コキュートスとナーベラルがおしゃべりするだけの話(10巻設定より)。
ヤマなしオチなしイミなし、独自解釈アリ。


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 ――実はコキュートスとナーベラルも親しい関係であり、二人だけにすると意外にノリが良く、二人のイメージとは乖離した行動も取ったりするようだ。(10巻より抜粋)
 ……おかしい、なんでこんな美味しいネタが放置されているんだ。
 誰も書かないなら俺が書いてしまいますが、構いませんね!



サムライとニンジャの遺した絆

 湖の管理と蜥蜴人(リザードマン)達の統治をこなすコキュートスは、これで中々忙しい。

 文字通りの守護者として、ナザリック地下大墳墓の警備に専心することしか許されていなかった日々を懐かしく思うこともあるが、至高の御方の命令に精励することが出来る現在の方が遙かに幸せであることは疑うべくも無い。統治するうちに蜥蜴人(リザードマン)達に愛着めいたものも沸いてきたりする。修行をさせて成長したり、道具を与えて発展したり、統治の結果が目に見えると嬉しくなってくる。シムシティにのめり込むように――などと表現すると、コキュートスの真面目さに対して失礼になるだろうか。ともかく、最近のコキュートスは充実した日々を送っている。

 

 そんな彼ではあるが、蜥蜴人(リザードマン)の集落に出ずっぱりというわけでもない。

 ある程度は蜥蜴人(リザードマン)の自治を認めた上での間接統治をしているので、四六時中張り付いているのはむしろ不味いというのもあるし……別の任務が与えられたからと言って、己の守護階層であるナザリック地下大墳墓第五階層を完全に放置するなど、階層守護者として許されざることなので、たまには様子を見に戻る必要もある。

 そして何より。至高の御方から与えられた難題に取り組まねばならないのである。

 

「休暇、カ……」

 

 ふしゅぅ。コキュートスは第五階層に鎮座する雪の球体……彼の巣、もとい部屋の中で白い息を吐き出した。

 至高の御方から課せられし難題。それは、一定期間働く毎に休憩時間を設けよというナザリックの全シモベに通達された命令である。あの慈悲深き至高の御方が、シモベ達の悲鳴も抗議も完全に黙殺して断行した、肝いりのルール。

 

「ナンデモ好キナコトヲシテヨイ、自分ハ仲間ト旅ニ出ルノガ好キダッタト仰ッテイタナ……」

 

 とりあえず機械的にスケジュールに押し込んだ、休暇という設定の日。やりたいことをする、と言ってコキュートスに思いつくのは。

 

「鍛錬、ダロウカヤハリ。筋力トレーニングヲシテモ今更ステータスガ上ガル筈モ無シ、模擬戦デモシタイトコロダガ、ソレニハ相手ガ必要ダナ……」

 

 うんうんと悩むコキュートスの部屋に、こんこんとノックする音が響いた。

 

「……何カ?」

 

「コキュートス様。お客様がいらしております」

 

 扉の向こうから、大雪球を警護する雪女郎(フロストヴァージン)の声がした。彼女が告げた訪問者の意外な名前に、コキュートスは表情を緩める。

 

 

 

 

「……お久しぶりです、コキュートス様」

 

 部屋に入るなり、そう言って一礼した戦闘メイド(プレアデス)のナーベラル・ガンマを目にすると、コキュートスは破顔した。

 

「……久シイナ、ナーベラル。オ主ハ人間ノ街ニ行ッタキリデ、ゴクタマニシカナザリックニハ帰還シテイナカッタカラナ」

 

 人間社会に潜り込むという任務はもういいのか、という意味の視線を投げかけると、ナーベラルは困ったように微笑んだ。

 

「そうですね。その任務は一段落しましたので、今現在は大抵ナザリックに詰めております」

 

 漆黒の英雄モモンは魔導国アインズ・ウール・ゴウンに降ってエ・ランテルの執政官となり、仲間である“美姫”ナーベは彼の屋敷に引きこもって姿を表に見せなくなった(という設定)。特別な事情が無い限り人間の冒険者としての役割をこなす必要は無くなったと言う。そんなナーベラルがほんのり寂しそうな表情をするのを見てコキュートスは内心頷く。

 

(アア、成ル程……御方ノ供回リヲスル機会ガナクナッタワケダカラナ、無理モアルマイ)

 

「……ソレデ、今日ハドンナ用ダロウカ?」

 

 まあこればかりは状況の変化に応じて仕方がない。気を取り直してコキュートスが来訪の意図を訊ねると、ナーベラルはツンとした顔でそっぽを向いた。

 

「あら、コキュートス様……用事が無くては来てはいけませんでしたでしょうか? コキュートス様が戻っていらしたと聞いて、久方ぶりにお話でもできればと思って伺ったのですが」

 

 その仕草はいかにも子供っぽく、普段は玲瓏犀利な氷の美女たる戦闘メイド(プレアデス)の三女の姿とは思えなかった。その様子を見たコキュートスは肩を奮わせる。

 

「フフ、済マンナ。冗談ダ。私モコレデ結構、此度ノ休日ヲドノヨウニ過ゴソウカ頭ヲ悩マセテイタトコロデナ……オ主ガ来テクレタノハソウ、渡リニ船トイウ奴ダ。歓迎スルゾ」

 

「……それはようございました」

 

 コキュートスの言葉を聞いたナーベラル、すました顔で持参したティーポットの中身をグラスに注ぐ。氷の類を用意するまでもなく、五階層を移動する間に淹れ立ての紅茶はよく冷えたアイスティーへと変化していた。

 

「どうぞ」

 

「オオ、コレハカタジケナイ。本来ホストガ用意スベキ所ヲ、ナントモ気ノ利カヌ粗忽者デ申シ訳ナイコトダ」

 

 差し出されたグラスを受け取りつつ、ぺしんと己の頭をはたいて自戒するコキュートスを見て、ナーベラルはくすりと笑う。

 

「まあ、そこまで気を張らずとも良いでしょう。それだけ気を許して頂いているものと思えば、私も嬉しいですし」

 

「ム、ソウカ……?」

 

 ナザリック地下大墳墓に所属するNPC達は、己の創造主に強い影響を受けている。創造主がそうあれと意識的に設定したにせよ、設定が足りていない部分に無意識的な人格の影響を受けているにせよ。

 だから……たっち・みーとウルベルト・アレイン・オードルが犬猿の仲であったことを引きずった結果、セバス・チャンとデミウルゴスは馬が合わないように。

 ぶくぶく茶釜とペロロンチーノが姉弟であった結果、アウラ・ベラ・フィオーラとシャルティア・ブラッドフォールンの仲が一言では言い表せない複雑な関係になっているように。(※マーレとの関係についてツッコむの禁止)

 二人の創造主である、武人建御雷と弐式炎雷の仲がさぞ良かったであろうことを、コキュートスとナーベラルの今の様子が窺わせているのであった。

 

「そう言えば、コキュートス様」

 

「ン?」

 

 同じく持参したクッキーを机の上に置き、そのまま一枚摘んで口にしたナーベラルが口を開く。部屋の主からはかき氷を用意しようとの申し出があったが、幾ら寒さ対策の装備をしているとは言えど、氷室の中で氷菓子は遠慮した。

 

「なんでも、この休暇という制度が制定された当初……階層守護者の方々が集まって、至高の御方々の深遠なるお言葉をその身に刻むべく奮闘なされていたという噂を聞いたのですが」

 

「フム、今トナッテハ懐カシイ思イ出ダガ……確カニソウ言ウコトハアッタナ。『アインズ様が休暇を作ろうと仰ったのは、我々が至高の御方に追いつくべく研鑽する猶予を設けようとの意図があるのでしょう』、デミウルゴスガソウ言イ出シタノダッタカ」

 

 守護者達の努力が報われた結果、至高の御方もご自身が休みを取れる程度の余裕ができたと仰った時は、皆感動に打ち震えた物だ。そう言うコキュートスの顔を、ナーベラルが興味津々に覗き込む。

 

「正直、とても羨ましいです。至高の御方々が残された言行録……何か私にもお話してくださいませんか?」

 

 上目遣いで可愛らしくおねだりするナーベラルを、眼を細めて見やり、コキュートスはふむと首を傾げた。

 

「言行録ナドト言ッテモ、至高ノ御方々ハ我々シモベノコトナド歯牙ニモ掛ケテオラレナカッタカラナ。居ヨウガ居マイガ気ニモシナイママ、タマタマ私達ノ誰カガイル前デ御方々同士ガオ話ニナッテイタ内容ヲ漏レ聞イタ者ガ、記憶ヲタグッテ他ノ者ニモ伝エテミタニ過ギヌ……」

 

 そこまで言ったところで、コキュートスの脳裏を一つの記憶が掠める。ぽんと手を打ったコキュートスは、ワクワクしながら自分を見つめてくるナーベラルに頷いて見せた。

 

「ウム、丁度イイ話ガアッタゾ。私ノ創造主デアラレル武人建御雷様ト、オ主ノ創造主デアラレル弐式炎雷様ガ、私ノ前デ会話ヲサレテイタコトガアッテナ……」

 

「武人建御雷様と、弐式炎雷様が!?」

 

 創造主の名を挙げられ、期待に胸を膨らませるナーベラルに、コキュートスは語り出した。

 

 

 

 

 ことの始まりは、アインズ・ウール・ゴウン最強の男が口にした提案であったという。

 

「みんなで名乗り口上を考えて見ませんか、だぁ? ――ハッ、これだから特撮オタは」

 

 ポーズを決めて颯爽と登場とかしたら格好良いと思わね? ……多分に個人の趣味を含んでいるとは言え、そのような発言をしたたっち・みー本人としては、非公式な場で何気なく口にした他愛のない世間話のつもりであっただろうと思われる。流石、普段から課金エフェクトで爆発と文字を背負って登場する男は格が違った。一人では淋しくて仲間が欲しくなったのだろうか。

 だが、打てば響くとばかりにその発言に食いついたのがウルベルトだったのが運の尽きである。棘しかない彼の返答に、場の空気が二度ほど下がるのを感じたモモンガはあちゃーと内心頭を抱えた。

 

(ウルベルトさぁーん……ほんの世間話なんだから噛みついちゃダメですよぅ……)

 

 どうせ発言者がたっち・みーだから反駁して見せただけで、他の誰かが言ったのであればもっと軽く受け流して見せただろうに――そう皆に思われるくらいには、ウルベルトはたっち・みーに対して辛いと目されているのである。ある意味仲良いんだねえ、と評したのは発言当時参入三日目の新参だった餡ころもっちもちであり、二人の関係のあからさまさを示すエピソードであった。

 

 ともあれ、ギルド長としても個人的にも、和気藹々と仲良くやりたいモモンガとしては、凍り付いた場の空気をどうすれば打ち払えるか頭を絞るところであった。人が三人集まれば派閥が出来ると言うが、ギルドとしては比較的小規模とは言え、四十一人もの人間がまとまるというのは中々の難事であるのだ。

 

「うーん、そいつはいかにも短絡的ですねえウルベルトさん。たっちさんの意図はともかく、なかなか面白いお題じゃないかと思いますよ個人的には?」

 

(おっ……)

 

 そこで意外なところから救いの手が入り、モモンガを始めとしてその場に居合わせた一同は瞠目した。

 アインズ・ウール・ゴウンが誇る軍師、ぷにっと萌えの卓絶した識見は皆に広く認められるところである。たっち・みーの発言をくさして見せたウルベルトにしてからが、予想外の横槍に興味を引かれて毒気が抜けている。

 

(さすが、ぷにっとさんは違うなあ。一言で場の空気も流れも完全に変えちゃった。グッジョブ、俺も見習わないとな……)

 

「焦り、怒り、動揺、緊張、不安、恐怖……ちょっとした感情の揺らぎで、容易く普段のパフォーマンスを発揮することができなくなるのが人間という生物です。判断ミス、反応速度の低下、操作ミス……プレイヤーが冷静さを失えば、キャラクターがどれほど高性能でも、その実力を十全に発揮することはできません」

 

 ぷにっと萌えが持論を講釈すると、一同成る程と黙って傾聴する。

 

「――ですから、言葉というのは重要なわけですよ。時として、WI(ワールドアイテム)よりも強力な武器になると言っても過言ではありません」

 

 指を立ててちっちっと決めポーズを取るぷにっと萌えに、弐式炎雷が感じ入ったという体で両手を広げた。

 

「へぇ、言うねえぷにっとさん。言わんとするところは分かるけど、そこまで断言できるのはぷにっとさんならではだなあ」

 

「WIは強力です。そんな言葉では済まされないくらい凶悪です。手に入れられたプレイヤーは僥倖でしょう。でも、もったいつけることと出し惜しみすることしか考えてない糞運営(クソ共)のせいで、その恩恵に与れるプレイヤーはごく僅かなわけじゃないですか」

 

 まあ、ウチのギルド長程のカンとセンスに優れていれば、話は別ですけどね。そのように付け加えたぷにっと萌えにつられて周囲の視線が集中し、モモンガは文字通り飛び上がって慌てた。

 

「ちょ、急に驚かすの止めてくださいよぷにっとさん。私を褒めても何も出ないし、次の採決でえこひいきしたりもしませんよ?」

 

「……これだよ。まあ謙虚なギルド長のことは置いといて。我々、運やセンスの持ち合わせがない一般市民としては、手に入るかも分からないWIよりも、元々誰もが持ってる武器を磨くべきって言いたいわけです、ええ」

 

「話の流れから言うと、それが『言葉』って話になるわけかい?」

 

 武人建御雷が興味を引かれて問いかけると、ぷにっと萌えは頷いた。

 

「その通り。威圧や挑発、三味線に偽情報……言葉による()()をゲームシステム上の手段で防御することは不可能です。キャラクターに設定されたどんな耐性も防御も無視して影響を与えることができる。ある意味WI以上の究極の攻撃手段ですよ?」

 

 まあ、あまり下品なことをやると運営に呼び出されることになりますがね。冗談めかしてそのように締めたぷにっと萌えの姿に、モモンガは感じ入ってため息をついた。

 

「成る程……ウチの軍師は普段からそんなこと考えながらPVPやってたんですか。おお怖、勝てないわけだ」

 

「自己の冷静さを保ちながら相手の動揺を誘うのは、ユグドラシルに限らずあらゆる勝負に通じる対人戦の基本です。冷静さを失った人間というものは、実に容易く普段通りのパフォーマンスを発揮できなくなる。

 そこで、たっちさんの話に戻るわけですが……」

 

 口上と共に堂々と登場することも、言葉での戦闘という面から見れば駆け引きのひとつである。相手が呆気にとられれば虚を突けるし、なんだこのバカと油断すれば隙を突ける。あからさまな囮と見せて伏兵を警戒させることも出来るし、口上の内容によっては相手を威圧し、萎縮させることもできるかもしれない。……それだけのことを言うためにこれだけの蘊蓄をつけてしまうのが、ぷにっと萌えという男であった。

 とはいえ、ぷにっと萌えがそこまで本気で言ったわけではなかったのは、それ以上特に何も提案するでもなく、それぞれ自分の名乗り口上を考えて見るのも面白いかもしれませんよと結んだだけであったことから見ても明らかであった。険悪になりかけたその場を綺麗に丸く収めて見せたぷにっと萌えの手腕にモモンガは感激し、感謝と尊敬の念を新たにしたのである。

 

 

 

 

「……私ハソノ元トナル話ノ場ニ居タワケデハナイガ。武人建御雷様ガ弐式炎雷様ヲオ呼ビニナッテ私ノ前デオ話ニナッテイタ際ノ会話カラ推測スルニ、発端ハたっち様モシクハぷにっと萌え様ノゴ提案デアッタヨウダ。トニカク、面白ソウダカラチョット考エテ見ヨウゼト、オ二方デ名乗リ口上ヲ試行錯誤ナサレテイタコトガアッタノダ」

 

「はぁー……名乗り口上、ですか。いいなあ、私も見てみたかったなあ……」

 

 そのようなことを言いながらチラチラと目配せするナーベラルに、分かっているとばかりにコキュートスは頷いて見せる。

 

「至高ノ御方ノ猿真似ヲシヨウナドト、不敬極マル行為ト言ワレルヤモ知レヌガ……良ケレバ、チョットヤッテ見セヨウカ?」

 

「本当ですか!? 不敬だなんて野暮は申しません、是非お願いします!」

 

 幸い、コキュートスの住居は部屋から通路に至るまで、部屋の主が大立ち回りを演じるに問題ない広さが確保されている。ナーベラルの声に応え、コキュートスは氷の長椅子から立ち上がると部屋の端へと移動する。

 コキュートスが呼吸を整える。つ、つ……と部屋の中央へと歩み出す。どこからともなく三味線の音がした……ような気がした。

 

「ヒトォ~ツ、異形種(ヒト)生キ血(EXP)ヲ啜リ……」

 

 コキュートスが大見得を切って物々しくその声を響かせる。

 

「フタァ~ツ、不埒ナ悪行(PK)三昧……」

 

 ナーベラルが固唾を呑んで見守る中、すらっと刀を抜いて八相に構えた。

 

「ミィッツ、醜イ浮キ世ノ異形種狩リ(オニ)ヲ……」

 

 構えた刀が虚空を一閃し、切り裂かれた大気が大きく震える。

 

「退治テクレヨウ、コキュートス!」

 

 刀をぱちんと鞘に収め、ぶしゅーっと大きく息をついた。

 ナーベラルがぱちぱちと手を叩く。

 

「素晴らしいです! 素敵です! 武人建御雷様がおいでになったかと思いました! ……あ、今の発言は内緒でお願いしますね」

 

 頬を紅潮させながら目を輝かせてコキュートスを褒め称えたナーベラルが、ふと我に返って自身の発言を不敬と考えるべきかどうか悩み出したのを見て、コキュートスは苦笑した。

 

「フム、ソウダロウカ? ……建御雷様ハコノ百倍ハ格好良カッタト思ウガ……」

 

 話はずれるが、この口上が対外的にお披露目されることは最終的になかった。別に怖い人が訊ねて来るという話ではなく、ウルベルトが難色を示したためである。曰く、「うーん、まあ、似合ってはいますけどね建御雷さん。でもちょっとこう、正義の味方っぷりを押し出し過ぎじゃないですかね? 異形種を助けるのはあくまでPKKの結果であって、目的じゃない。俺たちは悪のギルドで、モモンガさん以下魔王プレイしようぜって話じゃないですか。その口上はなんというか……悪の華(ピカロ)にはそぐわないですよね」だそうである。モモンガが正式に決を採った結果お蔵入りしたので、その主張には一定以上の説得力があったらしい。たっち・みーは非常に残念そうであったが……

 

「サテ、ソレデダ……弐式炎雷様ノ口上ヲ教エルカラ、今度ハオ主ニヤッテミセテ貰イタイナ」

 

「えっ」

 

 そのようなことを言いだしたコキュートスの発言に虚を突かれ、きょとんとした顔になるナーベラル。

 

「えっ、でも、私が……?」

 

「マアマア、イイカライイカラ。野暮ナコトハ言イッコナシデアロウ?」

 

 戸惑うナーベラルの肩を掴んで椅子から立つよう促すと、身振り手振りで内容を教え込むコキュートス。その内容自体は興味津々で聞き入ったナーベラル、ではやって見せてくれと言われて困惑しながらも気を取り直して表情を引き締めると、先程のコキュートスと同様に部屋の端へと立ち位置を移した。

 

「のさばる人間(悪党)なんとする――」

 

 その唇から凛とした声が発せられる。

 

天の裁き(クソ運営)を待ってはおれぬ――」

 

 ゆらりと滑るように部屋の中央に進み出る。ちょんちょん、と拍子木の音が聞こえてきそうだ。

 

この世の正義(他所のギルド)もあてにはならぬ――」

 

 冒険者に扮した時に使っていた長剣を、鞘ごと顔の前に掲げた。鯉口を切って白刃を露わにし、その輝きで白皙の美貌を照らし出す。

 

「闇に裁いて仕置きする――」

 

 ひゅひゅんと長剣を二閃三閃振り回す。先程のコキュートスに比べればその太刀筋は児戯に等しいが、美人は何をやっても様になるので絵にはなっている。

 

「ナムサン!」

 

 長剣を鞘に収めてポーズを決めると、コキュートスがぱん、ぱんと手を鳴らし、ドンドンと氷の床を踏みならして喝采した。

 

「ウム、見事ダナーベラル。ヨク似合ッテイルゾ」

 

 ちなみに、この口上も生まれる前から封印されていた代物である。ぷにっと萌えが「うん、流石に炎雷さんはね……幾ら小理屈捏ねくり回そうが、名乗るくらいなら不意打ちで一発かましとけって話だよね……」と評したのを、満場一致で同意した結果だ。隠形(ハイド)からの初撃に限れば武人建御雷を越える男からそのアドバンテージをとりあげる暴挙に見合うだけの浪漫は見いだせなかった模様であった。

 

「はて、そうであればよいのですが……」

 

 コキュートスの賞賛を受けて照れたナーベラルは、誤魔化すように口を開いた。

 

「コキュートス様は、武人建御雷様の分身というか、弟子というか……瓜二つというのがおこがましければ、ともかくかの御方を理想として創造されたのは傍目にも明らかです。ですから、武人建御雷様の口上を真似するのも様になっていましたが」

 

 そう言うと、ナーベラルは自身のメイド服の裾を摘んで首を傾げた。

 

「私の方は明らかに、弐式炎雷様ご自身のスタイルとは異なる理念で創造されております。こんな私が形ばかり炎雷様の真似をしてもよかったのでしょうか……」

 

 まだしも、ソリュシャンの方が似合っていたかも知れません。暗殺者(アサシン)系の職を修めた妹の名を挙げてそう述べたナーベラルに、コキュートスはゆっくりと首を振って応えた。

 

「ナンノ、ソレハ無粋トイウ物デアロウ。似合ッテイタゾ、オ主ガ不安ナラバ私ガ保証シヨウ」

 

「……ありがとうございます」

 

 そう言って一礼するナーベラルに、コキュートスは微笑みかけた。

 

「ソレニ、オ主ハオ主ノ良サガアルト思ウゾ。……私ガ建御雷様ヲ再現スベク創造サレタノダトスレバ、オ主ハ弐式炎雷様ト肩ヲ並ベラレルヨウニ創造サレタノデハナイカト、私ハ思ウ」

 

「……そうなのでしょうか?」

 

 コキュートスの見るところ、ナーベラルの防御力は最高レベルですらない魔法詠唱者(マジック・キャスター)でありながら、弐式炎雷に匹敵するのではないかと思う。これは彼女の防御が高いのではなく、弐式炎雷が紙装甲過ぎるのである。

 始めから一撃死状態(オワタ式)なら極限集中状態(ゾーン)に入るのも楽ちんだ――普段からそのようなことを豪語する浪漫式火力馬鹿こと弐式炎雷は、その宣言通り、ひとたびスイッチが入ればあらゆる攻撃をひょいひょいと躱しながらそのバ火力で途方もない戦果を叩き出すことができた。一方で、なんということのない牽制で蒸発し、敵味方を唖然とさせながら戦線全体を崩壊のピンチに晒すことも希に良くあったので、トータルとしてはトントンな指揮官泣かせのピーキー野郎だった。

 ともあれ、ナーベラルが魔法詠唱者(マジック・キャスター)としては破格の重装備をできるように創造された理由は、創造主を守護(まも)ってほしいという願いが込められているのではないだろうか――コキュートスの推測を聞いたナーベラルは相好を崩した。

 

「そうですね、もしそうだったらそれはとても――素敵なことだと思います」

 

 とは言え、二人の創造主の姿はもはやナザリックになく、その意を問うことはおろか側に侍ることも今となっては叶わぬ願い。なんとはなしにしんみりした気分で、二人は暫しの間、黙って喉を湿した。

 

「ああ、もうこんな時間ですか。すみませんコキュートス様、私の休憩時間はそろそろ終わりなので、これでお暇させていただこうと思います」

 

 そうしてひとしきり思い出話に花を咲かせた後。時計を確認したナーベラルがそう口にすると、コキュートスは目を見張った。

 

「ム、ソウカ……時間ノ経ツノハ早イ物ダナ」

 

「それはどうも、ありがとうございます」

 

 思わず漏らした言葉に意外な反応を返してきたナーベラルを、コキュートスは不思議そうに見つめた。

 

「ウン……? 済マヌ、ドウイウ意味ダソレハ?」

 

「だって、私と過ごした時間を楽しんでくださったということでしょう?」

 

 時が経つのを忘れるほどに。笑顔でそう解説したナーベラルの台詞を反芻し……コキュートスはぷしゅーっ、と息を吹いて笑った。

 

「ムム、成ル程……成ル程。確カニソウダ。楽シカッタゾ、ナーベラル。イツデモ……トハ言ワヌガ、マタ来テクレレバ嬉シク思ウ」

 

「はい。いずれ又の機会に」

 

 最後に深々とお辞儀したナーベラルが、退室して扉を閉める。コキュートスは彼女が外の雪女郎(フロストヴァージン)と挨拶を交わしながら遠ざかっていくのを、その姿が窓から見えなくなるまで見送った。

 

「フム……何ダカ妙ナ気分ダ。ダガ悪クナイ」

 

 コキュートスは己の胸に手を当ててそう呟いた。何とも形容しがたい気持ちが胸の裡に広がっている。それはじんわりと暖かく、不快なものではなかった。

 

「モシヤ、アインズ様ガ休日トイウ制度ヲ導入ナサッタノハ今ノコノヨウナ気持チヲ我々ガ発見デキル事ヲ願ッテノ事ダッタノデアロウカ……? 至高ノ御方ノ深遠ナルオ考エハ、私ナドノ想像ガ及ブ所デハナイガ……」

 

 ――何処かの誰かが、くしゃみをしたような気がした。

 出来れば、また話をしたいものだ。コキュートスはそう思いながら立ち上がると、今後の予定を脳裏で確認しながら伸びをして体をほぐしていく。その顔には、知らずと笑みが浮かんでいた。

 

 

 




 コキュートスの台詞を平仮名から片仮名に変換する作業が面倒で死にそうです(半ギレ)
 喋るだけで作者にも読者にも優しくないコキュートスマジ不憫。
 だが私は普段と異なる面を見せるナーベちゃんをギャップ萌えしながら書くだけで幸せだ。
 ノリノリってこんな感じでいいんですかね……


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