*今回かなりオリ設定が多く出ます。
次話から現代時系列に戻ります。
では過去編の最終話を、どうぞ!
戦い。
――それは……ただひたすらに、戦い。
そして、それは、
――救いたい。
――守りたい。
気持ちは、全て誰かのための物。しかし、それでも……ぶつかり合うしかない。
ほんの少し、
しかし、その〝ズレ〟が…………世界の運命すらも揺るがす。
それは、『人の心』がもたらす――『終焉』。
『想い』や『愛』の、成れの果て……。
その為の戦いが、今――――始まる。
× × ×
――『静寂の終焉』、
鮮血の海の中に立つ、二つの影。
片方は闇が視界を覆い隠され、闇に塗りつぶされている。そしてもう片方は、相手をその闇の中から救わんと、ただひたすらに真っ直ぐ相手と対峙する。
「――、ァァァッ! ギィギャァァァ――――ッッッ!!」
人の言葉を塗りつぶしたような叫びをあげながら、悪魔の羽のような『影の手』をその背に宿し、地獄の蓋を開けたような光景を体現している。
――しかし、それに相対する少年は、決して目をそらさない。
「……ラス……」
救う為に、目をそらさない。相手は、『化け物』なんかではない、と。あの人は、自分の大切な人だ、と。
言葉ではなく、その身で示す。
――ただ、それだけである。
しかし、その心も…………今の彼女には届かない。
怒りと、憎しみに近いような感情に支配されてしまっている今の彼女は、まさに今彼女の背後に宿る『黒い手』――【
その海の中から、意地でも引きずりあげて見せる。
そのために今、彼女を体のいいマリオネットにしているあの手を――引き剥がす……。
「今はもう、迷いはない。ただ二人きりの……戦いだよ――ラス」
「――ゥゥゥ……ォォォ……」
その口からの返答はない。あるのは、うめき声の様な微かな声のみ。しかし、戦うことだけは
睨み合う両者……先に仕掛けるのは果たしてどちらか……。
――先に仕掛けたのは、ラスの方だった。
その背に宿りし『手』か『翼』のようなそれを、もの凄い力で振るってくる。アブソルートが構築したシールドは一枚目はあっさりと破られてしまう。
だが、その前に手痛い一撃を食らった身としては、二度も続けて同じ結果を許すほど馬鹿ではない。
加えて、彼は今――出力全開である。
三重構造にして、構築もより緻密なものへと組みなおし……防御を格段に引き上げた。すると、どうにかそれは止まった。しかし、それは『魔法』のカテゴリに属しているのかすら不明で……彼の『知』を以てしてもこんなものは見たことが無い。
この攻撃は、砲撃でも斬撃でもない、魔法で強化した拳で相手を倒すことを基本とする『武術』に近い。
ただただ、強大な威力のゴリ押し。相手を圧殺せんと言わんばかりのそれは、子供がボールを押しつぶすかのように、ぎゅうぎゅうとアブソルートを地に沈めていく。
ずっと受け続けるのは蛇足であり、これでは魔力がいくらあっても足りない。
「くぅっ…………! ―――ァァァっっ!!!!」
どうにかその力の方向をずらし、かわすことに成功。そのまま一気に距離を詰め、一撃を加えようとするが――
「な――ッ!?」
――対になっている『手』のもう片方が、その攻撃を防ぎ……逆に、アブソルートを壁に叩き付ける。それはまさに、『自動防御』。
死角はないと言わんばかりに黒い影をあたりに漂わせながら……まるで『悪魔』のようにして佇んでいる。
こういう状況では、一体どうしたらいいのか?
そんなこと、分からない。
戦うと決めところで、自分の力が及ばない事態に対処した経験が少ない自分には……こういった状況に陥ったとき、自分の全力をぶつける以外にない……。
「うおぉぉぉおおおおおおぁぁぁああああああああああっっっ!!!!」
魔法陣を出現させ、今度は物理ではなく、魔導攻撃に切り替える。
「終結の時、終わりを告げる光。滅亡を呼ぶ、終焉の時――ハルゲード!」
エメラルドの如き光の奔流が、黒き翼を纏ったかのようなラスに迫る!
エメラルドの光を解き放つ、今の自分自身の全てを賭けて――
――――だが、彼女の手に収まっていた『槍』が、その光に向けられた瞬間…………光が、止まる。
「!?」
『――《
一体、何が起こったのか……。それを理解するのに、一瞬の間を要した。
しかし、向こうはそれすら待ってはくれない。
『槍』はそのまま、何をどうしたかは分からなかったが、間違いなく〝アブソルートの放った魔力を消した〟。
打ち消すのでもなく、相殺でもなく、本当に……消失させた。
「な、にが…………?」
「…………」
――今度は、何も、言葉も、音も、何もない。
――ただ、光の、消えた、瞳が、此方を、見ている。
あの『槍』は、何だ? 人殺しの道具でしかなかった筈……そのはず、なのに――。
一体あれは、何だ? 隠されていた〝何か〟? それとも、本当の……『力』……なのか?
操られるままに動いていたラスの口に出していた……本当の、力……という奴なのか?
だとしたら、あれは、何だ?
言い表せないその疑念に……どこまでも、どこまでも、心がかき乱され、思考が――渦巻く。胃がキリリと痛む様に、不快感が体に生じる。
動きが止まったアブソルートに、『槍』とは逆の手をアブソルートの方へと向ける。
「――
その不気味な黒い魔力光の裏、甘美な音色がその場に響き、アブソルートを地に叩き伏せる。
「な…………ッ!?」
『――捕獲、完了。……拘束開始』
(これは……! これは……っ!! ――――ラスの技……)
操っているのだから別に使ってきても不思議ではない。無いが――。
彼女の魔力量は、単純に見積もっても――アブソルートの二倍以上。アブソルートを仮に現代基準でいえば、良いとこAAランクとすれば、彼女は――――SSランクである。
莫大な魔力量、ただただ単純なまでの押し潰せるほどの力。
これまでは、彼女の理性やアブソルートの魔力運用がその差を埋めていたが――――今はもう、そのリミッターは完全に取り払われ……体をズタズタにすることすらいとわない。まさに化け物のような状態である。彼女は今、兵器の〝
傷は驚異的なまでに高速で〝治癒〟され、魔力の根源的なリミッターは完全に安全や遠慮と言った所謂『理性』の部分が消えている。
つまり、結論を言えば――――
――――勝てる要素が、限りなくゼロ。
地面にめり込みながら、この力の本流から抜け出そうとする。分からないことだらけだ。分からないことだらけだ。
だが、拘束魔法が展開され……動けなくなる。
『――拘束完了』
何も、出来なかった…………。
あの、アブソルートは――何もできずに敗北した。
敗北は唇裂に、どこまでも残酷に突きつけられた。
決意も、想いも、願いも、全て…………影に、闇によって、それこそまるでゴミのように――踏みにじられたのだった。
ラスの背に宿る『影の手』がアブソルートを掴み、持ち上げる。
「――〝玉座〟へ……」
アブソルートを宙吊りのようにして持ち上げたまま、この城の……最も深い部部へと彼を――連れていく。
それに成すがままにされるうちに、アブソルートはこの状況を打開する策を考える。気取られないように、決して気づかれぬ様に、思考をフル回転させる。
――どうすればいい? どうしたらいい? 何をすればいい? そもそもコレを打ち破るには? この『槍』の力は何だ? どういうセオリーなのか? どういうロジックなのか? 何をすればいい? どうしたらいいのだ?
何もわからない。力の根本が分からない。
そもそも、『命』に作用するものじゃなかったのか? なんで攻撃何て『命』なき『物体』を消せる? なんで「止められる」? なんで「消せる」?
――その時考えて見た、ある可能性。
人を、世界を、『命』を形作るもの。『記憶』が『時間』が、『歴史』を『世界』を造り、創るのならば…………それが、『静寂』を創るなら?
――まさか。そんな馬鹿な。あるはずない。でも、永遠の命すら作り出せるという言い伝えすらあった。なら、……有りえる、のか……?
(――――〝時間〟を、操る。それが、あの『槍』の……本当の、『力』…………なのか?)
思い至った、
だとすれば、ますますわからない。
なぜ、それを使ってまで、自分を捕らえる?
ラスでもいいじゃないか。使いこなせるなら、それでいいのではないのか?
なのに、どうしても、……必要なのか?
(そういえば、……――)
『――――貴方に再び、御身の〝輝き〟を取り戻して頂こうと……!!』
――そう、言っていた。
まさか、自分でも知らない何かが、まだ〝ある〟……のか?
そう、あくまでも自分は――作られた〝者〟――だ。
それが、『静寂の終焉』に対するなんらかの形で必要とされている。そして、それに従わせるために……『輪廻の槍』がある……。乗り手を捕らえるため――いや、創るためのトリガーが欲しかったのか? なら、あの『影の手』は何だ?
そう……そこが、分からない。
いったいあの影は何だ? 乗り移ったラスの口から聞いたそれの言葉は、不気味な……それでいてまるっきりプログラムか何かのような喋り方で、その真意が読み取れなかった。
ただ、……再構成だとか、精神の汚染だとか言うのを聞いたが――その字面だけだと……このまま消されかねない。
しかし、この拘束からどうにか逃れたと仮定して……そこから逆転して、この影をラスから引きはがせなければ――結果は変わらない。だが、手を粉ね居ていてもそれは同じこと。
さて、ここから……いったいどうするべきなのか。
――しかし、ようやく思考が落ち着きかけたその時……。
ゴゴゴゴゴゴッ、と城が動き出した。
「な、に……を…………」
『――シュティレの機動準備ですよ、我が
「!?」
何気なくこぼれた言葉を、ラスの中にいる何かが受けとり、それに応じた。
「誰だ……お前は……っ!?」
『――そうですね。お答えするのであれば、〝管理者〟……とでも言っておきましょうか』
「管理者、だって……?」
『――ええ、その通りですよ。我が
その声の主は、これまでのダンマリなど無かったかのように語りだす。
「なんで今更……僕の問いかけに応じる……?」
『――簡単です。この〝駒〟の高ぶり程度、私が制御できないものではありませんし、それに……私の役割を果たすための「鍵」は手に入れましたから』
「鍵……?」
『――ええそうですよ我が
「つく、られた……? お前も、構成た……」
『――違います。私は〝プログラム〟です。そうですね『夜天の書』の守護騎士と管理者と似たようなものです。まぁ私は、この「シュティレ」を管理するもので……【アルハザード】で作られたその時から、……ずっとここにいました。
――ここで眠りながら、待っていましたよ我が
『――この「槍」も「シュティレ」も……ともに【時を征し、命を統べるもの】。かの永久の都で、先人たちが作り出した……永遠の成れの果て……とでも表現すればよろしいでしょうか? 静寂を、心の隙間を埋めるためのものですよ、我が
「……、」
言葉を、失った。しかし、〝プログラム〟は何も動じず……淡々と語り続ける。
『――私は、私の――主の望みを叶える――という定めを、なすだけです』
「僕は、もう、静寂なんて……要らな…………『――つきましたよ、〝玉座〟に』」
『城』の最深部。そこには、王座、と呼ぶにはいささか簡素過ぎる「座」が有った……。
『――さて、では……「再構成」を始めましょう』
そう言って『槍』を掲げるラスの姿を借りた――『管理者』は『影の手』でアブソルートを玉座へと放り投げる。
どさっ! という音と共に玉座に座れせられたアブソルート。
『――
歪んだ思想が生んだプログラムは、欠けた心が望んだ願いを叶えたいという愛を歪ませ、その心を暴走させ、願った命をもてあそぶようにして、望まなくなった願いを叶えんとす…………。
× × × 『行間』
『時』が人を、『世界』を創る。
命が紡ぐもの……それは時間であり、命を創るのが時間である。
『記憶』が、『時間』に、『命』に――――全てがつながる。
これまでが、これからを造り……これからがその先を創る。
――だとすれば、〝これまで〟が消えてしまえば……〝これから〟に、〝これまで〟は無くなるのは必然。
そしてそれができる、選択肢は目の前に転がっている。
それが何か? なんて、……もはや愚問であり、ただの逃避。
『
――あとは、選ぶだけ。
それの選択は、自分の為の物として用意された。しかし、もし選ぶならば…………。
――それは、誰かの為…………。
最早、
――それしか、もはや今の彼にはなかった。
そして、その選択を選ばざるをえないに足る、理由は……。
――……ずっとここにいました。
逆に言えば、
――答えは、出た……否、もはやそれしか……無い。
強いられた選択、……しかしそれは、失いたくないことを……体現する『証』になる。
守れる道は今、……それしか――――見えない。
自分を支配するものを前にして、
――それが、…………『
さあ、終わりの時だ……。
自らの、消失の時だ……。
潔く、消えてしまおう。
この、忌まわしい運命と共に……。
――そこまで考えた後は、簡単だった。
彼は目の前にかざされた『槍』を、今まさに突き刺されんとしていたそれを突き刺さる前に……それを
『――何を……?』
「…………時間を司るとか、なんとか言ってただろう……? なら、僕という〝存在〟を
『――なるほど……、確かにその通りです』
「なら、よかったよ……」
『――…………、』
〝プログラム〟でも、悔しそうな顔をするのだなと――消える瞬間に見えた光景は、彼にそう思わせた。案外、あの二人に教えてもらった『心』という奴は……形は違えど、色々なものに宿るらしいな……とも、思った。
もしも、もっと早く気づいていたら……〝仲良く〟慣れていたかもな――。
彼は、そのまま……消えた。
そんな急な選択に、失敗することも、戸惑うことも、損なうことも、何も無く――あっさりと、彼は消えた……。
× × ×
城の、最深部に……一人取り残された〝ラス〟はこう呟いた。
『――やれやれ、〝我がまま〟ですね我が
――まぁ、多少面倒にはなりますが、と〝プログラム〟……〝シュティレ〟は口にした。
『――再構成・第二段階。
――――約、三百年ほど…………。
『――私は、私の役目を果たしますよ我が
そのまま、城は消えた。
『――まぁ、ここでいいでしょう』
そこは、ベルカからほんの少し離れたとある世界のはずれに、遺跡のように偽造して……自らラスと共にを封印した。
記憶が亡くなれば、確かに人は消える。
――だが、
基準は、ちゃんとある。戻すための材料はそろった。
あとは、……時の流れを待つだけである。
望まれぬ再生は、ここから始まる。
――――決意を踏みにじる、どこまでも歪んだ――【
そして、時は再び現代へと――――つながっていく。
いかがだったでしょうか?
現代に転生までの流れは、こんな感じで完結です。
次話から、現代編の方でも時間が動き出します。
次回以降も楽しんでいただけるように頑張りますので、よろしくお願いします。
ではまたお会いしましょう。