お待たせしやした!
今、俺と留美は小学生たちが閉じ込められている体育館の裏にいる。立て籠りの犯人の数は7。さあ、どうするか。
体育館の壁に耳をあて、中の様子を聞く。
これは蘭豹に聴覚鍛えろと言われ、鍛えてみた。耳は劇的に良くなるわけではない。が、聞き分けを今まで以上にできるようにした。
……ふむ、どうやら、まだケガをしている人はいないみたいだ。
それと、犯人は今現在、足を絶たれている。確かに途中で見つけた車はパンクしていた。だから立て籠ったのか。それを警察に用意しろと掛け合っている。
体育館の構造はよくある、ステージの裏に扉が左右に2つだ。そこから入れる。
そして、声の発声源からして、犯人のほとんどはステージ側にいるだろう。だから裏から浸入しよう。
俺は留美に小声で話す。
「まず俺が左から強襲する。少し経ったら、お前は右からだ。なるべく意識はこっちに向けさせる。――だからコレを使え」
そう言い、スタンバトンを留美に渡す。
「使い方、わかるな?」
「うん」
「それで、最低1人、できれば2人意識を奪え。あとはその流れで一気に片付ける」
「わ、わかった」
「犯人は全員銃を所持している。が、もしかしたら、何丁かはモデルガンかもしれない。警察も詳しくはわからなかったそうだ」
そこで、一旦言葉を切り、留美の反応を見る。
顔からは汗が流れている。返事もはっきりしていなかった。緊張しているのだろう。
誰だってそうだ。でも、それはなんの言い訳にはならない。……それを俺は身をもって知っている。
「まあ、落ち着け。お前の目標は相手の武装を無力化すること。あとは俺がやる」
「……う、うん」
「まず、狙うのは?」
「手。銃を叩き落とす」
「優先することは?」
「人質の安全の確保」
それがわかってたら、上出来だ。
「人質が多い。俺らは銃はなるべく使わない」
留美はうなずく。軽く頭を撫でながら、
「心配するな、これが終わったら何か飯食おうぜ」
俺を見て、何かを感じとったのか、目を閉じて深呼吸をする。もう大丈夫だな。
「――――行くぞ」
俺は扉をゆっくりと開ける。反対側では留美も同じ行動をとっている。足音をたてずに中に浸入は成功した。
中は、ステージに上がるための階段。フロアに入るための金属の扉。この扉は人1人分通れるくらいには開いてある。
中の様子を武偵手帳にある鏡を使って覗く。
……予想通り犯人は全員ステージ側にいる。何やら騒ぎ立てている。おおかた逃走用の車を用意をまだできてないのだろう。
留美にはスタンバトンを渡したから、俺は制服の内ポケットから小型のスタンガンを取り出す。
俺はふと、夏休み前の、事件を思い出す。あの、1歩遅れたら、取り返しのつかなかった、あの事件を。
――大丈夫。もうあの時と同じ失敗はしない。
ダッ!俺は扉から出て、近くにいた犯人の1人の首にスタンガンを当てる。そのまま、
ビリッ。
電気を流し込む。このスタンガンもスタンバトンも材木座に頼み、出力を上げてもらってる。よほどのことが無い限り、1発で気絶させれるように。
ドサッと1人倒れた。
「なんだ、サツか!?」「ちっ、くそが」
などと喚くが、それを気に介せず、すぐに別の奴にスタンガンを首に当てる。俺が電気を流すと同時に、留美が反対側から突入してくる。
犯人たちは全員俺の方に向いている。上手く虚をつくことができ、背後から留美はスタンバトンを使い、1人から意識を奪う。俺も2人目を気絶させる。
――残り4。
「何がどうなってんだ!!」「知るか!」
うるせぇな。次に行こうと思った時、1人がチャキ、と俺の頭に拳銃が向ける。……冷静だな。恐らくリーダーかそれに近い者辺りだろう。かなり肩幅が広い。そしてゴツい。
「失せろや!」
「八幡!」
留美が俺を呼びながら、流麗な動作で他の奴の拳銃を蹴り上げ、弾き、スタンバトンの電気を首に流す。ーー残り3。
俺の元に駆けようとするが、もう2人が留美の前に立ち塞がる。間に合わないだろうな。
そこで、俺は夏休みに学んだ技を使う。
――――殺気を全開に放出。
留美を含む、全員が怯む。
「なっ、どこっ」
リーダー格は声を荒げる。それもそうだろう。今、俺を視認できてないのだろうから。
俺は校長みたいにずっと姿ぼやかすことはまだできない。最大で3秒だ。
俺はリーダー格の横を走り抜け、留美の前にいる奴の元に行く。ちょうど戸惑い、あたふたしている。そいつの頭に掌底を叩き込む。そいつは怯み、足下がぐらつく。
――そこで俺のステルスは消えた。すぐに俺に視線が集まる。
それを気にせず、留美とアイコンタクトを取る。
察してか、俺が掌底をした奴の手を蹴り銃を弾いたところで、スタンバトンを浴びせる。ダウン。
もう1人はリーダー格の元に行く。
残り2。
「くそっ!」「ちくしょう!ガキ共撃つぞ!」
2人共拳銃を小学生たちに向ける。てことはどっちも実銃か。
「させねぇよ」
走りながら、リーダー格にスタンガンを投げる。狙いは拳銃の銃身にだ。なぜなら、そこは金属だから。金属は電気を通す。
「がっ!」
手、痺れたよな。リーダー格が拳銃を落とす。その隙を逃さず、留美の跳び蹴りがみぞおちをえぐる。
留美は着地した瞬間に隣にいたもう1人に屈みながら足を払う。
――留美、ナイス。
と思い、パシッとスタンバトンを取る。
それは留美が蹴る前に宙に投げたスタンバトンだ。俺は一気に距離を詰める。
そして、スタンバトンの電気を最後の奴の首に流す。
「ぐぁ!」
呻き、倒れる。
留美は、KAHR PM 9。スカートの中から抜き、俺は腰のホルスターからファイブセブンを抜く。
それをまだ意識のある、が、痺れてから5秒だ。体勢は整えられなかったな。リーダー格に向けて構える。
「武偵だ」
「――抵抗は止めなさい」
犯人は全員残らず警察に引き渡し、事件は解決した。結果としては、中に重傷者はおらず、被害はゼロと言ってもいいだろう。
正直な話、俺1人だったら、ここまでスムーズにできるかわからなかった。留美の強襲は初めてと思えない出来だった。
俺とアイコンタクトし、自分がどう動けばいいのかすぐに判断を下し、動けた。最後のスタンバトンを渡す時なんか、良い判断だ。
うーむ、探偵科とはもったいない。もし強襲科なら、かなりの成績を叩き出すに違いない。
「鶴見さん、久しぶりね」
「はい、お久しぶりです」
そんな声が聞こえ、そっちに目をやる。若い女性の先生と留美が話している。
「本当ありがとね、助かったわ」
「いえ、仕事ですから…」
「それでもよ」
楽しく話してそうだな。
俺は警察の報告も兼ねてこの場から去ることにする。なんとなくここは留美1人にしたかった。
警察に報告も終えて、校門で留美を待っている。あの太い警部にも誉められた。
ーー武偵もやるなぁ。みたいな感じに。
なんか連絡先も交換したよ。……報酬たんまりもらうからな。あと、マスコミは警察でどうにかするらしい。
校門で待つこと数分。タッタッと足音が聞こえる。この軽い足音は。
「八幡!」
もちろん留美。笑顔でこっちにきた。良いことでもあったのかな。聞きはしないが。
「これからどうする?1回武偵高に戻らなきゃいけないが」
どうせ、蘭豹やらのありがたい説教とか待ってる。いや、怒られないよな、今回は。
「その前に、何が奢ってよ」
そういやそんなこと言ったな。今財布には4000円。足りるだろ。
「いいぜ、どこ行く?」
「えーっとねー………」
余談たが、留美がお高いカフェに入り、金の大半が消えた。まあスイーツ美味しかったけど……。
そのせいで、交通機関が途中までしか使えずに、かなり歩いた。
おかしな点があれば質問してください。こっちも確認しましたが、自信がないです。
あと、ここで八幡の装備紹介です。
まず、ベルトの右側にファイブセブンを納めるホルスター。
ベルトの後ろにコンバットナイフ。柄は右側。
制服の内ポケット(右側)にはスタンガン。ファイブセブン20発のマガジン×2。
制服の内ポケット(左側)にはマガジン×3。
左袖を改造してポケットを作り、その中にスタンバトンを入れています。
スタンバトンの長さ25cm。
デスッ!