八幡の武偵生活   作:NowHunt

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白と黒

 目が覚める。

 目に光が入る。

 急に感じる眩しさに思わず顔をしかめる。

 

 たったこれだけの、寝起きのときにいつもするこの流れ。毎朝、昼寝したとき、意識せずにいつも行っているはずの日常の仕草。この一連の動作が久しく感じる。長らく行っていないような違和感を覚える。

 なぜだろう。そんな不可解なことをぼんやりと疑問に感じる。不可思議な内容が頭をグルグルと解決しない問題を考えているかのように巡る。

 

「……」

 

 目を開けると薄暗い電気と少し汚れた薄汚い天井のタイルが見える。見たことない場所だとハッキリしていない意識の中でも直感で理解できる。

 知らない天井とか言ってボケてみたいところだけど、実際本当に知らない場所だと全く頭が働かない。

 

「あっ……んんっ」

 

 何か喋ろうとしたが喉が渇いており上手く発声できない。どうも長い時間寝ていたらしいと何となく感覚で判断する。

 

 それだけ認識しながら立ち上がる。俺が寝ていた場所はベッド。布団の品質は良く、ベッド本体の造りは頑丈だった。いや、ベッドの批評なんて今はどうでもいい。

 とりあえずあれだな。

 

 ――――ここどこ?

 

 率直な疑問と共に辺りを見渡す。

 

 ワンルームほどの大きさの部屋にベッドがある。その横にはテーブルがあり、その上にはファイブセブン、分割された棍棒であるヴァイス、ナイフ、マガジン数個、コート諸々……俺の装備が律儀に置いてある。

 そして、ペットボトルも置いてあり中には水が入っている。飲みたい気持ちはあるけれど、誰が置いたのかも分からない水だ。当然毒などを警戒ししまう。とはいえ、パッと見は透明に見える液体に対して何があるのか判別はできない。

 

 しかし、渇きに対して我慢できずに一口飲む。……特段おかしな味はしない。普通のぬるい水だった。

 というかあれだ、毒を入れるならそもそも俺が寝ている間に殺せばいい話だ。このあと何かしらの尋問が待っており、そのための自白剤の可能性もあるが……まぁないだろう。これといって重要な情報を俺が握っているわけでもあるまい。

 

「さて」

 

 部屋にはもう何もない。俺の装備とベッドと水だけだ。床や壁はコンクリートでできている。実に簡素な造りだ。窓も備え付けられていないから外の様子を探ることはできない。

 

「そもそも」

 

 ……ここがどこかを探る前になぜ俺はここにいるのか、という疑問が適切だ。

 

 ここで目覚める前の最後の記憶は何だ。長時間寝ていたようでまだ意識がはっきりしない。ゆっくりと記憶を探り、少しずつ思い出そうとしている。

 

 頭に浮かぶイメージ。

 

 ……最後の記憶……頭を、掴まれたような。なんで掴まれたのかな……。

 いや、その前に、何かと戦っていたような。

 何か……いや、誰か……。

 

「マキリ……」

 

 ようやく思い出した。ローマでNに所属しているマキリと戦闘したんだ。俺は持てる手段を用いてマキリと戦い、そして負けた。それはもうひたすらボコボコに。

 マキリは俺を殺すと発言していた。実際、マキリに頭を掴まれたときはもう死ぬと確信していたけれど――――俺は今こうして生きている。

 

 つまり、俺が完膚なきまでに敗北した後、気絶して誘拐されたと見るのが妥当か。

 

 クソッ、あぁも完璧にヤられたとは非常に腹が立つ。

 

 これでも俺は様々な助力を得て、強い敵と戦って強くなってきたと勝手ながら自負していた。武偵になりたてのころと比較したら一目瞭然だろう。

 慢心はしていなかった。調子には乗っていたなかった。

 俺はその場において普段通りの実力を発揮した。しかし、今回は見事なまでにボコボコにされた。それこそ、もう死んでいてもおかしくないくらい。俺の方が弱いとただひたすら実力不足を痛感させられた戦いだった。

 マキリは俺を殺すと宣言した以上、逆にこうして2本足で立っているのが不思議だ。

 

 そして、この現状は何だ。

 なぜ俺は生きている? 

 やはりその言葉が何度も頭を巡る。

 

 Nの幹部がそれ以上の立ち位置にいるであろう教授とやらの命令にマキリが背いた? それとも命令に俺の誘拐も含まれていた? まぁ、それこそ意味不明だ。俺にそんな価値ねぇだろ。

 真偽不明。パッと考えられる理由はこの辺りだが、実際のところは。

 

「分からねぇ……」

 

 である。

 まぁ、生きているからヨシ! 俺の人生、ずっと行き当たりばったりだね! ……こんなくだらない冗談を思えるくらい前向きになれるなら一先ずメンタルは大丈夫だろう。

 

 体の調子はどうだ…………マキリにヤられた腹には痣が残っている。多分骨まではイッてないとは思うが、普通にまだ痛みも残っているなこれ。さすが浸透勁というべきか。それも達人レベルの一撃だ。そんなすぐに完治とまではいかない。

 とはいえ、時間は経ってそうなこともあって多少は引いている。一先ず動けるからヨシ! 

 いやアイツの打撃強すぎるだろ……神崎かよ……。だいたいこういうときは比較対象になる生身の戦闘力がイカれている神崎というね。

 

 これから脱出するために動くにしろ、武器がなければ何もできない。こちとらもう超能力はガス欠もいいとこだ。色金の力はマキリ戦で使ってないから残っているけれど、素手では正直何もできない。なんだかんだで俺には武器がないと戦力はガタ落ちだ。

 装備の具合を確認する。特に弄られた様子は見受けられない。ナイフ、棍棒も普通の状態だ。弄られたら一番危険性の高いファイブセブンも普通。なんなら軽く整備されているまである。

 誰が? なぜ? わっかんねぇなぁ。

 一通り確認したところ怪しい部分は特にない。

 

 これはこれで不気味だな……。そんなことを頭の片隅で考えつつとりあえずコートを着て武器をいつもの場所に装備する。

 

「さて」

 

 改めてここはどこだ。

 

 まぁ、そもそも俺を捕らえたのがマキリたち。つまり、十中八九Nの拠点のどこかだということは意識がハッキリした今嫌でも理解できる。悲しいことに現時点で分かるのはそれだけだけれど。

 で、俺の装備含めやたら親切気味な……自由な待遇を感じてしまうのはあれだな、かなりアクセスの悪い場所なんだろうなぁここ、と何となく察してしまう。

 簡単に無関係な人が来れないからこそ、俺をある程度自由にさせても問題ないとの判断だろう。それとも俺をさして脅威と感じていないと考えるべきか。恐らく両方かな。マキリに負けた身だ。後者の方が占めているかな。

 

 というか窓すらないから外の様子が見えない。元はもしかして物置部屋か何かだろうか。

 

「うおっ……」

 

 ……おっと、今大きく揺れた? 地震? いやなんか違うな……。なんなら意識が覚醒してからずっと小さく小刻みに揺れているように思える。いや、実際ずっと振動が伝わってくるからそれで正解だろう。

 それにさっきから機械が稼働している音が薄っすらと聞こえる。

 

 揺れ方は一定ではない。強弱含め不定期に動いている。

 このどこか覚えのある既視感――――もしかして何かしらの乗り物? それもこんなにずっと揺れるのは船? 

 例えば廃ビルといった建造物だとしたら感じない揺れ方だと勝手ながら思う。ただの直感、第一印象でしかないが……。

 

 そういえばどこか聞いたことがある。船は何かあった際、水が浸入しないように窓を少なく設置しているかとか何とか……。

 凝り固まった思い込みのせいで、ここが船の可能性であると思ってしまうが、別にここが乗り物ではなくどこか倉庫とか機械室の近くといった可能性も十二分にある。

 

 しかし、この不定期に揺れる感じ。どこか既視感を覚える。船旅はそんなにしたことないが、イ・ウーでの原潜、香港でのタンカーを思い出す揺れ方だ。

 考え過ぎだといいのだけれど……。

 

「…………あれ」

 

 というか、これもし船なら脱出ほぼ不可能じゃね?

 

 そんな最悪な考えが頭に浮かぶ。

 

 瞬間移動はある。烈風は使い果たしたが、マキリ戦では色金の力は使っていない。色金の力は残っている。

 

 ――――が、もしここが太平洋や大西洋のド真ん中だとしたら跳ぶにしてもかなり厳しい。俺が独りで今跳べる距離はざっくり本州の距離感。

 まぁ、本州ってやたら長いからやろうと思えば国内から外国へと飛ぶことは可能だ。

 それも平地から平地への計算だ。高低差込みだと多少なりと計算が狂う。

 もし……もしここが考えたくないけれどそれこそ原潜とか海中を進む船とかだったら、海中から地上へ戻る距離も計算に入れないといけない。そうなるともし日本が近くてもかなり難易度が高くなる。

 

 いや別に原潜とかなわけないけどな! 何を言っているんだ俺は。いくら負けたからといってネガティブな思考に寄りすぎている。

 

 正直、船から飛ぶのも高さの問題もあってキツいとは思うけど、ビルの屋上から平地へ跳んだり、標高の高い場所から低い場所へ跳んだりとする行為は今のところ成功しているから大丈夫か。

 物事全て楽観的に考えるのは危険だけれど、そこまで悲観的になる必要もない。

 

「…………」

 

 まず何にせよ情報だ。脱出するにしろ迎撃するにしろ動かないと始まらない。扉は開くか? そこからの構造は? 出口は? 誰がいるか? 調べることは多い。

 

「…………」

 

 扉を開く。鍵はかかっていない。

 うーん、あまりにも不用心すぎる。俺程度の戦力は脅威にならないと考えているのか、はたまた脱出することが到底敵わないから開放的なのか。

 

 扉を少しだけ開けてから顔を出す。

 左右を見渡す。長い廊下だ。コンクリート造りの無機質な廊下。全体的に薄暗く、やはり窓はない。

 ここからだと何も様子が分からない。パッと見の印象は今いる場所は建物とは思えない。ここが地下かもしれないけど、地上やそれ以上の場所にいるとはあまり考えられない。

 これはまぁ、ただの感覚でしかないけど……。

 

 というか誰もいない。

 

 ……いや、誰か近付いて来ているのが分かる。どうやら足音が聞こえる。音は2種類。……ということは2人?  コツコツと足音が響いている。

 拳銃を手に持つ。誰だ……見回りかだろうか。

 どうする? やるか? 気絶させて逃げる? 制圧して情報を聞き出す?

 

 判断に迷っていると徐々に足音が近付く。

 曲がり角からこちらに来る人物が見える。1人はロングコートを着た長い髪の女性。恐らく俺をここに連れてきた――――マキリだ。

 もう1人は軍服を着こなしている蒼い髪の小柄な女性。マキリよりも背が低い。多分神崎辺りと同じだろう。あれは誰だろう? あれもNの一員であるだろうが……。

 

 というかマキリがいるんだ……。これなら戦ってもムダだ。万全ではない俺が戦って勝てる相手ではない。

 

「……あら」

 

 諦めてマキリたちの前に立つ。念のためファイブセブンは手に持ったまま。

 

「目が覚めたのね」

「まぁな」

 

 俺と戦ったときのような別人かのような無感情なマキリではない。コロッセオで話したときと同じ、多少は人間味のある雰囲気だ。

 

「色々と訊きたいことしかないが、なんで俺を生かした。殺すんじゃなかったのか」

 

 扉から出た俺は廊下まで歩き、マキリたちの前に堂々と立つ。ファイブセブンは跳弾やらが危険だから閉まって。こちらに戦う意志はないと示す。

 

「元々はそのつもりだったけれど、教授が可能なら連れてきてほしいって言っていたのよ。もし貴方が教授が言うほど強くなかったら殺したけど、多少は骨があったからね。とはいえ、教授はイレギュラーと会う予定はないらしいわ」

 

 素直に返答した事実に驚く。

 

「教授……隣の奴じゃないのか」

 

 軍服の蒼髪の少女を見る。

 

「彼女は違うわ。あと拳銃、使わない方がいいわよ。どうせ私たちには当たらないわ」

 

 マキリは即座に否定する。追加で俺の行動を諌められる。

 ……まぁ、こんな狭い廊下で使ってもな。弾道読まれやすいし、マキリ相手なら簡単に弾かれるだろう。下手すれば俺に跳ね返ってくる。

 烈風が使えない今、それを防ぐ術がない。加えて蒼髪の少女も何かしらの手段で防げると明言される。小柄な少女の戦闘能力は不明だが、マキリが言うからには真実なのだろう。

 その言葉に素直に従ってファイブセブンをホルスターにしまう。

 

「とりあえず、部屋に戻りなさいな。今はあなたを殺すつもりはない。それは理解できるでしょう?」

「……あぁ」

 

 納得できる。残念ながらそれが真実だと分かる。殺そうと思えばいつでも殺れたわけだしな。

 

 さっき目覚めた部屋に戻り、俺はベッドに座る。2人は立ったまま俺を見下ろすように話を始める。

 

「まず最初に、彼女は日本語は喋れないからそのつもりで。私が間で翻訳しながら話すからちょっとテンポ悪くなるわ」

「分かった」

「英語ならある程度話せるけど、貴方できる?」

「日常会話程度なら」

「そう。何かあれば話しかけてみなさい。答えるかどうかは別でしょうけど」

 

 と、マキリは俺から目を逸らし思案している顔になる。何から話せばいいのか迷っているのだろうか。それとも話せる情報の取捨選択をしているってことか。はたまたその両方。

 

「……具体的な場所は言わないけど、ここはあなたの読み通りNの拠点の場所の1つ。というより、今どこにいるのか正確な位置は私もよく分かっていないわ」

 

 あっけらかんと言い放つマキリに対して嫌な予感がする。予感というのり確信に近い気がする。俺は頭を抑えながら言葉を紡ぐ。

 

「……ってことは、乗り物にいる。それも船かそれに近いやつに。つまり今、俺らは海にいるってことか。わりとここは広そうだし、どうも飛行機ではないだろう」

「ご明答。薄々分かっていると思うけれど、原潜よ、ここ」

 

 やっぱりかぁ……と深いため息が出そうになるのを堪える。

 

 それも原潜ときた。

 てことは今俺は海上どころか海中にいるのだろう。つまり脱出は瞬間移動を使わないと不可能。その選択肢は現段階では難しい。

 加えて電波も通っていない。連絡を取ることも難しい可能性が高い。頭が痛くなってきた……。

 

 ……レキ。

 

 レキたちに連絡せずにここに攫われてしまった。

 

 俺が気絶してから何日経っているかは不明だが、いきなり音信不通になってしまったわけだ。心配かけていないだろうか。怒っていないだろうか。

 なんかイ・ウーに誘拐されたときを思い出す。あのときも心配かけたどころか戻ってきたときに狙撃されて命の危機だったという。改めてなんで?

 せめてマキリを追いかける前に一言かけるべき……いや、あの状態だとマキリがNと知らなかったタイミングだしムリあるかな。これもし帰れたとしても俺の命無事かどうか分からない。

 

 マキリは隣の蒼髪の少女に一言声をかけてからまた俺へと忠告を促してくる。

 

「だから脱出は諦めなさい。これは何となくの予想だけれど、あなたの超々能力の練度はそこまで高くないでしょう」

「……否定はしない」

 

 バレていたか。

 

「でしょうね。私の戦いでほとんど使わなかったことだし」

「まぁ、あれは……どの技でもぶっちゃけ当てる自信なかったからな」

 

 いざというときの逃げる手段がほしかったというのもあるが、影など使ってもマキリ相手に命中できるかと問われれば怪しい。レーザーは使ったらすぐに気絶するしな。

 あの燃費の悪さはどうにかできないものか……。もし使えたら、マキリの不可知の弾丸に防がれることもなかったと思うが。

 

 とまぁ、今までの長く使用してきた烈風と比べたら練習してきた回数も少ない。マキリの言う練度が高くないのも事実だ。

 

 これ以上話を広げるのも癪だし、別の話題に変換しよう。

 

「わりと真面目な質問だが、マジで俺ここにいる意味ある? 別に大した情報持ってねぇし、遠山やシャーロックに対する人質としても価値がないと自負している。どれだけ考えてもお前らにメリットあるようには思えないんだわ」

「ん? あなたシャーロックと私たちが敵対関係なの知っていたの?」

「詳しいことは何も知らない。ただ、神崎アリアがシャーロックに協力を申し入れているらしいからそうのかなと」

 

 厳密にはその申し入れは行方不明になった黄金の在り処についてだったな。とはいえ、ここまで来たら同じことだろう。

 別に黄金の在り処とNの存在が繋がっているわけではないが、あの2人が良好な関係を築いていることから、Nとシャーロックは協力的ではないという推測でしにい。

 ようするに口からでまかせ。

 

「そう。1本取られたわね」

「取るつもりなかったが?」

 

 いかにも本気で言っていなさそうなどうでも良さそうな声色だ。

 

「まぁいいわ。で、あなたを拐った理由は……さっきも言ったけれど教授の命令の一部だったから。努力目標もいうモノね。その真意は教授しか知らないでしょう。ネモ……隣のこの子も詳しくは知らされていないみたいね」

 

 蒼髪の少女はネモという名前らしい。

 

「教授の考えは理解できないわ。あなたの言うような何かしらの事柄について情報を得たいから、人質として使いたいから――――ではないかもね。私もあなたにそこまで価値があるとは思わないし。いくら色金の力を使える稀有な存在とはいえね」

 

 神崎は俺が色金の力を使えることを狙われる理由として危惧していたが、実際はどうなのだろうか。マキリが告げるようにだからなに? というスタンスかもしれない。それとも自身の手中に収めたいと考えている可能性もある。

 現段階では予想でしかないし、正解が分かることはない。堂々巡りだ。

 

 あれ、なぜかマキリが思案顔になっている。そんなことをボケーっと思っていると、再度彼女は口を開く。 

 

「……私の予想でしかないけど、教授はNという存在を知ってほしいのかもね。あなたを味方に引き入れたいわけではないと思う。ただこういうモノたちがいるという事実を知っている、それだけできっと何か違う――――私ならそう考える。なぜそれにイレギュラーが選ばれたのかは…………」

 

 最後に肩をすくめる。やけに人間味ある行動だ。不躾ながら戦ったときの彼女と比べると非常に生きている人だと感じてしまう。

 

「――――」

 

 対する俺はマキリの言葉の内容について不思議というか不可解な点が頭を過る。

 

 ――――Nを知る? こういうモノたちがいる? 

 

 これらのセリフはどういう意味合いだ。

 それは、俺たち武偵……ひいては一般人との思想の違いについてということか? しかし、それだけではない、他に何か意味が含まれていると頭の中を巡る。それほどまでにマキリの言い回しが妙に思える。

 

 別にマキリはたしかに人間離れした感性や戦闘能力を持ってはいるけれど、れっきとした人間だ。

 隣にいる蒼髪の少女――――ネモは俺を睨みつつ時折欧州系の言語でマキリと話している。俺からすれば外国人であり俺を拐ったNの重要人物? くらいの印象でしかない。

 

 まぁ、俺の環境がこの数年で色々と変わったから――――と言ってしまえばそれで終わってしまうけれど、別に2人とも普通の人間だ。

 そこは変わらない。

 銃で心臓でも撃たれたら死ぬ。このルールはあのマキリであっても誰であろうと不変だろう。

 

 いくらNがイ・ウーのように特殊な環境であろうと、そこにいるのは人間だ。そこにいる人間の考えを知る? たったそれだけでそんな価値観が変化するようには到底思えない。

 

 思考がグルグル回る。自分では決して解けない問題を解いているかのような、その場から進めない、そんな感覚。ダメだ、頭が凝り固まっている。というより、マキリの言うことが――――

 

「……まぁ、正解ってわけじゃないし」

 

 それだけ呟いてから思考を切り替える。マキリの言葉の真意を探るのは後回しだ。

 というか、そんな状況でもない。いくらマキリたちが俺を殺すことはないと言っても所詮は口約束。いつ反故にされるか分からない。

 つまり俺の命の危機でもある。とりあえず怒らせないようにしないとな……。

 

「そういえばイレギュラー、動ける?」

「体は痛むが、別に無視できる程度だ」

「なら働きなさい。ここは原潜。仕事ならいくらでもあるわ。それに水も飲んだでしょう? タダじゃないのよ。引きこもりを置いておく趣味はない。生きたいなら働きなさい。…………それで少しは分かると思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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