――――私たちは地球で生まれたわけではありません。レクテイアと呼ばれる異世界から来たのです。
ラムダが扉を開けながらこちらへ振り向き、真剣味を帯びた視線で重い口調でそう語った。
「ほーん、そうなんだ」
対する俺は淡白な、適当な返事で返す。我ながらもうちょい真面目に返してあげろと思ってしまうくらいの生返事だ。
当人からしたら重大発表を、自身の最大の秘密を打ち明ける。この行為はハードルが非常に高い。無論、そんなことは誰にだって当てはまる。だからこそ真剣に返すべきなのだろうけれど、驚愕とまではいかず、のんびりとした口調になってしまった。
そんな俺に対してラムダは目をパチクリと丸くさせどこか驚いた様子で。
「随分と、あっさりと反応されるものですね」
「あ、なんかごめんね。適当で」
なにか失礼なことを言ったと思い一先ず謝罪を行う。するとラムダは少し慌てふためきつつ。
「い、いえ、そのようなことは……。ただ、驚くわけではなく、荒唐無稽だと否定されるわけでもなく、ホントあっさりと信じてくれたようで」
「ここ数年で超常現象には慣れたから、別に異世界どうのこうの言われてもなぁ……」
そう言われたらそうなんだとそこまで疑うことなく自然と納得してしまったところはある。
何だかんだ地球には魔女のように超能力を使える奴もいる。加えてブラドのような異形種もいる。緋緋たちのような神もいる。その辺りの分類に異世界が追加されただけだ。
まるで実感ないという部分も多少はあるけれど、だからといってめちゃくちゃ騒ぐほどでもない。なんなら俺の首に宇宙人がいるまである。
……俺大丈夫? かなりこの世界に毒されていない?
というより、俺のネックレスにある璃璃、Nに取られていなかったな。かなり貴重なモノだからてっきり没収されるものかと思っていた。誰彼構わず扱える代物ではないことから、回収しても意味がないと判断したのかもしれない。
「何にせよ、俺は異世界から来たからとか出身が違うとかの理由で今のところ差別や区別はしない……つまり、色眼鏡で見るつもりないから、安心? いや安心は違うな。ま、まぁ、そういうことで……。とは言っても、俺の敵になったら別だけどな」
「――――ッ」
と、俺の安易な言葉に対し、ラムダは目を大きく丸くさせてからなぜかパッと顔を逸らす。なに、どうしたの?
「それは何ともありがたいです。では八幡様が、私たちに対して敵対心な目を向けられるときはどのようなときでしょう?」
「俺を排除しようと害するとき。家族を傷付けられそうなとき、または傷付けたとき。相棒や知り合いに危険が迫るとき……総じて法律に背く奴らだな」
つまり武偵にとっての敵が俺の敵だね。スゴい、とても簡単な理屈だ。
「なるほど。覚えておきます。八幡様のように、みんながそう考えてくれれば良いのでしょうが……世界はそうみんなが割り切れるほど」
「単純ではない、と」
深刻そうに呟くラムダに同意する。正直そうだろうと考えるまでもなく直感でラムダの言うことは理解できる。
こんなすんなりと簡単に異世界出身という信じ難い事実を受け入れる方が稀だと自覚している。もし俺があのとき親父に勧められることなく武偵になっていなかったら、信じることはなかったと思ってしまう。
例えば小町にこのような話をしたとして『いきなりそんな嘘言ってどうしたの? 疲れてる? 小町が癒してあげようか?』と俺の願望半分に一蹴されるかもしれないと予測する。
それこそ、一部の者は侮蔑の感情をぶつける人だっている。
その行為を当然否定することはできない。俺だって経験はある。理子に対する扱いで、ブラドやヒルダに怒りに似た感情を抱いたこともある。アイツらは恐らくレクテイア出身ではないだろうけど……。
「えぇ、その通りです。少なくとも、異世界であるレクテイアから来た、そういった理由で迫害しようとする者たちもおります。だけなら未だしも、頭が痛いことに逆もまた然り」
深刻そうに呟くラムダを見て考える。
さっきも思ったように差別する人は少なからずいる。逆もまたということは、レクテイアの人たちがこちらの人に危害を加えることもあると察せる。
まぁ、それがどれだけの規模かは全く分からないから何とも言えない。個人的な予想だと極小数だろうとは考えている。
武偵になっても今までそのような話は聞いたことはないから、恐らくそうなのだろうという勝手な予想。
とまぁ、いつまでも扉の前で突っ立っているわけにはいかないので、倉庫と思しき部屋に戻り、俺とラムダは無造作に置かれている椅子に座る。
今から何を話されるのか身構えると同時に頭の端にはやはりこの思考がある。
――――にしても、今度はとうとう異世界ときたかぁ。
心の中でしみじみとその単語を反芻する。
異世界。つまり異なる世界。地球とレクテイアは世界線が違う。
月や火星などといったあまりにも地球との距離が離れている天体とは違う。現在において、それらは行くのは困難だけど、物理的に繋がっている。これから人類の叡智が集結すれば行き来ができるかもしれない、科学が解決いずれできる課題と言える。
しかし、天体などと違い異世界は全く違うだろう。
様々な創作物に触れた身の勝手な解釈だと、異世界と地球とは完全なねじれの位置にある。どれだけ科学が発展しようと、それらは決して交わることはなないと断言できる。
「…………」
そんな世界からラムダたちはやってきたという。だからといって特別驚きはしないだけであり、そこから生まれた様々な疑問は尽きない。
個人的に気になるのは地球へと移った手段、そして移った理由。
手段は十中八九、超能力を用いたモノではあるとパッと予想は付く。
色金には瞬間移動があるため、その応用か、全く別のモノか、超能力初心者の俺には推測はできない。色金の力を使えるくせに初心者とはこれいかに。星伽さんやヒルダといった魔女と比べたら超能力の知識や造形は深くないからね。
理由は全くと言っていいほど分からない。
そもそもNという組織の規模や目的が不明だ。神崎からは国際的なテロリストとしか言われていない。今の俺も似た印象を抱いている。実際、マキリに襲われ拉致された身としては。
そのため、レクテイアとの関係すらも分からない。Nのリーダーはレクテイア出身なのか普通に地球人なのか。
ざっと見たところイ・ウーのような少数精鋭というわけではなさそうだ。
構成員も上下関係もまだ情報がない。現在分かるのは教授と呼ばれるリーダー、幹部的立ち位置にいるネモ、戦闘員(?)のマキリくらいしか判明していない。あとはノーチラスのクルーたちか。
あとはシャーロックとは敵対しているくらいか。情報としては。
さすがにノーチラスのクルーたち全員がテロリストというわけではなさそうだ。わざわざ異世界から来たからには、恐らくそれぞれ何かしらの目的はあるだろう。
しかし、それが何なのかはさっぱり分からない。
教授たちとレクテイア、それぞれ利点があるということ? まぁ、自身になんか得がなかったら恐らく大変な想いまでして地球には来ないわな。絶対面倒だし。
その辺りはこれから話すのかは現時点では分からない。つーか、情報少ないから推測のしようがない。レクテイアという世界そのものも俺は知らない。知識がないくせにムダに思考を回してしまう。
とりあえず授業とやらを受けることにしよう。丁寧に作られたサンドウィッチ片手に。
と、その前に、まだこれをラムダに訊いていなかった。
「そういや、色々と教えてくれるらしいけど、俺のことってどのくらい知っているんだ?」
「八幡様のここへ来られた簡単な経緯は聞いております。武偵という職業である八幡様はどうやらマキリ様と戦い、敗北しノーチラスへ誘拐されたと。そして、八幡様とNは現時点で敵対関係にあると」
「ざっくりそうだな。まぁ、そうなった理由ってマキリから喧嘩吹っ掛けられたからなんだけどな……。それまで関わりなかったし」
流石にある程度は事前に知らせてはいるみたいだ。
「その辺知ってるならいいや。で、教えてくれるって何をだ」
「敵対関係にあるNの情報を八幡様は知りたいとお思いでしょう。ですが、私はネモ艦長と違い、Nにとっては末端の存在。私が持ち得る情報は八幡様の求めるモノに当てはまらない可能性が高いです」
話の大前提として、毅然とした態度で語るラムダ。
もちろん、ラムダの語る通り、遠山たちへの土産としてそんな打算がなかったわけではない。
色々と世話を焼いてくれるらしい立場ではあるが、たしかに俺とラムダは敵対関係と表現してもいい。こうやって敵の本拠地に攫われてしまった身としてはな。
まぁ、そりゃラムダはNに所属しているからか敵に塩を送るわけにはいかないため警戒はする。逆に俺は気を抜きすぎだ。
「そんな畏まらなくても大丈夫。そりゃまぁ、Nの弱点……とまではいかなくても突破口になりそうな情報を知れたらとは考えていたけど、そもそも命を向こうに握られていて、こちとら帰れるか分かんない立場だしな」
愚痴気味にやり切れない感情を吐露する。
当然帰りたいとは思う。脱出できるなら即刻脱出したいくらいだ。
あれから何日経っているかまだ分かっていない。レキたちに何も言わずに拐われたからな。残したレキたちも心配だが、レキたちに色々と心配かけるのは忍びない。
心配してくれている……かな? 心配よりもいきなりどこ行きやがったとキレてる可能性のが高そうだね。ソースは過去似たケースがあった。あのころとは関係性も変わったしキレてないよね? 大丈夫だよね?
「分かりました。ではそうですね……最初にNのざっくりとした目的をお話します」
いきなり本題ときたか。
2人しかいない狭い空間において先ほどよりもより緊迫とした空気が流れる。
「とても噛み砕いて言えば、地球にレクテイアの人々が住むということです。無論、そこに至るまでの過程はかなり複雑なものとなりますが――――それを語る前にまずレクテイアについてお話しなくてはなりませんね」
要するに移住ってことか。移住して何を……てか、それとNにどんな関係があるのか。それぞれのメリットやデメリットは……うーん、分からん!
いや、今は情報を集めよう。予想や推測をするのはあとだ。
「レクテイアでは様々な部族が暮らしています。私は……そうですね、便宜上エルフ族と言います。こちらの方が通りがいいと同じ仲間内で話していました」
たしかにその方が分かりやすい。耳が尖っているからエルフ。うん、漫画やラノベでよく見る種族だ。ぶっちゃけラムダと会ってから内心ちょっとテンション上がっているのは内緒。
こちとら男の子だからね、エルフなんて見るとやはり嬉しいものだ。
「そして他にも……八幡様から見れば異形な姿をしているモノたちもいます。例えば、姿は人ですが背中から羽根が生えている。ちょっと似ていますが私たちの腕に当たる部分が羽根になっている。こちらの創作物で見かけるドラゴンと言っても差し支えない種もいます」
いよいよ異世界らしくなってきたと言うか……ラムダたちのように人間の姿をしている奴らだけとは最初から考えてはいなかった。
こちらも哺乳類や爬虫類、色々な生物がいるので不思議ではない。
しかしまぁ……ファンタジーに片足突っ込んできたなと……。いや俺が超能力使える時点で今さらか。頭痛い。
「話を聞く限り、こちらで言うステルス……超能力を持った奴らが多そうだな」
ふと思い付いた疑問が口から零れる。
「それは間違いありません。レクテイアにいる人々のほとんどが超能力を使えます。恐らくですが、地球で八幡様やネモ艦長、多くの人たちが超能力を使える理由としましては、過去にレクテイアからこちらへ渡ってきたモノたちがいたからではないかと。その全てとは言いませんが、超能力の起源を遡れば、そのきっかけはレクテイアにあると思われます」
色金たち、意志が宿った金属は元々宇宙にいたらしい。それとはまた別の力……それこそ魔女たち祖先はレクテイアにあると彼女は語る。
唐突とも思えることだが、俺としてはあまり違和感ない話だ。いきなり力が芽生えたとかのたまうよりかは自然な流れだ。
と、ネモは超能力を使えるのか。さすがに種類までは漏らしてくれないのでこれ以上考えないでおこう。
「記録には過去に2度、大きくレクテイアから地球へと移住した人たちがいたそうです。正確な時期は知りませんが恐らく、地球ではかなり前……100年以上前のことになると思います」
「へぇ、2回も大移動が」
「それとこちらに公的な記録が残っているわけではないですが、逆に地球からレクテイアへ移った者も過去にいるとか」
「…………」
それはさぞ混乱したことだろう。どれだけの規模かは予想付かないが、いきなり住んでいる世界がドラクエみたいになるってことか。街中にモンスターが溢れるってことだ。しかもこちらに襲いかかる奴らもいるとなると、考えたくねぇな……。
とはいえ、星伽さんやパトラなら知っているかもしれないが当然ながら俺は聞いたことはない。特に武偵高でも一般公開されている情報ではないな。
そして、今度はNが3回目を行おうとしている。もしこの情報社会にラムダの語るドラゴンのような生物が多く現れたとしたら、混乱が生まれ多くの混沌に溢れることは目に見えている。DoDで見たことあるぞこの流れ。あ、ニーア世界に突入しちゃう?
なんて妄想はさて置き。
つまり、Nがしたいのはレクテイアから地球への3回目の大移動。
レクテイアには地球では考えられない超能力を使える者も大勢いる。その少ない情報から推測するに――――そこに至るまでの過程、そして至ったあとの結果で生まれる被害や混乱が目的?
俺でも思い付くような考えだと、それこそ戦争や紛争といった軍事目的でも使えそうな気がする。既得権益の争いが起こると予想できる。
こちらにも好戦的な奴らは多い。レクテイアも同様に一定数いるとすると、恐ろしいことになることは想像に容易い。
今でこそ超能力は少数派ではあるけれど、もしこれが大多数の人たちが使えるとなったら――――絶対ヤバいな。法律が機能しなさそう。
「八幡様?」
「あ、あぁ悪い。ちょっと考え込んでた」
あくまでこれは極端な予想の1つ。現段階では断言できない。
「いえ、八幡様がレクテイアのことで驚かないとはいえ、一度に多くの情報を受け入れるには時間も必要かと存じ上げます」
「否定はしない。でもまぁ、大丈夫だから続きよろしく頼む」
一先ず続きを促す。
「分かりました。それで……そうですね、レクテイアのことを話している途中でしたね。レクテイアの面積はかなり広大であり、私も全てを把握しているわけではありません。他の部族についてもあまり詳しくはないですが……次に何を話しましょうか」
長々と話しながら思案顔になるラムダ。まぁ、上からいきなり何も知らない奴に色々と教えろとか命令されたら困るのも納得だ。原潜での仕事もあるだろう、事前にテキストやパワポにまとめる時間もなさそうだ。
他にも質問したいことは尽きないがここは趣向を変えよう。
「じゃあ、今度は逆にしよう。その、なんだ、自己紹介やアイスブレイクも兼ねてラムダから俺に訊きたいことないか? ネモたちにいくら事前情報を訊いているとはいえ、俺まだろくに自分のこと喋ってねぇし」
多少は嫌々ながらもそれを出さないような声色でそう提案する。
あまり自分語りとか好きではないし得意でもないけど、話に行き詰まるとなると致し方ない。話題転換でもするべきだ。
とは言うものの、どの期間になるか定かではないが、せめて悪くない程度の友好関係は築きたいという想いもある。事務的会話くらいなら問題なくこなせるくらいの。
そんな俺の打算まみれのアイデアに対し、ラムダは今までの凛々しい表情から一転、待ってましたと言わんばかりに紅い瞳を輝かせる。
「いいのですか!?」
ちょ、近い近い。そんでうるさい。いきなり近寄らないでくれ。
「実は気になることがありまして……八幡様って刀は使わないのですか? 日本人と言えば刀ではないのですか? 漫画ではよく刀を使っているものが多く見られていますが」
けっこう近くまで詰め寄られたので、若干顔を赤くなるのを自覚しつつ、俺は少し離れてからラムダは矢継ぎ早に語り始める。
それまた意外な疑問だなと俺は目をパチクリさせる。最初に日本に興味があると言っていたと思い出しつつ返答する。
にしても漫画で知ったのか。まぁ、刀が出てくる漫画とかそりゃ沢山あるけど。多分俺はぬら孫でどっぷりとハマった記憶だ。祢々切丸がひたすら琴線に触れたぜ……。正直鏡花水月はBLEACHよりぬら孫派まである。
なんてことを思いながらのんびり答える。
「刀かぁ。知り合いに使える奴はわりといるし、何度か使ったことはあるけどそんな得意じゃねぇな」
吸血鬼であるヒルダ相手に純銀の刀を使用したきりで、普段使う刃物は肉厚のコンバットナイフだ。
棍棒には材木座へとけっこうちゃんとした注文を出したとはいえ、コンバットナイフは武偵高の購買部に売っていた普通の代物。業物のような特別な代物じゃなかろうが、人は刺せるし制圧できるからね。それで充分。
「……まぁまぁまぁ!」
ラムダは何が嬉しかったのか俺の適当な反応により一層瞳を輝かせる。そんな態度に絆されたのか俺はつい愚痴気味に語る。
「つっても、その刀は借り物だったんで残念ながら今は持っていない。ぶっちゃけ刀は正直扱うの苦手だからなぁ。わりと難しいんだよあれ」
人間誰しも得手不得手はあるのです。
「へぇ〜……そうなのですか? こう、漫画やアニメなどではスパスパと斬っているシーンをよく見かけましたけれど」
目を丸くしたラムダは感心したような声を漏らす。
「単純に殺傷力あり過ぎるからな。斬るための技術となるとかなり鍛錬を積む必要あるだろうけど、生身の人を斬るだけなら簡単な部類に入ると思う。包丁のように押すのではなく、引きながら……ノコギリの要領で斬るとわりと人体くらいなら容易に斬れる。何だかんだ世界最高峰の刃物と言われているくらいだ」
素人が扱っても無防備な人を斬ることはさほど難しくないだろう。
その分、横からの衝撃にはそれなりに弱く、正しい力で振るわないと折れやすくもあるのが難点であり俺が普段から使わない最たる理由。
武偵になるまでそこいらにいる一般人だった俺が2年そこらで刀を扱えるわけがない。そんなの普通に難しいからね。そこに時間を割くならもっと別のことをしたい。
「つまるところ、殺しやすい武器を使うのは八幡様の性格に合わないということですか?」
出会ってからわりと無表情だったラムダだったが、少しは打ち解けたからなのかそれとも自身に興味のある話だったからなのかは定かではない。
それでも、こんな話でも一応敵である俺に対してこうもコロコロと表情が変わる事実に内心苦笑する。
「性格に合わないっつーか、仕事柄避けたいっつーか。俺は武偵といって……街の治安維持のため拳銃やら普段から持っているんだが、当然人殺しをしてはいけない職業だ。だから刀を使うとなったら、制圧するにしてもかなり気を遣いながら振るう必要あるんで……まぁ、それはかなり面倒だなって」
刀に憧れるのはとても分かるけどね! 日本人なら一度くらいは振るってみたいよね。そう顔には出さずうんうんと肯定する。
いや日本人でなくともカッコいいって思うよね刀は。ゲームでも優先的に使うわ。月牙天衝みたいに飛ぶ斬撃とか憧れる。最近で言うと淵天の涅か。頑張ったら俺もできるんじゃねーの? いやただ鎌鼬飛ばすだけになるなそれ……。
実用性は棍棒とか殴ったり蹴ったりした方が楽というか。それで誤って殺すことはあまりない。まぁ、遠山みたいにマッハで殴るなんてできれば話は変わるだろう。……やっぱアイツおかしくね? そんなの体耐えれなくない?
「武偵という職業上、八幡様は刀を基本は使ってないと」
「そういうことになるかな。携帯性も微妙なとこあるし。とまぁ、だからといって必要なら使うときは使うし、そこらはケースバイケース。それこそメインウェポンにしている奴らは多いし」
星伽さんのように超能力ありきとは言え、新幹線ほどの鉄の塊を斬れたらさぞ気持ちいいのだろうなと願望を垂れ流しそうになる。実際斬った場面を見れなかったというのが惜しかったなぁ……。
「で、他にはあるか?」
追加で質問あるか訊ねる。なければさっさとレクテイアについて情報を集めたさはある。
「では次も質問させていただきます。八幡様は――――」
矢継ぎ早に様々な質問をしてから15分ほど経過した。
主に俺が過ごしてきた日本について聞かれたり、武偵について聞かれたり、俺の人となりを聞かれたり、話したところでこちらが不利にならない情報ばかりだった。それこそただの世間話と受け取ってもらっても過言ではない。
そうやって話していると分かったこともある。
ラムダは随分と日本に憧れを抱いている。惚れ込んでいるとも言っていい。どうやら地球に来てからほとんどの時間をノーチラスで過ごしていると口にしていた。その反動からだろう。かなり外について興味があるみたいだ。
少しくらい外出する時間はあるだろうと訝しんでしまうけれど、ラムダのような特殊な出自の人が外を練り歩いていたら問題になりかねない事態に発展する可能性もある。
レクテイア人としての耳の形状然り、文化や治安や言語といったレクテイアとの差異もある。ある程度学んでからではないと難しいというのも理解できる。
まぁ、そもそも原潜ってどこに停泊するんだよ問題もある。
とはいえ、ストレスばかり溜まる環境にいるだけではいつ爆発してもおかしくはない。少しは発散させるべきなのだろうが……その辺り別に俺が頭を悩ます必要もない。そこまでいったら艦長の領分だ。
こうやって俺と話しているだけでも楽しそうにしたいるならそれでも良いのではないかと考える。
「そういえば、先ほど八幡様は相棒がいると話されておりましたが……一体どのような方なのでしょうか」
不意にラムダが漏らすように質問する。
俺の身の上話ばかりでたしかに武偵仲間についての情報は語っていない。というより語らないようにしていた。
「んー、俺のとこならともかく、他の奴話すのはなぁ」
これでも理性はあるので安易に俺以外の情報を漏らすのは抵抗がある。
「まぁ、調べて分かる範囲くらいならいいか」
そう自分に言い聞かせる。Nの情報網なんて不明だが、出自など特別なことを口にしなかったら大丈夫だろう。こめんねレキ。
「相棒は狙撃手だな」
「狙撃手……? というのは?」
本気で分からない、といった感じに首をかしげている。
「――――」
ラムダはここまで接した限り戦闘はかなりの素人だ。
本人の気質なのか、はたまた意図的なのかは分からないが――――どうもこれがきな臭い。何がとは明言できないけと、怪しいと言っていいレベル。
この辺りにラムダには明かされていないNの秘密が潜んでいそうと推測してしまうほど。
その違和感を言葉にはまだできないのにどこかモヤモヤする。奥歯に何か挟まったあの不快感がある。
「まぁいいか。あー、狙撃手ってのは長距離からライフルなどを使って目標を撃つポジションのことだ」
「長距離というのは如何ほどの距離を?」
「これも人によるけど一般的には500m離れた状態で撃てれば神業。1km超えれば人間辞めてるレベルって認識だ」
一般的と言いつつほぼ俺の主観なのを明記しておく。俺なんて静止射撃でよくて50m、戦闘など動きながらの射撃だと20m近くまで命中率は落ちる。
いかに長距離狙撃が難しいか身に染みて理解できるつもりだ。もしレキのドラグノフ渡されても100mも狙えるか怪しい。狙撃素人なんで。
なおそのレキは2kmの射程距離を有している模様。というよりドラグノフの一般射程って800mと言われているのにアイツ何なの? エグくない? 改めてマジでおかしい。俺の何倍なんだよ……。自信なくすわ。
「つまり、八幡様は前衛で戦い、その相棒は後衛で八幡様を援護するということですか」
「2人で戦うってなったらそうなるな。まぁ、援護もあるし普通に仕留めてくれることもある」
案外その形で戦うことは少ないのが現実。お互い、単独行動を好む傾向にある。総武高のとかのような2人同じ任務を受けるときはあるが、緋緋と戦ったときのように独りで動く割合の方が多く感じる。
今回のベレッタの護衛任務もレキだけ受けた依頼でもある。アイツ無事かな……。
「…………ところで」
今何しているか不明なこともあり、一応俺は心配しているレキのことを考えているとラムダがまた問いかけてくる。
「その相棒は――――女性なのでしょうか?」
唐突に咎めるように告げたその言葉はどこか暗く、冷たく、今まで聞いたことのない低い声が俺の耳に届く。え、俺何かした? 急に怖いんだけど。
「そうだけど……」
「…………なるほど、そうでしたか」
え、なに。なんでそんな機嫌悪くなってんの。まだ俺ら会って1時間も経ってないよ? なんか地雷踏んだ?
「ということは組んでから長いのですか?」
「……え、あぁうん。正式に組んでからせいぜい1年経つかなってくらいだ」
「組んだきっかけというモノは何でしょうか?」
「きっかけ……?」
何だっけ? なんかいつの間にかいるのが当たり前になっていた気がする。
「まぁ、色々あったってことで」
「色々、ですか……」
お、おう……。声が低いままですよ?
そしてラムダはゆっくりと目を瞑り、数秒をほど経ってから目を開けニッコリと――――
「是非ともその相棒にお会いしてみたいですね」
目が笑ってないんすけど……。
「いつか機会あればな……」
目下の課題として、俺は現在囚われの身なのでここから脱出しないことにはどうもできないのだけれど。
「……脱線して申し訳ありません。そろそろレクテイアの話に戻りましょうか」
どうして10000文字超えるのだろうか……