とてつもない爆弾の威力。もし本当に爆発すれば、先頭から真ん中にかけての車両はまず無くなる。後方の車両は何とか爆破に耐えれてたとしても、衝撃で絶対脱線する。乗客も、俺らも絶対無事では済まない。
「とりあえず、キンチ、アリア、お前らは蘭幇へ連れて行くネ」
ココは両手を前に、さながらキョンシーみたいに付き出している。何だ? これは……袖の中に武器を仕込んでいるのか。
ヌンチャク? ……違う。あれは小型ロケットか。おまけに2本。ここで気体爆弾関係なく車両ごと吹っ飛ばすつもりか?
「――――
2本のロケットをワイヤーで繋いだ。ヌンチャクのように。そして、鋭い噴射音と共に倒れている神崎たちの元へと一気に飛ぶ。
思わず身構えたが、どうやら違うようだ。
飛んだロケットのワイヤーは神崎の体にぶつかると、神崎を軸にぐりんぐりんと曲がり始める。それはもうデタラメに。そうこうしていると、2本のロケットは遠山と神崎を見事にぐるぐる巻きにした。めっちゃピッタリくっ付いている。これだと身動き取れないな。
「うゆっ!?」
「うっ……おっ……!」
神崎は逃げるためにどうにかして立とうとするが、ぐるぐる巻にされてはいくら神崎とは言えど、ここまでぐるぐる巻きにされては上手にバランスが取れずにすぐさま倒れる。一緒にぐるぐる巻にされている遠山もそれにつられてダメージを負う。
何と言うか……コントかな? 今どきこんなダチョウ倶楽部みたいな光景なかなか見ないぞ。
しかもさっき神崎が倒れたせいで2人の足首までワイヤーが絡まっている。あらまぁ……。余計に動けなくなってしまったな。
「…………」
「…………」
俺と材木座はその流れを静観していたが、どう反応すればいいんだろう。
一応、戦力になる神崎たちが縛られてピンチっていうのは分かるんだが、いかんせん絵面が……。間抜……じゃなくて面白い。
「実にレアな光景であるな。今どき見ようと思っても無理があると思うぞ」
「ちょっと材木座、あなたねぇ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 救けなさいよぉ……」
「ちょ、アリア、近いって」
「それはあたしの台詞よ! バカキンジ! ひゃあ! あたしの体に触らないでよ」
「無茶言うな!」
2人の言い合いが始まるが。
「どうする?」
「我、戦闘は専門外であるぞ。助けるなら八幡しかいないわけだが。じゃ、我はこれで。気体爆弾。先ほどのココ殿の話で、爆弾の場所はおおよその検討がついた。見つけ次第、連絡するので。……任せた!」
「逃げるな!」
「ふははははは! さらばだ!」
材木座は16号車と15号車の間、ちょうどトイレや洗面所がある場所へ消えた。華麗に逃げられた。
遠山たちは……どうするかね。正直助けるにもココの邪魔入るだろうし、言い方は最低だが、これで遠山がHSSにでもなってくれれば俺にとってはプラスになるので。うん、放っておこう。隙があれば頑張って助ける方針で。
「小気味良いほど奇麗に絡まったアル。このまま蘭幇に連れて行くことにするヨ」
「ココ! 前にその髪型止めろって言ったわよね! 被ってんのよ!」
「聞いた覚えないネ。蘭幇も主戦派も、仮想アリアの女の子をほしがるヨ。この髪型は稼ぎになる」
「あんた、イ・ウーの残党だったのね……!」
「ハン! 所詮はビジネスのためにあそこにいたに過ぎないネ! ココは初めから蘭幇の一員ヨ」
神崎にココ……声が大きい。本当にコイツら女子か?
どうしよ、ここからどう動こう。ファイブセブンは……なしだな。車内狭いし、跳弾が危険だ。下手すれば俺やアイツらに跳ね返ってくる。だったら、近接戦闘しかないが、慣性の法則があるとはいえ、こんなに速い空間で戦えるかな。
そんな俺を横にして、神崎とココの言い合いは続く。
「緋弾のアリア。そもそもの話、お前が何もかも悪いネ。お前が緋緋を喜ばせた。緋緋を調子付かせるから、璃璃も怒っている。100年ぶりにヨ。怒って、見えない粒子をばら撒いて世界中の超能力、皆、不安定ネ」
ああ、確かにそんなこと橋辺りで言っていたような。そんなに不安定か? 俺はそこまで感じたことないが。日によって違うからかな?
そうだな、超能力の使える頻度などを天気に例えると、超能力を使う場合、晴れの日なら問題なく使えるが、雨や曇だと精度や威力が落ちたり、そもそも使えないことがある。ココの言い分からしてその雨の日が続くという感じか。
ていうか、璃璃怒っているのか? 首に下げている色金は反応ないけど。
「これから、超能力、役立たずになる。そうなると、銃使いの価値が増すネ。キンチは超能力を使わないが、高い戦闘力を秘めいている。良い駒、みんな欲しかっている逸材」
おお、遠山有名人だな。そうだろうな、銃弾を銃弾で撃ち返すような特技持った奴なんてそうそういないだろうし。
「アリアも貰うネ。緋緋色金、高く売れるヨ。ウルスのレキも逃さない。――――もちろん、八幡、お前もヨ」
「……お前まだ諦めてなかったのか」
「勿論。それにブラドを殺した弾丸を造ったあのデブもいいメカニック。アイツも欲しいネ。ココと協力すればもっと素晴らしい兵器を造れるヨ」
材木座をデブと言ってやるな。あれでも戸塚の体調管理のおかげでかなり痩せてきているんだぞ。というより、神経断裂弾の製作者が材木座(と平賀さん)ってバレてるのか。材木座は確かに良い兵装を造るが、人を殺す兵器を造るのはかなり渋る奴だぞ。神経断裂弾のときも俺がかなり頼み込んで造ってもらったわけだし。
「いいねいいね、蘭幇大好き! 蘭幇万歳! 蘭幇城は超マジいいとこだよ。アリア。蘭幇に行こ! 本場の桃まん食べ放題だよ!」
「本場……! 桃っ…………い、行かないわよ! こら理子、何速攻で寝返ってんのよ!」
神崎、お前かなり葛藤していたな?
「俺もアリアと同感だ。お前の一味になんてなってたまるか。これでも俺は武偵だからな」
こうやって遠山は精一杯カッコつけてるが、もしテロリストになったら、もう終わりだ。何がって、世界のどこにいようとも武偵高校のOGOBや鬼教官に捕まって酷いことされちゃうから。まあ、最終的には死刑だな。うん、それは俺も嫌だわ。
「それに俺は普通の生活を送るんだ。お前らみたいな組織に関わってたまるか」
「存在が普通じゃないキンチが何言ってるネ」
ああ、それは納得。シャーロックに勝てる時点でもう人間辞めてるっていう。って、そうこうしている場合じゃない。今の新幹線の時速は……180km。そろそろ運転手もグロッキー状態。なんかおかしくなって泣きながら歌っているし……。
「武藤、お前新幹線運転できるか?」
さっきら俺らの後ろで待機していた武藤に問いかける。ヒソヒソ声で。
「車輌科なら1年でもできるぜ。確かにもうあの運転手も限界だろうな。……ただ、俺じゃあのちびっ子を突破して運転席まで行くの厳しいぞ。よしんば行けたとしても、攻撃貰って怪我でもすれば3分おきに10km上げるなんて繊細な運転ができねぇ」
「お前が無傷で突破が条件か……って、ん?」
ココが遠山たちを引っ張っている。
「もうこんな時間。もうすぐデートの待ち合わせネ。準備する必要があるヨ」
「どこに連れてく気よ! ココ、止めなさい」
「どこって中国だろ。俺パスポート持ってないんだけど」
遠山はなんでこんなに呑気なんだろ……。
「八幡」
「材木座か。どうだ、見付かったか?」
「いや、16号車後方にはなかった。恐らく運転席の真後ろ、トイレや洗面所など密閉されてる空間に件の気体爆弾を詰め込んだのだろう。恐らくだが、ギチギチに密封して酸素に触れないようにしているはずだ」
「なるほど……ッ!」
「うおっ」
「これは……なかなか揺れるな。武藤殿」
「ああ、マジでこれは運転変わらねぇとな。分かっちゃいるが」
うわっ、また加速した。思わずバランスを崩した。めちゃくちゃ舌噛みそうになった。
「ふぎゃあ!」
加速に耐えきれず、ココが神崎たちを引っ張っているワイヤーを手放すとすってんころりと転がり落ちる。少し思案したような顔付きのココだったが、それは意外にも一旦退いた。デートの準備って言っていたし、何か信号で合図でも出しに行ったのかもしれない。どこに消えたかは……多分車両の上かな。
ココの姿からして単独で離脱するということはない。ココは神崎程度の身長だから、人間2人背負ってとかは無理がある。仲間が何かに乗ってこちらに合流しようするのだろう。遠山たちを連れて乗り込むつもりなのか。面倒だな。
とはいうが、ここで神崎たちを残して救出されるとは考えなかったのか? ここまで事を進めてきた人物が……。理子は確かに身動き取れないが、一応俺もいるんだけどな。
「八幡、ちょっとこれ切りなさい!」
「悪い、比企谷頼む」
「はいはい」
ココがいなくなったのを機に雁字搦めになっている遠山たちを救出しようとワイヤーを切りにかかるが……。
…………うん。
「あ、これ無理」
「諦めないでよ!」
だって、仮にも小型ロケットの推力にも耐えれるようなワイヤーだぞ。そりゃ固いわけよ。全然刃が通らない。俺のナイフではかなり厳しい。無理にすれば遠山たちを切ってしまう可能性がある。無茶はできない。俺が斬られない自信があっからココは一旦この場から離れたわけか。なるほどなるほど。
ワイヤーも複雑に絡み合っているし……1から解くのも時間がかかる。ここで時間を浪費するわけにもいかない。
「そんなこと言われてもな。俺のナイフじゃ無理だわ」
「そこを頑張ってよ! ちょ、だからキンジ近い近い」
……さっき新幹線が揺れたときにまた体勢がズレて、遠山たちは顔を向き合わせている。これもう少し顔動かせばキスできる距離だ。神崎はそろそろ限界に近い。顔がかなり赤くなり茹でだこ状態だ。
「ここで時間使うのもな。ということで、自力でファイト。……あ、武藤」
「おう、変わってくるぜ」
「今さらだが、後ろ爆弾だぞ? 爆発したら真っ先にお前が死ぬが――それででもいいのか?」
「だからって普通逃げねぇだろ。それに新幹線運転してみたかったんだよなぁ」
「……武藤。悪い、頼んだ!」
「おうよ。つか、キンジはさっさとそこから脱出しろよ。じゃなきゃ轢くぞ」
それだけ言い残し運転席へと向かう武藤を見送る。
「八幡! 爆弾を見付けたぞ! 予想通りである」
武藤がいなくなると同時に材木座の声が聞こえる。
運転席の真後ろの洗面室。確かに覗いたら速度を感知する装置があるし、扉の隙間や換気扇などは空気が入らないようにガチガチに固められている。シリコン剤か何かだろう。これは……完全にビンゴだな。
「不知火」
『聞いているよ。外にも伝える』
「頼む。それでだが、これからは材木座と連絡取り合ってくれ」
『分かったよ。材木座君、爆弾の細かい情報を教えてほしい』
「了解である。先ず――――」
ここは材木座に任せよう。こういうのに向いていない俺は邪魔だ。俺はココを追うとするか。その前に遠山たちの様子を見に行こうか。と思ったら――――
「しゃす$お! たらっ&と#! ぷぇ! $うま&うま%!」
……意味不明で、全く何を言っているか分からない甲高い奇声が聞こえた。何これ超音波? 神崎はとうとう人間を止めたのか……。色金に憑かれるている神崎に対して、ちょっと縁起でもないから今の言葉は撤回で。
「八幡……今の悲鳴」
「遠山がやらかしたんだろ」
『……うん、けっこう離れているはずなのに神崎さんの悲鳴こっちまで聞こえたよ』
「ほほう、不知火殿もか」
「ホント、何やってんだか。じゃあ、2人とも頼む」
それたけ伝える。材木座と不知火の返事を聞いてから移動する。
神崎の悲鳴に内心呆れながら車内に戻ると、そこにはワイヤーが解けており一先ずは無事である遠山と神崎がいた。
「ううっ……」
神崎は顔を赤くしつつ蹲っている。とにかく恥ずかしそうだ。「神様、許して……」などとボヤいているが、何となくは想像つく。要するに、絡まりながらイチャイチャしていたのだろうな。TPOを弁えなさい。
「比企谷、話は聞いていた。爆弾はあったみたいだな」
そして、問題の遠山。雰囲気が一変している。実に頼もしいHSSの状態だ。
「まあな。ただ、正直ここから解除はかなりキツいと思う。今は材木座と不知火が解除方法を模索しているが」
「やはりそうか。ココが仕掛けたのは気体爆弾だからな。解除は手間取るか。だったら俺たちがするべきことは」
「犯人の確保」
「だな」
元強襲科なだけあって、そこの意見はやはり一致する。
「キンジ、八幡、行くわよ。さっさとあたしの真似しているココなんかブッ飛ばすわ!」
「神崎、ちょっと待て」
意気揚々と突っ込みそうな神崎に静止をかける。
「……何よ」
「お前も15号車へ行け。戦線から離脱しろ」
「はぁ? なんでよ。ここまで来たらぶん殴らないと気が済まないわ。なによ、八幡はあたしが勝てないって言うの?」
「そうじゃくて、母親の裁判あるんだろ。そこでお前が死んだら今までの戦いの何もかもがパーになる。それは一番避けるべき事態だ」
「……そんなの、どこにいても同じじゃない」
「アリア、比企谷の言う通りだ。ここは引いてほしい。かなえさんを救うためにもアリアは裁判に備えてくれ。こんな馬鹿騒ぎに付き合うことはない。……大丈夫だ、俺たちに任せろ」
神崎の説得は遠山に任せよう。適材適所だ。
「……武藤、聞こえるか?」
『おう、どうした?』
「16号車と15号車って切り離せるか?」
『本来ならをできるんだが、あのちびっ子がそのシステムを破壊しちまってな。ここからでは無理だな』
「どうやったら切り離しができる?」
『そりゃムリヤリ物理的に離せばイケるはずだろ』
「……マジか。そ、それでもし切り離しができたとして、後方の車両はどうなる?」
『あっちでも運転できるように切り替えた。泣いてた運転手がどうにかしてくれるぞ』
「さすがだな」
『……つーか、切り離すって、俺居残り確定かよ』
「地獄への片道切符だ。そういうの、唆るだろ?」
『はっ! 確かにな! さっきも言ったが、新幹線を運転するのは夢だっんだよ。それが叶って嬉しいぜ、まったくよぉ。……で、切り離す手段はどうすんだ?』
「そこだよな。ちょっと待ってくれ」
車輌科の優等生である武藤のおかけでで切り離しさえできれば何とかなることが分かった。しかし、直接切り離すのはかなり難しい。まあ、そんなに簡単にできたらそれこそ事故に繋がる。普通素人では簡単にてきない設計なんだろう。詳しくないので分からないけど。
そんな俺だからこそ、ぶっちゃけると爆弾を使ってムリヤリ離す方法しかパッと思い付かない。だが、グレネードもC4も今回は所持していない。そりゃ、京都の神社や寺で誤爆とか洒落にならないからな……。
俺の烈風を使った鎌鼬……はそこまでの威力がない。セーラならできたかもしれないが、俺にはそこまでの練度がない。前よりかは出力かなり上がっているけど、まだまだ足りない。
「残るは切断方法か。どうする……」
それさえクリアできれば被害を最小限にできる。
「切断って15号車と16号車をか?」
……16号車にいるのは理子と材木座を除けば遠山だけだ。神崎は見当たらない。
「……神崎の説得は終わったのか」
「何とか納得してくれたよ。それで、どうなんだ?」
武藤と話をしている最中、遠山が神埼に向けて歯が浮き立つようなとても甘い言葉を並べていたのをちょっとだけ聞いた。…………HSSって改めてある種の思考回路がぶっ飛んでいるな。俺はあんなの言えない。恥ずかしすぎて死ぬ。聞いててこっちが恥ずかしかったぞ。
「ああ。武藤と話し合ったが、武藤側から切り離すのは無理みたいだ。だから物理的に切り離せばどうにかなるんだが、如何せん方法困っていてな。被害を最小限にするためにもココと戦う前に切り離しておきたい」
「切り離しに関しては同意見だ。このままだったらアリアたちを逃した意味が薄くなる」
「だよな……。どうすればいい?」
「それなら白雪がいるだろ」
「星伽さん?」
「白雪の超能力なら切断できる。というより、そのために白雪をあそこに配置したんじゃないのか?」
確かにかなり耐久力のあるゴレムをカジノで斬っていたけど。
「いやまさか。俺が突破されたときの最終防衛ラインのために星伽さんをあそこにいてほしいってお願いしただけだ。それで、できるなら星伽さんに頼まないとな。遠山、よろしく」
「分かった。……ココは上にいるよな」
「だろうな」
「上で戦う準備をしておいてくれ。俺もする」
「了解」
不安定な足場で戦う場合に備えて、武偵はチタン製の鈎爪を携帯している。普段はベルトのバックルなどに秘匿されている特別な金具の形状をカチャカチャと変えて靴に取り付ける。
その間、遠山が星伽さんに向けて切り離しを頼んでている。……ただ、その頼み方がなんつーか、洗脳みたい。その手法なんだが、優しい甘い声で星伽さんの名前を何回も繰り返している。傍から聞いていると、ぶっちゃけ催眠ボイスみたいだ。さっきの神埼の説得よりもある意味ヤバい。
手法はどうあれ、星伽さんが切り離してくれるなら願ったり叶ったり。
――――さあ、ようやく本番だ。さっさと事件を解決して布団に倒れ込むぞ。
ようやく本番
多分そこまで長くはならない