それはそうと、前回の話は若干不評っぽかったんで今後は控えます(多分)
まあ、本筋進めないといけないしね?
「しばらくぶりネ」
「……だな」
神戸に来てから俺らを尾けていたココはゆっくり歩いて近付いてくる。
やっぱシルエットは神崎そっくりだ。ツインテールで140くらいの身長ってほぼ神崎たよね。
「八幡さん、この人が?」
「ああ。前に話した元イ・ウーの面子だ」
俺の横にいるレキは瞬時にトランクから分解したドラグノフを取り出し組み立てている。俺も念のためファイブセブンを手にしている。といっても、ココからは今まで戦ってきた奴らの特有の敵意は感じない。ココも素手だからな。
そういや、レキとは初対面だったか。遠山や神崎とは面識あるみたいだが。……アイツら大丈夫かねぇ。けっこうゴタゴタしていたな。後で遠山に連絡するか。
「それで? 人気のない場所に移動したが、何か用あるのか?」
「モチロン。じゃなきゃ、こんなトコわざわざ行かないネ」
ココの体格からしたら少し大きい服の袖を掴み、いわゆる萌袖をしながら何がおかしいのかクスクスと笑う。
こら、そういう言い方だと神戸市民怒るでしょ! 全く失礼な奴だな。確かに神戸に不満少しはある。もうちょいポートライナー大きくしろとか交通費が全体的に高いとか……まあ色々だ。だから年々神戸市の人口下がってるし、川崎に人口抜かれるし、神戸にある企業が減っていくんだぞと言いたい。しかしだ、仮にも20年以上暮らしている場所だ。俺ではない誰かの話だが。いやもうホント、そろそろ新神戸トンネルの値段下げてほしいんですけど。あと神鉄も。北神急行が市営地下鉄に変わったんだからさ。
「今日はイレギュラーたちと話がしたいだけ。返答しだいだが、戦う予定はナイヨ」
「へー……」
それ多分だけど、ココにとって不利益なこと言ったら戦う流れだよね? 分かるよ。それ母親が怒らないから言ってみ、とか言ってけっきょく数時間怒られる子供の図式だ。何度も経験ある。親の沸点どこにあるのかマジで分からないし、理不尽なことで怒られることなんてしょっちゅうだ。周りから見ても、俺が怒られてるの理不尽って言ってるのになんで通じないんだろう。親が怒ってるときってマジで論理的に説明しても俺が悪者にされるよな。
と、愚痴は置いておいて、話か……、正直予想がつかないな。そもそも会うの2度目だからな。あれか、前戦ったときに怪我したから賠償しろとか? いや、お互い全然怪我してないわ。多少疲れただけだわ。
「一言で言うなら、勧誘ネ」
「――――あ、そういうのはお断りしているんで。新聞も取らない主義なんで」
「……せめて話を聞くネ!」
な、何!? 俺の勧誘撃退方法が失敗しただと……。これで数多の新聞会社を撃退してきたのに。というより、常日頃から銃弾が縦断する武偵高の近辺でよく勧誘するよ。下手すれば普通に死ぬぞ。…………え? ギャグがつまらない? 知ってる。でも思い付いてしまったんだ。許してください。
「イレギュラー、そして蕾姫。お前ラを藍幇へと勧誘するタメに交渉ニ来たヨ」
「らん……なに? お前パン屋でも経営してるの?」
「違ウ!」
ツインテールをフリフリさせながら叫ぶココ。
この子めっちゃ気持ちよく突っ込んでくれる。ボケるの楽しい。ボケ甲斐がある。こんな感じで突っ込んでくれる奴が少ないからな。どちらかと言うと、普段は俺がツッコミ役だもんな。
まあ、それは置いておいて。その「蘭幇」というのは初耳なんだが。ココの所属している組織か何かだろうというのは何となく分かる。大々的に勧誘って言うくらいだしな。イ・ウーにも所属していたし、相当めんど……ヤバい組織かもな。
「で、蘭幇って?」
「蘭幇はイレギュラーたちに馴染みのアル言葉だとヤクザになるネ。上海にアルし、構成員は100万人にも及ぶし、規模は日本の小さいノト比べモノにならナイがネ」
ヤクザか……ヤクザはちょっと……。いくら武偵がアングラーで社会から見ればどうしようもない底辺な存在でもそっちの方に進むつもりはない。
しかも上海というと――――中国か。ろくに海外に行ったことはないが、中国はちょっとばかし怖いイメージがある。なんか治安が悪そうな。……いや、武偵高のが治安の悪さで言ったらトップに入るかもしれない。神崎が機嫌損ねたときとかアホみたいにガバの銃弾飛びまくるからな……。ああ怖い怖い。
……って、100万って人多くね? ヤクザってそんなにいないだろ。というよりいたら困るだろ。そんなにいるなら絶対警察とか機能してなさそうだが。
「あー、普通に断る」
「もうちょい話聞くヨ」
「だからいいって」
と、一応静止しているが、そんなこと関係せずにココは話を進める。
「イレギュラー。あのブラドを生身で倒す戦闘力。まだ完全ではなさそうだが、意識を保ちナガラ色金を操る存在。どこも欲しがっているヨ」
なんかパトラも似たようなこと言ってたな。恥ずかしいんでマジで止めて。
「そして、ウルスの姫である蕾姫。キリングレンジ2051を誇る狙撃手。素晴らしい人材ネ」
正確にはもうレキはウルスから抜けているが……さすがに分からないよな。あんなモンゴルの辺境な場所に暮らしていたら。というより、ドラグノフを使ったレキの射程もバレてるのか。情報だだ漏れだな。
「これから超能力はあまり使えない時代が到来するケド、色金を使えるイレギュラーは例外でありとても魅力ネ。モチロン、生身でも強いレキも」
超能力が使えない時代? ……そういうば、前にジャンヌに教わったな。超能力を使うには色金の粒子が絡んでくるのだと。そのり多いほど超能力が使いにくくなる。これからはそういう事態が頻繁すると言っていた。例外って言っていたのは気になるが、今は放っておこう。
「どう? 来る気あるか?」
「これっぽっちもない」
「強情な奴ヨ……。蘭幇に来たら色々与えるネ」
「……与えるっつーと、やっぱ金か」
お金で釣ろうだなんてそうはいかないぞ。でも、5000兆円(非課税)あげるとか言われたらめちゃくちゃ心揺れるよな……。だって5000兆円(非課税)だぞ? 誰だってほしいに決まっている。まあ、ヤクザの勧誘ってことは恐らく傭兵みたいな扱いだろう。それは絶対嫌だ。タダより怖いものはないということだな。
「それだけじゃない。金も女も自由自在。好きなだけ望むがままに与えるネ」
「…………」
「レキ、ドラグノフを俺から離せ。銃口を俺の頭にくっつけるな」
「――――」
ココが喋ってから俺にドラグノフを突きつけるまでの行動があまりにも素早い。ココのセリフから俺を狙うまで1秒もなかったぞ。良ければ、その銃口あっちのロリっ娘に向けてくれない?
「次はないです」
「今回に限っては俺悪くないよな? 悪いのあっちだろうが」
一応嗜める。
「えぇ……」
ほらぁ、ココも若干引いてますよ。
と、引きつった顔をしていたココは咳払いをしてまた話を切り出す。
「悪くナイ条件だも思うガ……蘭幇に入るつもりはあるカ?」
「何度でも言うがねぇよ。ヤクザに関わるつもりなんてこれっぽっちも持ち合わせていない。下手に人殺せば9条違反で俺の首が飛ぶ」
「日本のヤクザとは規模が全然違うが、まあいいネ」
「もう終わりでいい? 俺これからここの橋渡りたいんだけど」
だって冬木大橋だぞ? せっかく来たんだし一旦渡って色々思い出したい。セイバーと士郎が橋でイチャイチャしたシーンとかさ。
「ま、断られるとは思ってたヨ」
「じゃあ、帰っていいか?」
「断られたら断られたで強制的に連れてくダケヨ!」
ですよねー。
正直そんな気しかしてなかったよ。ちくしょうめが! うわっ、ココの奴突っ込んできやがった。
「レキ、下がれ」
「はい」
近接戦になるか。とりあえずファイブセブンをしまって、3分割されてる棍棒を組み立てる。
ココは……手ぶらか。あのときは水投げの慣習のせいでお互い素手だったが、元より素手がココの基本スタイルか? リーチ差を活かして懐には入られないようにしないと。
「来い!」
……? 何かココが叫んだ? まだ何かって……あれは猟犬か!? それも続々と。見えるだけで5匹。人間の気配はしないと思ったら、動物仕込んでやがったのか。
そして、その内の1匹。何か運んでる。どでかい得物。猟犬はそれをここに渡した。あれは剣? 中国風の? 授業で見た覚えが……。
「――ッ! 青龍偃月刀か!」
縮めて青龍刀。それはざっくり言うと大きい中国の刀。
長い柄の先に湾曲した刃を取り付けたものであるが、刃は幅広で大きくなっており、柄の長さは刃の大きさに対してやや短めになっている。突く、斬る目的ではなく、その刀身の重さで相手を叩き潰す――――いわゆる戦斧に近い武器。モンハンで言うところの大剣辺りに近いか? まあ、それはいい。
普通に重すぎるから実戦じゃまず使われない代物だが、ココは鉈のように軽々と扱っている。演武などに使われるモノを実戦で使おうという段階で、コイツがかなりの化物だと分かる。マトモに受ければ棍棒なんてボッキリ折れる。どうにか受け流しつつ攻撃をしかけないと。さすが中国のヤクザか。イ・ウーにもいたもんな。
というより、ココの周りに集まっている猟犬も問題だ。コイツら、かなり訓練されている。レキは接近戦が苦手だ。せいぜい銃剣で刺すくらい。当然、神崎とかと違ってスペシャリストではない。援護も猟犬が近付いてきたら難しいだろう。
「ハイマキ」
「ガルル……」
「お前のご主人任せたぞ」
臨戦態勢に入っている狼のハイマキに猟犬どもは任すことにする。
俺はココだ。レキの近くには行かせない。
「あのときの続きといこうか」
「望むところネ! きひっ!」
俺は俺で、残りの距離を一気に駆ける。猟犬たちもバラけ戦闘開始だ。
さすがに青龍刀と戦うのは初めてだ。セオリーなんて分からない。だが、相手の射程内で戦うのは危険だ。体が一瞬でイカれる。いつも通りのカウンター戦法で進めるか。
「……ッ!」
前みたいにまるで酔っ払いの足取りだ。動きが読みにくい。青龍刀も合わさってなおさら。だが、反応はできる。右から左から、上から下から……自在に攻めてくるのに対し、俺は刃部分に当たらないように棍棒で攻撃を逸らす。姿勢が崩れたことろを狙って、攻撃を叩き込もうとするが――――
「甘いネ」
「……そう簡単にはいかないか」
体が柔らかいというか、何て言うか……本当に綺麗に避けるな。青龍刀を支えにして飛んだり跳ねたりと。自分の体を操るセンスがずば抜けている。これは神崎や理子にも言えることだな。アイツらと同レベルだと改めて確認する。
猟犬はこっち来ないけど……レキたちの方はどうなってる? 攻撃を受け流しながらチラッと見るが、大丈夫そうだな。お互い牽制している状態だ。ここまで来たらいざとなったらレキが撃つだろうから、多分今は心配いらない。
「――――」
「…………」
俺たちの方は何度か打ち合いを続けるが、互いに決定打には至らず。
ココはまだ余力のあるように思える。俺も超能力使ってないのでそこはお互い様だ。ただ……武器の性能からしてこれが続くとなると俺が不利。今は受け流せているからいいものの、少しでも真正面から攻撃を貰えば多分折れる。
「やっぱり、イレギュラーは後手が上手ネ」
「どうも」
「じゃあ、もっとスピードを上げるヨ。付いてこれるか?」
「お前の方こそ、付いてきやがれ――!」
思わず反射的にこう返したけど、このネタ絶対ココには伝わらないよなぁ。
っと、そんなこと考えている場合じゃない。マジでスピード上がったぞ。あんな重いモン振り回してまだ上がるのか。
縦に振り下ろしてくる攻撃を避け、そこからの斬り上げも距離を取りながら避ける。俺が狙っている攻撃が来るまでひたすら躱す。
そして、その時が来た。
ココはかなりのスピードで真横からの薙ぎ払いをしてくる。それも大振り。かなり速い。だが、何度も視た。これなら合わせられる。
「オラッ!」
「なっ――!?」
薙ぎ払いに合わせて――――青龍刀の刀身の下から棍棒で思いきり力任せに叩く。
カキンッ! そう甲高い音が響いたと思ったら、青龍刀の軌道は大きく逸れる。真横の軌道から斜め上にズレる。普通なら何ともないが、ココの使用している青龍刀は重さが武器。重心が少しだけズレると、それは大きなズレになる。これがただ振り下ろしているだけならそんなに変わりはないかもしれないが、今回に限っては違う。
さすがのココもこれには対応できず、今まで以上に体勢が崩れる。
「クッ……」
すぐさま立て直そうとするが、そんな隙など俺は見逃さない。すぐさま棍棒で追撃を――ではなく、足元を掬うように烈風を起こす。
「うひやぁ!」
などと可愛らしい声を上げたココはすってんころり。勢いよく倒れましたとさ。ただでさえ体勢が崩れていたんだ。そこに急に突風が起これば耐えれるわけがない。しかも足元ピンポイント。
ココが倒れた瞬間、青龍刀の柄を蹴って遠くへやる。とりあえずどうにかなったか。と思ったが、すぐに否定する。ココは格闘も得意だから油断ならない相手だ。棍棒をココの顔の横に押し付ける。前にシャーロックが俺にやったように……いや、あそこまで酷くはないな。あのとき硬そうな大理石の床凹んでたし。
「どうする? 続けるか?」
見下ろしながら問いかける。
「投降したらどうなるネ?」
「そりゃあ。いきなり襲われたわけだし、警察にとりあえず渡すことになるな。そもそもお前イ・ウーの面子だろ。なおさらだ」
「ウーン、それは困るヨ」
「ならさっさと退散すれば良かっただろうが」
そう話している間、猟犬がこちらに狙いを変えてきたが、烈風で近寄らせない。
「…………それにしても、セーラの力。やっぱり強いネ」
「それ俺褒めてる?」
「まあネ」
そうこうしていると、タァン、タアンと銃声が鳴り響く。俺が吹っ飛ばした猟犬をレキが撃ち、何匹かは無力化させている。殺さずに気絶させているだけだ。
…………相変わらずスゴいな。不利な状況を一瞬で有利に変えてしまう。しかし、銃声が鳴るのは避けたかった。一応は人が住んでいるのだから。消音器を付けさせるべきだったか。俺も含めて。でもあれ付けると命中率下がるから嫌いだな。
「――――」
そして、このまま無力化できるかと思ったら――
「……そう上手くはいかないよな」
そう呟くと同時に、橋の影から誰かがこちらに向けて何発か撃ってきた……!
マジか。けっこう近くにいたな。全然気付かなかった。背丈も容姿も分からないが、コイツ気配消すのかなり上手だな。というより、まだ人仕込んでいたのかよ。随分と用意周到だな。
今やられたのは俺の下にいるココを巻き込まないように威嚇射撃。俺もココも怪我はない。だが、このままいたら多分撃たれるな。そういう警告の意味を込めた射撃だ。俺とレキの格好普通に私服で防弾性ではないから、ぶっちゃけ撃たれたくない。
仕方ないからココから離れてレキの方まで移動する。猟犬もココの元へ戻っている。にしても、この銃声なんだっけな。あれか、UZIか。多分? よく分からん。でもその辺りだと思う。
「レキ、大丈夫か?」
「はい」
「ハイマキもか?」
「グルッ……」
ハイマキも大丈夫そうだ。猟犬相手によくレキを守った。あとで魚肉ソーセージをたっぷりやろう。
「レキ、さっきの奴撃てるか?」
「可能ですが、恐らく私が撃った瞬間に撃ち合いになるでしょう。今は手を出さない方がいいかと思います」
「まあ、撃ち合いになったらこっちが負けるな」
拳銃のファイブセブン、狙撃銃のドラグノフがこちらの武器。対するUZIは短機関銃。めちゃくちゃ分が悪い。いくら俺のファイブセブンが改造してフルオートで撃てるとしても、厳しい戦いになる。しかも向こうは隠れており、こちらは近くに遮蔽物がない。筒抜けの状態。その時点で不利だ。
「あちらもこれ以上は戦う予定はないようです」
ココも猟犬と一緒にUZIを撃った奴の元へ退却している。
「またネ。イレギュラー、また会いに行くヨ」
「ご遠慮ください。俺はもういいです」
俺とココ。互いに致命傷は負ってないし、実のところまだまだ戦える状態だ。あのままでもココは反撃しようと思えばできただろう。しかし、ココもこれ以上続けてももうメリットはないと思ったのか。最初は俺らを勧誘しに来たが、下手するとココが警察にぶち込まれたかもしれないからな。今日はここらで幕引きといったところか。
「…………」
ココたちが去ってから数分が経つ。
もう完全にいないことを確認してから騒ぎになる前に俺らもここを離れることにした。
サブタイに関しては俺の率直な気持ちです。もちろん公開が決まり嬉しいけど、やっぱ桜の咲く季節に見たかったよねぇ!!!と複雑な気持ちに襲われている今日この頃
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