俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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今回は試合までの繋ぎから、試合開始です。


決戦は金曜日

―金曜日―

八幡は少し早く起きて、小町の作る朝ごはんを今か今かと待ちわびていた。

 

今日は練習試合、集まって練習した方がよいのでは?と思うかもしれないが今日は朝練がない。

 

万全のコンディションで試合に臨むのも大切な事。なので最初はゆっくり寝ようとしていた八幡だったが朝型のリズムに慣れてしまったのか早起きしてしまい、同じく目がさえたしまった小町と鉢合わせ。

 

試合なんだから朝ごはん食べなければ!お兄ちゃんへの勝負飯は私が作る!!そう意気込んだ小町は兄の為にせっせとご飯を作る。

 

 

「はいお兄ちゃん!」

炊きたてのご飯に味噌汁、焼き魚に肉じゃがにお浸しという和食のラインナップ。

 

 

「おう、いつもすまないねぇ小町」

 

「それは言わない約束だよお兄ちゃん」

お決まりのやり取りをし、二人向かい合って座り、いただきますをして箸をつける。

 

 

「今日の試合頑張ってね」

 

「おう!と言っても、たかが練習試合なんだけど」

 

「バレーしてるお兄ちゃんがもう一度見れるんだよ?本番も練習も関係ないよ!あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「最後のそれが無かったら最高点だったんだけどね」

いつものやり取り、いつものご飯。八幡はしっかりと英気を養った。

 

 

 

 

 

―放課後:総武高校2年F組―

 

放課後、花の金曜日という事もあり「今日の帰り何処か寄っていかない?」「あ、私カラオケ行きたい」などの会話が流れる。

 

そんな中、八幡はシューズバックを手に取り席を立とうとした。

 

……その時だった。

 

 

「やあ比企谷」

そんな彼に葉山隼人が歩み寄り声を掛ける。

 

「おう、じゃあな葉山」

取り付く島もない、そんな言葉が似合うほどそっけなくその場から離れようとする八幡。

 

「つれないなぁ、今日は野球部とラグビー部がグラウンド使える日でサッカー部が休みなんだけ―――」

嫌なYO・KA・N!

 

「そうか!ゆっくり休めよ」Bダッシュ

それをBI・N・KA・N!に感じ取った八幡はBボタンを押したようなの動きで逃げ出した。

 

「逃がさないよ比企谷」

 

「なっ!!」

しかし回り込まれたしまった。

 

 

「別にデートの誘いじゃないさ。今日の試合、翔と一緒に応援行くからね、頑張ってくれよ」

 

「たかが練習試合だろうが」

いちいち見に来んなよ、小声で呟く。

 

 

「でも、大事な試合でもあるんだろ?それに、僕が君に注目しないわけないだろ?前にも言ったけど、僕はいつでも君を(ライバルとして)見ているよ」バキュン!

手を銃の形にし、ウインクをしながら八幡に打つ。

 

「あれは絶対仕留める意思表示、バキュンポーズ!キマシタワーーー!!」

 

「これが噂のはやはち……すごい」

 

 

「どうすんだよアレ?」

 

「ハハハ……どうしようか?」

まさかこんな事になるとは、二人は苦笑いしながらその状況を眺めるしかなかった。

 

 

 

―その頃―

 

「どうしよう、試合間に合わないかも!」

よくよく考えたら彼女は徒歩、ここから総武高校は地味に離れている。このままでは練習試合に間に合わない、そんあ時だった。

 

 

「比企谷さん!」

 

「大志君?」

自転車に乗り、小町の前に現れた一人の男の子、川崎大志の姿。

 

「お義兄さんの応援、行くんだよね?乗って!」

 

「いいの?」

 

「言いにきまってるよ!俺も応援に行きたいし、飛ばすよ!」

小町を後ろに乗せ、大志はペダルを踏みしめ走り出した。

 

 

※この物語はフィクションです。

自転車の二人乗りは法律により禁じられております。

 

 

 

―体育館―

準備運動からパス練、サーブの練習の後にスパイク練習に移っていた。

 

 

(全体的に動きが良いな)

トスに対し、いつもならギリギリの打点でも余裕を感じるかのような動き、明らかにキレがある。

 

 

「うし!絶好調!!」

自分の上腕二頭筋をバッシーン!と叩き絶好調アピール。

 

「今日は皆やけに調子いいな」

稲村もそれは実感しているのだろう、自分の体がいつも以上に動く感覚、こんなに調子が良いのはあまりない。

 

「そりゃあ普段から強烈な筋肉痛含めた疲労困憊という足かせ着けてるような物だからね、今はそれがない。しかも今日に合わせて体のピークを持ってきてる。俺も体が軽いし、自分でも明らかに調子いいのが分かるよ」

七沢は肩を軽くぐるぐる回す。

 

「まあ、確かに調子いい感じだな。正直、眉唾だと思ってた栄養管理も馬鹿にはできねぇかもな」

ボールが手に吸い付くようにしっくりきて、どこにでもコントロール出来そうなトス感覚に落下点に入る早さ、八幡自身もその調子の良さを確かに感じ取っていた。

 

「当たり前だ!睡眠、食事、運動は体の基本!栄養はその礎!それなくして体は作れないんだぜ!!というわけで、俺の役目は終わった……。後は頼んだぜ皆!!」

その笑顔、まるで俺たちの戦いはこれからだ!みたいな顔。

 

 

「「「いや、バレーでも頑張れよ!!」」」

 

 

 

―数十分後―

千葉のインハイ代表校と総武高が練習試合をやる、その話は学校内でも結構な話題になっていたようでポツポツと人が集まりだしている。

 

「稲村、飯山、応援来たぞー!頑張れよー!」

 

「「おう!」」

 

「温水、長谷、しっかりなー!」

二人は恥ずかしそうに手を上げ返す。

 

 

「結構来てんだな」

たかが練習試合なのに、集まってくる生徒たちをみて八幡が呟く。

 

「まあ実際の大会と違って金曜の放課後でしかも相手はインハイ代表校だから無理ないよ」

 

バレー部もアップが一通り終わり、得点板などを準備し各自サーブ練習など自分のやりたいことをしていた時だった。

 

 

 

「お願いします!!!」

 

「お願いします!!!」×複数

海浜高校バレー部のチームジャンパーに身を包んだ集団が体育館に現れ、礼をし

 

 

 

「ついに来たな……集合!」

 

 

(……山北先輩)

海浜の選手の中にひと際威圧感を放つ一人の男に八幡の目線が向かう。

 

 

「今日は練習試合を受けてくれてありがとう、よろしく頼むよ」

監督が一歩前に出て挨拶をする。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!胸を借りるつもりでやらせていただきます」

七沢がキャプテンらしく受け答えする。

 

 

「うむ、じゃあアップしたいからコートの半面借りていいかな?」

 

「はい、自分たちはアップ終わったんで好きにお使いください」

 

「ありがとう。お前らアップの準備だ!!」

 

 はい!!

 

海浜の選手たちはバックからボールを取出し広げたカゴの中に入れだす。

 

 

「後、申し訳ないんですがラインズマンと審判やってもらっていいですか?ウチ人数ギリギリなので」

総武高校は現在6人、線審に審判をする余裕がないためお願いをする。

 

「ああ、こちらからお願いしたんだから構わないよ。そういえば3年は引退したみたいだね。インハイ予選の時は1,2年は5人だけだったけど誰か入ったのかい?」

そう言うと海浜の監督は

 

「はい、彼です。今回限りの助っ人なので春高予選は無理かもしれませんが何とか練習試合はできそうです」

 

「どもっ」ペコ

七沢に紹介され、八幡は軽く会釈し挨拶する。

 

「うむ(こいつ……どこかで)」

 

 

「……ん?お前、比企谷じゃないか!?」

かつてのチームメイトである海浜のキャプテン、山北が八幡を見てすぐに気が付く。

 

(げっ!!)

 

「だ、誰のことでしょう?自分はヒキタニって奴ですよ」

八幡は苦しい言い訳をしながらしらばっくれる。

 

「そ、そうか?」

そういえばアイツより背も高いし、目も腐ってるような……そんな気がする、そう思っていた時だった。

 

 

「ヒキタニ君!応援にきたっしょー!」

ギャラリーから一人の男が声を掛ける。

 

 

(ナイスアシストだ戸部!今のお前、最高に輝いてるっしょー!!)

普段あ、ありヒキタニとか間違った名前で呼ばれたくない彼も今だけは別、ヒキタニ最高と手のひらクルックルッ!

 

 

 

だがしかし!

 

 

 

「頑張れよ比企谷!」

その横で爽やかな笑顔と声を八幡に向ける一人の男がそれを台無しにする。

 

 

(葉山ぁぁぁぁぁぁ!てめぇ戸部のナイスアシストを横取りした挙句ゴール外すんじゃねぇよ!!)

10人中9人が爽やかな笑顔と言いそうな顔も、今の八幡にはミッドナイト・ステーション。

 

 

 

天使のような悪魔の笑顔である。

 

 

 

「やっぱり比企谷じゃないか」

 

「お、お久しぶりです山北先輩」

逃げ道はない、そう判断した八幡は素直に挨拶をする。

 

「ああ、バレー辞めてなかったんだな」

 

「いえ、3年ブランクあるので今回限りの数合わせの助っ人です」

 

「……そうか」

今回限り、その言葉を耳にし一瞬、寂しそうな目をし軽く俯く。

 

 

「残念だけど敵味方分かれた以上、本気でやらせてもらうからな」

再び顔を上げ力強い目で八幡をガン付けるかのように見据え言い放つ。

 

「お、お手柔らかに」

以前と違う山北の威圧感にたじろぐ。

 

 

「……」じーー

 

「ん?」

八幡は、もう一人の元チームメイトの小菅の視線に気が付く。

 

(お久しぶりです)ペコっ

 

(こいつ、直接脳内に!)

 

挨拶を済ませた両チームはネットを挟みそれぞれの場所に歩き出した。

 

 

 

「なんだよあいつ、まだバレーやってたのかよ」

 

「けど、あいつの無茶ぶりなトスじゃ誰もついてこねぇだろ」

八幡の元チームメイトの二人が、悪態をつきながら話をしている。

 

「でもデカいやつとかいるから少し跳ぶだけで合わせてくるんじゃね?」

 

「いや、一人は分かんねぇけど、もう一人……あれは明らかに見せかけの筋肉だろ?バレーボーラーの体じゃねえよ」

 

「だな!それに何だか馬鹿っぽいし」

 

「ハハハハハ!!」

 

「何無駄口叩いてんだお前ら?」ガシッ

スポーツマンシップに乗っ取らない二人の言動に気を悪くした山北がドスのきいた声を発し、二人の頭をガシッと掴む。

 

「「ひぃ!」」

 

「補欠の癖に威張ってんじゃねぇぞ!海浜の株下げてねぇで、さっさとアップしろゴルァ!!」

 

「「いだだだだだ!!」」

 

(山北さん、変わったなぁ……)

昔はあんなに優しかったのに。

 

 

「がるるるるるる」

筋肉含め馬鹿にされた飯山がどす黒いオーラを発する。

 

「落ち着け飯山、それは試合にぶつけろ」

そんな彼を稲村が怪我しない程度に腕を極め抑えつけていた。

 

 

 

 

海浜が淡々とアップをする中、続々と集まる観客の中に旗を持った男の姿。

 

「はちま~ん!!我が付いておるぞ~~!!」

炎に文字が描かれた旗をブンブン振っている材木座がそこにいた。

 

 

そしてそこに書かれた文字は……

 

 

 

 

 

 

“ 炎の男 HACHIMAN ”

 

 

 

 

 

 

「おお!何か分かんねぇけどカッコいいっしょ!!俺にも振らせるべ」

それを見た戸部が俺にも貸して!と旗を受け取りブンブン振りまくる。

 

 

「ヒキタニく~ん!」

 

 

「頼むから止めてお前ら!!」

色んな意味で際どい旗振り回すんじゃねぇ!恥ずかしさと相まって普段の彼には珍しく、声を荒げる。

 

 

 

 

 

「……間に合った」

肩で息をしている小町も現れる。

 

「あ、小町ちゃんこっちこっち!」

 

「あっ!結衣さん雪乃さんやっはろーです」

 

 

「ほら姉ちゃん、そんな物陰にいないで一緒にお義兄さんを応援しないと」

そんな中、端っこの方で隠れるように見ていた沙希をグイグイ引っ張る。

 

 

「な、なな何いってんの大志!あんた馬鹿じゃないの!?」

 

「馬鹿でも何でもいいから、こっち来なよ」

 

「お兄ちゃん!頑張れー!!」

 

「頑張りなさい比企谷君」

 

「ヒッキー頑張って!」

 

「はちま~んファイトだよ!」

 

「がんばってくださーい先輩!」

 

「ほら、姉ちゃんも負けてられないよ!早く行こう!」

 

「な、ななな何言ってんの大志!私はべつに!」

 

 

 

 

総武高校、海浜高校ともにアップが終わり、それぞれがベンチに集まる。

 

 

―海浜側―

 

「先ず最初は1,2年のチームで行く、春高予選まで時間が無いからもったいないが、新チームを想定した場合これほど理想的な対戦相手はいない、スターティングはこれで行くぞ!いいな?」

 

「レギュラーを出さないんですか?あいつらを舐めない方がいいと思いますが」

 

「なんだ山北、警戒してるのか?」

 

「どんな相手でもなにが起きるか分からないので」

 

「たしかに七沢は警戒が必要だろう2人高いやつもいる、だが、今日は練習試合だ。それに代えるのは1セット目だけだ。後はレギュラーで行く」

 

「ですが―――」

 

「うちは全国で戦うチームだぞ?これくらいやれないとな。今の総武高校にハンデつけて勝てないようじゃインハイの二の舞だぞ!」

 

「っ!!」

山北の頭に浮かぶのはインターハイでの試合、宮城県代表の相手に負け二回戦で敗退した試合。

相手のエースは自分と同じ左利きのオポジット、だがその差が試合の明暗を分けた。

あの時の悔しさが蘇る。

 

「他にないなら、それで行く!いいな?」

 

「はい!」×複数

 

 

―総武高側―

 

「海浜、レギュラー出さないみたいだな」

 

「ああ、舐められてんな俺たち」

七沢と稲村が舐めんじゃねぇぞゴラァな顔しながら怒りをこらえる。

 

 

「まあ、こっちは1,2年だけだし、数合わせしてやっとなチームだから無理ないだろ。むしろチャンスじゃねぇか?」

 

「どういう事ですか?」

八幡の言葉に長谷が反応する。

 

「今のとこ、あいつらはコッチを甘く見てる、少し細工するだけで簡単にリズム乱してくれそうだなって」

 

「ああ、確かに」

 

 

「筋肉馬鹿にするやつ、コロス……コロス!」

そんな中、まだ怒りが収まらないのだろう、飯山が黒いオーラを纏いながら物騒な事を口にしている。

 

 

(とりあえずコイツを利用しない手はないな)

 

 

 

―数分後―

総武高校と海浜が審判に分かるようにコートに立ち、スタメンを確認させる。

 

「では、今から練習試合を始めます。」

 

サーブ権は総武高校から、前衛は温水、飯山、稲村の三枚、サーブは八幡から、海浜はスタンダードにローテを回さず、総武高校はローテを2つ回してスタート。

 

 

「比企谷、ナイサー!」

稲村がボールを八幡に放る。

 

 

 

 

「あいつが助っ人か?」

ギャラリーで見ていた、元バレー部の三年生が清川に問う。

 

「ああ、そうだよ」

 

「いきなりサーブだけど、腕前はどうなんだ?相手は海浜だから運動出来る程度じゃ厳しいぞ」

 

「それなら大丈夫だ!なぁ清川」

八幡の実力を生で見た恩名は太鼓判を押す。

 

「……ああ、彼は強いよ」

 

 

 

 

(お兄ちゃん……頑張って!!)

 

(ヒッキー!)

 

(比企谷君!)

 

 

 

(相手はスタンダードな陣形でローテも回してない、小菅がバックセンターでややライト寄り。なら……)

八幡はエンドラインから離れた位置でボールを持ち相手を眺める。

 

三年前で止まっている八幡のジャンプサーブは七沢と比べ細かいコントロールできるほどではない、そこで彼が心がけているのがコートを狙う分割化、レフト側にライト側にとりあえず入れる真ん中、この3つに分ける事。

 

(狙うのは相手のライト側だな)

八幡はルーティンを入れる。

 

 

ボールを額の位置に持ってきて目を閉じ深呼吸、それが彼のルーティン。

 

このルーティン、選手によって様々あり、意味合いも個人によって異なる。

ジンクスの為、リズムを取るため、そして八幡が行うルーティンが集中する為。

 

バレーのルール上、笛が鳴ってから打つまで8秒の猶予がある。

 

最初聞こえる周りの喧騒がだんだん聞こえなくなり、数秒立つと一瞬静かになる。

 

観客、ベンチ、審判、そして選手、その全てが一つの場所に集まる。

 

 

その視線が集まった瞬間、最高の精神状態で回転を効かせた片手のトスを上げる。

そのトスの向かう先に3点助走、手首、肘、肩の関節、筋の伸縮、全てがかみ合ったスナップの振り抜き、強烈な打音。

 

弾速の早いジャンプサーブが海浜のコートを襲う。

 

 

「「「ウソーン!!」」」 by総武高バレー部OB達

数合わせと思ってた八幡のまさかのジャンプサーブに驚きの声を上げる。

 

 

(今のサーブ!)

どこかで見たことのあるルーティンとサーブに海浜の監督が反応する。

 

 

「くっ!!」

後衛のオポジットの選手がレシーブを弾く。

 

「すまん!カバー!!」

 

「早い!もうカバーに!!」

元リベロの恩名が呟く。

 

 

(助走見た瞬間、もしかしてと思って警戒してたけど、マジで一発目からかまして来たよあの人!本当にブランクあるの?)

八幡のサーブは強かった。それを覚えていた小菅がカバーすることも念頭に入れていた為、普通よりも早く一歩目を動けた。

 

小菅が上げたボールを、レフトの後衛が天井サーブのような高いボールで返す。

 

 

「チャンス!」

オーライと発し、温水が落下点に入り八幡がセッターポジションへ。

 

 

「あいつがセッタ―!?」

温水がセッターだと思ってたのが、まさかの助っ人がセッターにバレー部OBの一人が呟く。

 

※今後はOB1、2、3で行きます。

 

 

(比企谷先輩ならツーもあり得るけど今は後衛、ツーは無い!)

小菅は腰を低くし構える。

 

 

(いきなり来たチャンス、普通なら定石通りの真ん中(ミドルブロッカー)の速攻か、それを囮にした時間差。だが1年は浮足立ってる可能性が高い、あいつらの緊張を解き、相手の意表をつきインパクトを与え、相手のペースを崩す攻撃……)

 

 

 

 

―試合前―

 

「がるるるるる」

 

(最初は飯山を使う事にするか)

 

「これはチャンスだぞ飯山」

 

「何がだ!?」

 

「相手はお前の事を舐め腐ってる、そこで俺が一発目センターにオープンを上げる。お前は持ち前の筋肉とフィジカルで相手より高く跳んでブロックの上から叩きつける。筋肉を馬鹿にしたあいつらは面食らい意気消沈。これでどうだ?」

 

「筋肉馬鹿にした奴に鉄槌か!いいねぇ!」

 

(こいつ本当に乗せやすいな)

 

 

きっちり返ったAパス、八幡を知る選手が前衛にいる為、海浜はクイック警戒のリードブロックを念頭に入れ構える。

 

 

「センター!」

「センターオープン!?」

八幡が選択したトスはセンターオープン。

 

センターという相手レフトとライトが入って来やすい位置、そこへ上がったオープントスが意味すること。

 

 

(馬鹿な、せっかくブロックを躱したり振れるチャンスに3枚ついてくれと言ってるようなものだ!何の意味がある?)

海浜の監督が驚愕する。

 

 

(お前好みの超高め。決めろ、筋肉馬鹿!)

 

「せーの!」

海浜のミドルが合図を出し、三枚のブロックで跳ぶ……が。

 

 

 

(ブロックの上!?)

 

「うっしゃあ!!」バチン!

飯山の高校生離れしたフィジカルで海浜のブロックより上から強烈なスパイクを打ち下ろす。

 

 

「おー!すげー!!」

 

「良いぞ―飯山!」

ギャラリーから声援(野郎だけ)が上がる。

 

 

 

「なんだよ今の……」

海浜のミドルはフルでブロックに跳んだのに触れすらしなかった。その事実に動揺を隠せない。

 

 

「そういやお前、筋肉=馬鹿みたいなこと言ってたが、マッチョってのはな頭良くないとなれないんだぜ」キリッ

そんな動揺中の海浜ミドルに飯山が声を掛ける。

 

「えっ?」

 

「あとな、見せかけの筋肉なんてもんこの世に存在しねぇ、様は筋肉を上手く使えてるか否かなだけだ。筋肉なめんな」

 

 

 

総武高校 1 ― 0 海浜高校

 

 

「ナイキー」

 

「おう!ナイストスだ比企谷!」

 

 

 

「すげぇ!うちの高校ってもしかして強いの?」

八幡のサーブから始まったプレーでレベルの高さを感じ取ったのだろう、見物に来ていた男子学生に言う。

 

「そりゃあ、今年のインハイ予選で県ベスト8に入ったくらいだから強いだろ」

 

 

「まさかあいつは……山北を呼んでくれ!」

海浜の監督の脳裏に浮かんだとある選手、その姿と今の八幡がシンクロする。その確証を確認の為にマネージャーに山北を呼びに行かせた。

 

 

 

「なあ清川、あいつ何者だ?何か知ってるみたいだけど」

OB3が清川に聞く。

 

「何者って、彼はいいセッター、それだけだ。常に冷静にコートを把握し、前の事、現状の事、先の事、それらを踏まえて、その時最高の選択肢を出す。敵なら嫌だが味方なら頼もしい奴だよ」

 

 

 

 

「すごいねぇ!比企谷君は」

 

「姉さん、来ちゃったのね」

にょろーんと現れた陽乃に効かないであろう毒を吐く雪乃。

 

「そりゃあ大事な弟の試合だもん!是非見なきゃね」

そう言いながらコート上にいる八幡を見る陽乃。

 

 

(でも、今のはまだまだ序の口、君の力、ちゃんと見せてもらうよ。私を楽しませてね)

 

 

(陽乃さんのおもちゃを見るような目……そうとう彼を気に入ってるな)

葉山は苦笑いをしながら陽乃と八幡を交互に見つめた。




次回更新は早くて今週、遅くて来週の予定です。

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