俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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更新遅くなりました。

今回は1セット目まで行きます。


流れ

総武高校 6 ― 1 海浜高校

続くサーブ、稲村は今度はリベロを狙わず選手と選手の間にサーブを打ち込みミスパスをさせ2本目のサービスエースを取る。

 

 

ピィィィィ!!

 

 

海浜のメンバーチェンジ

リベロの小菅を残し、全員が交代する。

 

 

「来ちゃったか」

こんなに早くかよと言いたげな顔の八幡。

 

 

「ついにお出ましってやつだな」

飯山は相手のコートを見つめ、気合いを入れ直す。

 

「ついにって言うよりは、こんなに早くレギュラー来るとは思ってなかったけどね。どうする?このまま行く?」

七沢がプレーの確認をとる。

 

 

(どうする?)

八幡は少し悩む。

 

レギュラーが出てきたとはいえ点差は5点リードと有利、さっき言ったように真ん中(センター)中心で攻めるのがセオリーなのだが、問題は稲村のサービースエースの後のメンバーチェンジである事。

 

現状、流れは総武高なのは間違いない。

 

しかし、レギュラーに変わった今のタイミングで稲村のサーブを切られたら?

 

「……」

八幡はチラリと相手コートを見る。

 

(山北先輩は前衛か……。そうなってくると状況が変わる)

稲村のサーブでレシーブを崩し速攻を封じた場合、間違いなく山北で来る。

 

メンバーがレギュラーに代わった最初のプレー、速攻が乱された所でエースの一撃でもぎ取り4点差、そうなったら間違いなく今の流れは切れ相手に流れが行きかける。

 

(ここは相手を乗せたらダメな場面だ)

相手に流れを渡すなら、むしろ海浜に流れが行きかけた時にダメージを与えるべきだ。

 

メンバーチェンジしてすぐに点数を取り、このままイケる!海浜がそう思った時に流れを切るプレー。

 

 

 

自分のチームのムードを上げる以上に八幡が考える事。

 

 

 

いかに相手のムードを盛り下げるか。

 

イケると思った時に流れを切り相手をリズムに乗せない、そうなると、今までの総武高と違う、このまま楽には勝てないか、どうやって戦う?もしかしたらセットを落とすかも?

 

そう負の考えが頭に浮かんだだけでムードは簡単に盛り下がる。

 

 

八幡の性格上、やる事は一つ

 

 

「いや、この場合だと飯山に目が向けられてるうちにお前の速攻見せておいた方が良いかもしれねぇ。サーブレシーブがAパスかBパスきたら飯山のAを囮でお前の速攻で行く」

飯山が目立ってるうちに七沢の速攻を敢えて見せ、今後の駆け引きの材料を増やし、かつ相手のムードを盛り下げる、八幡はそれを選択した。

 

 

「おう!俺の筋肉で惹きつけてやるぜ」

 

「任せとけ!」

 

 

 

メンバーが入れ替わった海浜、唯一変わらなかった小菅の所にメンバーが集まる。

ほんの数回のローテだが、小菅はそこで得た情報をメンバーに伝えている。

 

 

「3番のサーブ、気を付けた方が良いですよ」

稲村のサーブを受けた小菅がメンバーに注意を促す。

 

「やっぱり、ただのフローターじゃないか?」

 

「あれは普通のフローターじゃないです。あんな乱回転の変なサーブ初めて受けました」

 

「確かに、あれはフローターと思わない方が良い、かなり特殊だ。それに球威と回転、伸び方もおかしい、最悪Aパス狙わずに上に上げる事を考えた方が良いかもな」

 

Aパスを狙わず上げる、それは即ちスーパーエースとしてオポジットに入っている山北にボールが上がるという事。

 

「そうなったらまかせろ、俺が決める」

その事を理解し山北がメンバーを鼓舞するように力強く答えた。

 

 

 

 

ギャラリーから眺めていたOB達もレギュラーが出てきたことを話題に上げていた。

 

 

「海浜はもうレギュラー出してきたな」

 

「そりゃあタイムアウトで流れ切った後にサービスエース取られてんだ。このままだと痛手じゃ済まない、妥当じゃね?」

 

「いずれにせよ、ここからが本番ってやつだな」

 

「ていうか……試合見てるとバレーやりたくて仕方ないな」

 

 

「なに言ってるんだ、俺たちのバレーはインハイ予選がラスト、後はあいつらに託したんだ!ここで見守ろう」

本当はやりたくて仕方ない!ちゃっかりバレーシューズを履き、つま先で床を突く様にトントンさせながらうずうずしていた清川がカッコつけた言葉を言う。

 

 

「「「「お前が一番やりたがってそうなんだけどね!」」」」

お前が言うな!そういわんばかりに一斉に突っ込んだ。

 

 

 

 

「ついにレギュラーがお出ましね」

 

「大丈夫かなヒッキー」

結衣は心配そうにバレー部、というより八幡を心配そうに見つめる。

 

「あいつなら大丈夫だ!信じるのも仲間の務めだぞ」

 

「あ、平塚先生」

小町はこんにちわとペコリと一礼する。

 

「あっ、やっはろー静ちゃん」

 

「その呼び方を止めろ陽乃」

 

「先生も応援に来たんですか?」

ここに来るという事はもしかして、戸塚が静に問う。

 

 

「ああ、それに奉仕部最後の依頼だからな、ちゃんと見届けないとな」

 

「「「「えっ!?」」」」

奉仕部が無くなる、奉仕部にある程度ゆかりがある数人には初耳だったのか思わず反応する。

 

「ほ、奉仕部無くなるんですか?」

戸塚が静に問いかける。

 

「無くなるというより形を変えるってとこだ、なあ雪ノ下」

 

「はい」

 

「……」

何か思うところがあるのか、葉山はその様子を、何か思うげに見ていた。

 

 

 

 

ピィィィィ!!

 

サーブは総武高、サーバーは稲村からのサーブ。

 

先ほどの小菅のカットを見ていたからか、全員が本番のように集中し、稲村のサーブに集中する。

 

 

「サーブ一本!」

「ナイサー!」

応援の掛け声が聞こえる中、1本目と同じフォームから繰り出されるサーブが海浜コート、今度はリベロのいない方へ放たれる。

 

 

(クソッ!)

バックライトにいた選手がカットするもののDパス、しかし高めのカバーしやすいボールを上げる。

 

 

(崩した!という事は……)

海浜がやってくる攻撃は一つだけ、総武高側もそれは分かってる。一人の選手に三枚のブロックの準備、後衛はその攻撃に備える。

 

「ライト!」

 

「山北!」

呼ばれた先へのトスが海浜のエース山北へと上げられる。

 

 

「せーの」

総武高は七沢の合図でブロックに跳ぶが、低い温水の上から打たれる。

 

腕の振り、ブロックの位置から予測していた稲村が飛びつきカットするが

 

 

「っ!!」

初めての左利きでしかも、大砲としても優秀な山北のスパイクに対応しきれず、カバーできないカットをしてしまう。

 

 

ピィィィィ!!

 

総武高校 6 ― 2 海浜高校

 

 

 

「すまん」

 

「カット出来そう?」

謝る稲村に七沢が聞く。

 

 

「慣れれば行けると思う、Aパス狙わず最悪CかDパスで上げるかもな」

 

「ミスパスよりはマシだな。その時はレフトにトスが集まる率が一番高けぇな、任せるぞ二人とも」

セッターの八幡にとって速攻が使えないようなカットの場面での選択肢はレフトへのトスのみ、エースの七沢と対角を組む稲村に注意を促す。

 

「ああ、任された」

「おう」

 

「あ、七沢」

「ん?」

「……」

声をかけた八幡はサインを七沢に分かるように見せる。

 

「了解した」

 

 

 

「ナイキー!3番のサーブ一本で切れたな」

 

チームメイトの一人が山北に声を掛ける。

 

 

「ああ、だけど油断するなよ、あのチーム、やっぱり個々の力はすごい。ブロックも高いしあの背の低い4番も身長に対してかなり跳んでいた」

スパイクを決めた山北が驕ることなく冷静に仲間に伝える。

 

「分かってる、相手は同格。そのつもりだ」

離されている点差に未知の敵チーム、海浜に油断の文字は存在しなかった。

 

 

 

 

 

サイドアウトしサーブ権が海浜側に移り、前衛が七沢、温水、飯山。後衛に長谷、八幡、稲村。

 

後衛の長谷の守備範囲を狭め、稲村と本来セッターである八幡が範囲を広めにしたポジショニングで構える。

 

 

 

 

「ナイサーッ!」

海浜の選手がコーナー側からフローターを対角線に総武高側のコーナーギリギリを狙う。

 

「あっ!」

長谷がCパス気味のレシーブ。

 

(乱した?いやセッターがもう落下点にいる)

八幡が素早く落下点に入りセットアップの体制に入っている。

海浜のブロッカーはミドルブロッカーの速攻を意識しつつレフトの平行に対応するべく集中する。

 

 

(目線が飯山に向いてるな)

まさに狙い通りの展開、八幡は先ほど見せたホールディングギリギリのトスではない、キープをせず考える間を与えないような一瞬の動きのトスをレフトへ上げる。

 

 

「なっ!」

レフトへのダイレクトデリバリーのトスがレフトへブロックを振り切り向かう。

 

 

 

(その位置でリードブロックじゃ追い付けねぇよ)

 

ドンピシャのタイミングで入って来た七沢がそのトスを打ち抜き決める。

 

 

 

ピィィィィ!!

 

総武高校 7 ― 2 海浜高校

 

 

「ナイキー」

「ナイストス」

八幡と七沢が軽くタッチをする。

 

 

「七沢のやつ、いつの間に速攻を……」

「なんだよあのトス……」

海浜の選手たちに動揺が走る。

 

未知の相手だけじゃない、七沢までが今までと違うプレーを見せた海浜のムードが盛り下がる。

 

 

「慌てるな、監督を見てみろ。あの落ち着き……。ちゃんと想定済みだ」

そんな中、一人落ち着いている山北が動じずメンバーに言い放つ。

 

(まあ、あいつがセッターな時点でやってくるとは思ってたが早速か)

敵にすると本当に厄介な奴だ、山北は苦笑いを浮かべ八幡の見た。

 

 

「……」

(何あれ!?何あれ!!いつの間に速攻?つーか、あれじゃ数合わせじゃなくて優良なセッター補強したようなものじねぇかよ!さては総武高、影でスポーツ推薦やってたな!!普通あんなレベルの選手、同学年に4人もゴロゴロ入らないもん!卑怯だ!訴えてやるニダ!……なわけないか)

ちゃっかり動揺しまくりな海浜の監督。

 

 

 

「厄介だな……」

冷静さを取り戻したのか小声で呟き下を向く。

 

 

(これが練習試合で良かった。)

もし本番なら取り返しのつかない事になるところだった。

 

(正直、総武高相手にはAクイック待ちのリードブロックで対応するとしか頭になかったんだが、こうなってしまうと厳しい)

数プレー見ただけで分かるレベルの高さ、とはいえ経験、技術等チームとしての力と経験はこちらがずっと上で埋められないような差がある。

 

しかし、それさえも飛び越えそうなポテンシャルとフィジカル。

 

 

(しばらくはあいつらに任せるか。動くのは最悪2セット目、データが揃ってからだ)

俯いていた海浜の監督は顔を上げると、最初と違う真剣な目つきになりコートを見る。

 

 

 

「勝負はここからだぞ、総武高」

コートの外だからこそできる事、コートを外から見渡し最良の手を尽くす、その為にできる事をするため彼はコートを見渡した。

 

 

 

 

 

 

 

総武高校 10 ― 5 海浜高校

いまいち流れに乗れない海浜は点差を縮められず、ローテが回る。

 

 

ここで海浜は山北のサーブ、海浜にとって一番ブレイクポイントを稼げる場面、逆に総武高は抑えなければならない場面。

 

 

前衛 八幡 長谷 七沢

後衛 稲村 飯山 温水

 

「来たか」

 

「うん、しかも受けた経験ある俺と比企谷は前衛というアンラッキー。温水、稲村、お前らが取れないとこの先キツイ、やってくれ」

 

 

「おう!」

「はい!」

 

 

ピィィィ!!

 

笛の音と共にボールを下から放り高いトス、やや溜めてから助走に入り高い打点からのジャンプサーブ。

 

3年の清川に負けず劣らずな強さのサーブが総武高側、レシーバーとレシーバーの間、レシーブが難しい場所に向かう。

 

「オラィッ!」

温水がすぐに反応し飛び込んでレシーブするものの、Dパスにもならないカットをしてしまう。

 

 

 

ピィィィ!!

 

総武高校 10 ― 6 海浜高校

 

「すいません!」

 

「いやよく反応した!次は取ろう!」

稲村が温水に手を差し出し体を起こし、気を入れる。

 

 

 

「山北ナイサー」

「キャプテン、ナイサーです」

 

 

今度も同じ所へのジャンプサーブ、早く、強く、難しい回転のサーブが再び総武高を襲う。

 

 

(今度こそ!)

温水は今度は正面で捉えレシーブするが一本で返してしまう。

 

「チャンス!」

 

「すいません!」

 

「あんなの上げるだけですげぇっての!」

Byレシーブ苦手な2年の先輩。

 

 

(今の海浜の前衛は二枚、速攻で一番多かったパターンはAクイックを囮にしたBかセミ、だけどパイプの可能性も捨てちゃだめだ!)

長谷はややレフトよりのセンターにポジショニングする。

 

経験がない以上せめて頭で考え、前もってシミュレートした事を実践する長谷。

 

 

(嫌なとこに居るなコイツ)

そんな長谷に対し相手セッターがした選択。

 

速攻でも時間差でも、ましてや平行でもオープンでもない

 

「あっ!」

意表を突いたツーアタック。

 

急な事に反応できない。

 

コートの中のメンバーもスパイクに備えていた為か固まっている……筈だったが。

 

 

「オーライ」

「なっ!」

固まっていたメンバーの中、八幡だけがまるでツーが来ると読んでいたかのように自然に動きフェイントのツーを拾い、味方に余裕を持たせるよう、やや高めにAパスを上げる。

 

 

 

八幡がファーストタッチ、打ち合わせ通り温水が素早くセッターポジションに入りセットアップの体制に入る。

 

(さっき俺が上げたトスは飯山さんへのC、今の状況ならキャプテンに上げたいとこだけど……)

相手は山北がサーバーのローテ、総武高にとって確実に切りたい場面、だが相手もそれは重々承知。

 

(比企谷先輩ならきっとキャプテンに上げないで、あえて今後の駆け引きの手札を作り!さらに意表をつく)

今はこれで行く!温水が選択したのは長谷との速攻、二年だけでなく一年とも速攻が使えるところを見せる。

 

これで次にセットアップする時はレフトに上げやすくなりブロックも振りやすくなる。

 

 

 

 

ピィィィ!!

 

総武高校 11 ― 6 海浜高校

 

 

 

長谷のAが決まる。

 

 

「ナイスだ二人とも!」

 

「良く決めた!」

飯山が二人の肩を抱きよせるように抱えガハハと笑う。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「比企谷センパイもありがとうございます。自分さっきのツーは読めなかったです」

 

「ああ、ただツーを意識しすぎてブロック甘くならねぇようにな、セッターからすると意識してくれるだけで儲けもんだから」

 

 

「もしかして読んでた?」

さっきの八幡の動きはまるで読んでいたようだった、七沢が八幡に問う。

 

「いや何となく、来るかなって」

そう口にし八幡は再び自分のポジションに戻った。

 

 

 

 

「切られましたね……」

 

「しかたないさ切り替えるぞ!カット一本!!」

今のはミスは無かった以上気にするだけ無駄。次のプレーに差し支えないよう山北はメンバーに声を掛けた。

 

 

 

 

「あの4番のセットアップ、まるでセッターだな」

海浜の監督が温水のセットアップに関心したようにつぶやく。

 

「もしかして元セッターとか?」

データを書き込みながら、マネージャー(男)が言う。

 

「もしくはそれに近い練習を積んだのだろうな。いずれにせよ厄介だ」

 

(あの5番もただ闇雲に動いてるわけではなく、考えた位置取りをしていた。インハイ予選の時はボール拾いしかしてなかったから分からなかったが、1年が育ってるな……それにしても比企谷だ!あいつ、ツーを拾った時あまりにも自然だったが……まさかな)

先ほどの八幡のプレーに嫌な予感を感じていた。

 

 

 

 

 

「当たり前だけど体育のバレーとは全然違うっしょ」

自分たちがやった体育の試合とは正に別次元だ。

 

「それだけじゃない、今の彼らの相手は海浜。千葉で一番強いチームと互角に渡り合ってる。俺たちはもしかしたら凄い試合を見てるのかもね」

 

 

 

「……」

 

「優美子、さっきから静だけど何かあった?」

応援もせず、かといって貶しもしない彼女の態度に何かあったのかと結衣が心配そうに聞く。

 

「別に、何でもないし」

ぶっきらぼうに答える三浦、あたまに浮かぶのは数日前、ベストプレイスでの八幡との会話。

 

 

 

『俺のブランクは3年ちょい、お前は2年ちょいだろ?試合見て自分もまだイケると判断したら、復帰でもなんでもすればいいんじゃね?』

 

『ふん、あんたらが海浜に勝ったら考えてやるし』

 

『いや、無理だから』

 

『それぐらいあーしの復帰も無理だっての』

 

 

(……もしかしたら本当に)

無理だと思っていた海浜に勝つかもしれない。

 

 

(もしヒキオが勝ったら、あーしは……)

三浦は何かを思うように拳を握りしめ身震いし、息を静に吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―体育館途中の廊下―

 

盛り上がっている体育館をよそに、一人ウロウロしている一人の教師の姿。

 

「どうしたものか」

バレー部顧問の荻野、海浜と練習試合することになった元凶でもある。

 

(さすがに練習試合見に行ったほうがいいんだろうけど、気まずいからなぁ)

気まずいなぁ、だもなぁという感じで行ったり来たり。

 

「あれ?何やってるんですか荻野先生」

 

「あぁ、城廻……ちょっとな、そっちこそどうした?」

 

「今からバレー部の応援行こうかなって、なんか盛り上がってるみたいだし」

 

「あ、ああそうか」

 

「じゃ行きましょ先生」

 

「……えっ?」

 

「応援行くんじゃないんですか?」

 

「あ、ああ!丁度行く途中だったんだ」

きっかけを貰った荻野はホッとした顔をすると体育館へ足を運んだ。

 

 

 

―体育館―

 

「か、勝ってる……どうなってるんだ?」

体育館に入り、得点板に目を向けた荻野が驚愕している。

 

(彼が助っ人か?ウチの部員と遜色ないじゃないか)

いずれにせよ一歩的な展開にならなくて良かった、荻野はホッと胸をなでおろした。

 

 

 

 

試合は総武高の優勢で進んでいた。

 

 

流れが行きかけそうな絶妙なタイミングで、相手の裏をかくようなトスをここぞどいう場面で流れを切る。

ブレイクを取られ流れを取られた場面には、相手にインパクトを与えるため、ここぞという場面でバッククイックを出す等の駆け引きをし主導権を渡さない展開に持っていく。

 

高いブロック、個人技、そしてそれらを繋ぐ八幡のセットアップ。

 

 

それらは、こいつらは自分たちを脅かす存在だ、海浜に思わせるには十分すぎる物。

 

 

 

そして

 

 

 

総武高校 24 ― 20 海浜高校

 

4点差で総武高がレセプションのセットポイントを迎える。

 

※レセプション

サーブを受ける側の事。

体育や球技大会等のケースを除き、基本的にサーブを受ける側が有利。

バレーの場合、最初にスパイクを打てるレセプション側が有利とされています。

だからこそデュースでとんでもない点数の試合になったり。

 

 

 

「おい……このままウチが勝っちまうんじゃないか?」

 

「落ち着け、まだ1セット目だ」

 

「でも取れそうだ」

 

「ああ、あいつら凄いよ」

OB達は興奮を隠しきれないのか、手に汗握る試合展開に興奮気味だ。

 

 

 

「カット一本!ここ大事だぞ!」

 

 

「サーブ一本決めましょう!」

 

お互いのチームが声を張り点を取らせまいと、点を勝ち取ろうとする。

 

 

(この場面、前衛は稲村、長谷の二枚……決めればこのセットを取れる、やられたら勢いで持っていかれる可能性もある)

海浜は20点台に近づくあたりから明らかに集中が増していた。

 

そんな状態で3点差で21点になった場合、勢いでデュース、最悪そのままセットポイント、マッチポイントになるかもしれない。

 

 

(確実に取りたい場面、このローテで切れる手札はコレしかねぇ)

ここを渡すわけには行かない、このセットを取ればこちらが王手をとれる、ならここは勝負に行く場面だ。

 

 

「稲村」

「ん?」

「……」

八幡は稲村に声を掛け、今日まだ見せていないサインを見せる

 

「おう」

稲村はニヤリと笑い、軽く深呼吸すると真剣な顔立ちになり腰を軽く落としレシーブに構える。

 

 

(比企谷先輩が声を掛けてサイン?相手の嫌なとこを突くことに定評のあるあの人が何を?あやしい……)

リベロの小菅が嫌な予感を感じ取る。

 

 

ピィィィィ!!

 

海浜のサーバーがジャンフロで打ってくる。

 

「オライッ!」

温水が素早く一歩前に出てオーバーで拾い、しっかりAパス

 

 

(ナイスだ!)

セッターに向かう綺麗な放物線、それを見たセンターの飯山とレフトの稲村が交差する。

 

 

(スイッチ?)

何をやってくる気だ?海浜ブロッカーが警戒する。

 

 

飯山はしっかりレフトの定位置へ、稲村はセンター……ではなくそのまま走る。

 

 

(そのまま走った?まさか!)

考えられる一つの可能性、ライトへのワイドブロード攻撃。

 

だが、もし囮なら飯山がフリーになるかもしれない、そうなれば決められてしまう。

 

「レフ1!セン1!」

コート外から監督の指示が跳ぶ。

 

海浜のブロックはレフトに1枚、センターに1枚、ライトに1枚つく。

 

レフトとライトがそれぞれコミットブロックにつき、センターがリードブロックで対応する。

3枚揃える事は出来ないものの最悪1.5枚にはなる、コースを絞らせてレシーブさせやすくは出来る。

 

今まで見せていない連携相手ならこれしかない、ブロッカーは八幡に注視する。

 

 

八幡がライトへの高速トスを上げる。

 

 

(トスが行きすぎだ!あれじゃクロスしか打てない!クロス絞める!)

 

ブロックは1.5枚、クロスをきっちり絞められる。

 

 

(ブロックアウトの可能性もある、カバー入る!)

小菅が一歩前に出る。

 

稲村は八幡の高速トスに追い付き、手を固めボールのミートポイントをずらし、ライトからクロス方向に強烈な振り抜き、そしてストレートのスパイクをブロックとアンテナの間に打つ。

 

 

「なっ!?」

まさかストレートに来ると思っていなかった小菅の顔に向かい、オーバーで取るがボールを弾く。

 

 

 

ピィィィィ!!

 

 

 

総武高校 25 ― 20 海浜高校

 

 

 

「ナイストス!」

「ナイキー」

絶好の場面で決めた二人がハイタッチを交わす。

 

 

「凄いよお兄ちゃん!」

 

「すげぇ!ヒキタニ君たち海浜からセット取っちゃったっしょ」

 

「やった!スゴイ!スゴイ!」

 

「落ち着きなさい、まだ1セットよ」

 

「たしかに凄いねぇ」

陽乃も今のは想定外だったのか顔色一つ変えず称賛する。

 

 

 

 

 

「出たよ変態打ち」

 

「あれ初見じゃ防ぐの厳しいからな」

やられた経験者であるOBは語る。

 

 

「ああ、ライトへのアンテナに届く、と言うより越しそうな難しいトス。それがあいつの一番得意なトスだからな……ていうか変態打ちの呼び方は本人は嫌がってるから、ちゃんと癖玉打ちって言ってあげな」

 

 

「ダイレクトデリバリーか……」

元セッターの恩名が呟く。

 

「どうした?」

 

「これでもセッターやってたからな。高速トスで相手を振る。俺には無理だった分憧れたもんだよ。お前の言う通りあいつ強いよ」

 

 

「いずれにせよ、1セット取れたのは大きいな」

 

「ああ、そうだな」

 

(海浜が怖いのはここからだ……)

「頑張れよ皆!」

インハイ予選、海浜が動いたのは2セット目から、まだ油断できない。

 

 

 

 

 

 

 

「稲村がやったアタック、変態打ちって言うんだって」

OB達の会話を聞いていたのか飯山と稲村のクラスメイトが入れ知恵開始。

 

「へぇ~」

 

「いいぞー稲村!ナイス変態打ちー!!次もやってくれ~!」

 

 

 

変態!   変態!   変態!   変態!

 

 

 

 

男子高校生の悪乗り、変態コール。

 

体育館中に変態の言葉が連呼される。

 

 

 

「Noーぉぉぉぉぉぉぉ!!」

何故奴らがその言葉を知っている!?頭を抱え膝をつく稲村。

 

 

「さっきのスパイク、変態打ちって言うみたいだな」

 

「確かに、あのトスをあんな打ち方するから変態打ちはしっくりくるな」

 

「変態には注意した方が良いな」

 

「ああ、違いない」

悪気のない海浜のメンバー、彼らの頭の中であのスパイクは変態打ちで確定した。

 

 

「ちょ!!」

 

 

「次もたのむよ変態」

 

「おう!ナイス変態だ!」

七沢と飯山も悪乗りし、ケラケラ笑いながら肩を叩く。

 

 

「変態言うなぁぁぁぁ!!!」

 

 

(おいおい、ここで稲村にへそ曲げられて変態打ち使わなくなったら不味いから!)

 

 

「……もしかして、お前も言うのか比企谷?」

orz状態の稲村が恨めしそうに八幡を見る。

 

 

(ここは味方アピールしつつ士気を落とさないようにしないとな)

 

「安心しろ、俺は言わねぇよ。それにしてもさっきのは本当にいいへ……スパイクだった、また頼むぞ!」

俺はお前の味方だぞアピールする為、慰めるように肩を叩き褒める。

 

 

「お前だけだよ比企谷!」ダキッ

 

「や、やめろ!!」

 

 

 

「「キ、キマシタワー!!!」」

 

 

 

この件を機に彼のあだ名がしばらく変態になるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 




次回更新は未定です。


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