少しずつ少しずつ、現代編へと戻っていってます。
今回割と短めですが、過去編の大詰めへと進むための大事な部分なか話ですので続きを楽しみにしていただける程度の出来になっていると思っていただければ幸いです。
それでは過去編第五話を、どうぞ!
「――――か……は……っ!?」
――その日、《皇帝》は――膝を地につけた……。
――始まった破滅、もたらされる一つの『終焉』。
――皇帝が地に膝をついたその日、世界は――道を一つ違えることになる。
× × ×
生まれて初めて、膝を地に着いた。
負けるということを、敗北というものを――知った。
しかも、その相手は――自分の友人に……大切な人たちに向けて、容赦のない攻撃を放ったのは――ほかならぬ、可憐お家族に等しいとも言える存在だった。
確かに『崇拝』されている様な感覚な時もあった、甘やかされっぱなしなところもあった。ただそれでも、間違いなく――自分を一番愛してくれた人、自分を意志の種を育ててくれた人である……。
自分に〝愛〟をくれた人が、自分に〝友達〟を教えてくれた人たちを殺そうとした。
――どうしたら……いい?
そんなことは、もう分かっているはずだ。
――戦え、そして、取り戻すのだ。
最早それしか無い。
――勝って、取り戻す。
訳の分からないままに奪い去られたものを、全て……この手で……。
それが分かっているか?
――無論、当然、当たり前、だろう?
――一度は決意した。
そして、一度倒れた。
――だから立ち上がれ、そして勝つ。
そうでなくては何のための『力』だ? 何のために『絶対』なんて肩書きを持ってるんだ? もう、分かり切ったことだ。
守るための、〝大切なものすべてを包める〟ような――戦いを。
――そのために、まずするべきことは…………。
そうして視線を向けた先には、虹と新緑の輝きがある。ずっと、一緒にいたいと思った人たち。
でも、今は、一緒にいられない。
今この瞬間に、そばにいてくれるのは『嬉しい』が、それでもいてもらっては『困る』のだ。
どうしても、この戦いには巻き込めない。
『影』にとらえられた目の前の彼女は――――明らかに次元が、違う。
――視線を再び、……〝相対するべき相手〟……に、視線を向ける。
そこには、黒と紫が混ざり合った……禍々しい光が、此方へと……向いていた。
――やはり、ここにいさせてはいけない。
どうにか、しなくてはならない。
それはともかく、今体上がらなくては……何も、変わらない。
――――その心が、彼をもう一度立ち上がらせる。
× × ×
それは、何気なく外の様子を見に行ったアブソルートがなかなか戻ってこないのを機にした二人、オリヴィエとクラウスの、何気ない行動の先に会った光景だった。
部屋の外にいるらしい彼と、誰かの会話が聞こえたので、何かあったのだということが分かり、何か手伝えることがあれば……なんていうくごく当たり前の気持ちで、彼らはその〝信じられない〟、〝有りえない〟光景を……目にしたのだった。
部屋の扉を開けた瞬間、狂気に狂ったようなすさまじい黒紫の斬撃が自分たちに迫ってきたのだ。その攻撃はとてもではないが、クラウスやオリヴィエには防ぎきれそうなものではなかった。それでも、素直に潔く殺されるほど、出来た人間ではないと言わんばかりに、抵抗を試みるが、それは不発に終わった。
何せ、あのアブソルートが、あの翡翠の『障壁』を展開して、自分たちと斬撃の間に立ちはだかったのだから……。
こうなれば、もはや余計な手出しは無用。自分達、エレミアも含めた中での『最強』は……間違いなく彼だから。
だが――
「か………は…………っ!?」
――彼らはその〝有りえない〟光景を目にした。
その斬撃は、たった一発、たった一撃。
だが、そのたった一撃の攻撃が――
――あの、アブソルートを……地に跪かせた……。
アブソルートが、地に膝をつけるところをなど……これまで一度だって見たことが無い。彼の力はまさに最強・無敵、ベルカの王たち全員で挑んでもきっと勝てない。『
そんな、『絶対』な存在の彼は…………今、目の前で地に膝をつき、その斬撃のダメージに文字通り血反吐を吐いている。
アブソルートの『障壁』を突破しただけにとどまらず、彼本人にまで……ダメージを与えたのだ。
――次元が、違う。
ただその事実だけが、彼らの中に入って来た。
周囲にはびこる鮮血の海など、その光景と共にどこか遠い世界へと吹き飛んでしまう。もはや、有りえないことの連続に思考は麻痺し……目の前の現実など……信じたくないとしか、思えない。
しかし、残酷は真実。
真の前の光景の全てが、今この瞬間に彼らに訪れた――現実の全てだった。
かき乱される心、どうしようもないほどに強大な〝敵〟……依然としてこちらへと向いている『狂気』によって自分たちに迫る『死』の予兆に、彼らの心は、死んでしまったかのようだった……。
だが、そんな心を落ち着かせるために諮ったかのようにして――
「クラ……ウス、オリヴィ……エ……、落ち着いて…………そして、聞いて……」
「「――っ!?」」
その声は、弱々しかった。しかし、その声は……どこまでも二人の心を落ち着かせたのだった。
「……二人とも、聞いて…………。今から、君たちを……ここから、『転移』させる…………」
しかし、その次に発せられた言葉――彼が二人に告げたのは……自分たち二人をあたかも突き放すかのような言葉であった…………。
× × ×
(……? わたくしは……なにを…………していたのでしょうか…………?)
――何も心配はいらない。お前の、望みは、すぐに叶う。
(…………望、み…………?)
霞んだ視線の先に見えるのは――
――あか……赤、紅……
その光景は、ちっとも頭に入ってこなかったが……その赤の中にたたずむたった一か所の光景だけは、霞ガがかった脳裏にも入って来た。
(…………陛、下…………?)
血を流しているその姿に、あの『皇帝』が――と思ったが、その瞬間。
彼女は、正気を――そして、自分が何をしていたかという記憶を……取り戻した。
(あ、あ……あ…………っ!!)
自覚した瞬間、自分が愛する者に向けたその醜い心と、行った仕打ちをまざまざと見せつけられた、彼女の心は――亀裂が入るほどの衝撃を受け、その衝撃と痛みは悲鳴となって表れた。
「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!?????」
――チッ……、面倒な……。
これだから人間は、と吐き捨てた声は絶叫を止めさせると、彼女にこういった。
――「シュティレ」に乗せれば、死にはしない。それに……この程度で死ぬようでは、その『器』たる〝私が〟困る。
それに、とその声はこう続ける。
――教えたはずだ。『皇帝』の
(…………)
――分かった……様だな? ならば、今は『槍』をここへ。
(……承り……ました…………)
再び、塗りつぶされた彼女は……再び指示されるままに、動き出し――かざした手に、輪廻を……人の『記憶』を司り制御する武器が、収まる。
× × ×
(……? 動きが、止まった……?)
薄れそうになる視界が、意識だけが心理の底に沈んでしまったかのような彼女の姿をその端にとらえた。
――今しか、無い。
既にその有無については伝えた――事態は、一刻を争う。
「それじゃあ、行くよ……」
そういって、アブソルートはいくつかの印を結ぶ。すると、翡翠の魔法陣が展開される。これで――準備は整った。
だが、二人はそれを拒む。
「ま、待ってくれアブソルート! 確かに相手は次元が違う、離脱もうなずけるが何故僕らだけが!? 君も一緒に――」
「駄目だ」
「!? ……いったい何故!?」
「そうですよ! あなただけが残るなんて……もし残るのでしたら、私たちも一緒に……!」
「……駄目なんだ……」
その二回目の否定を口にしたときの彼は……、アブソルートは――泣いていたのだ……。
「お願いだよ……今は、にげて……。ここで、彼女を止めてあげないといけない。そのために、僕はここに、残るんだ……!」
「なら! なおの事――「もう……嫌なんだ……!」――っ!?」
「もう…………友達が消えるのは、いやだよ……。だから、逃げてよ……! 僕だけじゃ、これ以上
震える声で、告げる。
――勿論、いてくれるなら……一緒にいてほしい。
でも、もしも……もしも、失うことになってしまうとしたら――。
――それは、自分が死ぬよりも怖い。
クロゼルグがいなくなってしまったときに、身が引きちぎれそうだった。やっと手に入れた〝絆〟を〝居場所〟を失うのが、こんなにも『痛い』なんて……知らなかった。
仮に、奥の手の一つである『あれ』を使ったとしても、所詮は付け焼刃。二人と共に戦うのにはリスクが高すぎる。
ただ、『あれ』は……もしものことを考えれば、二人には託しておいた方がいい。
――もし、負けたら……それは彼らを守る矛と盾になる。
――もし、勝てたなら、それは帰る居場所の道標になる。
――自分が〝死んでも〟、それは二人の下に残り二人を守るだろう。
――そして、それはきっと……大好きな二人の王……友の力になるはずだ。
だから――。
「――今は、逃げて……。二人が、生きていてくれるだけでも……僕はきっと――帰れるだろうし、きっと彼女も助けて見せる……。だから――」
――今はそれを悟られることなく、半ば置き土産のようにして……二人を強引に魔法陣の中に行かせて……ただ一言、『生きて、良い王でいてね』とだけ……いった。
そして転移する直前に、自身の翡翠と、蒼天の光を二人に託した。
「これは……っ!? アブソルート、一体何を考えて……!?」
「何故ですか……!?」
「……願掛け、かな……? もしも――僕が死んでも、これならきっと、……二人を守れるから……」
だから……、
――蒼天の『武』を、覇王に。
――翡翠の『盾』を、聖王に。
託したのだ……。
これが、奥の手の一つ。『
相手に力を継承させる力――〝譲渡〟。
〝絆〟を知った『皇帝・アブソルート』が至った一つの結論――誰かとつないでいく、力。
だから、笑顔で……託した。
でも、やっぱり二人は悲しそうな顔をしていた。だから、二人に言い訳の様ではあるが、自分のエゴを押し通した謝罪も含めて、こういった……。
「…………きっと、帰るよ…………」
「「アブソルートォォォ!!!!」」
――二人の姿は、そこで途絶え……消えた。
手にしたはずの絆に一度背を向け、鮮血の海の向こうに立っている助けたい人に、向き合う。だが、やはり心のどこかに穴が開いた様な気がした。
――ああ…………こんなに、虚しいんだ……。
そう思った。
なにせ、これから自分が向き合うのは…………これまでの自分が知らなかった〝自分自身の『死』を伴う戦い〟である。
――『たった一人では何を成しても虚しいだけだ』――
前に教えてもらったそれは、確かに正しいのだろうことが実感できた。何せ、
そして皮肉なことに、その虚しさは――嘗て彼が枯れた心の安寧を求めていた。『
『静寂』の虚しさを知った、幼き王は……乾いていく心を……それでも強く保ちながら、今目の前に立ちはだかる〝現実〟に向き合う。
――それは、助けたい人の目の前に対峙すること……。
もうこれで、遠慮も、迷いも――要らない。今はただ、このたった二人きりのカラカラの『静寂』を感じつつ、ただ…………戦うだけだ。
(気合、入れないとね…………)
深呼吸をして、その身に宿る力の全てを――開放する。
――それがきっと、君を助けることになるだろうから。
瞳が、強い意志の下に輝く。
翡翠と、蒼天の輝きが、今……。完全なる、いってみれば……これまで抑えていた分を開放した――『皇帝』としての、覚醒を迎える。
「さあ、ラス。ここからは…………ただひたすらに…………戦いだよ」
その瞬間――戦いの火蓋は、切って落とされたのだった。
× × ×
アブソルートから力の開放を見せつける魔力の奔流のようなものが発せられるが、ラスはそれを見ても何も反応を示さない。
ただ、意識を失っていたはずの彼女から一瞬だけ、自我が戻ったような気がした。
どうやってか『槍』を手元に引き寄せた瞬間から、また自我が消えたかと思ったのだが……何か、様子が、変わった。
「…………諸王の分際で…………、ヘイカノチカラヲウバッタ…………? ……るな…………ふざけるなぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!!」
その絶叫と共に……彼女の背にあった、彼女を掴んでいた手の様な『影』は、よりはっきりと具現化し、まるで悪魔の羽のように彼女の背に宿る。
――そして、彼女の大分黒の部分の多くなった紫の魔力光を完全に黒に塗りつぶした。
「どこまでも陛下をたぶらかして…………っ!! ……消し去ってやる……何も、塵さえも残さないほどに…………っ!!!!」
実際には、託しただけであり…………なくしたわけではない。しかし、それでも、彼女の嫉妬で狂った『心』をさらに一段階負の方向に進めるには……十分だった様である。
悪魔の羽のような、その『手』はアブソルートの『双魔の法』とはまた別のベクトルでの矛であり、盾である様だ。
無理矢理変えられた彼女の口から漏れ出した声は、ついに彼女の声色のかけらもなくなっていた……。
――『静寂の終焉』、
彼女の背中を嫌な意味で押した〝何か〟の発したであろうその言葉は、これから始まる可能性のある『
× × ×
アブソルートは、力を託した。自分が、信頼する
それがいずれ、『覇王の拳』と『聖王の鎧』の強化に直結することになるが……アブソルートが、捻じ曲げられた形で復活を遂げさせられてしまう運命により……その力、『皇帝の加護』とでも呼ぶべきその力は、結局その加護を薄れさせられることとなってしまう。
――しかし……それを誰かが知覚することは、決してない。
何故なら、
――だが…………。
だからと言って、彼が消えてしまったなどと――――一体、誰がそう決めたというのか?
それが、現世への再生の糸口であった…………。
――歪んだ再生は、時の壁さえも越えて――今、始まる……。
いかがだったでしょうか? 次回から、現代編まで後だいたい二話……と言ったところでしょうか。
次回からは過去編も大詰めに入ると思いますのでよろしくお願いします。
でもこの調子だと、vivid編に入るまではまだだいぶ時間がかかりそうです。
気長で気楽なお付き合いをしていただけたら幸いです。
それではまた次回お会いしましょう。