「よう。ほら、手土産」
神崎の部屋に着いた俺は神崎の好物らしい桃まんを3個渡す。普通のあんまんとはどう違うのだろうか。イマイチ分からない。
「あら、気が利くわね」
「無理言ったのは俺だしな」
高価なソファーに座り、神崎が淹れてくれた紅茶を飲む。……おぉ、あまり紅茶を飲まない俺でも分かるくらい美味い。さすが貴族様。
というより、桃まんに紅茶ってどうよ? 俺のチョイスミスったかなー。無難にクッキーとかで良かったか。まぁ、喜んでるし、大丈夫だよな。
「ま、それもそうね。で、何を聞かせてくれるの? 色々知ってるみたいだけれど」
「多分だが、このまま知らないっていうのも不味い気がしてな。緋緋色金のことの性質を教えに来たわけだ」
「八幡……いくらイ・ウーにいたとはいえ、なんでそこまで知っているのよ?」
「いやまぁ、シャーロックが緋緋色金の研究データを直接見せてくれたからだよ」
スゴい今さらだがそんなポンポンと一般人に見せていい内容ではないだろ、あれ。マジで何考えてんだよ。
「そ、そうなんだ……」
なんか若干引かれてるような気がする。解せぬ。
「でだ、シャーロックの奴がどこまで教えたのか知らないが……なぁ神崎、お前遠山のこと好きだろ?」
俺が脈絡もなくそう言った瞬間――
「わっきゃあ!!」
顔を赤く染め、変な奇声を発し……そのままガバメントを2丁取り出す。って、おい!
「待て待て!」
慌てて手首を取り抑える。ふぅ……危ないな。てか、こっわ! 神崎の沸点分かりにくい。こりゃ遠山も苦労するわ。
「い、いきなり何言い出すのよ! あ、アタシがキンジのことを!? バカなこと言ってんじゃないわよ!!」
「はいはい、ツンデレ乙」
ここまで完璧なツンデレの反応が見れるとは。つか、ツンデレって今日日聞かねぇな。最近のヒロインの流行りの性格って何だろ。うーん……ヤンデレ? あ、これは作者の好みか。最近そこまでアニメ見てないしな。基本的に原作買ってるやつがアニメになったら見るけど、あまりそれ以外のアニメは見ないな。1クールに2、3本くらい。
そうこうしていると、神崎は咳払いをしながら尋ねる。
「仮に、仮によ!? アタシがキンジをす、好きで何があるのよ!?」
まだ動揺している。多分だが、俺も似たような状況に陥ると多少なりと同じ反応になりそうだから致し方なしか。
そして、俺は神崎の質問に答える。
「何があるっつーと、これは最悪の可能性だが――その遠山が死ぬ。他にも大勢の人が死ぬ。もしかしたら俺も」
俺はそう告げた。
「…………は? 何それ」
いきなりの言葉に絶句する神崎を嗜めるように話を続ける。
「あまり勘違いするなよ。さっきも言ったがあくまでこれは最悪の場合だ。そうならない可能性の方がずっと高い」
殻金がきちんと起動すれば自由に緋緋神の力が使えるらしいしな。確か緋弾が埋め込まれてから……時期的にはもうすぐか。
「まだよく分からないのだれけど、詳しく説明してくれるかしら?」
神崎は少し落ち着いている。
「まず色金には意思があるのは知ってるか?」
「それは……何となく。体が乗っ取られたこともあったから」
そういやそうらしい。俺はその辺りは知らないんだよな。
「で、意思があるってことは性格も様々なわけだ。お前の色金――緋緋色金は戦いと恋、この2つの感情特にを好んでいる」
「戦いと恋…………」
「緋緋色金はそれを欲する。お前がそれらを自覚すればするほど、余計にその欲望は高まる。その為にお前の意識を完全に奪いに来るかもしれない」
「もし完全に乗っ取られたらどうなるの?」
「……昔は戦争レベルで暴れまわったらしいが、今と昔では環境が違うからな。どうなるかまでは正直分からん。ただ、色金の力はかなり強いからかなり甚大な被害は出るかもな」
レーザービームとかいきなり撃たれたら何もできずに死ぬだろう。他にも、俺が乗っ取られた時に璃璃神が使ったあの黒い立方体やブラドをメキメキと潰した力もある。……そんな物を俺と神崎は持ってるわけだ。特に神崎は俺みたいに取り外しはできない。
「だから、キンジも八幡も死ぬかもってことね」
色金の力の一反を垣間見た神崎はそう納得する。
「それで、そうならないためにアタシはどうすればいいの? ……何もせずに引きこもれって?」
「まさか。いくら俺でもそこまで言うつもりはない」
ぶっちゃけそれが一番現実味があるわけだが。そんなことを強要できるはずがない。
「つっても、お前ならここまで言えばもう分かるだろ」
「…………まぁね」
――――つまり、遠山キンジとの接触を避ける。それだけのこと。
「でも、ちょっと待って。それはこ、恋の話よね。もう1つの戦いの感情に関してはどうなのよ?」
「あれはお前が人を殺すような戦闘にならないかぎり問題ない」
「なるほどね。確かにそっちは大丈夫そう。……あれ? アンタさっきそうならない可能性の方が高いって言ってたわよね。どういう意味?」
「お前の緋緋色金――緋弾は特殊な細工がしてあるらしい。それが色金の力を自由に使える役割を担っているとか」
「……なんかスゴいわね」
「だよな。まぁ、そういうのがあるからそんなに悲観的にはならなくていいと思う」
そもそもの話、神崎の心臓近くにある殻金を奪えるわけないんだからな。
「ただまぁ、頭の片隅にそうなる可能性があるって認識をしとけばいい」
「分かったわ。ところで、よくもまぁ、そんなに知ってるわね」
「シャーロックの研究データにもそれなりに書いてあったからな、それに。それと金一さんにも教わった」
「へぇ。……そういえば、話は変わるけれど、八幡も色金持ってるらしいわね」
唐突だな。まぁ、不思議なことでもないか。なんか不名誉なアダ名つけられてるから知る機会はあるだろう。
「……まぁな」
「別にそれについてどうこう言うってわけではないわ。ただ……そうね、八幡の持ってる色金はアタシと同じ種類なの?」
「いや、違う。色金は3種類確認されてる。お前の持つのは緋緋色金。俺のは璃璃色金だ」
「ふぅん。その2つはどこか違いがあるのかしら?」
「性格が大分違うな。これはイメージたが、緋緋色金はかなり陽気な感じ。璃璃色金はなんつーか……1年くらい前のレキみたいな感じだな」
多分間違いはないはず。
「何となく理解したわ。他に……色金の力についての違いはあるの?」
「それはよく分からん」
緋緋色金もレーザービームとか使えるのかは俺は知らない。
「てか、いきなりどうした?」
「ちょっとした興味よ。なんで八幡がそこまで協力してくれるのかって疑問に思っただけ。八幡とアタシが持ってる色金が同じ種類なら情報がほしいのかなって」
「…………」
何気なしに吐いたその言葉に俺はパトラと戦ったときの記憶が蘇る。
――――あの子たちを守って…………。
あの時、璃璃神はそう言った。それから何度か俺は考えた。璃璃神の指すあの子たちは誰なのだろうか。
基本的に無感情の璃璃神だが、あの言葉だけはどこか優しげな口調だった。あれは……まるで親しい存在、それこそ家族に向けられた言葉のように思う。緋緋神と璃璃神の関係は知らないが、これは俺の想像だがきっと家族なのだろう。
それに俺は過去に2回も璃璃神に命を助けられた。返しきれない恩がある。だから、俺は璃璃神の頼みを叶えなければならない。それが璃璃神の家族ならば尚更だ。
「別に俺のためだから気にすんな」
これは俺自身のためにやってること。きっかけはレキがしたいことだったから手伝おうと思った。そして、時間が経つにつれ、ただそれだけではなくなった。
「ふーん。だったら、また何かあったら相談させてもらうわ」
「ま、内容によるがな」
俺はできるだけ朗らかな口調でそう答えた。
その後、2学期にある修学旅行やチーム編成について軽く世間話してから神崎の部屋を後にした。
女子寮から離れたところでレキに連絡する。
『もしもし、八幡さん』
いつもと同じ声が聞こえる。
「レキ、さっき神崎と話してきたが――――」
ざっと、さっきの会話の内容を伝える。
『分かりました。わざわざありがとうございます。ところで、このことをキンジさんには伝えますか?』
「んー……遠山はイ・ウーや色金のことをあまり知りたがってないからな。特に伝えなくてもいい気はするが…………」
それでも、遠山キンジがイ・ウーを破壊した当事者という事実は消えない。これはいつかきっと遠山にも降りかかってくる問題だ。その時に話すべきか、今のうちに情報を共有しておくべきか。どれが最善だろうか。
『最終的にその判断は八幡さんに任せます』
「……了解。ちなみに、レキならどうする? 参考がてら聞かせてくれ」
『私なら……そうですね、キンジさんに説明せずに戦いの場から遠ざけます』
「あー、なるほど」
確かに遠山は武偵を辞めると言っている。ならば、それも1つの手段か。
『そういえば八幡さん、体の調子はどうですか?』
「ん? あぁ、前に言ったやつ以外なら特に問題なし」
璃璃神が体に馴染んできているって言われても実感ないのが現実だ。少しずつ変化があるのは確かだが。
『でしたら良いのですが……』
「大丈夫だって」
心配そうなレキの声に対して安心させるように普段と変わりない声で答える。
『本当ですか? 無理していませんか?』
「マジで大丈夫。何かあったらきちんと報告するから」
『……はい。約束ですよ。では私はこれで』
レキはそう言い残し通話は終了した。
ったく、心配性だな。セーラと別れてからまだ1日そこらだぞ。そんなすぐに変化したら苦労しない。それに加えて、俺は神崎と違いストッパーがあるんだから。
「ハァ…………」
だけど、思わずため息が漏れる。
俺が弱いからこうして心配されてるのだろうと、どうしてもそう思ってしまう俺がいる。きっとレキはそんなこと思っていないだろう。ただ純粋に心配してくれてるだけだ。分かってる。それは分かってる。
けど、あぁ……こんな考えをしてしまう、こんな考えしかできない自分が嫌いになりそうだ。
レキと俺とは明確な力の差がある。余程距離を詰めないと俺はレキに勝てないだろう。中途半端な距離で戦ったら俺は確実に負ける。それはレキが昔から戦いの環境に身を置いていたのだから当然のことだ。当たり前のことだが、何せ経験値がまるで違う。
それでも、嫌になる。俺とレキは対等ではないという事実に。そんなに心配しないでほしい。頼りにしてほしい。…………何もない俺だけど。
――――だからこそ、俺も早いこと璃璃色金の力を使いこなさないとならない。もうこれ以上、誰かに……レキに迷惑かけたくないから。
「…………暑いな」
俺のその呟きは誰にも聞かれることなく、夏の青空に消えていった。
そして、翌日。俺は遠山の依頼である掃除を手伝い、後はいつも通り過ごした。途中、神崎も応援に来てたな。遠山とは色金のことを話したばかりだったせいか、また別の要因があるのかは分からないが、どことなくぎこちない様子だった。
こうして、何かと大変だった2年の夏休みは終了した。
最近、無性にオリジナル小説を書きたくなってきた。今まで書いたことないわけだし。投稿するならやっぱりなろうがいいのだろうか。いやまぁ、設定まだ固まってないんだけど