八幡の武偵生活   作:NowHunt

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お久し振りです。NowHuntです。本当は7月辺りに投稿しようかと思っていたのですが、八幡の武偵生活一周年(まだ一周年ではない)に合わせたくて投稿しまs……………俺のことなんて覚えてない?ですよね…………

ハァ……どうせ俺なんか………


   チェーンジキックホッパー



俺とお前と

「ううっ、寒っ」

 

雲が少なく、夜空からは半月が綺麗に見える。

 

時刻は大体2:00だ。深夜のな。4月の冷え込みは中々に寒い。体が冷える。

 

地味に長時間外で座っているのはキツい。しかも、コンクリの上だと余計に寒い。体を動かせばいい話だが、結局面倒だから動かさない。この悪循環よ。

 

俺がどこにいるのかというと……………。

――男女の寮から2km圏内に位置する廃ビルの屋上だ。周りに家やビルはあまり広がってなく、頑張れば肉眼で寮をどちらも見れる。そこそこ見通しはいい。けど、暗い。

 

俺はそこに独りで腰掛けている。

 

この廃ビルは今現在、誰も使ってないようだ。所々中には穴が空いてたり、何かの機材が並んでいたりはしているが。

ちなみに、窓は全て抜けており風が良く通る。屋上に行くまで寒いのなんの。

 

今度は、なぜ俺がここにいるのかというと………言わなくてもいい?正直面倒です。……あ、言わなきゃダメですかそうですか。

 

まぁ、あれだ。女子と夜中にコソコソ話すんだよ。言わせんなよ恥ずかしい。

…………何そのリア充感。爆発しろ。木っ端微塵になれ。砕け散ろ。

 

 

それに、さらっと言うけど、中学の時の俺と比べると想像も付かないだろうな。

折本に告白して、振られ、瞬く間にナルガヤと呼ばれ。それにごみぃちゃんとか呼ばれて。

………いや、待て、最後は違う。小町だわ、ごみぃちゃんって呼んでたのは。何だよ、ごみぃちゃんって。兄は決してゴミではありません!…………あ、どうでもいいですかそうですか。

 

 

えっ?誰とこんな夜中に話すかって?

 

そいつはな――――

 

「やっほー。ハチハチ。待たせてゴメンね~」

 

「呼んだのは俺だ。気にすんな。寒いけど」

 

――――峰理子。そうだな。何で言うか………。俺の………友達だよ。

 

 

 

 

 

「悪いな、こんな時間に呼びつけて」

 

本当はもう少し早くにしたかったのだが、色々と準備があったからな。

 

理子は、改造したヒラヒラしたロリータ制服を揺らしながら、

 

「大丈夫だよ。ちょうど深夜アニメ消化してたからねーー。少しウトウトしかけてたから目を覚ますのにちょうど良かったよ」

 

俺の心配とは裏腹に呑気に答える。

 

「早速だが、本題に入っていいか?」

 

俺が立ち上がるのを見ると、理子がなぜだか、自分の体を抱きしめるようにして、詰め寄ってくる。それにプラス顔を赤く染めて。

 

「もう始めるの?くふふっ。ハチハチも中々やり手ですなー」

 

「お前は何を想像している?」

 

「ナニって………。この時間、男女2人。そこから導き出される結論はもちろん、えっちぃことでしょ?」

 

「アホか」

 

下がりながら、つい理子の足下にファイブセブン2発銃弾をぶち込む。入射角のせいか2発ともコンクリから弾かれた。

 

「うひゃっ!危ないよ~ハチハチ。いきなり銃を撃たない!分かった?」

 

「いやお前が言うか?職業爆弾魔が」

 

 

――――その一言で、理子の顔つきが一瞬変わった。俺は何回か見たことのある。

獲物を狩るような目、いつもは見せない獰猛な笑み………もう1人の理子か。

 

が、すぐにいつものの理子に戻る。

 

 

「へぇ…………。ハチハチ――知ってたんだね~」

 

「教えてくれたからな」

 

「誰だろ?うーん。ジャンヌじゃあないねー、夾竹桃でもない。ハチハチはあそこでも知り合い少ないしねーー。……ってことは、もしかしてセーラかな?」

 

ちっ、ものの数秒で当てたぞ。あと、さらっと馬鹿にされたのは気のせいか?

 

「さぁな?」

 

ここで認めるのは何か癪なので悟られぬよう、何食わぬ顔で返答する。

 

「………さすがのポーカーフェイスだね。でーもっ、逮捕したくても、証拠はあるのかな?もしなかったら、ハチハチがアウトだぞー。誤認逮捕でガメオベラだ~」

 

余裕満々の表情で理子はクルクル回る。

 

理子は、自分が武偵殺しとは認めている。が、それだけでは逮捕に至るには不十分。俺がそれを理解していることを理子は理解している。

だから、俺は踏み込めない。そう判断した上での行動だろう。やっぱりそうくるよな。さすがに頭が回る。

 

確かにセーラからは言葉だけで、明確な証拠を言われたわけではない。でも、セーラの言葉はきっと正しい。そこは疑っていない。

 

武偵殺しは易々と自分に繋がる痕跡を残していない。

しかし、可能性はある。もし武偵殺しに次があるなら…………いや、きっとある。かなり少ない賭けだがな。それまで時間を適当に稼がないと。

 

 

 

――――その表情、崩してやる。

 

 

 

「確かに俺はある人から聞いただけで理子が武偵殺しという証拠を持ってない」

 

「うんうん。そりゃそうだろうね」

 

「だが、お前が武偵殺しではないという証明はできるか?」

 

「……………どういうことかな?」

 

ヨシッ。一瞬だけ表情が変わったぞ。

 

「武偵殺しは神崎アリアを狙っている。そして、その神崎アリアは……明日だったな。その日に飛行機でイギリスに帰還する予定だ」

 

これは夕方神崎と雑談しているときに聞いたことだ。

 

「クリスマスイブのシージャックの時みたいに神崎アリアと武偵殺しは恐らく直接決着を着けるだろうな」

 

「…………何が言いたいのかな?ハチハチ」

 

警戒心を高めた目で俺を睨んでくる。

 

「別に……。ただ、俺が武偵殺しなら――その機会を逃さない。何せ鴨がネギを背負ってくるようなもんだからな」

 

周りから、徐々に、狡猾に、卑屈に、俺らしく、攻め続けろ。

 

「ふぅーん。そ、れ、で?私に何をさせようと言うのかなぁ~?」

 

「明日1日中俺と付き合え」

 

と、率直に考えたことを間髪入れずに言った。その瞬間――――

 

「ふぇっ!?」

 

理子はやけに驚いた声を出す。何をそんた驚く?……………あ、

 

「………付き合えって言ったけど、ゲームとか色々しようって意味だからな」

 

「な、何で急に?」

 

「いや…………。もしこれで、ハイジャックが起こったら俺の勘違いってことになる。その時は謝る。だが、もし起こらなかっ」

 

ここで俺の言葉がピタッと止まる。なぜなら、ズボンからバイブ音がしたから。

 

 

――――この時間に来るってことは……やっと来たか。どうだ?成功したか?俺は賭けに勝てたか?

 

 

「ん?ハチハチ、どしたの?」

 

不自然に言葉を止めた俺に対して、すっとんきょうな声を上げる理子。それを無視して携帯を取り出す。

 

画面を覗くと………予想通りある奴からのメールだ。きちんと頼んだ物の写真がある。

 

正直な話、本当にあるかどうか望み薄だったが――賭けに勝ったぞ、理子。

 

「悪いな。今の話なしで。えーっと。…………げ、玄関から2番目の部屋の……し、下着が入っているタンスの奥と」

 

「――――っ!」

 

メールに書いてある文面を読み上げていると理子の息を吸い込む音が聞こえた。

 

これは……ビンゴか。

 

「それとリビングのテーブルの下の隠し棚。――分かるよな?理子」 

 

「……クソッ」

 

理子は苦い顔で思いっきり毒づく。可愛い女の子がそんな顔すんなよ。

 

「そこにあるのはC4がそこそことUZIが5丁。武偵殺しが使ってた物と恐らく同等だろうな」

 

C4とはプラスチック爆弾のこと。UZIは今まで武偵殺しが犯行に使用したマシンガンだ。

ハイジャックにはマシンガンは必要ないかと思ったが、念のためと言うべきか、やはり残してたっぽいな。

 

しかも、絶対分からないような位置に閉まってあった。あいつじゃないと見つけられないような位置に。

 

「もう頼んで押収してもらっている。後はこれを提出するだけか。…………あぁ、まだあったわ」

 

屋上の各地に置いてある盗聴機を3個回収する。 

一応ここには月明かりしか差してないが、見つかったら不味いからわざわざコンクリと似たような薄暗い灰色に塗った、俺が。

 

「…………もしかして……盗聴機?えっ?えっ?そこまでするの?普通する?」

 

さっきまでの苦い顔はどこに行ったのかと思うくらい呆気に取られている表情な理子。俺の行動が予想外すぎたのか。

 

それに、めっちゃポカーンとしている。この表情は中々レアだな。

 

「もちろん、そこまでするわ。誰を相手にするのか分かっているのか?――だからこそ、用意は周到に、だ」

 

「それは嬉しい評価だけど。……うん?ちょっと待って?じゃあ、私の部屋に入ったの誰?」

 

「誰だろうな?」

 

「………………そっかぁ。レキュか。ヤられた」

 

いや、結論まで辿り着くの早すぎです。その通りだけどさぁ。こちらとしてはもう少し悩んでほしい。

 

理子の部屋の鍵は装備科の材木座の後輩の奴に頼んだ。けっこう安く合鍵を作ってくれた。

 

「この廃ビルの位置。………そうか。レキュの射程範囲か。まさか……ここまでとは。流石だね、ハチハチ」

 

「そりゃどうも」

 

やっぱり気づいたか。だが、これで理子は俺に攻撃しにくくなった。この暗闇の中から狙撃が飛んでくる。これは大きなプレッシャーになる。

 

……………俺は狙わないよな?誤射は止めろよ、レキさん。

 

ちなみに、レキにこれを頼むのにかなり苦労しました。俺の必殺土下座が火を吹いたぜ。

色々と条件付けられたけど。まぁ、そこは武偵同士のやり取りってことで。

 

盗聴機で録音したデータは俺のパソコンに送られている。ここでの音声は確保した。

それと爆弾とマシンガン。それらはレキが俺の部屋に置いてくれる予定だ。部屋の鍵は渡した。遠山には少し悪いがな。

 

さぁ、証拠は揃ったぞ。揃ったけど………、

 

………うーん………だけどなぁ、

 

「この場合……お前を逮捕しなきゃないけないのかぁ?」

 

「………今度は何?どういう意味なの?ハチハチ」

 

「いやぁ……武偵としては捕まえるべきなんだけどな。イマイチやりにくいってか、お前の過去を知らなかったら直ぐにでも捕まえるつもりなんだけど…………。情けないが、理子の邪魔をしたくないって思ったりするんだよな」

 

「見逃してくれるの?」

 

まだ警戒心を高めている目付きだ。

 

「お前はこれからどうするつもりだ?」

 

腰のホルスターに手を伸ばしながら、これだけは問う。

 

「さっき言った通りハイジャックするつもりだよ」

 

あ、俺の推理が当たってたか。これまた意外。

 

…………さて、どうする?比企谷八幡。

 

これで理子がハイジャックで人を殺したとしたら、間接的に俺は武偵法9条を違反したことにならないか?だが、黙っていたら、知ってる人など当然いないから、おとがめなしになるだろう。

 

それに、相手はあの神崎アリアだ。いや、もしかしたらもう1人……………。

そうなれば、何とかできるかもしれない。死人を出さずに解決する可能性もある。

 

 

 

でも、これは推測の域だ。本当にそうなるとは限らない。実際、そうならない方が確率としては高い気がする。しかし、あの遺伝子の持ち主が………………。

 

とにもかくにも、これは峰理子の戦いだ。関係ない外野が手を出すのは野暮ってもんだろ。

 

「俺は――――ここは手を引く」

 

理子は大きく目を開き、ゆっくり呼吸してから、

 

「八幡、お前は…………やっぱり優しいね」

 

前半の口調はもう1人の理子、でも最後にはいつもの理子だ。

 

「だが、お前がハイジャックで人を殺したら、すぐにでも警察に放り込むぞ。…………それと、俺は優しくなんかねーよ」

 

効くかは分からないが、一応脅しをかけとく。証拠は全て揃っているからな。

 

「くふふっ。なら、そうならないようアリアとキー君だけ狙わないとねー」

 

………あぁ、理子も分かっているんだな。自分が戦うとなったら、アリアと遠山のコンビと対峙することを。

つーか、そうなるように色々仕組んだよな?チャリジャックやバスジャックとかで。

 

「言っとくがお前に関する証拠は返さないぞ。……今回回収した物に限ってな」

 

「いいよいいよ。そんなのすぐに用意できるしね」

 

その口振りはどうやら本当のようだ。部屋にだけでなく予備はどこかにあるのだろう。

 

 

 

 

盗聴機の費用は高いし、非常に疲れたし、もうこの怪盗を相手にするのはゴメンだな。

 

「それじゃ私帰るねー。あ、部屋には戻らないからそこのところよろしく。そうそう、もう……今日だね、今日は学校サボるつもりだから」

 

要するにハイジャックの準備を進めるのか。どうぞご勝手に。

 

「バイバイキーン」

 

それだけ言い残し、金髪ぶりっ子はこの暗い廃ビルの屋上から去った。

喧しいのがいなくなり、再び静寂の空間に戻る。

 

 

 

空気が冷えるなか考える。『本当にこれで正しいのか?』と。

 

世間一般、倫理的に、武偵として見れば、俺の行動は批判される物に相当するだろう。なぜならば、目の前に犯罪者がいて、そいつを見逃すどころか、武偵殺しの共犯紛いなことをしたのだから。

武偵高の先生たちには殴られ、蹴られ、撃たれ、斬られ、刺され、拷問され、轢かれ、最後には牢屋にぶち込まれるほどのことを、俺はした。

 

――――だけど、この状況を選択したことに関しては、不思議と『後悔』という2文字の感情は涌き出てこない。

 

本当に、不思議だ。

 

「はぁ…………疲れた。やっぱり働きたくないな。専業主夫になりたい。でも武偵として働かないと………。あ、これダメだわ。社畜脳に染まってきてるなぁ俺も。まあいいや。帰って寝るか」

 

小さくぼやきながら、レキにこの事は内密にするようにメールで伝え、廃ビルから降りることにした。

 

この一夜にも満たない出来事は、俺と理子と……あと、レキの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――こうして、俺と理子との静かな戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

  

 

 

 

 

武偵高1- Aの教室で。

 

午前の授業が終わり、お昼の時間となった。

 

クラスの一員である間宮あかりは友達である佐々木志乃と火野ライカと弁当を取り出し、一緒に食べようとしていた。

 

ちなみに、志乃は昨日の夾竹桃との戦闘で怪我を負い、各所に包帯を巻いている。

普通なら数日は療養しないといけない怪我だ。それでも、あかりから片時も離れたくないということから無理矢理学校に来た。

 

 

 

*夾竹桃とあかりたちの戦闘が知りたい方は、小説やアニメへGO!

 

 

 

そこであかりは後ろの方で唸っている声に気づく。

 

「うん?どうしたのー?いろはちゃーん」

 

彼女の名前は一色いろは。……容姿は言わずもがな。

中等部から在籍しており、1、2年でCVR、所謂ハニートラップを学び、3年で尋問科にも在籍していた。この高等部からはあかり達と同じ強襲科だ。

 

「あ、あかりちゃん。それがねー蘭豹先生に、お前は色んな所におって、けっこう中途半端やからここらでアミカでも作れ………って言われたんだよー。誰かおすすめの先輩いる?」

 

「へー。ちなみに、どっちがいいんだ?男子か?女子か?」

 

話に割って入ってきたのは、ライカだ。

 

「んー。別にこだわりないんだけど…………」

 

「あ、ライカ。だったら、あの人は?比企谷先輩」

 

「ん?あぁ。あの人か………。確か去年もアミカが中等部にいたって聞いたし、強いし、いいんじゃないか?」

 

「あかりさん。誰ですの?比企谷さんとは」

 

初めてのその名前を聞く志乃があかりに尋ねる。 

 

「確かに志乃ちゃんあの時探偵科に行ってたから知らないよねー。えーっとね、見た目を一言で言ったら、目が腐ってる?先輩かな」

 

「「腐ってる?」」

 

いろはと志乃の声が被る。

 

「アハハ。まぁ、そうだけどよ………」

 

苦笑するライカ。

 

「あのライカがそう言うってことはそんなに強いの?」

 

「そうだよ。私とライカと模擬戦をしたんだけどね。ほとんど私達を攻撃せずに勝ったんだよ」

 

いろはの問いにはあかりが答える。

 

「それはスゴいですね………。ところであかりさん。その比企谷さんって男性ですか?」

 

「うん」

 

八幡が男という情報にホッとため息をつく志乃。

あかりはこう……女子に好かれやすい子だからか、別にあかりの先輩が男子でもそうは不思議ではないから大丈夫。と、考えている。

 

「午後から実習始まるし、一緒に行ってみよーぜ。何だかんだ話聞いてくれるかもよ」

 

「そうだよいろはちゃん。私も行くからさ」

 

「あ、あかりさん。私もいいですか?」

 

「もちろんだよ志乃ちゃん」

 

ライカの提案にここにいるメンバーが乗る。

 

「よ、よろしくね~」

 

いろはは今まで実習に参加した時にそんな人がいたのかどうか思考を巡らせるが、特に思い当たらない。

 

 

 

 

いろはも交じり、みんなでお昼ご飯を食べながら談笑していると、

 

「ところでさ、あかりと一色って声似てるよなー」

 

不意にそんなことを呟くライカ。

 

「言われてみたらそうですよね」

 

志乃も同意する。そこで何か思い付いたようにいろはは、

 

「そりゃだって中の人が!むごっ、ふぉっと!ふぁふぁりふぁん!」

 

いろはがメタ発言しようとした寸でのところであかりがいろはの口を抑える。

 

「………それ以上は、ね?」

 

その時のあかりの笑顔は中々怖かったらしい。

 

他には、

 

「ライカお姉ーさま!!」

 

「き、麒麟!ちょ、待てって!ぐへっ」

 

ライカのアミカの麒麟がライカに体当たりをかましてきたりと、この1年生の昼は楽しく、うるさく過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「うーん…………」

 

「どうしたの?八幡」

 

「いや、それがな………って、そもそもなんでここにいるの?ルミルミ」

 

「ルミルミ言うなー」

 

 

 

午後の実習が始まり、射撃場でファイブセブンを左手で撃つ練習をした。

 

距離15m、半径15cmの円の的を撃ったが、命中率が半分を余裕で切った。

これが右手なら9割は越せるんだが……………。

 

今まで利き手以外では練習してこなかったからな。これから徐々に練習しよう。

 

 

射撃の練習も終わり、ファイブセブンを材木座に預けて体育館に行こうかとしたら、いつの間にかこの度中等部3年になった俺の元アミカの鶴見留美がいた。

 

誰かいるのかは超能力で嫌でも分かっていたけど、こいつとは思わなかった。個別の認識はしにくいな、これは。身長で判断するしかないか。

 

「で、結局どうしたの?」  

 

「そうだなー」

 

どう言おうか迷っていると………、 

――――これは、後ろに誰かいるな………。

 

と、気配を感じる。振り向きそこにいたのは、

 

「や、比企谷君」

 

後ろから爽やかイケメンこと不知火が肩を叩いてきた。

 

「よぉ」

 

「で、この子は、比企谷君の元アミカの鶴見留美ちゃんでいいのかな?」

 

「誰?」

 

ぶっきらぼうに不知火を見上げ尋ねる留美。

 

「アホ。俺ならまだしも先輩には面倒でも敬語使っとけ。怒られんのはお前だぞ。あと俺も」

 

頭を軽く殴って説教する。

 

「はーい」

 

「僕は不知火亮。よろしくね」

 

「鶴見留美。よろしくお願いしまーす」

 

留美は後半スゴい棒読みで自己紹介をした。

 

「それでさっき比企谷君唸ってたけど、どうかしたの?」

 

「いや………」

 

理子のこととファイブセブンの命中率のことを考えていたけど、それをこの場で話すのは可笑しいよな。

そもそ理子のことは秘密のことだし。わざわざ俺の命中率とか不利になる情報も渡したくない。

 

だったら少し誤魔化すか。

 

「なぁ、不知火にルミルミ」

 

「何?」

 

「だからルミルミ言うなー」

 

「へいへい。それでさ、俺ってどんな風に見える?」

 

「腐ってる」

 

「おいこら。そういう意味じゃねーよ」

 

速答しやがって。

 

なんだよ、腐ってるって目だけではないってことは、俺は常にゾンビなのか?腐ってるって物理的に?

………いや、例えだよな?そうだよな? 

 

せめてグールにしろ、カッコ良さそうだから。作者グールの知識ゼロだけど。

 

不知火も何とも言えない微妙な表情しているし………。本当に留美は生意気だな。そこが留美らしいんだが。

 

「じゃあ、どんな意味なの?」

 

「そうだな……。今の俺って強そう?弱そう?どんな感じに映っている?あ、戦力的な意味で」

 

改めて問うと、不知火も留美も少し考え込んで、

 

「そうだね、パット見だとあまり分からないよね。弱そうにも見えるし……。だからこそ、少し不気味にも思える」

 

「私と一緒に戦った時は、少し不気味だなぁって思ったけど、今は色々弱そうに見える」

 

そこで不知火は思い出したように、

 

「あ、そういえば。あの時の比企谷君は物凄く怖かったね」

 

「あの時?」

 

「ほら、1年の夏休み始まる前のアレ、だよ」

 

ケラケラ笑いながら不知火は言うが…………、あまり思い出したくないな、恥ずかしいから。もう、完全に黒歴史ですね。

 

「あー、アレか」

 

小町が撃たれたと思ってぶちギレた時。あんまりその時のこと覚えてないんだよな。完全、完璧、パーフェクトに理性外れたしな。あんな経験そうはない。

 

「あの時は比企谷君かなり怖かったよ。恐怖で動けない経験は初めてだったからね」

 

「へぇー。八幡そんなことあったんだ」

 

珍しく留美が感心の声を上げる。

 

「まあな」

 

「それで、比企谷君は校長先生に色々教わったんだっけ?」

 

「ああ」

 

「………あれ?ねぇ八幡。校長ってどんな人だっけ?全然印象にない」

 

留美はうーん、と頭を抱え悩んでいるが、

 

「それが普通の反応だ」

 

あの人は身長、体重、声、顔、全てにおいて平均的でマトモに認識することが難しい。

何度か会ってる俺でも声を掛けられないと分からない。

 

「僕もどんな顔とか覚えてないよ」

 

おお、不知火でさえ覚えてないのか。

 

東京武偵高校、ひいてはあのシャーロックにも勝てそうだ。いや、あいつなら推理で動きが読めそうだな。……が、奇襲に関しては恐らく最強ではないか。あの学園島を傾けたことのある蘭豹ですら恐れるほどだ。……………なんでこの人が教師をやってるのか不思議に感じる今日この頃。

 

「俺が教わったのは殺気の出し方と抑え方だ。ここ最近あまりつかってないけどな。つーか使う機会がない」

 

何だかこの話を続けるのは怖い気がするので、無理矢理俺は話を戻す。

 

「じゃあ、比企谷君はもう使いこなせるの?その、殺気ってやつを」

 

珍しく不知火が興味ありげに聞いてくる。いつもならナアナアで済ますのに…………。

 

ここは安易に情報を握らせるべきではないか?

 

「ある程度なら、な」

 

俺は完璧には教えないことにする。

 

俺の出せる殺気を10段階に分けるなら、理性を保てるのは、最大で7か8ぐらいだ。それ以上出すと、徐々に理性を失いそうになる。独りでいるときに何度か試した。

だけど、並の相手なら4割程度でならほんの一瞬だけ圧せる。留美と解決した立て籠り事件もそのくらいだったからな。

 

 

 

 

そうこうしている内に強襲科の体育館に着いた。不知火と留美と俺か。今さらだが、珍しいメンバーだな。

 

――――さーて、今日は何をするかな。留美にでも稽古をつけるか。いやだったら、独りでシャドーでもするか?

 

と、考えていると、目の前から、

 

 

 

「すいませーん。比企谷先輩」

 

「この人が……あかりさんとは…………大丈夫そうですね」

 

「先輩。ご無沙汰でーす」

 

「ひっ!お姉さま。あの人!顔が!顔が怖いです」

 

「…………へぇ。これが比企谷先輩、か」

 

……………何だか間宮と火野の他にわらわらやってきた。あとさらっと貶されたのは気のせいか?いや、気のせいじゃないな。絶対貶された。あとで殴る。

 

「あ、麒麟ちゃん」

 

留美がポツリと呟く。

どうやらその内の1人、俺を貶した金髪の小さい方とは留美と知り合いっぽいな。

 

こいつを殴ったりでもしたら……警察に捕まりそうだが。

 

「あ、留美ちゃーん。はーいですの~」

 

………あ、思い出した。あいつって確か理子と一緒にいた奴だ。

留美とアミカ契約の話を進めた時に理子と遭遇した。車輌科の島莓と似ている奴。島莓の妹か?

 

「留美、知り合いか?」

 

「うん。中3からのルームメイト」 

 

そうなのか。…………留美と合わなさそうだけど大丈夫なのか?でもまぁ、留美の言葉は特に普通だし苦手意識はないのだろう。

 

 

 

それより、こんな人数がこの俺に用だと?…………えっ、マジで?

 

――――これまた面倒なことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――オマケ――――

 

 

 

時刻は夜の7時。

 

俺はレキの部屋にいた。

 

「いやホントお願いします!」

 

レキの部屋の玄関にて絶賛土下座タイム突入であります。

 

俺の目の前で、武偵高の制服のレキが見下ろしてくる。………ドラグノフを肩にぶら下げて。いつもの無表情だけどプレッシャーが半端ない。

 

…………あとスカートの中を覗かないようにしていますよ?その角度で立たないでほしいですレキさん。色々見えちゃいそうだから。

 

 

 

なぜこうなっているのかと言うと…………。

理子の部屋に入って何か武偵殺しに繋がりそうな物を入手してほしいと頼んでいる真っ最中だからだ。

 

「ほら、レキ。もう理子の部屋の鍵は用意したから」

 

さっきかは頼んでるのにいっこうに反応してくれない。と、思ったら、

 

「なぜですか?経緯を聞かせてください」

 

そういや、いきなり頼んでろくに説明してなかったな。

 

「…………………俺の師匠のセーラ。知ってるだろ?」

 

「はい」

 

「そいつから理子が武偵殺しって聞いたんだけどさ、いかんせん証拠がない」 

 

「はい」

 

「それで、確かめるために俺が理子を呼び出すからレキに理子の部屋で武偵殺しに繋がる物があるかどうか探索してほしいなー、って」

 

「事情は理解しました。それで八幡さんは理子さんをどうするのですか?」

 

「それは…………決めてない」

 

沈黙が数秒続き、

 

「分かりました。そこは八幡さんに任せますが、質問があります」

 

「何だ?」

 

「これを頼みではなく、武偵同士の依頼ということにしてください」

 

…………レキに依頼する。つまりはSランクに依頼する。ってことは報酬が高くつきそうだな。色々と準備したせいで財布が今は悲しいことになってるんですけどそれは。

 

「そんなに金ないぞ。だから、出世払いでお願いします」

 

再度地面に頭を付ける。が、レキの口から発せられる言葉は、

 

「報酬はお金ではありません」

 

俺の予想とは大分違い、驚き顔を上げる。

 

「えっ。じゃあ……」

 

俺が何を言おうか迷っていると、正座している俺にレキは目線を合わせるように屈み(互いの距離は10cm)、

 

「では、私のお願いを3つ聞くのはどうしでしょう?」

 

俺の目を真っ直ぐ見つめて、そう言い切った。

 

それなら……まぁイケる。金はあまりかかりそうにない。だけど、

 

「俺の叶えられる範囲でな」

 

「はい、分かりました。考えておきます」

 

 

 

 

 

 

立ち上がったレキは、一瞬笑っていたように見えたが…………、直ぐにどことなく真剣見を帯びた表情になる。

 

いつもの無表情とは違う、俺の今まで見たことのない表情。

 

――――一体全体何を頼むつもりですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本編とAAとの時系列が可笑しいかも知れませんが、まぁ、そこは目を瞑ってくださいな

追記
留美の学年を変更しました。
2017 7/5一部修正しました。

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