俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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一応本編と繋がってますが、基本ベースは思い出話と料理話なので閑話という扱いにして、次から本編再開です。


―閑話― 想い出の味

―比企谷家―

 

「ただいま」

「ニャー(袋からやけにいい匂いしてんじゃねえか)」

帰宅した八幡を飼い猫のカマクラが出迎える。

 

キッチンに行き、食材をいったん冷蔵庫に入れてから自室に戻り着替え、再びキッチンへ。

 

マイエプロンをつけて手を洗う。

 

 

「ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん、ピーマン、カボチャ……腐りにくい野菜は一通りある。ベーコン、鶏肉、キャベツ、レタス、白菜、長ネギ……けっこうあるから何かしら作れるな」

食材を調べながら自分の料理のレパートリーから選び出す。

 

「親子丼にでもするか」

この中の食材で比較的簡単に作れ、なおかつお腹にたまる料理。八幡の女子力脳は即座に親子丼という料理を選択する。

 

「……ちっ、ご飯がない」

ジャーの蓋を開け、空っぽであることに気付く。

 

「今から炊くと時間かかるし、土鍋で炊くのはめんどくさいから……麺類か」

乾物入れの引き出しを開け、乾麺を確認する。

 

「無難にパスタでいいな」

スタンダードなパスタを取出し、鍋に水を入れ火をかける。

 

 

パスタ

一人暮らし、料理を始める者、一般家庭、と使用する層の幅が広い定番の麺であり、入れる具や味付けなどで様々な姿に変化する多様性に優れた食材。

将来は専業主婦と豪語する八幡にとって、この食材には何度も助けられている。

 

 

「何のパスタにするかな?」

腕を組み、少し思案する。

 

 

 

 

(『お兄ちゃん!私パスタが食べたい!!』)

まだ小町が幼く八幡がよく面倒を見ていた頃の事、パスタという言葉に連想され、突如思い出される昔の記憶。

 

 

 

 

 

 

―数年前―

まだ小町が幼く、共働きの両親に代わり八幡がよく面倒を見ていた頃。

 

(炊飯ジャーを開けたらご飯がない)

今日の晩御飯は何を作るか……八幡は頭を悩ませていた。

 

 

「お兄ちゃん!私パスタが食べたい!!」

小町が手を上げ、八幡に主張する。

 

「小町、何のパスタが食いたいんだ?」

一口にパスタと言っても色々ある、小町は何のパスタが食べたいのか分からない、八幡は小町に問う。

 

 

「んとね……ケチャップいっぱいのパスタ!」

小町が体と声で表現しつつ八幡に伝える。

 

「ああ、ナポリタンね」

それなら今ある食材で何とかなる、八幡は早速準備に取りかかる。

 

「時間かかるからカマクラと遊ぶか、テレビでも見てろ」

「うん!」

小町は八幡に笑顔を向けると、居間へ駆けていく。

 

 

 

 

(とりあえず最初に、鍋に水をはって火をかけてと)

 

 

「……じゃあとりかかるか」

彼を表すかのような漆黒のエプロン、胸元に猫のアップリケ、ワンポイントだがこれが八幡専用エプロンの印、それを着用し手を洗う。

 

タマネギ、ベーコン、ピーマンといった具材を切っていき、続いてフライパンをスタンバイし火をかけ、八幡は冷蔵庫からマーガリンを取り出す。

 

 

「前行った喫茶店、作ってるとこ見たら油ひかないで、代わりにマーガリン入れてたんだよな」

こんなもんかなと適当にぶち込みバターを溶かす要領でマーガリンをひいていく、甘いような独特な匂いが立ち込める。

 

「いけね!換気扇忘れてた」カッチ

換気扇のスイッチオン。

 

 

「おっと!沸騰してきた」

火を弱め、小さい鍋に少しお湯を取り分け、大鍋にパスタを入れる。

 

小鍋にコンソメと少量のタマネギベーコンをいれ、軽くコトコト煮込み、胡椒に香り付け程度の醤油少々、彩程度にパセリをパラパラ。

 

スプーンで汁を取り、口に少し入れ味見をする。

「よし、スープは完成だな」

 

 

続いてフライパンに具材を入れ、軽く塩と胡椒をかけフライパンを回しながら炒める。

 

(炒め物でフライパン回して炒めてる時って、何か料理してるって感じでカッコいいよな)

自分の料理してる姿を想像し自分が“もこみち”になったかのような気分になる。オリーブオイル使ってないけど。

 

「おお!」

アホ毛を揺らしながら調理中の八幡を眺める小町。

 

「どうした?」

居間にいるはずだった妹に声をかける。

 

「そのフライパンで、シャン!シャン!シャン!って振り回すのカッコいいなって!」

ハイテンションになりながら八幡の手ぶりを真似をする。

 

「小町も料理するようになればそのうちできるようになるさ」

「本当!?」

「ああ本当だ」

「おお!私頑張る!」

小町は頑張るぞ!と手を握りしめエイエイオーする。

 

 

「それじゃご飯出来るの待ってるね!」

小町はパタパタとスリッパの音を鳴らし居間へ戻る。

 

「今から始めるんじゃないのね……」

軽くため息をしながら料理を続けた。

 

 

 

「パスタはいい感じかな?」

菜箸でパスタを一本取り指でちぎり口に運ぶ。

 

 

 

 

「もう少し軟らかめがいいな」

もう少し茹でるか、と菜箸を置き、皿やザルを出したりケチャップを取り出す等、別の準備をする。

 

 

「こんなもんか」

再び味見をし、大丈夫と判断した八幡は、鍋を掴みザルにあけ麺を濾し、ザルを持ち上げ水気を切り、フライパンに投入する。そしてケチャップを投入しガンガン炒めていく。

 

「よしできた!」

火を止め皿に装い、再びケチャップをかけ、その上に粉チーズをかける。

 

 

「小町!できたぞ~!」

「は~い!」

 

 

 

 

―居間―

テーブルにナポリタンとスープを並べ、八幡と小町はお互い向かい合うように座り

 

「「いただきます」」

行儀よく手を合わせいただきますをする。

 

 

「うまうま」ズルズル

小町はお世辞にも行儀がいいとは言えない音をさせながらパスタをススる。

 

 

「小町、パスタ食べるときあんまり音立てない」

お兄ちゃんな八幡は妹の将来の為に注意。

 

 

「お母さんみたいなこと言わないでよお兄ちゃん……小町的にポイント低いよ」

この頃から既にポイント制は開始していたらしく、八幡に低評価がつけられる。

 

「妹の将来の為だ」

当時の彼には、“将来養ってもらわねば困るからな”という言葉はつかない模様。

 

 

「でも、お父さんは小町ならそのままで構わない!!って言ってたよ」

「……母さんは何も言わなかったのか?」

「その時は、お父さんにこっそりお店に連れてってもらったときだったから」

「あのバカ親父……」

後で母に告げ口だな、と八幡は誓った。

 

 

「とりあえずこれで口拭け!」

こんなこともあろうかと、こっそり電子レンジで温めておいた、おしぼりを渡す。

 

 

「おお暖かい……小町的にポイント高いよ、お兄ちゃん」

口元を中心にフキフキ。

 

 

「それなら、食べる時になるべく口元に気を付けて、あんまりすすらないようにな」

「やっぱポイント低い……」

地味に口うるさい兄にに対しぼやく小町。

 

 

「お兄ちゃん」

「ん?」

「おかわり!!」

自分の作った物を美味しそうに食べる姿、作った者が味わえるその幸福感に、八幡の少し頬が緩む。

 

「ほらよ」コトッ

「ありがと!」

「おう」

 

 

 

―そして―

 

「「ごちそうさまでした」」

二人手を合わせ行儀よくごちそうさまをする。

 

 

「お兄ちゃん」

「ん?」

「また作ってね!」

「その内な」

小町の要望にそう返すと、食器を手早く片付けキッチンに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

―現在―

 

「あれ以来、俺が飯作るとき小町はよくナポリタン要求してたな」

自分の作った料理を美味しそうに食べる妹、その姿を思い出し思い出し少しクスリと笑う。

 

「今じゃ小町が料理番だから作ること無くなったけど……」

そう呟くと思い出される喧嘩して気まずい状態の妹と自分の状態、本当は早く仲直りしたい気持ちと素直に言えない自分に対するもどかしさ、その気持ちを表すかのように俯く。

 

 

「小町の分どうするかな」

もし小町が食べなかったら明日の朝でも食べればいい、そう判断し顔を上げ

「……ナポリタン作るか」

気合いを入れるようにパン!と手と手をぶつけ、調理を開始させる。

 

 

 

 

―比企谷家付近―

 

「お兄ちゃんに一体何が……」

見た目は子供、頭脳は大人な少年のように顎に手をあてたポーズをしながら考える小町、その頭に浮かぶのはここ最近おかしい兄の言動。

 

食事中に何か考え事してたかと思えば、問いただした時に反発するかのような態度、そして湿布の匂いに早朝の走り込み。

(……前者は多分、雪乃さんや結衣さんと何かあったんだと思うけど、後者が分からない)

何せ普段から低燃費を体現するかのような行動の多い八幡の行動、だからこそ彼の行動に驚きを隠せない。

 

「走り込みするお兄ちゃんなんて、まるで……」

八幡のバレー部時代を思い出す小町。

 

「でもお兄ちゃんが今更バレーをするわけ……」

兄がチームからバレーから離れるきっかけになった試合、そしてその後の彼への風当たり、それを見てきた小町だからこそ彼がバレーボールに戻るはずないと考えている。

 

 

そんな兄の事を考えてるうちに自宅につく。

 

 

「ただいま」

玄関をあけ靴を脱ぐ。

 

(お兄ちゃんは帰ってきてるけど……何?この匂い)クンクン

その甘ような匂いに小町は、懐かしいような、それでいて心が踊るよな感覚。

 

小町は自分の部屋に戻る前に居間の扉を開ける。

 

 

(お、お兄ちゃんが料理を作ってる!本当にお兄ちゃん?)ポカーン

最近の彼の奇妙な行動、それが継続されてることに唖然とする。

 

 

「おう、おかえり」

エプロンをしめ、調理中の八幡が小町に気付きおかえりを言う。

 

「た、ただいま」

「……飯食ったか?」

「ま、まだだけど」

「ナポリタンでよかったらあるが食うか?」

「う、うん」

「分かった」

キッチンから顔を出した八幡は再び戻り、小町は着替え&カバンを置く為一旦部屋へ。

 

 

「?????」

まるでメダパニをくらったように混乱し頭の回転が追い付かない小町……だが。

 

「ナポリタンか」

昔、兄がよく作ってくれたナポリタン、塾から真っ直ぐ帰宅し何も口にしていない小町の胃は先ほどの匂いと相まって食べ物を欲している。

 

「とりあえず今はナポリタンを食べよう」

食欲を前には兄との喧嘩など些細な物、着替えを終わるとそそくさと居間へ向かった。

 

 

―数分後―

「「いただきます」」

昔と同じ配置と同じ食器、違いがあるとすれば向かい合う二人の成長した姿。

 

 

(私が料理するようになって結構たつけど、このナポリタンと炒飯だけはお兄ちゃん作った方が旨いんだよね)

麺をフォークに巻いていく。

 

(茹ですぎた麺、かけ過ぎなケチャップ、微妙に焦げたケチャップと麺、料理という意味で見ると粗末な出来のはずなのに……)

口に含むと広がるケチャップの酸味と甘み、ベーコンやタマネギ、ピーマンの味、粉チーズ、それらが一体となり、ねっとりと舌の上で絡み合い、麺を噛むとホロリと噛み切れ、口の中でジュワーッと広がる。

 

(悔しいけど旨い、私作ると何故かこのねっとり感が出ないんだよね)

空腹と相まってか、食べる手が止まらず次々と口に運んでいく。

 

(そして、口飽きした時の箸休めになるスープ)

コンソメ、ベーコン、タマネギのシンプルなスープ、ベーコンの旨味、タマネギの甘み、コンソメの深みがバランスよく同居し、どれも出しゃばることなくスープとしてそれぞれの役に徹する。

隠し味程度の醤油が少しの芳ばしさを、胡椒がほんのりとアクセントに、それらがメインのナポリタンと喧嘩しない味わいに仕立てている。

 

(この味変わらないな……)

変わらずに旨い。

 

 

喧嘩して以来口数の少ない食卓

 

(だけど、それは今までと違ってなんだか嬉しい)

小町は空になった皿を手に取り

(本当は聞きたいことや言いたい事いっぱいあるんだけど……)

彼女が今言いたいことはただ一つ。

 

「お兄ちゃん!」

「ん?」

「おかわり!!」

「っ!!」

八幡の脳裏に、昔の小町の「おかわり」をする姿と今の姿が重なる。

 

 

「ほらよ」コトッ

八幡はあの時と同じように皿を置き

「ありがと!!」

小町もあの時と同じように笑顔を向ける。

 

「おう」

久しぶりの妹の笑顔、つられて八幡も笑顔になる。

 

 

二人の間に出来たいた蟠りと距離、元に戻せるかもしれない、言えるかもしれない。

 

 

けど、今はこの味をたのしむことにしよう。

 

 

そう心に決め、二人は思い出の味を穏やかな笑顔で味わった。




日常系の話より料理の方が書きやすくていいですな。

次回の更新は例のごとく、早くて来週、遅くて再来週になります。

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