八幡の武偵生活   作:NowHunt

147 / 158
終わりと新たな始まり

「あ、先生!」

「ノルンか」

「今、時間ありますか?」

 

 仕事が一段落し昼休憩を取っていると、明るい茶髪のロングの女性であるノルンが声をかけてきた。一応俺の日本語授業の生徒の1人である。

 生徒という考えがあるからか、生徒の3人は俺のことを先生と呼んでいる。なんともむず痒い気分にはなるが、慣れないとやっていけない。

 

「休憩しているところだ。ノルンは?」

「私もこれから休憩します。ご飯、食べませんか?」

「いいぞ。ニューとリゼルはどこ?」

「まだ仕事をしていますよ」

 

 多少拙いながらもそこまで違和感なく流暢な日本語で会話する俺たち。ここまで日本語で話せるのにある種感動さえ覚える。

 

 それも彼女たちが真剣に日本語を学んでいるからこその結果だ。

 元々、地頭が良いのだろう。教えたことをしっかりと呑み込み、自身への知識へと昇華しているスピードが尋常じゃない。もちろん、まだまだ怪しい部分はあるけれど、そんなのは当たり前だ。

 加えてまぁ……時間はそこそこ経っているからなぁ。

 

 

 ――――あれから3ヶ月経ったし……。

 

 

 そう、もう3ヶ月だ。3ヶ月。ざっくり90日。経った……。多分今の日本は8月か9月辺りだ。

 ローマにいてからざっくりとその程度は経過している。

 一学期終わっているよぉ……。ぶっちゃけ泣きたい。まぁ、アホアホ武偵高の中では成績優秀な俺は退学や留年にはならないだろうが――――どうしてこうなった。俺はただ仕事中のレキの付き添いだったはずなのに。

 

 まぁ、それもこれれとネモが任務に行ってからなぜか2ヶ月帰ってこなかった上、そこからラムダのパスポートやら身分証明のための書類を申請していたので、めちゃくちゃ時間がかかったのである。

 ネモ曰く、ネモも色金の力を俺以上に使え、瞬間移動も使えるから時間をかければ日本へ直接送ることも可能らしい。今の俺ではできない芸当だ。

 しかしながら、身分証明するモノがなければそれこそ移民問題に発展する。そのため、どこか外国から日本へ帰る手続きをしていると。

 

 そしてラムダを通じて情報を集めたところ、どうやらネモは1ヶ月以上無人島に遭難して音信不通だったらしい。よく生きていたなアイツ……。俺が同じ立場なら生き残れる気がしないわ。

 何とも不運と思うと同時にそれなら遅くなっても仕方ないとも感じてしまう。

 そして、さらにラムダから詳しく訊いたが、ネモはどうも同じ年代の男性と一緒に遭難していたという。しかも、その相手は俺と同じ日系の人物であり、しかもバリバリ敵対関係な相手と言っていた。そこで何となく察した。

 

 ……遠山だそれ。

 

 外見や特徴などは知らされていないが、不思議な直感が働き、俺はそう結論付けてしまう。状況の詳細はマジで何も知らないけど、それ絶対遠山だろ。いやマジでただの妄想、推測、予想でしかないけれど。

 遠山がいたから生き残れたという話なら納得いく。

 

 

 閑話休題。

 

 それはともかく、そういう事情があり、未だに俺はノーチラスに滞在している。

 知人や家族、相棒など心配な人たちはそれなりにいるけれど、まぁ放っておいても大丈夫だろと謎の信頼はしている。またの名を放置。

 

 俺は食堂へ向かいつつ身長が高めのノルンと世間話に興じる。

 

「先生はそろそろノーチラスを離れて日本へ帰るそうですよね」

「みたいだな。ネモも無事に帰ってきたし、ラムダのパスポートとかが揃ったら、俺もやっと帰れるんじゃないか」

「ラムダさんが羨ましいですね。私も日本へ行きたいです。先生に色々と教わったので、とても興味があります!」

 

 やたら目を輝かせているノルン。

 普段はもうちょい落ち着いた雰囲気を醸し出しているノルンだが、こういう話題のときは少し興奮したように話している。

 ラムダも似たようなことを語る際、冷静さはどこへやら同じような瞳をしていたな。やはり学んでいるとその対象への憧れが強いのだろう。

 内心苦笑しながら返事をする。

 

「機会があれば案内するよ。ところで、ノルンたちはまだノーチラスにいるのか?」

「まだまだ勉強が足りないので……今回は先生と同行できないのです……」

「ま、まぁ、頑張れ」

 

 残念がっているのが良く分かる落ち込み具合だ。

 憧れの場所へは一度行ってみたい気持ちは俺にも理解できる。

 

「はい! 英語とフランス語はだいたい話せますが、もし行けるなら日本に行ってみたいのです。そのためにもっと日本語を勉強したいのですが……先生がいないと大変そうです」

「そうかぁ? でも、充分上手になったよ。ノルンたち全員、日本にいてもちゃんと話ができると思う」

「本当ですか」

 

 正直、どこぞの中華マフィアの小娘より流暢じゃないかとさえ考える。アイツもアイツで前に武偵高で会ったときちゃんと勉強したと言っており、さほど不自然さはなくなっていたけど。

 

「おう。それに今までラムダが独学で勉強してきた資料もあるし、ネモも土産代わりに日本語のテキストやら色々と買ってきてただろ。ざっと添削はしたし、あれで充分勉強できるよ」

「ネモ艦長には感謝です」

 

 あぁいう気前さが艦長の器ってところか。まぁ、遭難していたお詫びみたいなもんだが。

 

「先生も沢山教えてくれてありがとうございます」

「おう。……あ」

「ん……」

 

 そうこう話していると俺たちに駆け寄る人影が映る。ノルンはともかく、わざわざ俺という異物に近寄る人物は限られている。や、まぁ、3ヶ月もあれば多少異物感は薄れているけどね?

 

「先生!」

「ノルン……」

 

 生徒のうちの2人、ニューとリゼルもトコトコと足音を立ててやって来た。

 ニューは遠目からでも分かるほどブンブンと手を振り、リゼルはニューの後ろをチョコチョコと付いていくように歩いている。

 

「よう」

「こんにちは」

「こんにちはです!」

 

 普通に挨拶するニュー、元気良く挨拶するリゼル。互いに可愛らしい笑顔だ。

 年下って本当に眩しい。何をするにしても活発と思える。もちろん、武偵以外だけに限るが。いや俺はおっさんか。

 

「せ、先生……ノルンと何していたんですか?」

 

 オズオズと訊ねるリゼル。

 この2人も授業ではないこういう日常でも日本語で話している。マジでこの3人地頭良いよな。3ヶ月ほどで1ヶ国語をある程度話せるようにはなるって俺にはムリだ。

 

「ノルンと会ったからご飯食べようかなって」

「誘ったの私からですよ。先生が自分から言ったわけではありません」

「あ、はい……」

 

 て、手厳しい。

 

「はい! 私たちも一緒に食べたいです!」

「おう、ニューたちも行くか。ノルンも大丈夫か?」

「うん、大丈夫。行こう、リゼルもね」

「お、おともします」

 

 それから4人で色々と話しながら食堂へ向かう。

 

 最中、やはり俺がノーチラスから離れるという話題が中心だ。やれ日本へ行きたいだのラムダが羨ましいだのもうちょいここに残ってほしいだの。

 こうやって純粋に慕われるのは当然として嬉しさはある。あまり経験ないことだから余計に感じてしまう。それはそれとして、さっさと帰りたい気持ちの方が勝る。

 

「まぁ、なんだ。もし日本へ行けたらどこへ行きたい?」

「東京行きたいです! 新宿、浅草、お台場、色々と行きたいです! 買い物もしたい!」

「海はずっといる。微妙……山を見てみたい。富士山かなぁ」

「えっと……お城、見たいです」

 

 ニュー、ノルン、リゼルの順番でそれぞれ思い思いの回答を述べる。

 まぁ、有名どころとなるとそうなるよなと考える。そもそも俺のスマホのフォルダに入っているのがそういうのばかりだったというのもある。あとはラムダが使っていた資料にもあった。

 

「あぁいうのは実物を見るのが一番だよな」

 

 しみじみと呟く。

 

 その場で見るのと写真で見るのでは感じ方が違うものだ。五感全てで物事を感じる――――それは何にも代えがたい経験だ。

 たった数ヶ月だけど面倒見たからにはそれなりに情は湧く。案内したいところだが……俺には当然そんな権限はない。どうにかしたいところだけど、あと数日もすればお別れなんだよなぁ。

 

「…………」

「先生、どうかしましたか?」

 

 リゼルのおずおずとした声でハッとする。

 

「いや、何でもない。今日のご飯は何かなって」

「お肉焼いていたよ! ステーキかな?」

「ニュー、多分ローストビーフだよ」

「の、ノルン、よく分かった……ね」

 

 生徒たちがワイワイしている姿を見ていると…………少し、別れるのが惜しくなった。

 

 不躾ながらもそう思ってしまった。だいぶ人間強度が落ちたな。

 

 

 

 そして、3人と食堂で様々なことを話しつつ飯を食ってからしばらくすると、ネモから呼び出しがかかる。指定された場所へと向かう。

 

「よう」

「来たか」

 

 狭い室内には特に何も置いていなく、ただの空き部屋だというのが見て取れる。そこにここでは正装なのか軍服姿のネモがいた。

 

「さっそく本題に入るが、明後日フランスに寄港する。その際、貴様とラムダを降ろす。飛行機のチケットは取ってあるので、それで貴様は問題なく日本へ帰れるだろう。パスポートはあるな?」

「あぁ。マキリと戦ったときの荷物にあったからな」

 

 一応外国で歩いている以上、パスポートと仕事柄武偵手帳は持ち歩いていた。あとは財布だけ。キャッシュカードは宿泊場所に置いていたのでレキが回収してくれていだろが、俺の手持ちにはない。さぁ、金どーしよ。

 

 しかし、帰れると訊くと改めて安堵すると同時に尽きない疑問がある。

 

「今さらなんだが、中途半端に俺を帰すつもりなら、最初から俺を攫う必要なかっただろ。なんで攫った?」

「その指示を出したのは教授だ。真意は教授しか

知らない。……が、マキリが口にした内容だと私は思う」

 

 ネモの言葉を反芻する。マキリが口にした内容。攫われて目を覚ました初日のことだろう。俺は同じことをマキリに訊いた。

 あのときマキリは『Nを知ることで何かが変わる』と喋った。

 

 実際、ノーチラスに来る前と今ではNに抱く印象はまるで違う。俺をいきなり襲って3ヶ月も拉致した国際的なテロリストという前提はもちろんありきだ。

 しかしながら、N……まだ俺はノーチラスしか知らないが、ノーチラスにいるのは出身は地球とは違う世界とはいえ普通の女の子たちばかりだろう。他のメンツは知らん。どうせ厄介事起こしまくっているんだろうなとは推測する。

 ノーチラスいるメンバーはやたら学習欲が高い人たちが集められている。ラムダ然り、俺の生徒たち然り。そこがどうもわざとらしいという考えは未だに抜けない。

 まぁ、その辺差し置いても、やはりどうしても一般人という印象だ。先天的に超能力を使える人がほとんどだが、それはそれ。特殊とは言わず、人とは違う力を持っている人は大勢いる。

 

「貴様はレクテイア人に偏見は持っていない。地球にいる人と同じと思っている。そうだな?」

「あぁ」

「それはここの船員が問題を起こしたとしても――――そうだな?」

「……訊いていたか。まぁ、別に俺らだって何かはやらかす。それと同じだ」

 

 ネモが何を言いたいか分かる。

 

 用事があるとネモノーチラスを離れてから1ヶ月ほど経ったある日。事件は起きた。

 

 ――――簡潔に言うとイジメだ。

 

 集団生活をしていたら自然と起こり得る事態に俺は巻き込まれた。いや、違うな。被害に遭ったのは俺ではなく、俺を世話してくれているラムダだ。

 彼女を排除しようとするよりかは俺へと繋がっている彼女が狙われた形だった。ラムダが普段いる別のグループが俺を疎ましく思っており、俺を排除するためにラムダへと狙いを定めた。

 

 といっても、最初のうちは直接的な暴力はなかった。

 俺やニューたちが観測した限りでは、まず無視や俺たちとは別のグループからの排他的行為。それもごく小さいモノ。他のグループを知らない俺からすれば気付きようもなかった。

 そこから徐々に広がっていき、ようやく違和感を覚え始めた。明らかラムダへの食糧配布が少ない、遠目からでもラムダが一部から避けられているなどといった違和感。

 そこでニューたちに頼み、俺と共に捜査したところラムダへのイジメが発覚した。犯人は3人。数あるうち、俺を非常に嫌っていた人物だった。

 

「済まなかった。船員の罪は私の罪でもある。ラムダにも誠心誠意謝った」

 

 ネモの謝罪に対して俺はネモを見ずに無感情に声に出す。

 

「俺はいい。似た経験はしてきた。嫌われているのは慣れている。……が、ラムダを巻き込んだのはイラついたけど、もう過去のことだ」

「だから――――船員たちを殴ったと?」

「あぁ。俺は誰であろうと区別なく殴るからな」

 

 ラムダへのイジメが露見したころ、当然彼女を庇おうとした。いや、イジメの原因を取り除こうとその3人をシメようとした。

 しかし、俺の動きかニューたち生徒たちの動きに勘付いたのか先手を打たれた。ラムダが監禁された。俺らが突撃する数時間前にはとっくに。

 

「しかし、監禁された部屋の扉を壊すのに色金の力を使ったとはな」

「もっと派手に壊していいならもっと他に手段はあった。まぁ、あれのが確実なもんで」

 

 監禁した部屋はただの物置のようなモノ。まだ換気されていた部屋だったから良かったものの、これが完全防音だったとしたらヤバかった。

 

 ラムダがいないと気付いたときに犯人たちをシメ上げて居場所を吐かせればベストだったが、どうも逃げ足が早くすぐにソイツらは隠れていた。

 犯人たちを探して拷問する時間、俺が直接ラムダを探す時間、どちらが早いかと考え俺が選んだのは後者。レクテイア人は超能力を使える。最悪制圧するのに時間が

かかる可能性があった。

 

 ニューたち3人には逆に犯人たちの捜索を頼んだ。決して手は出さず、遠目に確認することを条件に。

 ノーチラスに詳しい生徒たちと一緒に探すことも頭にはあったけど、これでも1ヶ月はいたから構造はあらかた把握できていたし、足も俺の方が早い。

 

 そして、探し始めること30分。

 目的の部屋を見付けた。こういうときセンサーがあるのは助かる。扉越しや壁越しでも誰かいるのか分かるからな。

 ただその部屋の扉は多少なりと分厚く蹴破ることはできなかった。様々な手段で派手に破壊しても良かったが、中にラムダがいる以上被害は抑えたかったのもあり、全てを削り取れる色金の力である影を使ってラムダを救出した。

 

「それで、ラムダを救けた後、あの3人をシメたと。思い切り殴って。そんなに貴様は怒っていたのか……済まなかったよ」

「怒りはあったけど、冷静ではいたよ。似た経験したって言ったろ。もう俺は怒りに呑まれるなんてことはしない。……ただ、ハンムラビ法典だな。目には目を。ラムダの苦痛を代弁しただけだ」

 

 ラムダ救出後、軽く脱水症状に陥っていた彼女を救護室に預け、生徒たちが見付けた犯人のとこへ一直線。

 怒り心頭ではなく、生徒たち曰くあまりにも無表情だった俺が現れたことで全てを察したのか慌てた様子だったところ、俺は犯人たち3人へ思い切り腹を殴った。思い切りとは言うが、烈風での加速は使っていなかったし、風穴ほど威力のある拳ではなかった。

 

 ――――その結果、3人全員骨を何本か折ったわけだが。

 

 別にそんな過ぎたことどうでもいいけどな。

 

 しかし、俺個人としてはあまりしたくなかったが、結果的にある種恐怖による圧政……のような空気を作ってしまったのは事実だ。あれから俺へと繋がりがある人物へ手を出すと報復を受けるといった不文律のようなものができた。

 時間が経つにつれ、そういう空気も徐々に薄れてきたとはいえ、ラムダたちにはかなり迷惑をかけた。

 

「お前は問題を起こすなって再三言っていたのに破ったのは俺も悪かった」

「お互い様だ。いや、割合で言うならば私に非がある」

 

 イジメについて今どうこう言うつもりはない。やる奴はやる。それはどこでも同じだ。武偵としてこういうことを言うのは良くないが、そんな奴全員くたばってしまえとは思う。

 ただ、特殊な環境、特殊な力を持っているとはいえ、地球人とレクテイア人は似ている。集団生活で陥る心理状態とかな。

 ……あまりマイナス方面で実感したくはなかったな。

 

「それ以上に……」

「ん? どうした?」

「まぁ、なんだ。面倒だったことも多々あったが、それなりに楽しかったよ。このノーチラスにいる日々は」

 

 ため息交じりに語った言葉は、間違いなく俺の本音でもあった。

 たしかに嫌な思いはした。させてしまった。ただ、それだけでは収まらないこともあったのは事実だろう。

 俺が負けさえしなければ敵地であるここに来ることはなかった。反省すべき点だ。しかし、そうでもしなければ知ることはなかった。出会うことはなかった。

 

 Nは現状傍迷惑な組織だ。これからどうにかしないと混乱は目に見えている。レクテイアにはドラゴンやらがいるらしいしな。その辺りは遠山や神崎、シャーロックたちに押し付けるとして……。

 

 ただ、ここにいなければノーチラスを、レクテイアを敵として捉えるだけだった。

 レクテイアは特殊だ。けど、彼女たちは俺たちと同じだった。もちろん、こちらを害そうと害されてしまい、それなりにムカつく奴らもいた。それこそお互い様だが。

 そして、その中には優しい奴らもいる。俺に対して隔てなく接してくれた奴らもいる。ありがたいことだった。

 

 だから、同じだった。普通なんだ。

 それは決して相容れないような存在ではなかった。

 

 ――――今回、不本意ながらここで過ごし、得た知見はそれだった。

 

 俺のセリフを受けてネモはこちらを見上げると、その綺麗なクリクリな目を丸くされる。意外だとでも言いたげな表情だ。

 

「……フフッ、おかしな奴だ。こちらが攫っておきながらそんな馬鹿げたことを宣うとは」

「それはそれ。てか、お前らを許すつもりはねぇぞ。特にマキリ。アイツはマシでいずれ絶対ブン殴る」

 

 ここは譲るつもりはない。いやマジでマキリは恨みを込めていつか殴る。豚箱に突っ込んでやる。

 

「では貴様は、砦か扉かどちらになる?」

 

 ネモが問い掛ける。

 レクテイアの移民問題に賛成か判断ってことを示している言葉だ。賛成なら扉、反対なら砦。

 数秒、目を閉じて考えてから口を開く。

 

「現時点では何とも言えない。レクテイア人がここへ来てトラブルを起こすなんて目に見えている。現実ですら移民問題なんざややこしい話だ。それで俺の周りに被害が出るのは避けたい。特に家族は巻き込みたくない」

「…………」

「けれど、ラムダ、ニュー、ノルン、リゼル。他にも何人か……良い奴らだってここにはいる。特に生徒たちに日本の景色を見せてやりたいとも思う。アイツら、可愛げあるしな」

「…………」

「だからまだ答えは出せない。どちらかと言えば扉寄りかもしれないな」

 

 集団を取るか個人を取るか。結論付けるにはまだまだ俺はレクテイアについて知らない。

 砦と扉、どちらを選んでも、俺の思考は不思議ではない。同じ疑問をずっと堂々巡りする感覚だ。

 

「そうか。難しい問題だ。まだ決め付けることができないのは理解できる。……それでも、その前向きな言葉で貴様がここにいて良かったと思うよ」

 

 ネモは無意識ながら笑顔でそう語る。

 

「……さっきも言ったけど、Nを許す、放置するかどうかは別問題だ。敵であることには変わりないからな」

 

 とだけ言い残してから俺はその場を去る。

 ネモも悪人ではない。話してみれば普通の少女だ。思考はある程度特殊だとは感じたけどな。

 しかし、Nの幹部的立ち位置から善人として扱うわけにもいかない。贔屓目で見るつもりもない。

 

「どうするものか……」

 

 知るということも、罪であり罠でもある。柄にもなくそう受け取ってしまう俺がいた。

 

 

 

 ――――そうして時間はまた過ぎ去り2日後。

 

 フランスの国際空港の1つであるシャルル・ド・ゴール国際空港へラムダと降り立った。

 しかしまぁ、フランスのナント付近に降りてから遠かったなぁ。電車でざっくり5時間はかかった。つーか、時間ルーズ過ぎないか? まぁ、久しぶりの自然を眺めることができたのはある種嬉しさはあった。地面に降り立つ感覚が懐かしかった。

 

 隣にいるラムダはキャリーケースを引きながら俺の隣を歩いている。俺はショルダーポーチ1つだけ。そこに財布、武偵手帳、パスポートだけが入っている。

 一応携帯もあるけど、ネモにSIMカード潰されたからいわゆるアンテナが立たない状態だ。できればさっさと新しいのがほしいが、フランス語はできないし、金も余裕ないし日本へ着くまでお預けだ。

 Wi-Fiに繋げることはできるから、メールやらで連絡自体はどうにかできるが……ちょっと怖いので帰るまで止めよう。ていうか、ネモが遭難しているとき遠山と一緒だったし、俺が生きていることはきっと伝わっているだろう。

 

 変なところでチキンな俺である。できれば何喰わぬ顔で戻って普通に今までいましたよ? 何か? という顔で誤魔化したいところではある。

 

「……珍しく落ち着きないな」

 

 隣でソワソワしているラムダに声をかける。ノーチラスを降りてからいつもの無表情はどこへ行ったやら、目を輝かせ周りをずっとキョロキョロしている。

 

「だって、そうなりますよ! パリもとても綺麗でしたね!」

「さすが観光地トップなだけあるわな」

 

 時間には余裕があったため軽く観光はした。ちょいちょい汚いところとかはあったが、主要な部分は荘厳としか表現できない場所ばかりだった。

 

「……んー、搭乗手続きまであと少しだな」

「では近くまで移動しましょう」

「おう。……そういや、ラムダってどこに住むんだ? 部屋はあるか?」

 

 まだ訊いていなかったことだ。と、ラムダがメモを取り出し見せてくれる。

 

「ネモ様がこの部屋に住みなさいと言ってくれました」

 

 メモに書かれてある住所を読むが……ふむ、東京か。……うん? あれこの住所……?

 

 ……。

 …………。

 クソが。

 

「どこか分かりますか?」

「あー、うん。その……あー……」

「何ですかその微妙な反応は」

 

 ネモの奴め……次会ったらお前も殴るリストに入れてやると心に誓ってからラムダの疑問に答える。

 

「今住んでいる俺の部屋の隣だ。たしかに空き部屋だったけどさぁ……」

 

 わざとだろアイツ。荷物は一時期取られていたときに俺んちの住所確認しやがったな。

 

「まぁまぁまぁ! それはそれは! これからも八幡様をお世話できるのですね。……しかし、こちらに慣れるまでは八幡様に助けてもらうことが多くなりそうです」

 

 嬉しそうだなラムダ……。全く知らない土地に知り合いがいるのはたしかに心強いのは認めるけど。

 

「そのために俺と一緒に行動しろってことだからなぁ」

 

 あまりの難題に頭をガシガシ掻きながら悩ませる。

 というか、そもそもあの辺り武偵が生息しているから、単純に危険なんだよなぁ。わりと流れ弾やら飛んでくることあるし。

 

「ここにニュー、ノルンにリゼルがいたらもっと楽しかったでしょうね」

 

 ふとそんなことを漏らす。

 その光景を想像する。ニューが辺りを活発に走り回り、ノルンはそれを止めようと追いかけるけど、わりと興味本に突っ走るからミイラ取りがミイラになるだろう。リゼルは俺かラムダの後ろでおっかなびっくりコソコソしている姿が目に浮かぶ。

 

「まぁ、けっこう賑やかだったろうな」

「別れは悲しかったですか?」

「……それなりに。だけど、いつかまたなんかの機会で会えるだろ。重く考えずに気楽に行こうぜ」

「ですね」

 

 ラムダは優しい笑みを浮かべる。

 

 おっと、アナウンスが聞こえる。あれは……俺たちが乗る便の搭乗手続きが始まる案内だ。

 

「そろそろだ。……行くか」

 

 帰るか。やっと戻れるのだ。久しぶりの日本へ。

 

 何が待っているのか不安でしかない。これから様々なトラブルに巻き込まれるのは確定している。3ヶ月も音信不通だったのは当然自覚しているため、周りへの説明は必要だろう。

 こちらにはNの一員であるラムダが側に控えているのだ。ラムダは日本というより地球にすら慣れていない。環境に順応するにのは非常に大変なことだ。

 

 これからのこと考えるの嫌になるなぁ。お先真っ暗ってやつだ。

 

「はい。これからが楽しみですね」

「こちとらなかなか気が重いんですけどそれは」

 

 

 




もう少しノーチラスでのエピソードを書きたかった感はあるけど一先ず仕舞いで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。