八幡の武偵生活   作:NowHunt

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風が吹いて、次へと進む

 レキと理子に酷い目に遭わされた新幹線ジャックから数日。

あのあと、武偵病院で精密検査を受け、骨に異常はないことが発覚した。しかし、外傷やら全体的なダメージが大きすぎるとのことで自宅療養をしろと戸塚から言われた。実際、暴走した新幹線から飛び降りたわけだし、その程度で済んでいるのがましみたいなもんだが。

 

 事件後の手続き――まあ、調書とかは満身創痍の俺を除いたレキや遠山たちが俺の分までやってくれた。満身創痍になったのはレキたちのせいでもあるからものすごいコレジャナイ感がするがな……。

 新幹線を斬ったり色々とブッ飛んだことをしたから怒られると思ったが、その辺りはココ逮捕の功績と差し引きしてチャラとのこと。世間的には事件を解決した功労者たちらしい。

 事件が起こったわりにはすんなりと物事進むと感じたが。

 

「遠山君、比企谷君。司法取引のお話が来る前に言っておくけど、自分たちが狙われたことは内緒よ。とーっても偉い人たちに怒られちゃうからね」

 

 と、探偵科教諭である高天原ゆとり先生からのお達し。遠山曰く、イギリスの貴族である神崎が事件に巻き込まれたから、日英関係のためにも大々的に公言しない方がいいとのこと。そこは神崎さまさまだな。

 

 で、遠山と俺とでのんびり連休を謳歌していた。たまに星伽さんや理子が部屋に突撃し、喧嘩をして銃撃戦になりかけたこともあって休めたかどうかで言えば、微妙だな。レキの部屋にでも待避しておけば良かった。まあ、休みの間にレキの部屋に行って、たんまり買った魚肉ソーセージをハイマキに与えたりはしていた。

 

 

「そういえば比企谷。お前とレキってチーム組むよな?」

「そのつもりだな」

「今さらだが、俺らと合流しないか?」

 

 9月下旬のある午前中、互いにリビングでダラダラしながらの会話。

 

「それまたどうしてだ?」

「いや、俺らのチームがさ、アリア、理子、白雪……そして俺とかなり近接よりだから遠距離に強いレキやわりとオールラウンダーな比企谷がいれば心強いなーって」

「と言ってもな……まあ、あれだ、別々のチームでも俺と遠山じゃどうせ似たような問題にぶち当たる可能性あるし、そのとき合同で事当たればいいんじゃないか? 俺の場合、連携得意じゃないから下手に大人数だとキツいんだよな」

「そうか? 新幹線でのお前の指揮なかなかのものだったぞ」

「お褒めのお言葉どうも」

「なら無理強いはなしだな。アリアもそのつもりで登録しているし。俺らは明日登録に行くつもりだが、比企谷たちはいつ行くんだ?」

「あー、午後にでも行くぞ。登録は済んだが、まだ写真撮ってないんでな」

「そうか。帰りに何かおやつ買ってきてくれ」

「覚えてたらな」

 

 昼飯を適当に平らげ、武偵高に向かう途中、レキと合流した。

 

「おう、じゃ行くか」

「はい。ところで八幡さん、ココ姉妹がどうなったかご存知ですか?」

 

出会い頭にそれか。

 

「正直知りたくねぇな。どうせ理子やジャンヌみたいに司法取引ですぐ出てくるんだろうけどよ。もう関わりたくないね」

「ですが気に入られてませんでしたか?」

 

 その鋭い視線止めて。前のくすぐり思い出すから。

 

「猛妹か……。ま、どうせ連絡手段ないし、出たところでの話だ。命狙われた相手と仲良くなんてな……れ…………」

 

 なれないと言おうとしたが、そういやレキにも命狙われたことあったなと思い出した。イ・ウーから帰ってくるなりドラグノフでめちゃくちゃ撃たれたり。ていうか、あれだ、理子にもイ・ウーに連れ去られたとき一触即発の空気にもなったし。

 ……何なんだろう、この感覚。命狙われた相手と仲良くなるジンクスでもあるのか? 遠山じゃあるまいし……。

 

 で、ちゃっちゃか移動して強襲科の屋上に到着。

 

「お前ら遅いぞ」

「5分前ですよね?」

 

 斬馬刀を引っ提げている蘭豹に突っ込みを入れる。

 

「やかましい! さっさと済まさんかァ!」

 

 おいコラ蘭豹! ストップしやがれ! ポニーテール揺らしながら斬馬刀振り回さないで! 普通に死ぬから! それと猛妹の青龍刀思い出すからその武器はマジで止めて!!

 

 そして、しばらく経ったころ、蘭豹も落ち着き、ようやく武偵のチーム編成の写真を撮ることになった。この先生のキレどころがホントに不明だ……。

 

 本来、武偵という存在は簡単に情報を漏らさないために写真に身を写さないものだ。写っている立ち姿でその人の癖を見抜かれてしまうからな。どんな武器を持っているか、どこに怪我を負っているか、その他諸々……。写真は雄弁、嫌な世界だ。

 京都でレキと写真を撮ったが、あれは武偵として褒められた行為ではない。まあ、あの場の雰囲気に流されたってことで……。どういう経緯で漏出するか分かったものじゃないし、レキはそもそもが狙撃手だからな。極力姿は見せないものだ。

 俺自身、遠山がイ・ウーでシャーロックにマッハの拳をぶつけたときにできたみたいな大きな怪我は負ってないから(今さらだけどマッハの拳って頭おかしくない?)、パッと見は変な癖に気付かれないかもしれんが、猛妹を助けたときに右足を若干まだ痛めている。普通に生活する分には問題ないが、もしかしたらバレるかもしれないので、それを見られるわけにもいかない。

 

 ということで、横を向いてレンズから右半身を隠すように立つ。レキもそれに合わせて背中合わせで立つ。

 

 互いにレンズは見ないで、別々の方向をひたすら見つめる。

 

「おう、じゃあそろそろ撮るぞ。――――チーム名『サリフ』。これで登録や!」

 

 俺らのチーム名であるサリフ――――これはモンゴル語で風を意味するらしい。レキはかつて璃璃のことを風と呼んでいたし、風を得意とする狙撃技術もあるし、俺も風の超能力を使うし、まあ、これらの大ざっぱな理由から俺らに合っていると思ったわけだ。

 一言で言いやすいもんな。

 

「改めて、これからよろしく……レキ」

「はい。勝手に死ぬのは許しませんよ?」

「了解した」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 遠山たちも無事チームの登録が終わり、驚くほど平穏な日々が続いた。

 鈍った体を叩き直すために一色や留美の相手をしたり、材木座と武装の相談をしたり、それこそ適当に授業受けたり、色金を扱えるよう特訓したり――――わりとマジで何もなかった。

 

 で、ある日の放課後。

 特に用事もないので材木座と戸塚と帰ろうとしたときのこと。

 

「ん?」

「どうかした?」

「いや、下駄箱の中に何か……手紙?」

 

 戸塚の質問に答えつつ下駄箱を確かめると、手紙があった。

 純白の封筒に入っており、赤い蝋のようなもので封されている。なんかお金持ちみたいな手紙だ。

 

「もしやお主……それはラブレターか!? レキ殿という存在がありながら!? こうなったらレキ殿にチクってやる!!」

「ラブレターって最近聞かないな。そもそも、ここで女子の知り合い少ないからな? ていうか止めろよ、絶対あとで撃たれる」

「それで、誰からなの? 僕らの知っている人かな?」

 

 差出人は――――Janne Da Arc。

 ジャンヌか。

 

「ふむ、ジャンヌ殿と言えば、1学期に転校してきた情報科の人だな。大層美人で、まるで史実のジャンヌのように思えるぞ。最近は聖女としての威厳はどこへやら、完全に姉を名乗る不審者であるが」

 

 史実のっていうか、実際のところ子孫なんだけどな。

 聖女改めて不審者の姉ビームは置いておいて。

 

「八幡ってジャンヌさんと知り合いなの?」

「まあ、一応知り合いって言えば知り合いか。……仕事を一度依頼したことあってな」

 

 少しばかし嘘を混ぜながらの返答。別に間違ってはないからこれで大丈夫。

 

「なるほどなるほど。まあ、我らには関係ないことだ。しかし、随分と綺麗な手紙であるな。映画ではこのようなものをしばしば見かけるが、実物を見るのは初めてだぞ」

「同じく。ていうか、今時手紙って……。メールとかあるのに」

「んー、どうなんだろうね。例えばだけどメールじゃ駄目で、手紙ならではっていうのがあるじゃん。年賀状とかクーポンが同封されてたりとか結婚式の招待状とか……ほら、もしかしてどこかパーティーの招待状じゃない?」

 

 ……戸塚の意見も一理ある。というか、けっこう納得した。そういう考えもあるか。

 

「とはいえ、あまり首を突っ込みすぎるのも良くない。一先ずレキ殿に報告して後々の結果を楽しみにするとしよう」

「お前マジで止めろよ?」

 

 

 で、2人と別れて、部屋に戻り手紙の中身を確かめる。……まだ遠山は帰ってないか。

 

「……って、フランス語読めないんですけど」

 

 手紙はめちゃくちゃ綺麗なフランス語で書かれている。さすがジャンヌ。ですが読めません。辛うじて分かるとことほ言えば……数字? 日時? あ、これ戸塚の言う通り招待状なのか。

あ、文末に日本語が……『裏に日本語を書いてある。そちらを読め。』か。最初から日本語にしてほしいです。

 

 裏には――

 

『比企谷八幡殿

10月1日 夜0時

空き地島南端 曲がり風車よ下にて待つ。武装の上、一人で来るように

ジャンヌ・ダルクより』

 

 指している時刻は今夜の時間じゃないか。というより、何これ?

 やっぱり文面からして招待状か。でもビルとかじゃないのか。いや、そもそも何の招待されているんだ。それも分からないし、どうして空き地島なんだ。あんな何もない、パーティーには向かないような場所に。

 

 え、これ行くか? めんどくせぇ。でも行かなかったら行かなかったで文句言われそうだよな。それにあれだ、嫌な予感しかしないんですけど。絶対厄介ごとに巻き込まれるよな、いつもの感覚で言えば。だって、武装しろって書いてあるんだぞ? 戦闘になるかもしれないからってことだろ。十中八九そうだよな……。

 

 

 ――夜。どうやって移動しようか考えたが材木座の知り合いの車輌科の奴に小型ボートを借りて学園島から空き地島へと移動した。超能力使おうとはしたが、もし戦闘になったら、対応できるように控えようと思ったからな。

 イ・ウーで貰った黒色のロングコートを着て、スタンバトン、ナイフ数本、銃にマガジン、それなりに仕込んでここに来た。夜ということもあり黒色だったら視認性も悪くなって存在感を消すこともやりやすい。動きが鈍らない程度の重さにした。

 

「…………」

 

 錆びた梯子を渡り、人工浮島に降り立つ。今夜の空き地島は霧がかなり濃い。その中をちゃっちゃと歩く。……あ、遠山がハイジャックのときに折った風車あるじゃん。この頃からブッ飛んだことやってるなぁ、アイツは。

 

「比企谷」

「……お前も呼ばれてたか」

 

 その遠山がここにいた。ああ、確かに似たようなボートが近くにおいてあったな。あれ遠山のか。その隣にはジャンヌもいる。ジャンヌは甲冑を着込んでおり、なかなかの重武装だ。

 

「八幡さん」

 

 上から声をかけられた。動いていない風車のプロペラにレキが佇んでいる。ドラグノフを抱えていて、レキもレキで警戒感をかなり高めている。

 

「じゃ、遠山。俺はそこらブラブラしとくわ」

「……お前、よくこんな状況で」

 

 呆れる遠山を置いておいて、少しぶらつく。まあ、レキの近くにいくだけだが。

 時間を確認する。0時まで残り2分――といったところで、一斉に明かりが点く。

 

「――――っ」

 

 けっこう強力なライトだな。めっちゃ眩しい。思わず目を細めてしまう明るさだ。

 

 そして――――薄々分かっていたことだが、かなり厄介な奴らがここにいる。それもブラドやカナ、パトラにシャーロックといった異形の存在ばかりの奴らだ。うーん、コスプレイベントみたい。ていうか、俺から離れているが……カナとパトラ一緒にいるな。多分金一さんではない。あ、あの黒の大きい帽子……セーラもいるのか。

 

 ……いや、知っている奴ら除いてもコイツら何者だよ。ていうか数いすぎだろ。ただでさえ超人のような雰囲気を漂わせている奴らが50近くはいるぞ。

 

「――――先日はうちのココ姉妹がとんだ迷惑をおかけしました」

 

 そう現状確認していると、唐突に後ろから声をかけられた。……背後とられていたか。周りに気を取られすぎていたな。

 後ろを振り向いていたのは色鮮やかな中国の民族衣装を身に纏った中年。丸メガネをかけ、笑顔が顔に張り付いた不気味な奴だ。

 

「ココってことは藍幇の上役か」

「はい、諸葛と言います。以後、お見知りおきを」

「そうするかどうか決めるには、先ずあのバカ姉妹の手綱くらい握っておけ」

「その件は大変申し訳ありませんでした。――ところで、比企谷八幡さん。1つ提案があるのですが、どうでしょうか?」

「猛妹ならそっちで大人しくさせておいてくれ。藍幇にも入らない」

「……おや、見抜かれていましたか」

「俺に押し付けようとかするなよ。いやもうホント、マジで」

「残念です。しかし、あれを止めるのはいささか骨が折れるというものですよ」

 

 と、非常にイヤーなことを言い残して諸葛とやらは去っていった。

 …………お願いだから猛妹をこっちに寄越さないでね。しばらく関わりたくないから。猛妹のせいで俺酷い目に遭ったのだから……レキと理子が…………うっ、思い出したくねぇ。

 

 と、独りでダメージを負っていると、目の前にまた誰か現れた。現れたっていうか、地面から生えてきたんだけどね。地面じゃなくて影か? やだよー、化け物ばかりだよー。

 で、俺を信じられないといった眼で見てくるのは金髪ツインテのゴスロリ衣装を着こなしている女。ていうか、翼もあるのに突っ込み入れていい?

 

「お前がイレギュラー?」

「……どちら様?」

「まさかお前みたいな奴にお父様が殺されたとは……信じがたいわね」

 

 お父様か。思い当たる節なんてないんだが。にしても、この雰囲気に違和感というか既視感が…………え、まさか?

 

「…………もしかして、ブラドの?」

「あら、気付くのが早かったわね」

「え? アイツ結婚してたの? アイツが? あんな人を人とも思わなかった奴が? モテたの? 奥さんいたの? それなんて冗談?」

 

 今世紀最大の驚き。

 あれがモテるとか世の中間違っていない? いやまあ、擬態していた姿はイケメン教師だったが、それでもあの性根だぞ。

 

「お前殺されたいの?」

「ああ、悪い。めちゃくちゃに驚いただけだ。悪気はない」

「悪気しかないでしょう。……ま、今は殺すのは止めておくわ。イレギュラーが私の敵かはっきりしない間はね」

 

 これまた諸葛のように不穏なことを言い残してから、また地面に――影に消えていった。

 敵かどうかはっきりしない間――つまりブラドの娘の言葉の意味を考えると、ここにいるキテレツ大集団の中から敵味方に別れて戦争でもするのか? まさか、冗談だろ。

 

「……ん?」

 

 ジャンヌがここにいる奴らを見渡し、凛とした声で語りだす。この会合の司会者なのか。

 

「では始めようか。各地の機関・結社・組織の大使たちよ。宣戦会議(バンディーレ)――――イ・ウー崩壊後、求めるものを巡り、戦い、奪い合う我々の世が――――次へ進むために(Go For The Next )

 

 今から何が始まる?

 戦い?

 誰が?

 誰と?

 俺も?

 この超人たち相手と?

 何故?

 何を目的に?

 

「――――……くそっ」

 

 ――――と、あまりにも様々な疑問が頭を巡る。どこで人生の選択肢をミスったのか不明だが、どうやらこんな奴らのフィールドに無作為に足を突っ込んだ俺は……ここからどうも逃げられないみたいだ。

 

 




チーム名募集ありがとうございました。丸々パクらせてもらいました。
候補に花の名前とかあってひまわりにしようかなと考えたりしていました。ひまわりの花言葉って「あなただけを見つめて」といった内容で花ではかなり大好きなので

そしてまたもや期間が空いてしまいました。まあ、リアルがそれなりに忙しかったりしたので。インターンやら学校関連やら免許やら……。なんにせよ、無事オートマの免許も取れて満足です
次もできるたけ早く書きたいですが、そろそろ学校も始まるのでどうなることやら……


毎度のことながら宣伝です。なろうでオリジナル小説チマチマ書いてます。よろしければブクマや評価など是非。あ、もちろんこの作品もブクマ登録や評価待ってます!

https://ncode.syosetu.com/n2569fu/



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