八幡の武偵生活   作:NowHunt

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2年 2学期
水投げの日


 夏休みも明け――しかし、まだまだ陽射しは強く、汗が止まらない暑さが続くなか、2学期が始まった。

 

 普通の学校ならば、やれ体育祭だのやれ文化祭だの……文化祭は1学期になる学校も多い気がするが、やたら様々な行事が目白押しな学期である。途中にやたらバカ騒ぎをするハロウィンや終盤にはカップルがウザったいほど沸くクリスマスも控えている。多分だが、学生が最も好きな期間ではなかろうか。

 

 武偵高も例外ではなく、体育祭だの文化祭だのあるにはある。もうすぐ京都への修学旅行もあるくらいだ。しかし、そこには必ずと言っていいほど硝煙の香りが漂っている。そして誰かが血を流す。

 

 ――――何が言いたいかって? んなもん、決まってる。

 

「学校行きたくねぇ…………」

「グチグチ言ってないでさっさと行くぞ」

 

 始業式の朝。玄関で靴を履いた途端に登校するのが億劫になる。そんな俺の後ろで遠山のめんどくさそうな声がする。

 

 てか、夏休み終わるの早くない? 毎年言ってる気がするけど。

 

 ……まぁ、でも、ずっと休みが続くと、それはそれで怖いがな。多少なりと学校や仕事があるからこそ、こういう休みの期間がありがたいのであって。それがなくなればただのニートだからな。ニートの生産性のなさは勝てる気がしない。

 

 それでも、やっぱり。

 

「小生、学校行きたくないでござる」

「……急に何だそのキャラは」

「いやだってさ、普通の始業式ならともかく、2学期の始業式とかあれあるじゃん。水投げ」

「あるな」

「面倒だろ?」

「面倒だな」

「よし休む」

「いいから行けよ」

「アダッ」

 

 遠山に背中を蹴られドアにぶつかる寸前に開ける。……あぁ、外に出ちゃった。

 

「っていうか、比企谷さ。お前夏休み中も訓練やらで学校行ってただろ。何を今さら」

「……義務的なのと自主的なのではモチベーションがかなり違うんだよな」

「言わんとすることは分かる」

 

 極端な例だが、親や教師から「勉強しろ」と言われるのと、自分から「よしっ、勉強するぞ」というのでは、やはりそれなりのやる気の差があるわけだ。

 

「まぁ、確かに水投げはダルいな」

「マジでそれな。あ、遠山は去年どんな感じだった? まだSの頃だろ」

「中等部の後輩、同級生問わずわんさか来たよ」

「それはそれはお気の毒に」

「そういう比企谷は?」

「俺は元アミカが仕掛けてきただけだな」

「鶴見だっけか」

「そうそう」

 

 さっきから話題に挙がっている水投げとは、武偵高のわけわからん風潮で、2学期の始業式の日は徒手空拳で誰でも問わず仕掛けてもオッケーな日である。しかも、校内だけじゃなくてもオッケー。…………マジで意味不明だよな。

 

「終わったらさっさと帰るに限るな」

「全くだ」

「……そういや、珍しく朝から神崎いないな」

 

 不自然にならないように神崎の話題を出す。アイツ、しょっちゅう外で待ち構えていることが多い。

 

「アリアな。……昨日の掃除で比企谷途中で帰っただろ?」

「おお」 

 

 あれは……うん、なかなかにキツかった。ホイホイ安請け合いするんじゃなかったって思うくらい。

 

「その後にアリアが手伝ってくれたんだ」

「ふーん。多少は楽だったろ」

「まぁな。ただ、なんかアリア俺を避けてる気がしてな。俺が話しかけても8割くらい無視されたし。その割りには掃除きちんとやってくれたから」

「ほぉ……」

 

 ――――避けてる、ってことは、神崎なりに色金について向き合っているということだろう。特に恋愛の感情について。神崎のせいで今目の前にいる遠山を殺す可能性がある……ということに、どう考えているのかは不明だが、神崎なりに距離感を測っているのだろう。

 

 果たして、それがどう転ぶかは……まだ誰にも分からないが。

 

「俺何かしたっけな……」

「心当たりは?」

「特にない」

「なら別にほっとけば? お前に実害あるわけでもないし」

「それもそうか。アリアに殴られるよりマシだ」

 

 神崎も神崎だが、その思考に行き着く遠山も大概だと思うけどな。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、八幡!」

「あ、八幡。おはよー」

「2人ともおはよう。お前ら早いな」

 

 教室に着いたらもう材木座と戸塚がいた。教室はエアコンが効いてて快適だ。外暑いんだよ。

 

「あっつ……」

 

 道中で買ったペットボトルのお茶を1/3くらい飲む。これなら家から持ってきたら良かった。節約にもなったし。午前だけだからと慢心した。

 

「うむ、我は昨日学校で色々作ってたら寝落ちしてしまってな。気付いたら朝だった。コンクリートで寝るとぶっちゃけ体痛い」

「アホか、体壊すぞ。きちんと部屋に戻れ」

「ぐうの音も出ない正論である」

「てか、部屋でできないのか? 道具とかあるんだろ」

「そうなのだが、やはり学校の方が設備が良いのでな」

 

 なるほどね。

 

「僕は、朝の保健室の当番だったからね」

「朝からお疲れなことで」

「ううん。よくあることだから慣れたよ」

 

 はい天使。その微笑む姿はマジで天使。

 

 と、戸塚がそういえば……と口に出し、

 

「今日ってあれだよね、水投げ」

「うむ。そうだな。まぁ、我らにはあまり関係のない話だが」

 

 まだ話題に出たな。

 

「確かにお前ら基本的に戦闘関係ないしな。ただ、誰だろうと関係なしに殴ってくるぞ。一応心構えはしとけ。特に材木座。お前は殴り心地がよさそうな体つきだからな」

「お主……自分でも薄々そうだろうなと思っていたことを」

「…………っていうか、なんで材木座そんなに太ってんだよ。装備科の作業とかけっこうカロリー使うだろ」

「その分のカロリーを摂取しているだけの話だが?」

「威張るな。なに当然のように話してんだ」

「しかし、我から食事を取り上げると生きる楽しみが……」

「うーん……だったら少しずつ控えたらいいんじゃないかな? 体に悪いよ」

「おぉ……救護科らしい発言だ」

「救護科だからね」

 

 と、急に話の流れをぶった切るように――

 

「八幡、聞け!」

「…………何をだ? あ、もしかして健康診断の結果ヤバかったか?」

「違う! いやまぁ、それもそれで問題あるのだが……とにかく聞け」

「おいコラ逃げるな」

「大丈夫だよ、八幡。僕たちで健康診断の悪かった生徒たちの生活を見直すから」

 

 材木座……ドンマイ。

 

「で、何がだ?」

「我の夏休みの予定知っていたか?」

「ん? 学校に引き込もっ…………あぁ、確か外国に行ってたっけ? アメリカのどっかの」

「それである! 短期だがアメリカのロスアラモスへと留学に行っていたのだ」

 

 それそれ。

 

「どんな感じだったの?」

「見るもの全てが最先端でできていて……何もかもが新鮮であった」

「へー……そこでは何を作ってたの? ロスアラモスってアメリカで一番兵器……みたいなの作ってるんだよね?」

「我はビーム・サーベルも目標に取り組んでいたのだが」

「いやいや、そんなの作れるのか? アニメのもんだろ」

 

 いきなりの発言に驚く。そのロスアラモスってヤバい思考の奴らが集まるのか?

 

 あ、俺はユニコーンが大気圏近くでビーム・トンファーでデプリをぶった斬るシーンが好きです。

 

「結論から言うとできなかった。ビームとなると、あれは光だからな。ガンダムみたいに剣の形に留めるには無理があった。鏡を使って射程距離を決める……も考えたが、熱で融けるのでな」

「そもそものビームはどうするんだ?」

「そのくらいどうとでもなるぞ。それで実用レベルで物体が斬れるかどうかともかくとして」

「マジか」

 

 …………こいつ、スゴいな。努力の方向が常人より遥かにズレている。

 

「なんにせよ、留学お疲れ」

「労いの言葉感謝する。……それでだな、向こうで色々と造ったものを八幡に試して欲しいのだ。我は戦闘経験が皆無だからな。実際の使い心地などを知りたい」

「それは別に構わないが……ものによるぞ。さすがに殺傷能力が高いのとかは遠慮したい」

「そういうのもあるにはあるが」

「あるのかよ」

「また暇なときに装備科に寄ってくるがいい」

「おう」

 

 ぶっきらぼうに返すが、コイツが趣味全開で造った武器とかは正直楽しみである。俺と材木座の趣味けっこう共通しているから尚更だ。

 

「……ふと思ったが、八幡。お主はチームはどうするのだ?」

「チーム……そういや2学期の話だったな」

 

 武偵高における『チーム登録』は確か9月下旬ぐらいにある。

 

「そういう材木座は?」

「我は装備科の仲間数人でチームを組んだぞ。卒業までにハロでも造ろうかと話になっている」

「ハロって……あれモビルスーツ造るよりも難しいって言われてるぞ」

 

 随分と大きく出たな。

 

「てか、装備科で平賀さん以外に友だちいたんだな。俺、平賀さんとしか話してるとこしか見たことないんだが」

「お主のタイミング的にはそうなるかもしれんが、さすがに我にも友だちはいるぞ。平賀さんとは別チームだが。次は……戸塚殿のチームはどうなっている?」

「僕も材木座君と似たような感じで、救護科の何人かとチーム組んだよ。医療系のチームだね。主に病院内で活動する予定」

 

 あぁ、なるほど。一口に救護科といっても、現地に行くか拠点に残るかで分かれるのか。

 

「八幡は、やっぱりレキさん?」

「……まだきちんと話したことはないけど、そうなると思う」

 

 むしろ、チーム組めるような人選がレキくらいなもんだ。不知火もまた別で組むと言っていたし。

 

 ただ――

 

「前衛1人と狙撃手1人のチームってバランス的にはどうなんだ……?」

「レキ殿が誤射することはないであろう? 特に問題はないと思うが」

「そうだよね。レキさんって、狙撃科のSランクでしょ? スゴいよね」

 

 全くもってその通りだ。

 

「ということは、八幡のチームは強襲系になるのか?」

「レキさんとなら捜査系も似合いそうだね」

「マジで何も決めてないからな。……どっちかって言うと、やっぱ強襲の方かな」

 

 捜査はぶっちゃけ苦手の部類。

 

「お主はBランクのわりには強い部類に入るからな!」

「余計なお世話だ」

「まぁまぁ。まずは『修学旅行Ⅰ』だよね。今回は京都だっけか?」

「その通り。我は訪れことないからなかなかに楽しみな行事だ!」

 

 武偵高の2年では2回の修学旅行がある。というが、1回目は修学旅行というとは名目的なもんだ。実際はさっき話に挙がったチームの最終調整みたいな役割がある。

 

 で、そのチームは国際武偵連盟にも登録される。通常、武偵はそのチームで活動し、もし仮に進路が別々になろうとも、チームの協力関係は枠組みを超えて最優先していい……とのこと。

 

 つまり、武偵にとって、かなり重要なのだ。

 

 その点、完全に俺のせいだが神崎と遠山はどうなるのか。仲違いってわけじゃないけど、もしかしたらそれに近い状態かもだからな。

 

 ――と、しばらく色々話していると、朝のチャイムが鳴る。

 

「そろそろ体育館に移動しないと」

「だな。行くか」

 

 

 

 

 そして、適当に始業式の話を聞き流した後、講堂前の道路では、C組の女子たちがマーチングバンドを始めていた。

 

 何となくボーッと眺める。

 

 羽根つきの帽子とマーチ衣装で飾り立てられた、バンドの女子たちは。

 

 ――――ひら、ひら。くるくる。

 

 と、バトン代わりのアサルトライフルやライフル、ショットガンを回しつつ、短いプリーツスカートをひらめきながら、通行止めの車道で2列横隊のパレードをしている。

 

 武偵高ではこのように警察署や自衛隊のように音楽やダンスの催しを公開している。まぁ、世間のイメージが悪すぎる武偵を少しでも良くしようと……な。

 

 5月のアドシアードでは神崎や星伽さんがチアをやっていたらしい。俺はその頃ロシアいたから見てないけどな。所詮、焼け石に水だとは思うが。実際、この光景世紀末すぎないか?

 

 歩道には、近隣の住民や一部のマスコミが見物している。中には、望遠レンズなどで撮っている奴もいる。高そうなカメラだ。あ、カメラは基本高いか。

 

 ……まぁ、なんだ。主に男どもに言いたい。見た目は可愛いかもしれないが、本性はヤバい奴らばかりだぞ。こんな顔して、バズーカやマシンガンをブッ放すぞ。時には笑いながら。危険人物ばかりだ。てか、手に持ってる物をしっかり見てくれ。

 

 ――――特に、ドラグノフを器用にクルクルと回す無表情な女。ロボットのアダ名を持つ。またの名をレキ。

 

「…………」

 

 こっち睨むなよ。悪かったから。

 

 うん、あの衣装のレキも可愛いんだけどなぁ。その手に持っているものが物騒すぎるんだよ。

 

 撃たれた経験はかなりあるから、ドラグノフにはそれなりに恐怖はまだある。それ以上に助けてもらったこともあるし、そう一概には言えないけど。……あれ? やっぱり撃たれた回数の方が多くない? 可笑しくない?

 

 まあいい。今日はすぐ帰る予定だから手ぶらで来た。あ、最低限の武器は持っている。校則だからな。どうせ教室には戻らないでいいんだ。材木座たちも用事あるとかなんとかで帰りは別。

 

 水投げなんてゴメンだ。さっさとトンズラするに限る。

 

「…………あ」

 

 そう思っていたのだが、教室に今朝買ったお茶が置きっぱなしだ。まだ2/3は残ってるよな。んー……置いて帰るのももったいない。多分明日になったら暑さで中身やられているかも。もう口付けてるし。

 

「はぁ……仕方ない」

 

 苦渋の決断だ。一旦戻るか。めんどくせぇ。

 

 

 

 教室に戻り、ペットボトルを手に気配を消しながらそそくさと早歩きで校門へと目指す。

 

 校門へと続く道は珍しく人通りが少ない。何人かチラホラ見える程度。みんな水投げに興じているのだろうか。

 

 全く、そうだとしたらよくやるよ。さすがアホの武偵高。全員が脳筋すぎる。って、遠山もいないな。もう帰ってるのか……今日の昼飯当番どっちだっ――――

 

 

 

「――――――――ッ」

 

 

 

 ――――咄嗟にしゃがむ。何かに襲われた。副作用が何かを感じ取った。誰かいた。通りすぎた人ではなく、明確に俺を狙った誰かが。

 

「きひっ! 意外にも勘はいいネ」

 

 目線を上げると、俺の目の前に――――少女がいた。

 

「…………」

 

 黒髪で長髪のツインテール。身長も相まって、神崎の髪色を変えたみたいな少女。服装は武偵高の制服ではなく、どこか中国風の……なんつーか、キョンシーみたいな格好だ。

 

 誰だ、こいつ。見たこともないし、会ったこともない……かも。…………あれ? なんか見覚えある気がするような……?

 

 誰だっけか……。

 

「戦ってみたかったヨ――イレギュラー」

「…………はぁ」

 

 その一言で何となく察した。はいはい、そっち側の人間ですね。

 

「多分人違いです。そういうのいいんで、さよなら」

 

 関わりたくないから適当に反応して校門に向かって歩く。

 

「逃げるナ!」

「……チッ」

 

 が、そうは問屋が下ろさず、背中から跳び蹴りされそうになったから横にステップしつつ避ける。

 

「おい、そこのチビ。人違いだって言ってるだろ」

「人違いじゃないネ。お前、比企谷八幡。予測不能、イレギュラー。そのゾンビみたいな顔でスグ分かる」

 

 いきなりゾンビ面とは失礼だな。武偵になるよりかはマシな顔つきになったと思うのだが。俺だってそれなりの戦い乗り越えてきたわけだし。

 

 にしても、コイツ、やたら足取りフラフラしているな。この臭い……アルコール……酒か? なんか酒瓶ぶらさげてるし。

 

「ブラドを倒し、パトラの攻撃を凌いだ強敵。セーラと同じ風の使い手。色金を所持しているはずネ。なんにセヨ、超能力ナシでも厄介」

 

 ふむ、そう認識されてるとは……嬉しさもあり、とても恥ずかくもある。

 

「そいつはどうも。せめて、そこのチビも名乗ってくれ。名前知らない奴とはどうもやりにくい」

「ココいうネ」

「じゃ改めて、比企谷八幡だ……なんだ、その、帰っていい? チビの相手するの嫌なんだが。腹減ったし。てか、チビが酒飲むな。でっかくなれねぇぞ」

「帰るナ! さっきからチビとは失礼! これでもココ、14歳ヨ!」

 

 と、ココは一通り怒ってから、千鳥足で倒れるようにフラ……っと側転をしてきて――――いきなりワンアクションで飛びかかってきた。 

 

「…………ッ」

 

 後ろに飛び退き、距離を取ろうとするが、何度下がっても、距離を離せない。……酔ってるからか動きが読みにくい。

 

 ――――掴まれたらヤバい気がする。

 

「烈風――!」

 

 ココの真横から強風を起こす。いくら風の情報があっても、そこは人間。強風にはすくには反応できず、ココは軽く転がりながら俺から離れる。

 

 コイツ、攻めたときより、俺から離れたときの方が動き速い気が…………烈風使ったから追い風になったからだよな。……なんだ、この違和感。

 

 こうも真正面襲われていると逃げるという選択肢はかなり難易度が上がる。飛翔で飛んで逃げようと思えばできるかもしれんが、後々面倒になりそうだ。もしかすると部屋に突撃……なんて展開もあるかもしれない。早いうちに厄介な芽は摘まないと。

 

 別に倒さなくていい。ある程度相手すれば、向こうの興味も少しは薄まるだろう。あるいは、手を抜いてわざと負けるか……いや、これはダメだな。多分だが、ココはイ・ウーの面子。最悪死ぬぞ。

 

「まだ続けるか?」

「モチロン。武偵高校、今日は徒手空拳の日ネ。イレギュラーの力、確かめたいヨ」

「俺も用事あるし、そんなには付き合えないぞ」

「構わナイ。どうせ、スグ……殺すヨ」

 

 その一言が合図になり、またワンアクションで距離を詰めてくる。

 

 俺はまた烈風で受け流そうとしたが、寸前で踏み留まる。熟練相手が同じ手にひっかかるとは思えない。やり方を変える必要がある。

 

 なら――――

 

「フッ……!」

「なっ……」

 

 側転していたところ、着地の瞬間を狙い屈みながらココの足を払い、バランスを崩す。

 

 すかさず追撃。ココの驚いたところ、ヤクザキックの要領で腹を狙った蹴りを繰り出す。すると、さっき驚きの表情を見せたココは打って変わってニヤッと笑い――

 

「甘いネ」

 

 正直当たったと思ったが、ココは片足で踏み切り、バク宙して避けた。…………マジかよ。かなりの身体能力じゃないか。神崎並か? こりゃ。

 

「…………」

「――――」

 

 と、なぜかココは俺から距離を取りこちらを睨む。

 

「イレギュラー、やっぱり避けるの上手いネ。本気出しても、攻撃当てるノ大変カモ」

「そりゃどうも」

 

 …………あぁ、なるほど。さっきの違和感の正体が分かった。コイツ、口では殺すとか言うが、実際俺に攻撃する気が薄い。

 

 攻めてはいるけど、すぐに俺の攻撃も避けれる位置にいる。

 

 俺は基本近接戦だったら、カウンター気味の戦法が得意だ。相手の出方を見てから動くのが性に合っている。烈風もカウンター狙いで使っている。

 

 しかし、ココはそれを知っているようだ。やっぱりって言うからには。俺をイレギュラーと呼んだから、恐らくある程度俺の映像を分析でもしたのだろう。

 

 さっきまでは俺がどのくらい動けるかどうかだったのか、確認目的で攻めてきた……と思う。動きは一般人に比べれば速かったが、すぐに退却できるように一歩引いてただろう。……で、確認の結果、自ら動くのは不利と感じたのか。

 

 俺に攻撃するときと避けるときの動きが全く違う。避けるときの方が遥かに速い。

 

 俺だって、ココの攻撃はこれ以上速くなっても多少なら捌ける自信がある。今まで化物相手してきたからな。が、ココの身のこなしではそう簡単には俺の攻撃も当たらない。

 

 とはいえ、俺が痺れを切らして隙を作るわけにはいかない。ココも簡単には俺に攻撃が当たらないと思っているはず……はずだよね。

 

 ぶっちゃけ体躯の違いはあれど、ブラドより動きは遅い。しかし、攻め気が薄いとはいえ、動きは読みにくいのも事実。

 

 ココもこれからどうするのか考えているのだろうか……膠着状態に陥る。

 

 その間に。

 

「ココって、イ・ウーの面子だよな?」

「? そうヨ。もうナイけど」

 

 急に話しかけても律儀に返してくれた。

 

「わざわざ何しにきたんだよ。まさかこうやって武偵と戦うためとか?」

「それは理由の一部に過ぎない。私にも色々用事あるネ」

「…………イ・ウーを破壊した遠山たちを殺るためか?」

「惜しい」

 

 惜しいって……遠山たち危ないな。と、思っていたが、ココは、

 

「もう遠山キンジとは戦ったネ。期待ハズレ。アレじゃ何回も殺せたヨ」

 

 ――――何食わぬ顔で、淡々と事実であろう言葉を述べた。

 

「…………戦ったのか」

 

 ココの言い方から察するに、遠山は死んではない。ただ、コテンパンにやられたってところか。

 

「ホント、期待しすぎた」

 

 心底つまらなさそうに呟く。

 

 まぁ、生きてるんなら別にいいや。ほっとこ。

 

「俺も期待外れって感じか? なら帰っていいよな」

「お前は面白いネ。もっと遊んデ? 今度はホントに――殺す気でやるから」

「イケるのか? さっき本気出してもとか言ってただろうが。俺だってそう簡単に負けるつもりもないぞ」

 

 まぁ、負けるつもりはないと言うが、勝てる気もない。俺の場合、負けはしないけど、勝ちもしないパターンの方が多いからな。悲しいことに。

 

「相手、強い方ガ、戦いの甲斐……あるネ」

「それもそうか」

 

 その言葉を合図となり、また戦いは再開した。

 

 ――――ココが動きを読みにくい動作で攻め立てるが、俺は俺で避けたり防いだりと攻撃を捌きつつ、その途中、負けじと反撃を試みる。

 

「ちっ」

 

 …………けれど、相手も甘くない。向こうも持ち前のしなやかさでこちらの攻撃を回避する。

 

 恐らくコイツの組み技はヤバい。ただの勘だが、最初の攻防で何となくそれが分かった。なので、俺は組まれないように引き気味で戦っている。

 

 

 

 

 ――――お互いこれといった攻撃が当たらない状況が続く。

 

「やっぱり、強いヨ、イレギュラー。かなり本気で攻めてるのに、決まらない」

「……それはお互い様だ」

 

 戦ってる間にも、こうやって、ココは余裕を見せつつこちらに話しかける。

 

 ……にしても、なかなか状況が動かない。

 

 これで、ココも俺も得意な武器が使えればまた展開はかなり変わるだろう。ココの得意な武器は分からないが。もしかしたら、徒手空拳が一番得意かもしれないな。武偵高でもここまで動ける人は少ないと思う。……まぁ、俺が極端に戦った人数が少ないだけなんだけどね! 断言はできない哀しみ。

 

「…………」

 

 そういえば、さっきココは遠山を襲ったって言ってたな。

 

 んー……さすがにアイツもいきなりだったから、普通の状態で戦ったはず。ココは勝ったと言うが、遠山もHSSなら多分負けなかっただろう。それにココも最初みたいに不意打ちで来たのかもな。

 

 ――――っと、危ない、ココの蹴りが掠った。意識を逸らすな。集中!

 

 ココは、またワンアクションで距離を詰めてきながら、俺の腕を足で絡めとろうとする。

 

「うらっ……!」

 

 対する俺は回転しながら避けつつ――その流れで勢いをつけた裏拳を放つ。

 

 俺の攻撃をわざとらしく受けたココは、裏拳の威力に身を任せ、飛び退く。

 

 …………はぁ、ダメだ。また威力減衰されたな。俺も相手の攻撃をわざと受けて、その勢いを利用しながらのカウンターとかはよくやってるが、実際にやられる立場だと鬱陶しいことこの上ない。

 

 さてと、距離が空いたからには、これまた仕切り直しか。次はどうくる……?

 

 ――――そう思っていたのだが。

 

「げ……」

 

 ココは唐突に携帯を見るや否や、短く文句を盛らし、

 

「悪いネ。ここに無理して来たから、もう時間がヤバいヨ」 

「え? ……うわっ」

 

 俺も確認する。始業式が終わってからもう30分は経っていた。途中教室に戻ったりしたから、ココと戦った時間は…………だいたい20分くらいか?

 

 今気づくと、通行人全然いねぇな……と感じたけど、いつの間にか人気のない校舎裏まで移動してた。場所とか気にも留めてなかった…………。

 

 つまるところ、俺は今回めちゃくちゃ逃げ腰で立ち回っていたということだ。いくらカウンター戦法が得意だからといって、これはアホすぎる。

 

 やっぱり、徒手空拳だけってのは苦手だと再認識する。武器持ってた方が動きやすい。

 

「てことは、決着は持ち越しか?」

「次があるなら……そうかもネ。その時はお互い、本気デ」

「わりと本気だったんだけどな」

「そう? お前、武器使ってないヨ。それに、最初は超能力使ってたけど、後半全く使わずじまい」

 

 まぁ、ココの言う通り、最後の方は超能力使ってなかったな。使いすぎたら、攻略されそうな気がしたし、こんなとこで手の内完全に晒すわけにもいかないし。

 

「つーか、次はあるのか?」

「望めばあるかもヨ?」

「じゃあ、俺は望まない」

「…………釣れないネ」

 

 とだけ言い残し、ココはゆっくりと去っていった。俺は特に追いかけず、とりあえず校門前に戻る。……なんか、疲れた。

 

「あ」

 

 校門前に戻ったが、そこには中身はまだ少しあるが、見事なまでに潰れたペットボトルが転がっていた。…………多分、最初奇襲された時かな? いつかは分からないけど、どっかのタイミングで防御に使ったような……。

 

「…………はぁ」

 

 俺、何のために校舎戻ったんだよ。こんなことなら、さっさと帰れば良かった。ココとエンカウントすることもなかったのに……。 

 

 ――――正しく、骨折り損のくたびれ儲けってやつか。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に帰る道中。色々と考えながら歩く。

 

 ――――ココ。恐らく中国かそこら辺りの女。俺よりも年下の齢14。かなり脅威の格闘センスの持ち主。

 

 さすが元イ・ウーのメンバー。口では俺に負けるかもしれないとか言いながらも常に余裕を見せていた。

 

 あのレベルだと、かなり幼い頃から訓練してきたのだろうな。単純に訓練した期間で比較するなら、俺はココには到底及ばない。……が、それはぶっちゃけ、誰にも言えることだ。俺なんて高校からだからな。精々1年。そりゃ当たり前だわ。

 

 後で理子かジャンヌ辺りに情報教えてもらいたい。タダとはならないだろうが。一応見覚えは……ありそうでないからな。

 

「ん?」

 

 あれ、いつの間にか遠山から連絡来てた。内容は……アイツ、昼飯は外食するのか。だったら、俺も外で食おうかな。財布には4000円程入っている。

 

「……とはいえ」

 

 今から台場行く気力はない。体力はあるが、精神的に疲れた。眠い。体が重い。ベッドに飛び込みたい。……もういいや、コンビニで適当に済ませよう。

 

 

 

 

 

 ……………………起きた。ていうか寝てたか。昼飯食った記憶はあるが、途中からないな。ソファーで寝落ちするのは体が痛い。

 

「お、比企谷、起きたか」

「おう」

 

 冷蔵庫近くでお茶飲んでると遠山がリビングに来た。なんだ、帰ってたんだ。……って、もう5時じゃねぇか。かなり寝てたな。

 

 そういえば、遠山もココと戦ったよな。一応は情報を共用しておくべきなのか――

 

「比企谷」

 

 と、呼び止められた。

 

「……どうした?」

「お前に客人だ」

「マジか。どこ?」

「……すぐ横」

「え? ……うわっ。いたんだ」

「うわっ、とは随分な挨拶ですね」

 

 ――――真横には真顔のレキがいた。

 

 気配消さないで?

 

「……いきなり立たれたら心臓に悪いわ」

「私に気付かないとはまだまだですね」

「逆に本気でレキが隠れたら見つけれる奴なんてほとんどいないからな」

 

 探せる奴なんて……いるのか? 誰だろ、んー……特に思い付かない。つーか、隠密が本業の狙撃手に近接しか能がない俺が勝てるわけなかろう。

 

「そこは同意。あ、俺席外そうか?」

「大丈夫です。聞かれても問題ありませんから」

「そういや何か用事? 聞かれてもってことは、話でもあるのか?」

 

 改めてソファーに座る俺とレキ。

 

「チーム編成についてのことで」

「あー、それか。結局どうする?」

「私たちで組もうかと」

「そうなるよな。俺もそのつもりだし。あ、そうだ、遠山は? やっぱ神崎とかか」

 

 ――そう言ったが、神崎に色金のあれこれ伝えたの俺じゃん。……素直に遠山と組むのかな。

 

「なぜか今、神崎に避けられてな。放課後話しかける機会があったけど、ちょっと口論になって……検討中」

 

 若干落ち込みながら話す遠山。案の定でした。ごめんなさい。

 

「まぁ……頑張れ。どうしてもあれだったら、武藤たちのとこに混ざればいい」

「だよなー」

「それに、お前どうせ止めるんだろ? そんな真剣に悩まなくても」

「そうなんですか?」

 

 と、レキが食いつく。そうか、初耳だったのか。

 

「今年中には止める予定だな。理由は……あまり聞かないでくれ」

「分かりました。……そういえば、八幡さん」

「どうした?」

「お昼頃、私たちのチアを見てましたよね」

「気付いてたか」

「はい」

 

 まぁ、途中思いっきり睨まれたからね、是非もないね。

 

「どうでした?」

「一番の感想は物騒だなぁ……と。やっぱ一般高と武偵高はこういうところで色々とかけ離れているよな。常識というか何て言うか」

「だよな。ここってイチイチ危険すぎなんだよ」

 

 遠山も同意してくれた。

 

「わざわざドラグノフ振り回さなくても……な?」

「そう言われましても学校からの通達なので。私が聞きたいのはそういうことではありません」

 

 珍しく不満げにこちらを見つめる、というより『殺すぞ』という視線で睨み付けるレキ。……末恐ろしい。今、ドラグノフが分解されてて良かった。下手すりゃ銃口向けられてたかも。

 

「格好自体は可愛かったぞ。また見てみたい」

 

 これは普通に本心。普段は見れない姿だったからな。ただ、内心かなりの恐怖を感じましたが。

 

 どんな格好か知りたい人は原作6巻を買おう。ていうか、原作全巻買おう。

 

「……ありがとうございます」

 

 この回答で満足いったのか、これ以上は追求しないようだ。無表情と見せかけて、少し口元が緩んでいるのを俺は見逃さないぞ。可愛い。

 

 横目でしばらくその表情を眺めていると。

 

「何でしょうか?」

 

 今度こそ無表情に戻り、キリッと咎めるように俺を見る。

 

「いや、何でもない。なぁレキ、それでだな――――」

 

 その後、チーム編成や修学旅行についてなど話しつつ色々と雑談しながら始業式の夕方を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




随分とまあお久しぶりです
何だかんだで忙しかったりと存在忘れてたりしてました。また気が向き次第投稿します

なろうでオリジナル小説書きました。お暇があれば読んでください。そして評価ください
https://ncode.syosetu.com/n2569fu/

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