俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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今回は八幡活躍の話。


バレーボールプレイヤー比企谷八幡

「結衣先輩たちどこ行ったのかな?」

無人の奉仕部を訪れしばし呆然としていたいろは。

 

 

そういえばあの時……。

 

 

『比企谷はバレー部で雪ノ下と由比ヶ浜は生徒会、それぞれが同時に依頼にあたる、それでどうだ?』

いろはは静の言葉を思い出す。

 

 

「もしかして、体育館?」

どうせここにいても埒が明かない、いろはは体育館へと足を向けた。

 

 

「それにしても……」

あの時部室にいた八幡の事を思い出す。

 

 

「あのやる気なさそうで冴えない人がバレーとか大丈夫なのかな?」

多分無理だと思うけど、そうつぶやきいろはは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「さあカットだここ止めるぞ!!」

 

 

「よしサーブ一本決めよう!!」

 

 

そんないろはの想像とは裏腹に3対3の試合はエキサイトしていた。

 

 

現在の点数は

Aチーム21  Bチーム16

 

その能力と個人技でABチーム共に点を稼ぐプレーヤーがいるものの、八幡の無理矢理トスに持っていく高い技術により少しずつ点差が広がっていった。

 

 

 

 

「あっ!!」

Aチームの一年、長谷がサーブをミスする。

 

 

「おしっ!ラッキー!」

飯山が小さくガッツポーズ。

 

 

「す、すいません!!」

チームメイトの先輩二人に頭を下げる。

 

 

 

「ドンマイ!ドンマイ!」

「サーブミスらない奴なんて普通いないから気にすんな」

二人はフォローで返す。

 

 

これで点数はAチーム21  Bチーム17

Bチームのサーバーは飯山

 

 

 

(こいつ、さっきはかなり強烈なジャンプサーブを決めてたな……)パパッ

八幡が出したサインは普通のレフトオープン。

 

 

「飯山はフィジカルモンスターだから、ジャンプサーブやスパイクがハマるとかなり強力なんだよな」

七沢がつぶやく。

 

 

「その変わり技術は……というやつか?」

八幡は飯山のリズムを少しでも崩そうと会話を振る。

 

 

「あれに技術まで加わったらいろんな意味で化物だよ」

七沢が軽く笑い出す。

 

 

 

「おい!何か俺の悪口言ってない?」

飯山の湯沸かし器にスイッチが入る。

 

 

 

「お前の筋肉すげえって事だよ」

稲村はそのスイッチをあっさり切る。

 

 

 

「そうか」ニマニマ

 

 

 

((うまい……))

 

 

 

(飯山は頭いいけど直情型だから沸騰しなきゃ扱いやすい)

なんだかんだで彼が飯山をコントロールしていた。

 

 

 

ピィィィ!!

サーブ開始の笛が鳴る。

 

 

 

「行くぞ!!!」

飯山はトスを上げ高く飛ぶ。

 

 

そして

 

 

 

「フカした!!」

ミートポイントがズレ、盛大にホームラン。

 

 

 

(こいつノリノリだと手が付けられないプレーするかミスるかの二択なんだよな)

稲村が苦笑する。

 

いずれにせよ手がつけられないのだが。

 

 

 

「すまん!ミスった」

 

 

 

「ドンマイです!」

「気にするな、やると思ってた」

Bチームは励ましの言葉を向ける。

 

 

Aチーム22  Bチーム17

七沢のサーブから

 

 

 

七沢は普通のフローターで相手のコート後方へ打つ。

 

 

「クソ!!」

稲村が追いつき崩されながらもセッターが拾えるボールを上げる。

 

 

「レフト!!」

温水が飯山にオープンを上げる。

 

 

前衛にいる八幡がブロックに入る。

 

 

(やはり高いな、シャットアウトは無理か……)

 

 

(相手の目線、体の角度、トスの高さ、多分ここだ!!)

飯山のスパイクに合わせブロックをソフトブロックに切り替える。

 

 

バシッ

八幡の手がスパイクを受け減速させる。

 

 

「ワンチ!!」

 

 

「ああっ!!」

止められた事を悔しがる飯山。

 

 

ボールは威力が弱りながらも後ろに行き、長谷がカバーに入りオーバーでボールを拾う。

 

 

「ナイスだ!!」

向かう先は絶好のセッターポジション、八幡がどこにでもコントロールできる最高のボール。

 

 

「レフト!平行!」

七沢に平行のサインを向ける。

 

 

「おう!!」

「やらせるか!!」

七沢が助走体制に入り、飯山がそれをマークする。

 

 

 

 

(かかったな)バシッ!!

八幡のツーアタックがコート上の誰もいない所目がけ打たれる。

 

 

 

「「うそ!?」」

まさかのツーアタックに七沢と飯山の声が被る。

 

 

 

ピィィィ!!

Aチーム23  Bチーム17

 

 

 

(全体を見ながらその時最高の選択肢を選ぶ、やはり上手い。)

審判をしている清川は彼を見る。

 

 

(インハイ予選、もし彼がうちにいたら……)

3年のセッターを本来のリベロに戻し、飯山と稲村を交えベンチにいる一芸に秀でたメンバーも回せるようになる、司令塔に守備の要、ダブルエースに個の力という戦略の幅を広げたチーム。

 

 

(もしそれが出来てたらあの時……)

頭に浮かぶインハイ予選最後の試合。

 

 

(いや、ゲームセットでたらればを言えばキリがない)

コートへの未練、彼にはまだ残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッキー、バレー凄い上手だね」

バレーの試合を眺める結衣。

 

 

「ええ、正直ここまでとは思っていなかったわ」

雪乃は八幡の活躍を見て普段ならありえない褒める言葉を発する。

 

 

(馴れ合い、協力、チームプレイ、私も彼も“嫌い”と言っていい言葉、その筈なのに)

雪乃は少し目を伏せ思う、今の八幡はそれらを満たしてプレイしていると言ってもいい。

 

 

「何か、ヒッキー楽しそうだね……」

いつも、捻くれた言動やそのやる気のない態度とは違う顔、生気に溢れ声を出すその姿、彼がマッ缶や雪乃が入れた紅茶を飲み本物を味わっている時のみ見れる顔、それが向けられるのが自分じゃないこと、そしてその顔を色々な人が見てる事、寂しい気持ちと独占欲が重なり寂しそうに呟く。

 

 

いつもの欺瞞や悪意を映したようなその腐った目は年相応の目をしている、ということでただのイケメンになっている、それは雪乃も感じていたようで。

 

 

「彼がバレーをやっていて、しかも目が腐っていないなんて本当に夢を見ているみたいね」

とても現実とは思えない、そう考えてしまう。

 

 

(彼の孤独体質の改善も私の依頼、このまま行けばその依頼を解決できそうなのに)ズキッ

雪乃は自分の胸をギュッと掴む。

 

 

 

※間違っても、ゆきのんは掴むものが無いだろとか野暮なこと言わないでくださいね、制服ならちゃんと掴めます。

 

 

 

(何なのかしらこの気持ち)

今の八幡を見て浮かぶ感情、今まで自分の見たことのない八幡の姿、もしかしたら彼が本来いるべき場所はあそこなのでは?

 

 

まるで自分が取り残されたような感覚に胸が押しつぶされそうになる。

 

 

八幡とは違うものの、思春期に悪意を向けられ交友関係を築いて来れなかった彼女にその感情を理解するほどの経験があるはずもない。

 

 

(私は何を思ってるの?私は何をしたいの?)

いまの彼女にその数式は難解で答えを導き出す方程式を持ち合わせてはいなかった。

 

 

 

 

 

「あ~、やっぱりここにいた!」

突如後ろからいろはが声をかける。

 

 

「あ、いろはちゃん」

結衣はやっはろーと声をかける。

 

 

「ひどいですよ、奉仕部に行ったら誰もいないんですから」

 

 

「ごめんなさい」

「ご、ごめんね」

さすがに自分に非があると思ったのか素直に謝罪する二人。

 

 

「で、二人してバレー部見てたんですか?」

そういいながらバレー部の方を、そしてバレー部とそん色なく活躍するアホ毛が特徴的な男を見る。

 

 

「うそ!あの先輩上手い!!」

八幡のプレーに驚愕の声を上げる。

 

 

 

「えっ?」

(何あのイケメン?あれが先輩……?)

あまりの予想外な展開にいろはは固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Aチーム24  Bチーム19

あの後、Bチームが取り返しブレイクするもAチームが再び取り返しマッチポイント。

 

サーバーは八幡だった。

 

 

 

 

 

床にボールを叩きつける。

 

 

(点差にはまだ余裕がある、今日やって無いジャンプサーブを試すのも手か……)

いまするサーブを考える。

 

 

(比企谷はまだジャンプサーブを見せていない、やるなら今か?)

七沢はその様子を見る。

 

 

 

ピィィィ!!

 

(ジャンプサーブをやる)

 

 

 

ジャンプサーブ

スパイクと同じフォームで打つサーブ、高い打点から打つ強力なサーブ、その反面難易度も高く成功率も先ほどのジャンフロに比べ低く、点数を狙うほどその成功率もかなり下がる。

 

 

八幡は現役時代ジャンプサーブとジャンフロの二つを、ケースによって使い分けしていた。

 

 

 

(俺が今までで一番練習したサーブだ……思い出せ)

 

 

 

ポジションこそセッターだった八幡だが本当はアタッカーがやりたかった。

 

だが彼がトスをあげる事はあっても、彼にトスを上げる者はいない、八幡は練習後に一人コートに残り自分でトスを上げスパイクの練習をした。

 

 

コートが使えない日も相棒である壁と練習し自分の為だけにトスを上げる、自分であげたトスを打つ練習の積み重ね、それは八幡にジャンプサーブという武器をもたらした。

 

 

上げるトスの安定、ボールにミートさせる技術とボールへ通す力の入れ方、基本的に物覚えが良く動きのイメージを体に伝えるのが上手い八幡は、それらが確実に身についていた。

 

 

 

ルーティンを入れる。

イメージするのはコートではなく壁、何度も同じ場所を目がけ打ち込んだイメージ。

 

 

片手でトスを上げる、スパイクと同じ助走をしジャンプ、左手をボールに添え照準を定める、勢いよく左手を引くと同時に腹筋と腰で強くひねり右手をしならせ持ってくる、ミートし振りぬく瞬間さらに力を加える。

 

 

 

バチン!!!!!

 

 

 

強力な打球、ネットをギリギリに通り鋭いドライブで変化、誰も反応出来ない速さでコートに落ちる。

 

 

 

 

ピィィィィ!!

バレー部男子の3対3の試合、彼が放ったサービスエースを告げる笛の音は、比企谷八幡の復活を告げる音となった。

 

 

 

 

 

 

 

「かっこいい……。」

そんな八幡の姿を見ていろはがつぶやく。

 

 

「「!!」」ギロッ!!

それを睨みつける二人の姿があった。




次回の話はまだ未定です。

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