八幡の武偵生活   作:NowHunt

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残業は未だしも休日出勤は悪い文明

「ううっ……ごめんね、ゆきのん。こんなことになっちゃって……」

「気にしないでいいわ。これも時の運というやつよ。とりあえず、大人しくしておきましょう」

 

 現在、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣の2人を含むおおよそ20名ほどがららぽーとTOKYO-BAY南館2階にある広場に座っている状態にある。

 

 その理由は数分前にすぐ近くにある銀行から金銭を強盗した6名の者たちが駆け込んできたからだ。その内1人はトカレフTT-33――――拳銃を所持している。他5人もナイフなど武器を携帯しているが、防弾チョッキなどといった防護服は着用していない。

 

 また全員目出し帽を被っており、突発的な犯行ではなくいくらか計画的に行われたであろう強盗だというのが一般人である雪乃や結衣でも何となく分かるだろう。もちろん、その計画の出来などは数ある犯行のうち差はあるが。

 

 雪乃と結衣は休日に2人で遊びに来ていただけだ。

 

 午前からウィンドウショッピングを楽しみ、お昼になり近くのレストランで昼食を取り、これからどうしようかと話していたところに強盗犯がいきなり現れた。拳銃を突き付けられ、そこにいる人たちは人質になった。

 

 当然恐怖のまま逃げ出そうとした人もいたが、犯人は天井に向けて1発発砲し人質を大人しくさせた。そして、人質以外の周りにあるテナントにいる人たち全員を2階から追い出した。人質以外に邪魔がいたら何が起こるか不明なため、逃走しながらも的確な判断を取った。

 

 今回ここを襲った強盗グループ、彼らは今まで数度強盗を成功させてきた。銀行、コンビニ……襲った場所はその時々で違えど警察を悩ませてきたグループだった。被害額は平均して10万円から30万円だが、今回は狙った場所が銀行ということもあり、100万円以上は盗られている。

 

 一度に盗る金額はさほどでもない。この6人はどちらかと言うと愉快犯の側面の方が強い。今回、逃走する際人質を取るほど追い詰められているが、今までは警察から逃走を成功させ、グループの誰1人とて捕まらなかった。

 

 これは千葉県内の話であり、基本的に東京を拠点としている者たちにはあまり馴染みのない話だったかもしれない。

 

 ――――全く、こうも犯罪者が跋扈するようになったとはね。

 

 雪乃は大人しく座りながら強盗犯を一瞥する。

 

 銃の規制が緩くなり、銃を持つハードルが下がった現代、誰もが銃を所持している可能性がある。もちろん、いくら規制が緩くても所持するのに正規の手続きは必要だ。しかし、それを守らない人たちがいるのもまた事実。

 

 それによって治安は以前と比較すると当然悪化する。あまり人がいない地域なら未だしも、都会になると大勢の人が集まりいつ誰が乱射してもおかしくない状況となる。

 

 そういった犯罪を抑止するため都会には……ある意味無法者と大差ない武偵事務所が密接している。

 

 武偵は武偵で世間から犯罪スレスレをよく行う職業として認知されているので、犯罪者も嫌っている相手だ。とはいえ、犯罪者の数は多くいくら武偵がいても事件が起きるときはどうしても起こってしまう。

 

「…………」

 

 ――――いくら気を付けていても、巻き込まれるときはどうしようもないわね。

 

 内心で雪乃はタメ息を吐き、現状どうしようか考える。

 

 携帯を触るなどといった怪しい素振りを見せてしまってはこちらに危険が及ぶだけ。雪乃の隣には結衣もいる。彼女のためリスクは背負えない。やはり事態が好転するまで大人しくしておくしかないだろう。

 

 それにこの状態は既に警察に伝わっている。無理をして行動するにはメリットがない。強盗犯は拳銃も所持しているのだ。

 

「…………」

 

 大人しくするしかない雪乃は強盗犯の配置を眺める。

 

 今、雪乃たちがいるのはテナント内ではない広場に座っている。すぐ近くにはエスカレーターがある。また、広場から東西に進めばそれぞれ100mほど離れた箇所にもエスカレーター、階段が配置されている。

 

 もし助けが来るならその3ヶ所からだろうと予測する。強盗犯6人のうちの2人もすぐ近くのエスカレーターにいる。残り4人は少しずつ距離を取りながら、人質を見渡せる位置に陣取っている。銃を持っている1人……恐らくリーダー格に当たる人物はその4人の中にいる。

 

 もし人質が暴動を起こしても問題なく対処できるであろう人員の配置だと雪乃は理屈ではなく直感でそう結論付ける。これは事件が解決するのにかなり時間がかかるであろうとも考える。

 

 その理由に強盗犯はまだ来ているであろう警察に要求を通していない。警察からの交渉もまだだ。まだ雪乃たちが人質になって10分も経過しかしていないが。

 

 下の喧騒がはっきりと聞こえないのも相まって警察が突入するのにももうしばらく時間はかかるかもしれない。

 

 恐らく、誰もがそう感じていた。早く解決してほしい、人質はそう思う。早くこちらの要求を通し逃走したい、強盗犯はそう思う。

 

 雪乃の隣にいる結衣もそう思っていた。

 

 政治家の娘である雪乃のようにこういう場に慣れていない一般人の結衣はひたすらに怯えていた。実際に雪乃もこういった犯罪に巻き込まれるのは初めてだが、まだ多少は冷静になれる立場だった。

 

「……ううっ」

 

 ――――せっかくゆきのんと出かけていたのに……どうしてこうなっちゃったんだろ……。

 

 恐らく、結衣以外のここにいる人質となった人たちも同じことを考えているだろう。そのくらい、突然のことであっという間のことだった。

 

 しばらくして人質も次第に落ち着き始める。ただ静かにして時が過ぎ去るのを待っている。強盗犯も同様、警察からの連絡を待つため、そしてほぼぶっ通しでここに押し入った疲れを取るため、軽く息を吐く。

 

 強盗犯、人質共に誰も口を開かない。この広場に静寂が訪れたその数秒後――――――――

 

 

「ガッ……!」

「うっ……!」

 

 

 エスカレーター近くにいた強盗犯の2人がなぜか、唐突に呻き声を上げ床に倒れた。

 

「――――」

 

 気絶まではしていないが、その様子を見るにとてもではないが起き上がれる気配ではない。胸を抑え満足に呼吸することすら厳しそうなほど、ダメージを負っている。

 

「なっ……!?」

 

 強盗犯の全員がいきなりの事態に驚きの声を上げる。人質も全員、同じ方向へ向く。

 

 それは突然のこと。その場にいる誰もが全く意識してなかった。何が起きたのか、誰がやったのか、いつ行ったのか、なぜ倒れたのか、その全てが不明だ。

 

「何だ!?」

 

 予測不能の事態に強盗犯のリーダー格が声を荒げる。

 

 しかし、倒れた2人を見てもまるで原因が分からない。直前まで何も音がしなかったのも相まって、誰も何も把握できていない。どれだけ目を凝らしても、その場には何もない、誰もいない。

 

 そう思っていると。

 

「ほっほっ……よっと」

 

 ――――その直後、軽快な声を上げながらエスカレーターから誰かがトテトテと歩きながら登ってくる。

 

「あっ、これはみなさん。どうもどうも~」

「…………」

 

 1人は陽気な笑顔を浮かべ元気に挨拶するゴスロリ姿をした金髪の少女。その後ろにはライダースジャケットを身に包んだ無表情な青色の髪をした少女。

 

 強盗犯が人質を取っている場において、あまりにも不釣り合いな少女たち。

 

「はいちょっと失礼するよ~」

 

 いきなり現れた2人の少女。この2人以外の人たちは、先ほどとは別の種類の何が起きたか分からない不明さに呆気に取られ、ただ2人を見つめている。

 

 そんな様子などいざ知らず、正体不明の2人は動く。

 

 金髪の少女と青髪の少女――――理子とレキは、音もなく動き、前触れもなく倒れた強盗犯へと近付く。そして、慣れた手付きで手錠をかけ拘束する。それはまるで以前、誰かを対象に行ったことがあるかのような非常に慣れた手つきだった。

 

 倒れた強盗犯2人を拘束し終えたところで、ようやく残りの強盗犯たちは現状を把握し。

 

「て、テメェ! 何しやがる!」

 

 手に持っている銃やナイフを一斉に彼女たちへと向け、怒りと共に語気を強める。

 

「ふあぁ~……」

「……」

 

 彼女たちはそのような怒気を向けられても、銃を向けられても平然としている。理子は欠伸をし、レキはどこか目の焦点が合っていなく放心しているように思える。それこそ、普段生活している状態と何も変わらないほどリラックスしているようだ。

 

 一体何が起きているのか人質含め全員が理解できていない中、理子はクスッと小さく微笑む。

 

「全く~……ダメだよ。私たちばかりに注目してちゃねぇ……そんなに私たちばかり見ていたらさぁ」

「最初に言っておきますが、この2人を気絶させたのは私たちではありません」

「――――君たちでは敵いようのない理不尽に殺られるよ」

 

 そして、彼女たちの言葉と共にまた1人倒れる。

 

「ウッ……」

 

 残りの強盗犯の中、そのうち理子たちから見て最後尾にいた1人が小さい呻き声上げる。

 

 その背後には――――

 

「はぁ……休日出勤とかマジで怠い。ていうかレキはともかく、理子……せめてお前は戦えよ。デリンジャーあるだろうが。なんで俺だけに任せているんだ。サボるな」

 

 やる気がなさそうに目を濁らせ、自分だけが働かされる現状に不満があるのか気怠けにそう文句を垂れる少年がいた。

 

「えー、別にハチハチだけで充分でしょ。適材適所ってやつ!」

「他力本願なだけだろ……ていうか、その服でがっつり動きたくないだけだろ」

「あ、バレた? そりゃあ破れたらイヤだもん。お気に入りだし。破れてもハチハチが弁償してくれるないいけどね?」

「ったく……」

「それにハチハチめちゃくちゃ影薄いからねぇ。だからこうやって気付かれず奇襲できたわけじゃん」

「影薄いのは認めるが、敢えて気配消しているだけだからな。まぁ、前と比べて足音消すのも得意になったのもあるけど」

 

 強盗犯が攻め立てている日常とはかけ離れている場所で日常会話のように物騒な内容を話す2人がいる。

 

「…………」

 

 どこにでもいそうなその私服姿の両手にはまるで一般人には似つかわしくない、警棒ほどの長さのスタンガンと同様の機能を持つスタンバトン、もう片方には2mほどの黒色の棍棒を持っていた。

 

 そして、そのスタンバトンはピリッと光を走らせていた。使ったすぐあとなのだろう。つまり、彼の側で倒れている強盗犯はこの武器で気絶させられた。

 

 そう、武器だ。彼が持っている物体、周りの人がそれは武器だと確実に分かる。それを自身に向けられたら確実に傷付くと。

 

 そう理解できるが、目の前の光景は異質だった。その辺の街を歩いていても違和感がない少年が、当然かのように武器を携えているという事実に。

 

 そして、その事実に誰より驚く人物がまた2人。

 

「比企谷君……レキさん……」

「ひ、ヒッキー……?」

 

 人質になっている雪乃と結衣だ。彼女らは彼を知っている。彼女らと彼――――比企谷八幡は一時期だが同じ学校で過ごしていた。長くない期間だったが、それでも助け助けられ、一緒に行動を共にしたことがあった。

 

 不自然な時期にいきなり転校して来て、あっという間に転校して行った。それでも彼のことは印象に残っていた。口では面倒と言いながらも真摯に彼女らの相談に乗ってくれた八幡に。特に結衣は同じクラスだったこともありその印象も強い。

 

 雪乃は八幡とレキの事情を知っていたこともあって、直ぐ様転校しても驚愕はなかった。加えて、八幡たちが転校する以前、雪乃の姉である陽乃との関係で武偵の依頼があり、そこで少し関わりもあった。

 

 しかし、そこでの依頼は護衛が主で目立つトラブルも少なかった。総武高でも彼が武偵として行動する場面に出くわすことはほとんどなかった。

 

 雪乃は知らない。武偵としての八幡を。

 

 結衣も知らない。このような非日常に存在する八幡を。

 

「さぁ……残り3人」

 

 と、雪乃と結衣の様子などいざ知らず、八幡が誰にも聞こえない声量で呟くと同時に軽く踏み込んで棍棒を思い切り振る。

 

 棍棒は2m近くあり、八幡は棍棒の端を持っていた。踏み込みもあり、たった一振りの射程距離は3mは越えている。

 

 いきなり背後に現れた八幡に対して、強盗犯は目前の現状に処理がとても追い付かない。

 

 その刹那、強盗犯の1人は距離が開いていたのにも関わらず八幡が振るった棍棒に反応できず、顎を殴られ何もできずに倒れる。

 

「――――」

 

 気絶まではしていないが、かなりの衝撃にとても立てそうにはない。

 

「次」

 

 先ほど倒れた強盗犯から後方へ1m近く離れている相手に八幡は音を立てずに一気に距離を詰める。

 

「なっ……」

 

 強盗犯の驚きなど意に介せずそのまま棍棒を振るい、手首を狙い叩く。その手首には拳銃が握られており、まず危険を排除する目的だ。気絶させようと殴ったとしても反射的に撃たれる可能性も充分ある。それに加えて……。

 

「いっ……!」

「撃つ気ねぇくせにトリガーに指かけんな」

 

 という理由もある。

 

 殴られた衝撃で拳銃を落としたのを見計らって八幡は強盗犯のリーダー格を仕留めにかかる。

 

「邪魔」

 

 拳銃を叩き落とした初撃で既にある程度距離を詰め、もう八幡と強盗犯の距離は1mを切っている。

 

 そのため長い棍棒をこれ以上振るうには不向きと考え、八幡は相手の懐に潜り込み肘打ちを強盗犯の鳩尾に叩き込む。

 

「――――」

 

 鳩尾を本気で殴られたらしばらく呼吸困難になる。それこそ、嗚咽も続いて平常でいられる人は少ないだろう。素人でも殴ればそうなるのだから熟練者なら尚更。

 

 拳銃を持っていた強盗犯のリーダー格は八幡の肘打ちを諸に喰らい、経験したことない痛みと共に一瞬で気分が悪くなり嘔吐きつつ体に力が入らなくなり膝を付く。

 

 と、膝を付くと同時に八幡の追撃というかダメ押しの蹴りが顔面に直撃する。成す術もなく5mほど吹っ飛び転がる。

 

 そして、八幡は蹴った瞬間にはもう次の動作に移っている。先ほどリーダー格を蹴った足で着地するだけではなく、その足で更に踏み込む。

 

 その踏み込みですぐ近くにいる残り1人の強盗犯の顎を棍棒で殴る。あまり勢いよく殴っていないからか、まだ強盗犯の意識はある。

 

 しかし、八幡が現れてから今まで短時間で他の仲間である強盗犯を制圧した事実に呆然としており、反撃する気配をまるで見せない。そう判別した八幡は追撃を行う。

 

 また、距離を調整させるため棍棒を短く握っていた。つまり、まだ八幡との距離は近い。ということで、八幡は直ぐ様スタンバトンを首に当て電流を流す。

 

「ガッ……」

 

 ビリッ――――生身では防ぎきれない電流を浴び、最後の強盗犯もドスンと力なく倒れる。

 

「…………」

「…………」

 

 3分もかからず強盗犯6人は1人の少年によって制圧された。

 

 人質として離れた場所から八幡たちの動きを見ていた雪乃と結衣、彼女らは彼の動きに圧倒された。素人目で見ても分かるほど洗練されていた。

 

 無駄のない動き。1つの動作が終了したと思えば、隙間なく次の動作に繋がっている。一般人から見るとそれは異常なのだが、目の前にいる彼はそれが当たり前かのように振る舞う。

 

「あれが比企谷君……? スゴいわ……」

「ヒッキー……カッコいい……」

 

 思わず彼女らは感嘆の声を洩らす。今まで知っていた八幡とはかけ離れている姿に。その場にいたのは彼女らの知っている彼ではない。

 

「……ふぅ」

 

 しかし、戦闘が終わればそこにいたのはかつて懐かしい日々を過ごした雰囲気になっている。

 

「……さてと、制圧完了。そうそう。俺ら武偵だからな。これ以上痛い思いしたくなければ抵抗しないでね。面倒だから暴れないでくれたら尚嬉しいまである。あ、理子にレキ、あとよろしく」

「はいはーい。んじゃ、さっさと手錠かけますかー」

「八幡さん、お疲れさまです」

「報酬俺が多めに貰うからな」

「えー、そこは仲良く3等分でしょ」

「ねぇ、誰がどう見ても俺が一番働いたよね。つーか、お前ら俺よりめちゃくちゃ金あんだろ」

「それはそれ!」

「私は別に構いません。いくら貰おうがどうせ変わりませんので」

「うわ金持ち発言。ったく、なんかもう一気に帰りたくなった……。とりあえず人質にケガないか確認か……って、あれ」

 

 ――――と、ここで八幡は人質に目を向け、ようやく雪乃と結衣と目が合い、人質だった群衆の中に2人がいるのだと認知した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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