八幡の武偵生活   作:NowHunt

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そしてパレードは続く

「ねーむっ……」

「期末試験が終わったのだ。進級はできるだろうし、しばらく休んだらどうだ? お主、ちょくちょく学校にいなかったから、疲労も溜まっているだろう?」

「だよね、よく八幡学校休んでいたよねー。ズル休みじゃないだろうし。ねぇ、どこにいたの?」

「どこって言うと、香港……いやこれは修学旅行だから関係ないか。そのあとはアメリカで砂漠横断したり、青森の山奥を行軍したり……まぁそんな感じだ」

「アメリカと青森を同列に並べるのか……」

「なんか八幡って感じだねー」

「待て戸塚。それはどういう意味だ」

 

 放課後、武偵校内にあるカフェで材木座と戸塚、3人でのんびりお茶をしている最中だ。

 

 何て言えばいいのだろうか、このような穏やかな時間に懐かしさすら感じる。最近、誰かと会話した内容は大概物騒な内容だったこともあり、今まで以上に落ち着く。なんなら死にかけた回数の方が多いまである。いやなんで高校生で死にかけないといけないのだろうか……分からない。

 

「えー、だって八幡いつも危険なところにいない? 新幹線の上とか」

「あの新幹線ジャックお前らもいたろ。俺だけじゃないって」

「そうだけどね。でも僕は星伽さんのおかげで戦線離脱できたから」

「常に前線に立っていたのはお主であろう」

「材木座も前線っちゃ前線だろ。爆弾のすぐ側だったんだから。なんなら一番危険なまであったろ」

「その通りではあるが」

 

 あれは非常にスリリングだった体験だったと今さらながら思い至る。

 

 高速で走る新幹線の上に立つという貴重な経験はもう二度とないだろう。いや全然全く何かもかも貴重じゃない。なんであんなクソみたいなところで戦闘していたんだ俺は。

 

「そういや材木座。武装の定期メンテありがと」

「うむ、いつものことだ。しかし、あの黒のコートに仕込んであったプロテクター、メンテナンス方法が記されていたマニュアルは読んだが、上手くできた自信はないぞ」

「お前がムリなら俺もムリだ。そんなのイチイチ気にしないわ。それなら似た製品を造ってくれよ」

「あのレベルは個人で制作するのムリ筋に近いが……」

 

 アメリカでアンガスさんに貰ったあの腕に仕込んだプロテクター、そんなに性能いいのか。そりゃジーサードが使っている代物だが、材木座にそこまで言わせるとはな。

 

 ほへぇー、あれ性能いいなと漠然に思っていたが、本当にスゴい代物なんだなと材木座の言葉で改めて実感した。どうせなら全身に付けてほしかったなぁ。あれ軽いし。

 

「で、何か追加で欲しい装備はあるのか?」

「んー、今のところは特に……。現状で満足というか、今の装備でしっくりくるから追加は考えてない」

「なるほど、了解した」

「また何かあったら相談するわ」

 

 なんてコーヒーを飲みながらのんびり会話する。

 

 コイツらとこうして何気ない話をするのも久しぶりな気がする。なんだか幾らか気持ちが楽というか、気を張らなくて済むのがいい。最近、物騒な話題が多かったこともあるので余計にそう感じる。

 

「八幡、これから予定は?」

「のんびりしたら軽く訓練して帰る予定だけど、どうした?」

「良ければ、僕にも訓練を付けてほしいなぁって」

「戸塚が? 救護科だろ?」

 

 救護科は基本的に拠点で治療をする……それこそ病院で働く医者やナースと立ち位置とあまり変わらない。衛生科なら現場で働くから自衛目的でそれなりに戦闘訓練を行う必要はある。だから理由は何となく分かる気がするが……。

 

「いやぁね、救護科関係なく、体力付けたいんだよねぇ。今後何があるか分からないし、こう……少しは男っぽくなりたいというか」

 

 恥ずかしそうに伏し目がちにアハハと語る戸塚。

 

「3年にもなるし選択肢を少しでも増やしたいっていうか、やっぱり最低限拳銃とかも使えた方がいいかなーって」

「うむ、気持ちは分かる。我も少しは運動して痩せた方がいいかなと思う」

「なら運動しろ。またそのふくよかな腹をサンドバッグにするぞ」

「ぐうの音も出ない」

 

 戸塚に体調管理をさせられて少しは痩せているのは差し引いてもまだまだ材木座の腹は出ているからなぁ。

 

「ちなみに戸塚は体力とかある方?」

「テニス部に入っているから多少は? そりゃ強襲科みたいな本職に比べればまだまだだと思うけど」

「でもなぁ、見たところ戸塚はかなり細身だ。まず土台をしっかりしないといけない。じゃなきゃムリしてケガするしな。その辺は俺よか教師の方が詳しいから、相談した方がいいと思う。今できるのは簡単な護身術くらいか」

「うんうん」

「それと平行して……銃の訓練とかやってみっか。戸塚の銃ってブローニングだったな?」

 

 FN ブローニング・ハイパワー。

 

 俺が使用しているファイブセブンと同じFN社製の拳銃。正確にはたしか色々と仲介を受けて時間がわりとかかって制作された……はずだった。グリップは細く握りやすい形状となっていて扱いやすい。

 

 様々なところで実用されている、整備性のしやすさなどから完成度の高い傑作に近い拳銃だ。人に寄るだろうが、ファイブセブンより扱いやすい銃だろう。あれは性能尖っているしな。

 

「そうだよ。でも、あんまり撃ったことないんだよね。整備は材木座君に頼んでちょくちょくしているけど」

「なら、今からでも使えそうだな。それなら軽く訓練するか。近接戦闘なら多少体鍛えてからのがいいが、少し撃つだけなら別に大丈夫だろ」

 

 

 

 ――――射撃訓練所に移動。相も変わらず硝煙の匂いがするな。材木座は装備科で用事があると抜けた。

 

 戸塚がブローニングを取り出し弾も入れ準備完了。

 

「じゃあ八幡。お願いします!」

「おう。つっても基礎は教わっていると思うが、まぁ確認の意味を込めて最初からだな。まず足を肩幅程度開く」

「うん」

「右足は半歩後ろ。膝は軽く曲げる。じゃあ構えて」

「う、うん」

「あー、戸塚。肘は伸ばしきらない方がいい。軽く曲げようか。少し前屈みで。そうそう、目標に対して真っ直ぐ向いて」

「こう?」

「そんな感じ。……んー、戸塚は慣れていないだろうし、両手で撃つか。グリップは両手でしっかり握って」

「えーっと、こう?」

「だな。しっかり横から握って」

「……左手は下から包む感じで握らないの? よく映画とかではそう持っているイメージだよ」

「あぁ、カップ&ソーサーって構え方だなそれ。それなぁ、映画やドラマじゃ定番って感じの構え方だけど、実は連射できるタイプの自動拳銃には向いてないんだよ。撃つ度に手の位置ズレやすくて握り直す必要あるし。ピースメーカーとかのシングルアクションなら問題ないがな」

「そうなんだ」

 

 そんなこんなで戸塚の射撃訓練が開始。

 

「っと、あまり右手に力入れすぎないように」

 

「落ち着いて。訓練だからゆっくりでいい。1発ごとに一呼吸置こう」

 

「んー、戸塚。今度は両手を前に突き出す構え方にしようか。さっきの半身とはまた別に……仁王立ちして。もしかしたらそっちのが安定するし合っているかも。アイソサリーズってやつだな」

 

 ――――と、アドバイスしながら射撃訓練を見る。

 

 最初は的には当たらなかったが、後半になるにつれて徐々に命中するようになってきた。的がデカい分、集弾率はマチマチ。それこそ、中心部には全く当たっていない。

 

「うーん、全然当たらないね」

「んなの始めたばかりだろ。当たり前だわ」

 

 まぁ、射撃訓練はもちろん最初の内は命中率を鍛えるために行うものだが、強襲科……それこそ経験のある武偵からするとその日の銃との相性を確かめる目的が主である。

 

 日によって銃は気分を変える。その日の温度や湿度、こちらの体調に整備状況――――諸々によって昨日と同じ感覚で撃つと全く違うことがある。全く同じコンディションで撃てることなんてまずない。どこかその日ごとに違和感を覚えることがある。あれ、昨日となんか違うな……みたいなように。

 

 武偵と銃はアナログな関係であるので、その日の銃との感覚を知るために毎日撃っているわけだ。射撃訓練はある意味で銃との対話なのである。そうしないと本番に武偵は上手く戦えないから。

 

「…………」

 

 俺も隣で軽く撃つ。ホルスターから抜いて早撃ちで撃ってみる。……うん、真ん中に命中した。

 

 動かない的なら20m程度なら問題なく当たる。50m越えると極端に命中率は落ちる。これはどれだけ練習してもなかなか改善は見られない。……まぁ、俺は近接戦闘主体だから、敵がそんなに離れることは少ないので気にしない。

 

 今日のファイブセブンとの相性は……普通か。まぁ、特段悪くなく良くもない。

 

「わぁ、八幡さすが!」

「こんくらいなら強襲科だと当たり前だよ」

 

 

 

 それからしばらく戸塚と練習し、戸塚の救護科での用事が近付いてきたらしく今日は解散と相成った。

 

 もう少し体を動かそうと血生臭い体育館へ移動。一色や留美はそれぞれので用事があるから今日はいない。と、一色と言えば。

 

「そういや一色とのアミカ契約ももうちょいで終わりか……」

 

 学年ごとでアミカは切り替わる。1年のときは留美。2年は一色。この繋がりもそろそろ終わる。とは言うものの、留美には契約が終わっても付き合いで稽古を付けることはあるが、果たして俺とて多少でも寂しい気持ちに……なるか疑問に感じる。

 

 そして、よくよく考えると別にそんなセンチメンタルな気持ちにならないのに気付いた。どうせ一色ならアミカが終わろうと、あの性格なら恐らくところ構わず絡んできそうな印象がある。

 

 3年のアミカをどうするか迷う。別に必ず取る必要はない。それに加えてそもそも下級生に知り合いが少ない。わざわざ俺に声をかける人などいないだろう。俺だぞ?

 

 と、そんなことを考えつつ体育館に入る。柔軟をして体をほどほどに暖める。……さて、何をしようか。

 

「誰か……いねぇな」

 

 パッと見知り合いは見当たらない。強襲科で同学年で知り合いの不知火も、間宮たち異常性癖軍団もいない。神崎は日本にいるか知らない。……こうして考えると、マジで知り合い少ないな。なんなら、強襲科以外の知り合いの方が多い気まである。

 

 独りでできることなんて限られるしなぁ。適当に吊るしてあるサンドバッグと戯れるか。それとも筋トレでもするかな。どうせなら人力サンドバッグという別名材木座でも連れてくれば良かった。

 

 やることないし、どうせならさっきまでやっていた柔軟を重点的にやろうと隅でのんびりしていると。

 

「おい比企谷ァ……!」

 

 なんかいかにも機嫌悪いと丸出しな蘭豹がやって来た。他に絡む奴いるのになぜ俺に……。わざわざ隅にいるのに随分と目敏い。他にもバカやっている生徒多いというのに。

 

「蘭豹……先生。どうしたんすか? その不機嫌さ、また合コンで失敗したんです?」

「喧しい!」

 

 既に立っていた俺に対し、俺がそう言った瞬間にキレたらしくボクサーを1発でノックダウンさせる殴打を放ってきた。勝手に不機嫌ばら蒔いてこっち来たくせに指摘されて怒るなよ、理不尽か。

 

「――――ッ」

 

 が、非常に悲しいことにこれは武偵高からしたら日常、いつものことなのでそれを予測していた俺は蘭豹の腕を取りその勢いのまま、柔道の投げ技である一本背負いをする。

 

 途中で手を放したんで、そのまま遠くへ放りたかったが、蘭豹は空中でクルクルと何回も回転しつつ投げの勢いを殺し着地。え、何その動き。気持ち悪い。

 

「ったく、いきなり教師を投げるバカがあるか」

「いきなり生徒を殴るのもどうかと思いますよ」

「……で、私の何が悪いと思う?」

「あ、やっぱ失敗したんすね」

「おら答えんかい!」

 

 はいはい。で、蘭豹の何が悪いか……そりゃもう全部なのだが。あえて言葉にするため取捨選択すると――――

 

「あくまで客観的や意見として話します。客観的な意見ですよ? まぁ、普通に考えればその粗暴な性格ですよね。どれだけ演技……隠そうと取り繕っても地の性格なんて多少は滲み出るもんですしね。すぐキレるのもどうかと思います。武偵として言うのもなんですが、今時暴力では何も解決しません。むしろ悪印象を植え付けるだけです。あと酒ギャンブルタバコ全部……とまでは言いませんが、多少は控えたらどうです? まぁ、あぁいうのは別にやっている人は多いですが、やはりそれらにマイナスイメージは付き纏うものです。それと長年ここにいる先生が他の業界で働けるか分かりませんが、ぶっちゃけこんな血生臭い世界にいるのも失敗する要因かと。これは自分が妹と会話したときにも感じたことですが、どうも俺らは話す話題が物騒になりがちですしね。程度に差はあれど周りから浮くのは当然と言えば当然です。本気で合コンやら成功させたいならここから足洗って転職考えたらどうですか。他にも――――」

 

 と、ここまで話してようやく思わずペラペラと喋りすぎた気がしなくもない。証拠に周りを見てみると俺らを見ていた生徒全員が血の気が引いているように青ざめている。

 

 蘭豹は短気なことで有名だ。ここまで言ってしまったらかなりの高確率で暴れ回ること必至だが、さて問題の蘭豹は――――意外なことに怒りの表情を浮かべているわけではない。むしろ、そこまで言うのかと言いたげな表情で引きつっている。

 

「お、おう……まさかそこまで言うとは思わんかったわ」

「す、すいません。……別にこれは俺がどうこうではなく、あくまで客観的な意見ですので」

「それはそれとして……クソイラついたから殴らせろ!」

「だからそういうところ――――ッ!」

 

 俺の顔面めがけて鋭いストレートが飛んでくる。顔だけ横に動かしスレスレで回避。大げさに動かなくてもこのくらいならまぁ避けれる。

 

 ……自ら訊いておいて都合が悪くなるといきなり殴って黙らせようとする。そういうところが合コンで成功しない理由なんだろう。とはいえ、冷静に分析すると、ここまで言われたら正直なところ俺もかなりイラッとくるのには間違いない。多分俺も手が出そうではある。

 

「おい避けるんじゃねーよ」

「いや痛い目遭いたくないんで」

「ならそこまで言うなや!」

 

 ……ごもっとも!

 

 そう思いながらも裏拳が飛んでくるのでバックステップで避けてから、軽く踏み込んでからの右足で回し蹴りを放つ。蘭豹の顎を狙う。

 

 しかし、なんか簡単に足を掴まれ止められた。おかしいなぁ、けっこう勢いあるはずなんだけど。

 

 まぁいいや。何かしらで防がれるとは思っていたので、そのまま左足で踏み切り跳躍。蘭豹の腕を極めようとする。対する蘭豹は俺の狙いを察したらしく、すぐさまパッと足を離す。もちろんその動きは見越していたので、倒れながらも横薙ぎで蹴り、足払いを試みる。

 

「いてっ」

 

 蹴りの感触を確かめる前に地面に背が付いた衝撃で少し痛い。で、蹴りが当たった感触はなかったな。なんか縄跳びみたいに跳んで避けられたみたいだ。すぐに立ち上がって距離を取る。

 

 ……追撃がくる雰囲気はない。頭をガシガシ掻いている。

 

「はー、やめやめ。気分萎えたわ」

「なら攻撃しないでくれます?」

「教師に生意気な口利くからやろうが」

「先生がアドバイス云々求めてきたんですよね……」

「ったくよぉ。静のとこ行くか」

 

 そのまま去っていく蘭豹を見てよく理解した。多分また合コンやら婚活やら失敗するだろうなぁ。

 

「……む」

 

 と、不本意ながら目立ってしまった。隅でのんびりするつもりだったが、想定していなかった獣の襲来によって誰も彼もが俺を見ている。ここまで注目が集まっていると気配も消しにくい。

 

 それに加えて恥ずかしい。

 

「帰るか」

 

 腰を上げて退室する。体育館を離れようとしたところで……ある女子と目が合う。

 

「あ、比企谷先輩!」

「間宮か」

 

 間宮あかり。1年の強襲科であり神崎のアミカ。

 

 そして異常性癖軍団を束ねる長。これは勝手に俺が呼んでいるだけだ。いやまぁ、間宮たちのその、なに、性癖は一般人を凌駕しているからね。……間宮はぶっちゃけると、神崎や友だち大好き! ってだけで別に普通だとは思う。しかし、その周りが……ね?

 

「久しぶりですねー」

「だな。元気だったか?」

「はい! あ、そういえばさっきの見てましたよ。よく蘭豹先生にあそこまで言えましたね~……。あんなに言うなんて考えただけで恐ろしいです……!」

「あれは蘭豹が求めてきたことに応えただけだ。俺は悪くない」

「いやそれでも、普通あんなに言いますか?」

「…………」

「あ、無言。やっぱり言い過ぎとは思ったんですね」

「まぁな」

 

 それはそう。

 

「まぁいいんだよ。どうせこのあと平塚先生と飲むだけなんだから」

「それで学校やらが破壊されるのは困りますけど……」

 

 それはそう。あの酔っ払いたちには困ったもんだ。

 

 と、話が一段落したはずだけど間宮は立ち去る様子を見せない。挨拶だけではないのだろうか。

 

「で、間宮。何か用事か? 神崎なら今どこにいるか知らないぞ」

「んー、そうですね。ちょっとお時間大丈夫ですか?」

「問題ない」

 

 そう前置きしてから間宮は話を続ける。

 

「もうすぐ学年変わるじゃないですか」

「留年しない限りはな。お前は平気か?」

「もちろんです! で、進級するってことはアリア先輩とのアミカ制度も終わるわけで……次のアミカをどうしようかと」

「なるほど、それで俺に相談か。つっても、俺もそんなに知り合い多いわけじゃないからな」

「いえ、そうではなく……比企谷先輩にアミカをお願いしたいなと!」

 

 意気揚々とそう宣言する間宮。

 

 なぜ俺に、という驚き以上に間宮の相談内容を外したことが恥ずかしい。たしかにこの話の流れなら俺に申し込むというのがある意味分かりやすいけど、平然と最初から俺という選択肢を入れてなかった。

 

 …………俺かぁ。

 

「どうして俺?」

「先輩強いじゃないですか。教えるのも上手ですし!」

「理子にしろよ……。アイツなら喜んでお前の相手しそうだぞ」

「そんなとこ言わないでくださいよ。いろはちゃんや留美ちゃんからも評判良かったです!」

 

 本当に? 陰口ばかり言われているイメージしかないよ?

 

 どう答えるか迷っていると後ろから気配がした。間宮の表情からして……特段避けなくても大丈夫だ。

 

「なーに、私の話でもしたー?」

 

 背中に衝撃が走る。誰かに後ろから抱き付かれたらしい。それと同時に柔らかい、気持ちいい感触もする。どこか嗅いでいて不快には感じない香水の匂いと一緒に。

 

「間宮がお前のアミカになりたいってよ、理子」

「い、言ってないですよ!」

「お? ホント? 大歓迎だよ~」

 

 ニコニコとして笑顔で俺の提案を受ける理子。そのあざとい笑顔の裏には恐らく神崎にチョッカイかけれるとか思っていそうだ。

 

 …………理子さん、それはそうと早く背中から離れてくれません? さっきから甘ったるい匂いと柔らかい感触がして健全な男子高校性にはちょっと刺激が強すぎるんですけど。

 

 ……あ、ダメだ、めちゃくちゃ気持ちいい。レキにはない感覚だ……。そう一瞬墜ちそうになったが、これではいけないと悟る。

 

「なぁ理子。一旦離れ――――ッ!」

 

 そう言おうとした瞬間、足に鈍い痛みが走る。

 

 どうやらズボンが掠れただけだが、足を撃たれたみたいだ。まず誰から撃たれたのかという疑問が浮かぶだろうが、別に犯人1人しかいないからな……。

 

「……ッ」

 

 その直前カキン――――と甲高い金属音がした。一体何だと音の方向を見たら、10mほど離れた場所にグルル……と唸っているハイマキがいた。しかも甲冑を着込んでいる。

 

「……」

「…………」

「………………」

 

 ……なるほど、これはレキの狙撃だ。いや知っていたけどね! ハイマキが甲冑を着込んでいるということはわざわざ跳弾で狙ったな。というか、こんな下らないことにそこまでスゴい射撃技術使うなよ……勿体ない。

 

「ひぇ、今撃たれませんでしたか? せ、先輩。大丈夫ですか?」

「理子、マジで離れろ。2射がいつ来るか分からん」

「そうした方が良さそうだね~。ホント、レキュは独占欲強いね。くふふ」

「アイツどこいるんだよ……」

 

 最近このパターン多い気がするぞ。練習交じりに撃っているのかマジの忠告なのか本気で分からない。ていうか、理子も理子で理解が早いな。

 

 とりあえず敵に回ると厄介なハイマキを買収するか。

 

「ハイマキ、ほれ」

 

 カバンから魚肉ソーセージを取り出すとハイマキはこちらへ近寄ってくる。魚肉ソーセージを与えつつ、間宮が声をかけてくる。

 

「わー、ワンちゃんだー!」

 

 俺と一緒にハイマキを撫でながら間宮が口を開く。ちなみにハイマキは狼。犬にしては大きすぎるだろう。体躯80cmはある。

 

「ところで……今のってレキ先輩ですよね」

「まぁな」

「なんで撃ってきたんですか?」

「知らね」

「レキュはよくハチハチを撃ってくるよ。嫉妬交じりにこわーい狙撃をね」

 

 本当に怖いことこの上ない。殺ろうと思えばもう俺はこの世にいないだろう。不意討ち、しかも長距離からの狙撃には対応しようがないのである。俺とレキの射程距離の差は絶望である。

 

 どうしてこんな場所で命を脅かされるのだろうかと甚だ疑問に感じる。肩が重い。

 

「なるほど、束縛系ってやつですか。愛されてますね~」

「……そうだね」

 

 間宮の呑気な意見にツッコミ入れるのも疲れる気がする。何て言うか……間宮、お前どこか抜けていると思う。そういう問題なの?

 

「まぁいいや。ハイマキ、お前のご主人どこだ?」

「グルル……ッ」

 

 あ、そっぽ向かれた。忠誠心が高いことで。全く、魚肉ソーセージを食べているその姿は可愛らしいのに生意気なことだ。

 

 ハイマキも食べ終えたところで間宮と理子に話しかける。

 

「さて、とりあえず一旦解散するか。これ以上ここにいたらどんな目に遇うか分からん。……俺が」

「アハハ……そうですね。レキさん、なかなか怖いことあるんですねぇ。って、先輩! まだ返事がまだなんですけど!」

「チッ、さすがに曖昧にできないか」

 

 間宮はわりとチョロいと思っていたのだが、これでは話を流すのに雑すぎたか。

 

 しかし、間宮をアミカにか。別に嫌ではないのだが、単純に面倒だと思う気持ちがあるにはある。こちとらアミカなんてならずに3年になったわけだから余計にそう感じる。……いや待て、とても今さらだが俺って武偵高の先輩に知り合い……いるか?

 

「いない気がする……」

「え、何ですか?」

「いや、うん。何でもない」

 

 ちょっと悲しくなってきた気がする。けどまぁ、別に中学時代も先輩に知り合いいなかったからなぁ……と納得できる。

 

「んじゃまぁ、返答はまた今度ってことで」

「分かりました! そのときになにか試験……みたいなことしますか?」

「さぁ? まぁ、そのときの気分次第」

 

 あとレキの気分次第。

 

「疲れたし帰って寝よ」

「あ、ハチハチ帰るの? 私も付いてこ」

「お二方また今度!」

 

 と、間宮は火野たちと用があるらしく別方向なのでその場で解散した。こちらなぜか付いてくる理子とハイマキ。

 

「で、理子。お前マジで何しに来たの」

「なんか珍しい組み合わせだったからチョッカイかけにきただけだよ。ちょうど私の名前も聞こえたしね」

「あ、ホントに偶然なんだ」

「いや私を何だと思っているのさ」

「泥棒」

「せめて怪盗って言ってよ」

「変わんねぇだろ」

「ただの盗人と比べちゃダメだよ。怪盗は大衆のタメ息とハートを盗むものなんだからね」

「どっかのエロゲで訊いたセリフだな……」

 

 と、2人で歩きながら帰宅したある日の日常だった。……あ、足元に1匹いたね。忘れてないから噛み付こうとしないで? 狼の顎で噛まれたら痛いでは済まないからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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