東京の話を書こうとすると、関西民族の作者には時間がかかるのです。
あの後、材木座から逃げて、電車を乗り、俺とレキはお台場に来ていた。俺たちいつもここだな。
時刻はもう5時。でも、学生が多い。その中には武偵高の奴らもちらほらと見える。それは男子や女子だけのグループだったり、男女混合のグループだったりする。
お台場は武偵高からしたら、割りと近く、羽を伸ばせるスポットなのだ。色々な店が揃っているし、便利である。
レキとは1回か行ったことある。あの時はその、成り行きみたいな感じだったな。いきなり部屋に押しかけてきて大変だったな。
「八幡さん、行きますよ」
ーー感傷に浸っていると、レキが俺の横から顔を覗き込み、そう告げる。
「わかった」
俺が返事すると同時に歩き出す。レキの歩幅は俺より小さく、それに合わせてのんびり歩く。
お台場にいるといっても、今は有明駅のホームを出たところだ。そこからそこそこ距離がある。
歩きながら、
「レキは何買うんだ?」
「防弾のインナーの数が少ないので補充しようかと」
なるほど。そういや俺もそれは必要だな。予備として多く買っても損はない。
「防弾のインナーとかシャツ買うか………」
残金を確認する。材木座に直接払うと思っていたから、けっこう持ってきた。6万か。これだけあれば足りるだろ。
「レキ、金は?」
「問題ありません」
だよな。Sランクのレキにその心配は杞憂だな。
「八幡さん」
「何だ?」
「ご飯はどうしますか?」
「そうだな…………。時間もアレだしここで食べることにする。レキはカロリーメイト?」
「いえ、八幡さんがここで食べるならそれに合わせます」
「そうか」
と、こんな感じに会話を続けていたら、お台場ダイバーシティ東京に着いた。いつ見てもでかいな。
俺たちはそこの5階にあるユニクロに入る。ここはけっこう安く、しかもそこそこ丈夫である。レキも特に反対などせず(するかどうか怪しいが)についてきた。
一旦、レキとは別行動をとる。
ただ今、服を物色中。
中学では服など基本親任せだったので、あまりこういう機会がなかった。因みに、服は全部ユニクロでした。家庭に易しい俺。
実際見てみると、安い。………いや安いんだろうけど、他の店と比べてないからどのくらい安いのかわからない。
と、歩いていたら、男性用の防弾シャツのコーナーに来た。
なんでも、武偵という制度が日本でも導入された辺りから、こんな一般の店でも防弾製品が売られてきた、…らしい。
今の世の中、手に入れようと思えば簡単に銃を手に入れれる。ーー本当、物騒だな。
そんな事を思いながら、防弾のインナーやシャツの縫い目をチェックする。ここが荒かったら、いざというとき危ない。しかし見る限り問題ない。
ーーーーまぁ、周り見てみると、やはりと言うべきか。防弾のシャツやインナーの種類は少ない。
普通の服みたいなバリエーションがない。あるのは黒、白、灰色。
売っていても需要はないのか。………確かに色んな人がホイホイと買っていたら怖いけど。
俺はカゴに防弾製のMサイズの長袖のインナー、白地のカッターシャツを3着ずつ入れた。
防弾製品ということで、普通の服より値段は高めだが、それでも2万あれば事足りる。
先に会計を済ませることをレキに連絡しようとして、少し探すことにする。
探すこと数十秒。何やら試着室がうるさい。トラブルかと思い駆け寄ってみる。
ーーそこには、薄い桃色のワンピース。その上に水色のジャケットを着ているレキがいた。
………何やってんの?
ぽかーんとしていると俺に気づいた女性の店員が近寄ってくる。
「あなたこの子の彼氏?」
「違います」
「あら、そうなの………。でも、この子の連れよね?」
「そうですね。つか、なんでこんな状況になったんですか?」
「いやー、最初は防弾製品の場所を聞いてきたんだけど。……あ、制服で武偵ってわかったわ。でもねー、私服持ってないらしいのよ。素材が最高なんだし着せ替えしたかったのよ」
「そうですか」
確かにレキはお人形みたいな顔立ちだ。客観的に見ても可愛い部類に入るだろう。
ってあれ?私服ないんだ。
「で、どう?可愛いよね?」
「まぁ…、可愛いと思いますよ」
恥ずかしい。女子にここまで面と向かって言ったのは小町しかいねぇ。しかもその時の反応が「うっわ、本当にお兄ちゃん?」と引かれた。解せない。
しかし、その言葉にレキは顔を少し伏せ、赤らめる。なにそれ可愛い。可愛いけど、怒っている?
「すいませーん!」
と他の客が店員を呼んでいるので、ここにいた店員が向かう。俺たちを残して………。
レキは何も言わず、俺も何も言えず、そこに微妙な空気が流れる。
ーー息苦しい。なんか空気重い。やっぱりキモいよな。俺がそんなこと言うなんて。
「あ、俺もう、会計…する…から」
当初の予定を思いだし、レキに伝える。所々詰まりながら。
無言でうなずいたのを確認してからその場から離脱。
会計を済ませて、店の外でレキを待つ。
にしても、今日の俺、大丈夫か?いつもなら、女子に可愛いなどと思うことはあれど、直接言うことなんてないのに。
あー、恥ずかしいなー。
待つこと数分。
「お待たせしました」
武偵高の制服のレキが俺の隣に立つ。あのあと着替えたらしい。
レキは紙袋を手にぶら下げている。俺よりその量は多い。
レキならそんなに買わないと思っていたが。
「持つぞ」
手を差し出し、レキの荷物を持とうとする。
いくら日常で4kgあるドラグノフを所持しているとはいえ女の子。ここは男の俺が持つのが道理だろう。
「結構です」
ーーが、お断り。
俺に荷物を頑固として渡そうとしないレキ。
「なんでだよ」
「………………」
来ましたー。ダンマリ。こいつ都合の良いの時だけ無視しやがって。俺も人のこと言えないけどさ。
チラッと紙袋の中身を覗いた。どうやらさっきのワンピースとジャケットを買っていたのか。
だったら重いだろうし余計に俺が持つのに。
ま、本人が結構と言うなら、これ以上は言わないけど。
時間は6時を過ぎた。もう夕方の雰囲気が消え、見上げると空は黒く、暗い。
俺とレキはクアアイナというハンバーガーショップにやって来た。
ここはウマイらしい(作者談)。またお台場に行く機会があるなら、是非食べてみてくれ。
店の中は平日とはいえかなりの人だかりだ。ほとんど席は埋まっている。
「レキ、外でいいか?」
「はい」
レキの了承を得た所で、カウンターに並び、注文する。
「奢るけど、何か食べたいのあるか?」
「八幡さんと一緒で」
「了解。……えーっとベーコンバーガー2つ」
ハンバーガーを受け取り、どこか食べれる場所を探しに移動を開始する。
少し歩くと、自由の女神の横にベンチを発見した。寒いからか人はいない。
俺がベンチに座ってから、レキも俺の隣に座る。
「ほらよ」
レキの分のハンバーガーを渡す。
「ありがとうございます」
食べている最中、ふと前を見る。
そこは夜の海だ。かなり暗い。ザザーっと波の音は聞こえるが、水はほとんど見えない。しかし、一部月に照らされ、そこだけ輝いている。それがどこか神秘的だ。
しばらく経ち、お互い食べ終わった。ゴミを回収して近くのゴミ箱に捨てる。そのまま、もう1度同じ場所に座る。
1分かそれとも10分か。俺たちは座ったまま何もせずに、ただただボーッとしていた。時おり寒いと感じたが、たがらといって何もするわけでもなかった。
不意に、
「八幡さん」
俺を呼ぶ声がした。言わずもがな、レキだ。
「なんだ?」
「今日はありがとうございました」
「別に気にすんな」
「そうですか」
「ああ」
さっきまで海の方を見ていたが、今度はこっちを向きながら、
「八幡さん」
俺を呼ぶ。どことなくマジメな声色だ。
「なんだ?」
レキを横目で見ながら、さっきと同じトーンで答える。
「私はあなたを知りません」
「………俺もお前のこと知らないよ」
そう返す。
誰だって、人のことを全部なんて知らない。自分を理解できるのはいつだって自分自身だけだ。
……もし、誰かのことを理解しているって奴がいるなら、そいつは傲慢だ。100%わかるわけがない。そんなのはただのまやかしだ。所詮、知った気になっているだけだ。理解とは呼べない。
だからーー
「私はあなたのことを知りたいです」
ーーーーだから、知ろうとする。知りたいと思う。そう願う。知りたいという努力をする。
「あなたは私にいつもと変わらず接してくれました。他の人は必要以上に私と話そうとしませんでした。今までそれが普通でした」
「だから、夏休みの最後。あなたが私に投げ掛けてくれた言葉が嬉しかったーーと思います。私を銃弾ではなく、1人の人として見てくれたこと」
「……レキ」
話を聞き終えて、俺が言うことはこれだろう。
「もう1度言う。お前は銃弾なんかじゃない。絶対にだ。
今お前は何かを感じ、それを表現した。そんなの機械にはできない。
できたのはお前が人間だからだ」
俺は思ったことを包み隠さず、レキに全て伝えた。
「ーーありがとうございます」
少しだけ、でも確実にレキは笑った。月に照らされた中で。
それは俺が見た中で一番綺麗な笑顔だった。
「これからは比企谷八幡という人を私に教えてください」
「だったら、俺にもレキという人を教えてくれよ」
「はい」
こうして、レキとはどこか通じ合ったように感じた。
あれから1ヶ月以上経ったある日。
「あれ、ここどこだ………?」
俺はいつも通り目が覚めた。
しかし、俺の部屋の天井ではない。どこか別の場所だ。
どうしてこうなった?ここはどこだ?
俺が寝ていたベッドの横に丸窓がある。
そこからなら、何かわかるかもしれない。
そう思い窓を覗くと、
「えっ、魚……?」
窓から映る景色は魚がそこらじゅうにいて泳いでいる姿だった。
どうやら映像ではなさそうだ。
「もしかして………、ここ、海中?」
1人でつぶやいていると、部屋の扉がカチャっと開いた。
「あ、ジャンヌ~~。ハチハチ起きたみたいだよ」
「ふむ、彼が理子の言っていた少年か」
さぁ!八幡はどこにいるでしょうか?
原作読んでいる人にはわかるはずです。