俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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長らくお待たせしました。


指にヒビ入れるアクシデントや、仕事の部署移動による急な引き継ぎに年度末など色々ありまして更新が予定より滞ってしまいました。


そんな訳で現在
「先生……バレーがしたいです」状態ですが無理しないことにします。


それでも俺は……

―数年前 某中学体育館―

 

外は日も落ち学校の消灯時間が近くなり、ほとんどの生徒が家路につく中、体育館に響くボールの音。

 

音の響き方から察するに少数なのだろう、断片的にボールが叩き込まれる音が鳴り響く。

 

そんな体育館で練習している二人。

 

男子バレー部のレギュラーでセッターの八幡とキャプテンの山北だった。

 

平行トスのストレート打ちの練習なのだろう、ライトへの平行をセカンドテンポで入り、右腕で打ち込む場所の目安をつけるべくギリギリまで引手を我慢し、左腕でコンパクトに振りぬき、バラつきながらもストレートを撃ち込んでいる。

 

 

「悪いな、明日は試合なのに居残り練習に付き合ってもらって」

 

「いえ、山北先輩が平行をストレートに打ち切るようになってくれたら楽できますし」

山北は袖で汗を拭いながら感謝の言葉を八幡に告げるが、八幡は、やや捻くれ気味に返す。

 

 

「ありがとな」

八幡の真意を見抜いたような笑顔を向け、口にする。

 

「……ボール下さい、もう一回行きます」

気恥ずかしくなったのか八幡は、軽くしかめっ面になりながら要求した。

 

 

 

 

そして迎えた地区大会決勝

八幡と山北の中学はフルセットの末、七沢達の中学に負け八幡はチーム内のいざこざでバレーから離れた。

 

 

(あの時、俺がもっと……)

スパイクを決めていたら、平行のストレートを完璧にマスターしコースを散らせたら、最後までスタミナが続いていたら……自責の念が山北の心に常に残った。

 

海浜に進んだ彼は、二度と同じ思いをしない為、そして八幡と再びチームになる事を願いながらバレーに没頭した。

 

 

しかし、その願いが叶う事は無かった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま(今日は県大会……けどお兄ちゃん、もう帰ってきてる)」

いつもなら部活でいないはずの八幡の靴を確認し寂しい気持ちになる小町。

 

 

 

「おう、おかえり。やっぱ帰宅部は楽でいいわ、疲れねぇしゲームやり放題だし」

ソファに寝転がりゲームをしながらお菓子とマッカンをやっつけるダブルコンボをかます八幡。

 

「うわ、ちょっと見ない間にダメ人間みたくなってるよ、この人」

少し前の兄とは違う姿にナチュラルに毒を吐く小町。

 

 

(やっぱり、もうバレーはやらないのかな)

あの試合の後、どうしても口に出すことが出来ずにいた。

 

八幡の態度から見て、もしかしたら本当にふっきれたのか?小町はそう思った。

 

だが、それは間違だったと知る事となる。

 

 

 

 

 

(うう~トイレトイレ)

夜中に催したのだろう、トイレに向かって全力疾走……とはいかないものの家族を起こさぬよう廊下の電気をつけず、やや早歩きでトイレに行き用を済ませた。

 

 

(ふ~スッキリ……ってアレ?)

ふと目に入る八幡の部屋、何か違和感でも感じたのか近づき、物音を立てないようゆっくり戸を開ける。

 

 

 

(えっ?)

 

「……っ」

小町の目に映ったのは、試合にいつも持っていくバッグを抱え一人声を殺して泣く兄の姿。

 

 

 

(……お兄ちゃん)

明らかに悲しんでいる、吹っ切れてなどいなかった。

 

でも今の小町には何もできない。

 

 

「……」

悲しんでいる兄へ何もできない自分に対する苛立ち、辛さと悲しさ。

 

小町は色々な感情を我慢するように唇をかみしめ、そっと扉を閉めた。                  

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡!」

 

「ちょ!ヒキタニ君どうしたの?」

着地と同時に崩れた八幡の姿に戸塚と戸部が思わず声を上げる。

 

 

 

「着地した時右足から崩れたように見えたけどケガか?」

 

「えっ?先輩大丈夫なんですか!?」

冷静に分析した葉山の言葉にいろはが反応する。

 

 

「……うそ」

「……」

奉仕部の二人は目の前の現実に血の気が引いた顔になり言葉をなくす。

 

 

「案外、交通事故の後遺症だったりしてね」

 

二人の様子にS気質が刺激されたのだろう、仮面の下でSっ気たっぷりな顔を浮かべ、二人に追い打ちをかけるように言う。

 

 

 

「でも、あれは左足だし、お医者さんも大丈夫だって」

 

「それはアスリートとして?それとも一般人として?医者はバレーやっても大丈夫って言ってた?」

「それは……」

二人を見て慌ててフォローに入る小町だったが陽乃の指摘に口を噤む

 

 

 

 

(まあ、あの時は大丈夫って言ってたんだけど)

 

 

(けど、今回は敢えて黙ってようかな)

その方が楽しそうだし、そう心の中で付け加え陽乃は再びコートに目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立てるか?」

 

「ああ」

 

「立ってみて問題なさそうなら少し歩いて見てくれ」

飯山がうずくまる八幡に手を差し伸べ立たせ、歩くよう促す。

 

(軸ずらして隠そうとしてるけど大丈夫じゃねえだろコレ)

「とりあえず治療する」

遠目から見る分には分かりにくいが近くで見れば誤魔化しがきかない、飯山は八幡の状態がよろしくないと判断する。

 

 

「い、いや大丈――」

 

「――いいからベンチ行くぞ!!」

 

「………」

否定しようとする八幡だったが強引にベンチへ連れていかれる、

 

 

 

「大丈夫かい?」

この場にいる大人は自分だけ、海浜の監督が総武高のベンチに向かう。

 

 

(……比企谷)

それに続くように山北も八幡を心配する顔を浮かべ監督の後ろを行く。

 

 

「はい、とりあえず状態確認と応急処置をしたいので、お時間頂いても良いですか?」

「ああ、構わないよ」

七沢が海浜の監督に確認をとり監督が了承する。

 

「ところで治療は……」

「ああ、俺が見ます」

監督が素朴な疑問をぶつけようとした所に飯山が手を上げて答える。

 

「あ、ああ……(えっ?こいつが?確かにマネとかコーチいないけどこいつが?)」

監督ちゃかり動揺中。

 

 

 

 

『入院って、その左足なんかやったのか?』

 

『左脚大腿骨亀裂骨折、おかげでしばらく入院して初登校で晴れて高校ボッチデビューだ』

 

 

(今捻った足は右って事は)

以前、八幡との会話を思い出しながら触診をする。

 

 

(やっぱりだ。右の方が張ってるな……本人が気づかないうちに、かばい癖が出来てて事故誘発したパターンか)

 

 

「靴脱がすぞ」

 

「っ!!」

靴紐を緩め、なるべく優しく脱がせようとするが痛かったのだろう、八幡の顔が歪む。

 

 

(捻挫?靭帯か?強くやってたら不味いぞ)

 

 

(いや靭帯を強く損傷なんてしてたら、さっきみたく立てねぇ)

 

 

 

 

 

「着地した時に捻ったか?どんなひねり方した?……こっちか?」

 

「いや」

 

「じゃあこうか」

 

「ああ」

飯山は自分の足で見本を見せケガをした状況を確認する。

 

 

「そうか(て事はここか?)」

ケガをした状況に今の状態ここしかない、患部と思われる場所を軽く刺激する。

 

「っ!」

 

「やっぱ靭帯伸びたか」

 

「ちょ!それって大丈夫なのか!?」

靭帯という言葉にビックリした稲村が声を上げる。

 

 

「外側靭帯が伸びたんだと思う、要は捻挫だ。内側に捻って三角靭帯やったわけでもない。さっきの立ち方から見ても重症化するケースでも無いし、ちゃんと処置して休めば大丈夫だと思う……けど」

 

「この試合は無理?」

 

「やめたほうがいい」

 

(やめる……試合を?)

 

 

 

 

 

『悪ぃな、アレ本当は俺が言わなきゃいけないやつだ』

 

『……飯山』

 

『あいつはインハイ予選の事を未だに気にしてやがる……だけどそれは、あいつ自身が自分で越えるしかねぇ、だけど公式戦で海浜とやりあう可能性はウチには少ない。でも今は違う、お前のおかげで海浜相手に1セット取って競った戦いをして、まだ1セットある。越えるなら今しかない……だからキツイと思うけど後1セット頼む』

 

(その時、俺が本気で頼られてるのが分かった)

 

 

 

『手出して』

 

『あ、ああ』

 

 

 

バチン!!!

 

 

『いってぇ!何す―――』

 

『勝つぞ!!』

 

『……おう』

 

 

(拳を重ねた時、心が熱くなるのを感じた)

 

 

 

 

 

 

 

『これは奉仕部の依頼のはずなのだけど、忘れたのかしらボケ谷君?』

 

『だから私たちも力になれるようにって』

 

『そ、その……ありがとうな』

 

 

『『どういたしまして』』

 

 

(あの時は恥ずかしさが不思議な感じで、奉仕部の依頼という言葉が嬉しかった)

 

 

 

 

 

 

『今度の試合、これ履いて頑張ってね!お兄ちゃん!!』

下を向いた八幡の目に入る黒のバレーシューズを見て思い出される、かつての小町の姿。

 

 

あの日、ベンチに下げられた時と同じように自然と目が上に向く。

 

 

(……小町)

見上げた先はあの日と同じく涙目で、その涙を唇を噛みしめながらこらえ、こちらをみる姿。

 

だが、それは悔しさからくるものではない。

 

 

(お兄ちゃん)

兄の事が心配だから、ただそれだけ。

 

 

(雪ノ下、由比ヶ浜)

そして奉仕部の二人も、八幡を心配し同じような顔で八幡を見る。

 

 

 

 

 

(……俺はまだ終わりたくねぇよ)

自分の感情と思い。それらを押し込めるように唇をギュッと噛みしめる。

 

 

 

「残念だけど」

重い雰囲気の中、七沢が口を開く。

 

 

(言うな!)

その言葉は聞きたくない。

 

 

「棄権しよう」

その言葉にバレー部員は口を閉ざしうつむく。

 

自分がもっと出来ていたら、言葉には発さないものの各々が自分自身への苛立ちと悔しさをにじませる。

 

 

「すいません鳶尾監督」

こんな場面で今明かされる海浜の監督の名。

 

 

 

 

 

 

「申し訳ないですが―――」

 

 

「―――3年が引退して、メンバー揃わなかった中で助っ人を入れて初めての試合、相手はあの海浜、格上の相手に健闘を見せる」

 

「え?」

試合の棄権を伝えようとした矢先の八幡の言葉に言葉を止め彼の方を向く。

 

 

「そして接戦の末フルセット。あと少し勝てるところまで来て無念の棄権。バレー部は悔しさ、そして自分たちの力は海浜に通じるという自信を胸に歩みだす。理想的な結果じゃねか。ある意味、最高の結果なんじゃねぇ?」

 

 

「何言ってんだお前?」

今の言葉にムッときたのか稲村が八幡に近づこうとする。

 

「おい比企谷!」

直情型の飯山も言葉を強める。

 

 

 

「何だよ?」

 

「本音語れや」

 

「……なんの事だよ」

彼の口から出た言葉が感情に任せたものではなかったのが意外だったのか、何かを感づいたのか、それが分からず八幡は問う。

 

 

 

「前に言ったろ?お前は俺好みのいい男だって。お前は捻くれた奴だけど、理由もなしに自分から相手を挑発する奴じゃねぇのは以前の事で知ってるつもりだ。言う時は何か理由がある、違うか?」

 

「……」

 

「言え比企谷!」

やっぱり何かあったか、そう言わんばかりに優しく、そして力強く八幡に真意を言うよう促す。

 

 

 

本来の彼なら、そのまま閉口したかもしれない、適当なことを言って逃げたかもしれない。

 

 

だけど今は違う、彼に芽生えた仲間意識、そしてバレーへの熱が彼を突き動かす。

 

 

 

「俺は……あの日、七沢や清川さんと戦った決勝でコートを離れて」

 

「それから色々あってバレーを辞めて。もうコートに戻る事は無い、自分に言い聞かせてた」

下を向いていた八幡は顔を上げコートへ目を向ける。

 

 

「けど俺は心のどこかでコートに立つのを夢に見てた。そして今度立った時は最後までコートに立っていたい……そう夢に見てた」

 

 

 

「………バレー部にとってこの試合は初めての試合。そして、これからも色んなもの積み重ねてチームになって行くんだろうな」

 

「それで、この試合は人によっては初めての試合で、人によっては越えなきゃいけない壁でもあって」

 

「そして奉仕部にとってこの試合は最後の依頼」

今度はみんなの顔を見る。

 

 

 

「だからこの試合は、このメンバーでやる最初の試合で、今まで一緒だった仲間と最後の依頼で、俺にとっては、コートを去ったあの日の続きだ」

 

「我儘なのも分かってる、自分勝手なの事も、ただの願望なのも分かってる」

 

「それでも俺は……」

すこし言葉に詰まる、でも言いたい、これだけは叶えたい。

 

 

「……俺はまだコートに立ちたい。色んなものが詰まったあのコートに最後まで立っていたい!だから頼む」

 

「俺を最後までコートに立たせてくれ!!」

彼の願い、それが唯一かなう道。だけどそれは現状難しい、それは八幡自身わかっていたが言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

「……飯山、比企谷の足、テーピングで固定すれば動けたりする?」

しばしの沈黙の中、七沢が口を開く。

 

「がっちり固定して可動域限定させれば多少は。それでも痛ぇし可動域狭まった分、プレーなんてまともに出来ねぇ、下手すりゃ悪化して後遺症も残るぞ」

 

「でもやりたいんだよね?」

 

「ああ」

 

「飯山、テーピングよろしく」

 

「おう!長谷ハサミとってくれ」

 

「はい!」

 

 

 

「すいません鳶尾監督、やっぱり試合続行でお願いします」

 

「本当にいいのかい?」

 

「ハイ!お願いします」

 

「……分かった。準備が出来たらコートに戻ってくれ」

 

「試合続行だ。コートに戻れ山北」

 

「はい」

 

 

「……続きじゃねぇだろうが」

山北はコートに戻る際、聞こえないようにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「みんな聞いて、比企谷は今までみたく崩れたパスからトスを上げる事はできない。だからAパス以外は自分たちでトスを上げる。無理だと思ったら直ぐに温水がセットアップ。それ以外の場合は、比企谷がすぐに誰がトスを上げるか指示だしして」

 

「そしてセンターの二人は今までレシーブ外してたけど参加してもらう、苦手だっていう状況じゃない。Aパスがダメなら高めのBパス意識して!練習で散々やった2対2のイメージだ」

 

「急だし戸惑いもあると思う。トス上げるトコを迷ったら俺に上げて!俺が決める」

 

「でも海浜は攻撃だけじゃねぇ、ブロックと守備も半端ねぇぞ」

八幡が冷静に言う。

 

 

「トスは最悪、オープンでもいい。このチームのアタッカーは優秀だ、お前はそれを信じてそいつの打ちやすいトスを上げる事を意識すればいい……比企谷先輩ですよ自分にこれ言ったの、だから少しは頼ってください!」

 

「よく言った温水!」

 

 

 

「そういう事だ、少しは頼れ。何より同じバーベル担いだ仲間だ。最後まで付き合ってやるよ」

同じバーベル担いだ仲間は彼の中の名言なのか、飯山が八幡にニコリと笑いかける。

 

「いや、前も言ったけど他に言い方あんだろ」

 

「どんな?」

七沢が八幡に聞く。

 

 

「同じボール繋いだ仲間とか……ハッ!」

 

「「「「「ニヤニヤ」」」」」

 

「な、なんだよ」

ヤバい、何かキャラではない事を言った気がする。

 

現に部員たちはニヤケを抑えられないのか、非常ににこやかだ。

 

 

 

「同じボールを」

 

「繋いだ仲間ねぇ」

 

「比企谷君からそんな言葉が聞けるなんてねぇ」

七沢、飯山、稲村が息の合った辱めコンボを決める。

 

 

「っ!」

 

「付き合いますよ比企谷先輩!」

「はい、もし無理なら俺に頼ってください」

長谷と温水も続く。

 

 

「~~~っ!!」

恥ずかしいのか、うつむきしかめっ面になる。

 

が、気が付いたら口元が笑い出し堪えるが、耐えきれなくなり最後は笑顔になり

 

「その……よろしく頼むわ」

少し捻くれながら笑って答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いけど俺はレシーブはそこまで力になれねぇ。分かってると思うけど、あいつのカバー頼むぞ」

「おう、てめぇもサーブ外すなよ」

 

 

「長谷、俺がセットアップいつでも入れるように範囲広くする、ブロックしっかり頼む」

「うん、まかせて」

 

 

 

「比企谷、お前はトス上げることだけ考えればいい」

「……七沢」

「だから後少し、気張れ!」

「おう」

 

 

 

 

 

 

「ちょ!ヒキタニ君達やる気っしょ」

 

「八幡大丈夫かな?かなり無理をしてるんじゃ」

 

 

(また自己犠牲か比企谷)

葉山は少し悲しそうな顔になる。

 

 

 

「そんな!無理してヒッキーに何かあったら……ゆきのん」

 

「ええ、止めましょう」

 

「ごめんなさい雪乃さん結衣さん、兄を心配してくれるのは嬉しいです。でも止めないで下さい」

 

「「えっ?」」

ふたりは意を決したように向かおうとするが小町がそれを止める。

 

 

 

「あんたアイツの事心配じゃないの?」

小町の行動が意外だったのか沙希が口を開く。

 

「心配ですよ、無理してケガが悪化したら本当に嫌です」

 

「でも、バレーから離れて人前では辛いの隠して何でもないふりして、一人の時に自分を押し殺して悲しんでる……そんなお兄ちゃんを、また見るのは……それで自分が何も出来ないのは、もっと嫌です」

 

「……比企谷さん」

 

 

 

 

(そうか、それが君の……なら!)

 

「が―――」

 

「―――頑張れヒキタニ君!あと少しっしょ!」

 

 

(せ、セリフを翔にとられたーーーー!!)

まさか自分がセリフをとられるとは。葉山はガビーンとした顔を戸部に向ける。

 

 

「頑張れよセッター!あと3点だ」

 

「頼むぞ比企谷!」

 

「我がついておるぞ~!」

 

きっかけは一人の声援、だがそれが試合を見ていた生徒の心を突き動かし、彼とゆかりのある者ない者関わらず声を出す。

 

 

(声援……俺に?なんで?)

小中どころか高校に入ってからも経験の無かった自分に向いた声援。彼にとっては突然の事であり初めての経験。

 

 

 

(なんでだよ、なんでこんなに熱くなるんだよ)

疲れとは違う息の弾み方に高揚感。胸がギュッと来るような緊張感とはまた違った感覚。血流が全身をめぐる感覚。それらが熱となり八幡に押し寄せる。

 

 

(なんで力が出るんだよ)

痛い、苦しい、けど最後までコートにいたい。その願いを後押しする声援。

 

 

あの日の続きをする為に、それに応えるように、八幡はベンチから一歩、また一歩と踏み出しコートへ向かった。

 

 

 

 

 

(あいつら、試合を再開する気か!)

その状況に気づいた顧問の荻野が慌てて、バレー部のところへ行こうとする。

 

 

「どこに行くんです?荻野先生」

 

「平塚先生」

 

「彼らを止める気ですか?」

 

「当たり前です!貴方も教師なら分かるでしょう!?私たちは責任ある立場ですよ!」

何かあったら責任問題になりかねない、荻野が静に向かい声を荒げる。

 

 

「彼は……比企谷は奉仕部の依頼で助っ人としてバレー部に参加しています」

 

「だから何ですか?」

 

「比企谷は奉仕部の生徒、私の教え子です。彼に何かあったら私が責任を取ります!」

静は威圧感全開の目を荻野に向ける。

 

「あなたは言ってる意味が分かってるんですか?」

 

 

「承知の上です」

 

 

「……どうなっても知りませんよ私は」

荻野は静の目線から目を背け、元いた場所へと戻った。

 

 

 

 

 

「さすが静ちゃん、相変わらずカッコイイねぇ」

 

「茶化すな陽乃」

いつの間に来やがった、やじ馬め。そう言わんばかりに静は冷たい目線を陽乃に向けるがスルーされる。

 

 

「……本当に良かったの?静ちゃん」

 

「よくはない、間違っている。間違いなくな」

 

「だが間違えてもいい。そこから学んで経験し成長するものだ」

 

「そして、それこそが若さの特権だ」

静はそう言うと、自分の教え子である八幡の方を向く。

 

 

 

(教師という生徒を預かる責任ある立場で、この行い……本当は良いわけがない)

 

(教師としては止めなければならないが、先を生きた者として、君を見てきた人として止められるものか)

目を軽く閉じ、八幡を奉仕部に入れた時を思い出す。

 

 

(はじめ奉仕部に君を入れた時、正直誰でも良かった)

 

 

(だが君で良かった。いつしか、そう思えるようになって)

一学期の学校での出来事、夏休み、文化祭に体育祭、修学旅行が思い出され。

 

 

 

(そして、君の起こした行動で雪ノ下は自分の意思で前を向き、今コートの中で君自身も前に進もうとしている)

 

(前に君が書いたレポート、その中にあった壁という言葉を覚えてるか?)

 

(声援、仲間……君が壁を感じて諦めていたはずの世界。だが今はそれが無い、さぞかし戸惑っているだろうな)

 

(そして、その戸惑いは今まで体験しなかった分、波になって間違いなく君に押し寄せる。それは君にとって重要なものだ。だから進め、足掻いて今を噛みしめろ)

 

(進んだ先が間違いでもいい、間違えて経験して、また進め……それが今なんだ)

 

 

 

「まあ、どう言い訳しようが私のした事は間違ってるだろうな……というわけで私も若いと言う事だな!」

 

「……静ちゃん、そのギャグ笑えないよ」

静の言葉に対し、わざとらしく苦笑いを浮かべる。

 

「陽乃……さては貴様、喧嘩売ってるな?」

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りがされる中、コートでは試合が再開され再び総武高のサーブから。

 

飯山がエンドラインから自分のサーブの定位置に戻り、ルーティンを入れる。

 

 

(俺のサーブは練習でも3本に1本はスカす)

笛が鳴り相手コートをじっと見る。

 

(けど、このサーブだけは決める!)

ルーティンから深呼吸、高いトスから助走、高い打点からのドライブ回転をかけたサーブが海浜に向かう。

 

 

「すまん!長い!」

レシーバーが拾うも威力を殺しきれず一本で総武高側に返してしまう。

 

 

「稲村!」

「まかせろ!」

八幡の指示に稲村が落下点に入り、八幡自身も痛みを堪えセッターポジションへと向かう。

 

 

 

 

 

(何があの日の続きだ!あの日、俺たちは負けた。そしてお前はバレーから……俺の前から去った……それが全てだ)

 

 

 

 

 

(あいつに余裕を!)

八幡への余裕を作るため、丁寧に上げるようオーバーで高いAパスを上げる。

 

(助かる)

八幡が息を切らせながらコートの前に立ちセットアップに入る。

 

 

(続きなら、何でお前がネットの向こうにいる?)

かつて一緒にプレーし、セットアップの度に何度も見た姿。

 

 

だが、今はネット越しに見えるだけ。

 

 

(何で、そのトスがそこに上がってる?)

回転を殺し、早く美しい線をえがく平行トス。かつて自分の為に何度も上がっていたトスが今は自分たちに打たれるためのトスとして上がっている。

 

 

(決める!)

放たれたトスは七沢でも長谷でもなく温水へのライト平行。海浜のブロックは振られ一枚。

 

(止める!)

多分ストレートはない、海浜のレフトはそう判断しブロックに当てるが軌道を変えてしまう。

 

 

「っ!」

変わった軌道、前衛に来たボールを膝をつき無理な体制になりながらも山北がAパスを上げる。

 

 

(山北さん出遅れた、低いAパスだし真ん中―――)

相手が対応しきれないうちに最速で行く、そう判断した石田がAクイックを上げるべくセットに入ろうとするが

 

 

「ライトォォ!!」

山北は直ぐに起き上がりトスを呼ぶ。

 

 

(やべっ!声につられて上げちまった)

キャプテン命令に条件反射で体が反応、しかも低くネットに近いトス。

 

七沢と長谷の二枚、二人の間を通す隙のない高いブロックが立ちはだかる。

 

 

(邪魔だ!!)

低くネットに近いトス、叩き落とせばブロックに捕まってしまう状態。

 

クロスに打てば捕まる、そう感じた山北が打ったのはストレート。右手を添え脇を絞めギリギリまでボールを呼び込み、ボール一個半程度の隙間を通しストレートを決めた。

 

 

 

総武高校 21―19 海浜高校

 

 

「しゃあ!!」

山北はガッツポーズをし威嚇するように声を上げる。

 

 

(マジかよ……)

かつて苦手としていたライトの平行。だが今はかつての面影が見えないほど巧みに打ち分けしている、分かっていた事だが事実であり最大の障害である事を八幡は痛感した。

 

 

(このローテが終わった……って事は)

長谷が汗を拭きながら深呼吸をする。

 

次にローテが回れば温水が後衛に回り八幡が前衛、七沢と山北がローテ上一番マッチアップするため後2ローテは山北が前衛にいる。

 

今の総武高の点は21、勝つためには最低でも4点。山北のいる海浜相手に足を怪我した八幡を抜いたブロック二枚。

前衛に上がったばかりの自分の役割は大きい。

 

 

 

『分かってるなら大きなお世話かもしれないがブロック重要だぞ……。そんでそこのミドル二人!!!』

 

『『は、はい!』

 

 

『二人ともレシーブじゃドデカい穴だけど、ブロックでは要だ。ブロックがレシーブの出来を大きく左右する。お前らは守備の弱点であると同時に高いブロックっていう守備の強みでもある、しっかりな』

先輩との練習を思い出す。

 

 

(僕は少しでもこのチームの力になりたい!だからやってやる!)

長谷は自分のできる事、やるべきことを自覚しアタックラインに下がり、サーブレシーブを待つポジショニングに入った。

 

 

 

 

 

(山北……あいつが感情をむき出しにするとはな)

先ほどの山北のプレーが鳶尾の脳裏に浮かぶ。

 

 

新社会人や若手と言われる大人が最も子供に近い大人だとすると、高校生は最も大人に近い子供。

考え方や行動も思春期を経て変わっていき、自分を律し協調性などを優先し大人のような行動をとりだす。

 

 

(あいつは普段は自分を律し押し殺し、チームの為の為の役割を優先する奴だ)

だからこそ山北の先ほどのプレーは彼にとっても意外だったのだろう。

 

 

(だが、比企谷がバレーを辞めたことといい、中学時代あいつらに何かあったのは間違いないな)

鳶尾の脳裏に浮かんだのは、八幡の言葉を聞いた後の山北。あの後、山北あきらかに感情をむき出しにした事からも見てとれる。

 

(多分、今のメンバーでウチと総武高がやり合う事はもう無い……これが比企谷との最後の試合になるだろうな)

そうなれば二人がやり合う機会はもうないかもしれない。

 

 

(これが公式戦なら止めるところだが今は練習試合……なら)

鳶尾は意を決し立ち上がりコートへ声をかける。

 

 

「山北!」

 

「っ!」

注意される、そう思った山北が萎縮するように反応するが、彼の耳に入ったのは予想しなかった事。

 

 

「好きにやれ」

 

(……監督)

 

「返事!!」

 

「ハイ!!」

 

(ありがとうございます監督)

山北は監督に頭を下げると、目線をすぐにコートに戻し総武高を、そして八幡を見る。

 

 

 

 

「比企谷、お前がこの試合を3年前の、あの日の続きと言うなら……俺は、俺の3年間を賭けて、それを否定するよ」

 

 




今回は物語上、ケガを押しての出場ですが皆さんはくれぐれも無理しないでください。


某俺流の監督は
「なんで止めるの?ケガをすることで覚える事もあるんだよ」的な事を言ってましたし、それも確かなのですが、ケガをしたのに無理をするのは別物。


とは言え、ケガの問題って難しいんですよね。



これは人によるかもしれませんが話のタネ程度に書きます。

自分が所属する協会の人つながりの飲みで出た話題です。よくある話題なのですが「教え子とケガ」の話になりました。

その人、元は全国トップクラスで、体を壊し引退したものの指導者としても活躍されてました。


そんな時、教え子が試合間近で腰を壊した時、どうしても試合に出たい後遺症残っても良いから試合に出たいと懇願され神経ブロックを打ってくれる病院をさがし(何件か断られたみたいです)試合に出したそうです。


自分もケガの後遺症があるのに何故?と思うかもしれませんが、これって結構難しい問題です。

自分も故障とその後遺症で数年ほど棒に振った事がありますし、今でも足枷になることもありますが今でも競技を続けています。

周りでも、その競技に本気で取り組み、腰を手術したり、詰まった神経抜いたりと将来の大きな足枷になる故障をしてる方が多いのですが、何故か競技者でなくとも指導者や裏方として残ってます。


皆ケガへの後悔はあっても、その競技に関わった事への後悔は無く、故障した経験を持ちながら、その子と同じ状況なら、無理をしてでも試合に出るそうです。


特に、学生の内は1年1年の割合が大きく、だからこそ試合にかける思いも大きい物、指導者は競技者以外の目線でいないといけないかもですが、ついつい競技者目線で見ちゃったりするからかもしれません。


まあ、このメンツは一般人からしたら明らかにスポーツ狂いなので参考になりませんが……



テレビで騒がれているようなパワハラコーチのような指導者は例外として、教え子のケガは相当、葛藤はあると思います。


いくらケガに気を付けても、アクシデントは起こるもの。だからこそ自分のケガをした経験、そしてケガを少しでも防ぐための勉強と対処法などでサポートするのも指導者として大事なことだと書いてて思いました。



実際自分が同じ立場だったら止めるか、出場させるかはその場でないと分からないっす。


まあ、私は飽きるまで競技者でいると誓ってますので指導者になるのはまだまだ先の話です。





次回、海浜戦決着です。
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