お楽しみいただければ幸いです。
プロローグ ――『忘却の皇帝』――
――ここは、どこだ……?
――僕は、誰だ……?
――誰、なんだ…………?
この日、忘れ去られた一人の皇帝が……次元世界に再び生まれ落ちた。
偶然の導いたその生が、彼に与えるものとは…………いったい何なのだろうか?
× × ×
次元世界の一つにして中心、第一管理世界『ミッドチルダ』からそう遠くないとある管理世界にて、ある遺跡が発見された。
それは、古代ベルカ時代――聖王や覇王の時代のものであるらしいのだが…………少々奇妙な部分があった。
それは、古代ベルカのあったとされる場所からはかなり離れているのだ。それなのに、かなり忠実にベルカの名残を残している。
そんな訳で、その遺跡の詳細を調査するために管理局の『無限書庫』の司書長であり、優秀な考古学者でもあるユーノ・スクライアに白羽の矢が立った。
しかし、発見されてもその異様な面持ちから周辺を下手にいじくるのはよくないということで、ほとんど手を付けられない。
そんな訳で、ユーノはまず一人で周辺を調査することにして単身その遺跡を訪れた。
ユーノが大まかな外見を調査したのだが――非常に、奇妙だ。
驚くほど…………何もない。
宝物も、ロストロギアも、呪いも、――何もない。
「いったい、何の目的でこんな遺跡を作ったんだ……?」
ユーノのつぶやきには、この遺跡の異常さに対する彼の想いが凝縮されている。
「それにしても…………これじゃあまるで――」
ユーノは、いつの間にか周辺調査だけでは飽き足らず、内部にまで入っていた。普段の彼であれば、考えられない行動である。しかし、この遺跡には――本当に何もない。
罠も、仕掛けも、防汚システムの様な者も、何もない。
至妙すぎるこの遺跡の中にユーノは知らず知らずのうちに、惹かれる様な気分でその中に入ってしまっていた。
そしてその最深部に着いたとき、その言葉を先ほどの言葉に続けて呟いた。
「――牢獄…………いや、処刑場かな……これは……」
そう、彼の目の前には台座があった。しかし、何かを祀りあげるようなものでない。
仮にそうだったとしたら…………相当に危険な思想のもとに作られたものだろう。
今よりほんの少し前に起こったJS事件の時に生まれ、現在はなのはの養子となったヴィヴィオが『聖王のゆりかご』に縛り付けられていたあの台座に似ているが……少々異なる。
此方には――手枷のついたその台座には、〝何かを突き刺した〟跡が残っていた。それまさに刺殺でも行ったかのような後で……その椅子に座っていたであろう『何か』を殺したか、封印でもしたのだろう。
「悪趣味……とも言い難いかな」
まぁ、古代の遺跡にありがちと言えば……まぁ、ありがちだ。
とはいえ、こんな風に罠も何もない遺跡というのは歴史調査の専門家たる〝スクライア一族〟の一人であり、その中でも優秀なユーノですら、この遺跡がいったい何なのか全くわからなかった。
「これは……発掘隊の到着待ち、かな?」
もっとより徹底的な調査を行うために、早速発掘隊の申請を行うユーノ。幸いにも調査隊はあと三日もあればすぐに集まるらしいので、ユーノもこれ以上の個人調査は無意味だろうと判断し、早速ミッドチルダに帰ることにした。
最近は大分ましになってきたとはいえ、『無限書庫』は相変わらず忙しい。加えて、ユーノがいないとかなり効率が落ちるのだが……ユーノ本人は自覚無し(そんな訳で、司書たちは今回の調査に司書長を駆り出されたことに対して、少々依頼者に恨みの声を上げたという。そんな訳で、意外なことに司書長が一旦帰還して作業に戻ってくれる聞いた瞬間ユーノの知らないところで、歓声が上がったらしい)。
まぁそれは置いておくとしても、ユーノの帰還準備は進んでいく。
とはいえ、結界魔導師である彼には転送魔法はそれほど苦ではない。サクサクと術式をくみ上げ、ミッドチルダに帰ろうとしたのだが――
「……ん?」
――その時、ユーノは先ほどまで気づかなかったとあるものについて気づいた。
それは、何かの『足跡』。
遺跡の周囲を大まかに見たときは、無かったはずだが……とユーノは思ったが、その足跡を見た限りかなり新しい――それどころか、ここ数時間以内にできたものであるようにすら見える。
だが、先ほど見たときにはなかったことは確かだと思うのだが…………。まるで、唐突に現れたみたいな――。
そう思いつつも、ユーノはその足跡をたどっていく。しかし、それは途中から這うようなものに変わり、その何かが非常に弱っているのだろうことが分かる。
やや足を速め、その足跡をたどり続ける。
そして、その先にいたのは…………まだ幼い、少年だった。
「!?」
その少年は、ボロボロのローブの様なものを着ている――というより、それだけを体に巻き付けていると言った方が適切かもしれない。
「なんでこんなところに…………」
そう口に出したものの、ユーノ自身も似たような経験がある。ずっと昔……なのはたちと出会うよりも、ずっと昔のこと。
ユーノも、こんな風にして彷徨っていた。彷徨うことになった理由自体、ユーノは知らない。ただ、ずっとよく分からないままに暗闇の中を彷徨っていた。何もないままに、ただボロボロの布と……不屈の心だけを身に着けて。
そうして、彼がスクライアの里に着いたのは、そのすぐ後の事だった。
スクライアの里に着くまでのこと――かなり昔のことを思い出しかけたユーノだったが、それはともかくとして…………この子を早く病院に連れて行ってあげなくてはならない。
ユーノは早速、先ほどまで用意していた転送用の魔法陣を使い……その子を抱えてミッドチルダへと戻っていった。
忘却の彼方へと消えてしまった皇帝の、現世で
そこにあるのは、忘れ去られた皇帝自身が忘れていた『温かい気持ち』。それを与えてくれる人々との出会いと、それを感じることのできる居場所を与えてくれた――父親との、ちょっとだけ…………不思議な物語。
ユーノ君を保護者に任命しました。
本編だと出番の少ない男性キャラもなるべく活躍させたいと思っています。
ユーノ君を保護者にした理由は主に二つで…………一つは割と好きなキャラだからで、もう一つは、こういった歴史に関連するオリキャラならユーノ君がかなり相性がいいと思ったからです。
GODでも、ヴィヴィオの虹彩異色で聖王家との関係を提示し、カイザーアーツとイングヴァルトからすぐに覇王を連想していましたので……ユーノ君がstsに絡んでたらもっと面白かったんじゃねぇかなぁ的な事を思いつつ、こんな小説を書くに至ってしまいました。
今後も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。