俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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今回の話は前編と後編に分かれます。


それぞれの向かう先 ―前編―

「ハァハァ……」

汗が滝のように流れ、心なしか息も荒い。

 

「暑い……」

恐らく今年感じた暑さの中では一番なのだろう、夏とは一線を画す状態に思わず言葉が漏れる。

 

「なんでここにいるんだ?俺は……」

思わず口に出る弱音、今の比企谷八幡の心理状態はその言葉で支配される。

 

 

「そりゃ、男と男が語り合うなら温泉かサウナに決まってるからじゃないか」

「だな!」

「間違いない!」

八幡が漏らした疑問に七沢がさも当然のように八幡の疑問に答え、飯山と稲村が深く相槌を打つ。

そう、八幡とバレー部は某千葉にある温泉に来ていた。

 

 

「えっ?これ常識なの?」

「もちろん!」

「ワールドワイドに常識だ!」

「ああ、昔からの定番だ!」

(常識じゃないから安心してください比企谷先輩)

(ワールドワイドというより局地的です)

八幡の疑問を打ち消すように3人は各々がイエス!と押し付け、一年の長谷と温水が心の中でフォローとツッコミを入れる。

 

 

(俺、選択肢を間違えたか?)

男6人が裸になりサウナで汗を流す状態、八幡を不安が襲う。

 

これがアニメや漫画ならサービスカット回にでもなるような状態、何故こんな状態になったのか?それは先日の事。

 

 

 

―先日の放課後―

生徒指導室を後にし、八幡はどこか神妙な面持ちで廊下を歩いていた。

 

 

「……」

頭に浮かぶのは奉仕部の事、そして雪乃の事。

 

「行くか」

八幡は体育館へ向かっていた足を止め、仲違いしてから顔を出していない奉仕部へと足を向けた。

 

 

 

―奉仕部―

放課後、当たり前のようにこの教室へ行き開けていた扉、その扉に手をかける。

ほんの少しの力で開くはずのそれも心なしか重たい、八幡はゆっくりとその扉を開ける。

 

 

「ヒッキー!!」

まさか八幡が顔を出すとは思ってなかったのか、結衣はパァァと笑顔になる。

 

 

「よお」

「どうしたの?」

「聞きたいことがあってな」

「……」

「聞きたい事?」

「ああ」

八幡はそう返答すると先ほどから無言でこちらを見ている雪乃の方を向く。

 

 

「お前、自分が生徒会長に立候補するつもりなのか?」

雪乃が立候補するという事実、そんな事分かっている、それでも八幡は雪乃に問う。

 

「え……?」

おそらく聞いていなかったであろう結衣は驚き、雪乃の方を向く。

 

「由比ヶ浜さんには後で相談しようと思ってたんだけど」

「それは相談じゃなくて事後報告だろ」

(つまり、こうするつもりで行動してたという事か……)

八幡はチラリと二人を見る、雪乃の目は感情を内に隠したような表情、結衣は突然の事に顔を伏せている。

 

「誰かを擁立するんじゃなかったのか?」

「それは最初に貴方が否定したはずよ」

「それに現状で私以上に適任者はいない……何より私はやっても構わないもの」

その言葉に静寂が流れる。

 

 

その時だった

 

 

「失礼するよ」

葉山がノックのをして入ってくる。

 

 

「……葉山」

「君も来てたのか比企谷」

葉山は八幡に笑顔を向けながら近づく。

 

「ごめんなさい、わざわざ来てもらって」

(わざわざ呼んだって事は応援演説でも頼んだのか?確かにこれ以上にない人材だが)モヤッ

理屈では分かっているけど何かヤダ、八幡の心に地味なモヤッと感が出現、そんな中葉山が口にした言葉は意外な物だった。

 

 

「そのことなんだけど雪ノ下さん、俺は応援演説をお断りさせてもらうよ」

「「「……え?」」」

みんな仲良くがモットーの葉山、そのまさかのお断りの言葉に3人が固まる。

 

 

「理由を聞いてもいいかしら?」

想定外の事に動揺を隠しつつ雪乃が問う。

 

「目標が出来たことと、負けたくないからかな」

「負けたくない?」

「うん」

葉山は雪乃にそう返答し、力強い瞳を八幡に向け……。

 

「俺には目標が出来たからね」

そう言い放った。

 

ここに某腐ったクラスメートがいたら血の雨が降り注いだであろう……。

 

 

「部活あるから失礼するよ」

葉山はあっけに取られている3人を他所に奉仕部を後にし。

「俺もお暇するわ」

八幡もそれに続くように奉仕部を後にした。

 

 

 

 

―廊下―

「なあ、葉山」

「なんだい?」

「お前、何で雪ノ下の応援を断ったんだ?」

葉山らしくない、そう感じた八幡は雪乃と同じように真意を問う。

 

 

「何で?と言われても、さっき言った通りだよ」

「お前にとってその目標は重要な事なのか?」

あの“みんなの葉山君”な葉山隼人が幼馴染である雪乃の頼みを断る、八幡にはそれが不思議で仕方なかった。

 

 

「君はうちのサッカー部をどう思う?」

「サッカー部の事は知らん」

「君らしいね」

苦笑いをしながら髪をかき上げ呟く。

 

 

「じゃあ質問を変えるよ……体育でのバレーの試合、俺のチームはどうだった?」

「印象は、お前らしいチームってとこだな」

「俺らしい?」

「ONE FOR OLL、 ALL FOR ONE、一人は皆の為に、皆は一人の為に……お前にピッタリじゃないか」

文化祭でのスローガン決めの際、葉山が好きといった言葉を思い出し口にする八幡。

 

 

「それは皮肉かい?」

「そのままの意味だろ、あのチームは葉山隼人のチームってことだ、皆は葉山の為にプレーし葉山は皆の為にプレーしてた。お前を中心として、まとまっていたな」

「本当に君ってやつは……」

よく見ている、聞こえないように小声で呟く。

 

 

「君が本気を出してれば接戦どころか、うちが大差で負けてたはずだろ?なのに君はチームを優先した……そしてチームプレイでも俺は君に勝てなかった」

葉山のチームが葉山隼人に繋ぐチームなら、八幡のチームは全員が繋ぐこと、ボールを落とさない事を念頭にチームプレイをしていた。

みんなの葉山君より、嫌われ者のヒキタニの方がチームをまとめていたのだ。

 

 

「正直な話、サッカー部もそうなんだ、自惚れ抜きにチームの中心は俺、一緒にツートップを組む翔も結局は一歩引いて俺に繋ぐことが多かった」

葉山はそう口にし少し俯く。

 

 

「でも、体育の試合の後から翔が変わったんだ」

「戸部が?」

「ああ、練習試合の時に俺が厳しいマークにあってどうしようもなかった時、翔が無人エリアに突っ込んで、自分からボールを要求したんだ、俺に持って来い!って……そしてゴールを決めた」

「翔がゴールを決めた時凄い盛り上がったんだ、劣勢だったチームの流れもそこから変わりだしてうちのチームが勝った」

「それは良かったじゃないか」

そう、良いことなのだが葉山の顔は晴れやかではない。

 

 

「その時、俺は思ったんだよ、ムードメーカーとしての翔をキャプテンの僕は生かしきれてなかったんじゃ?このチームは、それぞれがもっと輝ける個の力があるんじゃ?って」

「……」

葉山の独白に八幡は無言で聞き入る。

 

 

「そんな時、たまたまバレー部の練習を見たんだ」

「セッターをしていた君は、トス一つにしても、チームメイトの力を引き出すようにしていて、皆もそれにつられるように生き生きとしていたよ」

葉山は八幡をじっと見つめる。

 

 

「買いかぶりすぎだ」

普段あまり褒められることのない八幡にとって、こうストレートに言われる事は慣れてない、葉山から目線を逸らし頬を掻きその言葉を否定する。

 

 

「君は自分の価値を正しく知るべきだ……君だけじゃない、周りも」

「お前、何言って……」

突然の事にあっけにとられ、反論しようとする八幡だが、葉山はその言葉にかぶせるように言葉を重ねる

 

 

「俺は君の価値を知っている……だからこそ俺は一人の選手として君に負けたくない!競技は違うけどチームを勝利に導く選手として君に勝つ!その為にも今は部活しか……いや、サッカーしか頭にない」

「それが、俺の負けたくない理由で目標だ」

言いたい事を言えて少しすっきりしたのか、その顔は穏やかなものとなる。

 

 

「俺はそんな大それた選手でもないし、バレー部も練習試合までだ」

「かまわないさ、これは俺が君に対して一方的にライバル宣言してるだけだからね」

葉山は八幡の否定の言葉を受け取りつつ、自分の考えを曲げない。

 

 

「……比企谷」

「なんだ?」

「君には負けないよ」

葉山は拳を前に出す。

 

「勝手にしろ」

八幡はその拳をノックするように軽く小突き、バレー部へと歩き出す。

 

「ああ、勝手にするよ」

葉山は拳に残った感触の余韻を確かめるように見つめ、グラウンドへと歩き出した。

 

 

 

 

―バレー部室―

バレー部ではすでに練習が行われている為か、部室は八幡一人、筋肉痛で痛む体をぎこちなく動かし制服を脱ぎ運動着に着替え、バレーシューズに履き替える。

 

 

「今は余計なことを考えてる場合じゃないな……」

部活中は余計なことを考えずバレーに集中、ほかの事を考えるのはケガに繋がりかねない。

 

八幡は深呼吸し気持ちを入れ替え、部室の扉を開け、体育館へと向かった。

 

 

 

―体育館―

「すまん、遅れた」

「まだアップ開始したばかりだから大丈夫だよ」

見た所まだ輪になって柔軟を始めたばかり、八幡もその輪に加わり柔軟を開始した。

 

 

 

 

―1時間後―

アップと基礎トレが終わり、以前やった3対3ではなく2対2の試合が行われている。

特定の選手だけが重ならないよう調整しひたすら行う、ポジションがセッターの八幡とはいえ、この形式での試合はセッターなどポジションの概念が薄い、その場で出来る選手が臨機応変に対応する事になる。

 

Aチーム 七沢 長谷

Bチーム 八幡 稲村

 

 

「手加減しないぞ比企谷!」

「元からしてないよねお前?」

 

 

「あ、そうだ稲村」

八幡は稲村に近づき耳打ちをする。

 

「分かった頃合いが来たらやってみる」

 

ピィィィ!!

試合開始の笛が鳴る。

 

 

サーブはAチームから

七沢が後方に下がりサーブの準備をする。

 

(稲村と比企谷はどっちもレシーブは上手い……なら、かき回すか)

床に数回ボールを叩きつけ、上がったボールを救い上げるように拾い構えに入る彼独特のルーティンを入れ、助走をつけボールを上に放る。

 

 

((ジャンフロか?))

咄嗟に構える二人。

 

 

(かかった!)パンッ

七沢が打ったのは軟打、前に八幡が打ったのと同じようにネットギリギリを狙う。

 

 

「「セコッ!!」」

ボールはやや八幡寄り、八幡は滑り込み片手でなんとか拾う

 

「頼む!!」

「おう!!」

稲村が八幡の上げたボールを余裕が持てるようにセンターに高くトスを上げる。八幡はその間に起き上がり軽い助走からトスに合わせ助走をつけて跳び、長谷もそれに合わせてブロックに跳ぶ。

 

 

(やっぱ高いな、このブロック)パン

身長190センチのブロックは伊達じゃない、八幡は咄嗟にブロック目掛け軽く打つ。

 

「あっ!」

そのボールは長谷の手を弾き、カバーに入った稲村が拾う

 

 

「リバウンド!?」

出し抜いたと思った七沢がマジかよと声を上げる

 

 

「ナイスだ!」

チャンスボールになったボールを稲村がセッターポジションに向けて繋ぎ定位置のレフトに戻る

 

 

(どうする?比企谷は何をやってくる?)

七沢はすぐさま切り替えて攻撃に備える。

 

 

「行け!!」

セッターポジションからライトへのセミをバックで上げる

 

 

「「ライト!?」」

稲村はレフトにいる、審判と点数係の二人が驚愕の声を上げる。

 

 

「よし来た!!」

既にそのトスを待ち構えていた稲村はトスに向かって助走をつけて追いかけるように跳ぶ。

 

(あれじゃいくら稲村でも厳しいだろ?)

恐らくフェイントに近い形になる、そう考えた七沢は若干センターよりの前衛にポジションを取る。

 

(俺の考えが正しかったら、お前なら出来る)

(追い付いた!)

(ここで捻る!)クルッ

丹田に力を籠め外腹斜筋を絞るように力を入れて捻る。

 

(ターン打ち!?)

咄嗟の事に長谷は、ブロックのコースを考えることなく跳んでしまう。

一枚ブロック、だが七沢はセンターより前衛、インナーに打てば拾う可能性がある。

 

 

(今だ!!)バンッ

稲村はインパクトの瞬間ボールへのミートポイントをずらし小指と薬指、小指外転筋と短小指屈筋に力を込める。

彼得意の癖玉打ち、インナーへ向けた振り抜きのはずなのに、向かう先は敵の相手レフトの後方、ストレートのスパイクが決まる。

 

 

『これだっ!ていうような絶好のタイミングが来たら、俺がライトにセミを上げる、お前はブロードでターン打ちしてくれ、コースは任せる』

八幡が稲村に耳打ちした内容、稲村は先ほどのチャンスで今だと悟った。

 

 

 

(すごい……楽しい!!)ブルッ

自分でもわかる今までのバレーとの違い、スパイクが決まる快感が彼を包む。

 

 

「ナイキー」

「ナイストス」

軽くタッチする二人。

 

 

「すげぇ……」

笛を吹くことを忘れ呟く飯山。

 

 

(まさか稲村の癖玉打ちをこんな使い方するなんて……)ブルッ

七沢の頭に先ほどのプレーが蘇る。

 

 

(咄嗟の事への対応力に、味方の力を引き出すプレーと判断力……やっぱりお前が欲しいよ比企谷!!)

 

 

「楽しい……はやく続きやろう!!」

七沢の心に火が付く、バレーバカの彼にとって燃えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 




次回の更新はいつものように、早くて来週、遅くて再来週になります。
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