第35話
俺が目覚めて、何があったか、ここがどこなのか、わからない。
思い出せ。確か………そうだ!睡眠薬にヤられて気絶させられたんだ。クッソ、どのくらい経った?
携帯は?俺の装備は?………服装は制服たが、他の荷物が見当たらない。内ポケットに仕込んであるスタンガンもだ。
「やっほーハチハチ~。やっと起きたね」
部屋の外から、銀髪の女子と一緒に入ってくる金髪の女子の名は峰理子。
ーー峰理子。俺と同じクラスの女子。金髪、ロリ、巨乳、ぶりっ子。それらが特徴のクラスのやかましい奴。………………そして、仮面を被り、何かを一生懸命隠している。自分を演じている、どこか悲しい奴。と、思っている。
「峰理子。ここはどこだ?俺の装備は?睡眠薬仕込んだのはお前か?」
「もぉ~~。質問多すぎぃ。少しは落ち着きなよ」
笑いながら、俺の言葉をヒラリと受け流す。……クラスと峰理子とどこか違うような。
「……俺は至って冷静だ。その上で質問している」
この言葉はブラフだ。内心焦っているが、冷静さをなんとか保つ。
ベッドから降りて防弾製の靴を履く。そこでこっそり靴の感触を確かめる。…………アレはあるな。俺の装備は根こそぎ盗られたが、これはバレてない。
「ま、1つずつ答えてあげるよ。まず、ハチハチの装備は私が預かってるよ。特に細工なんかはしてないね。する時間なかったし」
峰理子が横目で隣にいる銀髪に促すと、そいつが持ってある袋を俺に見せてくる。中には携帯を含め、財布、ファイブセブン等、全部ある。
「あ、携帯はGPS辿られると厄介だから電源落としているよ」
それは薄々感じていたから、そこまで期待していない。
それと理峰子の言葉を聞く限りそこまで時間は経ってない。しかし、具体的にはわからない。
「で、ハチハチの考えで正解だよ。睡眠薬を仕込んだのは、私」
そう答える。そして、峰理子は少し呼吸し、
「いらっしゃいませ」
ーーーーあの時の店員と同じ声で言ってきた。
「なっ!」
……マジか、驚いた。これは……変声術か。それもかなりの熟練度。これなら誰でも騙せるだろう。
「くふふっ。驚いた?ちなみに私、変装もできるからね。ハチハチじゃあ見破れないよ」
それはっ……事実だ。実際問題、あの時は気にも止めていなかった。まさか、あの店員が峰理子とは。
「あの店員殺してないよな」
靴紐を結んでるフリをして、峰理子に表情を見せないように問いかける。
「それは大丈夫だよ。店長の声で、今日は休めって言ったからね」
それと、と付け加えながら、
「ハチハチを尾行して澁谷ってわかった時点で、ハチハチの動きを読んだんだよねぇ。ま、かなりタッチの差で間に合ったけど」
恐れ入るよ。その周到さには。
「あ、最後の質問だね」
何気無く、クラスのテンションと同じで言うが、
ダッ!
「ーーその必要はない」
俺は靴に仕込んであるカッターナイフを取り出し、ほんの2m先にいる峰理子の所まで駆ける。そして、首筋にカッターナイフを当てる。
「ここがどこなんてどうでもいい。元の場所に帰せ」
峰理子を殺意のある目で睨む。
ここが海中というのはわかった。もしここでこいつを殺しても、そうはバレない。
しかし、お仲間のピンチだというのに隣にいる銀髪は動かない。大丈夫だと言わんばかりに。
ーーゾクッ。
一瞬体が震えた。
「いいね。その目、いいよ、スゴくいいよ、最高だよ」
ニヤァと獰猛な笑みを浮かべる。
ーーこれだ。あの時感じた殺気と同じ気配。
こんなの武偵高では誰も見たことがない。要するに、これが、峰理子のもう1つの顔。
「確かにハチハチは今私が手足を動かせばすぐに首を斬れる体勢。ーーでもね」
ドッ!
「がはっ」
腹に衝撃が走り、床を数m転がった。うずくまり腹を抑える。
急に腹を殴られた。だが、峰理子は手足すら全く動かしていない。
なら、何で、俺を、殴った?
俺は峰理子の方を向く。
そこで俺は信じられない、恐ろしい物を見た。
ーーーー峰理子のツインテールがゆらゆらと動いている。まるで、メデューサのように。
それは髪の毛1本1本自由自在に操れるらしい。なぜなら、髪の毛の先には握り拳みたいに固く握られているから。
それで俺を殴ったのか。かなりの威力だ。これは………、
「超能力(ステルス)か……」
「正解。よく知ってるね。これは私の力だよ」
今の状況はかなり最悪だ。
武器は隠し持っていたカッターナイフを含め、全て俺の手元にない。
向こうは、まず峰理子は両手に、ワルサーP99を取り出す。隣の銀髪は長い剣を構える。
ーーここから導き出される結論は、俺に勝ち目はないということだ。偶然なんてものもない。100%俺が負ける。
俺は深くため息をつき、両手を挙げる。
「降参だ。もう抵抗しない」
この言葉に嘘偽りはない。
それを察したのか、峰理子はワルサーP99をしまい、銀髪も剣を納める。
「よしっ、じゃあここの説明だね。まずイ・ウーへようこそ」
いつもの調子で俺に話しかける。イ・ウー…………?ここの名前か?
「理子、ここは私が説明する。お前は下がれ」
峰理子が話そうとした途端、隣にいた銀髪が出てくる。
「………いいよ~。じゃあ、私外にいるね」
峰理子が部屋から出るのを確認すると、そいつは俺に向き直る。
「どうして峰理子を下がらせた?」
ただ単に素朴な疑問なので問いかける。
「いや、理子の前では聞きにくいこともあるだろう。
あ、言い忘れていた。私から名乗らないとな。私の名前はジャンヌ・ダルク」
「………は?」
その名前を俺は知っている。別に目の前のコイツと知り合いというわけではない。むしろ、初対面だ。
なぜ知っているかというと………。つーか、ほとんどこの名前に聞き覚えがあるのではないか?
「それって、フランスの………」
「そうだ。私はその30世だ」
「でも、火炙りで処刑されたんじゃ」
俺の記憶が正しければ、そうなってたはずだ。しかし、目の前のジャンヌさんは、
「それは影武者だ」
と、平然に答える。そんなの初耳だぜ。おい、教科書、もっと正しく書けよ。
「む、話が逸れたな。ここはイ・ウーという組織だ。漢字で書くと、そちらの偉人で例えると井伊直弼の2文字目の伊、ウーはアルファベットのUだ」
伊・U。それがここの組織名か。あと漢字の説明微妙。
だが、わかったぞ。伊は昔日本の潜水艦に使われていた暗号名。Uはドイツか。
「ここは超人たちが互いに教え合う場だ。全員が先生であり生徒でもある。……そうだな。例えば私も理子には及ばないが、変声術を使える。理子に教わったものだ」
それを聞いても、未だに現実味がない話だ。超人?教え合う?……ダメだ、頭が追い付かない。
「今までそんなの聞いたことないぞ」
やけくそ気味にぼやく。
「それもそうだろう。ここは特撮や作り話とかである秘密結社というものだな。戦闘集団なんて言葉がしっくりくるな。目的は己の鍛練など自由だが、世界を征服しようとする者もいる」
世界征服だと?そんなバカみたいな話信じれるか?
「また私はフランス人だが、ある程度日本語ができるのは、ここの公用語が日本語とドイツ語だからだ」
………気にしてなかったが、確かに日本語が流暢だ。
「ちょっと待て。公用語ってここは国……ではないよな。そもそもなんで生き残れたんだ?どっかの国がここに攻撃しようと思わなかったのか?」
そんな恐ろしいとこなんて、すぐに潰そうとか考えないのか。
「簡単なことだ。ここイ・ウーはボストーク号という潜水艦だ。そして核武装もしている。いかなる軍事国家でも易々と手出しはできないのだ」
嘘………だろ。え、ここに核があるの?
「ここまでで質問はあるか?」
俺はベッドに腰深く座り、頭を抱える。
纏めると、ここはイ・ウー。潜水艦ボストーク号。
超人どもが互いに教え合う場。話を聞く限り、基本は自主性ってところか。まぁ、中には世界征服を企む者もいるけど……。
そして、ここには核があり、軍事国家も迂闊に手が出せない。
末恐ろしい話だ。まだ混乱している。でも、これは夢ではない。現実だ。
「そんなのどうでも良い、って良くないけど。なんで俺はここにいるんだ?」
真っ先にこのことを聞かないと。じゃなきゃ納得なんてできない。
「む…忘れていた。済まない」
そう言い、頭を軽く下げる。
ジャンヌさん、もしかして天然?
「比企谷八幡……八幡でいいか?」
さらっと名前で呼ぼうとするなんて、適応力高いな。
「あ、ああ」
「私はジャンヌでいいぞ」
「……わかった。で?」
「うむ。それでだな、一言で言えば勧誘だ。荒々しくあったが」
勧誘?睡眠薬仕込んで誘拐したのを勧誘と呼べるのか?
俺はポカーンと口を開けていると、
「これは理子が勝手にしたことだ。私なら、直接勧誘に行くがな」
そんなの知らないです。
「そこでだ。八幡にはここに自ら来た意思がない。上に掛け合ったところ、3ヶ月の短期留学という形になった。1年の3学期の終了間近には帰れるだろう。もちろん安全の保証はする」
その話を聞いて少しホッとした。良かった帰れるんだ。
「そして、ここからは忠告だ」
ジャンヌの纏う空気が変わる。それはさっきの真面目そうな雰囲気ではなく、もっと真剣になる。
「例え戻っても、ここでのことを話してはいけない。もし話したならば、その人の戸籍、銀行の利用履歴等、生きていた証は全て消去される。八幡も生きれるかわからない」
…………は?そんなことが可能なのか。と普通なら思うだろう。
でも、ここには、それを実行する力はあると思う。
「わ、わかった」
ここはうなずく。
「留学記念だ。受け取れ」
武器を返してもらい、不備がないか確認していると、ジャンヌが何か俺に渡してきた。
それは黒のロングコートだ。それにブーツも。しかも軽い。
「これらは中々高い防弾、防刃、性能を誇っている。詫びとして貰っといてくれ」
「お、ありがと」
素直に受け取る。別にこのくらいなら良いよな。
「あ、そうだ。質問いいか?」
……少し気になることがある。
「いいぞ」
「さっき上っていたけど、ここにはリーダみたいな人がいるんだよな?」
「いる。みんなは教授と呼んでいる」
予想通りだ。カリスマでもあるのか、そうでもなきゃ、全員好き勝手にやって、世界は大変なことになる。
「1番上なら、そいつは全員の能力とか使えるのか?」
話を聞いて、出た答えはこれしかないと思った。互いに教え合うなら、その完成形がいるのが筋だろ。
「正解だ。賢いな。…それが誰かなのは、八幡が会えばいい」
返ってきた答えはどこか曖昧だった。肯定してきたが、それ以上は教えないってことか。
まあ、今は考えない。ジャンヌの目を見て、
「次が本題だ。ーーなんで峰理子はここにいる?何か目的でもあるのか?」
これからテスト期間に入ります。……チッ
更新ペースは落ちますm(__ _)m