトモに戦えない。しかし、今それを見せてはいけない。平気だと気丈に振る舞え。
屋根から緋緋を見下ろす。まだちゃんと呼吸が出来なさそうに嘔吐いている。そして、ここまで移動した俺に気付いたらしく、俺を見上げ涙目で睨んでいる。ただその眼に闘志はない。
ここまで痛め付ければ超能力を使うための集中力も練り上げることも出来なさそうだな。そもそも使っているのが神崎の体……まぁ、色々と可笑しいところがあるが、神崎も人間だ。その体がここまでやられたんだ。すぐに回復とまではいかない。
……さすがに、勝負あったな。
「…………星伽さん呼ぶか」
どうにか勝てた。一先ず、その事実に安堵する。もうこれ以上はムリだぞ。
とはいえ、まさかただの人間が神様に勝てるとはな。まぁ、意識の違いがあったかもしれないが……。俺は当然命懸けなわけだが、緋緋は別に操っている神崎がヤられても本体はノーダメージだし。
とりあえず緋緋はどうにかできたが、神崎を救うには……ここからどうすればいいのか……。