俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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今回の話は少し短めになります。


将来の夢は専業主夫

―千葉県某ドーナツ屋―

陽乃が帰った後、八幡達は男子高校生恒例のボーイズトーク……ではなく。

 

「俺のやるブロックアウトの場合、ボールがフワッと打点に来た時こう、クイッとやって……ヨイショ!って感じかな」

「分からん!お前は某球団の名誉監督か」

「比企谷はどうやる?」

「俺の場合はお前らと違って打点が高くないから、高いブロック来た時に手首軽く反らしてわざとフカす感じにして、相手の指を狙う形だな」

「よく咄嗟にできるな」

バレーボール談義に夢中になっていた。

 

 

スポーツのみならず、特定の物を嗜む人間たちが集まった場合に高確率で起きるのがそれについての談義、アニメ好きならアニメ、旅が好きなら旅、料理が好きなら料理と意気投合しその話で盛り上がる。

彼らの場合も例に漏れず、ドーナツ片手にバレーボールトークに花が咲いていた。また、今まで5人だった所に八幡という未知のバレーボーラーの情報という格好の肴があるため盛り上がりを見せ、八幡自身も今まで封印されていたバレーボール談義にテンションが上がり自分から進んで口を出すという、今までの彼には見られない行動だ。

 

 

ちなみに葉山は偶然居合わせただけだったらしく「用事があるから失礼するよ、またね」とバレー部……というより八幡に手を振り去っていった。

 

 

「そういえば稲村、一つ気になった事があるんだが」

八幡は話が途切れた瞬間を突き質問をする。

 

「なに?」

「お前のサーブ、何なの?あれは普通のフローターじゃないだろ?」

八幡が気になっていた稲村のサーブ、見た目こそ普通のフローターサーブだが、球威、球速、変化、どれをとっても異質な物だった。

 

「一応やってることは普通のフローターなんだけど、違いがあるとすればコレかな」

稲村は八幡の前に手の平を上に向け手を差し出す。

 

「?」

「俺の手、触ってみ」

「あ、ああ……」

基本的に同性異性問わず、手を添えるタイプの店員さんからおつりを貰うときくらいしか手の触れ合う機会に恵まれない八幡は若干緊張した面持ちで稲村の手を触る。

 

(何だこれ?硬い!皮が厚いとかそんな問題じゃない)

今まで見たことのない手に驚愕しつつ観察する。

 

(掌の筋肉が異常に発達してるんだ……。普通の手で打つサーブがクッションつけた手だとするとこの手は固いもので直接打つような物、確かにこれなら球威やあの奇妙な回転も納得いく。)

 

「多分俺のサーブが周りと違うのは手の硬さと体の使い方」

 

「使い方?」

 

「俺、幼稚園の時からフルコン空手の道場通ってるんだ」

 

「空手となんの関係があるんだ?」

 

「サーブやスパイクの時ボールに威力通すように力入れたりするだろ?空手の場合も同じ、それどころか相手を倒すという性質上、バレーより威力を対象に伝達させるんだ」

野球でバッティングの際に球に威力を乗せる練習としてバットをサンドバックやミットに打つ練習をすることがある。稲村の場合幼い頃からそれと同じような威力を伝達させる稽古の反復を何度も行っていた為、体に力の入れ方が染みついているのだ。

 

「なるほどな、手を含め一朝一夕じゃ真似できそうにないな」

稲村の手を離し、自分の手と比べながら八幡はつぶやく。

 

「まあな、作ろうとしたら多分この手出来る前に卒業しちまうわ」

彼が幼少期から体を凶器にする為の稽古を10年以上重ねてきたからこそできた体、それを少ない可能性を信じて短期間で習得させる努力をするくらいなら、バレーの為のスキルとフィジカルをやりこんだ方がはるかに効率的かつ確実だ。

 

(習得は無理にせよ、仕掛けが分かって良かった)

八幡はホッと一息つきドーナツを口に運び、コーヒーを流し込んだ。

 

 

 

―十数分後―

「それじゃまた明日な!」

「おう!」

「また明日!」

店内を後にした6人はそれぞれ自転車に乗り家路につく。

 

 

「さて、晩飯どうするかな……」

家路につく帰り道、八幡は悩んでいた。

 

(今日も両親は帰りが遅く、小町も塾で飯は家に準備されていない……店屋物でもいいが、これでも俺は専業主婦希望、たまには自炊も悪くない)

 

(とりあえず近所のスーパー行ってから決めるか、やっぱ作る気力無かったら弁当か惣菜ですませばいいし)

行先と目的を決めると、八幡は自転車のペダルを踏みしめ駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

―近所のスーパー―

自転車を止め財布の残高を確認し、カゴを手に取り店内へ。

店内、特に惣菜コーナーは仕事帰りの社会人や見切り品目当ての主婦などでかなりの人がいる。

 

(ステルスヒッキーを使えば何かありつけそうだが、あの中行くのは正直怠いな)

おばちゃんやリーマン達と惣菜奪取作戦するくらいなら飯作った方がマシ、八幡はそう判断する。

 

「とりあえず、適当に店内を回って、いいのあったら買って、それを軸に何作るか考えるか」

そうつぶやき、総菜コーナーを後にした。

 

 

そして

 

先ずはお肉だろ、という志向に至った八幡は食肉コーナーへ

 

 

 

「おっ!ベーコン安い」

手に取ったのはスライスベーコン、100g178円と元々安価だったのが見切り品の為半額になっている。

 

(家では朝食は、かなりの確率でベーコンエッグになる、賞味期限は今日までだがこの価格は魅力的だな、おまけにベーコンは加工肉だから賞味期限過ぎても普通の肉より日持ち効がくし最悪冷凍すればいい……。単価で見ても普通の豚バラ肉よりお得、4パックだし買い占めるか)

半額の値札がついたベーコンを次々カゴに入れてい行く。

 

 

(他は、牛は全体的に高いな……値引きシールついてるやつは国産のブランドだから単価高いし除外するとして、豚は今日はそこまで良いの入ってないな、冷蔵庫にもち豚のスライス入ってるから今回はパス。となると鶏肉だな)

 

 

「あっ!」

「……ん?」

何かを発見したような声、八幡は反応しその声の方を向く。

 

 

「あ、えっと……こんばんは」

声の主は同じクラスの川崎沙希だった。

 

「あ、ああこんばんは……えっと……(川、なんだっけ?あ、そうだ!サキサキだ!)サキサキ」

「っ!!サ、サキサキ言うな!ぶっ殺すよ!!」

顔を真っ赤にさせ物騒な反応をみせる。

 

「す、すまん」

「……まあ、いいけど」

テレを隠すように、そっぽを向く。

 

(それは呼んでいいという意味か?)

多分違うがそう解釈。

 

 

「あんたも買い物?」

再び八幡の方を向く沙希。

 

「ああ、晩飯の買い出しだ、まだ何作るか決めてないけど」

何せカゴの中にはベーコンしか入ってない、八幡はカゴの方を見る。

 

「ふ~ん……って!それ!?」

沙希は八幡のカゴに指をさす。

 

「ん?ああ、ベーコンが安かったから買い占めた」

「そ、そうなんだ」チラチラ

沙希は半額シールのついたベーコンに視線を送る。

 

(今年の春、親戚から大量に送られてきたアスパラがまだ冷凍庫にあるんだよね……大志たちアスパラベーコン好きだから作ってあげたいし、冷凍庫の中もそろそろスペースが欲しい、けど普段ベーコンは高いから中々手が出せない、でも欲しい!けど分けてとか言い出せないし……)チラチラチラ

 

 

(こいつ、あからさまにベーコン見過ぎでしょ!)

(……そういえばこいつの家、生活苦しいんだっけ?)

八幡の頭に浮かぶのは大志の依頼の件、沙希が夜に無理してバイトしていた時のことを思い出す。

 

 

「ベーコンいるか?」

「えっ!?い、いいの?」

「ああ、腹減ってたからつい無駄に買っただけだし、買いすぎたなと思ってたから」

(こいつの家族構成と育ち盛り3人もいる状況から垣間見いて……こんくらいか)

八幡はカゴに入ってるベーコン4パックのうち、3パックを沙希のカゴに入れる。

 

 

「えっ?」

カゴの中に入れられたベーコンを見て沙希が声を上げる。

 

「多かったか?だったらあっちのコーナーにでも戻してくれれば助かる。」

大丈夫なのを分かっていた上で八幡が言う。

 

「全然大丈夫!!」

首をブンブン振る沙希。

 

「そいつはよかった、おっ!鶏肉安いな」

特売価格になっている鶏もも肉を手に取りカゴに入れる。

 

「比企谷!」

「ん?」

「……ありがと!」

沙希は満面の笑みを八幡に向ける。

 

「っ!!買うのはお前だし別に気にすんな」

(こいつ、かなり美人だから笑うとドキッとくるな……俺じゃなかったら堕ちてるぞ)

 

「あんた、相変わらずだね」

八幡の返しにクスリと笑う。

 

「まあいいや、また明日」

「おう、またな」

沙希は上機嫌で手を振り去っていった。

 

 

「もう少し店内ぶらついてから帰るか」

八幡は再び歩き出し、適当にカゴに突っ込み帰宅した。




次回は一度、閑話をはさみその後本編に入ります。

早くて来週、遅くても再来週には更新したいと思います。


今のところ奉仕部が空気気味ですが、ちゃんと本編に絡みだす予定なのでご安心を。

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