「……あ? お前どうしてここにいるんだよ」
ヒルダを逮捕し、警察に送ったあとレキと一緒に事後処理を終えると、時刻はもう夜中の3時を回っていた。そこから遠山が寝ているだろうし、音をたてて戻るのはどうかと思ったのでレキの部屋を借りて泥のように眠った。
その翌朝。というよりもう10時。とっくに授業の始まっている時間帯。レキの部屋のリビングには制服姿のジャンヌがいた。あ、正直疲労が半端ないので今日はさすがに休む。
「どうもこうもないだろう。八幡、まさかここまで状況をややこしくするとは」
察しました。ヒルダのことか。
「…………あー、もしかしてもう情報いった?」
「ああ。思いもしなかったぞ。ヒルダをこんなすぐに逮捕するとはな……はぁ、頭痛い」
「バファリンでも飲む?」
「誰のせいだと思っている?」
はいごめんなさい。
「いやでもさ、俺FEWに関しては無所属だし別に良くね? 俺が師団なら未だしも無所属なんだから拗れることないだろ。つーか、そもそも武偵なんだから、イ・ウーにいた奴を捕まえてもこれといって問題ないと思うが」
「その安易な行動は余計に眷属の恨みを買うだけだぞ。ここにいることから八幡が師団寄りだと思われることもある。狙われないよう気を付けることだ。……まあ、これはある種の忠告だ。それとは別として、私個人の意見を言うと感謝しているがな」
「感謝?」
「これでヒルダもブラドもいない。理子も自由になれたわけだ。それに実のところヒルダの超能力のせいで全身の健がやられていてな。正直体に力が入らない。今、お前に襲われたらたら抵抗できないだろう」
「……要するにジャンヌの恨みを晴らしたからと」
「そういうわけだ」
同じイ・ウーでも仲悪いとかあるんだな。それもそうか。同じ空間にいる=仲が良いという方程式は成り立たない。というよりもし成り立つのであれば俺はこんなに拗らせていない。
あと、襲われるとかそういう発言止めてね? ジャンヌの隣にいるレキの眼が怖いから。
「ああ、そういやこれ」
「……殻金か」
ジャンヌに殻金の1つを手渡す。ヒルダを警察に渡す前に回収したものだ。
これで神崎の緋緋神阻止に少しは近付けたかな。
「玉藻に渡しといてくれよ」
「承った。後日渡しておこう。さて、私もそろそろ部屋に戻るか」
「色々お疲れ。って、学校には行かないのか?」
「さっき言っただろう。体のダメージがまだ回復していない。療養中だ。八幡も似たようなものだろう」
「そりゃな。もう二度とヒルダと戦いたくないね」
ならなぜ制服を着る。私服で大丈夫じゃないか? あ、制服は防弾製だもんな。
「同感だ。……そういえばヒルダのことだが」
「殺してはないぞ?」
「知っている。しかし、実のところかなり危険な状態だと知っているか?」
危険? 隣にいるレキに目配せする。
「はい。あのあと警察に渡しましたが、すぐに病院に搬送されました。外傷は八幡さんのおかげでありませんが、かなりの貧血状態です。そして、彼女の血液型は珍しいものらしく他の病院から取り寄せるのにかなり時間がかかるそうですね。最低でも数週間はかかるかと」
レキの補足説明が入る。
「貧血か……。確かにアイツけっこう流血してたし。いやでも、回復しているんならレバーとかでも食えば大丈夫なんじゃないか?」
「流血があまりにも多かったのだ。お前が銀の武器で散々痛め付けたらしいからな、それに一度は魔臓が全て殺られたのだろう? そのときに相当ダメージを負ったとのことだ。体内に極上の鉄球が何個も埋まっていたこともある。いくら臓器が治ってもそれら含めて全身を動かすエネルギーがなければ意味がない。宝の持ち腐れだ。かなり衰弱している」
まあ、俺がヒルダを逮捕したときけっこう衰弱していたとは思うが。
「……てことは死ぬのか。それなら以て数日ってところだな」
「案外ドライだな、八幡は。もっと焦るかと思っていたぞ」
「これが知り合い、親しい知人なら多少なりと焦りはすると思うが、アイツが今までやってきたことを考えれば……1人の女の子の人生を散々縛ってきたんだ。所詮は自業自得、因果応報だろう」
別に俺は聖人君子などではない。ただの人間だ。俺が捕まえた相手が俺の手の届かない範囲でどうなろうが、俺にはどうにもできない。武偵法がどう適用されるかが気になるところだがな。ヒルダは吸血鬼で人間じゃないからセーフか。そうしよう。
「しかしだ、理子とヒルダ……吸血鬼一族の血液型が一致しているのは八幡も知らなかっただろう」
「マジか?」
いやでもよくよく考えれば、確かにそうでもなければ吸血鬼たちが理子に固執する理由は少ないな。ざっくり言うと、ブラドは人間の細胞でより強くなるための研究を進めていたらしい。それなら、ちょっと採決するなりすれば終わる問題だ。理子を長年縛る必要もなかっただろう。
ん?
あれ?
「……………………ちょっと待て。嫌な予感がするぞ」
「今頃、武偵病院の医者が理子へ説明をしているだろう。ヒルダを救うために献血をしてほしいと。恐らく今は遠山や神崎アリアといる時間帯だな。文化祭の準備があるはずだ。加えて状況説明のためにヒルダの詳細な経緯も語られるだろうな。誰がいつ捕まえた等々」
「…………バレた?」
「それはもうこっぴどく……な」
ジャンヌは優雅な笑みを浮かべるが、俺にはその様子を確認する余裕はない。
あ、あ、あああああ……バレた。バレてしまった。よりにもよって理子に。一番隠しておきたかった相手に。しかも早すぎる。ていうか遠山たちがいるってことは星伽さんもその場にいる可能性が高い。理子たちには内緒と頼んでおいたが、もうヒルダが捕まったあとだからバラされても文句は言えない。
「俺しばらく引きこもるわ。レキ、俺を養ってくれ」
「断ります。今回に限っては私も納得していませんので」
「え……」
「八幡さんが1人で戦いたい気持ちは理解できます。しかし、そのせいで死ぬのを許容できるかどうかは別問題です。それに新幹線でのこともあります。私を逃がそうとしましたね。……私も八幡さんと同じチームなのですから静観しているだけなのは嫌です。もし理子さんがここに訪れたら容赦なく招きます」
あ、めちゃくちゃ怒ってる。声は変わらず抑揚がないが、ところどころ怒気が強い。表情もどこかしらキツい。
レキの言うことはごもっともです。反論のしようがありません。以後気を付けます。
「悪いな」
「はい、八幡さんが悪いです」
「ふふっ、レキよ、もっと言ってやれ」
ジャンヌが珍しく面白がっている。
「ま、八幡にお灸を据えるのも程々にな。それでは私はこれで去るとしよう」
そうハリウッド女優のような所作で華麗にここから退出した。ホント、ジャンヌは動作1つ1つが画になるな。カッコいい。なんだろう、どこか平塚先生のような感じがする。男勝りというか何と言うか……無駄に同姓にモテそうなこの感覚。
それは置いといて、その、うん。
「とりあえず腹減ったな」
「ではこれを」
手渡されたのはカロリーメイト。レキの部屋にはこれしかないよな。あとはお手製ライスケーキか。まあ、これしかないのは知っていたしカロリーメイトを2つ頂く。味は悪くないし栄養はあるし、むしろ最近のカロリーメイトはわりと美味しいんだけど。
「ごちそうさん。ただ、もうちょいなんか肉やらの惣菜食べたいから一旦コンビニ行くわ。MAXコーヒーも補充したいし。レキはどうする?」
「私はここにいます。まだ片付けなければいけない用事があるので」
「分かった。じゃ、またあとで」
そうレキに言い残してコンビニへ。何か土産でも買おうかと思ったが、レキの好み分からないんだよな。……多分渡せば余程の物じゃない限り食べるかもだが。
「……」
菓子パンとナナチキを数個購入して公園のベンチでのんびり食べる。
あー、そういや変装食堂の衣装どうするかまだ決めてないな。俺の演じる職業は探偵か。これまた難しいな。シャーロックの衣装でも真似るか。いや、探偵ってわりとスーツ姿の奴が多い印象がある。スーツに黒色のソフト帽でも被れば立派な探偵だ。なんならそのまま変身できそうでもある。おやっさんに「半人前には帽子はまだ早い」とか言われてみたいなぁ。
変装食堂の方針は決まった。防弾製のスーツでも購入しておくか。翔太郎的にはスーツよりベストの方が衣装も多かったと思うが、スーツの方が護衛とかの仕事でも使えそうだし需要はある。あ、早く戸塚の女将姿を拝みたい。
――――と、しばらくボケーッとしているとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「…………」
フリフリと改造している武偵高の制服を見事に着こなし、小柄な体躯に金髪ツインテール、紅い瞳をした少女。
「……よう、理子」
「やっほ~、ハチハチ」
とても笑顔の可愛い峰理子がここにやって来た。
「授業はどうした?」
「抜けてきたよ。ここ最近は文化祭の準備だけだし、休んでも問題ないからね」
よっこせいと俺の隣に座る理子。なぜ居場所が分かったのか……あ、レキが教えたのかな。
「…………全部、聞いたよ。アイツに献血もした」
「そうか。なら助かるか。アイツはもうお前に手を出さないし、もし出そうものならショットガン担いで今度こそ仕留めるから安心しろ。……良かったな、これで正真正銘お前は晴れて自由の身だ。ここから離れて好きなことしていいんだぞ。可愛いものたくさん買ったり、どこか行きたい場所へ旅行するなり。あ、もちろん人様に迷惑かけない程度だぞ」
「………………なんで、戦ったの?」
あー、気まずい。そんな泣きそうな声しないでくれ。
「お前の依頼だ。武偵憲章その8。任務は、その裏の裏まで完遂すべし。ブラドを倒したらその次にヒルダが現れた。だから今度も倒した。……それだけだ。まあ、もう二度とやりたくねぇな。しばらくはのんびりした――――」
「――――死ぬかもしれなかったんだぞ!! 私の……そんな……そんな口約束の依頼を守ったばかりに!! ……八幡はリスクリターンの管理くらいできるだろ。明らか危ない勝負だろ。損なことはしない主義のはずだろ。それで死んだら元も子もねぇだろ……。そんな依頼捨てちまっても誰も文句言わねぇだろ…………」
俺の時間稼ぎのくだらない言葉を遮り、俺の胸ぐらを掴む。そして、目に精一杯の涙を溜めて彼女は叫ぶ。それはひたすらに悲痛な叫び。
「……確かに勝算の薄い勝負だったかもしれないな。今回は勝ったが、それは単なる結果論だ。負ける可能性だって当然あった。巻き込まれたならいざ知らず、俺は自ら勝ち目のない勝負を挑むのは性に合わない。……ただ、何だ、初めての友達には心の底から笑ってほしいだけだ。理由はそれだけだ」
「八幡はたったそれだけの理由で命懸けれるのかよ……」
「もちろん、友達のためなら命くらい懸けれる。それに言っておくが、命は懸けても捨てるつもりは更々ないからな。そこを勘違いしてもらっては困るぞ。……さて、バレてしまっては言い訳するつもりはない。ただ……お前から聞きたい言葉があるな。依頼の報酬として言ってほしいなぁ」
わざとらしく語尾を強調して理子に促す。
「……助けてくれてありがと。ハチハチっ」
「どういたしまして」
互いに顔を見合わせて笑う。
やっぱり理子にはその笑顔が似合う。それだけでも戦った価値がある。
「献血したんだろ。今日くらい無理はするなよ。ゆっくりしておけ。またな」
「うんっ。またね、ハチハチ」
俺はそれだけ言い残し公園から離れる。
これ以上ここにいたら、あとであまりの恥ずかしさによりベッドの上で悶え苦しむことになる。要約すると、とんでもないことを口にしそうになる。
「これからたくさん生きるんだ。何をやりたいかゆっくり考えろよ」
理子に聞こえるか聞こえないくらいの声量で呟く。
今の理子にはゆっくりする時間が必要だろう。何をしたいか、何ができるか――それを決めるのは吸血鬼どもではない。峰理子だ。
ま、アイツならきっとなるようになるだろ。そこんところは人任せ。アフターケアが下手すぎる。いくら武偵になってから人付き合いをある程度してきたとはいえ、元ぼっちにそういうのは無理がある。アフターケアはHSSの遠山か同姓の方が向いているだろう。
「ふあぁ~……」
ねっむ。さて、俺も何をしようかな……一旦は帰ってもうちょい寝るか。その前にスーツ注文しておこうかね。
「――――君が比企谷八幡かな?」
……めんどくせぇ。公園から尾行していたな。後ろに誰かいるのは分かっていたが、わざわざ気配大きく出しやがって。構ってほしいオーラ出すなやクソッタレ。
後ろには武偵高の制服を着た男子……にしてはやたら中性的な顔だな。茶髪で短い。この顔立ちは恐らくヨーロッパの人か。アメリカ寄りの顔立ちではなさそうだ。というよりコイツの背丈と声――――見覚えがある。
「リバティー・メイソンか」
宣戦会議で聞いたことのある声。見たことのある背丈。あの日はマスクをしていて顔が見えなかったな。なかなかイケメンじゃないか。実際、リバティー・メイソンがどういう組織かは知らない。が、十中八九めんどくさい組織だろう。
「話すのは初めてだが、よく覚えていたね。宣戦会議以来かな」
「その制服ってことはこっちに越してきたのか。まず名乗れ。お前をどう呼べばいいのか分からないと、俺としてはなかなか話しにくい。さもなくばチビ助と呼ぶことにする」
「分かった。さすがにその呼び名は避けたい。僕はエル・ワトソン。とりあえずよろしくと言っておこうかな」
「改めて比企谷八幡だ。えーっと……どっちで呼べばいい?」
外国人って名字どっちが先だっけ? 後半?
「では、ワトソンと」
「ならワトソン。悪いが、今は疲れている。用事ならまたあとにしてくれ」
――――ワトソン。その名前この世界にいるなら恐らくは誰でも知っている。ホームズの相棒の名前だ。実に厄介そうな予感だ。
「そう時間は取らないさ。ヒルダのことだ」
「……またか。今日はそればかりだな。お前の獲物だったか? そりゃ悪いことをした」
「いやいや、それは不粋というものだ。早い者勝ちという言葉があるように、そこを僕は責めるつもりは毛頭ない。しかしながら、問題は君が無所属だということだ。対し僕らは無所属だったが、先日眷属へ所属した」
「つまりは報復か。それこそ論外だな。無所属関係なしに俺は武偵だ。ならず者を取っ捕まえても何も悪くない。それを許さないとバカみたいに騒ぎ立てるなら、社会ではなくお前らが悪い」
「なかなか言うね……」
早く帰らせてくれ……。せめて今日くらいは休みたい。
「僕らリバティー・メイソンは君を襲う予定はない。映像は天気の悪さにより確認できなかったが、あのヒルダを倒したんだ。しかも君1人と聞き及んでいる。腕の立つ狙撃手と一緒に戦うとなるとこちらの損害の方が大きいだろう。だからこれは報復ではない。――――勧誘だよ。チームサリフを眷属にしたいと言っている組織がある。僕はそれを伝えにきただけだ。いわゆる中間管理職ってやつかな」
随分と高評価だな。ていうか、ダメだ、嫌な予感がしてきた……。
「あー……その組織って…………」
「藍幇だ」
あー……やだなぁ……。あれとはマジで関わりたくねぇ。
「……その顔を見るに君の藍幇への評価がよく伝わるよ」
「そういうことだ。俺らはぶっちゃけFEWとは極力関わりたくない。今回は自ら振りかけった火の粉を払っただけだ」
「ならまた君へ火の粉が振りかけるかもね。もしかしたら大変な火傷をするかも」
「いやもうホント、マジで止めてくれ……」
「伝えることは伝えた。それで? 比企谷八幡の返答は?」
「クソ喰らえって突き返せ」
「了解した。僕も僕でやることがあるので、これで失礼する。呼び止めてすまなかったね」
そう言ったワトソンは学校方面へ歩いていった。何て言うか、ワトソンから不自然なほど男物の香水付けていたな。珍しく奴もいるもんだ。
それはそうと……ああ、マジで引きこもりたい。
最近寝る前はネトフリでアニメ三昧です
ヴァイオレットや幼女戦記にオーバーロードと見ました。ヴァイオレットに関しては映画も見てきました。終始泣きましたね。やはり京アニの偉大さを改めて確認しましたね
次はどのアニメを見ようか検討中です