八幡の武偵生活   作:NowHunt

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終わりと始まりは当然に

 かつて任務先の総武高で世話になった雪ノ下と由比ヶ浜と再会した事件から何事もなくしばらく経ち、武偵高は春休みを迎えた。それはつまり2年が終わったことを意味する。

 

 留年してないので次に始まるのは当然最高学年である3年。

 

 武偵高の3年生はある意味プロと同等に扱われる。3年になれば、企業や個人からスカウトされることもある。例えば、武偵事務所に所属している武偵から、警察から依頼されその直属の命令下として働くことがある。

 

 つまり一口にスカウトといっても、卒業後就職という場合ではなく、すぐにその企業か個人に付き任務を遂行することも当然許される。

 

 そのため、任務に出ていることが大半で学校にいないことが多い。たまに俺も3年を見かけたことがあったが、ただの印象としては2年とそこまで雰囲気は変わらなかった。

 

 しかし、その実能ある鷹は爪を隠すと言うべきか、その気配の奥では得体の知れない不気味さが潜んでいた。

 

 とはいえ、学年が変わろうと、学生から時を経てプロとして心構えが成熟しようと、そう簡単に比企谷八幡という人物の根底が何か変わるわけでもない。

 

 そもそも人間は簡単には変われない。好意的だろうと否定的だろうとどんな形であれ変化したとしても、それは所詮表面上なものだ。心の奥底にあるその人の人生観はそう簡単に変化しない。

 

 俺は武偵になった。そこで様々なことを経験し学んできたことはある。銃と共に血生臭い世界を日常とし価値観は過去と比較しもちろん遥かな方向へ変化した。

 

 しかし、そのせいで根本的な性格まで反対になったことはない。正直なところいくら武偵になろうが必要に迫られなければ働きたくはないし、煩わしい人間関係は嫌いだ。

 

 筋が通らないことは徹底的に避ける。何事も疑いにかかる性格は変えられない。多少他人の評価を気にすることはあるが、最終的には他人がどうあれ、自分が本当にしたいのか、またそのことに対し本当にそれでいいのかと自分を許せるのかで物事を判断する。

 

 相棒であるレキも同様。

 

 風から解放されロボット・レキと揶揄されていたころから少しずつ表情や欲が前面に出るようになってきた。それは非常に良いことだ。感情や欲はどんどん表に出すべきだろう。

 

 だからといって、彼女の性格が大きく変化することはない。仕事に対しては俺含め有象無象とは比べられない拘りは捨てない。俺というストッパーがいるもののいざとなれば殺人に躊躇はない。俺が何を言っても納得しなければテコでも動かない頑固な性格。

 

 仕事に関して俺が見てきた中で一番ストイックな人物だろう。

 

 いくら成長し変化しても自分を培ってきた性格は反対にはならない。もし反対になるのであれば、それは今までの自分を完膚なきまで否定しているまである。それが悪いこととは言わない。ただただ難しいことだ。それはきっと一度自分を殺すと同義なのだろう。

 

 簡単にできるとは思えないし、俺は早々したくない。

 

 

 ……なんか話がかなり逸れた気がする。自分語りはここで終わりにして近況に移ろう。

 

 あと何か周りに出来事があるとしたら……あれか。

 

 俺にはあまり関係ないことだったが、神崎の母親が無事釈放され、晴れて自由の身になれた。元々色金の情報を漏らされないよう冤罪で捕まっていたが、遠山と神崎たちの尽力によりその罪も無くなった。

 

 しかし、神崎の母親について特に俺は何もしてやれなかった。結果的というか間接的に神崎の手助けはしてやれただろうが、正直……神崎の母親釈放に対し直接役に立ったかと考えるとそこは微妙と言わざるを得ない。

 

 この前は親子2人で遊びに行ったと学校で会ったときに神崎から笑顔で報告を受けた。色金騒動には非常に大変な思いをしたが、あの神崎の笑顔が見れただけで報われたと思える。

 

 ……やはり俺、他人とはまた別のカテゴリに入った人物に対してチョロいという自覚がある。こちとら何度も死にかけたのになぁ。

 

 

 

 ――――春休みもいくらか過ぎ、今は3月31日。寒くて暗い冬空の中神様と戦った日は懐かしく感じるほど温かくなった。

 

 もうすぐ桜も花開く時期の穏やかな気候の元、俺とレキは老若男女で賑わう東京の一角――――お台場に来ていた。別名武偵の溜まり場とも言う。近いからね。

 

 目的は至極単純、よくアニメやゲームやらで見かれるような甘ったるいデートなどではない。こちとら休みの日に余程の用事がなければ出歩かない2人だ。俺たち出不精を舐めるなよ、いや誰に対して威張っているの?

 

 まぁ、目的は何かって要するにある奴の誕生日プレゼントを買いに出かけたわけで。

 

「何買うか決めた?」

「そうですね、理子さんと言えば衣服関係、もしくはアクセサリーなどの小物でしょうか。しかし、八幡さん。誕生日当日に買うのは如何なものでしょう」

「普段からアピールされてたし、覚えてはいたんだけどな。如何せん俺の腰が重すぎた。それにどうせ夕方会う用事作ったからな。今買えば一緒くたに済ませられるだろ」

 

 単純な話、今日が理子の誕生日ですね。

 

 学校で会って話すときわりと高頻度で誕生日は今日だとよくアピールされたこともあって、去年は渡していなかったので、さすがに渡すか……となった次第。去年はそもそも誕生日を知らなかったしな。

 

 ……去年のこの時期ってまだイ・ウーにいたか? たしか3月に帰って来たと思うが……。まぁいいや。

 

 で、プレゼント渡すから夕方に集合と呼びつけ、サプライズなど微塵も感じさせない言い方で理子の予定を空けた。気の利いた言葉なんていらないレベルのストレート具合だ。下手すりゃデッドボールなまである。

 

 とりあえずアクアシティお台場の雑貨屋を巡りながらのんびり相談し合う。

 

「理子さんは普段自身で身に付けるものを多く所持していますが、何を渡せば良いのでしょうか。私にはそういうセンスがないので」

「アイツの趣味広いからなぁ。ぶっちゃけ分からん」

「では八幡さんは何を?」

「俺は高めのお菓子でも渡そうかなって」

「お菓子……」

 

 本当にそれでいいのかと言いたげなジト目を俺に向けるレキ。言いたいことは分かるが、これでもきちんと理子のことを想って考えたわけだ。

 

「自分の趣味に合わないモノ渡されて、これいらないなって思われるの嫌だろ……その点食べ物なら食べれば形に残らない。外れにはならなさそうだし。理子は多趣味だから余計にな。いやまぁ、現段階で理子のプレゼント選んでいるレキの前で言うことじゃないか。あれだ、俺の性分というかネガティブ思考なもんだからな」

 

 今この場で全部話すべき内容ではなかった。反省。

 

「それは……どうなのでしょうか。それで喜ばれるものですか?」

「理子なら何でも喜びそうなイメージはある。それにあれだ、めちゃくちゃ高いものならいざ知らず、お菓子なら向こうも気を遣わなくて済むんじゃないか。お返し云々的な話で」

 

 別に適当に選ぶわけでもないし、それで許してほしい。

 

「では私もそのような系統で選びましょう。あったら便利ですが、それがなくても特に問題ないようなプレゼントを」

「それだけ訊くとなかなかに難題だな」

 

 いくら時が過ぎようがいくら成長しようが元々の性根がボッチ同士には難易度の高い問いだ。如何せん、知人にプレゼントを送った経験がなさすぎる2人だ。

 

「となると、やはり小物でしょうか。八幡さんはアクセサリーで思い付くモノは?」

「指輪、ネックレス、ブレスレット……?」

 

 俺が答えてもレキは無表情だがどこか微妙そうな表情で。

 

「しかし、理子さんはどれも精通してそうですね」

「でもアクセサリーならその時々の気分で変えるだろうし、数が増えたとしても問題なさそう」

「では普段買うことが厳しそうなモノを?」

「高価なやつとか? 宝石拵えてそうな」

「なるほど。高いプレゼント……それでは八幡さんが先ほど言っていた問題になりませんか?」

「そりゃそうか」

 

 誕生日プレゼントでクソ高いモン貰ったら気後れするというか気を遣いまくる自信しかない。

 

「ちなみにお前何円くらいのやつにしようとしてる?」

「5万円から探していますが」

「普通に高いわ……。金銭感覚狂いすぎだろ。友だちに送るプレゼントの値段設定じゃねぇな……」

 

 平然と告げるレキに対し思わず呆れながらも、やけに重々しい口調でツッコミを入れる。やはりこの相棒は裕福な思考をしている。

 

 金銭感覚がある意味狂っていると今さらながら再確認した。そうなると理子も俺と比べると圧倒的なまで金持ちだけれど、ここは庶民の金銭感覚に合わせてほしい。

 

 お前もお前で『何かおかしいことある?』みたいなキョトンとした視線を向けない。多分俺の感性の方が一般的だ。

 

「せめて1万には抑えてくれ」

「分かりました」

 

 レキを抑えるため口ではそう言うが、正直なところ1万でも高い気はする。とはいえ、学生でありながらお互い稼いでいる身からすると、このくらいならギリギリ許容範囲だろう。多分きっとメイビー。

 

 プレゼント探しは仕切り直し。様々な雑貨屋、服屋などを見て回ること1時間。

 

「八幡さん、これは何でしょう?」

 

 ある雑貨屋で不意に訊ねたレキが指差した商品を確認する。

 

 俺が目を向けた商品はどうやら円柱の形をしている。それはグラスみたいだ。そのグラスに彩りが豊かな何か入っている。これは蝋だろうか。

 

 商品名を読む。これはグラスの中にある蝋に火を点けて匂いを楽しむモノ。

 

「あー、これアロマキャンドルだわ」

「アロマキャンドルとは?」

「ざっくり言うと香りのするロウソクってところ。詳しくないけど、リラックス効果があるとかって話だったかな」

 

 俺が簡単に説明すると、レキは並んでいる数々の商品をまじまじと眺める。

 

「香り……自然由来の香りもあるのですね。ハーブ、樹脂、樹木……これは良さそうですね」

 

 商品説明を読みつつ感想を述べるレキ。随分とアロマキャンドルにおいて高評価だ。珍しいと感じるもレキの育った環境を鑑みると、レキは常に自然に囲まれた場所にいた。

 

 自然に対して並々ならぬ想いがあるのかもしれない。

 

「それにする?」

 

 ざっと見た限り値段んはピンキリだが、充分予算内のモノもある。

 

「はい、これにします。私の好みで選びましたが、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫大丈夫。何ならレキの好み知れた方が理子も喜びそうな気がする」

 

 それにアロマキャンドルもレキの選ぶ題材に合っていると思う。あったら嬉しいが、なくてもこれといって困らない。加えて消費して使えばいつか無くなる。

 

 それにアロマキャンドルが並んでいる棚をレキはじっくりと眺めている。どうやらわりと気に入ったようだ。

 

「せっかくだ、俺もレキに買おうか?」

「それはまた別の機会に。今回は大丈夫です」

 

 俺の何気なしな提案はあっさりと断られた。まぁ、今日は理子のプレゼントを買いに来たわけだから余計かと思ったのかもしれない。

 

 その後、レキはアロマキャンドルを購入し、俺もまた別の店で少し根の張るクッキーやチョコレートの詰め合わせを購入した。

 

 買ったプレゼントをそれぞれカバンに仕舞い、休憩がてら近くにあったレストランで昼食とした。

 

 俺はハンバーグ、レキはオムライスを頼みしばらくゆっくりしている。

 

「…………」

「…………」

 

 注文した料理も届き、互いに無言で黙々と食べる。

 

 食べ終えてから俺は食後の紅茶を飲みつつこれからの予定をどうしようかと考えていると、同じ食後のコーヒーを飲んでいるレキがふと口を開く。

 

「八幡さん、少しやりたいことがあるのですが、宜しいでしょうか」

「やりたいこと? どっか行きたい場所あるのか?」

「いえ、この場でできるゲームです。20の質問を知っていますか?」

 

 淡々とした表情で語るレキに少し面を喰らうも、俺は記憶を探りゲームの内容を話す。

 

「えーっと……はいかいいえで答えて出題者が浮かべているモノを当てるゲームだっけ?」

「はい」

 

 合ってたらしい。けれど、どうもレキらしくない内容だとも失礼ながら感じてしまう。

 

「なんでまた急に」

「先日そういうゲームがあると留美さんに教わりまして。会話に困ったときに重宝すると」

 

 まさかの一番弟子からの提案でした。

 

「別に俺ら沈黙が気まずい関係でもないだろ。何ならそれがデフォルトなとこまである……まぁ、暇潰しにやってみるか」

 

 普段あまり自分の欲を出さないレキがやりたいと言っているのだ。ならば付き合おうではないか。

 

 こういうことを勧めるレキは珍しいことこの上ないし、俺もこういうパッとできる暇潰しのようなゲームは嫌いではない。今までやる人がいなかっただけである。何それ悲しい。ワードウルフとか興味あるのにやる人がいない。

 

「出題者はレキでいい?」

「そのつもりです。もうお題は考えております」

 

 随分とやる気だな。最初からやるつもりだったのかな。

 

「じゃあ、早速始めるか。まず無難に……それは生物ですか?」

「いいえ」

「それは食べ物ですか?」

「いいえ」

「それは飲み物ですか?」

「いいえ」

 

 ……と、初っぱなノーが3連続。出鼻を全部挫かれた。

 

 けれど収穫はある。つまりこの質問で分かることは生物関係ではないということ。これで生物がいいえで飲食物がはいだったら、例を挙げると料理とか有り得そうな気はしたが……。

 

「それは触れられるモノですか?」

「はい。実在するモノです」

 

 何かしらの概念や霊的存在でもないと。概念って言うと大げさだが、言葉とか勉強とかそういったモノではない。

 

「それは常温ですか?」

「……はいでもあり、いいえでもあります」

 

 今度は随分と曖昧な返答だ。つまり、それに関しての温度は状況によって変化する。レキの言い方からして温かくもあり冷たくもある? 普段は冷たいのだろうか?

 

 となると、俺がパッと思い付くのは――――

 

「それは家電ですか?」

「いいえ、違います」

 

 てっきり電子レンジかと思ったがこれも違うと。

 

 他に温かくも冷たくもあるモノと言えば……地面? 砂漠? さすがにあやふや過ぎる。レキがこんなお題にするとは考えにくい。というか砂漠は触れられるけれど、どちらかと言えば概念に近い。

 

 今回はレキがお題を出す。わざわざそんな捻ったお題を出すとは考えにくい。レキが?

 

 と……待て? 今回の出題者は当然俺の隣にいるレキ。つまるところ、レキと関連するお題の可能性があるのではないか。ならばまずはその確認か。

 

「それはレキが触れたことあるモノですか?」

「そうですね……では、はいということで」

 

 ちなみに敬語なのはゲームとしての形式上。こういうのは形から入らないとな。

 

 それは置いておいて……それはレキが触れたことあるモノ。しかし、回答はどちらかと言えばあるのような言い方とも聞こえる。

 

 いや、これは……はいかいいえのどちらかと言うより、回答に対して不十分なお題だった? それとも最初の内はこれで大丈夫かと思っていたが、俺の質問により思った以上にお題の定義が広くて微妙な言い回しになった?

 

 現段階では判断できないな。

 

「さっきので何個目の質問だっけか。えーっと……」

「7です。次で8になります」

「すまんすまん。んー、どうするか……」

 

 それは生物でも飲食物ではないが、温かくもあり冷たくもあるレキが触れたことあるモノ。生物でないが、熱を持っている。それを使うと熱を生まれる? 後天的に熱が発生する?

 

「それは入浴関係のモノですか?」

「いいえ」

 

 風呂やシャワーでもない。

 

「それは俺も触れたことあるモノですか?」

「はい、ということでいいと思います」

 

 ……思います?

 

「それは今日レキが触れたモノですか?」

「いいえ」

 

 これで半分か。ちょっと俺の質問の出し方悪いかな。思い返してみても全然分からない。

 

 俺も触ったことある。レキもあるけど今日は触れていない。

 

「それはレキが毎日触れたことあるモノですか?」

「はい。今日はまだです」

 

 レキが毎日触れるモノ。

 

 日常的な背景で考えてみる。

 

 ……扉、取っ手、皿、コップ……熱関係で言うとこ後者2つ? いや皿もコップも今日これまでの間で普通に触れてる。一瞬服かと思ったが、触れてなかったら単純におかしい。

 

 しかし、それらの回答ではあまりにもレキらしくもない。どうもピンと来ない回答だ。

 

 そして、時折レキはあやふやな回答を見せる。今回初めてゲームをやってみて、いざ言葉にすると幾らかの迷いが生じる……といったところか。

 

 要するに無意識な日常の動作ではなく、毎日レキが意識的に行うこと。

 

 それは何だ? それを思い出すためにレキという人物の特徴を今一度考える。

 

 レキと言えば最高峰の狙撃手。圧倒的なまでの射程距離の持ち主。ざっくり2kmまでなら目標がどこにいようが撃ち抜ける技術を所持している。

 

 その狙撃を行うためには単純なレキの技術は当然のこと、銃やそれに類する物体全てにおいて綿密なメンテナンスを毎日行っている。武偵高での任務のときも引っ越し先の新しい部屋でもその習慣は全く変わらない。

 

 …………なるほど。

 

 ここまで記憶を振り替えってみてようやく予想ができた。

 

「……それは銃ですか?」

「いいえ」

「それは銃弾ですか?」

「はい。お見事です」

 

 あ、やっと当たった……。

 

 温度云々は多分銃弾を撃つ前か後の話だな。撃つ前は冷たいし、撃ったら熱を持つから熱い。

 

「んー……地味に難しかったな」

「どこで分かりましたか?」

「ぶっちゃけ消去法。ていうか、こういうゲームって基本消去法じゃないかな。それからレキの性格とかを考えて……これかなと推測した」

 

 うーん、わりと頭使ったなぁ。せめて半分切りたかった気持ちはある。

 

「そういや途中、回答に迷ったのは何でだ?」

「銃弾……弾薬と一口に言っても種類が豊富だなと出してから思いまして。私の7.62x54mmR弾と八幡さんの5.7×28mm弾では使う銃も用途も違います」

「なるほど、そういうことね」

 

 例えば犬を例題にしたとして、個人が飼っている犬なのか何かの犬種なのか、細かい部分をツッコミ始めたらキリがない。

 

「どうでしたか」

「けっこう面白かったぞ。頭もわりと使ったし」

「それは良かったです」

 

 一段落し残りの紅茶を飲もうとカップを手にしたら、ふと携帯からピコンと通知音が鳴る。

 

 誰からかメールが来たらしい。差出人は……遠山か。

 

「メールですか?」

「遠山からだな。あ、そういう……」

「何か約束でも?」

「いや、俺のシャツが2枚くらい遠山の荷物に交ざってたみたい。それをどうするかって」

「シャツですか?」

「あっちにあるの夏用のシャツだったからな。引っ越ししたの冬だったし衣替えしたとき遠山のと交ざってしまったみたいだ。帰り取りに行くか」

「付いていきましょうか?」

「いや大丈夫。先に帰っておいて」

「分かりました」

 

 と、メールを返信したついでに携帯を眺める。他に何か通知ないかな……。そういや校内ネットでクラスとかの新しい情報は。

 

 ……………………え?

 

 ちょっと待って?

 

「……ん?」

 

 これマジで?

 

「どうしました?」

「いやこれ……見てみろよ」

「…………これは……」

「いやまさかだな……」

 

 そう俺たちはまじまじと液晶画面を見つめる。そこにはあまりにも予想外の内容が記されていた。

 

「まぁ、たまにはゆっくりした方がいいよな」

「今年度は色々とありましたし……それが良さそうですね。死ぬわけではありません」

「人生長いしな。ちょっとくらい余裕あってもいいよな」

 

 と、各々好き勝手に感想を言い合う俺ら。

 

 その内容はいつか語るとしよう。どうせすぐ判明するだろうけれど。

 

 

 

 

 

 ――――そして数時間後。

 

「やっほー。来てくれてありがとね。でも、別に私の部屋じゃなくても良かったよ?」

「わざわざ主賓に出歩かせるのもな」

「先ほどまで出歩いていたので苦ではありません」

 

 夕方になり、約束の時間になったので理子の部屋に移動した。

 

 ソファーに腰かけ、歩いた疲れを少し癒す。

 

「そういえば今さらだけど、私ハチハチの誕生日祝ってないね」

 

 それはそう。だからどうこう言うつもりもない。なんなら誕生日当日何していたか覚えていなまである。

 

 あれ、今年の俺の誕生日……俺何していたっけ? 夏休みはカジノでの事件、セーラ突撃、それ以外特に思い当たる出来事がない。いやマジで何かした覚えがない。

 

「ていうか、そもそも知っているのか? 俺教えたことないけど」

「これでも探偵科だからね。調べはするよ。8/8だよね」

「おう」

 

 どうやら知っていたらしい。と、少し感心した俺をよそに理子は少し残念そうに眉を寄せる。

 

「でもねぇ、レキュの誕生日は分かんなかったよ」

 

 なるほどね。俺の次と来ればコイツになるな。

 

「ぶっちゃけると俺も知らん。というより、レキ自身も知らないんだよな?」

「ここに来るに辺り、適当に設定しましたが、本当の生年月日は私も知りません。正確に言えば、生まれ年は皆さんと同じなのは知っています。月日が分からないだけです」

 

 それもそれでどうなのやら。如何にレキの育ったウルスやらが特殊なのがその一言だけでよく分かる。戸籍とかどうなっているのだろうか些か疑問に感じる。

 

 たしかにあの草原にカレンダーらしきものは見当たらなかったと今さら思い出す。あの人たち日々をどう生きているんだろう?

 

「地味に暗い話題はさて置き、さっさと本題済ますか」

「えぇ、そうしましょう」

 

 俺たちはカバンから各々プレゼントを取り出す。

 

「つーわけで、改めて誕生日おめでとう」

「誕生日おめでとうございます」

 

 買いたてホヤホヤなプレゼントを渡す。

 

「おー、ありがとー!」

 

 理子はサプライズなんて欠片も見られない渡し方でもとびきりの笑顔で受け取ってくれた。

 

 ふむふむと頷きながら理子はプレゼントを物色を始める。

 

「ハチハチはお菓子関係なんだ。うん、ハチハチらしいね。あ、充分嬉しいからね? ってこれ有名店のじゃん。なかなかにお高いやつだねぇ。レキュのは……包装されてるね。これ開けていい?」

「どうぞ」

「これは……おっ、アロマキャンドル?」

「そうです」

「へぇ~……グラスに入っているタイプかぁ。またあとで点けてみるね。私あまり使ったことないから嬉しいよ。ありがと、レキュ 」

 

 再び理子の顔が笑顔で綻び、彼女が心から喜んでいることが見て取れる。

 

「またプレゼントはあとでじっくり堪能させてもらうとして……これからどうする?」

 

 大事そうに閉まってから理子はそう話しかける。

 

「ていうか、ハチハチとレキュは時間ある?」

「あとで遠山んとこまで用事あるけど、別にあれは何時でもいいからな。大丈夫」

「私もです」

「ん? ハチハチ、キーくんに何かあるの?」

「忘れ物していただけ。ついでに取りに行く」

 

 ここは女子寮だ。男子寮は俺らの部屋から比べたらまだ近い。寄るには若干ながら都合がいい。

 

「なら時間多少ずれ込んでも良さそうだね。なら食事にしよっか。このあとあかりちゃんたちが来る予定なんだけど、ちょっと多めに作っちゃったからね。ハチハチもレキュも食べて食べて。温めてくる~」

 

 パタパタと足音を立てキッチンへ行ってしまう理子。うん、理子が主賓なのにわざわざ食事の準備をさせてしまい……果たしてこれで良いのだろうかと一抹の不安を覚える。

 

 ので。

 

「いや俺らがやるから座っててくれ」

「え~、でも~、ハチハチやレキュじゃ食器の位置やら分かんないでしょ」

「……じゃあ手伝うから」

「オッケ~。それじゃあね――――」

 

 

 ――――理子お手製の料理を食べながら雑談タイムが始まる。

 

「そういえばさ、ハチハチはどこかからスカウト来た?」

「あー……スカウトって、3年になったら企業やらから来るあれか?」

「そうそう」

「でも俺らまだギリギリ2年だぞ。明日から正確に3年になるけれど。今はムリじゃないか?」

「あれね、3年になれるって確定していたら別にスカウトしてもオッケーなんだよね」

「そうなんだ」

「とはいえ、うーん……ハチハチの言う通りこんな微妙な時期でスカウトするところもないかな。それこそ何かしらの緊急性な事件がないとスカウトする側もあまりメリットなさそう?」

「そりゃそうだな。つーか、そんな緊急性のある事件ならわざわざここの奴ら誘うより普通にプロに依頼した方がいいよな。っと、プロって言えば……なんか武装検事の推薦の話もあったらしいな。遠山が誘われたって言ってたわ。アイツ断ってたけど」

「わざわざ受ける話でもないように感じます」

 

 なんて将来に関する話を適当に会話する。

 

「そもそもとして俺にスカウト来ないだろ。客観的に見ればそこいらにいるBランクの武偵だぞ」

「しかし、八幡さんはある意味かなり有名ではあります」

「アングラな界隈ではそうだよねぇ。なんかもうイレギュラーの名前浸透しているとこあるし。SDAランクにも載っているもんね」

「ここまで来たらもう否定はしない。ただ、そもそもの話、そんなとこから普通にスカウトはないだろ。まぁなんだ、今のところ誰かの下に付く気はない。任務で誰かと組むときはあっても、それが永続なのはさすがにムリだな」

「八幡さんが誰かに付くなら自然と私もいることになりますから、厳しいでしょう」

「お、おう……さすがの貫禄だね、レキュ。だったら私たちで独立する?」

「近中遠とチームバランスは良さそうですね。しかし、理子さんは既にバスカービルにいるのでは」

「私たちで事務所作ればチームとは関係なしで動けはするよ。これなら、必要なときにアリアたちのとこにもしがらみなく行けるからね」

 グダグダと談笑は続く。

 

「それで3年になるハチハチは何か目標ある? 将来的なのではなく、武偵として能力の向上とかに対して」

「と言われてもな。挙げるなら射撃技術と近接能力の強化とか。特に後者……素手での近接戦闘が課題だな」

「充分すぎるほど強いと思いますが」

「あれは烈風を補助で用いて加速している故の威力だからな。そうじゃなくて単品での強さがほしい。わりと普通に殴っても耐えられるときあるし。鳩尾や股関節とかの急所を率先と狙ってはいるけど、それだけじゃ足りないこともある」

「うーん、単純な威力や出力向上させるならやっぱ筋力付けるとかじゃない? それか打撃の種類を変えるとかはどう?」

「種類?」

「例えば、発勁。あれはざっくり言うと、ただの衝撃じゃなくて身体内部まで響く打撃。力の伝え方が特殊だよ。かなり難しいけどね。体重を全部体を乗せれば、普通の殴打よりもかなり強いよ」

「あー、なんかそれ理屈は遠山から訊いたことあるわ。銃弾が強いのは軽くて速いから。逆に重くて遅い攻撃でも、同様の破壊力を得られるって」

 

 たしかその技の名前は秋水だったな。理屈は訊いても実践できる気はしないのは置いておく。

 

「重心移動を完璧にこなせて、寸分違わぬ力を伝えることができればアホみたいな威力が出るらしいな」

「人間なんて言い換えれば数10キロの水袋だからね。銃弾の何倍重いってもんだよ」

「理子や遠山の言うことは分かるには分かるけれど……単純にそれを身に付けるのに年単位は余裕でかかるだろ。烈風で加速するにも限度がある。めちゃくちゃ勢い付けた反動で腕イカれたことあるから、いつかはその打撃は使いたいな」

 

 少しずつ練習するかと思うが、独学で学べるものなんかな。そういう道場とか教えてくれる人とかあるのかな。まぁ、調べたりしておいおいだな。

 

「最近は少しずつ極め技……組み技とか関節技とかは練習している」

「いいねぇ。極め技って比較的簡単に相手の戦意奪えるから有効だよね。タイマンならかなり使える技術なのは間違いない」

「逆に多対一だと使いにくいときはあるな。その状況なら棍棒で殴った方が手っ取り早く制圧できる」

「極め技……よく材木座さんが犠牲になっていますね」

 

 練習相手に材木座には付き合ってもらっている。オーバーな反応をしてくれるから相手していて面白さがある。

 

「まぁ、今後の目標はまとめると超能力に頼らず戦力強化したいって感じだな。武器もそうだが、何より生身の技術強化って感じかな。やはり何より肉体が強くないと何も活かせない」

 

 それでも頼るときは素直に頼る。超能力は借り物であれもう既に俺の力の1つなのには違いない。出し惜しみはしないが、基本的にはなるべく情報は隠したいので出し惜しみしたいときはある。悩みどころだ。

 

 ――――なんて頭を悩ませたのもあっという間に過ぎ、しばらく世間話は続いてあれから数時間は経過した。

 

「おっと、そろそろあかりちゃんたちが来る時間かな」

「もうそんな時間か。んじゃ、お暇するか」

「そうですね。理子さん、おじゃましました」

「2人ともプレゼントありがとね~」

 

 女子寮を出る。もうあと数時間で4月になるとはいえ夜の風はまだ冷たい。

 

 そんな冷たさに少し耐えてからレキに声をかける。

 

「先帰っていてくれ。行ってくるわ」

「分かりました。お気を付けて」

「気を付けるもなにもすぐそこの距離だけどな。じゃまたあとで」

「えぇ」

 

 俺とレキ、互いに反対方向へと歩く。

 

 ふと後ろを振り向くともうレキは見えなくなった。曲がり角を既に曲がった頃合いなのだろう。そうして5分ほど歩いていると俺の視界には何やら見慣れないモノが映る。

 

「ん?」

 

 何か喧騒――――というよりも喧嘩レベルの揉め事が起きていたらしい。俺は無意識に物陰に隠れ、気配を消す。

 

 グッと目を凝らして向けると、少し目を疑いたくなる光景がそこにはあった。どうやら複数人が1人を追い詰めていると表現すべきだろう。そして、その渦中にいる人物には見覚えしかない。

 

「何してんだあれ」

 

 なぜかは知らない。ただ見て理解できることとして――――なんか遠山に手錠かけられていない?

 

「え、えぇ……」

 

 どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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