『………醜い』
「おいコラ、いきなり人をディスって………お前誰だよ?」
『………醜い』
「ドラクエの村人かよ。何が醜いんだよ」
『あなたの持つ感情は……とても醜い』
「……あーうん、なるほどね。いや、俺はまだマシだと思うな。世の中もっと醜い奴なんてそこら中にいるぞ」
『ですが、今、あの化け物の方が遥かに醜い』
「ちょっと会話してくれない? 微妙にすれ違っているんだけど。化け物というと、ブラド、いやパトラか? ……って、あ、お前もしかして………」
『醜い感情は嫌いです。私は無を好む』
「…………あぁ、そうらしいな。今までそう聞いてきた」
『あそこに瑠瑠がいる』
「話聞いてる? 前後が全く繋がってないぞ」
『なので――――――――』
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―――
理子はキンジとアリアと八幡と協力して、1度ブラドを倒した。
そこから、アリアは理子を捕まえようとしたが、制服を改造したパラグライダーを用いてアリアから逃走することに成功した。
その後、人のいない場所に着陸して、横浜駅前にこっそり移動した。
そこで八幡を待つつもりだった。すぐに来るものだと思っていた。しかし、一向に来ず、連絡しても反応が音沙汰ない。
その前、キンジにはメールで返していたのに………。と、理子は不安に感じた。
嫌な予感がした。
理子は、八幡の何でも面倒と思う性格からすぐに帰ってくるかと考えた。いや、別の手段でこっちに来たからわざわざ駅を利用しないかもしれない。……実際そうなのだが。
八幡のもう1つの性格を考えると、当たって欲しくない考えが頭をよぎった。
以前、八幡をイ・ウーに拐うにあたって身辺調査をしたことがある。その時、理子の知らない八幡を知った。
どうやら八幡は、自己犠牲を自己犠牲と思わずに何かを実行したことがあったらしい。その時の方法は周りのヘイトを自身に集めるとのこと。
「もしかしたら…………」
理子は焦った。
――――八幡はブラド関連の何かに巻き込まれて独りで戦っているのではないか……?
と。
「ヤバい………」
走った。ひたすら走った。間に合うか分からない。手遅れかもしれない。それでも、走った。
そして、今――――
「八幡!!!」
理子はパトラが操っているのか、ただ暴れているだけなのかは分からないが、パトラが施した呪いによって復活したブラドが八幡を空高く突き飛ばした。
理子が到着した時には既にダメージはかなり蓄積されていた。もう限界に達したのだろう。八幡は受け身を取ろうとするが、そこで意識を失い、その場で倒れた。
「クッソ…………。私だって手持ちの武器少ないんだよ」
今、理子が手に持っているのは八幡のファイブセブン。材木座から借りているベレッタもあるにはあるが弾がない。ファイブセブンの残弾は10発。
随分と心許ない装備だ。
そして、ブラドはゆっくり、ゆっくりと理子の方を向く。もう八幡には用なんてないかのように………。
「………ッ!」
ブラドが何も考えなしのように一直線に突っ込んでくる。紙一重で理子は転がりながら回避する。
それからブラドが距離を詰めれば理子が離れる。それを繰り返し、八幡をどうするか考える。
八幡とはかなり離れており、理子は現状生きてるかどうかも分からない。
「アリアたちがいれば…………」
もうキンジとアリアは電車を使い、とっくに東京に戻っている最中。
それを八幡を待っている間に理子は見送った。もし今から連絡ができたとしても、さすがにその頃には手遅れだろう。
単純な直線上の動きのお陰で避けるのは、今のところ何とかなっている。
が、向こうは理子とは違い、疲労なんか感じさせない、とても速い動きを繰り返している。
「ハァ………ハァ…………」
そんな状況下だと、徐々に体力が無くなり始めるのは、当然理子だ。
神経を張り巡らせ、常に向こうの動きを見て感じて、先読みをする。それらを行い、攻撃を避ける。
ただ、それだけのことを繰り返すのがこうも大変とは思いもしなかった。
「八幡は普段、私たちにこれをしているのか…………」
アリアと飛行機で撃ち合った時は動きは読まずに、ただただスピードで勝ろうと撃っていたし、不意討ちの超能力もあった。しかし、今は状況が違う。
これが自分より弱い相手ならある程度は楽だろうが、今は自分よりスピードもパワーも断然上だ。一手、間違えれば取り返しの付かないことになる。
その緊張感をずっと保っていると、気がおかしくなりそうだ。
速く撤退したいのに、ブラドの攻撃を避けていると、余計に八幡からは遠ざかる。
何回か撃ってみるが、この状態でも無限回復は持っているのか、傷はすぐに塞いだ。
無限回復はあるのに、ブラドの意識は別の所にあるのか………。そう理子は不思議に思っていた。
またブラドから距離を取った瞬間、ブラドは大きく息を吸い、胸を反らし始める。
「あぁ…………ヤバい!」
この動作はキンジのヒステリア・モードを解くほどの威力を持つ咆哮だと理子は瞬時に悟る。
――――――――ア゛アア゛アアアア゛アァアァァァア゛アアァァ!!!!!!!!
その声は先ほど、キンジたちや八幡にしたのとは思えないほど、まるで機械みたいな、とてつもない甲高い咆哮が辺りに響きわたる。
そして、それは先ほどの咆哮とは比べ物にならない威力。
「うっ……!」
必死に耳を抑え、歯を喰いしばり、目を閉じ、ギリギリの状態で耐える。
しばらくして、その攻撃は終わった。
理子は何をされるか分からないから、すぐにその場から離れようとした。が、目眩を起こし、聴力は正常に戻っておらず、おまけに足に力が入らない。
今の状態では逃げることすらできない。頭の中では『動け!』と命令している。そうしたいのに、体が全く追い付いてこない。
それから30秒経ち、その時間で理子はある程度動けるようになっている。しかし、その間は動けなかったのにブラドから追撃は全く来なかった。
「何でだ?」
不思議に思い、視線の先を注視すると、そこには――――蒼い炎に包まれているブラドがいた。
「…………………は?」
自分の目を疑う。
理子が真に驚いたのは、燃えているブラドなんかではない。その奥にあるはずのない光景が映し出されているのだ。
さっき倒れていたはずの八幡が………立っている。
しかも、さっきまで全身傷だらけで、血まみれだったのに、そんな様子は見当たらない。
「ど、どういうことだ……?」
そうこうしている間に、蒼い炎をなんとか振り切ったブラドが狙いを八幡に変え、普通の人間なら反応できないような速度で突っ込む。
「危ない!!」
と、理子は叫ぶ。
その突如――――八幡の周りに、1辺が3cmほどの黒い立方体が10個以上出現する。それらは空中を漂うように浮かんでいる。
その立方体が、八幡に向かって突っ込んできたブラドに触れると………その部分だけが抉り取られる。
その部分は覗き穴の働きができるくらいには綺麗に穴が空いている。
ドシャアァァ――――!! と、黒い立方体が抉った部分は足が多く、そのせいでバランスを崩し、ブラドは突進の軌道を変えながら倒れる。
それだけなら、別段不思議ではない。ブラドにはどんな傷でも治せる無限回復があるから。
しかし、
「回復してない?」
回復するはずのブラドの傷は全く回復しない。
それもそのはずだろう。
抉り取った部分は認識できないだけで、黒い立方体の中に存在するから。存在するから、傷は当然治らない。
そんな一瞬の攻防の中、理子は問いかける。
「………お前、誰だ?」
八幡の使える超能力はセーラから教わった風だけのはず。なのに、理子が見たことのない超能力を今、使ってみせた。
理子は考えた。
――――これは本当に八幡なのか……?
しかし、八幡からの返答は来ない。
とりあえず、気付かれないように、巻き込まれないように離れようと理子はゆっくりと移動する。
その間に、バランスを崩しながらも立ち上がったブラドはまたもや八幡に向けて一直線に突進をしてくる。
その時、
『散れ。醜き怪物よ』
――――透き通るような美しく、綺麗な女性の声がした。
瞬間、ブラドの動きが止まった。視線は動かせるようだが、体はピクリとも動かない。
まさに今、八幡に向かって飛びかかろうとした状態で、完全に停止した。空中に浮いている。
そして――――
――――バギバギバギッッ!!
何かが砕け散るような音がする。
………その音の正体はブラドの体や関節があらゆる方向に無理矢理曲げられる音だった。
――――ドスンッ!!
そのような破壊音がしばらく続く。それらが止んだとすぐに、空中にいたブラドは支えを失ったように地面に叩き落とされる。
と、同時にさっきまで立っていた八幡も意識を失い、倒れる。
「ちょ……! 八幡!!」
腰を抜かし、呆然と様子を見てた理子が慌てて八幡に駆け寄る。
――――――――
―――――――
――――――
――――
目が覚める。
まだボーッとしている。そんな意識のなか、五感を集中させる。
目に見えるのは白い天井。匂うのは薬品の特有の匂い。そして、俺に繋がっている輸血パック。それに布団の感触もある。
ここは…………あれだ。
「病院だ」
「あ、八幡。起きた?」
視界の隅に白衣を着ている戸塚がいる。
「よう、戸塚。これどういう状況?」
おぉ、わりかし冷静に返せた。
俺の覚えている最後の記憶は、パトラがどうやらしたブラドに吹っ飛ばされたとこで終わっている。いや、誰かと会話したような…………? しかし、そこからいきなり病室まで飛ぶとは。
「えーっとね、3日前の夜に突然レキさんから出動要請がかかってきて、横浜からヘリでここまで運んできたんだよ」
戸塚は簡潔に説明してくれたが………レキかぁ。あいつどこかで見ていたのか。
ちなみに今は昼頃らしい。
怒っているかな………怖いよぉ………。
というより、あれから3日も経ってるの!?
「そのレキはどこ?」
「授業。最初は看病するって言ってたけど、先生が止めたんだ」
なるほど。それは良かった。
…………って違う違うだろ!
今はそこじゃない。理子のこと聞かないと。俺の意識がなくなったあとどうなったんだよ。無事なのか?
「なぁ、戸塚。………理子はどこにいる?」
「峰さん? 峰さんも学校に行ってるよ」
良かった。無事か……。肩の荷が下りたような気分だ。
「怪我とかは?」
「ちょっとかすり傷はあったけど、安心して。大きな怪我はないから」
えーっと……あれ? それならまた新た疑問が浮かぶ。じゃあ、ブラドはどうなった?
どうにかして追い払ったのか?
…………誰が?
って、ブラドのことを戸塚に聞くわけにもいかないしな。歯がゆい。
「それより、八幡が運ばれたときの容態なんだけど、なんだか不思議だったんだよね」
「不思議?」
「八幡の体の血液が圧倒的に足りない状態だったのに、何故か体には傷が1つもなかったんだよ。何でだろう?」
そう言われて改めて体を見る。……確かにベッドに寝てはいるけど、治療された痕跡はない。
俺、ブラドにボコボコにされたんだかな。
「まぁ、あれだ。よく分からん」
「何それ。変な回答だね」
「自分でもそう思っている」
だって、本当に覚えてないからな。
「それじゃ、僕、先生に報告しに行くから」
「色々ありがと」
「気にしない。これが僕の仕事だからね。……あ、八幡の荷物とかそこに置いてあるから」
お、ファイブセブンやら色々揃っている。ナイフ折れたし、また材木座に頼まないとな。
「にしても、八幡ってネックレスとか付けるんだね。初めて知ったよ。じゃあね。それと、きちんと安静にしておくこと」
忠告を俺にしたあと戸塚は病室から出ていった。可愛いな。戸塚のナース姿とか見てみたい。
ところで、ネックレスって何だ? 俺そんなの持ってたっけな………?
「…………あっ」
そうだ。思い出した!
どのタイミングかはさっぱり分からないが、なんか璃璃色金みたいな奴と話したような記憶があるぞ。会話の内容とか見た目は覚えたないけど。それっぽい感じだった。
でも、それっきりで、そこからどうなったのかは記憶にない。ブラドは生きてるのか、死んでるのかも知らない。
でもまぁ、とりあえず理子は生きてるし、それで良しとしよう。
つーか、俺がこうして生きているから、ブラドは死んでるか、行動不能だとは思うんだがなぁ。
その後、救護科の先生にどこか異常はないか検診を受けた。体の隅々まで検査された。結果は特に異常なしだと。
ブラドと戦っているときに骨とか確実に折れたはずなのに………俺の体どうなってんだ?
昼頃には夕方は終わった。正直、かなり手持ちぶさただ。本はない。スマホの充電は切れている。ゲーム機ももちろんない。
「……………暇だ」
ベッドで横たわりながら呟く。
暇潰しに銃のメンテをちょっとだけしようとしたら、先生に止められるし。
一応は病人だから寝なさいって言われても、3日通して寝てたから全く眠くない。
やることがない。せめてテレビとかあればなー。何ならラジオでも構わない。それか俺に充電器をくれ。
個室だから話し相手もいない。そもそも誰かと相部屋でも上手く話せる自信なんてこれっぽちもないけどな!
金は……やった。嬉しいことに少しあるな。売店で何か雑誌でも買いにいくか。
エレベーターを降りて1階の売店でジャンプ売ってたから買った。これで暇潰しになる。後は遠山にどうにかして連絡して色々持ってきてもらおうかな。
「うーん……」
ベッドに寝転びながら読むのもなんか飽きた。ロビーにあるソファで読もうか。
お、呪術面白いな。
そんな感じでしばらく読んでいると、自動扉の開閉音が聞こえた。誰か入ってきたのかな。
その人物はどうやら俺の傍まで来る。目線を上げる。
そこにいたのは……ヘッドホンを首に引っ提げ、ショートカットで水色の髪をした無表情の少女。
「…………」
「…………」
互いに無言で睨み合う。
話が進まない。これは俺から声をかけるべきなのか。め、めんどくせぇ。お前も何か喋ってくれよ。
「とりあえず移動するか。……レキ」
「はい」
毎度遅れてスミマセン。
基本自分がss書くときってスマホのメモ帳に書いてそれをはっつけていつも投稿しているのですが、4月に機種変をしまして……今のスマホだとめちゃめちゃ書きにくいんですよ。
だから前のスマホを使って書いているのですが、ふだん前のスマホは持ち歩かないので、どうしても書くのが遅れてしまうのです。たぶん、これからも投稿ペースは落ちます。申し訳ないです。できるかぎり頑張ります。
よろしければ感想、高評価よろしくお願いします。