月島さん「作者が大晦日にゴロゴロせずに小説を書くよう指示する僕を、作者の過去に挟み込んでおいたよ」
時は僅かに遡る。
“死神達に一泡吹かせてやるとしよう”。クアルソは確かにそう言った。それまでの話の流れから、クアルソは
「……どういう意味だクアルソ様?」
死神を助けに行くのか。それとも死神諸共
「そのままの意味だよ。オレ達を敵視している死神共に一泡吹かせてやるんだ。死神達は今
実際、クアルソが戦った二人の
「そんな、死神達を蹂躙している
『!?』
クアルソのその言葉に、幾人かの
「前回、
「ああ!? むかつくに決まっているだろうが!!」
「次は負けねぇ……! 黒崎一護だろうが何だろうが、絶対にぶちのめす!」
クアルソの煽り言葉にヤミーとグリムジョーが怒気を上げる。それを見て、クアルソは笑みを浮かべた。
「そんな死神をだ。
『……』
グリムジョーとヤミーはその言葉を聞いて黙り込む。クアルソの言う未来を想像しているのだろう。
「宿敵であるオレ達に助けられる事で死神の面目を潰し、そのうえ敵を倒して鬱憤を晴らす事も出来る。何の問題があるんだ?」
「……面白そうじゃねぇか」
「なるほどな。そういう事なら文句はねぇ」
死神に一泡吹かせるという意味を理解したグリムジョーは、愉しそうな笑みを浮かべる。ヤミーも死神を助けるのは業腹だが、そういった意趣があるならば話は別だった。
「ねえ、結局言い方を変えただけで死神を助ける事に変わりはないのよね……?」
「ああ。猪二匹を上手く誘導する為の方便という奴だろう」
ネリエルとハリベルが猪二匹に聞こえないように小声で会話する。そして憐れむようにクアルソの掌の上でコロコロされている猪二匹に一瞬だけ視線を送った。
「さて、それじゃあ今から
「クアルソ様が言うならやるさ」
「同じく。如何様にもご命令を」
「はい。それが一護を助ける為になるなら反対などする訳がありません」
「はっ! 黒崎を倒すのに邪魔な奴らは全部ぶっ殺してやるよ!」
「クアルソ様のご随意に」
「ああ。敵を倒せるならそれでいい。最近は誰も殺していなくてうずうずしてたんだ!」
クアルソの言葉に
「死神には絶対にこちらから手を出すなよ。敵対しない事をちゃんと口と行動で証明しろ。その上で死神が攻撃を仕掛けて来たならば、出来るだけ自衛に徹しろ。自衛が困難ならば反撃を許可する。ただし出来るだけ殺すな。その上で自分も死ぬな」
かなり難易度の高い命令をしているクアルソだったが、それを無茶だとは思っていなかった。
「それが出来る程度にはお前達を鍛えたつもりだ。出来ないなら出来ないでいいぞ? 次は出来るように修行を課してやる」
『はっ! 必ずや成し遂げてみせます!!』
「目標は
『はっ!!』
瀞霊廷の上空に姿を現した
「これが瀞霊廷? 話に聞いていたのと違うな」
古来の日本風建築が瀞霊廷の造形だと聞いていたが、眼下に広がる街並みは明らかに中世ヨーロッパを思わせるものだ。それに疑問を抱いたスタークがそんな感想を零す。
「ふむ。あちこちで戦闘が行われているようだ。これ程の規模の戦争だとはな」
ハリベルからは戦士としての観点からの言葉が出ていた。戦闘で破壊された街並み、あちこちで上がる煙と戦闘音。それらから、死神と
「……一護は無事かしら?」
ネリエルの関心は一護にのみ向いていた。上空から一護はどこかと探しているようだ。
「黒崎はどこだ……!」
グリムジョーの関心も一護に向いていた。そんなグリムジョーを見て、クアルソはグリムジョーが一護を見つけたら
「しっかし何でこんなに暗いの?
だが、今の瀞霊廷はユーハバッハによって闇に閉ざされていた。瀞霊廷を覆う遮魂膜を黒い何かで覆った為に、瀞霊廷の内部のみが暗闇となってしまったのだ。
それを知らないルピが、そんな疑問をどうでもよさそうに呟いた。
「どうでもいいよそんな事はよ。それよりも、殺し甲斐がある奴はどこだ?」
ヤミーは瀞霊廷がどうなってようと一切興味がない。興味があるのは自分の怒りをぶつける事が出来る殺し甲斐のある敵だけだ。
「さて……」
クアルソは瀞霊廷に入ってから感じた事に思考を巡らすが、今はそれを置いて危機に陥っているだろう死神を助ける事が先決だと判断する。
「戦場は瀞霊廷の各地で起こっている。オレ達も適当に散って行動するぞ」
『はっ!』
「良し。負けても良いが死ぬなよ。死んだら完全に死んでない限り蘇生させて後でみっちり修行だからな? 生きてても負けたら修行だけど。ああ、勝っても修行か。まあ頑張れ」
『はっ……!』
どっちにしろ修行する事に変わりはないのだが、負ければその修行の密度は果てしなく高まる事は間違いないだろう。それを理解した
「よし、行くぞ!」
『おお!』
クアルソの号令と共に
そうして、各地で戦っていた死神と
◆
市丸は息も荒くあげ、どうにか生き延びて瓦礫の裏に身を隠していた。元護廷十三隊隊長であり、藍染に引き抜かれる程の才能の持ち主。隊長格の中でも、真っ向からの勝負で市丸に勝てる者は極僅かだろう。不意打ちありなら尚更だ。
その市丸が、ただ逃げ回るしか出来ないでいた。どんな攻撃も通用しない。神速の伸縮を利用した連続の突きも、鬼道も、
そして、敵の攻撃は放たれたら避ける事は出来ない。防御も不可能。射線上にあったものは何であれ貫通される。その特性を見抜き、敵の視界に入らないように動き続けるも、リジェの無差別攻撃を幾つか受けてしまい、市丸の体はボロボロだった。
「こら、反則やろ……」
思わず弱音を吐いてしまう市丸だが、この状況では仕方ないと言えよう。どんな攻撃も通じず、敵の攻撃は防げない。そんな、戦闘とも言えない一方的な虐殺に身を晒されては不満の一つも言いたくなるというものだ。
「その傷で良く逃げるね」
「!!」
市丸が隠れ潜んでいた場所に、突如としてリジェが出現した。どうやら空間を跳躍したらしい。
そんな事も出来るのかと、市丸は苦々しい表情を浮かべる。それと同時に、即座に鬼道を発動させる。
「無駄だ。両目を開けた僕にはどんな攻撃も通用しない」
リジェの言う通り、市丸の鬼道はリジェにダメージを与える事はなかった。だが、そんな事は市丸も疾うに理解している。その理屈までは理解出来ないが。
市丸は攻撃の為に鬼道を放ったのではない。リジェの視界に入る事の危険性を理解している為、リジェの視界を遮る為に鬼道を放ったのだ。
「まだ逃げるか。無駄な事を」
眼前から消えた市丸に対しリジェがそう呟く。
無駄な事。確かに勝ち目のない戦いで足掻いたところで無駄かもしれない。ゲームで言うなら、無敵状態の敵を相手に敗北するまでの時間を延ばすだけの行為だ。
だが、市丸は諦めていなかった。確かに自分の力では勝ち目はないかもしれない。だが、何かしらの突破口はあるかもしれない。逃げ続け、時間を稼げばそれが見つかるかもしれない。
どんな状況でも目的の為に足掻き続ける。憎き藍染の下で己を殺し続けて仕えて来た市丸にとって、この程度の逆境など諦める理由にすらならなかった。
そうして市丸が再びリジェの視界から逃れた時の事だ。
「……なんや?」
市丸が、空に起こった異変に気付いた。突如として瀞霊廷の空が割れたのだ。その現象が何かを市丸は即座に理解する。
「
市丸の予想は当たっていた。割れた空間から、七人の
「クアルソ……一体何を……」
何を考えて、この場に現れたのか。市丸の想像は幾つかある。最も可能性の高いのが、恐ろしく可笑しな事だが死神を助けに来た事だ。
そして可能性の低い事として、死神の殲滅、もしくは死神と
そして、やはりクアルソの性格上ないと思いたいが、藍染の解放という可能性も捨て切れない。クアルソは藍染と敵対したが、それでも藍染に対して一定以上の敬意を払っていた。敵対した状態でも藍染に敬称をつけていたのがその証拠だろう。
今になって藍染を解放しようと思い直したという想像も市丸の中にはあった。
一体どのような目的でこの場に現れたのか。市丸がそう思考しているところで、リジェもまた同様の思考をしていた。
「あれは……陛下が仰っていた
そこまで考えたところで、リジェはある事柄を思い出した。
「……そうか。グレミィの奴、余計なちょっかいを仕掛けたな」
リジェは
グレミィがクアルソに興味津々だった事はリジェも知っている事だ。だが、クアルソに手を出す事はユーハバッハによって禁じられていた。時が来れば戦っても良いと言われていたが、その時はまだ先の筈だ。だというのに、それを破ってクアルソに戦いを挑み、返り討ちにあったのだろうとリジェは推測したのだ。
「やはり奴は牢獄から出すべきではなかったか……。いや、陛下のなさった事に疑問を抱くのは不敬か」
グレミィを牢獄から出した事に異論を挟むべきだったかと思ったリジェだったが、神であるユーハバッハのなした事に対し、そんな思いを抱く事が不敬だと己を戒める。
そして、例えクアルソ・ソーンブラや
そう考えたリジェは、まずは先程から逃げ続ける市丸に止めを刺そうと、市丸の傍に空間転移する。
「!!」
「ちょこまか逃げ回るのは終わりだよ。大きな
リジェは市丸に死刑宣告を放つ。だが、それを聞いた市丸は思わず笑いを零してしまった。
「く、くくっ……」
「……何がおかしい?」
市丸の笑いが癇に障ったのか、リジェは不機嫌そうに市丸に問い掛ける。そんなリジェに対し、市丸はやはり笑みを浮かべながら返した。
「そら笑ってまうわ。その大きなゴミに勝てると思うとるんやからな」
「……僕が
「そら勝てんわ。あんたで勝てるなら、藍染惣右介も苦労せんかったやろうなぁ」
「……」
自分がクアルソ・ソーンブラに勝つ事は出来ないと言われ、リジェの怒りは高まった。
リジェは非常にプライドが高い男だ。いや、プライドというよりも、自身の存在が他者よりも遥かに高い位置にいると思っているというべきか。自分は神の使徒であり、敵対するものは全て神に逆らう罪人。そう決め付けているのだ。
その罪人が、事もあろうに罪人の中の罪人である
「そうか。ならば地獄で待っているといい。直にあのクアルソ・ソーンブラもお前の下に送ってやる」
そう言って、リジェは怒りのままに不敬者を滅しようとして――
「いや、どうせなら美女美少女の下に送ってくれない?」
『!?』
眼前に現れたクアルソを見て、市丸共々驚愕しその動きを思わず止めてしまった。
◆
クアルソは瀞霊廷の上空に現れた瞬間に、瀞霊廷を一望して大まかな戦況を把握した。
死神の多くが傷付き倒れ、隊長格もまた苦戦している状態だ。だが、同時に
だが、それで死神が優勢かと言われればそうではないとクアルソは答えるだろう。生き残っている
早く救援に行かなければならないだろう。そう思ったクアルソは、自分がどこに行くべきか考える。美女、美女、美女、美少女、女装男子。ここに行くべきだろう。即決だった。なお、最後の女装男子に対してはどうでもいい。むしろぶっ飛ばしてもいい。
そう思ったクアルソだったが、別の場所で行われている戦いで市丸が危機に陥っているのも把握していた。あのままでは死んでしまうのも時間の問題だろう。
クアルソは
そうして
「いや、どうせなら美女美少女の下に送ってくれない?」
『!?』
せっかく美女美少女の群れが居たというのに、男の下に来ざるを得なかった童貞の悲しい言葉であった。
「く、クアルソ……」
「よ、久しぶりだな市丸。助けに来たぞ」
軽い口調のクアルソの台詞を聞いて、変わらんなぁと思いつつも、やはり死神を助けにやって来たのかと市丸は納得する。
「……クアルソ・ソーンブラか」
「どうも。一応
「
クアルソの呑気な挨拶に対し、リジェは辛辣な言葉と一緒に光弾を放って返した。
態々目の前に来てくれたなら好都合というものだった。何を考えて
そうして放たれた
『!?』
これに驚愕したのが市丸とリジェだ。回避も防御も不可能な攻撃を、腕だけでどうして防げたというのか。
特にリジェの驚愕は大きかった。この力を防げる者など、絶対の力を持ったユーハバッハくらいの筈だ。それ以外の誰であろうと、防ぐ事も躱す事も叶わない絶対の攻撃。それがユーハバッハに与えられた
それが、神の力が、罪人を裁く神の威光が、
「ば、馬鹿な……!? なぜ、僕の力が防がれる……!?」
「ふむ。さっきの光弾には何かしらの力が籠められていたようだけど、どんな能力なんだ?」
驚愕するリジェだったが、一方でクアルソもリジェの力に興味を示していた。クアルソはリジェの力の詳細を何一つ知らない。普通ならどんな効果を持っているか解らない未知の攻撃を直接受けるつもりはないのだが、今回は後ろにまともに動く事も出来ない程の傷を受けている市丸が居たので、躱さずに防御したのだ。
だがその防御の時に、いや、リジェが攻撃を放った瞬間に、クアルソの霊力が消費された。この感覚は【ボス属性】のそれだと長年の経験から理解したクアルソは、リジェの攻撃に何らかの効果が含まれているのだと判断したのだ。
攻撃が放たれた時と攻撃を防いだ時、その二つでそれぞれ霊力が消費された。その消費量もかなりのものだ。【ボス属性】は物理攻撃系以外の、クアルソに干渉する能力を防ぐ力を持っているが、その際に防いだ能力の効果に比例した霊力を消費する。能力が強ければ強いほど、籠められた力が大きければ大きいほど、クアルソの霊力も消費されるのだ。
そこから考えると、リジェの能力の強さはかなりのものと推測された。そして攻撃が当たる前、攻撃を放った瞬間から【ボス属性】が発動した事から、命中せずとも何かしらの効果を発揮している能力だとも推測する。
「僕の
そう叫んで、リジェは先程の光景は見間違いだとばかりに光弾を乱射する。だが、リジェが見開いた両目はリジェにとって残酷な現実を映し出していた。
「う、嘘だ……!」
幾十も放った光弾は、やはりその全てがクアルソの腕によって防がれた。その際、クアルソの体に傷一つ出来ていない。せいぜい【ボス属性】の効果が及ばない白い死覇装の袖がボロボロになったくらいだ。
「……何をしたんや?」
市丸にはクアルソが何をしたのか理解出来なかった。それは
その効果をクアルソは【ボス属性】で打ち消した。故に、クアルソは光弾が放たれてから自分に迫ってくるまでの弾道を見切る事が出来たし、防ぐ事も出来た。だが、【ボス属性】を持たない市丸はその間の時間を認識出来ないのだ。
市丸からすれば、リジェが光弾を放ったと思ったら、いつの間にかクアルソの腕が横薙ぎに振ったように伸ばされていて、攻撃を受けた筈のクアルソが無傷の姿であったという良く解らない現象を目にした事になる。時間にして刹那の間だが、市丸にとっては時間が飛んだような感覚を味わったのだ。
「お前がこの程度の動きを見逃していたとなると、因果か概念に干渉するタイプの能力か? 撃てば必ず当たるという結果が発生する能力か。それとも回避や防御という概念を無視するタイプの能力か。まあそちらさんの口振りからして後者か?」
「……それだけやないみたいや。どうも当たればどんな防御力も無視して貫通するみたいなんやけど……」
市丸がそう言うが、どう見てもクアルソは無傷だ。単純な防御力で防げるような能力ではないと思ったのだが、一体クアルソは何をしたのかと市丸が訝しむ。
「ああ、それか」
クアルソは攻撃を弾いた時に【ボス属性】が発動した理由に気付いた。最初に発動した【ボス属性】は概念操作を無効化した時のもので、二回目に発動した【ボス属性】は全てを貫通させる能力に対するものだろうと予測したのだ。そしてそれは、概ね正解であった。
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な! そんな馬鹿な事があるか! 神の力が! 薄汚い罪人如きに防がれる筈がないんだ!!」
「ねえこの人かなり酷い事言ってない?」
狼狽するリジェに対し、クアルソが思わずそんな事を漏らす。だが、そんな言葉はリジェには届いていなかった。
「死ね! 死ね死ね! 死ね死ね死ね! 貴様のような存在は世界にあってはならない! 世界の為に! 陛下の為に! ここで消えてなくなれクアルソ・ソーンブラ!!」
己が信じる正義を絶対だと思いこんでいるリジェにとって、クアルソという存在は在ってはならない汚らわしいものだ。神の力を否定する
それを証明すべく、リジェはその力の全てをクアルソに向けて揮う。八枚の羽から放たれる二十四の光弾を全て合わせ、一つの巨大な光弾にして汚らわしい存在を浄化せんとしたのだ。
「こういうタイプは話聞かないんだよな」
目の前で巨大な力が揮われようとしている時に、クアルソはそんな事を呟きながら溜め息を吐いた。
クアルソは幾多の転生人生において様々な経験を積んでいる。当然、リジェのようなタイプの者とも幾度となく出会った事がある。
リジェのような自身の信じるモノ以外を認めず、自分の考えや思考が絶対であると思っているタイプは、総じてこちらの話を聞こうとしないのだ。全てがそうではないが、高い確率でそうだった。
そしてリジェも漏れなくそのようだ。自分達の正義の為に敵を滅ぼそうとする。それ自体を悪い事とは言わないが、何かしらの対話も不可能なレベルにまで行くとこちらからすると害悪としか言えなかった。
そうして昔を思い出して溜め息を吐いたクアルソは、リジェの攻撃が放たれる前に
「クアルソ! そいつに攻撃は――」
効かへん。そう言おうとした市丸だったが、リジェの口から発せられた音に己の耳を疑った。
「ごふっ……」
「な……!」
リジェの口から血が溢れ出ていた。口からだけではない。クアルソが貫いた胸からもだ。そして、ありえない物を見るような目でリジェはクアルソと自身の胸を交互に見返していた。
「な、何故……両目を開いている僕が傷を……?」
「何の能力かは知らないけど、防御に関する能力も持っていたのか。多彩だな」
「……そいつが言うには、両目を開いている時はどんな攻撃もそいつを貫通してまうから意味ない……言うたんやけどなぁ」
市丸がリジェの能力の説明をするが、その言葉は尻すぼみになっていった。どう見てもクアルソの攻撃がリジェを貫いている。
圧倒的な実力差で能力を無効化しているのか。能力を無効化する能力を持っているのか。どちらにしても、クアルソが規格外な事は確かだと、市丸は再び認識を改めた。
「ぐっ……!」
クアルソがリジェの胸から腕を引き抜く。急所は刺していない。普通の人間ならば腕で胸を貫かれたら急所云々関係なく死ぬだろうが、霊力が高い魂魄はこの程度の傷では死にはしない。
「その程度の傷なら死にはしないだろう。もう帰れ。出来るなら無駄な殺しはしたくないんだ」
クアルソは強敵との戦いを好むが、無駄な殺生は好まない。それ故の言葉だったが……。
「なんだ……なんだその言葉は!
クアルソの言葉にリジェが発狂したかのように怒り狂う。そして、神の怒りを表したかの如くその姿も変化した。
人間の顔だった頭部は鳥を思わせるようなものに変化し、首は異常に伸び、下半身は馬を思わせるような形に変化する。八枚の羽は健在で、ケンタウロスと鳥の頭部を持った天使を思わせる怪物へと変貌したのだ。
「罪深い。罪深い罪深い罪深い! 貴様の存在全てが罪深く、不快だぞクアルソ・ソーンブラ! 裁きの光明を受けて滅しろ!!」
リジェが掲げた腕から、全てを斬り裂く巨大な閃光が放たれる。射線上にある全てを斬り裂き進んでくるその閃光を、クアルソはやはり片腕を揮うだけで掻き消した。
「おお、威力が上がっているな。やるじゃないか」
「黙れェェェェェェ!!」
どこまでも変わらないクアルソの態度にリジェが更に苛立つ。そして無闇矢鱈と裁きの光明を放つのだが、その全てが瀞霊廷を極僅かに斬り裂いただけで掻き消された。
神の裁きを無とする罪人に、リジェが狂乱する。そして敵処か味方すら巻き込みかねない超広範囲攻撃を放とうとした。
「これも防げるかぁぁぁぁ!?」
リジェが天高く飛びあがり、口の前に手を翳す。まるでラッパを吹くかのような動作だ。
それと同時に、リジェの頭部の上に巨大な光のラッパが生み出された。これがリジェの最大の攻撃、
巨大な光のラッパから放たれる力は、射線上の全てを消滅させる。効果としては
「!?」
リジェは、
「悪い。敵の攻撃を態々待つつもりはないんだ」
クアルソは敵が奥の手を使うのを待つほど悠長ではなかった。
互いに全力を尽くしあう試合だったならば話は別だろうが、これは互いの命を取り合う殺し合いだ。敵に力を発揮させないのも戦術として当たり前の事である。
「……それで生きているというのも大したものだ」
リジェの首を手刀で落としたクアルソだったが、尚も油断なくリジェに視線を向けていた。
そしてクアルソが言葉を発した瞬間に、リジェの頭部は元通りに再生したのであった。
「無駄だ! 貴様が僕に傷をつける事が出来るのは業腹だが認めよう! だが! 神の使いたるこの身は不滅だ! お前如きに僕を殺す事は出来はしない!!」
反則のような能力を持ちながら、首が落とされても再生する生命力を誇る。多くの者がふざけるなと叫びたくなるような力の持ち主だろう。ユーハバッハの最高傑作というのはあながち自称ではないのかもしれない。
だが、そんなふざけた生命力を見せたリジェに対し、クアルソはやはり焦る事なく対応していた。
「大した生命力だ。さて、どこまで再生出来る?」
「ナニ!?」
クアルソの戦闘経験はこの世界の誰よりも多い。不死身じみた存在というのは数多の世界でもそう多くはないが、それでもそういった存在と戦った経験は幾度もあった。
そしてそういった不死身じみた連中に対する対処法は、力の核となるものを壊す。封印する。死ぬまで殺すと幾つか存在する。
大抵が不死身には何らかのカラクリがあり、そのカラクリを破壊すれば対処可能だ。それでも無理なら封印という手もある。そして、面倒だが意外と可能なのが、死ぬまで殺すという方法だった。
不死身といえど限度というものはある。復活するには何らかの力を必要とするものなのだ。それが大気などのそこ等中に存在するものならば流石に枯渇するまで殺す事は無理だが、不死身である当人の力を基にしているなら十分に可能な方法だ。
そこまで考えて、クアルソは一番簡単な方法から試す事にした。
「死ね!」
「甘い!」
リジェが放った裁きの光明を【ボス属性】を駆使しながら被害が広がらない内に掻き消した後、リジェの魄睡――魂魄にある急所の一つ。霊力の発生源――と鎖結――魂魄にある急所の一つ。霊力を増幅させる器官――を破壊する。
リジェの再生が霊力に頼ったものならば、この二つを破壊する事で再生不可能となるだろう。そればかりか、これによって魂魄として霊力を失う事となり、その力の殆どを失ってしまう事になる。無力化という点でも有効な攻撃手段だろう。
「無駄だと言った筈だぁぁぁあ!」
だが、クアルソが与えた傷は即座に再生されてしまった。魄睡と鎖結を砕かれてなお再生が可能となると、他に再生を司る核があるという事だろうか。
しかしクアルソが霊圧知覚で探知してもそれらしいものは発見できなかった。再生するならばそれに伴う力の流れで核の場所が解ると思っていたが、確認出来ない以上は核はないと思うしかないだろう。
だが、核はなくても霊力の消耗は見られた。再生する時にリジェの霊力が消耗しているのがクアルソの鋭敏な霊圧知覚で感じ取れたのだ。つまり、殺し続ければいずれは殺せるという事になる。
――時間がかかるか――
そう考えて、クアルソはその手段を却下する。確かにいずれ倒せるだろうが、そこに至るまでに時間が掛かりすぎた。倒した時には周囲に大きな被害が出ていた、というのは出来るなら避けたい所だった。
故にクアルソは、少々強引な方法で対処する事にした。
「クアルソ・ソーンブラァァァァァ!!」
リジェが
どうやら
リジェの力は決して
「やるな! 今迄で一番いい攻撃だ!」
能力に頼ったものではない、己が磨き上げた力で放たれた
しかし、その力もまたクアルソの腕の一振りで掻き消される。上空で行われている戦いを見た市丸がそれを見て思った。力の次元が違い過ぎる、と。
「前より
ただでさえ強すぎる存在が、この一年半程の間で更に強くなっていた。これには市丸も苦笑いである。
「ああああああ!」
何をしても無力化される。神の使いたる己の力が、一切通用しない。その事実に、悪夢のような現実に、リジェが声を荒げながらクアルソに向かって突進する。霊力で作り出した刃で直接斬り殺そうとしたのだ。
その一撃を僅かに半身を逸らすことで躱したクアルソは、リジェの両目に横薙ぎの手刀を叩きこんだ。
「ギィィィィ!?」
両目を失ったリジェが奇声を上げる。そして即座に失った両目を再生させようとして――
「
――クアルソが作り出した螺旋に渦巻きながら燃える巨大な
「両目が開いた時に攻撃が通用しないっていうのは、こいつが言った事なんだよな市丸」
「……そうや」
市丸の答えを聞いて、クアルソは溜め息を吐いた。
「自分の能力を自分からばらすな。どれだけ強い能力も、情報が知れたら攻略法を思いつかれるものと思え」
クアルソのその言葉は、リジェには届かなかった。何故なら、リジェの肉体は細胞の一片足りとも残されてはいなかったからだ。
クアルソは、リジェの再生能力に対して全身を消滅させた場合も再生するのかを確認した。細胞の一つでも残っていれば再生する者はいるが、一欠けらも残さずに消滅すれば大抵の不死者は死亡した。それでも復活するものは何かしらのカラクリを持った者だ。
故にクアルソはリジェの再生能力の限界を確認すべく、その全身を消滅させた。両目を潰したのはその為の準備だった。
リジェは両目を開いている時に己の肉体に対する攻撃を全て無効化する。両目を開いている時だけ
だが、クアルソは【ボス属性】によってその効果を無効化した。それにより、クアルソはリジェを傷付ける事が出来た。
しかし【ボス属性】が作用するのはクアルソの肉体だけだ。クアルソが放った霊力はその効果の範疇にない。つまり、クアルソの肉体ではない
ただリジェを傷付けるだけならクアルソの肉体による攻撃だけでも十分だが、細胞一つ余さず消滅させるとなると不可能だ。打撃攻撃や関節攻撃だけでどうやってそこまでの破壊を可能とするのか。粉微塵にする事は出来るが。
故に、クアルソはリジェの両目を潰した。両目を開いている時は攻撃が通用しない。ならば、両目を潰して開いていない状態にすればどうなるか。
クアルソのその予測は当たっていた。両目を失った事で一時的に無敵の肉体を失ったリジェは、クアルソが放った鬼道と
そして、完全に消滅したリジェがそこから再生する事はなかった。どうやらそれがリジェの再生の限界のようだ。
こうして、
唯一クアルソを感嘆させたのが能力ではない自分で鍛え上げた力だったというのは、ユーハバッハに与えられた力を絶対視していた彼にとって皮肉だったのかもしれない。
原作のリジェがこれで死ぬかどうかは解りません。もしかしたらこの状態からでも再生するかもしれません。まあ、その場合は原作では聖別で与えられた力がこの小説ではないからという事にしてください。
これが本当に今年最後の投稿です。昨日が仕事納めで今日が休みだったので、ちょっと頑張った。例え惣子ちゃんだろうと月島さんだろうとこれを覆す事は不可能です。
それでは皆さん良いお年を!