八幡の武偵生活   作:NowHunt

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このお話は前回の
1ヶ月の間の一部のお話です。

これで2学期は終了します。


第34話

あの日、レキと別れてから、数日経った。

 

学校で、俺とレキはいつもと同じように接していた。武藤情報から、レキは狙撃科で人気が高い。

 

別に付き合ってるわけではない。面と向かって「好き」とは言ってないからな。

 

だけど、どこからかあの日レキと一緒に誰かといたと狙撃科で噂になっている。さすが俺と言ったところか、それが比企谷八幡とはバレてない。………陰薄すぎだろ。

 

まあ、狙撃は怖いので、学校ではひっそりと過ごしている。それ以外では、電話のやり取りが多い。たまに出かけたりしている。

 

 

 

 

 

 

材木座から、ファイブセブンをフルオート付きに改造してもらい、撃ってみた。

 

マシンガンと違って、撃ち続けたら、次第に照準がぶれる。そこは慣れればいいだけだ。

 

 

にしても、材木座の腕は頼りになる。正に完璧と言ってもいい。フルオートとセミオートとの切り換えもしやすい。

 

こちらとしては高めの値段でも良かったのだが、

 

「我にはこれで充分である」

 

とかで、控えめな値段だ。申し訳ないとも思ったが、そこが材木座のいいところだ。固定客が多いのも納得できる。

 

 

 

 

 

 

そして、クリスマスイブ。俺は前々から任務を予定に入れていた。レキも同様。

 

今回は千葉で、お金持ちの主催するパーティの会場警備だ。

 

……え?この前も似たようなのやったって?バッカ野郎。金もそこそこ稼げるし、楽だし、俺の好みなんだよ。そこまで大きな被害があるわけでもないしな。

 

結果としては、酔っぱらいの大柄な男が暴れたけど、腹を殴って、退場させた。周りにケガはなし。

 

ここで誰かケガでもさせてみたら、評価が落ちる。あと、理不尽な暴力。なので迅速にすることを心がけている。

 

それ以外では基本出入口のチェック。

 

無事に滞りなく終えた。

 

にしても、パーティのかなり規模がでかかったな。大変そうだな。参加するならともかく、主催とは。

 

ま、俺には関係ないけど。

 

 

 

 

報酬を受け取り、俺は懐かしの京葉線に乗り、東京駅で寮に帰るため、また乗り換える。

 

何度か乗り換え、午後10時に学園島に着いた。ブラブラと歩いていたら、

 

 

「こんばんは」

 

 

「……暗闇に紛れて登場するな。ビックリするだろうが」

 

十字路からスッとレキが現れた。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ驚いた。

 

 

 

まずコイツは俺も自信あるが、それ以上に足音を消す。

 

俺は一時的に陰の薄さを活かして姿を眩ますことができる。

 

この前の留美との事件で、そこそこ使えることがわかった。それでも元が薄いから、見つからない時も多々あるけど。

 

が、レキの場合俺の完全に上位互換だ。レキが自分で消えようと思ったら、もう探せない。

 

近接戦なら、まだ勝てるが、少しでも距離が空くと不利になる。カルテットでは、他に意識を散らせたからなんとかなったが。

 

 

「お前も任務終わったか?」

 

「はい」

 

「お疲れ様」

 

「ありがとうございます」

 

「八幡さんもお疲れ様です」

 

「ありがと」

 

 

 

そんな感じにのんびり歩いていたら、急にレキが立ち止まる。俺も釣られて止まる。

 

「どうした?」

 

レキは上空を見上げ、目を閉じる。………しばらくすると、目を開け、俺を見る。

 

「ーーーー風」

 

そうポツリと言うと………、

 

 

 

「八幡さん。あなたは風に近い者と遭遇します」

 

 

 

ーーそれは確実に当たるみたいな予言だった。

 

風というと、レキがずっと信じてきた何か……だよな。その正体はわからない。

 

「一体風ってなんなんだ?」

 

レキに問うが、俺の呟きに反応することはなかった。

 

 

 

 

 

 

ーーこの日、遠山キンジにとって、人生が変わる事件が起きていたとは誰も予想できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。クリスマス当日。

 

リビングからガタッと大きな音がした。その音のおかげで、バッチリ目が覚めた。

 

何かと思い、リビングに行くと。

 

 

ーーそこには、テレビを見つめ、呆然としている遠山がいた。

 

 

とてもじゃないけど、声をかけれる様子ではなかった。

 

何があったのかテレビを見る。

 

 

『もう一度繰り返します。12月24日、浦賀沖で海難事故が起こりました。』

 

『アンベリール号が沈没し、乗客1名が行方不明となりました。その乗客は武偵で名を、遠山金一と言います。今現在、捜索を続けていますが、もう間もなくすれば、打ち切られるとのことです』

 

 

遠山金一?……遠山?も、もしかして?

 

「ま、さか、に、兄さんが………」

 

遠山がうめく。今まで見たことないくらい顔が青い。信じられないという顔。

 

やはり遠山の親類、それも兄ときたか。

 

 

『警察によりますと、どうやら乗客全員を避難させたあと、遠山金一武偵も避難しようとしたところ間に合わなかったそうです』

 

 

 

 

 

しかもこの事件。乗客からの訴訟を恐れたクルージング会社の責任者が「事故を未然に防げなかった無能」と言う。それに焚きつけられた一部の乗客も同意する。

 

ネットで、週刊誌で、さまざまな罵詈雑言が遠山金一に飛びかっている。そして、その悪意の飛び火は親族にも……だ。

 

 

遠山はクリスマス当日。部屋に引きこもったらまま外に出ようとしなかった。

 

俺は何もする気が起きず、ただただクリスマスで彩られた街をあてもなく、ブラブラとうろついていた。

 

 

 

1日経ち、昼になり、メシにしようかと、台所に行くと、

 

「比企谷」

 

部屋からリビングに遠山が出てきた。

 

「よお」

 

ここで、間違っても「大丈夫か?」なんて声をかけてはいけない。絶対無理をしている。

だから、ここはいつもと同じ態度で接する。

 

「メシ用意するぞ」

 

「あ、ああ。……ありがと」

 

ソーセージと玉ねぎを炒めたおかずと炊いたばっかの白米を俺たちは向かい合わせで食べる。

 

「比企谷」

 

「なんだ?」

 

「俺、武偵辞めるよ」

 

「……そうか」

 

 

 

特別驚きはしなかった。

 

亡くなったのは遠山の兄。恐らくだが遠山は兄に憧れて武偵を目指したのだろう。

 

名前を検索してみたら、かなりの大物とわかった。この背中を追いかけていたのか………。

 

その兄が今世間で叩かれている。……人を助けたにも関わらず。

それは責任を取らないといけない奴のスケープゴートとして。

 

遠山はーーそれを許せないと、俺は思う。

 

 

 

「何も言わないんだな」

 

意外そうな顔だ。

 

「まあな。自分の道は自分で決めるべきだ。それに人の人生に口出せるほど俺は偉くない」

 

レキの時は夏休みに思いっきり口出したけど。

あれは、まぁ………、ノーカンで。

 

 

「カn、……兄さんは俺の目標なんだ。あの人みたいに正しく強くありたかった」

 

遠山が語り出した。

 

にしても、なぜ最初で言葉が詰まったのか?

カ……?兄の名前は金一だろ。 

わからん。

 

「遠山家では代々、正義の味方をやってきた。詳しくは言えないが、遠山家の遺伝子の力で、何百年も戦ってきた」

 

なるほど……。遺伝子。それが遠山の力の源か。たまに見るもう1人の遠山の。

 

 

「兄さんは、なぜ人を助けて、死んだ?なぜスケープゴートにさせられた?」

 

「答えは武偵をやっていたからだ。武偵なんて、戦って、戦って、傷付き、死体にまで石を投げられる、ろくでもない、損な役回りじゃないか」

 

 

一拍置いて、

 

「だから、武偵を辞める。これからは普通に生きる」

 

 

 

ーーその言葉に俺は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあった翌日。12月27日。

 

ネットを見てみると、遠山金一の批判がひどい。

物事の本質を見ようとしないくせに、こういう時だけしゃしゃりでるような奴ばかりだ。アンチ武偵の奴らも多い。

 

これ以上見ると、もっと胸糞悪くなるのでネットを閉じた。

 

 

ベッドに寝転び、大晦日や正月は家に帰るか考えていた。

 

ーー少しずつ家に顔を出しているしなあ。どうしようか?一応は行くべきかな。あーでも小町に会いたいな。

 

 

 

ここでふと時間を確認する。

 

もう夕方。ここにいるのもなんだし、どこか出かけるか。何だかんだでかなりイライラしているし、少しは落ち着こう。

 

フル装備+防弾制服で電車に乗り、学園島から出て、東京駅に着いた。行き先は適当に決めるとして、電車に乗り直す。

 

 

 

1回澁谷駅で降りて、ホームに出ようとする。切符を財布から取り出していると、

 

 

 

ーーゾクッ!

 

 

 

寒気がした。

 

………いや、まあ冬で寒いんだけど。

そんな感じではなく、俺を狙った明確な殺気に感じた。一言で言うならば、恐ろしい、かな。

 

後ろを向き、確認する。…が、何も見えない。俺の目に映る光景はごくごく普通の人たちが歩いているだけだ。

 

……気のせいか?過剰になりすぎだ。ただでさえ今イラついいるからな

 

 

 

 

クリスマスが終わり、街はもう年末や正月ムードだ。みなさん切り換え早いな。

 

………つーか、人多すぎだろ。まさかここまでとは。にしてもカップルが多い。リア充滅びろ。

 

ダメだ。人多すぎで気分悪くなってきた。どこかで休もう。

いいところにカフェがある。リア充が来そうにない渋いカフェだ。ここにしよう。

 

「いらっしゃいませー」

 

仕切ってるのは、おじいさんとその孫かな。

 

見渡すとほとんど人がいない。いるのは老夫婦だけ。いい感じだ。

席につき、メニューを見る。おすすめのサンドイッチとコーヒーを頼む。

 

しばらくしてサンドイッチとコーヒーが来た。

 

コーヒーは苦いけど、甘党の俺でも飲める。サンドイッチもできたてでおいしい。

 

 

…………?

 

コーヒーの味に少し首を傾げる。何か、苦味のほかに別の味が入ってるような………。

 

気にしてもしかたない。そこまで気にならないし。 

 

 

ここで30分ほどのんびりして、お金を払い、カフェから出る。 

 

相変わらず人が多い。遠回りになるが、人気のない道を通るか。

 

 

 

辺りもすっかり暗くなった。その中俺は独りで歩いている。

 

 

ーーこれからどうするか。将来、俺はどうなるのか。どうなりたいのか。

 

今回の事件で、今まで成り行きで武偵をしていた俺に突きつけられた課題だ。

 

遠山が武偵を辞めると言ってから、流されていた俺は真剣に考えてみる。

 

このまま武偵を続けるか。それとも、大学に進学してどこか企業に就職するか。どちらにしても大学には進んどかないと………………

 

 

 

「うっ」

 

突然目眩がし、膝がガクンとなる。

 

 

………………あれ?

 

 

ヤバいぞ。ヤバいヤバいヤバい。

 

頭がボンヤリする。

 

体がフラフラする。

 

眠気がスゴい。

 

思考が追い付かない。

 

何があった?急にどうした?

 

 

「ハァ、ハァ」

 

塀に寄りかかり、必死に頭を動かす。俺の今日の行動を振り返る。

 

 

 

まさか、あれか………。

 

あの時感じたコーヒーの味の違和感。

 

睡眠薬か。しかも、すぐに眠くならなかったから、恐らく遅効性、それとも俺に効くのが遅かったのか。それだけならまだしも効き目が強力だ。

 

「クッソが……」

 

 

そういや駅で殺気がした。もしかしたら、そいつか。

俺はバカか。気のせいじゃなかったじゃないか。ちゃんと確認しろよ。

 

 

そもそも誰だ。誰が、なんの為に、俺を狙う?

 

恨まれるようなことしたか?警察や武偵は恨まれてなんぼだと蘭豹が言っていたが、心当たりが無さすぎる。

 

夏休み前の奴らか?いや、まだあいつらは外に出れない。

留美との事件もまだ釈放されてない。

 

考えれば考えるほどわからない。

 

 

 

ドサッ。

 

 

壁に寄りかかり、ギリギリ立っていた俺はとうとう限界が来たらしく、その場に尻餅を着く。

 

取り敢えず誰かに連絡を……。

 

ポケットに入っている携帯を取り出そうとすると、

 

 

 

「チッ」

 

人の気配がする。この状況で人が来るとは………。絶対味方でなはないことは確かだ。

 

意識がギリギリの状態でファイブセブンに手を伸ばし、そっちを向こうとするが、

 

 

ーービリっ。

 

 

 

 

そこで、俺の意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかいつも以上に長くなった。

何か間違っていたら、訂正のお知らせお願いします。

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