八幡の武偵生活   作:NowHunt

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ゴリ押しこそ我が道なり

 依頼開始から3日ほど経過した。結論から言うと進展はそこまでないといのを念頭に置いてほしい。とっても悲しい。

 

 日中は事前に星伽さんから教えてもらった怪しいとされるポイントを中心に3人で街を歩いて聞き込み。聞き込みというが、武偵として表立って調べるわけでもなく、観光客を装ってそれとなく訊いているだけ。

 

 住民に話をざっと訊いたところ、この街近辺はこれといって治安は荒れていないらしい。

 日本が少しずつ銃の規制が緩くなり、そこいらで簡単に銃が持てる時代だ。当然事件は大なり小なり発生してしまう。しかしながら、ここ近辺で銃など使った事件は目立った場所では起きていないらしい。一応は事前に調べているが。

 多少の不良らしき人物はいるが、所詮はその程度。まぁ、それもそうだろう。騒ぎやトラブルを起こす人物は人が多い地域に集まりやすい。いくら東京とはいえ、都心ではない郊外においてわざわざバカやる奴はそういない。

 

 だからこそ、こういう場所を選んでいると言えるが……。

 

 他に話題があるか住民に数人訊いてみたが、やはりあまりない。せいぜいここ数年で外国人が増えてきたとのこと。観光客ではない、外国人労働者が。どこもかしこも人手不足の昨今、外国人を貴重な戦力として雇っているのだろう。

 外国人が日本に出稼ぎやらで来たことでちょいちょいトラブルが起こるらしいが、表立って警察や武偵が世話をかけるほとでもない。

 

 つまり、至って平和だ。珍しい。心底羨ましい。

 

 道中、ラムダに少しだけ超能力を使ってもらい嘘かどうか見抜いてもらったが、本当のことを隠している人物はいなかった。

 

 要するに。

 

「……前途多難だなー」

「そうですねぇ。武偵って、大変です」

「武偵がというより、地道な捜査がだ。正直苦手な部類なんだよ」

「八幡様が苦手なことってあるんですね」

「いや俺とか得手不得手はっきりしているからな。できないことかなり多いぞ。真面目な話、こんな地道な依頼より、どっか強盗とかの事件現場に突っ込む方が幾分楽だわ」

 

 3日目も終わろうとしている夜、リビングにて夕食を食べている最中俺がこぼした愚痴に対してラムダが同意するように反応する。

 にしても自分で言っていて話の内容終わっているな。そんでだいぶ変わったな……中学の俺にこんなこと言っても鼻で笑われるだけだぞ。とうとう厨二病が治らなくなったとか。

 

「と、八幡様はよく話されていますけれど、その苦手な部分があるという場面を見たことがありません」

「そりゃあ、ラムダの前で戦ったこととかないし」

「ですね」

「この先ないことを祈るけどな」

 

 乾いた笑みと共にそのような願望をもらす。そんな危険な目に遭わせるわけにはいかない。ネモからあとでどんな文句を言われるか想像が付かない。

 

「見ようと思えば見れますよ」

 

 するとレキが不意に口を出す。

 

「何をですか?」

「八幡さんが戦うところです。録画された映像があります。アングルは良いとは言えませんが」

「本当ですか!?」

「んな驚かなくても。あの映像か。アメリカでの」

 

 レキが指しているのはマッシュと戦ったときのやつだ。アメリカの衛星からたしかに録画されている。アングルが微妙と言うのも真上から撮られているからだろう。

 しかし、あのときの戦闘の内容を思い返してみると――――

 

「あれさぁ、俺たちが何をしているか分かりにくくないか? 遠山やジーサードなら普通に分かるとはいえ」

 

 銃を撃ったり撃たれたり、俺が飛んだり蹴られたり。ミサイル撃たれたり、影でミサイル迎撃したり。災禍も端から見て何が起こっているか分からないだろ。なんつーか、動いてはいるけど固定砲台というかあまり激しく動いてはいないというか。

 なんか改めて文字に起こすと意味不明だな……。

 

「否定はしません。八幡さんがやっていることは正直非情にイカれているのですがね。ので、あまりオススメするわけではありません」

 

 辛口だなレキ……。

 

「つーか、俺らあの映像買ってないだろ。てかどこで買えるんだあれ」

「私が買ってもいいですよ」

「それかジーサードに寄越せって言うとか?」

「うーん……見てみたいという興味はありますね。ただ、お金を払わせるわけには……」

 

 迷っている仕草を見せるラムダ。ちなみにあぁいう映像バカみたいに高い。仮にもアメリカなどの軍事衛星の映像買っているわけだからな。

 というわけで、できれば見ないでほしいという気持ちの方が勝る。恥ずかしいし。

 

「他にはヒルダさんと戦ったときの映像もありますね。かなり離れていたので遠目ですし、画質はかなり荒れていますが」

「あー、待機していた間に撮ったって言っていたな……」

「それはまた興味があります……!」

「データはこちらにないので戻ってからになりますが」

「そんなっ……!?」

 

 フフッと微笑むレキと少し大げさに驚くラムダ。

 2人ともあまり表情を表に出さないという点は共通しているが、同じ日々を過ごして少しずつだが打ち解けているのが分かる。

 まぁなんだ、冗談を交えて話している様子を見るだけで安心する。安堵もする。なにこれ親目線?

 

 そこから時折話しつつ飯を食べ終えたところで。

 

「とりあえず星伽さんが示してくれたポイントはある程度調べ終えましたが」

 

 レキがこれからどうするか訊ねたいらしく、真面目な目付きでチラッと視線を移す。

 

「あくまで日中だからな。夜もざっと見回りたいし、もうちょい休んだら移動するか。交代で仮眠は取ったもんな」

 

 夜も少しずつ外へ出て調べてはいるが、レクテイアと思われるような怪しい人物も現場もなかなか見付からない。至って普通の街だからこれまた当然だ。

 そもそも1週間そこらで解決するか甚だ疑問ではある。星伽さんも厳しいとは話していた。しかし、金を貰っているからにはとことんやる必要はあるので夜に出歩いて調べる。

 

「分かりました。ではラムダさんは食後、先に休んでいてください」

「むぅ……」

「ふくれてもダメです。ラムダさんは1日動いていますので疲れているでしょう」

「それは……そうなんですけれど」

 

 納得のいかない表情を見せるが、しおらしくレキの言うことを訊くラムダ。

 あくまでラムダは俺らの手伝いであり、正式に依頼を受けているわけではない。日中は付き合ってもらっているが、その分疲労はたまる。加えて夜間の作業は危険が伴う。ムリはさせられない。

 つーか、そこまでおんぶに抱っこされるとこちらの立つ瀬がない。しかし、その持たざるメガネと似ている返事をされると非常に断りにくい。レキがいて助かった。

 

「まぁ、俺らも適当に切り上げて帰ってくるから。夜明けまで張り込むわけじゃねぇし。朝までは普通にしんどい」

「翌日影響を残さない程度で帰るのが良いでしょう」

 

 レキの補足に頷きながらため息を吐く。

 

「まぁ、ぶっちゃけた話……レクテイアの奴らとNの奴らがここ近辺で何かしら取引を仮にやっているとして……わざわざ屋外でやるわけないよな。ピンポイントで見付けるなんざ土台ムリな話だわ」

 

 思わず愚痴が漏れる。

 

 実際問題、前述の内容が捜査において付き纏う。

 総武高でもそうだったが、何かしら事件が起きるならば外ではなく室内だろう。そこまで詳細な場所を特定できるわけもなく、依頼達成はかなり困難な道のりだと考えている。

 痕跡を見付けられたら御の字だろう。と勝手に1人で納得する。お茶を一口飲んだレキは俺の言葉を補足するように。

 

「さすがに重要な話を外ではしないでしょう。しかしながら、深夜に室内の灯りが付いているのを恐れて敢えては外で……という可能性もあります。ここは郊外であり東京ではありませんので」

 

 別にそこらは遮光カーテンとかで誤魔化せるとは思うけど。

 

「んー、なくはない、かなぁ。……あとはあれだ、何か物品を深夜にこっそり車などで運んでいる、なんて確率もゼロではないとは思う。だからまぁ、ざっとでいいから見張る必要はあるわけで」

 

 といっても、見張る範囲が広すぎるからなかなかに大変だ。

 住民の迷惑になりたくないし、もし犯人がいたとして悟られたくはない。騒音は立てたくないから借りているスクーターは使わず歩きで移動だ。あ、人気がなければ飛びます。楽なので。

 

 と、そんなことを話していると食事も終わり、食後のコーヒーも飲んだところで俺とレキは荷物をまとめ立ち上がる。

 

「そろそろ行くか」

「分かりました」

「ではお二方、お気を付けて」

 

 

 

 ――――ラムダに送ってもらい、夜の調査を開始する。

 

「さてと……昨日はここに行ったから、今日はこのポイントを見張ろうか」

「はい。昨日の場所は怪しい箇所や証拠もなかったので、注視しなくて良いでしょう」

「だな。まぁ、軽く覗く程度でまた通ってみるか」

 

 星伽さんに示された場所は主に住宅街などではなく、公民館など公共施設や公園など人があまり集まらない場所であったり、それこそ廃ビルがちょっと見受けられる場所などであったり様々だ。田舎って言えるほど田舎ではなく、ある種郊外だからこそ、人が集まらず放置されている場所。

 日中は不良の溜まり場になっているかと思いきや、全くそんなことはない。これまた意外だが、本当に無人に近い。地元の不良などがいてもおかしくないとは考えたが、当てが外れた。

 適当な奴をしばいて情報を得る、という手段があるにはあったけど、こうなったら試せないんよなぁ。できれば情報が増えたかもしれない。そこいらにいる不良を足として使うパターンもあるし。

 

 愚痴を言っても始まらない。レキと歩いたり軽く超能力を使って飛んだりしつつ移動する。 

 

 今日調べるポイントに到着した。時刻は23時を指している。辺りはもう暗い。街灯も少なく、闇が広がっている。

 そこは少し広い公園があり、近くには図書館が併設されている。公園には夜でも普通に入れるが、図書館は鍵が閉まっており施設内も灯りは付いていない。

 

「車は……施設専用のは置いてあるな」

 

 恐らく職員が使うものだろう。それが数台ある。もちろん動いていない。

 他にも駐車場を見て回る。監視カメラは……目立つ場所にはないな。まぁ、防犯上公園だろうと設置しても良いとは思うけど、ここらにはないらしい。これなら適当に動いて大丈夫か。

 

「私の聞こえる範囲で、動いている車はありませんね」

「みたいだな。人も……まぁいないか。住宅地からは離れているし」

「この時間では遊んでいる人もいませんね」

「気配もしないし怪しい音もない。案外、学生とか夜遊びしているかもしれないって思ったが、こうして確かめると実際いないもんだなぁ」

 

 夏休み終盤だし、はっちゃけている奴らがいてもおかしくはないと考えた。いたらいたで様子を見ておきたいが、ままならない。

 

「星伽さんの話じゃ、レクテイアの集落はできてから最低でも数年レベルはあるらしい。場所によると俺らが生まれる以前から。集落同士の会合に対してNが接触してきたのがいつかは不明だ」

「であれば、夜遊びしている人たちは情報を持っていないでしょう。いたとしても、という話ですか」

「何かしら命令されて、使われている可能性もゼロじゃないけどな。さすがにこういう場所で会合しないか。レクテイアの集落同士、会合場所が分かれば文句なしだが」

 

 そう上手くはいかないもんだ。ったく……。

 レクテイア出身の奴がこういう公共施設で働いていて、それなりの立場になったが故に、こっそりと夜に使用している――――なんて薄い可能性に縋ってみたが、現状何もないしこれ以上は進展はなさそうだ。

 

「人からがムリなら次はモノだな。なんか怪しい部分がないか見て回るか」

「ですね。物的証拠があれば良いですね」

「だなぁ。やっぱ公共施設よりかは民間……私的に利用できる場所かなぁ。個人宅とか」

 

 レクテイア人はマイノリティーな存在だ。異世界から来ているのだから当然と言える。小規模ながら複数の集落が密会するのであれば、目立つ場所は使用しないだろう。

 日中も公民館やレンタルスペースなど使用履歴もできる範囲で調べてはみたけど、これといって怪しい箇所はなかった。だからこそ目立つことがないよう夜に動いているかと望みを持って動いているけど、ここ数日今のところ残念な結果に終わっている。

 俺たちが滞在している間にレクテイア人の動きがあるのかと問うてみれば、怪しいといったところだ。可能性はゼロではないが。

 ……会合に直接乗り込めれば一番だけど、そうはいかない。

 

 また、別の問題としてその会合の規模感も詳細は不明だ。

 星伽さんや玉藻の耳に入るほどの話だ。そのため、数人ほどではなくそこそこ人数がいるか、少人数ながらも会合の回数が多いか、どちらかだと考える。

 どちらにせよ、不特定多数が集まれる場所、集まって違和感ない場所をこうやってしらみ潰しで調査する必要があるわけだ。  

 

 そもそもNの奴らはどうやってここ近辺に暮らしているレクテイアの人と接触できたのだろうか。Nの誰が何かしら取引をしているのか。

 Nの構成員にも一定数レクテイアの奴らがいるから、前者の疑問は解決できそうな気もなくはない。あくまで元々そこに同類がいると知っているのであれば、になるか。例えば友人であったり、親類同士であったり。

 

 それらを差し引いても分からないことが多すぎる。

 

「せめてなぁ、レクテイア人を1人でも見付けるができれば万々歳なんだけどまぁ……」

「外国人労働者が増えているらしいですが、調査しても実際に働いている人は本当に地球の外国人でしたね」

 

 なんてボヤきながら歩いて調べる。

 

 うーん、普通だな。普通の公園だ。近くにある図書館も外回りを調べてみたけど、怪しい痕跡はない。そもそも開いていないしなぁ。裏口もしっかりと施錠されている。チッ……。

 

「人によるけど、レクテイアの奴らって見た目俺たちと変わらないからなぁ。ラムダも尖った耳除けばそんなレクテイア出身って分かんねぇし」

「だからラムダさんに超能力を使用してもらい調べていますが」

「隠している、嘘を付いているって人も現段階だとまぁいないわな」

 

 そうだ、人海戦術を使えればレクテイア人の1人くらい発見できるのではなかろうか。人数の多い組織といえば猛妹か。あそこに協力を要請し――――いや、下手に噂立てられて引きこもられても困る。

 

 ざっくり1時間近く調査し終える。

 

「とりあえず、今日のポイントはここらで終わりにするか」

「分かりました。切り上げましょう」  

「目ぼしい部分はあらかた調べたし、これ以上いてもなぁ。人の出入りもなさそうだし、この調子じゃ図書館辺りに入れても」

「何もなさそうですね」

 

 今日の成果――――特になし!

 悲しい。現実は非情である。

 

 帰宅途中も辺りを注意しながら戻ったが、やはり何もなかった。車が何台か通ったとはいえ、チラッと確認したところ怪しいところはなく住人の車であった印象だ。

 俺はともかくとして、五感も鋭く経験豊富なレキも違和感を抱かなかったので、本当に何も進捗はなかった1日。ちょい焦るが……まぁしゃーなしの精神でいこう。

 

 宿泊場所に帰宅したらもう1時になっていた。電気は点いていなかったからラムダは休んでいる。起こさないように音を立てないようにゆっくりと動く。そこから各々朝まで好きなように休んだ。夜も精神をそれなりに尖らせて歩き回ると疲れることこの上ない……寝よう。

 

 

 

 ――――翌日。

 

 日中の捜査はそれこそ振り出しに戻り、改めてどうしようかと考える必要がある。あくまで俺たちが捜査した時点では、依頼された内容について目ぼしい進展はなく、特筆すべき点はなかった。

 明確な進歩がないまま当てもなく動いても進めないだろう。足踏みはしていられない。もちろん、今まで通り足で稼いで調べることはしないといけないがな。ただ、何かしら視点を変えるなりしないと変化は表れない。

 歩くにも歩き方は変える必要がある。

 

 というわけで朝からレキと相談している。ラムダは洗濯や掃除など家事を進んでやってくれている。

 

「つーわけで、これからどうするよ」

「星伽さんに示された場所の捜査は終えましたが、続けて調べる必要はあるでしょう」

「そこはもちろん」

 

 俺たちがニアミスしている可能性はある。昨日なくても今日、何か証拠が残っているなんてパターンは有り得るだろう。

 

「とはいえ、昨日までと同じように捜査を行っても、進展はないかと思います」

「同感だ。まぁ、昨日まではあくまで異常がないか場所を中心に調べたから、次やるなら人かな」

 

 これからのことを考えるとかなり大変であり面倒そうな雰囲気しかない。そう思うと億劫そうに吐き出しながら頭を掻く。

 住宅地だから目立つような怪しい人物なんていないんだけどな。それでもやる。

 

「レクテイア出身の人を見付けることができれば、かなり進むでしょう。しかし、どのように?」

 

 当然とも言えるべき彼女の問いに逡巡する。どう解答すればいいか悩む。1つの正解があるわけではない。思考を回転するも無難なことしか思い浮かばない。

 

「……今まで以上に聞き込みをする? いやでもあまり聞き込みしまくっても効果薄いわな。下手に余所者がレクテイアについて調べている奴がいるって噂にはなりたくないし。尾行……いやこれができるなら目星付いているわけだしなぁ」

 

 思考がまとまらない。まるで小難しい文章が頭に入らないかのような集中力のなさだ。

 

「レキはどこか高い場所から全体的に監視。俺はラムダを連れて手当たり次第それっぽい奴に当たり付けて調べてみる……か? とりあえず俺とレキは別行動した方が効率的だが」

 

「それも良いでしょう。それに付け加えて1つ案があるのですが。いえ、案と言いますか疑問でしょうか」

「というと?」

 

 珍しくレキが曖昧な言い方をする。

 

「会合に使われている場所を見付ける、というのは? 一先ず星伽さんから提示された場所は異常がない。怪しい人物はいない。のであれば、星伽さんが把握できていない、また別の場所で行われている可能性があります。そちらを探すことができれば依頼の達成に近付くかと」

 

 ……言いたいことは分かる。十二分に理解できる。たしかにそれさえできれば物的証拠も見付かるだろう。

 

「全面的に賛成ではある。まぁ、それができれば苦労しないって話だがな。とりあえず星伽さんに報告がてら玉藻辺りに頼んでくれって流れで高解像度の衛星写真はもらった。朝方届いていたわ」

 

 封筒をレキに手渡す。俺は寝起きがてらざっと確認した。

 レキは数枚に別けられている写真を注視している。狙撃手としての経歴、俺にはない視点がレキにはある。自分では発見できなかったことがレキには分かるかもしれない。

 俺はそんな様子を見ながら続きを話す。

 

「正直上からの写真では、郊外の住宅地って印象だから俺から見たら怪しい部分はないんだよなぁ。それこそ個人で持っている一軒家とかを使用していたら絶対分からない。マイノリティーである存在がそこまで堂々としているかって問われると微妙だがな」

 

 あくまで俺の所感を話す。

 

「異物と感じているから目立つことは避けるって意識はあるだろうしな。それを逆手に取るってのもなくはないけど……もし会合の人数が10数人以上の規模感であれば、一軒家の出入りが激しいと怪しむことはできる」

 

 数ヶ月に一度でもただの一軒家とかに人が集まり過ぎていたら違和感はあるし、一定感覚で続いていれば他の住民からは疑問に残るだろう。

 

「そのような出来事がないか訊いてみると?」

「一応今日までに多少は訊いているけど、さすがにそこまで露骨ではなかったよ」

 

 はぁ、とため息をもらす。

 

「であれば、人里離れた場所……山奥とかでしょうか?」

「目立たないって話であればそうだな。俺もそこは疑うわ」

「しかし、写真を見てもそのような場所に建物はありませんね。神社は数カ所ありますが」

 

 実際問題、レキの言う通りなんだよなぁ。写真で確認するかぎり、ここらの山中は何かしらの施設もないし、誰かが住んでそうな建物もない。

 見落としはあるかもしれないが、その辺りは今後レキが訂正してくれるだろう。なんて人任せなんだ。他力本願、適材適所、素晴らしい言葉だ……甘美な響きだ。  

 

 まぁそれはさて置き。

 

「一応そこも調べてはみたけど、地図で確認した限りホントこじんまりしているぞ。人が集まれるようなスペースは到底……」

「ありませんね。であれば、本当に極少数で集まっている? それとも千葉のときのように地下に隠している?」

「そうなったらお手上げだな……」

 

 苦笑しつつ立ち上がる。そろそろ午前の間に調べるところは進めよう。ラムダはスリッパをパタパタと鳴らしながら近付く。

 

「八幡様、行かれますか?」

「おう、悪いがまた付き合ってくれ」

「かしこまりました」

 

 俺がざっと装備を整えると同時にレキもドラグノフを閉まってあるトランクを背負う。

 

「では先ほど決めたように別行動ですね」

「だな。昼に……あそこのカフェに集まる感じでいいか。初日に行ったところ。休憩がてらな」

「分かりました」

 

 それぞれ別ポイントを調べると決め、今日の午前は完全に別れて捜査することに。

 

 

 

 

 ――――数時間時は流れ昼。

 

「各地を移動して街を観た結果、小さいいざこざなどはありましたが、特に依頼へと繋がるモノはありませんでした」

 

 カフェへの端の席へ案内された俺たちは一先ず成果を報告し合う。捜査風景? 細かに描写しても面白くないからカットだ。

 各自注文を済まし、料理を待っている間に周りに聞こえないよう軽く小声で話す。

 店内には俺たちを除けば、老夫婦や学生などのグループが数組いるだけ。会話の内容が不審に思われることはないだろうが、念には念を入れる。レクテイアなどの固有名詞は出さないよう共有している。

 

「八幡さんたちは?」

「まぁ、目ぼしい情報はないわな。ラムダに力使ってもらってちょいちょい……それこそラムダの主観でそれっぽい人物に話しかけて、こっそりラムダが影からバレないように力使うって形だけど、特に引っかからなかったな」

 

 俺とレキが数日夜を出歩いてみても感じたが、あまり夜は人の出入りが少ない。それこそ都心の方では深夜だろうと人の行き来は多い。しかし、いくら東京とはいえ郊外では動きは激しくない。ちょいちょい車は走っているけど、比較すれば少ない部類だ。

 そのせいか夜に何か違和感のある出来事がなかったかそれとなく訊ねたが、分からず不明なところが多かった。

 

「やはり闇雲では難しいのですね……」

 

 ラムダは眉をひそめしみじみと呟く。

 言う通りなかなかに前途多難。3歩進んで2歩下がるどころか真っ直ぐ歩めているか分からないレベル。星伽さんからの依頼終了まであと3日から4日といったところ。残された時間は少ない。

 

「…………」

 

 焦りはある。気持ちは逸ってしまう。解決すべき事柄があり、ここままいけばそれこそ詰みというか成果がないまま終わってしまう。元々期間の短い依頼、そこまで都合が良く解決できる目処はない。星伽さんたちも責めはしないだろう。

 だが、一度武偵として依頼を受けた身としては何かしら足跡は残したい。その心中は武偵としてのプライドなのか義理を果たしたいから来るのかハッキリしないがな。それとも、勝ち取った信頼を失いたくないからか。

 

 だいぶ人間強度が下がっている気がするなぁ。昔の俺ならそんなこと思わなかったのに。

 

 しかしながら、ここまで詰まっていても打開策がないわけではない。

 

「1つ……確実、とまではいかないけど、かなり有効な手はある。奥の手っていうか絶対使いたくない手段だけどな」

 

 渋々嫌々口にする。

 

「そうなんですか? それは一体……?」

 

 ラムダが目を丸くさせ興味深そうに訊く。レキの方を見ると、俺が言いたいことを分かっているのか分かっていないのか不明瞭な表情だ。

 

「はぁ……まぁ、その、なんだ、囮捜査ってやつだよ」

「囮? 誰がですか? ――――私、ですか。私の身元があっちなので、同郷の人たちと会ってみたいと言ったり、呼びかけたりしたら、合流できる可能性は高いと」

 

 随分と察しが早い。

 

 ラムダの話した通りだ。

 これが俺の考える多分一番現実的な案。どう噂を流すのかとか、どうすればこの地域にいるレクテイア人とラインが繋がるのとか、どのように向こうから接触してくるのか。そういう問題点は複数ある。とはいえ、適当に歩いて捜査するよりかは余程効果的だろう。

 向こうがレクテイア出身という立場でNと関わりを持つのであれば、こちらも同様の立ち位置を活用しまくる。そうすれば自ずと活路も見えてくる。

 

 しかし、俺の胸中は穏やかではない。ぶつくさと文句を言うように続ける。

 

「よくお分かりで。だから言いたくないんだよ。そもそもこんなの、お前には絶対やらせないけどな」

 

 まずラムダには危険な目に遭わせられない。これは俺がネモから一応は身辺警護を頼まれているからでもあり、今のラムダはあくまで俺たちに私的に協力している一般人だからだ。ただでさえ今もグレーな存在なのにこれ以上は求められない。

 そして、彼女はノーチラスで過ごしていた俺にとって恩人でもある。そんなラムダ相手に恩を仇で返すような真似はできない。仮に理屈としては可能だとしても彼女にやらせたくない。

 

 眉間に皺を寄せ、不本意な雰囲気を醸し出している俺に対してレキは水を一口飲むと、ほんの少し口角を上げ非情に小さく笑みを浮かべる。

 

「ラムダさん、愛されていますね」

 

 しれっと何を言ってますの相棒さんは。

 それはまるで子を見つめる親のように愛おしい笑みを向けている。端から見れば表情筋がそこまで動いていないから分かりにくいだろうけど……お前、そんな表情できたんだな……。

 

「そ、そうですかねぇ〜。エヘヘ……」

 

 珍しく無表情を崩し喜んでいるラムダ。

 いやうん、レキは怒っているわけではなさそうだが。え、なに? なんで慈悲深い表情浮かべているわけ? いつものパターンならお前わりと不機嫌になるだろ。ドラグノフで攻撃するパターンだろ。……よく分からん。

 

「……とりあえず、マジでやるなよ? 頼むから」

「えぇ、はい」

 

 なんか無性に恥ずかしくなり雑なまとめでその場を締める。

 万が一何かあっても人力精密機械狙撃手のお姫様が気付くから大丈夫だろうが。

 

 ……ん。もう飯が来そうだ。一先ず黙っておくか。

 

「お待たせしましたぁ〜」

 

 以前、ここに寄ったときにも相手をしてくれたミノトが少し大きめのサイズ? の大正浪漫風の制服を見事着こなし、料理を運んできてくれる。テーブルにはそれぞれ頼んだ料理が並ぶ。

 

「注文は以上でお揃いでしょうか〜?」

「はい大丈夫です。ありがとうございます」

 

 ラムダが丁寧にお辞儀をする。

 

「――――」

 

 その際、ミノトを見たと思えば一瞬固まった気がする。気のせいかもしれないレベルだが……レキが刹那こちらへ目配せする。何かあったのか、と言いたいように。知らんわ。

 

「さぁ、食べましょう」

 

 とはいえ、すぐさま復帰し俺たちに率先して箸を渡してくれる。

 

「お、ありがと」

 

 それを受け取りいざ昼食を食べようとする。

 

「では皆さん、伝票置いておきますねぇ」

 

 ミノトがキッチンから呼ばれたようでその場から去っていった。前回は俺たちしかいなかったから話し込んでいたが、他に客がいる状況ではそうもいかないらしい。

 

 しかし…………今一度働いているミノトを何気なしに眺めていると、どこか普通の女の子として比較して見ると違和感があるというか、腑に落ちない点があるような……ないような……。どうも奥歯に物が挟まる感覚がある。

 まぁ、俺がただ気になっているだけだ。気になるけど、気にするほどではない。仕事中の人をジロジロ観察するのは良くないことだ。止めておこう。

 

「いただきます」

 

 と、今日は全員蕎麦を頼み、ズルズルと啜り食べる。啜っているのは俺だけです。レキは相変わらず麺1本ずつを絶え間なく音もなく食べるというある種の神業で食べている。ラムダは俺を見て啜ろうとしているものの慣れない動きのためか上手くいっていない。ムリしなくていいよ。

 

 しばらく互いに無言で食べながら、それぞれ食事が終わるころ。

 

「んで、ラムダ。さっきどうした? やたらミノトを見ていたが。なんか用事ある? 呼ぼうか?」

「ミノトさんがどうかしましたか?」

 

 つい先ほどの光景について訊ねる。あちらは何も気にしてなかったようだが、俺たちの視点で見れば少し固まっていたような、おかしなモノを見たような表情を向けていた。

 

 ラムダはチラチラとキッチンに視線をやると、離れているのを確認した上で小声で話す。

 

「えっと……多分ですけれど、あの人、ミノトさん――――」

 

 自信なさそうに、しかし確信めいた口調でラムダは語る。

 

「もしかすると、あちらから来た人かもしれません。……あ、詳しい話は帰ってからします」

 

 不意に湧いた突破口をさらっと口にするのであった。

 

「えっ……!?」

「――――!」

 

 

 

 

 




お久しぶりです。リアルが忙しかったのでね
ボチボチのんびりマイペースで進みます
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