俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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お久しぶりです。

今回は前回のあとがきにもありましたが繋ぎの回になります。


試合を終えて

「負けたな」

26―24の得点板を見つめ、現実を受け入れ鳶尾が呟く。

 

 

(勝ちに不思議の勝ち有り、負けに不思議の負けなし……か)

ふと思い出された名言を思い出す。

 

確かに負けた。

そこには負けた要因が当然ある。

 

総武高の選手たちのポテンシャルの高さ?エースの覚醒?

 

 

 

 

(色々あるが……ウチが負けた一番の要因はあいつだ)

海浜が負けた要因、その元凶とも言える男、比企谷八幡の方を向き軽くため息を吐きながら彼を見た。

 

 

 

 

『何故今まで出てこなかった?』

 

『バレーを辞めたからです。現に3年ブランクがあるし、この試合限りだと言ってました』

 

鳶尾は八幡に気づいた時点で、中学時代のチームメイトである山北に確認した。

 

そして、その時点で警戒した。

 

だが、それは数合わせの助っ人という選手から有力な元経験者の助っ人へと見方を変えたに過ぎなかった。

 

 

(いや、まさに言葉通りの助っ人って事か)

なにせその助っ人にやられ、海浜は自分のバレーをさせてもらえなかった。

 

 

(これが本番じゃなくて本当に良かった)

もし本番なら取り返しのつかないばかりか、春高予選含め今後の海浜にとって強敵が現れたことになる。

 

鳶尾は彼が部員ではなく助っ人という事に少なからず感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「あれ?隼人くん、どこ行くの?」

興奮冷めやらぬギャラリーの中、自分のバッグを持ち、場を後にしようとした葉山に戸部が問う。

 

 

「トレーニング室だよ。部活がなくてもフィジカルならできるだろ?」

 

「えっ?」

 

「あんな試合見せられて、燃えないわけないだろ。彼らはすごいことをやってのけた。俺も負けてられないよ」

そう、燃えずにはいられない。

 

彼らは、そして自分にとってのライバルがやってのけた事。

それは練習試合とはいえ決して簡単なものではない。目の前で見せられた試合に心が打たれた彼は、じっとしていられなかった。

 

 

「……じゃあ俺も付き合うよ隼人君!」

 

「え?」

 

「俺もヒキタニ君には負けてられないっしょ!」

恋のライバルには負けられない!戸部もやる気を見せバッグを持ち上げる。

 

 

「ああ……行こう!」

 

 

 

俺たちの戦いは、これからだ!

 

 

 

ふたりは、それぞれの思いを胸に自分達の戦いの場へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七沢」

練習試合が終わり両校の挨拶が済むと、山北は総武高に近づき声をかける。

 

 

「……山北さん」

 

「これで、うちと総武高は一勝一敗だ」

インハイ予選、そして今日。どちらもフルセットの末の結果。

 

 

「だから春高予選は何が何でも出て来い、そこで決着つけるぞ!」

 

「はい!」

山北から差し出される拳、七沢も気合をいれ拳を合わせた。

 

 

 

「……比企谷」

続いて八幡の元へ近づく。

 

 

「……」

「……」

お互いの思い、いいたい事、伝えたいこと、色々あるが言葉が出てこない。

 

しばしの沈黙。先に口を開いたのは山北だった。

 

 

 

「何が3年間のブランクだ‥…」

バレーをする事を諦め自分から離れていたはずの八幡の姿は3年たって今、正にそこにいて。

 

 

「何が数合わせの助っ人だ……」

それが何の冗談だろうか?離れてしまったはずの彼が、敵チームの一人となってバレーをしていて。

 

敵味方に別れ、そして負けた。

 

悔しさ、寂しさの感情を押し殺すように小さく呟く。

 

 

「……」

口を閉ざし、八幡は何も言わない

 

 

「……(違う、俺が本当に言いたいことは)」

自分が言いたかった事はそれじゃない、山北も口を閉ざす。

 

 

『お前はこんなとこで終わるような選手じゃない、俺は海浜に行ってバレーを続ける、だからお前も来てくれ、海浜なら一人に責任押し付けることはない、お前の実力も分かってくれる!そこでもう一度バレーをしよう!』

 

 

『……考えておきます』

 

『今はその言葉だけでもいい』

 

 

その時、山北の脳裏に浮かんだのは3年前、八幡と交わした言葉。

 

 

(そうだ、俺の言いたい事は)

本当に言いたいこと、それは悔しさや哀しさを表す言葉ではない。

 

山北は大きく息を吸い込む。

 

 

 

 

 

 

「……お前みたいな奴は、さっさとこっち側に来い!敵とか味方とか関係ない、またバレーしよう!」

それは願いにも似たもの。

 

あの日以来、バレーボールから離れてしまった八幡に対して、駆られていた後悔の念。

 

そして今日、八幡がバレーボールをしたかったという事を改めて知った。

 

300グラムに満たない一つのボール。敵味方に分かれたものの、同じボールを繋ぎ競い合った。

 

同じバレーボールという競技をした。

 

自分の元に戻って欲しいから来た言葉では無い。あの日、離れてしまったバレーボールの世界に、もう一度戻って欲しい。

自身もバレーボールが好きだからこそ出た言葉。

 

 

 

「……考えておきます」

少しの間、八幡は動揺を隠すように俯き答える。

 

 

 

八幡の言葉はあの日と変わらない、だけど嫌という言葉も無い。

 

 

「その言葉、今度こそ信じてる」

あの日と同じ言葉、だけどそれは違う意味に聞こえた、だからこそ信じる。

 

山北は軽く笑みを浮かべ、八幡の頭をなでる様に手を頭に乗せ少し微笑み、背を向け歩き出した。

 

 

 

「……」

そんな教え子の姿を、優しく見守る海浜の監督である鳶尾。

 

だが、当然やさしく見守っているわけではない。

 

内心物凄く焦っていた。

 

 

(え~……何やってんの、あの子?ただでさえキツイ春高予選に強敵増やすマネしてどうすんのぉ?)

そう、山北の言葉は強敵を増やす事に他ならなかった。

 

 

七沢に何が何でも春高予選に出て来いと言う

八幡にバレーボールの選手として戻って来いと言う

つまり、八幡を正式にチームに入れて春高予選出て来いという事。

 

 

(だが、ここで注意したり変に妨害したりすると威厳に関わる&駄目大人な烙印を押されかねない)

だからこそ細心の注意を払わねばならない、鳶尾が八幡の元へ近づく。

 

 

 

「足は大丈夫かい?」

 

「えっ?あ……大丈夫っす」

 

「そうか、なら良い。これからもバレーをして行きたかったら、くれぐれも今みたいな無理はしないように。指導者として無理をして潰れる子たちを見たくは無いからな」

 

「……うす」

 

(そうだ、無理はくれぐれも控えてくれ。せめて春高予選が終わるまで、ゆっくり休むんだ!)

これで手は打った。鳶尾は顔色には一切出さず、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

(あいつのとこ行ってこなきゃ!)

この試合が終わったら、あいつに謝ろう。そう考えていた愛甲が行動に移すべく近づく。

 

 

その時だった。

 

 

 

「ヒッキー!足大丈夫!?」

デカイ!胸にちっちゃいスイカ乗せてるのかい?と掛け声をかけたくなるような女子が持ち前の大胸筋が装備している肩こり養成装置を揺らし、八幡の元へやってくる。

 

 

「ああ大丈夫だ。これで体育とか暫く見学でサボれるし返って得だな」

八幡は自分の足に目を向けると、持ち前の捻くれ発言をかます。

 

「怪我イコール、サボるという答えになってるのだけど……どんな思考回路してるのかしら貴方」

綺麗な黒髪と制服を揺らし(その他については黙秘権を行使します)雪乃が近づく。

 

 

「さすがゴミぃちゃん……」

色々台無しだよ、そう言いたげな顔をしながら小町がつぶやく。

 

 

「そんなことより早く足見せな!」

沙希が八幡を半強制的に座らせ、足を見ようとする。

 

「救急箱持ってきました」

いろはが肩で息をしながら急ぎで救急箱を持ってくる。

 

 

 

(えっ?なにあの美少女達!?あいつ囲まれまくりじゃね……?)

八幡に群がるレベルの高い女の子達を見て愛甲が呆然とする。

 

 

(て事は俺がずっと海浜でスポ根してムサイ男達とボール追っかけてる間に、あいつは総武高行って可愛い女子とラブコメしてたってわけかぁぁ!?)

そして、悔しさの感情、それが怒りへと変換される。

 

 

「比企谷ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ひゃ!?って……愛甲」

急に怒気を含んだ大声を食らいビビる八幡。

 

「……お、覚えてろよぉぉぉぉぉ~~!!!」

それ以外の言葉が浮かばない!愛甲は涙を堪え猛ダッシュで駆けていった。

 

 

 

「あの人、ヒッキー達に試合に負けたの相当悔しかったのかな」

 

「経験者とはいえ3年のブランクがある比企谷君に負けたのだから、そうとう悔しかったのでしょうね」

見当違いの事を考える奉仕部の二人。

 

 

 

((それは違う!!あいつの悔しさ俺には良くわかる!!))

そんな光景を見ていたチェリーズの二人だった。

 

 

 

 

 

 

(青春で負けて、バレーでも負けてたまるか!!)

 

 

「コラっ!遅いぞ愛甲!!早くバスに……って!おい、どこに行く!?」

バスを発進させずに待っていた鳶尾だったが、愛甲はそれをスルーしようとしたのであわてて声をかける。

 

 

「自分、不甲斐ない試合したんで罰走します!!」

 

「ファッ!?」

まさか、自分から罰走を申し出ると思わなかったのか、凄いリアクション。

 

「次は勝つ!!」

 

「えっ……ちょ、待てよ!」

だが待たない。愛甲は行ってしまった。

 

 

「あ~……」

 

(確かに不甲斐ない試合したら罰走っていたけどさぁ、あれ発破かけただけなんだよなぁ)

鳶尾は走って行った愛甲をただ呆然と眺める。

 

 

(……てかコレ嫌な予感すんぞ)

何やら嫌な予感を感じ取る。

 

 

 

「俺、最後決めきれなっかたなんで参加します」

あいつ一人に走らせる訳にはいかない!キャプテンである自分も走る、そう言わんばかりに山北が立ち上がる。

 

 

「すんません!俺、あいつより不甲斐ない試合したんで罰走します」

八幡に何度も騙され、ブロックを振られまくり、愛甲と交代させられたレギュラーのミドルブロッカーの選手も立ち上がる。

 

「お、俺も相手にモーション読まれまくったんで行ってきます!」

同じく八幡にトスを読まれ、流れを渡す切欠を作り石田と交代したセッターのレギュラーも立ち上がる。

 

 

「えっ?ちょ!」

 

「自分もサービスエースとられまくったんで行ってきます」

七沢、飯山、稲村からサービスエースを何度も取られてしまったリベロの小菅もそれに続く。

 

(マジかよ……こうなっちゃうと)

 

 

『レギュラーを出さないんですか?あいつらを舐めない方がいいと思いますが』

 

『なんだ山北、警戒してるのか?』

 

『どんな相手でもなにが起きるか分からないので』

 

『たしかに七沢は警戒が必要だろう2人高いやつもいる、だが、今日は練習試合だ。それに代えるのは1セット目だけだ。後はレギュラーで行く』

 

『ですが―――』

 

『―――うちは全国で戦うチームだぞ?これくらいやれないとな。今の総武高校にハンデつけて勝てないようじゃインハイの二の舞だぞ!』

 

『っ!!』

 

『他にないなら、それで行く!いいな?』

思い出される、自分と山北の会話。

 

 

(こうなっちまったら俺も行かない訳にいかねぇだろうが!!)

これで彼らだけを行かせてしまえば、アレ?舐めてかかった監督も敗因の一つなのに自分は走らないのか。やっぱ大人は汚ねぇなと思われてしまう。

 

 

「よし!自分も罰走するって奴は俺について来い行くぞ!!」

口は災いの元、こうなってしまっては仕方ない。鳶尾は立ち上がり部員達に声をかけると、部員達もそれに答えるように立ち上がる。

 

 

(俺は主だったミスとか無かったし、バスでいいや♪)

そんな中、運転手のコーチと控えセッターの石田だけは立ち上がらない。

 

 

「何やってるんだ石田?」

そんな石田に声をかける山北。

 

「えっ?」

 

「愛甲が降りたんだ、お前も降りろ」

 

「何故すか!?」

 

「一人は皆の為に、皆は一人の為にだ!さあ、行くぞ」

お前一人を残してなるものか!山北は笑顔で彼を持ち上げバスから連れ出す。

 

 

「Noおおおおおおお~~!!!!!!」

その日、総武高から聞きなれない声が木霊したという。

 

 

 

 

 

―再び体育館―

バレー部は軽いクールダウンを終え、撤収作業に取り掛かろうとしていた。

 

 

「お疲れ!」

そんなバレー部に総武高OGである雪ノ下陽乃が声をかける。

 

「あっ雪ノ下先輩、お疲れ様です!」

七沢が近づき挨拶をする。

 

 

「私が寄贈したベンチ早速使ってくれたんだね」

 

「はい、おかげさまで助かりました!重宝します」

目線の先にはスポーツベンチ、地味に欲しかったけど手が出せなかったバレー部には非常にうれしいものだった。

 

この商品、安い物で2万前後、高ければ4万強以上する、お高い物。部費が潤沢にあるならともかく、部費がそれほど無い総武高バレー部は、これを買うくらいならボールやサプリメントに金を回した方が良いと判断していた。

 

 

「いいのいいの、うちの義弟のためだもん……そうだ!私も片付け手伝うよ」

 

 

「えっ?でも」

「いいからいいから!私こう見えて力持ちなんだから」

寄付してもらった上に、運んでもらうのは気が引ける。七沢は止めようとするが陽乃が笑顔でバイセプス(上腕二等筋を強調するポージング、やり方によっては三頭筋も強調できる)の動作を見せながらそれを制する。

 

 

「これ部室に運べばいいんだよね?」

 

「は、ハイ!では折角なのでお願いします」

ここで断るのも逆に失礼に値する。七沢は申し訳なさそうにお願いする。

 

 

「は~い、任せなさい」

陽乃は、その鉄仮面の下で更なる笑みを浮かべながら、ベンチを抱えその場を後にした。




次回から日常な話に入ります。


次回の更新は未定です。


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