忘れ去られた、もう一人の王   作:形右

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 誰も覚えていないだろうけれどもひっそりと、これまで書き直しを繰り返していたこれの、どうにかこうにか行き着いた結末をひっそりと投稿します。
 文才ゼロの人間がオリ設定を、かなり他の漫画ラノベ等の下地取りのパクリ満載とは言え……展開させるのは予想以上にきついのだという事を身をもって知りました……。それでも、自分の限界であろうところまでどうにかこうにか言葉を紡ぎ、急展開かもしれませんが、それでも第一部である『忘却の皇帝』編のラストバトルがどうにか終わりました……。

 オリ設定をどうにか展開した上、うまい具合に結末へと繋げられているかはいささか不安、でもありますし……滅茶苦茶長くなってしまいましたが、それでも自分なりの限界まで筆を進めましたので、よろしければ読んでいただけるのでしたら非常に嬉しいです。

 それでは、どうぞ……!



闇を討ち破る者 ――救いたいという願いの果てに――

 『序章 それぞれの思いの交錯』

 

 

 ここから、始まる……全てが。

 

 さあ、反撃の狼煙を上げろ。

 

 二人の「王の定め」を背負いし少年少女を救う為に。

 

 父や母たちの願いが……二人を救う為に燃え上がる。

 

 呪われた定めなんて、いくらでも壊してきた。打ち破って来たのだ。

 

 抗おうではないか、嘗て……託し、託され、皆をつないでいった……胸に宿る、「不屈の心」のそのままに。

 

 折れるな、踏ん張り続けろ。

 

 この一時の間だけ、その場から一歩たりとも譲らずに抗うことを心に決めた。

 

 ――その為の条件は揃っている……。

 

 ――互いの「目的」も理解した……。

 

 ならば始めよう、双方の意地と矜持を賭けた戦いを。

 

 

 ――――『想い』を懸けた「闘い」を…………。

 

 

 戦いの火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さあ、復活の時だ。

 

 全てがここから、もう一度始まる

 

 最早敵などいない。

 

 この世界など、取るに足らない。

 

 赤子の手をひねるようなものだ。

 

「皇の願い」を、今一度……ここから。

 

 何かを忘れているとか、違和感とか、『そんなもの』はもう()()()()()()

 

 重要なのは、今ここに――自身の目の前に我が皇(乗り手)がいるということだけだ。

 

 それ以外のことなど、どうだっていい。そう、どうだっていいのだ。

 

 例えば、この目の前に転がっている『聖王』の末裔にしても、所詮は引き立て役を担う「脇役」でしかない。

 

 細工は流々、御膳立ては十二分。全ては主が〝()()()()()()〟……。

 

 

 

 

 

 

 

 * * * 『Operation_START!!』

 

 

 

 

 

 

 現管理局において、これ以上ないほどの〝最強〟で〝最高〟の布陣が整った。

 この最強チームの『目的』は、ただひとつ。

 

 過去の柵が生んだ……二人に降りかかる苦しみにさいなまれる『運命(さだめ)』を背負ってしまっている二人の幼き少年と少女を、その柵の連鎖の中から救い出すこと――ただひとつである。

 

 現在、そのチームの〝索敵部隊《サーチ班》〟が目下二人の居場所を――より正確には〝儀式〟の為に潜伏していると思われるそのエリア内においての〝より詳細な位置〟を捜索している。

 そして、そのチームのチーフは勿論、

「すまないな、エイミィ。君まで引っ張り出してしまって……」

『なーにいってんのさ、クロノ君。このあたしがクロノ君の手助けしないわけがないでしょうに』

「いや、まぁ……そうなんだが」

『ハラオウン提督―? 惚気は事件解決してから出お願いしますね~』

「す、すまない……」

『いやーお熱いですね~』

『たははは、でもあたしの自慢の旦那様ですから! それに、帰ったらクロノ君カレルとリエラにお土産話ができるんじゃない? 世界を守ったーってさ』

 元・『アースラ』のクルーだったルキノがそう茶化し、それを聞いたシャーリーが同調しつつも苦笑を浮かべる。そんな彼女らにクロノは少し小さくなるが、エイミィは苦笑するものの、堂々と惚気る。

『ま、気を取り直して……皆―っ! あたし達オペレーターは、前線に出てるメンバーに、最高のバックアップをすることがお仕事! ここはサイッコーのパフォーマンスを見せつけていこ――ッ!!』

『『『お――っ!!』』』

「……やれやれ」

 そう言いつつも、クロノの表情は明るく……この光景を頼もしく感じていることがひしひしと伝わってくるようだった。

 

 

 そして、クロノと管制室でのやり取りを聞きながら、前線に出向いたフォワード陣とユーノはその様子を見ながら、二人を連れ去ったあの女魔導師――ラス・ヴィラシー・エンジェのいるはずの世界、ユーノが少し前にフライハイト――〝アブソルート〟を見つけたとある次元世界へと向かっていた。

「凄いですねー、通信司令官のエイミィさん」

「あははは、『アースラ』の頃から二人は親密な関係だったからね」

「でも、クロノいっつもエイミィさんに頭上がらなくてね。当時はどっちかというと姉と弟みたいだったなー」

「あ、確かにそうかも! 実際エイミィさんの方が二歳年上だもんね」

「エイミィさん、姉さん女房だからねー」

「そうれしても、ハラオウン提督の奥様って、あの方だったんですねー」

「うん、エイミィ・ハラオウン。私のお義姉ちゃんだよ」

「エイミィさん元気そうだね。ね、キャロ」

「そうだね、エリオ君。私たちも頑張らないとっ!」

「うん! そうだね!!」

「それにしても二人ともアツアツやねぇ~。あー私もこの事件終わったらいい人と巡り合いたいもんやわ~」

「はやて恋とかしたいのかー?」

「まあなぁ~、私もそろそろ女ざかりやからねぇー。ええなぁーシグナムとシャマルは年とらへんもんなぁ……」

「まぁ、それはそうですが……」

「でもはやてちゃん、お仕事は真面目に行きましょうね?」

「りょーかいやで、シャマル先生~」

「皆さ~ん、和やかになるのはいいですけど、あんまりきお抜き過ぎないでくださいですー。オペレーター陣の話だとこの転送が終わるころには詳細位置を特定して見せるとの話なんですからね~?」

「……いっつもこんななのかよ」

「そうなんですよ~、アギトちゃん」

「……意外と、苦労してるんだな。バッテンちび」

「あー! またちびっていったですっ、アギトちゃん!!」

「ふん」

「(お前もかなり気を抜いてる気がするが……まぁ緊張でガチガチなよりはましだな)」

 そんな会話をしていた。

 ふざけているかのように見えるかもしれないが、あえて日常に近い雰囲気でいることもまた戦いの前においては大切な事である。いつでも、どんな場面であっても、〝普段通り〟の実力を発揮できるように自分を鍛える事。それが、様々な場面において自身の助けになるのは大抵のことにおいては基本である。

 日常から非日常に、ではなく……常に日常に近い状態でいられること。戦いにおいては『慢心』と同じくらい、『動揺』やある種の『恐怖』は大敵である。

 冷静にあれ、というのは実は普段通りであれ、ともいえるのだ。

 常に同じ心理状態にいられるのであれば、淡々と物事をこなすかのように戦場における冷静の度合いは格段に上がる、というのが前線における大切な根本の心理と言える。

 しかし、敵の居場所は優秀なオペレーター陣のおかげでもはや割れた。

 現在、元フォワード陣とヴォルケンリッター、そしてユーノといった面々が先行部隊として目下その『城』へと向かっている。その『城』の現在位置は、前にユーノがフライハイト――アブソルートを見つけたあの遺跡の真下……。

「この真下にあったなんて……!」

 気づかなかったという自分の落ち度を愚痴るように、ユーノは悔し気な表情を浮かべる。

 だが、そうこうしている間にも一同の移動は奇妙なほどに滞りなく進み、あれよあれよという間に、既に一同は『城』の前に立っていた。

「……舐めている、のか?」

「……たぶん、敵だとすら感じてないんですよ。非常に腹ただしいですが……あの女性(ひと)は、強いです」

 戦闘において、これまで途方もない年月を生きてきた『守護騎士・烈火の将』シグナムは敵がここまで無警戒に相手を招き入れるような状況は、直面したことが無いが故に……そう口にしたが、『無限書庫』で実際にあの女魔術師――ラス・ヴィラシー・エンジェと対峙したユーノは、おそらく彼女が自分たちを『敵』というカテゴリにすらい入れていないだろうことを推測した。

「……ならば、その驕りが自らの落ち度であったことを――その身に刻み込んでやることとしよう」

 シグナムの瞳には、静かなる怒りの様なものが浮かんでいた。敵に手加減されるような真似は、戦いというものに非常に誇りを掛けている彼女にとって何よりの侮辱であるはずだ。そんなふざけた真似をする――()()()()()()()()という、何よりも脆い強さだけを示す……狂信者に。

 

 

 

 そして……一同は、戦いの舞台へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 * * * 『V.S.ラス 魔女との邂逅再び』

 

 

 

 

 

 

 中に入った一同を迎えたのは、これでもかという程の数の傀儡兵。

 それは、嘗てなのはとユーノ、クロノそしてフェイトが『時空の庭園』で戦った物よりも、さらに強いクラスの物だった。

 ランクにしてSマイナスと言ったところだろうか……。

 その通りがかりに襲ってきた大量の傀儡兵は、少なくとも細かい統制下で操られているのものではなく、あくまでも単純な指令によって動いている。なので、行ってみればRPGゲームのモンスターのように、行きがかり上に置いて相手の注意を引いてしまった場合戦闘――と言ったものだが、そこにさらに「侵入者の排除」とでもコマンドされているのか、倒しても、倒しても群がるようにして集まり、きりがないその襲撃にはやては部隊の指令塔として支持を飛ばす。

 なのはとフェイト、そしてユーノを先に行かせるという選択をとる――という指示を飛ばした彼女は、三人を奥へとさっさと進むように促す。

 少なくとも、この三人ならばバランスは申し分ない。攻撃力特化のなのは、速度重視のフェイト、防御と後方支援主体のユーノ。加えて、今回の作戦の立案者は、ほとんど彼である。息子と称した子供を守るために彼の見つけだした手段を、こんなところで心もない機械程度に足止めさせるわけにはいかないからだ。

「はよいって! なのはちゃん、フェイトちゃん、ユーノくん!!」

 三人にそう怒鳴るように言うと、三人も『分かった』と返事をし、先へ進む。

 残ったメンバーは、先に行った三人に追いつく位のつもりで戦いを再開した。

 背中を押し、そして追い、そして守る。仲間とは、そういうものだ。支え合うという事の中で、絆を紡いで行く信頼の生み出す、無限の力なのだから……。

「おっしゃ! 皆、気合入れてーや。なのはちゃんたちに、すぐ追いつくで!」

『了解!』

 

 そして、先へ向かった三人は――。

「はやてたちが抑えてくれてる間に、何とか二人の元へ……!」

「ユーノ、エイミィお義姉ちゃんから玉座の最新解析情報来たよ! 次の角を――」

「――左、だよね?」

「え、う……うん。ユーノのとこにも、来てたの?」

「いや……。この城の資料を見たときに、構造上多分こっちかなって……〝勘〟、かな?」

「ふぇー、さすがユーノくん……。考古学者さんの勘?」

「……分かんない。でも、なんだか……この中、初めて入った気がしないっていうか――前に似た遺跡に入ったような気がするっていうか…………自分でも、良く分からないんだけどね。だからフェイト、間違ってたら補足お願いね」

「うん」

 だが、すんなりと……ユーノは進んでしまう。彼自身も不思議なほどに、スムーズに。

(なんで……進めるんだろう?)

 前に似た遺跡に入った……から? でも、いつだっただろうか? それに、そんな覚えてもいないことを信じて進むなんて変な話ではあるけれど……()()()()()()()()()()()()のだ。

 この『城』の中の構造を。

 すると、程なくして広間のような場所にでた。

 ここは、確か――

「玉座の前座の間……だったかな」

「うん。この奥が、ヴィヴィオとハイトがとらえられてる場所で間違いないよ。二人の魔力パターンと一致したシグナルが計測されているから」

「なら、早く助けに――ッ!?」

 なのははその中へ飛び込んでいこうとしたのだが……その内部から発せられるすさまじい『殺気』に、管理局の誇る〝エース・オブ・エース〟も、足を止めた……。

 カツン……カツン、と余韻を持たせるようにして、通路の奥から低いヒールの音がなっている。段々と、近づいて……来ている。確実に、着実に、その一歩ごとに、怒りを増幅させながら、その根源は――三人の前に姿を現した。

「まったく……。どいつもこいつも」

 その声は、前になのはとユーノが戦ったときに聞いた様な甘ったるさは薄れ、冷たく鋭い殺気と、ドロドロとした怨念の様なものが感じられた。

「役に立たないコトこの上ない、木偶の坊どもが……っ! この程度の相手に、この『城』への侵入を許すなんて、戦乱のベルカ――私がまだ従者としてこの城の無能な老骨共に仕えていた頃にすらありませんでしたのよ……?」

 その瞳は光を失い、ただひたすら目の前に転がる邪魔なものを排除しようとする倦怠感にまみれ、どこまでも邪魔をしに来る身の程知らずの小動物を払いのけてやるのもそろそろ面倒になって来たぞ、と暗示しているかのようであった。

「わたくしも、そろそろ限界ですの。もう二度と、そうやって皇の城に踏み入れるなどという大罪を犯せないように…………貴方たちの咎の重さを、その身の破滅をもって教えて差し上げますわ……」

『――ッ!?』

 カッ! と、目を見開いた瞬間……三人の周囲を、すさまじい衝撃が駆け巡った。

 周囲に凄まじい暴風でも吹き抜けたような感覚に、三人は驚き目を見開く。

「もう容赦はしませんわよ――――咎人共。その身をもって、《皇》への侮辱を悔いた後……魂までも地に帰して差し上げますわ……!」

 その瞳に浮かぶ影はよりいっそう深淵を深め、どす黒いオーラはより闇色に染まり、彼女の背には、例の『黒い手』が禍々しい翼の如き姿で浮かび上がる。

 そして、その『手』で……三人を刈り取らんとして、猛威を振るおうとした。

 ――だが、

「……、また貴方ですか」

「……僕だって……! そう何度も、易々とやられたりなんて……し…………ない……っ!!」

 翡翠の壁が、ありとあらゆるすべての『障害』を阻む〝障害〟となる。その障壁の敵をもって、その手を受け止める。だが、ラスはその様子を見た後でも……まったく怯むこともなく、寧ろあざ笑うかのようにして、ユーノにその邪悪さを増した笑みを浮かべながら……こういった。

「防御、防御、防御……まるで馬鹿の一つ覚えですわね。その程度で――私の攻撃を受け止めきれるとでも……『思ってないさ』……ッ!?」

「君の攻撃はこんな単純な攻撃ですら重たい。集中してやっと防げる程度さ……でも、この後で大事な用事があるから、こんなところで思考を使って脳を披露させられるのはちょっと困るんだよね……だから、()()()()()()()()()!」

 そういって、ユーノは術式の構成を途中から変更する。左手で防いでいた通常の『ラウンドシールド』から、右手で構成した『別のシールド』をその攻撃に合わせる。

「〝リフレクション・シールド〟!」

「『反射(リフレクション)』……!? ――――ま、まさか……ッ!?」

 ラスは焦った。確かにベルカにもユーノがやろうとしていることと似たことをできる技術は存在する。実際ユーノとなのはの目の前で、自分がやって見せたのだから。でもユーノは、それをこんな風に両手で別々の攻勢をしながら発動しようとしている。生半可な構成程度ではあっさりと破壊できるこの『手』による攻撃に対して、だ。

 そしてラスは思い出す。そして先ほどまでの『盾』が誇っていた〝強度〟と、そしてユーノが使った『術式』の〝構成速度〟……()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを。

 そしてその予感は割る意味で当たり、ユーノの作り出した新たな『盾』は……ラスの攻撃をそのまま跳ね返す――だけでなかった。

「――アクセル!」

 そのコマンドを口から放つと、シールドは……まるでその受けた攻撃を任意の方向へ《加速》でもするかのように〝倍増して〟はじき返した。

「な……ッ! (シールドで方向と威力を変えて……!? 単なる反射の枠を超えた、『反射』だとでもいうの……ッ!?)」

 ベルカ式の使い手――とりわけ『古代(エンシェント)ベルカ式』なら理論上はそれができると言われている。そう、ラスが無限書庫でなのはの『ディバインバスター』を受け流すようにして止めて、そしてそれを術者であるなのは本人へ跳ね返したような行為を。

 だが、それにはその威力を()()()()()()()()という力加減と……そしてそれを()()()()()()()()()()()()()()()()ことが必要。そしてさらに、ここまでするだけでも相当に高い技術が要求される。

 だが、ユーノはその上を行った。

 元々の術式が障壁であるが故に、受け止めた後……更なる力を加えることで、その『魔法』の威力と方向を変更できるように変えてしまったのだ。

(こんな……サル真似事気が……な、ぜ…………っ!?)

 それが、彼女にとって果てしなく不愉快なことであったであろう。自身の見せた技術を、応用(りよう)されてしまったのだから。

 

「こッ……しゃ、く……なァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁッッッ!!!!!!」

 

 ラスの叫び声と怒りに同調するかのように、彼女の雰囲気が変わっていく。

 ユーノもなのはもフェイトも、それが何を意味するのかなんて知らなかった。だが、それを直感で三人は変貌の根源を読み取った。最早対面も何もない、彼女が持てる全てを……この場において解き放って全て叩き潰してやるという決意を示したのだろう。

 だが、

(……まずいな。時間が…………ハイトへの〝書き込み〟作業にかかる時間は、ヴィヴィオが『ゆりかご』に囚われたときよりは多少長めではあるけど……)

 だからと言って、ここで立ち止まっては――そうユーノが思った時だった。

 なのはとフェイトが、ユーノの前に立つ。

 それが何を意味するのか……そんなことは、ユーノは……いや。彼だけではない。この場にいたのが誰であろうとも、それが何か……知っていた。

「ユーノ君……。ここは、どうにか食い止めて見せるから……だから、お願い…………ヴィヴィオとハイトを……!」

「ユーノじゃないと、ここのシステムと二人を切り離せないだろうし――それに……〝泣いてるこの子〟を助けられないから……だから…………行って……ッ!」

「で、も……!」

 普段なら、ここで躊躇などしない。

 なぜなら、二人は自分なんかよりもずっと強いから。

 でも、()()()()()()()()()()()……。どうしてか、〝分からない〟が、この『城』での戦いに関してだけは……と、思われる程度だが……いつもよりも切れもよく、『魔法』が冴えている――気がする。

 実際、先程のような無茶なこともできた。

 だから、ユーノはその場にとどまって……二人と一緒に、目の前の子を助けてから進もうと思った。

 しかし、それをユーノはしなかった。

 目の前の二人は……決して揺るがない、『強さ』をその背にたしかに見せていたから。

 母として、そして親友(とも)として……あるいはもっと熱く純粋な心から……二人は、ユーノに背を預ける。

「「……お願い!」」

「……分かった!」

 二人の声にそう返事を返すと、ユーノはラスが出てきた玉座の間の方へと駆けていく。

「……持たせるよ、フェイトちゃん」

「うん……なのは」

『ユーノ(くん)を信じて……必ず、最後まで……!』

 役割分担。

 時に重く強固な枷となる事さえあるその行動をとることに。

 だが、決して負けない。

 その心に、『優しさ』が……『愛』がある限り、決して…………ッ!!

 

 

 

 

 

 

 * * * 『ゆりかごの王再び、鎧纏いし聖王』

 

 

 

 ユーノは玉座の間に飛び込み、その奥にある玉座を見る。

 あの日、確かに見た〝あの〟玉座――あれは確か、にユーノが入った遺跡の中にあったものだ。つまり、あの時から……この『城』とのかかわりは始まっていたのか。それとも、この『城』に導かれたからこうやってかかわり合っているのか――それともまったくの偶然か、そんな事は今となっては誰も分からない。

 ただ、一つ言えることがあるのだとすれば……それは、今この瞬間において助けを待っているはずの子供たちを速やかに助け出すことが最優先である、という事くらいだろうか。

 そしてユーノはその玉座の方へと駆けだそうとするが……その時、その玉座の方向から〝虹色〟の光弾が飛んできた。

「ソニックシューター!」

「……っ!?」

 咄嗟にシールドを発動し防いだものの、ここにまで敵がいるなど聞いていない――というか、あの『資料』にはここにまで傀儡兵を装備しているなど書いていなかった。まあ、状況により戦況などいくらでも変わるが、この『城』の中にいる魔導士は自分達管理局のメンバーを除けばラス一人であるはずであり、資料に乗っていた限りでは……魔法を使える傀儡兵はこの城には設置されていない筈である。

 ――――それに加えて……あの魔力光は、

(ま、まさか……)

 ユーノは、いやな予感がした。というか認めなたくなかっただけで、その可能性が一〇〇%だという事は疑いようもない。

 それ何故か? それは――――

 

 カツッ……カツッ……と、此方へと向かってくることが分かる程度の足音がその場に響き、ユーノはその方向を凝視した。

 

 ――――その魔力光を持つ人間は、()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 そこには、娘同然の虹彩異色を持つ金髪の少女が一〇歳ばかり成長した姿で立っていた。

「……ヴィヴィオ…………どうして……!?」

『聖王モード』――つい先日の出来事である『JS事件』において、ヴィヴィオが『レリック』と呼ばれるロストロギアを埋め込まれたことによって、強制的に『聖王』の力を扱えるようにした姿だが……。

 その『JS事件』の際、なのはが決死の思いでヴィヴィオに埋め込まれた『レリック』を破壊したため……もうヴィヴィオが『聖王モード』になることは出来ないし、なれるはずもないのだが、今ユーノ目の前に立っているヴィヴィオは――仮に本来の『聖王モード』ではないにせよ――確かに『聖王モード』と同じ現象が身体に起こっている。

 一体どういうことだ、ユーノは思ったが……次のヴィヴィオの一言で、ある程度この現象が起こった理由を推測した。

「…………あなたは、敵……私の大切なものを傷つける……〝敵〟!」

 恐らく、何かしらの洗脳を施されている。向かってくるものを敵と認識し、背後にいるのであろうアブソルートを何物にも及ばない大切な誰かだと、そう認識されられているのだろう。例えば彼女にとってのなのはやフェイト。あるいは機動六課のメンバーたち。

 ヴィヴィオにとってもう二度と失いたくない大切な『家族』や『繋がり』を盾にして、ラスはヴィヴィオを戦わせているのだろう――と、そこまでユーノは推測したものの……どうやら操られているヴィヴィオはそれ以上考える時間を与える気はないらしく、ダッ! と一気に地面を蹴り、ものすごい勢いでユーノへと一直線に向かってきた。

『聖王』の拳が、()()()()()()()()()()()()へ迫る。

 なのはでさえ、あれだけ苦戦したヴィヴィオの『聖王モード』。ユーノ程度では、と思う人物が大半であろうが――今日の彼は、一味違った。

 その時、玉座の間にて……ついに翡翠と虹の輝きが交じわり、火花を散らして……終わるかに思われた。

 ユーノは、〝次なる手〟を用意しながら、ふとこんなことを思った。

 そもそも――こんな戦いを望んでいるわけではない筈なのに、自分たちは戦っている。痛くても、辛くても……盲目に染められた『聖王』も、娘の様に可愛がっている少女と戦はなくてはならず……更に彼女を倒して超えていかなくてはその先へ辿り着けないという、その理不尽さを抱きながら、戦う。

 ユーノは、戦いながら……ふとこんなことを思った。

 ――そもそも、自分たちはこの子たちのことを〝助け〟に来たのに、何故いまこんな風に傷つけるような真似をしなくてはならないのだろうか? と。操られているから、とか。そうしなくちゃならないから、とか。何かにとりつかれて、それを取り払わなくてはならないから、とか。いくらでも理由はある。

 そして、また決意する。

 ――こんな無意味な戦い、とっとと終わりにしよう……と。

「やめるんだ、ヴィヴィオ! こんなことしても――意味なんてない。それに、僕は……僕たちは君たちを傷つけたりなんかしない!!」

「嘘……! そうやって……そうやって嘘ばっかり、煩い……五月蝿い…………うるさぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁいッッッ!!!!!!」

 何かを守ろうと拳を振るわなくてはならない。その大切な何かさえも朧げであるのに……それでも、涙を流して……心に渦巻く痛みに耐え、それでもその何かのために戦う姿は――尊くも、しかし脆く儚いものであった。

 

 それを見て、翡翠の光を放つ青年は……ついに戦いを、やめた。

 

「……っ!?」

 いきなり攻撃も防御もやめ、そして向かってきた少女の拳をサッとかわし……泣いている彼女を、優しく抱きしめた。その〝戦い〟ではない行動に呆気に取られ、少女は目を見開いたまま固まってしまう。しかし、少女は直ぐに暴れてその腕から抜け出そうとするが――そんな少女に、青年は優しく語り掛ける。泣きじゃくる子供をなだめ……慰めるように。霧に迷った迷子を導くように。

「……もう、良いんだよ。ヴィヴィオ」

「――ッ!? は、放して……っ!」

「……大丈夫。もうこれ以上、傷つけない。傷つけさせもしない。絶対に……!」

「う……そ……」

「君のママたちも、ここにきてる。君とフライハイトを助けるために、守るために……」

 それを聞いた途端、ヴィヴィオは動かなくなった。守ろうとしていた、傷つけてくる脅威を退けなくてはならない。そう、だと思っていた――そうだと思わされていた――のに、もうその〝脅威〟や〝敵〟なんて……居ない。

 少女に掛けられていた〝それ〟には、こんな事態にどうすればいいのか……その事態に対してどう行動するべきかなんて勿論組み込まれて等おらず――少女自身の心が蘇りだして、自我の下でそれを全身で感じ取った。

 

 少女は――この優しい温かさを知っている。

 

 無限に広がる叡智の蒼穹、神秘が秘められた世界の本棚。これは……そこで彼女が、いつもかまってもらった。

 ……彼女の傍にいてくれた温もりだ。

 そしてそれは、母たちともまた少し違う……もう一つの『親』の温もりだ。

 時々、そんな事を考えていた。

 翡翠の光……ユーノの醸し出す雰囲気に近い感覚を、友達のスバルの父親であるゲンヤや、六課にいた頃ボディーガードしてもらっていたザフィーラ。あるいは、フェイトの義兄であるクロノ。そういった人たちを見ていて感じたこともある。でもそれは彼女へのものではなく、別の誰かへのもの。しかし……もし、もしも、自分にもそういった存在がいるなら――――それはきっと、ユーノだと……ヴィヴィオはなんとなく思っていた。

 だから、その温かさに体中の緊張も強張りも恐怖も何もかもが消えてなくなり、一筋の涙が頬を伝う。

 そして、特に意識もしなかったが……ヴィヴィオの口からはこんな声が漏れ出した。

 

 

 

「…………ぱ…………ぱ……」

 

 

 そんなヴィヴィオに、ユーノは優しく語り掛ける。

 

「大丈夫、ちゃんと……傍にいるからね……」

 

「…………うん……っ……!」

 虹色の光が少女を包みこみ、その光が弾けると……そこには、本来の姿の――まだまだ幼い子供のままのヴィヴィオがユーノの腕の中に包まれていた。

 

「遅くなってゴメン…………辛かったよね……」

 

「……ううん…………パパが、助けてくれたから……平気…………」

 

「……そっか……強い子だね。ヴィヴィオは」

 優しく、その頭を撫でる。あの日……『息子』と出会ってから、ユーノは二人がこれまで以上に、大切に感じる。これが我が子を思う親の気持ちなのだろうか? と思ったこととさえある。……だからこそ、これからはもっとしっかり守ると、ここに来る前に誓った。そして今、その半分くらいは果たせたようだ。

 しかし、ユーノはそこで立ち止まり続けるわけにはいかない。もう一人……助けるべき我が子がいるのだから……。その子もまた、未だ暗闇にまみれた霧の中を彷徨っているのだ。一人で怖い思いをしているだろう……恐ろしくてたまらないだろう、自分が自分でないもう一つの自分があると知って、そちらであるように――と、今まさに強制されてしまっているのだから。

「ヴィヴィオ、僕はフライハイトも助けに行かなくちゃならない。だから、ほんの少しだけ……待っててくれないかな?」

「……やぁ……! 一緒に、行く……!」

「でもね、ヴィヴィオ」

「……一緒が、良いの」

「……そっか。――――きっと、いや……かなり怖いかもしれないよ? ハイトのことを取り戻すまでに、敵が出てくるかもしれないし」

「ヴィヴィオも、ハイトくん助けたいもん……」

「……うん。なら――一緒に行こう。ハイトの所へ」

「うん……!」

 ユーノはヴィヴィオの事を優しく抱きかかえながら、玉座の間の奥――皇帝の座する玉座へと、向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 * * * 『その影を打ち抜いて ――救えた筈、だったのに……』

 

 

 

 激しくぶつかり合う三すくみの閃光、飛び散る火花。

 激しく鳴り響く轟音、双方の技が炸裂し硝煙が舞う。

 

『はぁ……はぁ……』

 

 息も絶え絶えに、しかし鋭い視線は緩めない三人の女性魔導師。禍々しい雰囲気を漂わせる魔女と決して折れない不屈の心を持った純潔の天使、そして優しく気高く麗しい運命の名を冠する雷光の女神。

 三者の戦いは、決して引かない、その互いの意志のぶつかり合い。そこに宿る者の根底や、経緯、および意思の形の違いこそあれども……しかして、結果としてそこにはそれぞれの『強さ』が生じる。執着と嫉妬、そして憎悪から生まれた影が操り誘う魔女は、自らが使える主の元へ行きたくとも、目の前にいる二人の魔導師が邪魔をして、先へ進めない。何度打倒しても、しつこく……どこまでもしつこく押さえつけようとしている。

 戦力差など明らかだというのに、何度打ち倒しても起き上がってくる。

 

 ――鬱陶しい……!

 

「どこまでも邪魔を……!! どうして、そこまでするのです……どう見ても、勝てるはずなどないのに……しつこい女は殿方に嫌われますわよ」

「止めるって……約束したから!」

「貴女を、止める……それがユーノとの約束だから!」

「…………」

 真っ直ぐにそう言われ、魔女――ラス・ヴィラシー・エンジェは目を細め、忌々しそうに彼女らを見据える。そして悟る。もはや交わす言葉すら無駄であると。そして彼女は、こう考えた。

 

 ――《皇帝》の為の余興ぐらいの認識だったが、この事態にも少々飽いて来た。

 

 と。

「…………良いでしょう……。もう、貴方たちに付き合うのも、あの男に無駄な事をさせて絶望に歪むさまでも見れば、そこそこの余興になるかとは思いましたが――――もういいですわ。その無様な様を、これ以上見るのも、陛下の為の余興とするもの、ふさわしくもなければ、たいして楽しめもしませんでしたわ。ですから……早々に消えなさい、下郎ども」

「「……ッ!?」」

 

 

 そしてその時――ラスの目が、完全に闇に染まった。

 

 

 そしてそれは、その場に居ない者たちも感じ取っていた。スバルたちも、ユーノたちも、外に待機しているクロノやオペレーター陣にさえも、その〝揺れ〟と〝力の高まり〟は伝わっていた。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴッ!! と、地を揺るがすような力の奔流が彼女へと流れ込んでいく。彼女の背に宿っていた『翼』の如き《手》が、彼女を包み込み、彼女を闇へと染めていく。紫炎の如きドレスは一気に漆黒に染まり、『魔女』などと呼ぶ程度ではとどまらないほどの恐ろしさを伴った『悪魔』への変貌を遂げる。

「……そろそろ、死んでくださいませ。羽虫にたかられて腹を立てるというのも少々〝大人気ない〟ですが……流石に顔の前を部もわきまえずにたかられ続けるのを許すほど、わたくし博愛主義者ではありませんの」

 ラスの瞳に宿り、混ざり合う『闇』。それがすべてを吸い込む様に、なのはとフェイトに向けられ……二人は、その瞳に様々な『恐れ』を抱いた。

 しかし、そんな二人の様子など、蚊ほどにも思ってないらしいラスは、背にある『翼』を広げる。

「『影の手(アンノウンハンド)』……第三段階。『抹消(ルースェン)』……適合者の人格と八十九%まで融合して、何もかもを破壊し尽くす力……! 貴女たち如き、すぐに塵芥に帰してあげてよ……」

 ギラギラとして、混沌とした――濁った『闇』を伴う鋭い眼光を放ちながら、フェイトとなのはを睨み続けるラス。その姿はまるで本当の『悪魔』の様ではあったが……しかし、彼女を見ているうちに……なのはとフェイトは、その姿に『恐れ』を抱くのとは別の感情が芽生えていたことに気づいた。

 それなのに……どうしてだろうか? こんなにも、力の差を見せつけられているのに……どうしてなのだろうか。

 なのはとフェイトの二人は、そんなラスの姿に――――悲し気な表情を浮かべて、今にも泣きそうになっている、自分の中の『黒い感情(こころ)』とせめぎ合っているような、そんな幼い『子供』の姿を見た気がした。

 

 一体、この違和感の正体は何なのだろう?

 

 ふと、二人は互いに視線を交わし、自分だけの幻覚でも感傷でもないことを確認する。

 

 ――幻ではない。そう思わせる何かが、そう感じさせる確かなものがある。

 

 目の前の彼女の〝心の内(なか)〟に、そう思わせるものが……確実に〝存在〟している。

 

 

 ただ、なのはにもフェイトにも、それがどういうことなのかをここで看破することは出来ないだろう。それは、遠く、遠く……遠い過去に消えた、彼女自身で消し去ったその時間を生きた、一人の幼い少女の物語の根底。全ての始まりと、たった一人も憧れに寄り添おうとした、『愛』から始まったすれ違いと、認めたくなかった不安と恐怖、嫉妬に苦悩した彼女を、『闇』が歪めた……そんな、幼い少女が歩んできた――――優しく、儚い……壊れかけてしまった物語。

 

 誰も知らない。

 

 ――本人でさえ忘れてしまっただろう。たった一人、そこに『居て欲しい人』の為だと思って。

 

 しかし、それでも彼女は〝知らない〟。

 

 ――彼女と、皆と……これまで出会ってきた色々な人たちと、一緒に手を取り合って……絆や想いを繋いで生きてみたいと願い、本当の意味での平和を作りたかった――そんな一人の少年の『愛』を、彼女は知らない。

 

 だが、それを分かりかけた者たちがいた。

 遠い過去に消えたその心の欠片と、遥かな時を越え……この世界で出会った、二人のが、その欠片の意味を、全てではないにしろ――それでも、感じ取ったのだ。

 

 ――――泣いている人が…………自分たちの救うべき『子供』がいるという事を。

 

 

 そして、なのはは静かに語り掛ける。

 

「……寂しかったんだね」

 

 と。

 

「…………何を……?」

 

 ラスはその言葉が理解できないといった風に返す。

 しかし、そんな彼女に、なのははそっと……感じたことを、おそらく彼女の始まりであろうことを――彼女が誰よりも『愛して』いる人の名を出しながら、彼女にそっと……語り掛け続ける。

 

 

「きっと貴女は……アブソルート――――ハイトを取られたくなかったんだよね? きっと、変わっていってしまうハイトを見て、怖くなっちゃったんだね?」

 

 

 ヴィヴィオが言っていた。初めてハイトにあったとき、『オリヴィエ』と呼ばれたと。悲し気で、それでいてどこかいぶかし気に、しかしその奥に……なんだか優しさがあったとも、自身の娘は語っていた。いきなり大胆なことをされたけど、なんだか失礼とも嫌いとも思わなかったと。寧ろ、好きだと。そう言えるほどに、何かが通じた気がすると。

 時を経ても、変わらないものも……きっとあったのだ。

 友情や、これまで紡いできた絆の証の様なものが……きっと。

 

「聖王と覇王――オリヴィエとクラウスの二人に取られたような気がしちゃったんだね……」

 

 あれだけ『嫌って』いたのは、きっと、こういう事なのではないかと、なのははそう考え……彼女にそういった。

 

「…………ッ、何を馬鹿な……! それ以上世迷言を口にするのなら……!!」

 口では虚勢を張っても、その言葉の端橋は震えている。

 ラスは……()()()()()()()()()()

 恐らく、これが正解なのだろうな……と、なのはもフェイトもそう思った。

 迷っているだけの、『子供』なのだ。

 過去から現在に蘇ったヴィヴィオやハイトと同じ……彼女もまた、迷える子供だった。

 

 それは、遠い過去の――アブソルートだったころのハイトと同じ、本当は幼くて……誰よりも脆く、繊細な心を、持った子供という彼女の本質が。精神的にいかに成長していようとも、いかに外見を着飾り偽り続けても、どれだけ強くあろうとしても、その奥底の本質までは隠せないし、消せない。記憶がなくても、いかに自分を時間の流れから切り離して過去から現在へと到達できても……結局、弱い子供なのだ。

「貴女はまだ、自分の本質を知らない……分からないでいる迷子なんだよ」

「…………だまりなさい」

 揺らぎながらも……ラスは絞り出す様にそういったが、

 

「黙らないよ」

 

 今度はフェイトが言葉を続ける。

 

「君は……まだ、知らないんだ。誰かと過ごすことを……自分と誰かだけじゃない――広がっていく大きなつながりの温かさを」

 

「……そんなもの、私には必要ない! もちろん、陛下にだって――」

 

「でも、それが……欲しかったんだよ。ハイト……アブソルートは」

 

「……ッ」

 

「だから、きっと――オリヴィエやクラウスと絆を紡いだんだ――〝本当の自分を始めるために〟!」

 

 フェイトはかつて、自分も辿ったそれを……ラスに言い放った。

 なのはとフェイトは決してもうひるまないし、進むことを戸惑わない。

 だって、目の前にいる……迷子に手を差し伸べられるかもしれない可能性が見えてきたのに、それを放棄するのはこの次元世界全てに置いて、もっとも愚かしい行為だといえる。子供を導くのが、大人の役目で……泣いている子を慰めるために手を伸ばすのも大人だ。

 

 

 ――――大人は子供を助けるものだ。

 

 

「――ッ! そうですか……なら、力づくでその口を縫い付けて……!!」

「フォーメーション、N&F!!」

「中距離殲滅コンビネーション! 〝ブラスト・カラミティ〟!!」

「なッ……!?」

 なのはとフェイトが、最大の攻撃を放つ体勢に入る。桜色と金色の光が重なり合い、迷える子供を未来へと導くような光の道――明日への道標をつくりだす。

 

「その程度……!」

 しかしその時、少女は『ある事』を感じ取った。

 ――いまは自分と、〝書き込み中〟の皇帝――《アブソルート》がこの『静寂の終焉(シュティレ・エンダ)』の制御権と、動力となる『鍵』の役割を担っている。――だが、今……その『鍵』となる半身が、()()()()()のを感じた。

 有りえない。

 有りえるはずがない!

 皇帝の〝書き込み〟を――――この『シュティレ』の作業を妨害、干渉、阻止、変更するなど、()()()()()()()()()()()()()()()()のに……ッ!!

 ……だが、それがもしも〝本当に起こった〟のだとすれば、それは――つまり。

「……まさかッ、有りえない! あ、あのような男が……陛下の書き込みの邪魔をできるなど――ッッッ!!!??? ある、筈が…………ッッッ!!!!!!」

 しかし、少女たちはその『動揺』の原因が、ユーノが成功した――つまり、『勝利』したのだという事。その事実が分かるだけで、もう十分だった……後は、自分たちがやるべきことをするだけだ。

 最後の光を、自分たちの全てをかき集める。

 少女は、それを防ごうとするが……新たに感じた事実に動揺し、普段通り術式を構成することができなかった。

 そしてその隙を、二人は逃さない。祈りを込めて、自分たちの光を解き放つ。

 

 悪しき心に動かされる少女の(こころ)を解き放つために……星と雷の光、浄化の光の奔流を――自分たちの全ての思いをその光に捧げて――撃ち放った。

 

「う、ぁ…………ぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁッッッ!!!???」

 

 ――その憑りついた影を、全て引き剥がして……目の前の少女を救う為に。

 

 

 

 引き剥がされていく、影。

『負』の感情ばかりを集め続けた、歪んでしまったそのプログラムによる呪いが、今――。

 少女に纏わりつく、その禍々しい影を、光は吹き飛ばし……『影』は少女から取り祓われたのだった。

 

 少女は光の奔流を受けながら、悲鳴のような声をあげながらも……影が体から抜け落ち、その体が〝本来の姿〟を取り戻しながら床に倒れ伏してしまいそうというその時、薄く……口の端をあげ、涙を流しながら――言った。

 

 

 

 

 

 

 …………ありがとう……。

 

 

 

 

 

 

  と。

 それを見て、なのはとフェイトは彼女を支えるべく駆け寄ろうとした。

 

 だが――その時。

 

 その『城』を揺るがすほどの魔力が倒れこもうとした少女に注ぎ込まれた。

 離れることを拒んだ『影』に、より深く侵されるように……。少女の身体は再び、その影のものとなってしまった。そしてそれは、先程彼女自身が口にしていた……もう一人の侵入者であるユーノの『勝利』がもたらしてしまった結果でもあった。

 

 

 ――――時は、ほんの少しだけ……遡る。

 

 

 

 

 

 

 * * * 『救う為に、知略を巡らせ……抗い続けろ』

 

 

 

 

 

 

 玉座の間に至ったユーノとヴィヴィオ。

 ここに至るまでに、敵の影はなく…ただ短くも長くもない通路を通り、二人はその玉座――ユーノは一度見たことがある……しかし装飾が変わり仰々しく、かつ絢爛となっているそれに――フライハイトの姿を見つけた。

 声にならないうめき声をあげながら、苦しみもがいている少年の姿がそこにあった。

 手枷に繋がれ、頭部にいくつかの電極の様な形のものが繋がれており、そこから『記憶(何か)』をフライハイトへと流しこんでいる。

 ユーノもヴィヴィオも、その光景に心が捻じれて切れてしまいそうだった。

 そして二人はすぐさまフライハイトへと駆け寄る、早く彼を助けるために。

「「ハイト/くん!」」

 二人の声にも、フライハイトは反応を示さない。ただもがき続けるだけだ。

 

 ――早く、助けなくては!

 

 ユーノはすぐさま、ハイトの頭部につけられているその装置を見ながらそれの繋がっている先にあるはずのコンソールを探す。『無限書庫』でユーノが見つけた資料から……この〝書き込み〟には、大本となる『静寂の終焉《シュティレ・エンダ》』に繋げるための装置が必要な筈なのだ。

 ユーノはそれを探してあたりを見回す。幸いなことに、それは探すまでもなく直ぐに見つかった。玉座の直ぐ傍の……空中に浮かぶキーボードと、何かの数値が次々と表示されているのが分かる。恐らく、この表示が〝書き込み〟作業の実行状況を表しているのだろう。そこに表示されている数値を読み取ると、現在までに実行された分は……約48.9%と言ったところだろうか。

「……よし……これなら、まだ間に合う!」

「………………パパ……」

「大丈夫……必ず、ハイトは助けるよ」

 不安げなヴィヴィオにユーノは力強くそう答えると、コンソールに繋がっているキーボードのキーを叩いていく。

 ピッピッピピッ! というタイピング音が鳴るが、ユーノが相当に手古摺っているらしいことは、このユーノのやっている作業の意味および詳細をあまり把握できていなかったヴィヴィオにもなんとなくわかった。

(……まずいな。ここからだと、プロテクトが硬すぎる……)

 この作業スピードについてこれるもの自体そうそういない――というより、ほぼ不可能と言ってもいいが、それでも最初期に手を出されたりした場合――〝書き込み〟された分だけ消し去られる――なんてこともされかねない。故に、それなりに強固なプロテクト処理が施されている。

 しかし、ユーノだってそれに()()()()()()()()()()()

 だが、それでも一つ二つ書き込み項目を『安全』に取り外す作業は中々簡単なものではない。

 一つ解除してもそこを補完し、さらにプラスαを付け加えられていく。また曇って埒が明かない。今のところ、〝書き込み〟完了を遅れさせる程度――妨害で手一杯、という表現が正しいだろうか。

 それを理解したユーノはその続けて、補完書き込みをしている部分のプログラムを崩そうとしたのだが……それは『安全』を損なう。下手をすれば、本来の……ハイトとしての部分までも『解除』してしまいかねない。

 

 ――――どうしたものか。

 

 ユーノは自身の唯一のとりえであると自負している『マルチタスク』をフル活用して、解決策を導こうとする。

 パターンはいくつか考えていたのだが……思ったよりもプロテクトが強固で、突破が容易ではない。多少の遅れにはなるだろうが、相手は機械で彼自身は人間――そこに有る、絶対的な『処理速度を保ちながら長期作業をする』という事柄においてのスペック差が出てしまうだろう。となると、いつまでもこのイタチごっこを続けている訳にもいかない。

 ちらりとモニターにある、表示を見る。表示は、現在47.9%。たいして数値を減らせてもいない……。それに、その傍らで呻く我が子の姿を見ると、……否応にも焦る。焦ってしまう。『焦り』など、このような作業においては、『弱点』以外の何物でもないのに。助ける可能性を自らドブに捨てるようなものであることも分かっている。

 しかし――。

「……ぅ……ぁぁ…………ぅぁ……かはっ…………!!」

「……くっ……!」

 そっとフライハイトの頭を撫で、少しでも安心させようとするが……それでも、ハイトの表所は険しいままだ。それに加え、ヴィヴィオも不安そうなままだ。二人の子供を安心させることもできない。

 まったくもって状況は最悪と言ってもいい。

 目の前に居るというのに自分では直ぐには救えない息子。

 その傍らで、苦しむ息子を不安そうに見守る娘の姿……。

 仮にも『親』だと一度でも宣言したのなら、決して投げ出してはならないし……軽々しく口にしたつもりも毛頭ない。

 そこで、少しだけヴィヴィオにお願いをしてみる。

「……ヴィヴィオ。ハイトの手を、握ってあげてくれないかい? この後、多分手が離せなくなる時があるから……その時、きっと一人で苦しいだろうから、僕の代わりに、少しハイトを安心させてあげてくれないかな……?」

「うん……!」

 ヴィヴィオはハイトの手をそっと握り、きっと今も意識の闇の中で寂しい思いをしているハイトを支えようとする。言われたからとか、自分一人何もしないのは不安だからとか、そういうことを越えて……ただ目の前の人に……友達に手を差し伸べるために、彼女はハイトの手をしっかりと握る。

(……子供たちに心配を掛けっ放しな上に、自分一人じゃ支えきれないのを一緒に支えてもらってる――嬉しいけど、それでもこの状況から二人が早く抜け出せるように……過去の因縁も、柵も、まとめて断ち切るために)

 ユーノはそう心の中で呟き、次なる手を探す。

 救う為の、策を――探す。

 

 ――――そのために頭を回せ。自分の知略を巡らせて、必ず救って見せろ、それしかすることもやることも無いだろうに。

 

 と、自身に発破をかけてはみるものの……それでも都合よく打開策は出てこない。

 ハイトの頭に置いた手を放し、再びコンソールから〝書き込み〟を阻害、中止させるべく向かい合おうした、その時――

 

 

 ――ふと気が付いた。

 

 

 ……もし、もしもだ。

 

 コンソールを通すからプロテクトが厳重で、突破できない。しかし、ある意味敵側からすれば改竄とでも呼べるだろうこの阻害を……もし直接ハイトにできるなら、どうだ?

 

 直接、というのはかなり危険ではあるが……もしハイトに直接干渉し、その余計な上書き分の『記憶』だけを削ぎ落とせるなら、それは一番確実ではないか?

 

 そこまで考えて、ユーノは見つけた資料に載っていたこの〝書き込み〟の詳細を思い出してみる。特に本人に対するプロテクトの記載はなかった。

 

 ――だとすれば、いける……だろうか?

 

 とはいっても、こんなこと『普通』は考えない。

 何故か……何てそんな考えは不毛もいいところだ。ただ単純に、それができる人間などいないだろうから、ただそれだけのことである。いかにマルチタスク熟練者と言えども、そんなことは『普通』できない。

 そう……ただ、それだけの事だが――――故に、そこから先もまた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 ユーノはそれだけを確認すると、今現在進行中の〝書き込み〟を更に『上書き』するために『書き込まれてしまった』項目と、これから『書き込まれる』であろう項目の一覧を探す。そして、それは幸いなことに直ぐに見つかった。ずらりと並ぶ古代ベルカ語で書かれている暗号文のような文字の羅列。しかし、その意味を看破する程度は優秀な考古学者の前には無意味だ。すぐにユーノはそのすべての意味を看破し、それをしかと読み込む。

 その作業中だけは、防衛措置も止まり〝書き込み〟の進行を許してしまうが……それでも今はこちらを覚えてしまわなくてはならない。

 ずらりと並んだその文字の羅列を全て流し読みし、そしてそのすべてを記憶する。分轄した思考の一部を用いて、それらすべてを自分の中に取り込む。そしてそれを反復しながら目の前で再度その文字列をスクロールし照らし合わせる。そしてそれらが完全に一致したことを確かめてから、再びモニターを確認。現在の書き込み率は約49.9……50.0%に――するとその時、一気にその書き込みの速度が上がりだした。ユーノは驚くが、しかし今更向こうのスピードどうのこうの等気にしてはいられない。要は、結果としてそれを自分で上回れるかどうか、という事だけが重要であり、それが最悪の結果につながるか最高の結果となるかの分かれ目でもあるのだから……。

「…………よし」

 ユーノはハイトの額のあたりに手を乗せ、ここまで妨害に使ったそれらを全てを、今からする三つの役割に振り分ける。

 

 

 

『上書き』、『詳細補正』、『割り込み阻害』。

 

 

 

 二つの新たな要素を足して、アブソルートへの書き込みを阻害し……ハイトを取り戻す。

 ユーノは背後でモニターから響くポップ音を聞いた。

 ……警告表示の様になっているそれらは、『ハイト』の存在を脅かす音。

 しかし、それでいて――〝アブソルート〟という少年の復活が近づいていることを告げる音。

 ユーノは、ハイトに帰ってきてほしい。今度こそ……守りたい。

 でも、その代わりに……ある意味で、〝アブソルート〟というハイトの一部分を殺すことになる。

 

 ここへ来るまでに、何度も何度も……それが思い浮かんだことは有った。しかしそれでも、やはり息子を助けたい……それだけは、揺るがない。

 何かを得るには、何かを捨てるしかない。

 

 ――――かつての《皇帝》を生み出そうとした家臣たちが、アブソルートに至るまでの『実験体』達を切り捨ててきたように。

 

 …………始めよう。

 

 ここで、過去の因縁に――運命とやらに縛られてきたその柵をすべて壊して、決着を付けよう。

 

 本当の始まりは、きっとここから始まる。

 

「……待っててハイト。すぐ、助けるから」

 ユーノはそう告げると、目を閉じ……自分の全てをここからにつぎ込む。

 

 

(――――上書き…………開始……っ!)

 

 

 人に直接干渉しながら、その作業による弊害を抑えて補正しながら、容赦なく継ぎ足される邪魔な部分の書き込みを妨害する。言葉でいうのは容易いが……その負荷に、ユーノは自分の思考回路が焼き切れそうな気さえした。

 キツい。とにかく、キツい……。

 そんな言葉がユーノの中に、浮かんで消える。そんな余裕など無いハズなのに、弱音だけは妙に頭に……いや、寧ろ心に響き渡る。しかし、そのたびにユーノは自らの処理速度を上げようとする。

 

 そんな言い訳なんかで……一体何ができるのか、と。

 まるで……そう自分に言い聞かせているかのように。

 

 苦し気に顔をしかめるユーノを見て、ヴィヴィオはユーノのこともそっと握る。

 そして、願う。

 どうか、二人が無事でありますように……と。

 その祈り故か……彼女の身体から虹色の光が漏れ出し、二人を優しく包む。

 まるで、この時を……運命を背負った者たちが、救われる時を待っていたかのような……そんな慈愛に満ち溢れた聖なる光が、その場に漂い出す。そして、苦痛を和らげるかのような光が……ユーノやハイトの表情もまた、二人が気づくか気づかないか程度に……そっと、二人を見守るようにしてあふれ出していく――。

 

 虹の光に包まれながら、ユーノはだんだんとゆっくりと自分の意識がさらに分離してしまうかのような妙な感覚にさいなまれた。処理で一杯一杯だった筈が、まるで隠されていた『空っぽの領域』でもあったかのように、自分中にもう一つの『隠されていた要素』でもあるかの様に……一気に処理速度を上げながら……また意識を切り離していく。

 

 

 ――――そんな中で、彼は不思議な体験をした。

 

 

 そこで見たのは、暗闇にとらえられているハイトの姿。飲み込まれそうなほどのその深淵の奥の奥。混沌の原点とでも言えそうなそんな場所にいるハイトは、既に満身創痍のまま……飲み込まれるのを待ってさえいる。

 しかし、そこへ小さな手が……ユーノを励ますようにして包んでいた、虹の光を纏った〝二つ〟の手がハイトに差し出される。そしてそれに伴い、次から次へと……その差し出される繋がりが多くなっていく。碧銀の光が、透き通るような黒い輝きが、金色を伴うような小さな手が、いくつもいくつも差し出されていく。

 それが幻想なのか、そうでないのかはユーノには分からない。

 だがしかし、その差し出すつながりの中に……確かに自分もいるのだという事だけは、はっきりと理解した。

 

 だからユーノも手を伸ばす。

 

 そして、優しく語り掛ける。

 

 

『――――一緒に帰ろう……!』、と。

 

 

 その声は、闇の中に届き……一つの小さな手が、無数の手の方へと差し出されてきた。

 そして彼は、それをそっとつかんだ。

 もう二度と、放したりなんてしないように……しっかりと、握り締めた。

 

『…………皆で帰ろう。僕たちの、帰るべき場所へ……』

「「……うん……!」」

 そういうと、二つの声が――フライハイトとヴィヴィオの声が響き、その幻想のような空間は……長きに渡って今まで残り続けた、その『因縁』と共に……今度こそ――――粉々に砕け散ったのだった……。

 

 そしてその場には、二人の子供と……一人の青年の姿だけが残った。

 疲れ切った子供たちは、自分たちの運命の最後に立ち会い、それに抗い……苦しみに耐え抜き、支え、見守り……そして祈りつづけたすべてが叶い、終わったのを見て――しばしの眠りにつく。

 青年も、痛む頭を押さえながらも……どうにか成功したらしいことをぼんやりとした頭で理解し、かすかに微笑む。

 

(………………よかった……)

 

 涙が一筋こぼれ、救えたことに安堵するが……しかし、まだだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 ――因縁の最後の一滴は、まだ消えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 蘇るはずだった《皇帝(あるじ)》を失い、依代であった《少女(こま)》さえもその手を離れてしまった。

 

 二つの要を失い、崩壊を始めそうになるが……それでも足掻き続けたその最後の『悪あがき』の末に、まだ封鎖されていなかった駒の中に通じる回路を以て、残りの全てを注ぎ込み……最後の終焉を飾らんとする。

 

 

 

 

 

 

 この世界に、憂うることの無い――心の静寂を。

 

 全てが等しく、唯一無二となる――命の終焉を。

 

 

 

 

 

 誰一人として、割を食う事の無い……表裏一体、全てに置いての共通の理。

 それが、この兵器の作られた理由であり……その最終目標を物語っている。

 

 これから何ものにも、縛られない代わりに……全てを一つに縛り上げてしまう。

 

 そこには『誰』もおらず、しかし『皆』いる。

 矛盾するようでいて、しかしすべてに置ける原始の姿。

 

 全ての始まりにして終わり。

 本当の始まりの再現にして、最終的な終わりの光景。

 

 世界が、創生され……そして完成される。

 

 

 

 

 

 ――――『終わりの時』をもたらす、亡霊の怨念にまみれた法則(歪んだアルゴリズム)による、最後にして、最悪の演武が始まった。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

『城』の外、クロノやはやてたち『指令』クラスが待機している。

 この『城』の本来の姿である――『禁忌兵器(フェアレータ)』――『静寂の終焉(シュティレ・エンダ)』が本格的に動き出さないように先んじて対策するための舞台であるが……先ほどからその『城』に、クロノたちはなにか違和感を感じていた。

 

「……なんだ? さっき激しく揺れてから、急に挙動が大人しく……?」

 クロノはそういい、はやての方を見る。

 はやてもまた、クロノ同様その『城』の挙動には違和感を抱いていた。

「……いや、クロノくん。ちゃうで……アレは」

 はやてが何かを感づいた様だ。

 ここら辺は、あの『城』の中で動いているのが自分たちと同様、『古代ベルカ式』に準じる者であるからか、あるいはあの中にいる者の本質が――今自身と融合している『リインフォース(ツヴァイ)』と似ているからかもしれない。リインもまた、自身と似通った存在の気配を感じ取っていた。

 《その通りです、はやてちゃん。あの中で……ものすごい勢いで何か、私やアギトちゃんに近い何か動き出してるです。物凄いな力が一点に蓄積――》

 と、そこまでリインが言ったところで……先程激しく振動した『シュティレ』が再び揺れ始めた。だが今度は、

「「……!? な、なんや/だ……! この揺れ……!!」」

 

 先ほどまでとは今度こそレベルが違う。

 魔力だけで、空間を揺るがすほどの現象が発生しているのだ。

 

「一体……中で何が……?」

 《詳細が全く分かりません……ですが、飽和しすぎた魔力がジャミングの結界かAMFと同質の効果を及ぼしているみたいです!》

「分からない、か……だが――――」

 クロノは困惑しているはやてとリインの様子を見て、クロノもまた自身の困惑を隠せない。妻であるエイミィ達も解析にてこずっているのか、それとも現状の情報量が膨大過ぎるのか、まだ詳細を把握できたという報告もない。

 

 ――だが、これだけはいえる。

 

「…………詳細不明ではある。でも、良い傾向でないことだけは――確か、だろうな」

「……せやね」

「何にしても、フォワード陣に確認を取るべきだろうが――リイン、通信の方は?」

 《……難しいかもです。まだ、サーチの方はヴィータちゃんたちや、スバルさんたちのいる場所までは何とか分かりそうですが、向こうからの最後の報告にあった先行したなのはさんたちの場所までは…………》

「そうか……」

 この場合、どうするべきだろうか――と言えば、基本であれば状況把握と撤退であろう。しかし、その状況把握が不可能。まったく、どうにも厄介ごとに巻き込まれやすいな――と自分たちの定めとやらをクロノが自嘲気味に笑うが、とにかくまずは一つ一つ順序を辿る。

「リイン、通じる範囲限界まで通信を繋げてフォワード陣の現状を少しでも多く把握だ。そして、もしそこがひと段落しているのなら退却するように伝えてくれ。それがすんだら、ユーノたちにも連絡を――いや、こっちはオペレーター陣の方がいいか……掻い潜りならこちらが本職かな。良いか、エイミィ?」

『モッチロン! そういうだろーと思って、解析行動は始めてますよぉ~!』

「すまない。助かる」

 《フォワード陣、スターズとライトニング両方ともつながりました! 中にいた傀儡兵は倒しきったそうです!》

「なら退避を。それで……ユーノ、なのは、フェイトは?」

 《そちらは……まだ、奥から戻ってきてないそうです……》

「……現状、奥に行く――という訳にもいかない……」

 豪炎が燃え盛っているというのに、今から火中に飛び込め――など、指令としては出してはいけない。あくまでも、より高い可能性の方を追求し……構えているのが指令。

「……はやて、僕が中へ行く。ここを頼めるか?」

「分かった。でも、無茶は駄目やで?」

「ああ、さすがに……子供を残して死ぬ気はないよ」

 その寂しさは、味あわせてはいけない。そうクロノは思った。

 自身の父が成したことを、否定する気はないしむしろ誇りに思っている。だが、あの寂しさを我が子らに味あわせる必要はない。それに、まだまだ妻を未亡人にするには自分たちは若すぎるだろう。

 そう一人ごちてから、クロノは作戦開始前にユーノが見つけた資料から彼らのいる場所への直行ルートを探し出す。そして、そこへと一気に飛び込んでいった。

(しかし……こんな風に現場に出るのは何時ぶりだろうな)

『提督』職に就いてからというもの、それほど前線には出張っていない。記憶に残っている最も印象的な戦いと言えば、『PT事件』の『時の庭園』に突入した時か『闇の書事件』の時の戦い暗いだろうか。

 クロノは、先の『JS事件』の際には結局は支持する側に回っていただけだった。

 とはいえ、これでもSランク。SSランクの広域型魔導師のはやてがいる現状において、自分が出てもそれほど問題はない。加えて、自分なら墜ちないという自負もクロノには多少あった。

 基本的に近接、広域の両方をできるクロノはこういった単独突入にはもってこいのタイプだ。

 

 それに、

 

「凍結させるだけなら、中からでも十分だ」

 

 嘗て、『闇の書の闇』を凍り付かせた青年はそういって中へと突入していく。一方で……そういった事態にはならず、全員が無事であるように願いながら。

 

 

 

(みんな、無事でいてくれよ……!)

 

 

 

 

 

 

 * * * 『柵を越えて、誰もが笑いあえる終焉(おわり)をその手に』

 

 

 

 

 

 

 さきほどまでの闘いの末、なのはとフェイトは一人の少女を『闇』の中から解き放った。

 

 だが、その奮闘虚しく、『闇』の残滓――――『影』の最後にして最大の抵抗とでもいうべき力が解き放たれる。この世の全てを飲み込む様な、凄まじい魔力の奔流が……この『城』を、混沌の黄泉沼へと変えていく。

 一体何が起こっているのか、なのはとフェイトにはそれがわからない。ユーノの勝利を仄めかす呟きを聞いたのまでは何となく分かった。しかし、彼女に流れ込んできた『(アレ)』は何だ? ……分からない。あの妙な魔力は、意識を失った少女を単なる依り代としてしか()()()()()様にさえ見える。何とも奇妙だが、二人には――あの『魔力』()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なに……あの、魔力…………!?」

 なのははその魔力量に驚愕し、フェイトは呆然としそうになる。だが、二人は第一線の戦闘型の魔導師だ。

 ただやられるだけの、狩られるだけの獲物にはなるつもりなど無いと――再び、向き合う事を決めようとした――その時だった。

「あの変な魔力……大き過ぎる。あんな魔力量で攻撃されたら、拙い……!? なのは、防御体勢に――――ッッッ!!!???」

 フェイトがそうなのはにつげようとした瞬間、よりいっそう混沌に染まった少女は、手の様だったあの翼。『影の手(アンノウンハンド)』と称されたそれを、今度は計六枚――上下と左右斜めにクロスする様に、漆黒の『影の手』を広げ、悪魔か堕天使の如くなのはとフェイトを見下ろす位置に浮かび上がり、翼であり手でもあるそれを使い……薄く口元を歪ませながら、

 

 

 

【jmsg死qwせd殺mhyだwkmty焉nkthkwdfghんq――愛くぇrkmc皇%&#$¥mんbvcxz☆ytrkjhくぁwせdrftgyふじここlp★!?】

 

 

 

 と、意味不明な言葉とも掠れた呻きともつかない声を発してなのはとフェイトを一瞬で握りつぶしそうな勢いで掴みあげる。

 無論、二人は必死にそこからの脱出を試みるが、強引に壊すことは勿論……振り払える様な魔力ではなかった。

 抵抗虚しく、二人はこのまま握りつぶされる事を覚悟した。

 ――だが、結果として彼女らはぐしゃりと潰されることはなかった。何故なら、その手の主が……二人をそのまま、この先の部屋とを隔てる壁に叩きつけたのだ。それが、ただ二人をいたぶる為なのか……はたまた、そこに意味があったのか、それは誰にも分からない。それをやった少女――いや、その少女に取り憑いている者でさえだ。

 

 しかし、その行為によって――――一度離れた柵の舞台役者が一同に会することとなった。

 

 これだけは、揺るがない現実。

 今この瞬間において、それは為された。

 この集いし者たちの明日は――一体何処へと向かうのだろうか? それもまた、結局誰にも分からない……。

 壁に叩き付けられた二人――いや、叩き付けられるを通り越し、二人は壁を突き抜け……隣の部屋まで吹き飛んでしまう。そこには、力尽きた様に眠る二人の子供と、頭痛にさいなまれる一人の青年がいた。

 

 彼女らが吹き飛ばされた部屋にいた青年は、子供たちの無事な姿に安堵しつつ……自身の行った無茶な行為の代償を粛々と感じながら、膝を尽き荒息を吐いていた。彼は、まるで無酸素運動を限界以上に続けたかのような気分で、体中に感じる疲労感と息苦しさのような感覚を感じながら……脳が処理速度を遅らせているのか何かわからないが、とにかく霞ガ買ったような視界に不快感を感じながら、早くこの疲労感がどっかへ行ってしまうことを願っていた。

 だが、しかし……それは叶わず、急に轟音が部屋中に響き――何かが部屋の中へと付記t後場されてきた。

 青年は、霞がかかった瞳で、急に部屋に吹き飛ばされてきた二つの影をよく見ようとする。

 すると、そこにいたのは――。

 

「…………なのは……フェイト……?」

 

 そこにいたのは、白と黒。茶髪と金髪の青と紅の瞳を持った、青年のよく知る……幼馴染の二人の女性だった。だが、二人はいつもの毅然とした姿ではなく……身体的に酷く傷いてしまっていた。彼女らは、受けた衝撃故か……あるいはそれ以前の傷と疲労の影響か、うめき声のようなものを微かに発するだけで、まったく動けないでいる。

 一体、何が起こっているのだろうか? とそこまで考えた青年――ユーノは、二人が今実質的にこの『城』を統べている女魔導師の足止めを引き受け、戦っていたことを思い出した。

 

(まさか、二人が……負けた――)

 

 信じがたいその可能性を浮かべつつ、ユーノは二人が飛ばされてきた方向へと目を向ける。

 しかし、そこにはユーノが()()()()()()()()がいた。

 影の様なものを纏いながら、ゆっくりと近づいて来る。

 それが近づいてくるたび、なんだか頭痛が酷くなるような感覚がユーノを襲う。まるで……何か自分でない自分が頭の中で産声を上げているかのようだ。

 だが、今そんなことを考えてもどうにもならないと、ユーノはそのなんだかよく分からない感覚を頭の外に追いやり、目の前の状況に対処すべく再び思考を巡らせようとする。

 

(…………何なんだ……アレは……?)

 

 近づいてくるその『何か』は、かろうじて女性かと分かる程度にしか人の原型はとどめていない。しかも、先程なのはとフェイトが耳にした……何やら〝言葉ならざる言葉〟を発している。

 

 …………だが、何故か――ユーノはその〝言葉〟をただ『言葉』として感じ取った。

 

 

【――どうして邪魔をする。全ての何の憂いもない、ただひとつの曇りさえない……万物の平穏を、そこの《皇》の手で作ろうというのに。なぜ、お前たちは邪魔をする? 《皇》自身もまた、それを望んでいるというのに】

 

 

 その『影』告げる。

 嘗ての皇帝の望みを。そして、この『城』やその使い手が使う自らの役割の意味を含めた言葉をユーノへ向けて告げる。

 

 

「……そうだったんだろうね…………」

 

 

 ユーノは、その言葉を聞き……少し寂しげな目をして、そういった。

 しかし、それでもユーノはなのはたちを圧倒した相手にさえ、怯まなかった。

 それどころか、

「……苦しかったんだよね?」

 そうユーノは言った。

「使い手がいないまま、独りぼっちは辛かったんだろう?」

【何を……私は道具だ。使い手がいるなら、使い手に甘んじるのは当然。というより、そのより良い世界の創造を望まれた――そしてそれの遂行が、『私』という存在の意義だ】

「それでも……だよ」

 しかし、向こうはユーノの意図を曲解した様だ。

【……また……私を壊すのか?】

「……〝また〟……?」

【世界を平穏に――――静寂に正すために、私は生まれた。苦しみや穢れにまみれたこの世界を、神々の統べていた時代(ころ)の様に……全ての始まりを、今再びこの世界に。心の開放。自我の崩壊。無我の境地。認識の途絶。そして――『時の支配』。それが私が使い手に与えるもの。それが……私の存在意義。何度でもいおう、『揺らぎのない世界』……それが『私』が造られた理由にして、私の使い手の望んだ創るべき『終焉』だ。なのに、誰も私を()()()()()()()()。あの《皇》以外は、誰も】

 そこに有るのは……歪んで、しかし揺るがない、そんな思いがある。

 元来生じるはずのなかった意思が生まれ、そこに意志が生じた……。

 だが、それでも……。

 

 ――こちらにも譲れない思いがあり、捨てられない世界がある。

 

「……君の言いたいことも、成したい目的も……ようやく分かった。でも、僕だって、今のフライハイトだって、きっと――この世界はなくしたくはないはずだ」

【私は、要らない――のか? やっと、ここまで来たのに。叶えるための準備は、既に整っているというのに……!? なぜだ……何故だ、何故!】

 その苦し気な様子と共に、許容範囲を越えた器からあふれ出す様に漏れ出す黒い影。

 目の前の少女に憑りついた、その『意思』が……『意思』がもつ『心』が、泣いているのだろうか? ……それはまるで、親を亡くした子供の様で――ユーノは、そんな『子供』の姿に、フライハイトとヴィヴィオ……そして、憑りつかれているラスの心を重ねる。

 前者二人はともかく、彼はそれを知らない筈なのに彼は、今――この場における回答に等しいものを得ているような感じがした。自分自身に何が起こっているのか、それも彼にはよくわからない。ただ、一つ言えるだとすれば――――自分の中にある、もう一つの大きな要素が眠りから覚めたのだけは、分かった。

 しかし、その目覚めを自覚し、自分の一部として昇華する間にも……影は癇癪を起した子供の様にその背にある『翼』を振り回す。だが、それは『翼』であり『手』であるよりも……その場に嵐を巻き起こす、厄災の使者とでも呼べそうな姿をさらす。

 

【う、うぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁッッッ!!!!!!】

 

 しかし、ユーノは振り回され、行使されるその力を見ても尚、そこにここに来るまでにラスやこの城に対して幾度となく感じ取った『恐怖』は湧き起こらない。彼は『冷静』に、大切な人たちを守るための防壁を張り巡らせる。

 結局のところ、それは……相手が本物の悪魔でも堕天使でもなく、あくまでも自分たちと同じように悩み苦しみ、痛みを感じ、迷い足掻き、求め繋がろうとする、そんな『人』であるからこそ。

「終わりにしよう」

【……私は、消されない……生み出された意味を、つかむまでは……!】

 止まらないその暴走。

 振るわれ続ける圧倒的な力。

 どうやって止めるのか、それさえも測りかねるが……ユーノはこの攻撃を受け止める事には全くと言っていいほど辛さを感じてはいなかった。

「……なら、君も一緒に守るさ……何だろうね、これは――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな大層な肩書、もらった記憶はないんだけど…………どうしてかな、『心』が……そう覚えちゃってるみたいだ」

 この言葉を境に、ユーノが変わる。その言葉は、ユーノ自身が意識して出た言葉ではなかった。目覚めを待っていた、いやむしろ……この時をずっと待ち望んでいた、もう一人が頭をもたげる。

 

 誰かを守る者、もう一人の忘れ去られた――――――絶対の盾の名を持つ《皇》が。

 

 そこでユーノの意識は完全に薄れゆき……この時までずっと眠り続けていた『もう一人の彼』が目を覚ます。

 それと同時に、

 

 

 ――――影の手とは真逆の、光輝く『守護者の翼(加護の手)』がユーノの背から出現する。

 

 

 全てを砕き、薙ぎ払う……自らを隔絶する力。何者も寄せ付けない、禍々しき翼――『影の手』とは全くの別物。全てを守り抜き、そして優しく包み込むための強き力を体現した、聖なる翼――誰かへと差し出す、『加護の手』だ。

 

 無論、影の方も……こんなことは予想してなどいなかった。

 

 しかしそれと同時に、この場において……最もその意味を正確に知る者は、何とも皮肉なことに――ほかならぬ『影』自身、なのであった。

 

 

 その名は知っている。かつて初めての主となるはずだった者の名。

 失敗だったらしく、結局は器になり切れなかった出来損ない――――でしかなかったはずのものが、アブソルートよりも前に消えてしまったはずのそれがなぜ今この瞬間において、どうしてその器となるべき主を求めたその奔流する力を脅かす様に……目の前に対峙しているのだろうか?

 

【ば、かな……!? 『貴方様』は……消えたはず、だったのでは……!?】

 

『……、ああ。そうだった…………〝ぼく〟は捨てられて、消えるはずだった。でもね、偶然……残りかすみたいだったぼくは、()()()()()()()()()()()()()この時代に流れ着いた。無力な子供だった。捨て去られただけの、実験動物だった。でも、誰もぼくを殺すことは出来なかった。《絶対の防壁》たるぼくを殺せるものはいなかった――ただ、あの「槍」を使うことを除いては、ね?』

 

『槍』――――「サムサラ・スピア」。この世界の記憶、時間の流れを司る槍。『命』を、操る槍であり……時を統べる神器の片割れ。

 

『あの槍に貫かれて、僕は輪廻の彼方へと消え去った。……でもそんな時、ある出来事が起こったんだ。ほんの僅か、世界の持つ無限の時間の流れからすれば、塵程度でしかないほどの時間だけど……「ぼく」という存在を認識し、記憶としておぼろげではあるけれど、確かに知っていて……何らかの「繋がり」として保ってくれるものがいた』

 

 そう、顔も知らぬ兄――しかし、消え去ったわけではなく……時間の彼方へと消えていたその『兄』であり『父』であるような者の存在を認識していた『弟』であり『息子』である少年がいたのだ。

 

 死んだとは思っていただろうし確信していただろう、些細な事程度の認識ではあったかもしれない。だが、それでも尚……確かにつながりとして認め、敬意を持ち、かつ居て欲しかったとおぼろげながらも、そう考えた彼のその認識が、偶然を呼び……彼をこの世界に再び引き寄せた。

 

 その『弟』が――無意識ではあるが――『兄』同様に、同じ『槍』によって自らを消し去ろうとしたときに、ほとんど同一と言っていい二人の『理』が交わった。

 生み出され方、遺伝子情報。それらのほとんどが同じだ。所詮はどちらも同じ血統の《皇》たちから生み出されたのだから。

 

 ――更にそれが、本来ありえない筈の偶然を再び呼ぶこととなる。

 

【交わった片方が輪廻から抜けようとしたが故に、両方がこの世界に戻って来た――と、そうとでもいうおつもりですか……!?】

『まぁ……完全一致じゃない分、この偶然はぼくの方を二〇年ばかり早くこの世界に引き戻したみたいだけどね。「アソルートの再構成」は、結果として……ぼくも一緒にこの世界に呼びよせたんだ。場所は、こことほとんど変わらない……あの時の事、「僕」の方はあんまり覚えてないみたいだけど……こことほとんど同じ場所に里を構えていた、この世界のぼく――〝ぼくらの〟家族である「スクライア」に〝ぼくたち〟は拾われたんだよ』

 影に対し、なんてことないようにそういう〝ユーノ〟。だが、『影』の方は寧ろ恐怖していた。

 何せ……いないと思っていた自分を壊せる相手が今、()()()()()()()()……。

 負の感情ばかりを集め、結果的に軋み、歪みを生じてしまったその亡霊とでも呼ぶべきそれは、ユーノの『守る』という発現すら信用することはしようとはせず、出来なかった。

 故に、

【出力一〇〇%! シフト『抹消(ルースェン)……目標を、完全消去……ッ!!』】

 全てを拒絶するその力を以て、ユーノを吹き飛ばそうとした。

『……「真・絶対の盾(イージス・エヒト)」……』

 完全にそれらを受け止める。それどころか、ラスにした様にそれらを全て跳ね返す。

 跳ね返したそれらを『翼』で掴み、暴れ続ける影にユーノは問う。

 

【ぐ、がぁ……ッ!?】

 

『もうやめるんだ……これ以上は意味もないことくらい、分かっているんだろう?』

 

【うるさい! うるさい、うるさぁぁぁあああああああああああぁぁぁいッッッ!!】

 

 縦横無尽にふりまわされる『翼』に、ユーノはこれ以上は放置するわけにはいかないと……自らの『翼』を展開し、その六枚を上回る十二枚の翼でそれらを完全に抑え込む。

 

『……捕まえた……!』

 

【ぐ、ぐ……っ……!?】

 

 影は、恐怖した。

 ただ、それだけ。

 だが、ユーノは。

 

『今、君を浄化する……! その怨念に、これ以上縛られなくてもいいように』

 六枚で相手を掴み、残り六枚を広げ……解き放つ。

 全ての柵を解き放つ、罪を洗い流す、浄化の光を。

 

 ――――迷える『子供』を救う、『大人』として……守るべき【未来(あす)】のために。今度こそ、必ず…………全てを。

 

 

 ユーノは詠唱を開始する。

 

 

『妙なる響き、光となれ……癒しの光を以て、迷いし咎人を縛りし呪いを清め、柵の鎖から切り離したまえ――』

 

 

 

 

 

 

 長きに渡る因縁の、終わりの時……一つの終焉の形が、ここで決まる。

 

 

 

 

 

 

『――――――「守護者の呪縛開放(イージス・フルーフ・アブソリューション)」!!』

 

 翡翠の光が、何もかもを……全て浄化する。

 包み込む様に、翼が広がり……そのうちに光が集い、降り注ぐ。

 

【あ、……がぁぁぁあああああ――――――――――――っっっ!!!???】

 

 黒く淀んだ影を切り裂き、輝く光へと変えていく。

 

 呪われるほどに長く続いた『これまで』に別れを告げて、自由な明日へと羽ばたくのだ。

 

 その『翼』の意味は、誰かと繋ぐ『手』。

 

 明日を目指す、子供たちの探求の印。

 

 ただ支配するだけでなく、誰かと共に生きる事……。

 

 それは、もうきっとできるはずのこと。

 

君は「自由」だ(ズィー ズィント フライ)

 

【……『自由』……?】

 

 

 

『翼』の意味、『絶対』だけじゃない《皇帝》の意味――それが、【フライハイト(自由)】だ。

 

 

 

『そう、自由。君も、アブソルートーーフライハイトも、過去にとらわれる必要なんてない。思いっきり、本当の自分たちの未来(あす)を探してみよう? 望まれたから、望まれなかったから、それだけじゃない……本当の自分であるために』

 

 ユーノはそう優しく微笑み……手を差し出した。

 

 

 

『一緒に行こう。ベルカだけじゃない、もっと広い世界を見るために。辛くなったら、僕が守るよ。だから安心しておいで…………「シュティレ」』

 

 

 

 そして……その言葉を最後に、『影』だった『光』は、これまで虐げてきた少女を開放し……ユーノの中へと解けていく。自分が、寄り添うことを認めてくれた人……新しい『主』の元へと。

 

 

 

 

 

 

 ――――そしてその日、ついに……過去と現在を交錯させた、《皇帝》にまつわる事件は一人の青年の手によって、気付かれないままひっそりと幕を閉じた。

 

 

 

 

 管理者であるシュティレを失った『城』は、完全なる崩壊を始める。

 ユーノは度重なる疲労と、自分のもう一つを別れた意識の端で感じ、自身の中で……再び『一つに戻った』のを感じた。元の姿、年相応の少女に戻ったラス、ハイトやヴィヴィオ……それになのはたちのことも、崩壊するこの『城』から脱出させなくてはならないが、生憎と一人きりでは運び出すことも転送準備をすることもできない。

 しかし、そこへ悪友兼親友のクロノが飛び込んできた。

「みんな無事か!? ユーノ、意識があるのは君だけか?」

「うん……みんな、傷ついてしまったからね……。でも安心して、『呪い』は全部消えた……一つ残らず、全てね。ところで……フォワードのみんなは、無事?」

「ああ……みんな傀儡兵をかたずけたあと、崩壊の始まりと同時に脱出させた。それにしてもご苦労だったな、ユーノ。転送の準備を手伝う。専門ではないが……まあ何とかなるだろう」

「ありがとう。じゃあ、ここにいる全員を一斉に転送するよ」

「ああ、最後の一仕事と言ったところか」

「……ところで、この『城』のことはいいのかい? 管理局としては放っておくわけにもいかないだろう? 一応古代兵器――それも古代ベルカの『禁忌兵器(フェアレータ)』の残骸だし」

「そちらに関しては、寧ろ考古学者の君の方がごねそうな気がしていたんだがね。まあ、兵器であると同時に……これもまた過去の遺産だからな」

「……これは、この『城』自体は、もう眠らせるべきなんだよ。過去の柵は、ここで終わりなんだ――古代ベルカの、『王』たちが苦しめられた、この呪いはね」

「…………そうか。なら、先程の問いに対しての応え及び僕の意志は、君のそれに近いとだけ言っておこう」

 それ以上クロノは何も言わず、ユーノと共に転送魔法を発動させ……負傷者たちを連れて戻っていった。

 彼もまた、見ていたわけではないが……感じ取とり、ユーノと同じ考えに至ったのだろう。

 最早、この時代に『禁忌兵器』など必要ない。

 数々の『王』にまつわる子供たちを虐げ続けた忌まわしき『兵器(うつわ)』は、これで時代からも世界からも消え去る事となるだろう。

 だから、きっとそれでいいのだろう、と。

 

 

 これから先には、きっと平和が生まれる。

 

 

 

 人と人とが手を取り合い、『絆』を紡ぎ、そして……『愛』を成す。

 

 

 

 もう、『終わり』など必要ない。

 これからはそう、『始まり』だ。

 しかし、時には憂うこともあるだろう。

 だが……悩むときも、苦しい時も、きっと大切な人たちが傍にいてくれる。

 

 

 

 

 

 

 ――――夢を見て、未来を描いて……精一杯生きて行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『After_Strikers. Episode_of_Kaiser.』 ~FIN~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか……?
 どうにかここまで書き終えられました。ここまでお読みくださっている方には非常に感謝です。これからもこのシリーズはまだ続く予定ですので、その先もお読みいただける様に頑張らせていただきます。
 さて、 次回のエピローグを以てこの章、後付けですがとりあえず題は『After_Strikers.Episode_of_kaiser.』――――『忘却の皇帝』編は終了し、続いてvivid編が始まります。
 次回のエピローグの次の日か、筆が早く進めるのでしたら一緒にでも投稿できるように、このシリーズも停滞気味を治せるように努力しますのでよろしくお願いします。
 それではまた次回にお会いいたしましょう。
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