「……さて、あらかた話し終えたか。一先ずごちそうさん」
「おそまつさまー」
理子お手製お子様ランチを食べながら俺はノーチラスにいる間の出来事をざっくり話す。なぜにお子様ランチ。チョイスが謎だ。充分すぎるほど美味しかったけど。
「しっかし、ラムダちゃんも料理上手だね。びっくりしたよぉ〜」
「ありがとうございます。ですが、理子さんの手際には驚きました。まだまだ日本の食材など不慣れな部分が多いと痛感しました」
「そうかなぁ。そう言われるとたしかにあれだね、欧州系統の料理の方が得意そうって印象だねぇ。イタリア料理とかそっちの。ていうかラムダちゃん畏まりすぎ!」
たった一度の料理を通じてかなり話せるようになっているなこの2人……。俺とレキは置いてけぼりだ。
「…………」
食後のコーヒーを飲みながら先ほどのことを思い返す。
Nの目的、レクテイアのことなどレキと理子はそこまで興味なかったらしく、そこまで詳しく追求されなかった。
その代わりか、俺がどういう風に過ごしていたか気になったみたいであり、主にノーチラスでの生活でのことを中心に語った。
……いや、お前らそれでいいの? 俺の持っている情報ってけっこう重要なことだと思うんだけど? なんて自問自答する。
レクテイアが異世界にあるとか教授とやらが異世界間の大移民を考えているとか……知りたい人がいるならば、かなり貴重な情報だろうとさえ考えるが。
またマキリと敵対している・ネモと関わりがあるということから、Nをある程度追っているであろう遠山にその辺りの情報を伝えようと決めたものの、遠山そのものが今どこにいるか不明すぎる。
マジで知らねぇ……。しかしながら、どこにいても不思議ではないと思えてしまうのが遠山だ。また会えたときに擦り合わせしよう。たしかどっかの国から二度と入るなとお達しを喰らうレベルでやらかしているらしいしな。……なんで? 何したの?
「……八幡さんがノーチラスで教鞭をとっていたとは驚きですね」
本当にそう思っているか疑わしくなる口調で語るレキ。
実際、俺の話で一番食い付き良かった部分がそこという。そんな意外か? 冷静に思い返してみるととても意外ですね。
「先生? ハチハチが? うーん、どう見積もってもハチハチのキャラじゃないよねぇ〜。どっちかと言えば問題児だよハチハチは」
「うるせぇわ」
面白がっている理子はケタケタと笑いつつクッキーを頬張る。
こちだって慣れないことをした自覚がある。とはいえ、あそこで生きるために行ったことだ。楽しかった部分はたしかにあったが、総じて仕方なかったってやつだ。
「でもまぁ、今までアミカとしてルミルミやいろはちゃんを弟子に取っていたから、さもありなんってところ?」
「今は間宮あかりさんですね。案外、八幡さんの教え方は好評らしいですよ」
「案外ってなんだ」
失礼な。まぁ、その、教えるつっても基本的に見て覚えろレベルなことしかやってないからその通りではあるか。たまに理屈付けて教えたときはあるけど。
そんな過去を思い出していると、隣にいるラムダがチョンチョンと肩を叩いてくる。
「……八幡様、先ほどから出てくる名前の方々……その、全員女性ですよね? ……ね?」
「…………」
無言を貫く。ノーコメントで。
お願いですからちょっと怖い目止めてくれませんか? ラムダにもそれされると精神的ダメージ計り知れないんだが。まだレキの尋問から回復しきっていないから……。しばらくトラウマになるわ。
普通に男の知り合いもいるから、そこまで言われる筋合いはないだろう。……多分。
それから少し世間話をしてから冷蔵庫から俺のマックスコーヒーを取り出した理子は別の話題を切り出す。勝手に取らないでくれます?
「それで……ラムダちゃんはここで何をするの? 観光? 学校行くの? それとも働くの?」
「ぶっちゃけ俺も知らん。とりあえず地盤固めとか? 具体的な目的あんのか?」
たしかレクテイアからの先遣隊として来ているからには何かしらの決め事はありそうだと推測しているが、そんな予想とは裏腹にラムダは困惑といった表情を浮かべる。
「まだ明確な目標は決めていません。しかし……そうですね……まずは生活環境を整えたいです。そして、八幡様のあとをひたすら追跡し、八幡様を通じて日本のことを学ぼうと。まだここでのことを全く知りませんから」
「ストーカー発言止めろ。ストーカーなんざもう間に合ってるわ」
ラムダの発言に気が滅入る。
「レキュのこと?」
「どっちかっつーと猛妹? コイツはそれが日常だろ」
「うーっわ。ハチハチさいってー。また猛妹にチクっとこ」
「好きにしろ。どうせ連絡先知るつもりねぇからな。仮に来たとしても着信拒否するわ……って、そうだ、またSIMカード契約しねぇと。明日行くか」
「……八幡さん、まだしてなかったんですね」
呆れた様子を見せるレキには少しだけ恨めしそうに見つめてから文句を垂れる。
「さっきまでどっかの誰かに脅迫されていたからな」
「……………足、いる?」
「はい俺が全面的に悪いです」
「よろしい」
ボソッと呟かないでくれ。普通にトラウマだわ。ダメだ勝てねぇ……完全敗北。あとなんでレキは俺の頭撫でるの? 飴と鞭?
「八幡様……」
ラムダにめちゃくちゃ引かれた眼を向けられる。
ごめんねこんなに弱くって。色々とレキには敵わないです。
「……はぁ、こちとらまだ帰ってきて2日目だぞ。てか、お前らどうやって俺たちの位置知ったんだ? 材木座と戸塚から教えてもらったのか?」
「それもあるけど……あー、たしかハチハチは知っている人だよね? キーくんのツテでマッシュって人の力を借りたの。人工衛星でね、ハチハチが日本に映った瞬間に通知行くように依頼してたんだ〜。最近の衛星の性能はスゴいよねぇ」
そういや、アメリカの衛星で俺も色んな奴らとの戦闘を録画されていたんだ。だからSDAランクとかいう人外格付けとかされたいたな。
「あー……ジーサードのところの。あのシイタケそんな権限あんのかよ。……やっぱアイツ恐ろしいわ。逃げ場ねーじゃねーか。俺らそんな奴と戦ったんだ……」
「勝てて良かったですね」
ホントにな。今思うと、あれだけ兵器使われて五体満足で済んだの何かのバグでは。最終的に俺はしっかり骨にヒビ入っていたとはいえ……俺らわりと頑丈だな。
「さすがに全世界を見張るともなると、性能からして不可能とのことだったので今回は日本に絞りました。その結果、昨日八幡さんが大阪にいたと分かりました」
最近の科学進歩の発展は凄まじいと素直に感じると同時に。
「……やっぱお前らの方がストーカーだろ」
普通に引く。そこまでして知りたいか?
「人聞きの悪い! 私たちはハチハチを想って! 心配して! 各方面にお願いしてマッシュに頼んだんだよ〜」
「おいコラ理子……その顔。めちゃくちゃ笑ってんじゃねーか。堪えるどころか一瞬で崩壊してんだろ」
「アッハッハ〜! ある意味信頼しているって捉えてほしいかな。あのハチハチならしぶとく生きているってねっ!」
爽快に笑い飛ばす理子。
「褒めてる?」
「うんっ」
「実際、生きているではありませんか」
「結果論だけ語るな。過程も重視しろ。……まぁ、ぶっちゃけ死んでもおかしくはなかだたけどな」
今でもマキリ相手に独りで勝つビジョンは思い付かない。かなり全力で戦って負けたから余計にだ。
レキの狙撃援護があれば非常に心強いが、それ含めても今の俺だと難しい。余程こちらに忖度しているほどシチュエーションが良くないと、勝利を手繰り寄せるのは厳しい。
一度の負けでかなりマキリを格上として捉えているのがよく分かる。それほど大きくアイツを視てしまっている。そもそも元0課とかいう化け物集団に所属していて、化け物集団の武装検事ともやり合っていたらしい。
あまりにも積み重ねが違う。追い付ける日が果たして来るのだろうか。
…………まぁ、あんな奴とは二度と会いたくないけど、それはそれとして思いきり殴らないと気が済まないという矛盾した考えは持っている。
「マキリってめちゃくちゃ強いんでしょ。キーくんレベルが数人揃ってどうにか引き分けたってだけで強さが伝わるよ〜。別に仕方ないんじゃない?」
「実戦で仕方ないでは済ませられないんだよなぁ。死んだらおしまいだ。もっとも、見逃された俺が言っても説得力ないんだよなぁ……はぁ」
「まぁまぁまぁ。これから実力をもっと付ければいいよ。ハチハチなんてこの業界に入ってまだ数年だよ? 伸びしろしかないって」
「だといいけどな」
はぁ……と思わず深いため息がもれる。そんな俺に対して何がウケたのか理子は面白おかしく笑う。
「まったく卑屈だね〜。あまり過小評価しちゃダメだよ?」
「うっせ」
「キャリアがわりと長い私だってハチハチと何でもありのタイマンをしたとして、確実に勝てる自信ないよ?」
随分と俺を買ってくれているんだな。純粋に嬉しさはあるけれど、その通りかどうかは疑わしい。
そう評価してくれるのはあれか、俺がヒルダに勝てたからか? だからといって……。
「そうかぁ? お前、武偵殺しのとき神崎にアル=カタで勝ったことあるだろ。俺、訓練でも神崎に確実に勝てた試しねぇぞ」
思い返すと過去の訓練ではけっこうボコボコにされている。ちょいちょい痛み分けみたいな引き分けなら何度かあるけど。
そう考えると遠山さえいなければ、神崎に勝てていた理子の方が強いと思う。
理子は自信なさそうに首を横に振りつつ。
「訓練はあくまで訓練でしかないよ。それにあれは私の超能力の初見殺しもあったからねぇ」
「だからといってお前が劣っているとはならないだろ。実際、タンカージャックのときはお前の強さに助けられたし」
「ありがとっ。まぁー、なんていうかハチハチは……たとえ実力で、こっちが勝っていてもね、何をしてくるのか分からない恐ろしさがあるって言うのかなぁ……。ある種の不気味さがあるんだよ。それに色金の力もあるからね。イレギュラー……予測不能の看板に偽りなしってね」
あざとく言ってくれるなぁ。
「戦闘時の躊躇のなさでいえばアリアさんと八幡さんは似ている印象です」
「あんな人間大砲と比較されても……」
嬉しさもありつつ困惑もありつつ、微妙な感じだ。
「ハチハチは誰でも容赦なくブッ飛ばすもんね〜。その辺、ネクラだけど女の子には優しいキーくんとは大違い」
「俺の実力じゃ四の五の言ってられねぇわ。手加減なんてするほど余裕ないっての」
「そのわりには猛妹救けたじゃない? ほら、新幹線ジャックで」
「……あれはそうしないと武偵法違反で俺らの首が物理的に飛ぶ可能性あったからな。死なせたら全部パーだぞ」
「…………って、建前だよね。素直じゃないったらありゃしな〜〜い」
「ちょっと黙ってくれません?」
ずっとニヤニヤしている理子に対してジト目を向ける俺。理子と話していて精神的優位に立てることがマジでない。
「まぁ、それはさて置き……実際、ここ数ヶ月で身体はかなり鈍ったな。あと射撃もか。原潜じゃあまり動けなかったからなぁ。銃撃つなんて土台ムリな空間だったか。……また留美か間宮辺りでも誘って鍛えないと」
「え〜……ハチハチ、私はどう? 付き合うよ? あとヒルダもいるよ。誘えばもっと人集まるかもね。アリアとか猛妹とか。ランバージャックでもやる?」
武偵の言うランバージャックは……考えたくもないひたすらタコ殴りされる決闘方法とでも表現すればいいか。つまり、やりたくない。
「骨折明けのリハビリ目的でフルマラソンなんざできるか。フルマラソンどころかトライアスロンだろ。どんなラスボス戦だ」
アミカたちならある程度俺のペースに合わせてくれるからな。とはいえ、アイツら普通に俺に対してわりと失礼なので、絶対途中からフザケまくるであろうと予想はできる。
しかし、理子が前述した奴らに比べればまだ常識的な範囲に収まっている。
「…………わぁ」
そして、会話の9割くらい、ほぼほぼ俺と理子が話している間、隣にいるラムダは日本茶の味に感動を覚えていた。わりかしマイペースなラムダ。
なんか飲みながらとても眼を輝かせていたな。急須もないのでそんな本格的に淹れたわけでもないけど、気に入ってくれたなら良かった。
ところでラムダ、昨日ハマっていたせんべいと言いつつお前趣味けっこう渋いな。今度、もっとちゃんとしているお茶でも淹れてあげ……俺はムリだな、技術がない。星伽さんにでも頼もう。
「ところで、八幡様」
「おん?」
「明日からのご予定は?」
ラムダにそう訊かれカレンダーを確認する。8/21を指している。……あ、今さらながら誕生日過ぎてる。いつの間にか18になっていました。
「んーっと、まだ夏休みだからこれといって予定はないな。帰ってきたばかりだで仕事の依頼もないし……さっきも言ったように訓練して鈍った体叩き起こしたいくらいか」
「そうですか」
「え、なに」
たった一言だけ返されるの不気味さしかないよ。そういうの今日から特に怖いんですけど。
「いえ……私も明日からどうしようか考えていただけです」
「あー……」
無表情だから余計に穿った見方したけど、当然と言うべき内容でラムダは迷っていた。すると、俺らの話を訊いていた理子が手を元気良く挙げる。
「はいはーい。てかてかさ、これまた話変わるけどラムダちゃんってどこに住むのよ? ここ?」
そういえばその問題があったな。思い出した。
「いや、この部屋の隣らしいぞ。鍵も持っているってよ」
「はい、鍵はこちらに」
「あー……一昨日あたり業者が来て騒がしかったのってそれかぁ。家具とか家電とかどうなの? 揃っているの?」
理子……お前、どんだけここでタムロしているんだ。詳しすぎるっていうか、もう住み着いているレベルの言い草じゃないか? まだ確認できていないが、俺の部屋大丈夫? イジられていない? ぱっと見覗いたときは大丈夫そうだったが……PC無事かな。不安だ。
「家具とかは……知らないな。台場来てここに直行だし。……ラムダはネモからそこら聞いているか?」
「必要最低限の家電は揃えているとのことですが……」
「んじゃ、一先ずそこら見てみるか。いるもんリストアップして買いに行こう」
「お金なら頂いているのでそれを使います。案内してくださいますか?」
ラムダからは珍しくどこか不安の顔色が伺える。できる限りいつも通りの声色で俺は返す。
「もちろん。ここまで来たら一蓮托生だっての。お隣さんには良好な関係を築きたいしな。ご近所トラブルなんざ以ての外だ」
「八幡さんの言い回し、やはり捻くれていますね」
「うんうん。素直に気になるから手伝うとか言えばいいのに。これぞハチハチって感じ〜」
コイツらうるせぇな……。殴るぞ。
とりあえずさっさと確認しに行こう。
――――ラムダは俺らを引き連れゾロゾロと隣室へ移動する。
鍵を合わせて扉を開けるという動作にはソワソワしている雰囲気を醸し出しており、なんだか少し微笑ましくなった。
引っ越しして一番ドキドキする瞬間は、いざ新しい部屋へ入るときだろう。内見でも何でもだ。やはり最初はは緊張もするし、どんな事情があれど新しい環境に憧れもするもの。
俺たちが優しく見守る中、何回か深呼吸をしてからラムダはガチャリと鍵を回し扉をゆっくりと開ける。
「わぁ……!」
まだ電気も通っていない暗い廊下。何もない空間。それを見てラムダは恍惚とした表情になる。
自分だけの部屋――――ノーチラスでもあったろうが、何度味わっても自分の城を貰えた瞬間は嬉しい。縛られることなく、自分の色に染められる部屋というのは童心を蘇らせる。
「とりあえず俺ら玄関にいるから、好きなだけ見てこいよ」
「待っているからねぇ」
「ごゆっくりどうぞ」
「あ、ありがとうございます……!」
忙しなくお辞儀をしてからパタパタと奥へと消える。間取りは俺らの部屋とほとんど代わりはないためか足取りはスムーズだ。そこからはたまにラムダが視界に写る程度で楽しそうに駆け回っていた。
――――きっかり5分後。
ラムダは俺たちを手招きし、改めて部屋の状態の確認をお願いしてくる。一先ず理子と一緒に部屋を回る。レキはリビングでボーっとしている。適材適所。
しばらく歩き回ってから、部屋の様子はあらかた見終わった。
部屋の造りはやはり俺んちとほぼ大差ない。だいたい同じ造りだ。
電気は通っている。ネット回線も繋がっている。ルーターもあった。ガスも点く。水も流れる。
家具に関してはテーブル、その下にわりと大きいラグ、木製の椅子が2つ。元々備わっている俺たちも使っている同様の大きめタンスが1つ。
家電製品は洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、エアコンのみ。
あとはなぜかポツンと置いてある新品のノートPC。
「これはまぁ……なんつーか」
「色々と揃える必要あるねー」
総論これ。想定していたより揃っているが……まぁ、ネモの言う通り必要最低限。主に生活必需品が圧倒的に足りていないのが見て取れる。
「そうですか? 充分ありますよ」
「いやいや、レキュはそうかもしれないけどっ! せめて寝具くらいは今日揃えようかぁ」
「布団なら最悪俺たちの余ってるやつ貸すけど」
「いやぁ、お古……うーん、さすがに自分の欲しいでしょ」
「……それもそうだな。まだ時間あるし台場戻るか。今日急いで必要なもんは揃えるか。で、明日から改めてじっくり見て回ろう。ちょっと武藤からバンでも借りてくる」
そして、武藤から帰ってきたことに驚かれつつバンを借りる。めちゃくちゃうるさかったです。
運転しつつ部屋へ戻り、準備を既に終えていた理子とラムダと一緒に台場へ走らせる。
武偵の免許があるとこういうとき様々だ。わざわざ免許取らなくても乗れるのは助かる。いずれ取得した方が便利なのは違いないが。
なおレキはドラグノフの整備をするとのことでお留守番。このマイペースよ。
再度ダイバーシティに車を停めてから俺たちは話し合う。
「ハチハチ、今日のうちに何揃える?」
「まずは理子が言っていたベッドだな。1人用の……組み立てしやすいタイプで。敷き布団はちょっとめんどくさいし。他はマットレスとか枕とか寝具関連か」
「あ、そうそう。服はどうする? ラムダちゃん今どれくらい持っているの?」
「スーツケースに入る程度……色々合わせて4セットほどです」
ラムダが持っていたのはそこまで大きくないスーツケースだったからその程度か。足りないといえば足りないだろう。
「じゃあ、その辺りは明日にするかなぁ。そりゃあ服は1日かけてゆっくり見たいし!」
まぁ、女子なら当たり前か。一度買い物始めると止まらないし。なおレキは除く。留美ですら買い物時間かけるぞ。
「……あ、でも家着は何着かほしいね。ラムダちゃんも持ってはいるだろうけど、最近暑いから余計に」
「そんくらいならさっと揃えれるわな」
ルームウェアくらいそこらに売っているだろ。選ぶ時間省けば安いやつならあるだろう。
「うーんっと、あとは……そうだなぁ、ドライヤーとかシャンプーやトリートメント……ていうか諸々だね。お化粧品もほしいし、あとでドラッグストアにも行こっか。でもラムダちゃん……もしかして今スッピン? うわ改めて見ると肌艶良いねー。めっちゃキレイ! ナチュラルメイク似合いそう! 色々とイジりたいねー! ていうかせめて化粧水で保湿しないと勿体ないよ。今までしてなかったよね? 化粧水じゃなくても保湿重要だよっ!」
ほぼほぼ一息で言い切る理子。平常運転です。ほら、ラムダもちょっと引きつった顔しているし。押しが強いんだよなぁ。
「は、はい。勉強させていただきます。興味はありましたので」
「……お、おう。ぜひそうして? あとは家電製品は……うーん、なんか必須なのあるか?」
「冷蔵庫はあるし、電子レンジもある。キッチン用品は明日以降に選ぶとしてー、今すぐほしいレベルは大丈夫じゃない? せいぜい炊飯器くらい? あとは追々、ラムダちゃんが気になるの買えばいいんじゃない」
「ふむ、そのくらいか」
洗濯機もあるし生活するだけなら困らないか。あとはラムダのやりたいことを見付けてもらう必要がある。
「ていうかラムダちゃん以前に、ハチハチの部屋も物が少ないよね? リビングにテレビもないし。やー、ミニマリストみたいな最低限レベルじゃないけど」
「代わりに俺個人の部屋には色々あるぞ。どうせ知っているだろうが。まぁ、レキがあまり物増やしたくない奴だからな」
「そっか。こだわり強いもんねー」
「武偵なら大なり小なりこだわりあるもんだろ」
いわゆる量産型は武偵にはあまりいない。もちろん得意な分野が似ている奴らはいるけど、それぞれ何かしらで特化している。だからこそ、自分なりのやり方があるわけだ。
例えば、遠山の武装はどちらかと言えばタイマン重視な構成でわりとシンプルだ。対する俺は多対一を想定している構成だろう。棍棒、スタンバトンなど素早く相手を制圧できるようにしている。遠山は刀剣類を使う場面をたまに見かけるけど、俺はほぼ使わないし。
別に俺も遠山も強力な相手と独りで戦うことが多いけどな。
「つーか、テレビいる? わざわざ新しく買うのはなぁ」
「別にあって損はないでしょ。世間のことを知らないと話題に乗れないし」
「世間ねぇ」
「別に流行りの芸能人とか流行のファッションとかそういのだけじゃないよ? テレビの言うことを全部バカ正直に真に受けるなんて、ある意味やっちゃダメではあるし。……それこそ経済の流れとか知っておかないと個人事業は大変だぁ。その辺はニュースサイトでも新聞でもいいけど。あとは……うそだね、依頼人との関わりを増やすためにも話題作りは必要だね。無愛想な人と愛想のいい人だったら後者選ぶでしょ。まったく、これだからハチハチは〜」
やれやれと言った仕草で深めのため息をつく理子。普通にダメ出しされました。
「流行りに乗らない俺カッコいいとか思っちゃダメだよ」
「うっす」
「別に興味ない趣味をムリヤリ増やせって言っているわけじゃないけどね。ただ少しは視野を拡げようってハナシ」
「うっす」
「個人事業なんて人との会話が重要なんだから。どこでどの話題が役に立つかなんて誰にも分からないよ。だからアンテナを色んな方面に伸ばそうってコト! オッケー?」
「うっす」
ペコペコとお辞儀をしながら理子のありがたい話を受ける俺。正論すぎてぐうの音も出ない。ラムダもなるほどといったテンションで理子の話を訊いている。
「さて、それじゃハチハチもファッションについて学ぼうよ。ハチハチに色々と着せたい服とかあるんだよ。武偵やっているだけあってスタイルいいし」
あ、そこに行き着くんだ。
「身長も普通にあるし、わりと何でも似合いそうだよね。例えば……デニム興味ない?」
「ジーンズのことか? 何個か持っているぞ」
「それってワンウォッシュとかの加工品だよね。それも味があって好きだけど、デニムと言ったらやっぱりリジッドだよ」
「理子さん。ジーンズは分かりますけど、リジッドとは何ですか?」
ラムダも気になったのかどこか楽しそうに理子に訊く。
ちなみに俺も知らない。ジーンズはジーンズじゃないの? ストレートやスキニーとかの種類なら分かるけど。
「簡単に言ったら加工をしていないデニムのことだよ」
「加工していない……? どういうことですか?」
「うーん、何て言ったらいいかなぁ。ハチノスやヒゲ……じゃくて、シワが付いていないまっさらなデニムのことだね」
「ほーん。ジーンズって言ったらシワとかダメージとかある印象だな。何もないのか」
紺色に白色の部分があるのをよく見かける。
「そう! そこだよハチハチ!」
「うおっ」
やたら熱く語る理子にビビる。
「何もない、まっさらな状態だからこそ、リジッドの状態から長年履くと自分だけのシワ、ダメージができるんだよ。リジッドで一度付いたシワは変わらないの。一生そのままなの。加工品ではない完全に自分だけの、全く同じモノはないデニムが生まれるの」
「へぇ〜。自分だけのモノ。とっても良いですね!」
「そうなんだよラムダちゃん。デニム愛好家とかはデニムを育てるとか言うんだよ」
育てる、正に自分だけのデニムってことか。
「まぁ、だからこそお値段はそこそこするけどね。でも一生モノだから買う価値あると思うよ。リジッド買ったら履くまでの事前準備が大変なんだけどね……糊落として洗ってまた糊付けて……。そこは追々だね。興味あったら教えるよ〜」
「スゴいですね。理子さんの説明で興味出てきました!」
うーん、チョロいぞラムダ。……いやまぁ、気持ちは分かる。ちょっと俺も良いなと思えてきた。これが知らない人ならともかく、友だちがハマっているのを熱弁されると興味は出てくる。
「お、いい兆候だね。ラムダちゃんもめっちゃスタイル良いから絶対似合うよ。オーバーも好きだけど、シワをはっきり付けたいならなるべくジャストサイズが理想だよね〜」
理子はうんうんと頷きながら機嫌良さそうに語る。いや知らんけども。まぁ、2人とも楽しそうだから見守ろう。
「ね、誰にも真似できないファッションってのもいいもんでしょ?」
「はい、私気になります!」
「そう言われるとな。つーか、武偵だとなんつーかなぁ」
俺の曖昧とした発言に対してすぐ察した理子。素晴らしい。さすがコミュ強。
「あー、防弾防刃とかの服の方が気になる感じ? そっちの真っ黒のコートって戦闘服だもんね」
「そうそう。選ぶならとりあえずそっち方向がどうなっているのか見ちゃうわ」
「んー、たしかに職業病は仕方ないかな〜。いつ戦闘になるか分かんないもんねぇ。でもまぁ、インナーとかにそういう服着ておけばファッションも楽しめると思うよ? さっき言ったデニムも戦闘での傷ができてしまっても、それもまた味になるってもんよ」
理子がそう言うなら説得力はある。理子の部屋、服で埋め尽くされているもんな。古着屋開けるのでは? レベルの部屋だ。
「理子さん、またファッションについて教えてください」
「もち! 今日は時間ないからまた今度ね。色々と連れ回して上げるよ!」
「ふふっ、ありがとうございます」
――――なんて調子で波乱万丈だった1日は過ぎていくのだった。