それは幼い頃の記憶。「矢澤にこ」の原点。
それと同時にある人の意識がにこの前に現れる。
これはにことある人が紡ぐ「矢澤にこ」のお話です。
読み難い所はあるとは思いますが気に入って頂けたら幸いです。
/ プロローグ
にっこにこにー☆
みんなを笑顔にできますように。
君が笑顔になれますように。
幼い君に送る笑顔のまほう。
にこ / 1
いつものように私は目覚めた。いつもと違うのは頭の中がふわふわしていること。
それは久しぶりに夢を見たから。
私がまだ小さかった頃の幸せな思い出の1つ。
私が初めてあの言葉を教えてもらった日。私の名前の意味と込められた思いを教えてもらった日。
とある野原の綺麗な景色、優しく吹いたそよ風、教えてもらった時の喜び、あの人の優しい笑顔。
全てが鮮明に覚えている。
ふと時計を見るといつも支度する時間を少し過ぎていた。
早く朝ごはんの準備しないとね。
私は夢の感傷をひとまず置おいて台所へ向かった。
/ 1
気が付くと僕はどこかの台所にいた。
意識がぼんやりする。さっきまでいた所はよく覚えていない。とても長い時間暗い空間にいたような気がする。
時々綺麗な光が横切ってその数を数えていたと思う。
その前に何か大切な事を行っていた気がするが思い出せない・・・・。
虚ろな意識がはっきりしてきて改めて今いる場所を確認する。
懐かしさを感じたがよく見ればここはかつて僕が住んでいたアパートの台所にそっくりだ。
そこには小さな女の子が手際よく料理を作っている。
幼い顔立ちと容姿だが動作には落ち着いた大人の雰囲気を感じた。出来た料理を丁寧に盛り付けるときに顔が見えた。
その少女は僕の記憶にある面影が残っておりすぐに誰だか分かった。
「おはようございます」
「にこにーおはよー!」
「おはよー」
不意に後ろから声が聞こえた。振り返るとそこにはさらに小さな女の子が2人と男の子がいた。
どうやら僕の姿は誰も見えないみたいだ。
この子達も記憶の面影と重なり誰だかすぐに分かった。
「おはよう。今出来たからちょっと待っててね」
声を掛けられた台所側にいる少女、にこは盛りつけられた食器を持って振り返る。
髪の長い女の子、こころはにこと一緒に料理を運び、髪の短い女の子、こころと男の子の虎太郎はテーブルの上を片付けている。
「それじゃあ」
「いただきます!」
朝食の挨拶を済まし皆食べ始める。献立はごはんと味噌汁、目玉焼き、サラダ、たこさんウィンナーと質素ではあるがどれもおいしそうだ。
皆がおいしそうな朝食を食べている中、僕は改めてみんなの顔を見る。
にこ、こころ、ここあ、虎太郎。みんな大きくなったね。
僕の大切な子供たち。
にこ / 2
朝食を食べ終わり身支度を整えこころとここあを見送り虎太郎を保育園へ送った後、私は荷物を持って一人電車に乗りある場所へ向かう。
今日は平日だけど私は卒業したから学校はお休みで、μ’sの練習もお休みなのでちょっと遠出することにした。
きっかけは今朝見た夢。夢で見た景色が懐かしくなってちょっと寄ってみたくなったのだ。
いくつかの駅を過ぎて目的地の最寄り駅で降りる。
向かう途中、コンビニでお昼ごはんのパンと飲み物をちょっと多めに買い、更に少し歩くと目的地が見えた。
そこは公園。広い野原が一面に広がり開放感があり、公園の脇には遊具やベンチが置いてある。
小さい頃パパとママに連れてきてもらった思い出の場所。パパに素敵な事を教えてもらった大切な場所。
さすがに平日の午前なだから人はいないが休日はここでこどもが遊んだり、のんびり散歩したりする人も多いみたい。
その野原の真ん中に1本大きな木が植えてある所に向かう。
木の根もとにビニールシートを引きその場に座ると柔らかな春の心地よい風が頬を撫でる。
あの頃と変わらない景色が目の前にひろがる。木漏れ日が優しく私を照らし、私は目を閉じゆっくりと息を吸う。
すごく優しい気持ちになる。最近は海外やらアキバのイベントやら忙しくてこんな穏やかな気持ちは久しぶりの感覚だった。
私はのんびりしてお昼ごはんを食べた後ビニールシートを片付け次の目的地へ向かう。
駅に戻り電車に乗り数分、目的地の最寄りで降りる。
そこから数分歩き目的地が見えてくると近くのお花屋さんで花を買っていった。
目的地へ着くと私はその奥へと向かう。
更に進み少し奥まった所のある場所に着いた。
そこは矢澤家と書かれたお墓。
ここに最後に来たのは中学生以来かな。
少し汚れたお墓を掃除してお昼前に多めに買っていたパンと飲み物、お花をお供えしてお線香をたく。
「久しぶりだね、パパ。ずっと来れなくてごめんね」
私は屈んで手を合わせた後、目の前のお墓に優しく声をかけた。
/ 2
にこはお墓の前でゆっくりと語りかけていた。
音ノ木坂高校を受験し入学したこと。
スクールアイドルを目指したがにこの考えについていけず仲間が離れ、挫折したこと。
心が挫けてお墓に中々来られなかったこと。
それでも夢をあきらめきれず部室で燻っていたこと。
3年生に上がる時に学校の廃校が決まったこと。
始めは表情が暗く俯いていたが、3年生になってからの話から徐々に表情が明るくなってきた。
3年生になり景色が変わったこと。
信じ合えるかけがえのない仲間に出会えたこと。
廃校を阻止できたこと。
ラブライブという最高の舞台で優勝できたこと。
ニューヨークでスクールアイドルを世界に知らしめたこと。
秋葉原で全国のスクールアイドル達と一緒に踊ったこと。
後半は合宿の話や日常の些細な出来事まで嬉しそうに話してくれた。
途中西木野真姫ちゃんという子との話が入った。にこのお気に入りらしく、ちょこちょこ名前が挙がっていた。
にこの嬉しそうな顔を見て安堵する。
僕の一番の心残りはにこのことだった。
僕が事故で亡くなった日。僕の意識は宙に浮いていた。その後はしばらく残っていた。
僕の亡骸を見て一番大泣きしたのはまだ小さかったこころでもここあでも赤ん坊だった虎太郎でもなく、にこだった。
葬儀のときもずっと涙を流していた姿は今でも覚えている。あの時は本当に見ていて辛かった。
その日以来にこは笑わなくなった。家に帰ってくると真っ先に仏壇に向かい手を合わせるのが日課になっていた。
けどある日ママがあの公園に出かけることを提案してにこたちを連れていき、そしてあの大きな木の下で僕の昔話をした事がにこの立ち直るきっかけになった。
/ 回想
「ねぇパパ!どうしてにこの名前ってにこっていうの?」
「にこっていうのはね、嬉しかったり楽しかったときにする顔の事なんだ。笑顔って言うんだけどパパはみんな笑顔にしてくれる人になって欲しいからにこって名前にしたんだよ」
「そうなんだ!どうすればみんな笑顔なるの?」
「そうだね、じゃあパパと一緒にやってみようか!」
「うん!」
「まず手をグーにして、そしたらお父さん指とお母さん指と赤ちゃん指を伸ばして」
「こう?」
「そうだよ。そうしたら頭の横に持ってきてにっこりしてこう言うんだ。にっこにこにー☆」
「にっこにこにーってなに?」
「皆を笑顔にするまほうの言葉だよ。にこもやってごらん」
「にっこにこにー☆」
「上手上手!じゃあパパと一緒にせーの」
「にっこにこにー☆」
/ 2
にこは公園から帰ってきて仏壇に向かってこう言った。
「パパあのね、にこパパの約束守るね。皆を笑顔にするように頑張るよ。だからね、泣かないようにする。にこが泣いてたらみんな笑顔になれないもんね」
そう言った後僕が教えたポーズを取りあのセリフを言った。
「にっこにこにー☆」
その笑顔はぎこちなかったが涙はなかった。
その後僕は久しぶりの笑顔を見て安心し、そのまま意識が遠ざかった。
けどどうして今頃になって僕はここに戻ってきたのか。
その疑問だけがいまだに残っていた。
にこ / 3
パパにこれまでの報告をしていたらいつの間にか夕方になっていた。
帰って虎太郎を迎えに行ってチビたちの夕飯の準備しなきゃ!
名残惜しいけどパパに最後の報告をして帰ろう。
「明日アキバドームっていう場所でμ’s最後の活動をするんだ。これでμ’sは解散しちゃうけどにこは・・・」
目を閉じて思い出す。
初めてあの言葉を教えてくれた日。帰ってきてテレビを付けたら見つけた私の原点。
私は決意を込めて、笑顔で言う。
「にこは今後もアイドルを目指そうと思うの。本物のアイドルになって皆を笑顔にするために。パパが付けてくれたこの名前を誇れるように」
心に迷いは無い。かけがえのない仲間とかけがえのない思い出を得たんだもの。
もう私は挫折しない。
「だからパパ、見守っていてね」
私はお供え物をしまいなおし、お墓を後にした。
/ 3
あぁ、そうか。
結局僕は僕が言った事が原因でにこが縛られているかどうか心配だったんだ。
けどにこは乗り越えてくれた。
にこの決心を見届ける為に僕は戻ってきたんだ。
大切な仲間が君を強くしてくれたんだね。
僕はいつだって君の味方だ。ずっと君と家族と、君の大切な仲間を遠くから見守り続けるよ。
たとえ君が忘れても構わない。僕は忘れないから。
強く育ってくれてありがとう。
今まで辛い思いをさせてしまってごめんね。
そして僕が教えた言葉を大切にしてくれてありがとう。
意識が少しずつ遠のいていくのが分かる。
君をこうやって見られるのはこれで最後なのだろう。
神様。最後にどうか僕にほんの少しだけ。奇跡を起こさせて下さい。
にこ / エピローグ
しんと静まり返った学校の屋上で私は一人空を眺めている。
なぜ学校にいること言えば穂乃果が突然
「μ’sとしていられる最後の日なんだからみんなで学校に泊まろうよ!」
という唐突で無茶ぶりな連絡が入ったからだ。
おかげで私はチビたちに夕飯の用意をした後ママに連絡を入れ急いで学校へ向かい、メンバー全員の料理を振る舞うというハードスケジュールをこなしていた。
本当に私頑張ったわ・・・・。
皆寝静まった後なんだか眼が冴えていたのでこうして屋上まで足を運んでいた。
まだ肌寒いので上着を羽織ってきたけどそれでも少し寒く感じる。見上げた夜空は空気が澄み綺麗な星空だ。
夜空を見る度に思い出す。
小さいとき仏壇に約束した次の日から私は空に向かって魔法の言葉を放っていた。
心配しないでね。にこは頑張るよ。空にいると思ったパパに届きますように。そう祈りを込めながら。
けどいつの間にかやらなくなってしまった。
今日お墓参りに行って来たからか久しぶりにやってみたくなった。前に穂乃果が大声をあげていたから今回も大丈夫だと思う。
あなたに届きますように。
あなたが笑顔になりますように。
私は願いを込めてお決まりのポーズを取り夜空に向けて言い放つ。
「にっこにこにー☆」
まほうの言葉は星空へ消え、静寂が残った。
きっと届いたよね。私は満足して扉へ向かう。
「にっこにこにー」
不意に聞こえた懐かしい声。小さかったけど確かに聞こえた温かい声。
ありがとうパパ。私は心の中でそうつぶやき仲間達が眠っている教室へと向かった。
「ラブライブ!」×「BUMP OF CHICKEN」
矢澤にこ「orbital period」 完
読んで頂きありがとうございました。
これはBUMP OF CHICKENのアルバム「orbital period」に収録されている「voyager」「flyby」から閃いたものです。
にこの決め台詞の誕生秘話と家族構成でも明かされないにこのパパの素性が二つの曲と重なったので書いてみました。