カジノにて
あれからレキと女子寮の前で別れ、部屋の近くまで戻ってきた。
今日は色々あったな。ところで、神崎は遠山と仲直りはできたのか。あの後も相談はけっこうされたし気になるところではある。
まぁ、明日にしよう。とりあえず帰ってシャワーでも浴びたい。
そんなことを考えながら扉を開けると……めっちゃ硝煙の匂いが漂ってる。リビングか。遠山がミスって発砲したのか? いや、アイツに限ってそんなミスはしないしな。
足音を殺してリビングに入る。そこに広がっていた光景は――
「は?」
――――M60マシンガンを手にした星伽さんと物陰に隠れているバニーガール衣装の神崎。床や窓ガラス、テーブルにソファーなどに穴が空いてある、いつもとは変わり果てたリビング。
…………マジすか。予想以上に酷いぞ。泣いていいですか?
神崎は俺に気づいたが、星伽さんはまだ気づいてない。レキから貰った景品を壊さないために星伽さんから離して置く。
瞳孔開いているぞ、星伽さん。どう考えても大和撫子がしていい顔じゃないぞ。その「うふふ…………」って笑い声怖いぞ。さすがヤンデレ。略してさすヤン。
神崎が目で止めてくれと必死で訴えてくるんだけど。ま、止めますか。
「星伽さん」
「えっ……きゃあ! あ、ひ、比企谷さん!?」
気配を消して星伽さんの背後に立ってから声をかけると、スゴい驚かれた。もうこれは慣れた。そして、遠山とは別の家主が現れたからか、まぁ慌てていらっしゃること。
「まず正座」
「…………はい」
それだけで星伽さんはM60をゴトンと足元に置き、素直に正座する。
「何か言うことは?」
「ごめんなさい」
あら、綺麗な土下座。
「はぁ……。こうなった状況は予想できるけどさ。どうせ遠山と神崎がイチャコラしてたんだろうよ。で、それを見た星伽さんがキレたって感じか」
全く、これだからリア充は…………ヤレヤレだ。
「い、イチャコラだなんてしてないわよ!」
「うるさい」
顔を赤くして叫ぶ神崎だが、それなら、何故バニーガールの衣装を着てるの? 何なの? そういうプレイなの? そういうのは俺らがいない場所でしてくれ。気まずい。
帰ったらいるのが巫女装束とバニーガールってなかなかないぞ。
それに神崎、スゴい言いたいんだけど、その胸絶対盛ってるだろ! そうでなきゃ、お前の胸でバニーガールなんて着れないもんな。
……ちょっと落ち着こう。
「別にキレるのはいいよ。そこは好きにしてくれたら。でもさ、キレてM60とか化け物乱射する奴……普通いる?」
「ごめんなさい!」
「これが住んでるのが遠山だけだったら問題な……いやいや、ありまくるわ。でも、一応俺も住んでるわけだし、そこを少しは考えてほしいな」
「……はい」
さすがに悪いと思っているのか素直だな。まぁ、我を見失うなんてことはよくある。俺も昔それで迷惑かけたからな……気持ちは分かる。
「とりあえず壊した家具や壁にガラスは弁償してください」
「……はい」
「次こんなことあったらマジで出禁にするから。あ、当然だが、神崎もだからな!」
「はい」
「わ、分かったわよ」
蘭豹の体罰コースお見舞するぞ。はい、他力本願。
そもそも女子が男子寮入ってるだけでアウトなんですけどそれは……。その規則はかなり緩いけど。あ、それを言ったら、俺もレキの部屋行くことあるし、どっこいどっこいだな。
「それにな、あんまりガツガツいくよりも、適度に距離保ってくれる奴の方が遠山に好かれると思うぞ」
ボソッと呟く。
「「……ッ!!」」
その言葉に2人がとても『それマジ!?』みたいな驚いた表情をする。うーん、HSSがあるから、アイツの好みはどうしてもそうなるんだよな。
「そ、そうなのね。次から気を付けるわ」
自分の行動を思い返したのかそう言う神崎。
「それは初耳です。さっそくキンちゃんに――アイタッ!」
思わず叩く。なんでまた特攻かけようとした。焦りすぎだって。一旦冷静になろう。
「今行ったら、多分逆効果になるぞ」
「そ、そうですね。正妻は正義。泥棒猫なんかには負けない。大丈夫大丈夫」
何その怖い呪文。
「まず、星伽さんは掃除。神崎はさっさと着替える。あと遠山どこ?」
めっちゃ今さらだな。
「自分から海に落ちていったわよ。確かにかなり危険だったからね。あたしも危なかったわ。あ、この空き部屋借りるね」
……え? 自分から落ちたの? その前に頑張って星伽さん止めてよ。全くもー。プリン奢ってもらお。
その後、
「なんかアリアと白雪が最近よそよそしいんだけど、何か知らないか?」
「…………さぁ? 別にいいんじゃね?」
「まぁ、そうだな」
みたいなやり取りがあった。
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――――――
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やってきました夏休み。
学期末にあった武偵ランク考査はそれなりに頑張ったが、結果はBと変わりなかった。今回はAを狙ったが壁は高い。……悔しい。
学科試験で落としたんだよな。前回もそうだった。覚えること多すぎだって。いくらここがバカの武偵高でも、この試験は国家資格だから、まぁ難しいこと。実技はそれなりにできたんがな。
次、頑張ろう。
色金の問題だが、あれから一向に代わり映えしない。衛星からの映像をわざわざ買ってどんな感じかを確認した。
――――あの黒い立方体や蒼い炎とか何が起こったのかさっぱり分かんねー……。
セーラが言うには、超能力はイメージが大切。しかし、あの黒い立方体の仕組みが分からないし、イメージのしようがないな。
俺の体を使ったから、何かきっかけがあれば、俺の意識のまま使える可能性がある。それに、璃璃神ともまた話せるかも。
本題に入ろう。
俺は今、遠山が単位不足なために受けた緊急任務――カジノ警備が今日あり、台場に来ている。
日本でカジノが合法化されてから2年。その第1号のカジノが台場にある『ピラミディオン台場』だ。
「うおっ……」
その名に違わず、巨大なピラミッド型で全面ガラス張りだ。太陽光を反射してめっさ眩しい。金使ってるなー。
このカジノは、数年前に『どこかの国から漂着した巨大なピラミッド型の投棄物』に都知事がインスピレーションを受けてデザインしたとか。ネット情報。
この任務を受けるにあたって、客の気分を害さないために変装してくれとの希望。
女子(神崎、星伽さん、レキ)はウェイトレスやディーラーか裏方に。遠山は青年IT社長の格好。俺はどこかの成金息子の設定……らしい。
この前の神崎のバニーガール姿はカジノ側から送られてきて、試しに着てみたとのこと。そこを星伽さんに見られ……ああなった。大丈夫、ちゃんと直してくれたから。
向こうから送られた服を着てみると、クッソ高そうなスーツ(防弾仕様)。金が贅沢に使われているブレスレット。これまた高そうな靴と男性用の香水。香水とか使う機会ないぞ。
そんな俺にそぐわない格好で自動ドアを潜り抜けると、噴水のあるエントランスホールだ。レーザー光線で噴水は彩られている。エアコンが効いてて気持ちいい。
「おぉ……」
エントランスホールの内装を見て、感嘆の声を漏らす。
初めて来たけど……スゲーな。
なんか水路みたいなプールからバニーガールのウェイトレスが水上バイクで行き来してるよ。えっ、もしかしてここに勤める人水上バイク乗れないとダメなの?
そんな疑問を抱きながらカウンターへと向かう。
そこで予め用意された作り物の札束をカラフルなたくさんのチップに交換してもらった。
今回、怪しまれないためにもこれらを自由に使っていいと言われている。太っ腹すぎて最高だわ。
カジノのルールなんてほとんど知らないけど、その場の雰囲気で楽しむか。いくら貰ったといえど、素人の俺が勝てるとは全く思えない。ちょっとしたゲーム感覚。
にしても……バニーガールが水上バイク乗ってる光景って珍しい。おー、そのまま客に注文をとっている。
辺りを見渡していると、遠山がいた。あ、神崎に軽く叩かれた。……遠山も他の人たちのバニーガール見ていたからか? 別に鼻を伸ばしてたわけじゃないと思うがな。南無三。
さて、適当に見回りながらやってみたいゲームでも探すとするか。
ルールならどれも何となくは分かるけど、配当って言うんだっけ? それが全く分からない。カジノや賭け事なんて触れることのない人生だから仕方ないか。その場のノリに合わせよう。
…………うん? なんか人だかりができてる場所あるな。バニーガールさんが撮影は止めろ的なこと言ってる。トラブルか? これは確かめにいかなきゃ。
近づくとそこにいたのは……半泣きのバニーガールの星伽さんが他のバニーガールさんに救出されていた。
状況は理解した。うん、星伽さんのスタイル+バニーガールの衣装はその……エロいもんね。そりゃ人集まるわ。遠山が向かってるのが見えたし、ここは退散。適材適所。俺が言っても星伽さんは確実に喜ばないのは分かりきってるからな。
「さてと、どうするか……」
神崎はともかく、星伽さんはダウン。遠山は星伽さんのフォローでしばらくかかるか。
単位を落とした遠山の評価のためにも少しは真面目に働くか。俺の報酬もかかってることだし。
つーか、レキは真面目に働いてますかね?
レキを探すついでに俺はカジノの独特な空気を周りを堪能しながら、カジノの2階にある――特等ルーレット・フロアに向かった。
この特等フロアの最低掛け金はなんと100万円。
……狂ってるよね。どこからそんな金がホイホイ出てくるんだよ。めっちゃ知りたいわ。その錬金術俺にも教えてくれ。
で、そんな金持ちしか行けないのがこのフロア。ここは特別なパスがないと賭けに参加できない。見物にも別途料金がかかる。今回、俺はそのパスを借りてるから、係員にお辞儀しながら入る。
そんなフロアだから、まぁ……客はそこまでいないだろうと思っていたが、一角にかなりの人が集まっている。
何か大勝負でもあるのか気になり、動物の剥製やらが複数飾ってある豪華なフロアに近づく。
「…………」
そこには金ボタンのチョッキを来た小柄なディーラーがいた。ていうか、レキだ。
神崎たちはバニーガールだったが、コイツは普通にズボン。レキもそこまで胸ないから見栄を張る神崎とは違……睨まないで。なんでそんなに察知いいんだよ。武偵しか分からないレベルで殺気放たないで。
レキがついているルーレット台にはプレイヤー――どこかの青年が賭けに興じている。
「この僕が1時間も経たない内に3500万も負けるなんてね……」
……………………でしょうね!!
と、力強く叫びたい。
レキから勝とうなんざ何かしらの小細工しないと絶対無理だと思う。
「君は運命を司る女神かもしれないね」
女神? ……うーん、女神か。璃巫女だから女神とは言いにくいな。どちらかと言うと、殺し屋に近い存在だぞ。実際、昔はそうしてたらしいし。つーか、レキを口説くな殴るぞ。
後からここに来ていた遠山に聞いたことだが、この青年はマジもんのIT社長で、しょっちゅうタレントとスキャンダルになる有名人。だから、こんなにも人が集まっているわけだ。そういや、俺もテレビで見たことあったわ。
この青年社長様は残り3500万を黒に賭けると興奮気味に叫ぶ。そんなにあるなら、もっと別のことで活かせよ……。というより、まず冷静になれよ。
「黒ですね。では、この手球が黒に落ちれば配当は2倍です。よろしいですか」
レキは平常運転の無表情。
しかし、いきなり俺の逆鱗に触れる一言をコイツは言い放つ。
「ああ。だが、配当金は要らない。勝ったら――君を貰う」
…………と。
コイツ殺したろか? そう思う前に、俺も俺で――――
「――――あ゛?」
レキを除くこの場にいる全員が怯む勢いで殺気を放っていたと、後ろから様子を見ていた遠山が言っていた。
ビビった青年社長様が、
「何だ、君は!?」
「それは俺の台詞だよ。勝手に俺の女に手ぇ出してんじゃねーぞ」
威嚇をしつつ、レキの前に立つ。レキは青年社長様を避けるように俺の後ろに隠れる。
一連の動作でギャラリーも盛り上がっている。俺が奪い返すような構図がか? それとも社長様を応援してるのか?
「な、なら、僕が勝てば、彼女は貰うぞ!」
「…………何言ってるんだよ」
支離滅裂な発言に呆れて、ここらで俺も冷静になれた。さっきまで感情をコントロールできてなかった。やはりレキみたいに、常時感情を動かさずにいるのはムズいな。
反省だ。校長先生に教わったことを思い出せ。感情は常に一定にコントロールできて、初めて俺の殺気が活きる。
閑話休題。
とはいえ、ここで勝負しないと、目の前のコイツは何しでかすか分かったもんじゃない。暴れられたら困る。一旦、この社長様を落ち着かせるためにも乗ってやるか。
レキに目配せすると、頷きが返ってくる。
「いいぞ。お前が黒なら俺は赤にするからな」
イマイチどのくらい賭ければ分からないので、コイツと同じ35枚にする。ここは対等に。
さらっと俺も同じ枚数を出したことで、ギャラリーはさらに騒がしくなる。借り物でゴメンね。なんか、申し訳ない気持ちが募る。
「思い上がるなよ、ガキが」
目に見えて怒っているな。おぉ、怖い怖い。蘭豹の1/1000くらい怖い。あれは異常。
さて、赤にするのはいいが、賭ける番号は……八幡の8でいいか。適当、適当。
ディーラー――レキが元の立ち位置に戻り、
「これでいいですね。2人目が勝てば配当は36倍です。もう変更はなしですが、よろしいですか」
「ああ!」
「おう」
「……それでは時間です」
遂に、手球が勢いよくルーレットに放り込まれる。一瞬の躊躇いもなかったぞ。
球は機械みたいに綺麗に転がる。
多くの人が行方を見守るなか、球はクルクルと縁を滑り、やがて――――カツンッ、カツンッ、カツカツンッ。と、数字が書いてある仕切り板の上を跳ね始める。
社長様は身を乗り出しながら固唾を飲み込み、緊張している。対する俺は、緊張している……フリをする。
球のスピードもやがて落ちてくる。
カツンッ、カラカラ……カラカラ…………コロンッ。
そのような音をたてて、球は止まった。その場所は――――赤の8番。
うおおおっ!! と、ギャラリーが歓声が大きくなる。その様子とは対照的にレキは淡々と進め、
「はいどうぞ」
チップを全部俺の方に渡す。
これいくらになるの? つーか、あれやな、換金は最初からしないつもりだから貰っても意味ないな。ぶっちゃけ少しは欲しいけどなぁ!
社長様は項垂れている。トランプではあるまいし、どう足掻いてもルーレットでイカサマできないと悟ってるんだろう。
――――ただ、このディーラーが狙ったところに落とせることを除けばの話だがな。
「…………」
「どうしましたか?」
「いや、何でもない」
こんな感じで内心偉そうにしているが、本当に狙えるんだ……。正直半信半疑だったんですけどぉ! お前絶対この職業向いてるぞ。それで俺を養ってくれ、はい冗談です。
「ははは……7000万の負けか。さすがに痛いよ。でも、こんなに金を落としてやったんだ。可憐なディーラーさん。せめて君の名前だけでも教えてくれないか?」
おいコラ、ぶっ飛ばすぞ。世の中何でも金で買えるわけないだ……ろ。
「……?」
――――何か、いる。
センサー――超能力の副作用の俺が勝手に名付けたもの――に違和感がする。
そう察するや否や、まだ喚いてる往生際の悪い社長様を無視して、拳銃を抜きすぐに戦闘体勢に入る。
「お集まりの皆さんも、お帰りください。良くない風が吹き込んでいます」
レキはギャラリーに語りかける。俺の拳銃を見て、ギャラリーは慌ててその場から逃げていく。
その直前に、並べられた動物の剥製の間からギャラリーを掻き分け――ザッ! と、勢いよく、ある獣がその何かに飛びつく。
名はハイマキ。レキの飼っている狼だ。どうやらコイツは元々ブラドの部下だったが、レキが手なずけた。俺も何度か会ったことある。気に入られてるのかは微妙。ちなみに、バイク並に重い。
で、その何かとは…………人間サイズの化け物、かな。
見た目は、全身真っ黒、上半身裸で腰には茶色の短い布を巻いている。頭部は、なんか犬みたいだ。しかも短い斧も装備している。
って、マジか! 今ハイマキは首を噛みついている。突進の勢いでコイツを地面に倒したが、何もなかったかのように、そのまま起き上がった。
その動作はまるで――操り人形みたいだ。
「……ッ!」
それに対し、猛烈な既視感。あの時のブラドと似ている。
ブラドはパトラとか言ってた。もしかして、そのパトラなのか?
アイツはイ・ウーでも屈指の超能力を使うらしい。もしこの首謀者がパトラとして、目的は? どこにいる?
「比企谷!」
そうこう思考を巡らせていたら、遠山もベレッタを構え参戦する。
「よう」
「あれは何だ?」
「俺が知りたい」
ハイマキに当たらないよう、人形の足を撃ってみたが、貫通しただけでダメージを与えれた感じはしない。遠山のベレッタも同様。
この人形は砂でできているのか。撃ったときにそれが分かった。
「……マジか」
そして、面倒なことにその人形がノソノソと10数体現れる。
「レキ、弾はどのくらいある?」
ドラグノフを組み立てているレキに話す。
「10発です」
「なるべく温存して」
「了解」
指示を受け、レキはドラグノフを銃剣する。
星伽さんに教えてもらったことだが、こういうのはどこか近くで操っている奴がいる。ソイツを仕留めるためにもレキの狙撃が必要。
さーて、どうやって倒す?
これは……広範囲に渡って攻撃は有効か? それだと、俺のファイブセブンは相性悪い。この前の神経断裂弾はもうない。さすがにナイフも厳しいな。短いし。
あれ使ってみるか。実戦は初めてだが。
「遠山といると、よく事件に巻き込まれる気がする」
「そういう文句はアリアに言ってくれ」
「善処する」
「確約しろ」
「あんたら、聞こえてるわよ!!」
「キンちゃん、お待たせしました」
神崎はガバを乱射し、星伽さんは刀を携えやって来た。
全員揃ってきたところで――
「戦闘開始だ」
更新ペースが上がるかどうかは別として、感想の数とやる気は比例する。だから、感想欲しいな(強欲)
感想したことない人もどうぞお気楽に。ただ、的外れな批判はご遠慮願います。
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